2025年12月

2025年12月28日

2025年度版 軽刈田凡平's インドのインディー音楽top10 +α


今年はほとんどブログの記事を書かないまま1年が終わってしまった。
渋谷で行われたほとんど在日インド人のディワーリー・パーティーでのカラン・カンチャンのDJが最高だったこととか、ナガランドからやってきたポップパンクバンドのStreet Storiesのライブがエモかったこととか、ちゃんと書いておきたいことはたくさんあったのだけど、連載のほうにほぼ全集中していて、つい母屋であるこのブログをすっぽかしてしまった。

連載というのは、春秋社のウェブマガジン『web春秋 はるとあき』内での「軽刈田凡平の新しいインド音楽の世界」のことで、気合入れて書いてますのでヨロシク。



ともかく、今年も年末恒例の、自分なりのインドのインディー音楽top10を選んでみます。
対象は、アルバムだったり、楽曲だったり、ミュージックビデオだったり、はたまた出来事だったりと何でもあり。
今年は例年になく情報の入力と出力のバランスがアンバランスで、アウトプット過剰だったので、チェックできていない作品がまだまだありそう。
何かおすすめがあったら教えてください。

また、インドの慣例にならって、「インディー音楽」というのは「非メジャーレーベル」という意味ではなく、「非映画音楽」という意味で使っているので、メジャーなアーティストもここには含まれています。
10作品の順位はとくにないです。


Karan Aujla "P-Pop Culture"(アルバム)


いきなり大メジャーで申し訳ないが、カナダを拠点に活躍するパンジャーブ音楽界の大スター、Karan Aujlaのアルバムを筆頭に挙げたい。
数年前からAujlaをはじめとしてAP Dhillon、Diljit Dosanjh、Shubhらのパンジャーブ勢は北インドと在外インド人社会での人気がめちゃくちゃ高く、APとDiljitはコーチェラでもパフォーマンスを披露している。
昨年末にムンバイで見たAujlaのライブもめちゃくちゃ大規模かつド派手で大いに盛り上がっていた。
今作は全曲が盟友Ikkyによるプロデュースで、ゲストはなし。
今の彼の勢いだったら、国内外の人気ラッパーを加えた話題作を作ることもできたはずだが、彼はたった二人だけで新しいパンジャーブのポップスを作ることを引き受けた。
背負うアルファベットはインディアの「I」ではなくパンジャーブの「P」。
これまでのヒップホップ的/ダンスポップ的なアプローチに加えて、今作ではロック的なダイナミズムが大幅に加わっていて、これが昨今のヒップホップ的な取り入れ方とも違うのは、生バンドとのライブを積み重ねてきたからだろうか。



TV Dinner "Non Believer"(楽曲)


今年のインドのインディーミュージック界での残念なニュースといえば、一部で世界的な評価を得ていた(日本だと高橋幸宏が高く評価していたとか)コルカタのドリームポップデュオ、Parekh&Singhの解散だ。
ミュージックビデオのウェス・アンダーソンへのオマージュに満ちた映像、キャッチーさに振り切りすぎない上品なポップネス。
彼らはステレオタイプなインドのイメージを覆すに十分すぎるクオリティのアーティストたちだった。
解散後、さっそくソロ活動を開始したメンバーのひとり、Nischay ParekhのソロプロジェクトがこのTV Dinnerだ。
おおまかな方向性はデュオ時代と大きく変わらないが、ポップな部分はそのままに、過剰なオシャレさを取り払ってメロディーの美しさを際立たせたアレンジは永遠に古くならなさそうだ。
こういう音楽がインドで作られていることはきちんと伝えてゆきたい。



DL91まわりの一連の作品
Ab 17 "Chanel got Work ft. Ikka"


これはちょっとズルい挙げ方かもしれないが、デリーにいつの間にか誕生していたヒップホップ界隈の集団(クルーと呼んで良いのか)DL 91 Eraの関連作品がとにかくやばかった。
インドのヒップホップの魅力には、いかにもインドらしい、各地域の特色や伝統を踏まえた表現(たとえばパンジャーブのバングラー・ラップ)と、逆に世界中のどこの地域でも成立しうる同時代的な表現の両方があるが、彼らは後者の代表格。
日本でいうと、kZmとかtohjiとかに近い、都市生活の虚無感みたいなものを、陶酔というか恍惚感へと昇華した現代的なヒップホップ。
とにかくDL 91 Era界隈の作品は、Hurricaneのプロデュース作品とか、OG Luciferのアルバム"Naala Paar"とか、毎回ハズレのないSeedhe Mautのアルバムまでを含めて、作品の質と量、いずれも特筆すべきものだった。
まったく違う土地や文化のもとに暮らす人々が慣らす音を通して同時代性を感じることができるというのは、ポピュラー音楽を聴く最大の喜びのひとつでもあると思う。



Shauharty "Farookh"(アルバム)


インドにおける2025年のアンダーグラウンド・ヒップホップの到達点と言えるのがこのShauhartyだ。
今年リリースされたアルバム"Farookh"は、シブすぎる音作りや、"Saddam Hussainé"(なぜeにアクセント記号?)、"Keith Haring"、"Earth, Wind & Fire"といった人名シリーズの楽曲、さらには、"Penis Flytrap", "Pitstop 4 Sex"といった下品なリリシズムとでもいうべき楽曲タイトルなど、ワードセンスからサウンドまで、強烈な個性が感じられる作品だった。
今はデリーを拠点にしているそうだが、もともとは北東部出身だというのがほかのデリー勢と一線を画す音作りの秘密か。
グジャラートのDhanjiと並んで、時流に影響されずに自分の音作りを追求するアーティストがきちんと活躍していることにインドのヒップホップシーンの層の厚さを感じる。



Dizlaw, Tienas, Kim the Beloved, Ranj, Jelo, Clifr "BLOODBATH"(楽曲)


かつてPrabh DeepやSeedhe Mautを輩出したことで信頼の厚いデリーのヒップホップレーベルAzadi Recordsは、最近は以前の勢いを失いかけているようにも見えていたけど、この曲を聴く限りまだまだ大丈夫そうだ。
Dizlaw, Tienasのムンバイ勢、Ranj(タミル)とClifrのサウスの安定コンビ、Kim the Beloved(ミゾラム)とJelo(メガラヤ)の北東部勢というインド全土のアンダーグラウンド系ラッパーを束ね、このゴリゴリのミクスチャーロック的なビートにほとんど英語のラップを乗せてきたのは、Hanumankindのヒットを意識してのことだろうか。
ちなみにイントロの宗教歌っぽいサンプリングはコメディアンがファシズム的政治を揶揄しているものだそうで、そういうところにもカウンターカルチャーとしてのヒップホップを支持してきたレーベルの主張が見える。



KR$NA "Yours Truly"(アルバム)


デリーのベテランラッパーKR$NAのニューアルバム"Yours Truly"は、RaftaarやBadshahといったデリーのメインストリーム勢、YashrajやSeedhe Mautといったアンダーグラウンド寄りのラッパー、さらにはイギリスのAitch、そして日本のAwichなど、幅広いゲストを招いて制作された意欲作。
アルバム全体のトーンを作っているのはインドのヒップホップシーンの大物プロデューサーPnenom.
KR$NAは20年近いキャリアを持つ重鎮だが、Seedhe Mautが参加した曲ではHurricaneを起用するなど、新しいサウンドへの目配りもできており、まだまだ衰える兆しはなさそうだ。

Awichが参加した"Hello"のプロデュースはKaran Kanchan.
「はじめまして」と「Haan ji, Namaste」のライムも彼の発案で、ビートもさすがのかっこよさ。
今年はAwichがインドのKR$NAや韓国のJay Parkをはじめ、中国、カンボジアのラッパーを招いた"ASIAN STATE OF MIND"を制作するなど、アジアのヒップホップを統合する動きも見られた。
この曲はおそらくその時のスワップ(相互客演でギャラを相殺する)で制作されたものだろうが、AwichはKR$NAとの共演のプロモーションに熱心ではなく、日本ではまったく話題にならなかったのがもったいない。

インド国内外のさまざまな例を見てきた結果、言語に大きく依存するラップに関しては、国や言語を超えたコラボレーションは成功しないのではないか、というのが現時点での私の見立てだ。



Yo Yo Honey Singh "51 GLORIOUS DAYS"(アルバム)


今さらHoney Singhを年間トップ10に入れるのもどうかとは思うのだが、今年リリースされた51曲入りというとんでもないボリュームのアルバムには度肝を抜かれた。
あらためて聴いてみると、ミュージックビデオはあいかわらずダサいが、ビートはかっこいいし(昔よりずっとよくなった)、ラップも技巧的なわけではないがさすがにどっしりとした風格がある。
曲が多すぎて熱心なファンでもまともに全曲聴かないのではないかという心配があるが、余計なお世話というものだろう。
目立つゲストはこの曲のAP DhillonやBohemia("Sawaal Puchdi")といった大御所のみだが、そこも若手とつるみがちな(かつての仲間で仲違いした)BadshahやRaftaarとの差別化だろうか。
ラージャスターンのフォークを導入したり("Bicchudo", "Bhagoliyo")、いろんなことをやっている。

今年はSeedhe Mautの30曲入りアルバム"DL91 FM"のボリュームと質の高さにも驚かされたが、このランキングの常連である彼らについては、単体では選出せず「DL91関連の作品」のなかに含めることとした。



Chaar Diwaari, Raftaar "FAREBI"(楽曲)


若手ラッパーとしての人気をすっかり確立したChaar Diwaariがデリーの大御所の一人Raftaarと共演したこの曲は、性急なビート感やポップセンスに2025年の空気感を感じる一曲だった。
ちゃんとインドっぽいところもポイントが高い。
かなりポップにできている曲だと思うのだが、YouTubeでの再生回数は現時点で530万界程度で、十分多いとも言えるが人気曲ともなるとすぐに数千万再生を超えるインドの状況を考えると少ないようにも思える。
インドもまた、ヒップホップがサブカルチャーとしては確立しているものの、メインストリームには成り得ていないという、日本と同じような状況にある。



ThirumaLi, ThudWiser "Kulasthree"(楽曲)


近年成長著しいケーララ州の言語マラヤーラム語ラップ。
Spotifyによると、2019年から2023年にかけてマラヤーラム語ラップの再生回数は5,300パーセントという驚異的な成長を示したそうで、確かに最近はミュージックビデオや楽曲の出来も加速度的に完成されてきた気がする。
マラヤーラム語ラップシーンの牽引者の一人であるThirumaLiとThudwiserがコラボしたKulasthree"は、他愛のないラブソングながらも、ケーララ的としか言いようのない詩的なリリックと映像美、そしてサウンドがたまらない。
Kukasthreeというのは伝統的な価値観における「理想の女性像」を表す単語だそうで、価値観の古さが気になるところだが、皮肉を込めた表現なのかどうかが気になるところではある。




Aman Sagar, Sanjeeta Bhattacharya "ESWY"(楽曲、ミュージックビデオ)


最近のインドのインディペンデント音楽シーンの密かなトレンドでもあるR&B路線の曲に、これまでRitvizやPrateek Kuhadらの楽曲に数々のセンスの良い映像を作成してきたJugaad Motion PicturesがMVを手がけた。
正直、映像で見るとちょっと演出が楽曲を邪魔してしまっている感じもあるが、楽曲の質の高さはサブスクなどで味わってもらうとして、輪廻転生モノというインドの伝統的なエンタメ文化とインディーズ音楽が融合したここまでセンスの良いミュージックビデオが作られたことをまずは讃えたい。



他に迷ったのは90年代風のエレクトロニック・ポップをセンスよく仕上げたPhilterSoup、デリーのMtoFトランスジェンダーで、性自認がどうこうということよりも佇まいのカッコ良さとリリックの生々しさにやられたKinari、プログレッシブ・サイバーメタルともいうべきAmogh Symphony.


2025年のトップ10(および次点となる作品)の紹介は以上となるのだが、いつも迷うのは、在外インド人による作品(とくにインドらしさがほぼない作品)をここに含めるべきかどうかということ。
これから紹介するアーティストは、音楽的にも南アジア的な要素はかなり少ないのだけど、ここで私が書いておかないと、日本において作品がまったくなかったことにされてしまうのではないか、という勝手な責任感もあって、ついでに紹介させてもらう。


Steel Banglez "One Day It Will All Make Sense"


イギリスで活躍しているパンジャーブ系プロデューサーのSteel Banglezが作成した南インド要素ほぼなしのヒップホップ/R&Bアルバムで、この曲はタミル映画のプレイバックシンガーとしても活躍しているSid Sriramとニューヨークの伝説的ラッパーであるNasが共演。
Steel Banglezは2023年にはUKのラッパーを中心に起用したアルバム"The Playlist"を作成しているが、今作ではインド本国やアメリカ、ナイジェリア系のアーティストも起用して、グローバルDesiミュージックとでも呼ぶべきサウンドを作り上げている。(Sid Sriramも拠点はカリフォルニアで、英語のR&Bアルバムも発表している。また両作でイギリスでも人気の高いナイジェリアやガーナなどアフリカ系アーティストが起用されていることも書き添えておきたい)
この曲はラップが入った王道R&B的な曲調ながら、最後に南インドの古典音楽であるカルナーティック由来の歌い回しが入ってくるところに痺れる。
南アジア色が薄い、ある意味で聴きやすい作品でもあるので、日本でももっと幅広く評価されてほしいところ。



Sayak Das "don't let this be the end"(楽曲)


「アジアのヒップホップ/R&Bアーティストをフックアップする」というコンセプトで活動する88risingだが、これまで取り上げてきたアーティストは東アジアや東南アジアにルーツを持つアーティストがほとんどだった。
アジアは広すぎるので、たとえば日本人を含めた東〜東南アジアの人々が、中央アジアや西アジアを同じ地域の人々として認識するかというとなかなか難しい問題だと思うのだが、まあともかく、ここにきて88risingが南アジア系のアーティストにも目を向けるようになったのは大変興味深い。
北米では南アジア系のコミュニティはすでに確立していて、たとえばパンジャーブ系のヒップホップなどは本国とシームレスにつながった揺るぎないディアスポラのシーンが存在しているので、必然的に88rising はよりオルタナティブなアーティストに着目せざるを得ない。
このSayak Dasの今っぽさは皆無だけど、ただただポップで上質なR&Bポップという音楽性は無視されてしまうのはもったいなく、ここできちんと取り上げておきたいと思った次第。


来年はもうちょっとブログの記事書きたい!



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