2023年07月
2023年07月21日
今年のフジロックで来日するインドのバンドJATAYUを紹介! メンバーへのインタビュー
先月インドのヘヴィメタルバンドBloodywoodが大盛況の単独来日公演を成し遂げたが、彼らがここ日本で大きな注目を集めたきっかけは言うまでもなく昨年のフジロックフェスティバルだった。
あれから1年。
Foo FightersやLizzoといった大物アーティストの影に隠れてあまり話題になっていないが、今年のフジロックにもインドのバンドが出演する。
2日目の7月29日にオーガニック/ジャムバンド/ワールドミュージックなどの色彩が強いField of Heavenのステージに3番手として出演するJATAYUである。
JATAYU "Sundowner By The Beach"
インドの大叙事詩ラーマーヤナに登場する鳥の王からバンド名をとったJATAYUは、インド南部タミルナードゥ州チェンナイ出身のインストゥルメンタルバンド。
メンバーは、ギターとカンジーラ/ムリダンガム(後2つはどちらも南インドの伝統的な打楽器)を演奏するShylu Ravindran, ギターとアレンジを手がけるSahib Singh, ベースのKashyap Jaishankar, ドラムス担当で、ときに南インドのカルナーティック古典声楽も披露するManu Krishnanの4人で構成されている。
彼らの音楽は、南インドの古典音楽であるカルナーティック音楽を大胆に導入したギター主体のインストゥルメンタルロックで、一般的にはジャズロックバンドと紹介されることが多いようだ。
確かにジャズっぽい要素もあるし、カルナーティック由来の複雑なリズムはプログレッシブロック的でもあるが、柔らかくて芯のあるギターサウンドとリラックスしたグルーヴは、Steve Kimockのようなギター主体のジャムバンドのようにも感じられる。
JATAYU "Salad Days"
フジロックでは彼らの音楽を初めて聴くオーディエンスも多いと思うが、あたたかみのあるギターと人懐っこいグルーヴに、すぐに体を揺らしたくなることだろう。
じつは彼らは昨年9月に関西地方の4か所での来日公演を行なっていて、日本人ピアニスト矢吹卓との共演も果たしている。
JATAYU "No Visa Needed (feat Taku Yabuki)"
彼らの独特の音楽はどこから生まれたのか?
来日公演やフジロックに出演することになった経緯は?
まだまだ謎が多い彼らにインタビューを申し込んだところ、ギターとアレンジを手がけるSahibから二つ返事で快諾の回答があった。
というわけで、フジロックの隠れた目玉アーティスト、JATAYUに、音楽のこと、地元の音楽シーンのこと、フジロック出演のきっかけなど、たっぷりと聞いてみました。
ーまず、バンドについて紹介してもらえますか?
「JATAYUはShylu(ギター/カンジーラ/ムリダンガム)と僕のベッドルーム・プロジェクトとして始まった。2017年に今のラインナップになるまでに、いろいろな変化を経てきたよ。
バンドメンバーは、リードギターのShylu Ravindran、リズムギターのSahib Singh、ベースのKashyap Jaishankar、ドラムのManukrishnan Uだ。」
ーとてもユニークな音楽性ですが、どんなミュージシャンやジャンルから影響を受けたのでしょうか?
ジャズやカルナーティック音楽はもちろん、Grateful Deadのようなジャムバンドやトランスの影響を感じる部分もあるように感じます。
「JATAYUの音楽は、メンバーの多様な背景や音楽的経験の影響が、魅力的に融合したものだと言える。Shyluはカルナーティック音楽に深く根ざした家族の出身で、Mahavishnu Orchestra, John Scofield, そして伝説的なU Shrinivas(カルナーティック音楽のマンドリン奏者)からインスピレーションを受けている。
彼のギターはカルナーティックの深遠さとモダンジャズの要素のユニークな融合を聴かせてくれる。
Mark Knopfler, Red Hot Chili Peppers, Tom Mischに影響を受けた僕(Sahib)は、ファンクやロックやモダンなインディー音楽のスタイルを融合して、ギターにダイナミックでエネルギッシュなアプローチをもたらしている。
ベースのKashyapの音楽的影響にはThe Beatles, Hyatus Kaiyote、そしてRobert Glasperの革新的なジャズのスタイルが含まれている。彼のグルーヴィーなベースラインは、JATAYUの音楽にスムースでメロディックな感触を加えているね。
Manukrishnanの音楽経歴には、カルナーティックのヴォーカルとムリダンガムの鍛錬が含まれていて、最終的にドラマーになったんだ。彼は、Meshuggahのような偉大なプログレッシブメタルバンドや、ムリダンガム奏者のPalghat TS Mani Iyer, そしてアヴァンギャルド・ジャズのPeter Brotzmannから影響を受けているよ。
こうした個人的な影響が合わさって、ジャンルやスタイルの調和がとれた融合が達成されているんだ。」
JATAYUを育んだチェンナイは、古典音楽の都としても知られているが、彼らのようなインディー音楽のシーンはどのようになっているのだろうか。
ーみなさんの地元であるチェンナイの音楽シーンはどんな感じですか?
F16sやSkratのようなバンドや、Arivuのようなラッパーなど、才能あるアーティストがいるようですが。
「チェンナイのインディペンデント音楽シーンは活気に満ちていて、多くの才能あるアーティストがオリジナリティのあるサウンドで活動しているよ。でも、僕らが直面している課題のひとつは、自分たちの音楽をプロモーションしたり、演奏したりする場が限られているってことなんだ。ムンバイやベンガルール、ハイデラバードみたいなコンサート会場や演奏機会の多い都市に行くこともよくある。
こういった困難な状況だけど、チェンナイのインディー音楽コミュニティの絆は固くて、アーティストたちは互いに支え合って、協力し合っている。
僕とマヌ(ドラムのManukrishnan)は、ArivuとCasteless Collectiveというバンドでコラボレーションしているし、ManuはF16s(4人編成だがドラマーはいない)のアルバムでドラムを披露しているよ。」
続いて、彼らの音楽を特徴づけている南インドの古典であるカルナーティック音楽について聞いてみた。
ーロックとカルナーティックを融合したミュージシャンといえば、元MotherjaneのBaiju Dharmajanがいますね。カルナーティック・プログレッシブ・ロックのAgamも良いバンドです。
カルナーティックとロックの融合にもいろいろなスタイルがあるようですが、インドには他にもカルナーティックとロックを融合したバンドはいるのでしょうか?
「Baiju DharmajanとAgamはロックとカルナーティック音楽の融合に影響を与えた。彼らのユニークなスタイルは、このジャンルの発展に貢献しているね。彼らの他にも、Karnatriixや、Project Mishramのようなアーティストも、カルナーティックとロックを独自のアプローチで融合している。
他に注目すべき存在としては、ヴォーカリストのShankar Mahadevanと古典楽器ヴィーナの奏者Rajesh Vaidhyaもカルナーティック・フュージョンを実践しているミュージシャンだ。」
JATAYUの音楽が気に入った人は、リンク先からぜひそれぞれのアーティストの音楽を聴いてみてほしい。
めくるめくカルナーティック・フュージョンの世界が広がっている。
ちなみにSahibが名前を挙げたShankar Mahadevanはボリウッド映画の作曲家トリオShankar-Ehsaan-Loyの一人としても知られている。
古典音楽からインドのメインストリーム・ポップスである映画音楽、そして実験的なフュージョン(インドでは、古典音楽と西洋音楽や現代音楽を融合したものをこう呼ぶ)をひとりのアーティストの中で共存しているというのもインドならではである。
ーカルナーティック音楽を聴いたことがない人に紹介するとしたら、どのように紹介しますか?
おすすめのミュージシャンがいたら教えてください。
「カルナーティック音楽を聴いたことがない人に紹介するなら、M.S. Subbulakshmi(声楽), D.K. Pattammal(声楽), K.V. Narayanaswamy(声楽), M.D. Ramanathan(声楽), Lalgudi Jayaraman(ヴァイオリン)、Palghat T.S. Mani Iyer(ムリダンガム)といった伝説的なアーティストの作品を探求することをお勧めするよ。
こうしたアイコニックな音楽家たちは、カルナーティック音楽の伝統に多大な貢献をしてきたんだ。現代の音楽シーンでも、T.M. Krishna(声楽)がソウルフルな演奏でカルナーティック音楽の真髄を見事に表現している。彼らの音楽は、カルナーティックの豊かな伝統と美しさを垣間見せてくれるはずだよ」
先ほどのフュージョン音楽と比べると、ガチの古典音楽なのでとっつきにくいところもあるかもしれないが、彼らが歌い奏でる音ひとつひとつの深みや、技巧に満ちたリズムとフレーズが織りなす美しさをぜひ味わってみてほしい。
ーすでに2022年に来日公演をしていますが、これはどういった経緯で決まったことなのでしょうか?
「COVID-19によるロックダウンで、最初は打ちひしがれていたんだけど、僕らは自分たちの音楽を国境を超えて広めてみようと決意した。僕らは積極的に機会を探していて、日本の関西ミュージックカンファレンス(2009年から続く、日本と海外のミュージシャンをつなぐための企画)を見つけたときは興奮したよ。
僕らはそこに応募して、フェスティバルに参加することが決まったんだ。僕らは日本でのパフォーマンスに合わせて、タイでのツアーも計画した。ちょうどそのときに、シンガポールからASEAN Music Showcase Festivalへの出演オファーを受けたんだよ。このイベントへの参加を通じて築いた人々とのつながりが、僕らに新しい扉を開いてくれた。」
ー"No Visa Needed"で共演している矢吹卓と知り合ったきっかけは?
「彼とはオンラインで知り合って、プログレッシブ・ジャズが大好きだっていう共通点から、この曲でコラボレーションすることを決めた。彼とこの曲を作るのはとても簡単だったから、"No Visa Needed"と名付けた。来週、東京で彼と初めて直接会う予定なんだ。フジロックでこの曲を初披露できることを楽しみにしているよ。
ーフジロックへの出演はどのように決まったのでしょうか?
「フジロックのオーガナイザーが、シンガポールで開催されたASEAN Music Showcase Festivalでのパフォーマンスを見て、僕らの音楽を見つけてくれたのがきっかけだった。僕らは自分たちの音楽をより多くのオーディエンスと共有して、世界の音楽シーンのアイコニックなイベントに参加できるチャンスだと思った。フジロック出演を決めたのは、新しいオーディエンスを獲得して、日本の活気ある音楽カルチャーを体験したいっていう僕らの情熱によるものだよ」
ーフジロックでは、昨年デリーのメタルバンドのBloodywoodが大人気を博しました。彼らについてはどう思っていますか?
「インドで彼らの衝撃的なライブパフォーマンスを目撃する機会があった。彼らのエネルギッシュなショーは見るべきだね。彼らのようなインドのインディーズ・バンドが世界で旋風を巻き起こしていることに、僕らは興奮している。インドの音楽シーンが成長して知られてゆく過程を目の当たりにできるのは刺激的だし、僕らもこのエキサイティングなシーンの一部でいられることを光栄に思っている。」
ーあなた方のライブについて伺います。即興演奏の要素は多いのでしょうか?
スタジオバージョンとは異なるものになるのでしょうか?
「スタジオ録音では、それぞれの曲のエッセンスと形式をとらえて、まとまりのある形で表現することを目指している。でもライブパフォーマンスでは、曲の全体像はそのままに、メンバーそれぞれの表現や、曲を進化させる余地を作るようにしているんだ。即興的な部分やソロを取り入れて、演奏に個性的なフレイバーを加えているよ。
さらに、会場の雰囲気や環境も僕らのセットのダイナミズムに大きな影響を与える。僕らはテンポやエネルギーの出し方を調整して、さまざまな雰囲気を作ってオーディエンスにいろんな体験をさせるんだ」
ーフジロックで見ることを楽しみにしているアーティストはいますか?
「フジロックの信じられないようなラインナップを見て興奮は高まる一方だよ。Cory WongやCory Henryみたいな、僕らのバンド全員が尊敬している有名ミュージシャンのパフォーマンスを心待ちにしている。
Foo Fighters, GoGo Penguin, Black Midi, Ginger Root, 他にも数えきれないほどの才能あるアーティストたちの魅力的なパフォーマンスがこのフェスを彩ることに感激しているよ。多様なジャンルと素晴らしい才能が見られるフジロックは、参加した人全員にとって忘れられない音楽の旅になるだろうね」
ーJATAYUが出演するField of Heavenはフジロックで最も美しいステージだと思います。
フジロックであなた方のライブを見る観客に何かメッセージをください。
「Field of Heavenの音楽ファンのみんな、この素晴らしいフェスティバルに参加できて光栄です。才能豊かな日本人アーティストの矢吹卓とのコラボレーション"No Visa Needed"を含む特別なパフォーマンスができることにワクワクしている。みんなと音楽を分かち合うのが待ちきれないよ。See you soon!」
現在彼らは来日前に台湾をツアー中。
それにもかかわらず、全ての質問にたっぷりと丁寧に答えてくれた。
彼らのファンキーなグルーヴに乗せたカルナーティックギターサウンドが、Field of Heavenのステージから苗場の大空に響き渡ったら、最高に気持ちいいことだろう。
去年のBloodywood同様に、JATAYUもインドのインディペンデント音楽シーンの素晴らしさとユニークさを、日本のオーディエンスに存分に知らしめてくれるに違いない。
個人的にも、彼らの柔らかいグルーヴとGoGo Penguinの機械的で硬質なグルーヴが続く2日目のヘヴンは、今年のフジロックの見どころのひとつだと思う。
フジロックのオーディエンスには、まだ見ぬ素晴らしい音楽を体験することを楽しみにしている人が多いことと思うが、それならばこのJATAYUは絶対に見逃せないバンドである。
JATAYU "Marugelara"
追記:
カルナーティック音楽の魅力と世界観を味わうには、ムリダンガム奏者を主人公としたタミル語映画"Sarvam Thaala Mayam"もおすすめだが、今のところ日本語字幕版は配信プラットフォームに入っていないようなので、本文中では触れなかった。
同作は、2018年の東京国際映画祭で『世界はリズムで満ちている』というタイトルで公開されたのち、『響け!情熱のムリダンガム』というタイトルで劇場公開されている。
機会があったら是非見てみてほしい。
--------------------------------------
「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」
更新情報や小ネタはTwitter, Facebookで!
Twitter:
https://twitter.com/Calcutta_Bombay
Facebook:
https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり
更新情報や小ネタはTwitter, Facebookで!
Twitter:
https://twitter.com/Calcutta_Bombay
Facebook:
https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり
2023年07月18日
ベンガル語ヒップホップがどんどんかっこよくなっている! バングラデシュとコルカタのラッパー特集 2023年度版
インディーズ系音楽を扱うインドのメディアをちょくちょくチェックしているのだが、そうしたメディアに掲載されるのは、デリーやムンバイといったヒンディー語圏のアーティストや楽曲が多く、東インドのベンガル語圏(コルカタあたり)はめったに取り上げられない。
(あと南インドの言語で歌うアーティストの情報もあまり掲載されない傾向がある。インドの大まかな言語分布についてはこの地図を見てみてください)
そんなわけで、コルカタあたりのベンガル語のラップについても、こちらから情報を取りにいかないかぎり、なかなかチェックできないわけだが、以前のベンガリラップ特集からはや3年。
ここに来て、ちょっと垢抜けなかったベンガル語ラップが、かなりかっこよくなっていることに気がついた。
しかも、そのかっこよさの質は、例えばインドの言語の最大勢力であるヒンディー語ラップとは、まったく異なる方向性のものなのだ。
比較対象としたヒンディー語ラップに関して言えば、2010年代中頃にストリートラップのムーブメントが発生し、そのシーンは2019年のボリウッド初のヒップホップ映画『ガリーボーイ』以降、爆発的な成長を見せている。
20年遅れの90年代USヒップホップ的なスタイルで始まったヒンディー語ストリートラップは、10年足らずの間のトラップやオートチューンやローファイなどの要素を取り入れ、世界のヒップホップのメインストリームに3倍速で追いついている。
今のヒンディー語ラップシーンを代表するMC STΔNやSeedhe Mautを聴けば、彼らがこの時代の世界標準的なサウンドを鳴らしていることが分かるはずだ。
ところが、ベンガル語ラップの発展過程はヒンディー語とは大きく異なる。
2010年代中頃に90年代USヒップホップ的なスタイルで始まったところまではヒンディー語ラップと同様だったものの、その後、積極的に新しい要素を取り入れることなく、今も90年代的なスタイルを核に持ち続けており、進化というよりも深化しているのだ。
前置きが長くなった。
さっそく最近のベンガル語ラップを紹介してみたい。
ベンガル語ラップで真っ先にチェックすべきレーベルが、コルカタのJingata Musicだ。
Jingata Musicはインドにおけるジャジー・ラップの金字塔、Cizzyの"Middle Class Panchali"などをリリースしてきた、コルカタを代表するヒップホップレーベルである。
このレーベルが、最近同じベンガル語圏である隣国バングラデシュのラッパーたちをリリースし始めているのだが、これがかなり良い。
バングラデシュといえば、Jalali Setをはじめとする90年代スタイルのラッパーを多く抱えている国だが(なんてことをチェックしているのは俺だけか…)、バングラデシュよりも少し進んだコルカタからの目線で選ばれたバングラデシュのラッパーたちは、なんだかすごくいい感じなのである。
Shonnashi x The Melodian "Gonna BE Alright"
あごひげ長めのムスリムスタイルのラッパーShonnashiと、スムースなファルセットを聴かせてくれるThe Melodianのコラボレーション。
コルカタのレーベルからのリリースだが、全てバングラデシュの首都ダッカの制作陣によって作られた楽曲のようだ。
Shonnashiのラップは、こんなふうに↓英語混じりのベンガル語(何を言っているのかは分からないが)。
ঠিক ঠাক সব will be fine / যত থাকুক সীমানা wanna cross the line
হোক ভুল its cool তাতে কার কি যায় / প্রতিদিন নোয়া feel এই মনটা চায়
90’s的なヴァイブを持ちながらも、K-Popにも近いようなポップ感覚を備えていてとても今っぽい。
ラッパーのShonnashiと楽曲を手掛けたsleekfreqは、Underrated Bangladeshというクルーに所属しているらしいが、まさにunderrated(過小評価、というより存在自体知られていないのかもしれないが)なバングラデシュのヒップホップシーンにふさわしいクルー名と言える。
Critical Mahmood "Life Goes On"
バングラデシュらしいストリート・スタイルで気を吐くのはCritical Mahmood.
ストリートのリアルを子どもたちとともに訴えるスタイルは、インドでは初期の「ガリーラップ」(ムンバイスタイルのストリートラップ)以降、あまり見かけなくなってしまったが、バングラデシュではまだまだ健在。
インドでもバングラデシュでも、経済成長の一方で、格差のしわ寄せが子どもや弱者に行ってしまう現実は今も変わらない。
このコンシャスネスはバングラデシュのラップシーンの美徳のひとつと言えるだろう。
Critical, GxP, Crown E, Lazy Panda, Shonnashi, UHR, SleekFreq "Bat Ey Ball Ey"
Critical Mahmood, GxP, Crown E, Lazy Panda, Shonnashiら、バングラデシュのラッパー総出演の"Bat Ey Ball Ey"は、どうやら国民的スポーツであるクリケットをテーマにした楽曲。
ムンバイあたりだと、どうせ知らないだろうにメジャーリーグの野球チームのシャツやキャップでキメたラッパーもちらほら見かけるが、バングラデシュでは「クリケットってあんまりヒップホップっぽくないんじゃないか」なんてことは気にせずに、ナショナルチームのユニフォームでマイクリレー!
ムンバイ的なスタイルも嫌いではないが、やっぱりこういう音楽においてはリアルであることがいちばん大事なんじゃないだろうか。
この衒いなく素直な感じ、最高じゃないですか。
ちなみにここまでに紹介した3曲のビートを手掛けたのはすべてsleekfreq.
Jingata Musicからリリースされているバングラデシュのラッパーの曲は軒並み彼が手掛けているようで、シーンのカラーを作るのって、ラップのスタイルだけじゃなくてビートメーカーの存在もかなり大きいんだなあ、というヒップホップ初心者としての感慨を新たにした次第です。
Jingata Music以外にもかっこいい曲はたくさんある。
この"NEW IN DHAKA"のミュージックビデオは、4月にリリースされたのち、現在まで2000万回近く再生されている大ヒット。
Siam Howlader, Mr. Rizan "NEW IN DHAKA"
ベンガルの伝統楽器ドタラを使ったビートと会話に近いラップのフロウは、口上っぽい感じもあるが、これはこれでかなりかっこいい。
それにしても、Jingata Musicのミュージックビデオの再生回数が軒並み10万回程度なのに比べると、この曲の人気は文字通り桁違い。
バングラデシュでは、やはりこうした伝統的な要素を持った曲のほうが受け入れられやすいのだろうか。
ここで少しベンガル語圏全体についての話をしてみたい。
バングラデシュとインドの西ベンガル州で話されているベンガル語の話者数は、統計によって差があるが2億5千万人前後いることになっている。
地域別に見ると、ベンガル語話者はインド東部に位置する西ベンガル州が9,000万人強で、バングラデシュが1.7億人弱。
インド東部にあるのに「西ベンガル州」というのは分かりにくいが、それは西ベンガル以東、つまり「東ベンガル」に相当する地域がバングラデシュという別の国になっているためだ。
イギリスから独立するときに、ヒンドゥー教徒が多い西ベンガルはインドの一部となり、ムスリムが多い東ベンガルは、東パキスタンとなったのちに、パキスタンから再び独立してバングラデシュになった。
西ベンガル州の中心都市、コルカタのラッパーたちも、ここ数年でめちゃくちゃかっこよくなってきている。
コルカタを代表するラッパーCizzyの最近のリリースでしびれたのはこの曲。
Cizzy & AayondaB "Number One Fan"
冒頭とアウトロの歌メロ以外は英語ラップだが、このビートといいコード進行といいリリックといい、超エモい。
「自分の最高のファンは自分自身。金や名誉のためじゃなく、自分自身のために音楽を作っているんだ」というメッセージは普遍的で、自身でラップしている通り("Middle Class Panchali")ミドルクラスのアーティストの創作態度としてもっとも誠実なものだろう。
ビートメーカーはAayondaB.
おそらく彼は今コルカタでもっとも勢いのあるビートメーカーで、彼が手掛けた曲はあとでまたちょっと紹介する。
話をCizzyに戻すと、最近の彼はJingata Musicからでなく、完全インディペンデント体制でリリースをしているようだが、その楽曲のクオリティはまったく落ちていない。
コルカタのラッパーShreadeaとAvikと共演したこの曲では、三人ともリラックスした雰囲気ですごい勢いのラップを吐き出している。
Cizzy, Shreader, Avik "Baad De Bhai"
地元で仲間とつるみながらラップスキルの腕比べしてる感じがすごくいい。
ベンガル語ラップはイスラーム圏であるバングラデシュのみならず、コルカタでも女の子が全然出てこないのが特徴で(ムンバイとかデリーのパンジャービー・ラッパーだと、インドで可能な限りのセクシーな女性ダンサーが出てくることがよくある)、このミュージックビデオだと橋のたもとで垢抜けない女の子が二人いっしょにわいわいやってるのがなんだかほほえましい。
この曲のオールドスクールなビートはCizzy自身によるもの。
Cizzyが最高なのは、いつも地元コルカタのことをラップしていることで、タイトルも最高な"Make Calcutta Relevent Again"はローカルなポッドキャストのテーマ曲として作られた曲らしい。
カルカッタは言うまでもなくコルカタの旧名(2001年に改称)で、訳すなら「またコルカタをいい感じにしようぜ」だろうか。
Cizzy "Make Calcutta Relevant Again"
英語とベンガル語で自在に韻をふむフロウもかっこいいが、何より粋なのは彼らが着ているチャイの柄のTシャツだ。
ここで目下コルカタのNo.1ビートメーカーと目されるAayondaBが手がけたCizzy以外の曲をいくつか紹介したい。
WhySir "Macha Public"
曲は1:15頃から。
Cizzyの"Number One Fan"とはうってかわって無骨でヘヴィなビートにWhySirのフロウがいい感じに絡む。
コルカタとはまた違う郊外を映したミュージックビデオがいい感じだ。
西ベンガルのラッパーは、デリーやムンバイと違って、ギャングスタ気取りのコワモテではなくじつに楽しそうにラップしている人が多くて、そこがまたなんか好感度が高い。
Flame C "DA VINCI"
これはまた違った感じの面白いビートの曲。
このFlame Cというラッパーもまた相当なスキルで、ヒンディー語圏だったらもっと有名になっていても良いはずだが、2年前のこの曲の再生回数はたったの1万回くらい。
ベンガル人、もっとラップを聴くべきだ。
AayondaBはYouTubeチャンネルでは地道にタイプビート(有名アーティストに似せたビート)を発表したりしているが、その再生回数は決して多くはない(数十回とか)。
ヒンディー語圏だったらもっともてはやされて良い才能だと思うが、やはりこうしたところにも都市や地域や言語の格差が出てきてしまうのが、インドの面白いところでもあり、少し悲しいところでもある。
ずいぶん長くなった。
この記事もそろそろ終わりに近づいてきたので、CizzyとAayondaBのコラボレーションをもう1曲紹介したい。
Cizzy "Good Morning, India"
ベンガル語ラップの響きも最高だが、この二人によるポップな英語ラップのエモさはちょっと尋常じゃないな。
"I REP"みたいだって言ったら言い過ぎだろうか。
コルカタをはじめとするインド各地を映した映像も最高にエモい。
それにしても、2年前にリリースされたこの曲の再生回数が3,700回以下って、ほんともっとみんなベンガルのラップを聴くべき!(耳ヲ貸スベキ)
さっきもちょっと書いたが、ベンガル語ラップのシーンは話者数のわりにまだまだ小さくて、相当かっこいい曲でも数十万回くらいしか再生されていなかったりすることが多い。
ヒンディー語でラップされてたら10倍から100倍くらい再生されてもおかしくないクオリティの曲でも、なかなか日の目を浴びない現実があるのだ。
今回はバングラデシュと西ベンガルに分けてラッパーを紹介したが、両地域のヒップホップシーンには、国境を越えた交流が存在している。
上述のようにコルカタのJingata Musicはバングラデシュのラッパーもリリースしているし、雑誌TRANSITのベンガル特殊号(TRANSIT59号 東インド・バングラデシュ 混沌と神秘のベンガルへ)に掲載されているCizzyのインタビュー(インタビュアーはU-zhaanさん)でも、彼はバングラデシュにお気に入りのラッパーがいると語っている。
実際に両地域のラッパーによるコラボレーションも行われている。
コルカタのWhySirは、佐々木美佳監督のドキュメンタリー映画『タゴール・ソングス』にも登場したダッカのラッパーNizam Rabbyと共演していて、プロデューサーはなんとCizzy!
WhySir "Shomoy" ft. Nizam Rabby
宗教の違いや経済格差など、さまざまな理由によって、共通する文化や言語を持ちながらも微妙な関係の西ベンガルとバングラデシュだが、こうしてヒップホップという新しいカルチャーによる交流が進んでいるのだとしたら、こんなに美しいことはない。
ベンガル語ラップシーンについては、またちょくちょく紹介してみたいと思います。
--------------------------------------
「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」
更新情報や小ネタはTwitter, Facebookで!
Twitter:
https://twitter.com/Calcutta_Bombay
Facebook:
https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり
更新情報や小ネタはTwitter, Facebookで!
Twitter:
https://twitter.com/Calcutta_Bombay
Facebook:
https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり
2023年07月07日
Bloodywoodロスを癒せるかもしれないインドの音楽特集!
まだ言うけど、先週のBloodywoodのライブはすごかったなあ。
バンドのパフォーマンスも素晴らしかったが、お客さんもちょっと見たことないくらいの盛り上がっていた。
その熱狂っぷりは、「激しい音楽ジャンルのライブのお約束」というレベルをはるかに超えていた。
東京公演で94ヶ所に及ぶツアーを終えた彼らは、帰国してアルバム制作に入るとのこと。
次作に期待しつつも、しばらくライブや新曲を体験できないことを嘆いているファンも多いことだろう。
というわけで、今回はBloodywoodロスを癒せるかもしれないインドの音楽特集!
まずは彼らと同じメタルバンドから。
…と言いたいのだが、結論から言うと、Bloodywoodのようなやり方でインド音楽(彼らの場合、パンジャーブの伝統音楽バングラー色が強い)とメタルを融合しているバンドは、私の知る限りでは他にはいない。
それでもインドとメタルをクールな形で融合しているバンドを紹介するとしたら、見た目の話になるが、ターバン姿のベーシストを擁するベンガルールのデスメタルバンド、Gutslitが最適なのではないかと思う。
Gutslit "Brodequin"
Bloodywoodとは全く異なり、サウンド面ではインドの要素の全くないオーセンティックなブルータルデスメタルだが、特筆すべきはその演奏力。
ドラムなんてもう人間じゃないみたいだ(もちろん褒め言葉です)。
Gutslit "The Killing Joke"
彼らはじつは小規模会場ながらも来日公演もすでに果たしている。
そのときはドイツのデスメタルバンドのStillbirthとともにフィリピン、台湾、日本と3日連続で別の国でライブを行うという過酷なスケジュールでのツアーだった。
(当初は17日間で10カ国以上の16会場を回るという無謀すぎる計画を立てていた)
Bloodywoodもふだんは完全なインディペンデント体制で自分たちでツアーを回っていると言っていたが、インドのメタルバンドは、みんなこんなふうにタフなのだろうか。
まさかとは思うが、だったらすごいことだ。
ちなみにターバン姿のベーシストGurdip Singh Narangは、なにもインドっぽさを出すためにターバンを巻いているわけではなくて(ビジュアルイメージにターバンを巻いた髑髏を使っていたりするので、狙っている部分もちょっとあるかもしれないが)、リアルなシク教徒。
つまり、彼は宗教上の戒律によってターバンを巻いているのだ。
シク教徒の男性は、その日の服装に合わせてターバンの色もコーディネートすることが多いが、彼の場合、メタルのイメージに合わせてか、いつも黒のターバンでキメている。
続いて紹介するのは、Bloodywoodとは別の方法論でインド音楽とメタルを融合しているPineapple Express.
Gutslit同様にベンガルールのバンドだ。
彼らは、複雑なリズムを持つインドの古典音楽(南インドのカルナーティック音楽)をプログレッシブメタル的に解釈して演奏しているのだが、じつを言うとそういうバンドはインドには結構いる。
Pinepple Expressがすごいのは、古典音楽とメタルを融合したところに、EDMとかラップとかもいろいろぶちこんで、唯一無二のスタイルを確立しているということだ。
もうなんだかわけが分からない。
Pinepple Express "Cloud 8.9"
Pineapple Express "Destiny"
ふつうプログレというと、クラシックとかジャズとか欧州フォークとか、率直に言うとなんかオタクっぽいジャンルをロックに導入したものを指すと思うのだが、彼らの場合はEDMやラップという、まったくプログレらしからぬジャンルを何の躊躇もなく融合してしまっているのがすごい。
気になった方は、2018年のEP"Uplift"あたりから聴いてみることをオススメする。
彼ら独特の浮遊感はBloodywoodとはまったく別物だが、インドとメタルの融合によってのみ実現されるポジティブでエネルギーに満ちた感覚は、どこか共通点があるようにも感じる。
インドっぽさとヘヴィネスを融合しているジャンルはメタルだけではない。
ニューデリーのアーティストSu Realが2016年にリリースした"Twerkistan"は、インド式ベースミュージック/トラップの大傑作!
Su Real "East West Badman Rudeboy Mash Up Ting"
アルバムには、のちにヒンディー語ポップスとEDMを融合させた独自の作風で人気を博すRitvizも参加しているのだが、今ではすっかりポップになった彼も当時はこの尖りっぷり。
Su Rean & Ritviz "Turn Up"
Su Realはこのブログで最初に取り上げたアーティストで、この"Twerkistan"はインド固有のミュージックシーンの面白さを気づかせてくれた作品でもあった。
当時の記事は今読み返すと稚拙で恥ずかしいが、このアルバムの素晴らしさは今聴いてもまったく色褪せていない。
次はかなり古いアーティストになるが、UKエイジアンによるバンド、Asian Dub Foudationの2003年のアルバム"Enemy of the Enemy"から、"Fortress Europe"を紹介したい。
2000年前後にかなり高い人気と知名度を誇っていた彼らはフジロックの常連でもあったので、知っている、見たことがあるという人も多いことだろう。
Asian Dub Foundation "Fortress Europe"
当時、ドラムンベースやレゲエにインド音楽の要素を導入して、南アジア訛りの英語で社会的かつ強烈なリリックをラップする彼らは、ものすごく新しくて、かっこよかった。
彼らはドール(Dhol. Bloodywoodも使っているパンジャーブの両面太鼓)を中心に据えた楽曲も制作していて、思い返してみれば、私がドールのグルーヴの洗礼を最初に受けたのはAsian Dub Foundationのライブだった。
Asian Dub Foundation "Dhol Rinse"(Live)
インドの伝統的なグルーヴが、最新の音楽のなかにおいてさえ効果的に機能することをイギリスから証明した彼らは、当時インド本国しか知らなかった自分にとって、ちょっと眩しすぎるくらいのかっこいい存在だった。
前回も書いた通り、Bloodywoodの楽曲やステージでは、派手なギターソロや巨大なドラムセットのようなメタルの様式美的な要素は完全に排除されていて、彼らのインド的なグルーヴをいかに最大化するかという、むしろダンスミュージック的な方法論が取られている。
そのお手本となったのは、もしかしたらこのAsian Dub Foundationのスタイルなんじゃないか、とも思っているのだけど、どうだろう。
ところで、Asian Dub Foundationはバンド名にエイジアンという言葉を使っているが、イギリスではエイジアンという単語を南アジア(インド、パキスタン、バングラデシュ等)を指して使うことが多い。
これは、かつてイギリスが支配していたこれらの地域が宗教によって対立し、結果として分離独立したことに配慮して、例えば「インド系」といった国名に依拠した呼び方を避けるためでもあるようだ。
Bloodywoodはラップメタルバンドでもあるので、ラップという観点からインドの熱気と勢いが伝わってくる音楽を挙げるとすれば、やはり2010年代中頃のヒップホップ黎明期の作品がオススメだ。
DIVINE "Yeh Mera Bombay"
このブログで何度も紹介しているが、ムンバイのヒップホップシーンの帝王DIVINEの"Yeh Mera Bombay"は、インド的なストリートラップのスタイルを確立した記念碑的な楽曲。
どんどん洗練されてきている今のインドのヒップホップも素晴らしいのだが、この時代の「地元の路地でいつもの仲間とミュージックビデオ撮ってみた」的な空気感は、やっぱり他の何ものにも代えがたい魅力がある。
Naezyと共演したこの曲は、もはやヒンディー語ラップのクラシックだ。
DIVINE feat. Naezy "Mere Gully Mein"
このへんの曲でシビれた方で映画『ガリーボーイ』をまだ見ていないという方は、今すぐ見てみてください。
『スラムドッグ$ミリオネア』の舞台としても知られるスラム街ダラヴィ出身のラッパー、MC Altafの初期作品も、2010年代なのに90年代的なノリが素晴らしい。
MC Altaf "Code Mumbai 17" ft. DRJ Sohail
今回紹介したのはムンバイのヒンディー語ラップのみだが、じつはベンガル語(インド東部のコルカタあたりのバングラデシュで話されている言語)のラップが今どんどんかっこよくなってきているのを最近見つけたので、それはまた改めて紹介したい。
というわけで、今回はBloodywoodとはまた別のやり方でインドの要素を取り入れていて、かつ熱さとカタルシスを感じられるアーティストを厳選して紹介してみました。
インドにはこんなふうに他にも素晴らしいアーティストがたくさんいるので、もっともっと世界的に評価されたらいいと思うし、日本にも来てほしい!
--------------------------------------
「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」
更新情報や小ネタはTwitter, Facebookで!
Twitter:
https://twitter.com/Calcutta_Bombay
Facebook:
https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり
更新情報や小ネタはTwitter, Facebookで!
Twitter:
https://twitter.com/Calcutta_Bombay
Facebook:
https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり
goshimasayama18 at 22:55|Permalink│Comments(0)
2023年07月04日
Bloodywoodの単独来日公演について、忘れないうちに書いておく
6月29日のBloodywood来日公演@Spotify O-EAST(渋谷)に行ってきた。
結論から言うと、彼らのライブは素晴らしいの一言だった。
彼らのオーディエンスショットのライブ映像は動画サイトやSNSでも多くの人が挙げていて見ることができるが、さすがにそれをここに貼るのは憚られるので、去年のフジロックの映像をアップしておく。
O-Eastの観客によるライブ映像は、バンド自身もインスタで紹介していたりしたので、彼らは決して無許可撮影をいやがるタイプのバンドではないのだろう。
興味がある人は各自検索していただければ、当日の熱狂ぶりが分かるはずだ。
ここまで観客が盛り上がっているライブは近年ちょっと記憶にないほどだった。
彼らのオーディエンスショットのライブ映像は動画サイトやSNSでも多くの人が挙げていて見ることができるが、さすがにそれをここに貼るのは憚られるので、去年のフジロックの映像をアップしておく。
O-Eastの観客によるライブ映像は、バンド自身もインスタで紹介していたりしたので、彼らは決して無許可撮影をいやがるタイプのバンドではないのだろう。
興味がある人は各自検索していただければ、当日の熱狂ぶりが分かるはずだ。
ここまで観客が盛り上がっているライブは近年ちょっと記憶にないほどだった。
詳細はあとで書くが、彼らは極めてプロフェッショナルで、フジロックをはじめとする数々のロックフェスを熱狂させてきたのにはきちんとした理由があることがはっきりと分かった。
本来はライブが終わった当日にでも書くべきだったのだが、慌ただしい日々が続いているので、ひとまず箇条書きで、伝えたいこと、感じたことを書いておく。
また、当日はBloodywoodメンバーの友人であるインド人ビートメーカーKaran Kanchanの厚意によってライブ後のバックステージを訪問することができ、短い時間だが貴重な話を聞くことができた。
以下には、メンバーから直接聞いた話も含まれている。
- 渋谷のライブは94公演にも及ぶツアーの最終日だった。
- Bloodywoodはレーベルやマネジメントには一切所属せず、完全なインディペンデント・バンドとして活動している。
普段はライブ後、自ら機材を撤収して(当日も観客がはけた会場でメンバーが撤収を行なっていた)、深夜2時ごろホテルに帰り、朝6時頃に次の目的地に出発するようなスケジュールでツアーしているとのこと。
今回の来日はフジロックの主催でも知られるSMASHの招聘であるため、スケジュールや移動・宿泊はいつもよりかなり快適だったそうで、メンバーはしきりにSMASHへの感謝を口にしていた。
ライブ中にステージ上にSMASHの担当者を呼んで謝意を伝えていたのには、このような理由がある。 - メタルバンドにしては珍しく、ドラムはバスドラ1個、タムタム1個、フロアタム1個のみという極めてシンプルなセッティングで(たぶんAC/DCよりシンプルだろう)、ギター、ベースもステージ上にエフェクターペダル類いっさい無しというかなり簡素なステージだった。
(最近のメタルシーンはほとんどチェックしていないので、もしかして今ではよくあることだったら無知を詫びます)
これは前述の通り、普段は完全インディペンデントでツアーしているため、機材も最小限にしているからとのこと。 - ステージ後方の演出も、ほぼプロジェクターによるバンドロゴの映写のみ。
彼らが今よりビッグな存在になることはほぼ間違いないだろうから、より派手な演出やステージセットでのショーも見てみたいが、今のインディーズ魂が感じられる方法論を貫くとしてもそれはそれで素晴らしい。 - ギター等の音色の調整に関しては、後方のラック型エフェクターで行なっているのだろうが、一部、明確に事前にレコーディングされた音源を同期させている場面もあり、どの程度アテ振り的な部分があるのかは不明(さすがに聞けなかった)。
こうした演出は、世界的な大物バンドでも行なっていることなので、否定的に書くつもりはない。
彼らのライブの盛り上がりを見る限り、むしろ彼らの取った方法論は圧倒的に正解だった。 - フロントの4人(ヴォーカルのJayant Bhadula, ラッパーのRaoul Kerr, ギター/フルートのKaran Katiyar, ベースのRoshan Roy, インドの太鼓ドールのSarthak Pahwal)を中心としたパフォーマンスは完璧で、例えばあるメンバーが右に行った時は他のメンバーが左の客を煽り、曲間ではドラム、ドールやMCで間を繋いで、チューニングやセッティングのための空白が生じることもなかった。
数多くのフェスで彼らのことを知らない観客をも沸かせてきた彼らの魅せ方は、相当洗練されていた。 - 彼らの曲には、基本的にギターソロはない。
ライブでも各パートのソロタイムなどはなく、冗長な演出や、観客が退屈するかもしれない要素をいっさい排除した演出はあまりにも潔い。
彼らのスタイルは、メタルのサウンドを導入しながらも、メタルの「お約束」を無視したものだと言えるかもしれない。
様式美に走らず、とにかく盛り上げることに徹したアレンジは、むしろEDM的とも言えるかもしれない。
また、メタルのサウンドとポジティブでチャーミングなキャラクター、そして無駄を配した楽曲は、古すぎる例えになるが、Andrew W.K.を彷彿させるところもあった。 - ラッパーのRaoulは、いつも「NO FLAG」というメッセージがプリントされた衣装を着ているが、本人曰く、その意味するところは「ヒューマニティはナショナリティに勝る」とのこと。
インド的な要素を全面に出しながらも、特定の信仰や地域性の礼賛に寄りすぎない演出は、おそらくこうしたメッセージを踏まえてのものだろう。
例えば、彼らの代表曲"Machi Bhasad"はパンジャーブの文化であるシク教徒たちのバングラーのパフォーマンスがラージャスターン州で繰り広げられているが、これはヨーロッパで言えばスペインのフラメンコがバッキンガム宮殿の前で踊られているようなものだ。
また、ヒンドゥーの神々をモチーフにしたアートワークも、伝統的なものではなく、かなり漫画的かつメタル的にデフォルメされたものが使用されている。
こうした演出に対して、あえて外国人から見たステレオタイプ的なインドのイメージを使っているという見方もあるだろう。
だが、彼らの意図を聞いた後では、地域や言語や宗教で分断されがちなインドという大国のなかで、特定の方向性に偏らないようにしようという意図があるのではないかとすら感じてしまう。
(たった一つの言葉から好意的に捉えすぎかもしれないが、そう思わせるだけの説得力が彼らの音楽とパフォーマンスにあったのは事実なので、そのまま書いておく)
思い出したのだが、かつてインタビューしたインド北東部のデスメタルバンドThird Sovereignは、「知ってのとおり、インドの社会にはいろいろな問題がある。宗教と宗教が対立したりとか、地域やコミュニティーの対立とか。そういう社会問題が曲のテーマになることもある。俺たちは、反宗教というより、宗教同士、コミュニティー同士の対立にうんざりしているんだ。ブラックメタルやヘヴィーメタルはそれ自身がひとつの宗教みたいな感じだ。そういった様々な違いや対立にこだわるんじゃなくて、音楽は個人のバックグラウンドに関係なく夢中になることができる。アーティストはそういう表現のひとつとしてブラックメタルを演奏しているんだ」と語っていた。
ツアー後の彼らは、しばらくはライブパフォーマンスを控え、ニューアルバムの制作に取り組むとのこと。
ざっと調べた限りで少なくとも14カ国を巡ったツアーで得たものが、どう新作に反映されるのか、今から楽しみだ。
それにしても、もし「インドのインディペンデントな音楽シーンを紹介する」という想定読者ほぼ不在のこのブログを書き始めた頃に、「5年後にインドのメタルバンドがフジロックで喝采を浴び、翌年に単独来日公演を行なってO-Eastがソールドアウトになる」なんて言われてもまったく信じられなかっただろう。
あらためて、Bloodywoodに最大級の賛辞を送りたい。
--------------------------------------
「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」
更新情報や小ネタはTwitter, Facebookで!
Twitter:
https://twitter.com/Calcutta_Bombay
Facebook:
https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり
更新情報や小ネタはTwitter, Facebookで!
Twitter:
https://twitter.com/Calcutta_Bombay
Facebook:
https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり
goshimasayama18 at 03:03|Permalink│Comments(0)