SXSW2022に出演するインドのアーティストを紹介!インドで洋楽的音楽をどうやって表現するかという問題

2022年03月21日

驚愕のバングラー・メタル Bloodywoodを知っているか?


先日紹介したMC STAN同様、このBloodywoodについても紹介するのが遅くなりすぎたと言わざるを得ない。
彼らはすでに、ここ日本でもその筋ではそれなりの知名度を持っているからだ。
「その筋」とはどの筋かと言うと、「コアなヘヴィメタルファン」のことだ。
彼らのバンド名で検索すると、すでに日本語で紹介されているネットの記事がいくつもヒットする。

彼らが先月発表したニューアルバム"Rakshak"の評判が、また非常に良い。
さっそく収録曲を聴いてみよう。

"Machi Bhased"


"Dana Dan"



ひと目見てインドのバンドだと分かる強烈な個性を打ち出しつつ、ラップメタルとして非常にキャッチーかつかっこよく仕上がっているのがお分かりだろう。
彼らの音楽の最大の特徴は、インド北西部パンジャーブ地方の伝統的舞踊音楽「バングラー」を大胆に導入していること。

インドの伝統音楽とメタルの融合は、じつは多くの先例があるのだが(例えばPineapple Express)、これまでは、古典音楽の複雑なリズムをプログレッシヴメタルと組み合わせるスタイルが主流で、素朴なダンスミュージックであるバングラーの導入はありそうでなかった切り口だ。

ブラジルのSepulturaは、90年代にグルーヴメタルに母国の伝統音楽のリズムを取り入れて度肝を抜いたが、Bloodywoodの手法はそのインド版と呼ぶことができる。
ジャンルとしては、彼らのサウンドはメタルに民族的な伝統音楽を融合した「インド風フォークメタル」ということになるだろう。

Bloodywoodが結成されたのは2016年。
当初はギタリストのKaran KatiyarとヴォーカルのJayant Bhadulaによるデュオで、その名の通りボリウッドのヒット曲や洋楽の有名曲をカバーするパロディ・バンドだった。
ヘヴィメタル、とくにデスメタルのようなエクストリームなメタル・ミュージックは、その激しすぎる音楽性から、いわゆるネタ的な音楽としても人気が高い。
ポップなヒット曲をひたすらヘヴィにカバーする動画は、YouTubeの音楽動画の鉄板コンテンツだ。

おもしろカバー曲を中心に当初はYouTuber的な活動を繰り広げていた2人だったが、彼らの動画は思いのほか人気を集め、Karan Katiyarは企業の顧問弁護士という安定したキャリアを捨てて、音楽活動に専念する道を選ぶ。

2017年にはファーストアルバム"Anti-Pop Vol.1"をリリース。
このアルバムは全曲カバーアルバムで構成されていて、収録曲は、例えばRick Astleyの"Never Gonna Give You Up"のメタルカバー。


もはやオリジナルの面影はほとんどないが、これはこれでメタルとしては非常にかっこよく仕上がっている。

こちらは日本でもネタ的な動画でよく使われるDaler Mehndiの"Tunak Tunak Tun"のメタルバージョンで、ブラジルのコミックメタルバンド、Bonde de Metaleiroとの共演による濃すぎるカバーだ。


ちなみに原曲はこちら。
原曲の時点ですでに相当濃い。



バンドの転機となったのは、ラッパーのRaoul Kerrの加入だ。
彼はこの"Ari Ari"での共演をきっかけに、のちにバンドの正式メンバーとなる。


オリジナルはデンマーク人とインド人によるプロジェクトThe Bombay Rockersの2003年による曲だそうで、デンマークとインドではまあまあ有名な曲らしい。


彼らは他のインドのメタルバンドが避けてきた「ステレオタイプなインドっぽさ」を躊躇なく取り入れて、目新しさと面白さで世界中の耳目を集めてゆく。
ひたすらにコワモテなヘヴィメタルは、歌って踊るカラフルなインドのボリウッド的大衆文化とは全く相容れない。
インドのメタルバンドは、「ネタ的」に消費されかねないインドっぽい要素を排除することが多いのだが、Bloodywoodは、そうしたミスマッチ感覚をあえて強調することで、これまでどこにもなかった唯一無二のサウンドと世界観を作り出すことに成功した。
(ヒンドゥー神話をテーマにしたヴェーディック・メタルというジャンルもあることはあるのだが)
この意外性のある方法論を発見することができたのは、注目されてナンボのYouTuberという出自を持っているからこそだろう。

この頃からバンドはコミカルなパロディ的カバーではなく、シリアスなテーマを扱ったオリジナル曲をリリースするようになる。
ネタっぽかったプロジェクトがユニークさを評価されてマジなバンドになったという例は、日本で言うと、Babymetalに近い売れ方と言えるかもしれない。

この曲では、これまでの曲とはうってかわって、「心の病と鬱」という極めてシリアスなテーマを扱っている。


この"Endurant"はいじめ問題をテーマにした曲。


あいかわらず分かりやすくインド的な要素を導入しているが、ヘヴィミュージックとしての完成度の高さによって、ネタっぽさのないメタル・サウンドに仕上がっている。

彼らはLinkin Park, Rage Against the Machine, System of a Down, Limp Bizkitらに影響を受けているとのこと。
まあとにかく、ラップメタルの影響とこれまでのネタっぽいカバー曲のアレンジを融合して、かれらはこれまでどこにもなかったインド的ラップメタルサウンドを研ぎ澄ませることに成功たのだ。

2019年にはヘヴィメタル界最大のフェスであるドイツのWacken Open Airに出演。


それに続くヨーロッパツアー"Raj Against the Machine Tour"(言うまでもなく彼らの音楽的影響のひとつであるRage Against the Machineのパロディーで、Rajは「統治体制」を表すヒンディー語)も好評を得たという。
コロナ後もBloodywoodの勢いはとどまることを知らず、イギリスのMetal Hammer誌が選出する「2022年に注目すべき新人12バンド」にも選ばれている。
今回リリースした"Rakshak"は、カバー曲を排して全曲オリジナルで構成されており、コミカルなカバーバンドのイメージからの完全な脱却を図っている。

これまでもこのブログで紹介してきた通り、インドは隠れたヘヴィメタル大国で、優れたバンドが数多くいるのだが、世界的な人気を集めるようなバンドはこれまで登場してきていない。
こうした状況をBloodywoodが打ち破ることができるのか。
2022年の夏からは、いくつかのメタル系フェスへの出演を含むヨーロッパツアーが予定されている。
今後の彼らの世界での活躍に注目したい。



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goshimasayama18 at 21:12│Comments(2)インドのヘヴィーメタル 

この記事へのコメント

1. Posted by kmdsn   2022年03月27日 00:14
5 愛犬のペットロスについて歌い上げた"Yaad"とか、かなり独特な存在だと思います
2. Posted by 軽刈田 凡平   2022年03月27日 16:47
独特ですよね〜!
それまでほとんどパロディみたいな曲しかやってなかったのに、急に「ペットロスがテーマ」って…。
しかもかなり硬派なメタルサウンドで。
初めて聞いた時、戸惑ったものでした(笑)

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