2019年02月10日
Raja Kumariがレペゼンするインド人としてのルーツ、そしてインド人女性であるということ
以前も紹介したアメリカ国籍のインド系女性ラッパー、Raja Kumariが昨年11月にリリースした楽曲"Shook"がかっこいい。
この曲は、今年前半にリリースが予定されているニューアルバム、"Blood Line"(血統)からの先行リリース。
以前の曲と比べてよりドスのきいた声で、ミッシー・エリオットのような凄みが出てきた。
イントロからサンプリングされている伝統音楽っぽい歌がインドっぽくないなあと思っていたら、どうやらスワヒリ語のチャントだとのこと。
つまりこの曲はアフリカ系アメリカ人が発明したヒップホップとそのルーツであるアフリカの音楽、そしてインド系アメリカ人である彼女とそのルーツであるインドの音楽(この曲ではちょっとだけど)が融合した非常に野心的な楽曲なのだ。
この曲のサウンドがとても気に入ってよく聴いていたのだけど、彼女のインタビューに基づいて歌詞を読んでみると、歌詞もまた非常に興味深いものだということがわかる。
最初のヴァースは'Diamond bindi shining with bangles out' と始まる。
「ビンディー」はヒンドゥーの女性が額につける飾りで、もともとは悟りとともに開かれるとされる第3の目を模したもの。
「バングル」は今ではすっかり一般的な単語になっているが、もともとはインド人女性がつけるインドの腕輪を指す言葉だ。
インド人女性としての誇りや美的感覚を自信を持って見せつけよう、というところからリリックは始まる。
この曲の最も重要なテーマはその後のラインに出てくる'Hindu guap'.
'guap'は現金を意味するスラングだが、彼女曰く「ヒンドゥー文化の豊かさに誇りを持とう」という意味を表す言葉だという。
つまりこの曲は、インド系アメリカ人として米国で育った彼女が自らのルーツをレペゼンするとともに、グローバル社会で生きるインド系の人々(とくに女性)に誇りを持つことを促すメッセージソングでもあるというわけだ。
Raja Kumari自身が歌詞の意味を説明したビデオ。
ニューヨークのメディア'The Knockturnal'のインタビューで、彼女は自らの半生とアメリカでインド系女性として生きる現実を語っている。
(The Knockturnal 'Exclusive: Raja Kumari Talks New Single "Shook" Upcoming Album "Bloodline" & Musical Beginnings')
彼女の両親は1970年代にアメリカン・ドリームを夢見て渡米したインド人移民だ。
インド系移民の常として、彼女の両親は子どもたちの教育に力を注いだ。
Raja Kumariいわく、彼女の兄弟は典型的なインド人。
勉強の成果を生かして脳神経外科医や法律家として活躍しているという。
兄弟のなかで彼女だけが音楽の道に進んだが、両親はそんな彼女を幼い頃から応援し、優れた師匠のもとで古典舞踊を習わせた。
それが今の彼女の音楽の基礎になっているのだ。
古典舞踊を踊る少女時代の彼女をフィーチャーしたミュージックビデオ、"Believe in You".
やがて古典舞踊ではなく、R&Bやヒップホップの道に進んだ彼女は、Iggy Azaleaに提供した曲でグラミー賞候補になったのち、音楽活動の場をインドにまで広げた。
カリフォルニアで生まれ育った彼女だが、それでもインドは居心地の良い場所だったという。
南アジアやインド文化がなかなか理解されにくいアメリカと比べ、インドでは自分のしていることがより受け入れられていると感じることができたからだ。
南アジアの女性にステレオタイプな保守的なイメージを持っている人々に対しても、彼女は戦ってゆく必要があると語っている。
こうした状況の中で、彼女は自身のルーツを、音楽とリリックを通して表現しようとしているのだ。
映画Bohemian Rhapsodyのなかで、インド系であるFreddie Marcuryが名前を変え、南アジア的な要素を排除しようとしている姿で描かれていたのとは対照的である。
(これはヒンドゥーであるKumariに対して、Freddieがパールシーであることも多少関係しているのかもしれないが)
そういえば、彼女がミュージックビデオで着ている衣装も、インド的な美意識をいかにヒップホップ的ファッションに落とし込むかということに挑戦しているように見える。
こうした背景を踏まえてDivineと共演した楽曲"Roots"を改めて聞くと、これまた非常に趣深い。
Raja Kumariは、ヒップホップアーティストという、インド人女性のステレオタイプからはみ出した生き方をしながらも、インド古典音楽やインドの伝統的なファッションの要素を取り入れ、米国社会のなかでインドの文化や宗教を誇らしげに掲げている。
先日紹介したDivineは、対照的だ。
Raja Kumariのニューアルバム'Bloodline'はアメリカで製作され、マイアミのDanja(Timbaland, Mriah Carey, Missy Elliott, Madonnaらとの仕事で知られる)、アトランタのSean Garrett(Beyonce, Nicky Minaj, Usher, Britney Spearsらとの仕事で知られる)ら、そうそうたる顔ぶれが参加したものになるようだ。
彼女はこのアルバムを、インドやディアスポラ向けのものではなく、より普遍的なものとして製作しているという。
"Shook"を聞く限り、内容も素晴らしいものになりそうで、期待しながらリリースを待ちたい。
それでは今日はこのへんで。
凡平自選の2018年度のおすすめ記事はこちらからどうぞ!
この曲は、今年前半にリリースが予定されているニューアルバム、"Blood Line"(血統)からの先行リリース。
以前の曲と比べてよりドスのきいた声で、ミッシー・エリオットのような凄みが出てきた。
イントロからサンプリングされている伝統音楽っぽい歌がインドっぽくないなあと思っていたら、どうやらスワヒリ語のチャントだとのこと。
つまりこの曲はアフリカ系アメリカ人が発明したヒップホップとそのルーツであるアフリカの音楽、そしてインド系アメリカ人である彼女とそのルーツであるインドの音楽(この曲ではちょっとだけど)が融合した非常に野心的な楽曲なのだ。
この曲のサウンドがとても気に入ってよく聴いていたのだけど、彼女のインタビューに基づいて歌詞を読んでみると、歌詞もまた非常に興味深いものだということがわかる。
最初のヴァースは'Diamond bindi shining with bangles out' と始まる。
「ビンディー」はヒンドゥーの女性が額につける飾りで、もともとは悟りとともに開かれるとされる第3の目を模したもの。
「バングル」は今ではすっかり一般的な単語になっているが、もともとはインド人女性がつけるインドの腕輪を指す言葉だ。
インド人女性としての誇りや美的感覚を自信を持って見せつけよう、というところからリリックは始まる。
この曲の最も重要なテーマはその後のラインに出てくる'Hindu guap'.
'guap'は現金を意味するスラングだが、彼女曰く「ヒンドゥー文化の豊かさに誇りを持とう」という意味を表す言葉だという。
つまりこの曲は、インド系アメリカ人として米国で育った彼女が自らのルーツをレペゼンするとともに、グローバル社会で生きるインド系の人々(とくに女性)に誇りを持つことを促すメッセージソングでもあるというわけだ。
Raja Kumari自身が歌詞の意味を説明したビデオ。
ニューヨークのメディア'The Knockturnal'のインタビューで、彼女は自らの半生とアメリカでインド系女性として生きる現実を語っている。
(The Knockturnal 'Exclusive: Raja Kumari Talks New Single "Shook" Upcoming Album "Bloodline" & Musical Beginnings')
彼女の両親は1970年代にアメリカン・ドリームを夢見て渡米したインド人移民だ。
インド系移民の常として、彼女の両親は子どもたちの教育に力を注いだ。
Raja Kumariいわく、彼女の兄弟は典型的なインド人。
勉強の成果を生かして脳神経外科医や法律家として活躍しているという。
兄弟のなかで彼女だけが音楽の道に進んだが、両親はそんな彼女を幼い頃から応援し、優れた師匠のもとで古典舞踊を習わせた。
それが今の彼女の音楽の基礎になっているのだ。
古典舞踊を踊る少女時代の彼女をフィーチャーしたミュージックビデオ、"Believe in You".
やがて古典舞踊ではなく、R&Bやヒップホップの道に進んだ彼女は、Iggy Azaleaに提供した曲でグラミー賞候補になったのち、音楽活動の場をインドにまで広げた。
カリフォルニアで生まれ育った彼女だが、それでもインドは居心地の良い場所だったという。
南アジアやインド文化がなかなか理解されにくいアメリカと比べ、インドでは自分のしていることがより受け入れられていると感じることができたからだ。
南アジアの女性にステレオタイプな保守的なイメージを持っている人々に対しても、彼女は戦ってゆく必要があると語っている。
こうした状況の中で、彼女は自身のルーツを、音楽とリリックを通して表現しようとしているのだ。
映画Bohemian Rhapsodyのなかで、インド系であるFreddie Marcuryが名前を変え、南アジア的な要素を排除しようとしている姿で描かれていたのとは対照的である。
(これはヒンドゥーであるKumariに対して、Freddieがパールシーであることも多少関係しているのかもしれないが)
そういえば、彼女がミュージックビデオで着ている衣装も、インド的な美意識をいかにヒップホップ的ファッションに落とし込むかということに挑戦しているように見える。
こうした背景を踏まえてDivineと共演した楽曲"Roots"を改めて聞くと、これまた非常に趣深い。
Raja Kumariは、ヒップホップアーティストという、インド人女性のステレオタイプからはみ出した生き方をしながらも、インド古典音楽やインドの伝統的なファッションの要素を取り入れ、米国社会のなかでインドの文化や宗教を誇らしげに掲げている。
つまり、彼女なりのやり方で、アメリカ社会では周辺化されてしまっているインドのルーツをレペゼンしているというわけだ。
先日紹介したDivineは、対照的だ。
巨大産業である映画音楽系シンガーや帰国子女・留学経験者ばかりだったインドのヒップホップ界で、ムンバイの貧民街出身のラッパーとして、本物のストリート(Gully)のラップを届けることで頭角を現してきた。
彼はインドの都市の中で周辺化されてしまっているスラム出身というルーツをレペゼンしているのだ。
Raja KumariとDivine.
Raja KumariとDivine.
この曲、"Roots"では、インド系ではあるが、性別も宗教も(Divineはクリスチャン)生まれ育ちも、まったく異なるルーツを持った二人がヒップホップという一点でつながり、コラボレーションしているというわけだ。
もちろん、この2つは矛盾しているわけではなく、いずれも本物のヒップホップのアティテュードと言えるものだろう。
Raja Kumariのニューアルバム'Bloodline'はアメリカで製作され、マイアミのDanja(Timbaland, Mriah Carey, Missy Elliott, Madonnaらとの仕事で知られる)、アトランタのSean Garrett(Beyonce, Nicky Minaj, Usher, Britney Spearsらとの仕事で知られる)ら、そうそうたる顔ぶれが参加したものになるようだ。
彼女はこのアルバムを、インドやディアスポラ向けのものではなく、より普遍的なものとして製作しているという。
"Shook"を聞く限り、内容も素晴らしいものになりそうで、期待しながらリリースを待ちたい。
それでは今日はこのへんで。
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goshimasayama18 at 20:46│Comments(0)│インドのヒップホップ