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2020年09月15日

これはもう新ジャンル 「インディアンEDM(もしくは印DM〈InDM〉)」を大紹介!


以前の記事で、無国籍なサウンドで活動していたインドのEDM系アーティストが、ここ最近かなりインドっぽい楽曲をリリースするしていることを紹介した。

これはもうEDMと従来のインディアン・ポップスを融合させた新しいジャンルが確立しているのではないか、というのが今回のテーマ。

その新しいジャンルをインディアンEDMと呼びたいのだけど、長いので印DM(InDM)と呼ばせてもらうことにする。
このジャンルの特徴を挙げると、ざっとこんな感じになる。
  • EDM系のプロデューサーが手掛けており、ダンスミュージックの要素を残しつつも、インド的な要素(とくに歌やメロディーライン)を大幅に導入している。
  • 歌詞は英語ではなく、ヒンディー語などの現地言語であることが多い。
  • ミュージックビデオにも、インド的な要素が入っている。(いわゆる典型的なEDMの場合、インド人が手掛けた曲でも、ローカルな要素はミュージックビデオから排除されていることが多かった)
ボリウッド的メインストリームが新しいダンスミュージックを貪欲に取り入れる一方で、インディーズのEDM系のアーティスト達もインド的な要素を積極的に導入していった結果、もはやジャンルの境目がどこにあるのか分からないような状況になってしまっているのだ。

かつてはゴリゴリのEDMを作っていたLost Storiesの新曲"Heer Ranjha"は、この王道ボリウッドっぷり。
目を閉じると、主人公とヒロインが離れた場所から見つめ合いながら手を伸ばして、届きそうだけど届かない、みたいな場面から始まるミュージカルシーンが浮かんできそうな曲調だ。
ブレイク部分でのEDMっぽいアレンジのセンスの良さはさすが。

もうちょっとダンスミュージック寄りの曲調なのがこの"Noor".
なぜパンダなのか謎だが、たぶん理由は「かわいいから」だろう。
クレジットには同じくインドの人気EDMプロデューサーのZaedenの名前も入っている。

そのZaedenの最近の曲は、もはやエレクトロニック・ミュージックの要素すらほとんどない普通のヒンディーポップだ。
1年前の曲がコレ。

最新の曲は、デリーのシンガーソングライターPrateek Kuhadのカバー。
彼はエレクトロニック系のプロデューサーから、オーガニックな曲調のシンガーソングライターへの転身を図ろうとしている真っ最中のかもしれない。
原曲は今年の7月にリリースされたばかりで、ここまで新しい曲のカバーというのは異例だが、Zaedenがこの曲を大いに気に入ったために制作されたものらしい。
Prateek Kuhadによるオリジナル・バージョンのミュージックビデオも大変素晴らしいので、ぜひこちらから見てみてほしい。



2013年のデビュー当初から印DMっぽい音楽性の楽曲をリリースしているのが、プネー出身のシンガーソングライター/プロデューサーのRitvizだ。
彼は幼少期から古典音楽(ヒンドゥスターニー音楽)を学んで育ち、EDMやヒップホップに加えてインド映画音楽の大御所A.R.ラフマーンのファンでもあるようで、そうした多彩な音楽的背景が見事に結晶した音楽を作っている。
彼のミュージックビデオはインドの日常を美しい映像で描いたものが多く、それがまた素晴らしい。


ラム酒のバカルディのロゴが頻繁に出て来るのは、バカルディ・ブランドによるインディー音楽のサポートプログラムの一環としてミュージックビデオが制作されているからのようだ。
インドではヒンドゥーでもイスラームでも飲酒がタブー視される時代が長く続いていたが、新しい価値観の若者たちに売り込むべく、多くのアルコール飲料メーカーがインディーズ・シーンをサポートしている。

今年に入ってからは、デリーのラップデュオSeedhe Mautとのコラボレーションにも取り組むなど、ますますジャンルの垣根を越えた活動をしているRitviz.
これからも印DMを代表する存在として目が離せない。
ハードコア・ラッパーとしてのイメージの強かったSeedhe Mautにとっても新機軸となる楽曲だ。

タージ・マハールで有名なアーグラー出身のUdyan Sagarは、1998年にインド古典音楽のリズムとダンスミュージックを融合したユニットBandish Projektの一員としてデビューしたのち、Nucleyaの名義でベースミュージック的な印DMに取り組んでいる
彼が2015年にリリースした"Bass Rani"は、インドの伝統音楽とエレクトロニック・ミュージックの融合のひとつの方向性を示した歴史に残るアルバム。
この曲ではガリーラップ界の帝王DIVINEとコラボレーションしている。(この共演は『ガリーボーイ』のヒットのはるか以前の2015年のもの)

この2人の組み合わせは2017年のボリウッド映画"Mukkabaaz"(Anurag Kashyap監督、Vineet Kumar Singh主演)で早くも起用されており、インド映画界の新しい音楽への目配りの早さにはいつもながら驚かされる。
ポピュラー音楽のフィールドでの評価や知名度という点では、このNucleyaが印DM界の中でも随一と言って良いだろう。


ベースミュージック的な印DMに、レゲエやラテンの要素も加えた音楽性で異彩を放っているのが、このブログの第1回でも紹介したSu Realだ。


この"Soldiers"ではルーツ・レゲエとEDMの融合という意欲的すぎる音楽性でインド社会にはびこる保守性を糾弾している(興味深いリリックについては上記の第1回記事のリンクをどうぞ)。


この"EAST WEST BADMAN RUDEBOY MASH UP TING"では、映像でもインド的な要素をポップかつクールに編集していて最高の仕上がり。長年、欧米のポピュラー音楽から「エキゾチックやスピリチュアルを表す記号」として扱われてきたインドだが、ここ最近インド人アーティストたちは西洋と自分たちのカルチャーとのクールな融合方法を続々と編み出しており、印DMもまさにそうしたムーブメントのなかのひとつとして位置付けることができる。

新曲"Indian Wine"のミュージックビデオでは、レゲエを基調にしたビートに、レゲエダンサーとインド古典舞踊バラタナティヤムのダンサーが共演するという唯一無二の世界観。
こうした融合をさらっと行ってしまえるところが、インドの音楽シーンの素晴らしいところだ。


このように、ますます加熱している印DMシーンだが、今回紹介した人脈同士でのコラボレーションも盛んに行われている。
この曲はSu RealとRitvizの共作による楽曲。

これはNucleyaがRitvizの"Thandi Hawa"をリミックスしたもの。

世界的にEDMの人気は落ち着きを見せてきているようだが、それに合わせるかのように勢いづいてきている印DMは、「ダンスミュージックにインドの要素がほしいけど、既存のボリウッドの曲はちょっとダサいんだよな…」というような若者たちを中心に支持を広げているのだろう。
インドのメインストリームである映画音楽と、インディーミュージックシーンを繋ぐミッシングリンクと言えるのが、この印DMなのだ。

今後、EDMブームが過去のものになってしまうとしても、このブームが生み出した印DMという落とし子は、今後ますます成長してゆくはず。ヒップホップやラテン音楽への接近など、目が離せない要素が盛り沢山の印DM。
これからも取り上げてゆきたいと思います!




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