2022年01月31日
インディアン・シューゲイザー特集!インドの大地に轟音ギターが鳴り響く!
今回の記事では、インドのインディー・ロックという世界的に見てもかなりニッチなジャンルの中の、さらにニッチなサブジャンルについて書かせてもらう。
タイトルにもある通り、今回は「インドのシューゲイザー特集」だ。
ご存知の方も多いと思うが、シューゲイザーというのは90年代にイギリスで発祥したロックのいちジャンルで、雑に説明すると、フィードバックノイズ混じりの歪んだギターでコードをズゴゴゴゴィーーンと弾きながらポップなメロディーを甘ったるい声で歌う様式のこと。
こうしたスタイルを取り入れたバンドの多くが、ステージで、まるで「自分の靴を眺めるかのように」うつむいてギターをかきならしていたことから、シューゲイザー(shoegaze, shoegazing)というジャンル名がつけられた。
歪んだギターでガガガガガッとリフを弾くとメタルになってしまうし、アップテンポでジャンジャカジャカジャカと弾くとパンクになってしまうが、深く歪ませたギターをミドルテンポでズゴゴゴゴィーンとコード弾きしながら(「ィーン」の部分はフィードバック・ノイズ、いわゆるハウリング)、あくまでもゆったりとしたメロウなメロディーを歌うというのがシューゲイザーのスタイルだ。
もしこのジャンルを全く知らないという方は、シューゲイズを代表する名盤とされるMy Bloody Valentineの"Loveless"あたりを聴いてもらうと雰囲気がわかると思う。
シューゲイザー自体は、90年代の一過性のムーブメントだったものの、轟音ギターと甘いメロディーの組み合わせには色あせない魅力があり、今も世界中のアーティストたちに大きな影響を与えていて、ポストロックなどの別ジャンルにもシューゲイズ的なサウンドは受け継がれている。
ここらで本題に入ると、インドのインディーミュージックシーンにも、シューゲイズ・バンドはちゃんと存在しているのだ。
Colorblind "Devil on the Neon Porch"
Colorblindは、ニューデリーとプネーを拠点とするアーティストKartik Mishraによるポストロック・プロジェクトで、リリースされたばかりのこの曲では、ムンバイの電子音楽家Cowboy and Sailor Manをヴォーカルに加えて見事なシューゲイズ・サウンドを披露している。
影響を受けたアーティストとしてCureやThe Smithらの名前を挙げており、やはりUKロックがそのルーツにあるようだ。
インドではシューゲイザーのシーンは非常に小さく、これまでのColorblindのYouTubeでの再生回数も100〜300回ほどに過ぎない(これまでの彼のサウンドは、シューゲイズというよりも、アンビエント的なものが多かったのだが)。
というか、インドにシューゲイザー・シーンなんてものはほとんど存在しなくて、一部の好事家が好きなサウンドをかき鳴らしているだけという現状のようだ。
それでも、Colorblindはいくつかの音楽メディアに取り上げられ始めており、今後の活躍が期待されるアーティストとして認識されている。
インドではまだ新しいシューゲイズ・サウンドが、これからどのように受け入れられてゆくのか、非常に興味深い。
Sunflower Tape Machine "Within You"
ファンキーなカッティングにサイケデリックなシンセサウンドの"Sophomore Sweetheart"がRolling Stone India誌によって2021年の年間ベストシングル第2位に選ばれたチェンナイのSunflower Tape Machineだが、昨年5月にリリースしたこの"Within You"では、シューゲイズとしか言いようのないサウンドを披露している。
Sunflower Tape Machineはまだ3曲しかリリースしていないニューカマーだが、もう1曲の"death, colourised"はアンビエント・ノイズ的なサウンドで、ジャンルにはこだわらずに、音の響きを重視して活動するというスタイルのアーティストようだ。
シューゲイザーは、その音響に対する美意識から、電子音楽にも影響を与えたとされているが、インドにもシューゲイズ・ロックから電子音楽までを股にかけるアーティストがいるとは思わなかった。
YSP & Friends "Breath"
ここまで読んで、結局はポストロックとか電子音楽のアーティストがたまにシューゲイザー的な曲をやってるだけじゃないか、と思った方も多いと思うが、そんなことはなくて、常に轟音のギターサウンドを鳴らしているバンドだって、ちゃんといる。
デリー出身のギタリスト、Yatin Srivastava率いるYatin Srivastva Projectと、そこから派生したYSP & Friendsは、自分たちではプログレッシブメタルバンドを名乗っているが、テクニカルで数学的な展開を排したスタイルはかなりシューゲイザーに近いものだと言えるだろう。
面白いところでは、日本語のタイトルの「Ikigai(生きがい)」という曲もリリースしている。
Minaxi "Sehra"
インド人たちによるシューゲイズ・アーティストはインド国内に止まらない。
ブルックリンを拠点に活動しているMinaxiは、インド人シンガーソングライターShrenik Ganatraが率いるバンド。(あとの2名は白人のアメリカ人)
影響を受けたジャンルとしてサイケデリア、シューゲイズ、ドリームポップからインド、パキスタンの音楽までを挙げており、クリーントーンのギターを使うことも多いが、曲によってはヒンディー語ヴォーカルやタブラの導入なども行っている。
海外のバンドがむしろ積極的にインド的要素の導入を試みているというのがなかなか面白い。
Raat "Ashen"
シューゲイザーというスタイルが他のジャンルに与えた影響は幅広く、マジな悪魔崇拝から生まれた「ヘヴィメタルの極北」ブラックメタルとシューゲイズサウンドが融合した「ブラック・ゲイズ」というジャンルがある。
ロックの中ではセンスの良いジャンルに分類されるシューゲイザーと悪趣味の極みのようなブラックメタルの組み合わせは意外だが、轟音ギターや耽美的かつ退廃的な世界観という点では共通点があり、アンダーグラウンドなジャンルながら、世界中に優れたアーティストが存在している。
このRaatはデリー出身のアーティストで、バンド名の意味は、ヒンディー語で「夜」。
その実態は謎が多く、S.R.なる人物が全パートを演奏しているという以外は不明で、ソーシャルメディアには、プロフィールの代わりに「道なき森に悦びがある。孤独な岸辺に歓喜がある。誰も立ち入ることができない社会がある。深い海のそばに、その轟音の中に音楽がある」という不思議なメッセージが掲げられている。
驚くべきはその多作ぶりで、Raatは2019年のデビュー以来、9枚のEPと2枚のフルアルバムを発表しており、さらにS.R.はLesathという似た音楽性のプロジェクトでも2枚のフルアルバムをリリースしている。
これまでもたびたび触れてきた通り、じつはインドは隠れた「メタル大国」なのだが、こうした非常にアンダーグラウンドな音楽性のアーティストまでも存在しているということに、インドのメタルシーンの奥深さを改めて感じさせられる。
ここまで様々なバンドを紹介してきたが、お聴きいただいて分かる通り、シューゲイザーはイギリス生まれのジャンルではあるものの、今となっては完全に無国籍な音の様式と化しており、インドのバンドだからといって、べつにインドっぽい要素があるわけではない。
しかしながら、インドといえば、ロックや電子音楽と伝統を組み合わせた魅力的なサウンドを多数作り上げている「フュージョン大国」でもある。
シューゲイザーに関しても、例えば轟音ギターにマントラみたいなヴォーカルが乗るとか、ドローン音みたいなフィードバックノイズに乗せてサーランギーのメロディーが舞い踊るとか、タブラ楽器がこまかいリズムを刻む、みたいなサウンドのバンドがいたら最高なのになあ、と思ってしまう(Minaxiがそれに近いことをしている曲もあるが、やや消化不良気味)。
インドで根強いポストロックやアンビエント/エレクトロニカ勢との共演も面白そうだ。
まだまだ発展途上なインドのシューゲイザーだが、深淵なサウンドへのこだわりに関しては大昔から徹底していたインドのアーティストたちが、今後もシーンをさらに面白くしてくれるはずだ。
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タイトルにもある通り、今回は「インドのシューゲイザー特集」だ。
ご存知の方も多いと思うが、シューゲイザーというのは90年代にイギリスで発祥したロックのいちジャンルで、雑に説明すると、フィードバックノイズ混じりの歪んだギターでコードをズゴゴゴゴィーーンと弾きながらポップなメロディーを甘ったるい声で歌う様式のこと。
こうしたスタイルを取り入れたバンドの多くが、ステージで、まるで「自分の靴を眺めるかのように」うつむいてギターをかきならしていたことから、シューゲイザー(shoegaze, shoegazing)というジャンル名がつけられた。
歪んだギターでガガガガガッとリフを弾くとメタルになってしまうし、アップテンポでジャンジャカジャカジャカと弾くとパンクになってしまうが、深く歪ませたギターをミドルテンポでズゴゴゴゴィーンとコード弾きしながら(「ィーン」の部分はフィードバック・ノイズ、いわゆるハウリング)、あくまでもゆったりとしたメロウなメロディーを歌うというのがシューゲイザーのスタイルだ。
もしこのジャンルを全く知らないという方は、シューゲイズを代表する名盤とされるMy Bloody Valentineの"Loveless"あたりを聴いてもらうと雰囲気がわかると思う。
シューゲイザー自体は、90年代の一過性のムーブメントだったものの、轟音ギターと甘いメロディーの組み合わせには色あせない魅力があり、今も世界中のアーティストたちに大きな影響を与えていて、ポストロックなどの別ジャンルにもシューゲイズ的なサウンドは受け継がれている。
ここらで本題に入ると、インドのインディーミュージックシーンにも、シューゲイズ・バンドはちゃんと存在しているのだ。
Colorblind "Devil on the Neon Porch"
Colorblindは、ニューデリーとプネーを拠点とするアーティストKartik Mishraによるポストロック・プロジェクトで、リリースされたばかりのこの曲では、ムンバイの電子音楽家Cowboy and Sailor Manをヴォーカルに加えて見事なシューゲイズ・サウンドを披露している。
影響を受けたアーティストとしてCureやThe Smithらの名前を挙げており、やはりUKロックがそのルーツにあるようだ。
インドではシューゲイザーのシーンは非常に小さく、これまでのColorblindのYouTubeでの再生回数も100〜300回ほどに過ぎない(これまでの彼のサウンドは、シューゲイズというよりも、アンビエント的なものが多かったのだが)。
というか、インドにシューゲイザー・シーンなんてものはほとんど存在しなくて、一部の好事家が好きなサウンドをかき鳴らしているだけという現状のようだ。
それでも、Colorblindはいくつかの音楽メディアに取り上げられ始めており、今後の活躍が期待されるアーティストとして認識されている。
インドではまだ新しいシューゲイズ・サウンドが、これからどのように受け入れられてゆくのか、非常に興味深い。
Sunflower Tape Machine "Within You"
ファンキーなカッティングにサイケデリックなシンセサウンドの"Sophomore Sweetheart"がRolling Stone India誌によって2021年の年間ベストシングル第2位に選ばれたチェンナイのSunflower Tape Machineだが、昨年5月にリリースしたこの"Within You"では、シューゲイズとしか言いようのないサウンドを披露している。
Sunflower Tape Machineはまだ3曲しかリリースしていないニューカマーだが、もう1曲の"death, colourised"はアンビエント・ノイズ的なサウンドで、ジャンルにはこだわらずに、音の響きを重視して活動するというスタイルのアーティストようだ。
シューゲイザーは、その音響に対する美意識から、電子音楽にも影響を与えたとされているが、インドにもシューゲイズ・ロックから電子音楽までを股にかけるアーティストがいるとは思わなかった。
YSP & Friends "Breath"
ここまで読んで、結局はポストロックとか電子音楽のアーティストがたまにシューゲイザー的な曲をやってるだけじゃないか、と思った方も多いと思うが、そんなことはなくて、常に轟音のギターサウンドを鳴らしているバンドだって、ちゃんといる。
デリー出身のギタリスト、Yatin Srivastava率いるYatin Srivastva Projectと、そこから派生したYSP & Friendsは、自分たちではプログレッシブメタルバンドを名乗っているが、テクニカルで数学的な展開を排したスタイルはかなりシューゲイザーに近いものだと言えるだろう。
面白いところでは、日本語のタイトルの「Ikigai(生きがい)」という曲もリリースしている。
Minaxi "Sehra"
インド人たちによるシューゲイズ・アーティストはインド国内に止まらない。
ブルックリンを拠点に活動しているMinaxiは、インド人シンガーソングライターShrenik Ganatraが率いるバンド。(あとの2名は白人のアメリカ人)
影響を受けたジャンルとしてサイケデリア、シューゲイズ、ドリームポップからインド、パキスタンの音楽までを挙げており、クリーントーンのギターを使うことも多いが、曲によってはヒンディー語ヴォーカルやタブラの導入なども行っている。
海外のバンドがむしろ積極的にインド的要素の導入を試みているというのがなかなか面白い。
Raat "Ashen"
シューゲイザーというスタイルが他のジャンルに与えた影響は幅広く、マジな悪魔崇拝から生まれた「ヘヴィメタルの極北」ブラックメタルとシューゲイズサウンドが融合した「ブラック・ゲイズ」というジャンルがある。
ロックの中ではセンスの良いジャンルに分類されるシューゲイザーと悪趣味の極みのようなブラックメタルの組み合わせは意外だが、轟音ギターや耽美的かつ退廃的な世界観という点では共通点があり、アンダーグラウンドなジャンルながら、世界中に優れたアーティストが存在している。
このRaatはデリー出身のアーティストで、バンド名の意味は、ヒンディー語で「夜」。
その実態は謎が多く、S.R.なる人物が全パートを演奏しているという以外は不明で、ソーシャルメディアには、プロフィールの代わりに「道なき森に悦びがある。孤独な岸辺に歓喜がある。誰も立ち入ることができない社会がある。深い海のそばに、その轟音の中に音楽がある」という不思議なメッセージが掲げられている。
驚くべきはその多作ぶりで、Raatは2019年のデビュー以来、9枚のEPと2枚のフルアルバムを発表しており、さらにS.R.はLesathという似た音楽性のプロジェクトでも2枚のフルアルバムをリリースしている。
これまでもたびたび触れてきた通り、じつはインドは隠れた「メタル大国」なのだが、こうした非常にアンダーグラウンドな音楽性のアーティストまでも存在しているということに、インドのメタルシーンの奥深さを改めて感じさせられる。
ここまで様々なバンドを紹介してきたが、お聴きいただいて分かる通り、シューゲイザーはイギリス生まれのジャンルではあるものの、今となっては完全に無国籍な音の様式と化しており、インドのバンドだからといって、べつにインドっぽい要素があるわけではない。
しかしながら、インドといえば、ロックや電子音楽と伝統を組み合わせた魅力的なサウンドを多数作り上げている「フュージョン大国」でもある。
シューゲイザーに関しても、例えば轟音ギターにマントラみたいなヴォーカルが乗るとか、ドローン音みたいなフィードバックノイズに乗せてサーランギーのメロディーが舞い踊るとか、タブラ楽器がこまかいリズムを刻む、みたいなサウンドのバンドがいたら最高なのになあ、と思ってしまう(Minaxiがそれに近いことをしている曲もあるが、やや消化不良気味)。
インドで根強いポストロックやアンビエント/エレクトロニカ勢との共演も面白そうだ。
まだまだ発展途上なインドのシューゲイザーだが、深淵なサウンドへのこだわりに関しては大昔から徹底していたインドのアーティストたちが、今後もシーンをさらに面白くしてくれるはずだ。
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goshimasayama18 at 13:38│Comments(0)│インドのロック