2022年06月04日
インド最高のメロディーメイカーPrateek Kuhad Electra Recordsから新作をリリース
ジャイプル出身のシンガーソングライターPrateek Kuhadが、アメリカの名門レーベルElektra Recordsから全曲英語のニューアルバム"The Way That Lovers Do"をリリースした。
彼がElektraと契約を結んだというニュースが流れてきたのは今から約1年半前。
個人的にインド最高のメロディーメイカーと信じてやまない彼が、いよいよ世界に知られる日が来るのか、と楽しみにしていた。
ところがその後、PrateekはElektraとの契約のことなんて忘れてしまったかのようにヒンディー語の楽曲を立て続けにリリース。
これがまたすごく良かったので(後述)、すっかりElektraとの契約なんてどうでもよくなってしまったんじゃないか、と思っていた。
まあ欧米の名門レーベルからリリースしないと世界のリスナーに音楽を届けられない時代でもないし、別にいいっちゃいいんだけど…と思っていたら、忘れた頃にこの11曲入りのアルバム発表の情報が飛び込んできた。
結論から言うと、今回も内容は素晴らしいの一言。
"All I Need"
繊細で叙情的なメロディーとハーモニー、シンプルながらも旋律を際立たせるアレンジ。
今作でもPrateekの本領が余すところなく発揮されている。
このアルバムは、米ワシントン州のシアトル郊外にある人里離れたBear Creek Studioで録音されている。
ここはFoo Fightersの"The Colour and the Shape"(1997)やSoundgardenの"Badmotorfinger"らのロックの名盤が録音されたことでも知られる伝説的なスタジオで、調べてみたら本当に山奥の小屋みたいなところだったのでびっくりした。
プロデュースはRyan Hadlock.
LumineersやVance Joyといった新世代のフォーク/アコースティックアーティストを手掛けている気鋭のプロデューサーだ。
ElektraがPrateekにかける期待が伝わってくる。
"Bloom"
この曲なんかはちょっと70年代のアメリカのシンガーソングライターみたいな雰囲気がある。
唯一、物足りなかった点を挙げるとしたら、彼が2年前にリリースしたヒンディー語の"Kasoor"みたいなキャッチーな大衆性がある曲が入っていたらもっと良かったかな、ということだ。
アルバムの出来には大満足しているのだけど、せっかく英語で歌っているのだから、彼の才能が分かりやすく世界中のリスナーに伝わる曲が入っていてほしかったのだ。
そんなふうに思っていたら、今作リリースにあたってのインタビューで、 Prateekがソングライティングについてこう語っているのを見つけた。
「このアルバムは、愛と人のつながりっていう、僕がいつも惹かれている2つのテーマについての本格的なストーリーなんだ。僕はどれだけ人気が出るかを考えて曲を作りたいとは思わない。もし誰かが1、2曲だけでも気に入ってもらえたら、それでいいと思ってる」
さらに、アルバムリリース後のツアーについてはこう語っている。
「ライブミュージシャンは、観客が喜んでくれるものを書く傾向がある。でも僕は意図的にそういうことをするのはやめようと努めた。自分がプレイしたものをやりたいようにやるっていうのが、少なくとも今のところ守ろうと思っている僕の価値観だよ」
(引用出典:https://www.grazia.co.in/lifestyle/culture/prateek-kuhad-on-the-true-meaning-of-authenticity-in-music-9471.html)
どうやら、名門レーベルからリリースするんだから、キャッチーで売れそうな曲を入れたら良かったのに、なんていう俗っぽいことを考えていたのは自分だけだったようだ。
Prateek本人はいたって自然体。
誠実に、自分が作りたい曲を作る。そのことに集中しているからこそ、ピュアで美しい音楽が生まれてくるのだろう。
また別のインタビューによると、彼の転機になったのは、学生時代のニューヨーク大学への留学だったという。
インドの古都ジャイプルから大都市ニューヨークに来たばかりの頃は、環境の違いに塞ぎ込んだこともあったそうが、彼はこの街の自由な環境をすぐに好きになったという。
人との関わりが強く、なにかと干渉されがちなインド社会と比べて、個人が自由に生きられるニューヨークは、彼の価値観を大きく変えたようだ。
彼はこの街で、自分らしく生きる喜びに出会い、音楽の道に真剣に取り組むことを決意したのだという。
(引用出典:https://www.thelineofbestfit.com/features/interviews/prateek-kuhad-on-the-rise)
自分に正直に、生きたいように生きる。
やりたいことを追求して、純粋な音楽作品を作る。
彼のこの哲学は間違いなくニューヨークでの経験から生まれたものなのだろう。
今作からは、これまで2本のミュージックビデオが制作されている。
"Just A Word"
この"Just A Word"の映像は、これまでにKhalidやWiz Khalifaといったトップアーティストのミュージックビデオを手掛けてきたAlex DiMarcoによるもの。
幻想的な柔らかい映像が楽曲にぴったりと合っている。
"Favorite Peeps"
こちらはインドのチーム(インドで活躍するウクライナ人映像作家Dar Gaiを含む)による作品。
パーティーで仲間たちから少し離れて、ちょっとだけ孤独そうに微笑む姿はPrateekの繊細な楽曲のイメージにふさわしい。
ちなみに前述のGraziaのインタビューによると、今作でエレクトロニック的な要素がこれまでよりも前面に出ているのは、制作中に彼がヒップホップやポップをよく聴いていたからとのこと。
エヴァーグリーンなメロディーでありながらも、きちんと現代的な音像でもあるところも本作の魅力のひとつだろう。
今後の予定としては、6月2日からテキサス州ダラスを皮切りに、6月28日のニューヨーク公演まで続く全米ツアー、そして9月以降は、ドイツ、オランダ、フランス、イギリス、アイルランドを回るヨーロッパツアーが計画されている。
2019年には"Cold / Mess"がオバマ前大統領のフェイバリットに選ばれるなど、すでに一部では注目を集めていたPrateekだが、いよいよ本格的な世界進出となる。
彼の音楽がどんなリアクションで迎えられるのか、今からとても楽しみだ。
最後に、この記事でPrateek Kuhadのことを初めて知った人もいると思うので、彼の素晴らしいヒンディー語の楽曲も紹介しておく。
"Shehron Ke Raaz"
昨年7月、Elektraとの契約後にインディペンデント作品としてリリースされた"Sheron Ke Raaz"のこの美しいメロディー。
インド版"La La Land"的なミュージックビデオも絶品だ。
歌詞は「二人で過ごす特別な時間はこの街の秘密」といった内容。(別に不倫の歌ではない)
"Kasoor"
2020年にロックダウン下で製作されたがゆえにこのスタイルのミュージックビデオにしたのだろうが、楽曲も映像もじつに素晴らしく、個人的にこの"Kasoor"が2020年のベスト作品だと思っている。
こちらの歌詞は「君にすっかりまいってしまった僕、こんなふうになってしまったのは過ちだったのか」といった内容。
インドではバイリンガル(あるいはトリリンガル以上)で楽曲をリリースするアーティストも珍しくはないが、彼のそれぞれの言語の響きを生かしながらも美しい楽曲を作る才能は頭ひとつ抜けている。
日本でももっともっと評価されてほしい存在だ。
以前書いた彼についての記事も貼り付けておく。
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goshimasayama18 at 22:20│Comments(0)│インドのロック