2025年09月

2025年09月25日

2025年秋〜冬 インドのフェス情報!


2026年の1月24-25日に行われるLollapalooza India、2025年11月22日-23日に行われるRolling Loud Indiaのラインナップが相次いで発表された。
会場はどちらもムンバイで、Rolling Loudのほうは正確にはムンバイの20キロほど東に位置するナヴィ・ムンバイで開催される。
どちらも発表されたのは結構前なのだが、忙しさにかまけて記事にするのが遅くなってしまった。
これがかなり面白い顔ぶれだったので、あらためてここに書いてみたい。


LollaIndia2026

先に発表されたLollapalooza IndiaのヘッドライナーはLinkin ParkとPlayboi Carti.
Linkin Parkは30代くらいのインドの洋楽ファンにはかなり人気があるようで、私の記憶だと、キャリア10年以上のインドのラッパーには、ヒップホップではなくLinkin Parkでラップに目覚めたという人が結構いたりする。
Linkin Parkは言うまでもなく2000年代を代表するロックバンドだが、インドでの公演は初めて。
これは絶対に盛り上がるだろう。

Playboi Cartiはアトランタ出身のラッパーで、2010年代終盤以降のUSヒップホップのサウンド、雰囲気、ファッションなどを決定づけた一人。
インドのヒップホップは多様化、ローカル化がかなり進んでいて、Playboi Cartiのような新しいタイプのUSヒップホップのファンがどれくらいいるのか想像がつかないが、英語による教育が盛んで、ネイティブ同様に英語を理解する人が多いインド(とくにムンバイ)には、英語でラップを聴いて理解して楽しめるヒップホップファンも多い。
ジャンルもスタイルも時代背景もまったく異なる二人のヘッドライナーがどんなパフォーマンスにムンバイのオーディエンスがどんな反応を見せるのか、かなり興味深いところだ。

日本人として気になるのはセカンド・ヘッドライナー扱いで藤井風の名前が挙がっていること!
藤井風はヨーロッパツアーを成功させるなど、海外での評価も非常に高い。
インドでの彼の知名度は、さすがにヘッドライナーの2組には及ばないだろうが、彼とインドには特別な関係がある。
Lollapalooza Indiaの公式インスタグラムでの彼の紹介がとても面白かった。

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ジャズ、ファンク、ソウル、エレクトロニックの影響をブレンドした彼のサウンドは遊び心があり、深い。(中略)彼の歌詞は仏教とインド哲学の不二一元論(Advaita Vedanta)がもとになっている。彼の「Grace」のミュージックビデオはインドで撮影され、彼がインド文化への深いインスピレーションを受け、リスペクトを示していることが伺える。彼の哲学的かつ深く人間的な音楽へのアプローチは、全てのパフォーマンスを愛、慈悲、絆を祝福するスピリチュアルな体験のように感じられる。(後略)


一時期、藤井風の歌詞に、サイババの思想からの影響が見られるということが、日本で否定的に報じられたことがあった。
日本では「うさんくさい」と捉えられがちなスピリチュアル志向だが、ビートルズの例を出すまでもなく、海外ではオルタナティブな精神性はポピュラー音楽の一要素として長く存在している。
またインドの音楽文化には、神への思慕を男女の恋愛感情に例えて歌う伝統があり、つまり欧米よりもさらに古い時代から、スピリチュアルな要素がポップカルチャー的に生活に息づいていた国だと考えることもできそうだ。


また昨今のインドでは、「生きがい」や「一期一会」のような日本の伝統的精神性への興味も高まっている(スペイン人作家エクトル・ガルシアの著書による影響が大きい)。
そうした文化的背景のなかで、藤井風のスピリチュアリティがインド文化の影響を受けているというのは興味を惹くポイントだろう。
ところ変わればアーティストのどの部分が魅力になりうるかも大きく変わるというのがじつに面白いと感じた次第である


インド系のアーティストでは/インド系イギリス人のガラージ、ダブステップDJのSammy Virjiがもっと大きい扱いだが、音楽性にインドの要素のない彼は、日本人から見たスティーヴ・アオキみたいな感じというか、「同じルーツであることが誇らしい洋楽枠」といったところだろう。

純粋な国内組ではBloodywoodがもっとも扱いが大きい。
フジロックをはじめ数々の海外のフェスで話題をさらってきた彼らの実力と人気を考えれば納得だ。
昨今は映画音楽でも活躍しているエレクトロニカ・アーティストのOAFF x Savera、UKのタブラ奏者/エレクトロニカ融合の第一人者でもあるKarsh Kale(やはり映画音楽もいくつか手掛けている)から、チェンナイのオルタナティブポップ・アーティストSunflower Tape Machine、ナガランドのロックバンドTrance Effectまで、インド系アーティストも幅広い地域、ジャンルから選出されていて、かなり見応えがありそうだ。



Rolling Loud Indiaのラインナップも非常に興味深い。
RollingLoudIndiaLineup


2日間で2人ずつヘッドライナー扱いになっているのは、UKドリルという枠を超えてイギリスを代表する存在であるCentral Cee, 2010年代を象徴するUSラッパーのひとりWiz Khalifa、ヒューストン出身のDon Toliver.
ここまではいいとして、インドからパンジャービー・ラッパーのKaran Aujlaの名前がここに入っていることにびっくりした!
もちろん彼はインド国内のみならず、欧米やオセアニアでも大規模会場でのツアーを成功させる「国際的スター」だが、彼の国際的な人気は世界中に散らばったパンジャーブ人をはじめとする南アジア系住民によって支えられている面も否定できない。
「ベンガルール生まれテキサス育ちのケーララ人」で昨年"BIg Dawgs"を世界的にヒットさせたHanumankindを含めて、セカンドヘッドライナーまでのアーティストが全て「英語ラップ」のアーティストであることを考えると、いくら大スターだとはいっても、パンジャービー・ラップの彼がヘッドライナーとして扱われているのは意外な気がする。
昨年末のムンバイ滞在時にオージュラのコンサートを見に行ったが、客層はUSのヒップホップを聴いているようなファンとは異なり、インド国内(あるいは在外インド系を含む)のヒップホップやポップスを聴いている層が多かった印象だ。

パンジャービー系ラッパーは「インド系社会でのみヒップホップとして扱われる」という不思議な位置付けのジャンルで、たとえば香港発のアジア全域のヒップホップを扱うメディア「LiFTED ASIA」では取り上げられていなかったりもする。
(ちなみにパンジャービー・ラッパーでは初日にGrinder Gillも出演)
Yo Yo Honey SinghやBadshahのようなメインストリーム系パンジャービー・ラップではなく、カナダを拠点に逆輸入での人気を獲得したKaran Aujlaがここにラインナップされているというのがまた興味深いところではある。



他にインド系のアーティストでは、パンジャーブ系カナダ人だが、ローカル色を出さずに完全に北米ヒップホップシーンに溶け込んでいるNavは別にして、マラーティー・ラップのSambata、チェンナイのArivu、北東部からフィメール・ラッパーのMeba OfiliaとReble、タミル系シンガポール人のYung Rajaなど、幅広く選ばれている。

気になるのは、ラインナップされているのがインド系ラッパーとUS、UK、カナダのラッパーのみであるということ。
同じRolling Loudでも、タイで開催されているRolling Loud Thailandでは日本や韓国、インドなど、他のアジア諸国のラッパーが出演していたが、インドでは自国と英語圏のラッパーのみ。
このあたりは、ヒップホップファンがどの地域の音楽を好んで聴いているかと関係しているのだろう。

アジア全域のヒップホップが盛り上がってほしい一方で、リリックという要素が非常に大きいラップでは、言語の壁がそのまま人気の限界にもなりうる。
この点をヒップホップというジャンルがどう乗り越えてゆけるのか、あるいは乗り越えられないのか。

もうひとつ気になるのが、Rolling Loud Indiaの出演者が全体として非常に「新しい」ということ。
5年~10年前にインドのラッパーのインタビューを読むと、Eminemや50Centや2PacやNasといったラッパーの名前が挙がっていた印象が強いが、今回のラインナップは海外勢でも軒並み2015年以降の人気アーティストのみで組み上げられている。
いちばんキャリアが長いのが2010年ごろから活躍しているWiz Khalifaか。
「イマのヒップホップ」に特化しているという点では、YzerrのForce Festivalに近い。

インド国内のアーティストでは、前述のHanumankindを別枠として考えれば、DIVINEが特別扱いで最後に大きくクレジットされているが、彼もラップのスタイル的には古い世代になる。
レジェンド枠ということなのだろうか。
今回のラインナップに合いそうなのは、インド国内だとSeedhe Maut、MC STAN、Dhanji、あるいはポップなTsumyokiとかChaar Diwaariあたりだと個人的には思う。
他にも例えば…といろいろ言いたくなってしまうが、脳内フェスのラインナップを考え始めるときりがないのでやめておく。

集客や盛り上がりなど、どのような雰囲気になるのだろうか。
できれば現地で体験してみたいんだけどなあ。

ここにきて、インドではNH7 WeekenderとかVH1 Supersonic、Magnetic Fieldsのようなもともとあった国内資本のフェスは実質的に休止中?で、LollapaloozaやRolling Loudといったアメリカ発祥のフェスが大規模に行われるという状況になってきた。
それだけエンタメの本場であるアメリカがインドの市場に注目しているということでもあるのだろうが、今後、インドのフェス事情はどうなってゆくのだろうか。


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