インドのインディーズシーンの歴史その10 インダストリアル・メタルバンド Pentagram1月27日(日)ユジク阿佐ヶ谷にて「あまねき旋律」上映後トークショーを行います!

2019年01月09日

Meraki Studiosが選ぶ2018年インド北東部のベストミュージックビデオ18選!

改めまして、軽刈田 凡平です。
Meraki Studiosが選出した2018年のインド北東部のインディーアーティストによるベストミュージックビデオが発表されたので、今回はそのなかでいくつか印象的だったものを紹介します。
このMeraki Studios、正直に言うと私もどんなところかよく知らないのだけど、彼らのウェブサイトによると、どうやらマニプル州インパールを拠点に広告、デザイン、録音、撮影、アーティストのブッキングとマネジメント、服飾販売などを手がけているところらしい。

詳細はリンクを参照してもらうこととして、選ばれた楽曲は以下の18本。
アーティスト名、曲名、ジャンル、出身地(活動拠点?)の順に紹介します。


・Pelenuo Yhome  'Build A Story'   フォーク / ナガランド州コヒマ
・Fame The Band  'Autumn'   ロック / メガラヤ州(現在はムンバイを拠点に活動)
・Lik Lik Lei  'Eshei'   ポップ / マニプル州インパール
・The Twin Effect  'Chasing Shadows'   ポップ / ナガランド州ディマプル
・Avora Records  'Sunday'  ロック / ミゾラム州アイゾウル
・Fireflood  'Rain'  ロック / ナガランド州ディマプル
・Tali Angh  'City Of Lights'  ポップ / ナガランド州コヒマ
・Lucid Recess  'Blindmen'  オルタナティブ / アッサム州グワハティ
・Featherheadds  'Haokui'  フュージョン・ロック / マニプル州ウクルル 
・Big-Ri And Meba Ofilia  'Done Talking'  R&B / メガラヤ州シロン
・Avora Records  '23:00'  ロック / ミゾラム州アイゾウル
・Lo! Peninsula  'Another Divine Joke'  ポストロック / マニプル州インパール
・Lateral  'Hepaah'  ポップ / アッサム州グワハティ
・Sacred Secrecy  'Shitanagar'  デスメタル / アルナーチャル・プラデーシュ州イタナガル
・Blue Temptation  'Blessing'  ロック / メガラヤ州シロン
・Lily  'Unchained'  EDM  / メガラヤ州シロン
・Matilda & The Quest  'Thinlung Hliam'  ポップ / ミゾラム州アイゾウル
・Joshua Shohe & Zonimong Imchen  'Never Let You Down'   ポップ / ナガランド州


まず目につくのはロック系の多さ!
ジャンル分けは独断かつ適当だが、それを差し引いても、ヒップホップ系やエレクトロニカ系はほとんどいなくて、ロック系が大半を占めている。
北東部はもともとロックが盛んな土地で、メガラヤ州シロンは「インドのロックの首都」とも言われている街だ(今回もシロンから3バンドが選出されている)。
ロック系の中でもFirefloodみたいなハードロック系からAvora Recordsみたいなギターポップ系、Blue Temptationみたいなブルースロック系、さらにはポストロックやデスメタルまで多様なタイプのバンドが揃っている。

そしてもうひとつ気になったのはナガランドのバンドの多さ!
州別に言うと、ナガランドが5バンド、メガラヤが4バンド、マニプルが3バンド、ミゾラムとアッサムが2バンドずつ、アルナーチャル・プラデーシュ州が1バンド。
これまでもナガランドについてはいろいろと書いてきたけど(全3回のナガランド特集はこちらから)、改めてナガの地の音楽カルチャーの強さを感じさせられた。

それでは、この18曲を聴いてとくに印象に残ったビデオをいくつか紹介します。

Lik Lik Leiは、日本軍の悪名高いインパール作戦で有名なマニプル州インパールのバンド。
このデビュー曲の'Eshei'はマニプルの映画、その名も'Iriguchi(入り口)'のサウンドトラックからの1曲。

ミュージックビデオを見て分かる通り、日本軍の兵士が残した秘密の箱を見つけた現代のマニプリの若者が主人公の映画のようだ。
映画の背景にある重い歴史(大戦後、マニプル州はナガランドと同様に過酷な独立闘争を経験している)と、ビデオに出てくる現代的な若者、そしてウクレレを使った軽やかな音楽の対比が面白い。

アッサムのLucid Recessは2004年結成のベテラン・オルタナティブメタルバンド。

この曲ではサウンドガーデンやニルヴァーナを思わせるグランジ的なサウンドを聴かせている。

Featherheadsはマニプル州の小さな街、ウクルルのバンド。
ウクルルも日本軍の悲劇的な激戦地となった場所だ。

個人的には、今回のリストの中でいちばん強烈に印象に残ったビデオだ。
音楽的にはおそらく地元部族の伝統音楽とロックとのフュージョンということになるのだろう。
注目すべきは彼らの衣装で、なんと地元の民族衣装にインディアンの民族衣装を大胆に合わせている。
ここで言うインディアンはインド人ではなくアメリカ先住民のいわゆるネイティブアメリカンのこと。
インド人(インディアン)のなかでは周縁的な存在であることを余儀なくされている北東部マニプル州の彼らが、同じ「インディアン」と呼ばれながらも、やはり国家の中で周縁的な立場に置かれているアメリカ先住民の格好をしているというわけだ。
そしてマニプリとアメリカ先住民は「追いやられた先住民族」という点で共通している。
なにやら非常にややこしいが、おそらく彼らはそこに共感と皮肉を見出してこの格好をしているのではないか。
って、単にファッションとして取り入れているだけかもしれないけど、いずれにしても興味深い一致ではある。

同じくマニプル州のLo! Peninsulaはシューゲイザー、ドリームポップ、サイケロックを標榜するバンドで、曲によってはポストロック的な響きを持つ演奏をすることもある(このへんはジャンルのボーダーが曖昧な部分ではあるけれども)。

さっきのFeatherheadsとはうってかわって、とてもインドの山奥から出てきたとは思えない(失礼!)サウンド!
彼らはシアトルのカレッジラジオ局KEXPで紹介されたこともあるようだ。
ポストロックというジャンル字体はもはや世界中のどこでも珍しいものではなくなっているけれども、それでも今回紹介する北東部のバンドの中で彼らの存在感は群を抜いている。
他にも尖っているバンドはあるが、彼らだけは世界中の別の時空と共鳴しているかのような印象を受けた。

ナガランドのJosua Shohe & Zonimong Imochenの'Never Let You Down'はZonimongのヒューマンビートボックスが全編にフィーチャーされた曲。

歌もちょっと弱いし、とりあえず地元で撮ったみたいなビデオも適当な印象だけど、意欲的な試みではある。


すでに紹介してきたバンドたちもおさらい。
日本のMonoがトリを務めたZiro Festivalにも出演したAvora Recordsは2曲でノミネート。
'Sunday'はどことなく1990年代の日本のバンドを思わせるミュージックビデオだ。


同じくZiro Festivalにも出演していたBlue Temptationはレニー・クラヴィッツみたいなシブいブルースロック!


MTV EMA2018のベストインド人アーティストに選ばれたBig-Ri& Meba Ofiliaも当然ランクイン。


このブログ最初のインタビューにも協力してくれたTana Doni率いるSacred Secrecyが地元イタナガルを強烈にディスっているブルータル・デスメタル'Shitanagar'でノミネート!


少々の荒削りさとびっくりするようなセンスが共存している北東部のシーン、今後も注目していきたいと思います!

そして今年は北東部が先になってしまったけど、メインランドの2018年を代表する曲やアルバムもまた紹介します!
それでは!



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goshimasayama18 at 22:29│Comments(0)インド北東部 | インドのロック

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