2024年01月
2024年01月30日
Rolling Stone Indiaが選んだ2023年インドのいろいろ!
気がついたらもう1月も終わりに差し掛かっている!
12月頃によく「来年のことを話すと鬼が笑う」とか言うが、この時期に去年の話をすると鬼はどうなるんだろうか。
泣くとか呆れるとか?
おととしまでRolling Stone India誌が選んだインドのベストアルバム、ベストシングル、ベストミュージックビデオをそれぞれ別々の記事で10選ずつ紹介していたけど、今年(ていうか去年)はそこまで詳細に書くのはやめる。
この企画を5年くらい続けた結果、選ばれる作品の傾向もなんとなく分かってきてしまったので(後述)、今回は、これぞという作品だけをピックアップすることにします。
まずは2023年のミュージックビデオTop10から。
(元記事のリンクはこちらからどうぞ)
このブログで取り上げていない作品のなかから面白かったものを挙げると、まずはこの曲。
Anchit Magee "This Is Our Life"
アナログビデオ風のノイズ混じりの映像は、ここ数年のインドの(ていうか世界中の?)ミュージックビデオの定番で、そこにレトロかつチープなSF風のストーリーを合わせているのが面白い。
曲調はいかにもRolling Stone India好みの品のいいインディーズ系ギターポップ。
デリー近郊の新興都市ノイダのシンガーソングライターAnchit Mageeは、John MayerやPrateek Kuhadの影響を受けているそうで、Prateekと同様に英語とヒンディー語で楽曲をリリースしている。
この"This is Our Life"は、彼の曲のなかではかなりロック色の強い楽曲だ。
Irfana “Sheila Silk”
タミルナードゥ州コダイカナル出身の女性ラッパー。
Raja Kumariのスタイルをさらにセクシーな方向に推し進めたような、インドらしさとヒップホップを融合した衣装がかっこいい。
(地元言語ではない)英語のラップで、ここまでセクシーさに寄せた作品がインドでどう受け入れられるのか気になるところだが、2023年5月23日にアップされたこのミュージックビデオは、2024年1月30日現在でまだ9100再生ほど。
以前から指摘している通り、インドのインディーズシーンにはこういった「洋楽志向」なアーティストが結構いるが、インドのリスナーの多くは母語の曲を好んで聴いている。(彼女が活動しているタミルナードゥ州でいえばタミル語)
もちろん英語のポップスが好きなリスナーはインドにもそれなりにいるが、彼らは国内のアーティストにはあまり注目せず、本場であるアメリカやイギリスの音楽を好む傾向が強い。
結果的に、英語で歌い、洋楽的なスタイルで活動しているインドのアーティストは、ちょうど嗜好のエアポケットに入ってしまう形になる。
IrfanaはDef Jam Indiaと契約しており、タミルナードゥのみならずインド全土のヒップホップファンに注目されるチャンスは手に入れているわけだが、多士済々のインドのヒップホップシーンで、今後人気ラッパーの座を手に入れることができるだろうか。
KING “Crown”
KINGはMTV Indiaのヒップホップ番組'Hustle'出身のラッパー。
彼のスタイルであるキャッチーな歌メロと、エレクトロニックやロックの要素も入った音楽性は、世界的なヒップホップの現在地と呼応している。
きちんとインドらしさを残しながらも、自由自在に変化するフロウもビートもとてもかっこいい。
Chaar Diwaari同様に新しい時代のインドのヒップホップシーンを象徴するラッパーと言えそうだ。
『ガリーボーイ』公開から5年。
インドのヒップホップシーンはどんどん新しくなってきている。
そういえば、Karan KanchanがプロデュースしたDIVINEの"Baazigar"もこのブログでは取り上げていなかった。
DIVINE "Baazigar feat. Armani White"
イントロにサンプリングされているのは1993年のシャー・ルク・カーン主演のヒンディー語映画"Baazigar"のテーマ曲。
時代を感じさせる古いスタイルのボリウッドソング(原曲)をここまでかっこよく仕上げる手腕が冴えている。
Karan Kanchan曰く、サンプリングの権利取得にかなり時間と労力がかかったとのこと。
ヒップホップの文脈でインドの人々のソウルクラシックである往年の映画音楽がたくさんサンプリングされるようになったら面白いと思うが、現状では許諾面でのハードルがかなり高いようだ。
後半のヴァースではアメリカの中堅ラッパーArmani Whiteを起用。
海外を拠点としていない、インド生まれでインドで活動しているラッパーが「本場」のラッパーをフィーチャーする例は珍しい。
ムンバイの、いやインドのヒップホップ界の帝王DIVINEらしい演出と言えるだろう。
ミュージックビデオのTop10では、Chaar DiwaariとGravityが共演した"Violence"とKomorebiが軽刈田選出のTop10と重複していた。
続いてはアルバム。
アルバムに関しては例年同様、かなりマニアックな作品や時代性をまったく無視した作品が結構入っていて、なかなか面白いセレクトになっている。
ランキング全体はこちらのリンクをご覧いただくとして、いくつか気になった作品を紹介する。
妙にくせになる作品が、ランキング6位のDhanji "RUAB".
なんとも形容しがたい音楽性で、無理やり形容するならエクスペリメンタルで、ローファイで、ファンキーかつジャジーなラップということになるだろうか。
ちょっと語りっぽいヒンディー語、グジャラーティー語、英語混じりのラップも独特で唯一無二。
あらゆる方面に成長と拡張を続けるインドのヒップホップシーンが生み出した新しい傑作のひとつだ。
Dhanji "1 Khabri / 2 Numbari"
Dhanjiはアーメダーバード出身のラッパー。
アーメダーバードのヒップホップシーンはまったくチェックしていなかったが、ポストロックのAswekeepsearchingやセンスの良いファンクポップを作るChirag Todiなど、才能あふれるアーティストを輩出しているこの街のシーンはいちどきちんと掘ってみたい。
この楽曲にはラクノウのCircle Tone、デリーのEBEという2人のプロデューサーがクレジットされており、他にもアルバムにはSeedhe MautのメンバーやテクノアーティストのBlu Atticが参加している。
つい耳が離せなくなってしまったのが、Jamna Paarというデリーの電子音楽デュオのアルバム"Strangers from Past Life".
タイトルの通り、テクノ、ドラムンベース、エレクトロニカといった既存のさまざまな電子音楽とインドの伝統音楽が融合したスタイルで、次々と変わってゆく音像が聴き手を飽きさせない。
いろいろなジャンルが入っているものの、全体を通してポップに仕上がっているのも良い。
Jamna Paar, Dhruv Bedi "Samara"
メンバーの一人はベテランハードロックバンドParikramaのベーシスト。
このようにまったく別のジャンルで活躍しているアーティストはインドでは結構いるのだが、日本を含めた他の国だとあんまり聞かないような気がする。
電子音楽のアルバムとしては、3位にランクインしたムンバイのSandunesの"The Ground Beneath Her Feet"もとても良い作品だった。
BonoboやPretty Lightsとのツアーも実現している彼女のことはいつかちゃんと紹介したい。
例年のこのアルバムランキングの特徴として、国籍も時代も関係ないような音楽が選ばれるということが挙げられるのだが、今回はネパール国境の街シリグリーのレトロウェイヴ/シンセウェイヴアーティストDreamhourの"Now That We are Here"と、ムンバイのブルータルデスメタルバンドGutslitの"Carnal"が選出されている。
前者から1曲紹介。
Dreamhour "It's a Song"
Dreamhourはいつもレトロフューチャー感あふれるアートワークを完璧に作り込んでいるので、こう言ってはなんだがこんなに垢抜けない兄ちゃんたちが作っているとは思わなかった。
アルバムジャケットを見ながら聴くとまったく印象が違うのも一興。
ちなみにアルバム部門で1位に選出されていたのはSeedhe Mautのミックステープ。
確かにすごいボリュームの力作だったが、個人的には前作"Nayaab"、前々作"न"(Na) のほうがインパクトが強かったので、今作はブログで取り上げなかった。
結構面白い作品が多かったアルバムに比べて、シングル部門はいわゆる洋楽ポップス的に手堅く作った曲がまとまっていて、例年の傾向ながらあんまり面白くはなかった。
(かと思えばメタル/ハードコア的なBhauanak Mautが選出されていたり、よく分からない選曲でもある)
詳細はこちらのリンクからどうぞ。
シングル部門で気になったのはこの辺の曲。
Meera, Raag Sethi “Mango Milkshake”
Sanjeeta Bhattacharya, Prabhtoj Singh “X Marks the Spot”
Tejas "Some Kind of Nothing"
どれもインドのインディーズのシンガーソングライターのレベルの高さを感じさせる曲だし、都市部のミドルクラスの若者が主な読者層であろうRolling Stone Indiaという媒体がこういうのを好むのもよく分かるのだが、前述の通り、インドではこの手の楽曲は需要に対して完全に供給過剰状態にある。
(シングル部門で1位だったデリーのシンガーDot.の"Indigo"という曲も同様の路線)
音楽の質とはまた別の問題として、この路線アーティストたちは、今後インドで、あるいは海外で、どう受容されてゆくのだろうか。
世界中のちょっとセンスの良いお店で流れていても全く違和感がないクオリティの楽曲ばかりだが、ここからさらにブレイクするにはさらなる個性が必要なような気がする。
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