2025年03月
2025年03月02日
インドのサイケデリック・ミュージック特集(パンジャーブ&タミル・ヒップホップ編)
久しぶりにブログの記事を書く。
ありがたいことに、いくつかのところからまとまった量を書く話をいただいていて、すっかり母屋であるこのブログを留守にしてしまった。
久しぶりに書くのがドラッグかよ、と思わなくもないが、まあ読んでみてください。
今さらいうまでもなく、ロックやヒップホップやレゲエや電子音楽といった音楽ジャンルの誕生と発展には、ドラッグが大きく関わっている。
マリファナだったりLSDだったりMDMAだったりコデインだったり、ジャンルや時代によって影響を与えたドラッグはさまざまだが、キマッた状態で聴くとより楽しめるような音楽や、ドラッグによる意識の変化を追体験できるような音楽を追求した結果、ソバーな状態で聴いても気持ちいいサウンドが生まれた、というようなことは、ポップミュージックの歴史の中で頻繁に起きている。
インドという国は昔からそういうサイケデリックな音楽と関連づけられがちだった。
その理由のひとつは、60年代のヒッピームーブメントが物質主義的な西洋文明に対するアンチテーゼとしてインドの精神文化(ヨガとか)に接近したことだ。
ヒッピームーブメント時代のインドへの憧れは、瞑想によってドラッグと同じようなハイな状態になれるとか、逆にドラッグによって長年の精神修行によって到達する境地に簡単にたどりつけるとかいう罰当たりな論理に基づいたものだった。
ゴアトランスの時代には、例えばマントラがサンプリングされていたり、シヴァ神のモチーフが使われていたりと、今で言うところの「文化の盗用」っぽい例がたくさんあり、これもまた、あまり褒められたものではなかったのである。
こういった現象を快く思っていないインド人がたくさんいる一方で、こうした欧米的なムチャクチャなインドの解釈を「おお、クールじゃん」と捉えるインド人もいた。
今ではインドで行われるトランスパーティーのDJもオーディエンスも軒並みインド人だし(ゴアトランスの時代は海外のDJのプレイに海外から来たトラベラーたちが集まっていて、なんか植民地みたいだった)、インド人たちが作り出すインド風のトランス音楽は、それはそれで面白かったりもする。
最近注目しているのは、ヒップホップにおいてもサイケデリックな要素とインド的な表現様式を融合しているアーティストがここに来て増えてきているということ。
例えばこのパンジャーブのJassie Gilというシンガー/ラッパーの"Lor Lor"という曲。
Jassie Gill "Lor Lor"
彼は曲や歌詞を書かないタイプのシンガーみたいで、この曲ではNayaabという名前が作詞・作曲としてクレジットされている。
この曲、メロディー自体はよくあるタイプのパンジャーブ歌謡なのだが、派手な音は使わずに、ちょっとしたヴォーカルの処理とか音使いでドラッギーな感じを出しているところにセンスを感じる。
こういうアンチモラル的なタイプのパンジャービーの曲で、ギャングの要素がいっさいなく、サイケデリックだけで成立している曲およびミュージックビデオというのはかなり珍しいんじゃないだろうか。
再生回数は2025年2月●日現在(公開後●日間)で185万回。
このスタイルがかなり受け入れられているというのにも驚かされる。
次は南インドのタミルナードゥ州から。
Dacaltyというラッパーの"Sikko Mode"という曲。
Dacalty "Sikko Mode"
このポップな悪夢って感じのミュージックビデオ、ブリブリの低音で細部にまで気の利いたビート、ちゃんとタミルなパーカッション、全ての要素が最高。スキルフルだけど地声っぽいラップもすごく今っぽい。
彼が去年(2024年)リリースしたアルバムのタイトルがまた最高で、"Moshpit Masala"という。
こういうの、正確なジャンル名を何というのか知らないが、進化系トラップというか、ダブステップ寄りというか、まさにライブでモッシュが起きるような激しめのヒップホップをいかにもタミルなサウンドと融合している。
サイケからはちょっと離れるが、タミルらしい3連のビートを導入したこの曲なんて、こういうアレンジを思いつく才能に惚れ惚れしてしまう。
曲によってはぜんぜんタミルっぽくないこともあるみたいだが、それはそれで、どこの国でも存在しうる今の時代のヒップホップって感じでイイ。
次に紹介するVengayoというラッパーは、まだこの1曲しかリリースしておらず、他にあまり情報はないのだけど、こちらもどうやらタミルの人っぽい。
この蛍光ピンクと映像と音声のエフェクト!
現実がちょっとズレて変な鮮やかさがある感じがシュールでありつつも妙にリアルだ。
サムネイルと後半の顔をコラージュした部分が結果的にチバユーキみたいな感じになっているのもまた味わい深い。
ドラッグの是非はいったん置いておいて、しびれるのは、今回紹介した彼らが自身のルーツに忠実なインド的な表現とサイケデリアを表現しとうとした結果、かなりオリジナルなものを作り出しているということだ。
この方面は探したらまだまだ面白いものが出てきそうなので、また何か見つけたらブログかXで紹介してみたいと思います。
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