2018年01月26日

インド北東部でいったい何が!? Death Metal from “7 Sisters States”

前回、「インドのペイガン・メタル」なんていう濃いものを書いてしまったので、今回は軽くて洒落ているものを書こうと思っていたら、ああ、なんたること、また濃くてむさ苦しいネタを見つけてしまった…。

 

「インド北東部7州」といってピンと来る人は、相当インドが好きな人かインド人くらいだと思うので、まずはインドの地図をごらんください。

 インド地図

 

この菱形に近いインドの地図の東側のコルカタのさらに東、ちょうどバングラデシュに抉られるようになった東の端の、ちぎれてしまいそうな部分。

ここに、英語で”Seven Sisters”と呼ばれる7つの州がある。

アルナーチャル・プラデーシュ州、アッサム州、メーガーラヤ州、マニプル州、ミゾラム州、ナガランド州、トリプラ州の7つの州のことだ。

 インド北東部

いずれの州も北インドのアーリア系とも、南インドのドラヴィダ系とも違うモンゴロイド系の民族が暮らしていて、インドの大部分とはまったく違う文化や言語を持った地域だ。

それぞれの州ごとに、異なる言語や文化があり、さながらこの地域は民族のモザイクのような様相となっている。

気候の面でも、どちらかというと乾燥したインドの大地とは異なり、密林が広がる山岳地帯が多く、メーガーラヤ州のマウシンラムという村は年間で最も雨が降った場所(1985年。26,000mm)とされている。

この地域は中国、バングラデシュ、ミャンマー、ブータンと国境を接していて、私がよくインドに行っていた’90年代後半〜’00年代初頭頃は外国人の立ち入りが禁止されていた、まさしくインドの辺境中の辺境。

ちょっと景色や人々を見てみると、こんな感じだ。

 
メガラヤ州の絶景
Meghalaya-–-Visiting-the-cleanest-village-in-the-world-CP

マニプル州の谷間の街
manipur

ミゾラム州の州都、アイザウル
mizoram aizawl-city


 ナガランドの人々
Nagaland-People

 アッサムの茶畑。まるで静岡みたい。
assam-719

 

それぞれ独自の文化を保った人たちが豊かな大自然の中で暮らすのどかな地域っといった印象を受けるね。

Seven Sistersはインド辺境の古き良き文化が残る純朴な7姉妹といったイメージだ。
ところがしかし。

 

前回の記事を書いている時に、YoutubeThrashDeath Assaultという物騒な名前のユーザー(どうやらインドのヘヴィーメタル愛好家のようだ)が、Top 10 Indian Death Metal Bandという動画を挙げているのが目についたので、なんとなく見てみることにした。

それがこちら。

 

 

ちゃんとバンド名といっしょに出身都市の名前が出てくる親切仕様になっていて、アタクシのような人間にはありがたい。

へえ、インドにそんなにたくさんデスメタルバンドっているんだ、ムンバイとかバンガロールみたいな大都市、国際都市のバンドがたくさん出てくるのかなあ、と思ったて見ていたら、さにあらず。

耳慣れない地名が次から次へと出てくる。しかも、明らかにモンゴロイド系の顔のメンバーがいるバンドが出てくる出てくる。

 

紹介されているバンド名、出身都市、出身州を並べてみるとこんな感じ。

1. IIIrd Sovereign アイゾール(ミゾラム州) 

2. Gutslit : Mumbai ムンバイ(マハーラーシュトラ州)

3. Plague Throat シロン(メーガーラヤ州)

4. Demonic Resurrection ムンバイ(マハーラーシュトラ州)

5. Godless ハイデラバード(アーンドラ・プラデーシュ州)

6. Sycorax ダージリン(ウエスト・ベンガル州)

7. Agnostic グワハティ(アッサム州)

8. Killibrium ムンバイ(マハーラーシュトラ州)

9. Alien Gods イーターナガル(アルナーチャル・プラデーシュ州)

10. Wired Anxiety ムンバイ(マハーラーシュトラ州)

 

と、なんと例のインド北東部、セブン・シスターズ出身のバンドが4つも入っている。6位のSycoraxの出身地である紅茶で有名なダージリンも、州こそ違うが地理的にはかなり近いところにあり、じつに10バンド中半分がインド北東部出身ということになる。

9位のAlien Godsの出身地イーターナガルなんて、調べてみたら、人口35,000人のこんな町だ。

 itanagar-head-145

いったい何故、こんなにのどかな地方でデスメタルを?

しかも、全部、メロディアスだったりシンフォニックだったりしないゴリゴリの骨太な感じのやつだ。

 

ひょっとするとこれは選んだ人がこのへんの地方の人で、恣意的なランキングなんじゃないかと、今度は、www.toptens.comというサイトの「Top 10 Metal Band in India」という記事を見てみた。

Top 10といいながら144位までランキングされていて、まずそもそもインドにそんなにメタルバンドがいるってことに驚いた(最後のほうは「High School Band」とかも出てくるからなんとも言えないが)んだが、このランキング(デスメタルに限らない)でも、東北7州のバンドはTop10入りこそ逃したものの、100位までで21組もいる。

参考までに書くと、セブン・シスターズの人口は4,500万人。インド全土の人口の3.7%に過ぎない。州のGDP、一人当たりGDPも比較的低い州ばかりだ。

豊かな自然や独自の文化があり、楽器なんかもそうそう流通してなさそうな(買うお金だってバカにならないし)これらの州で、いったいなぜデスメタルが流行っているのか。

ナガランドなんかは、昔は首刈りの風習があって、一人前の大人の男と認められるには余所者の首を刈ってこないといけない、っていう習慣があったところなので、なんかこう、残虐性に惹かれる文化があるのだろうか。

それとも、この地域は歴史的にゲリラ的な独立闘争運動が盛んだったことから、インド政府に隷属せざるを得ない怒りのようなものが蓄積されているのだろうか。

 

ひとまず、どんなバンドがいるのか見ながら考えてみようか。

とはいえ、あんまり動く映像があるバンドが多くないんだよなあ。

まずは、インドのデスメタルバンド10選の3位、メーガーラヤ州のPlague Throatをどうぞ。
 

このバンドはドイツのフェスティバルでの演奏経験もあるようだ。

しっかし、デスメタルとはこういう音楽と分かっていながら、どうしても酒を飲みすぎて猛烈な頭痛と吐き気を催し、トイレでのたうちまわっている状態のように聴こえてしまって仕方がない。

デスメタルだなあ!とは思うけど、あまりにも類型的すぎてなんとも言えないなあ。まあ、それだけ良くできているとも言えるが。

 

続いては、インドのデスメタルバンド10選の9位、アルナーチャル・プラデーシュ州イーターナガル出身のAlien Godsのコルカタでのライブの様子がこちら。
 

あんなのどかなところ出身なのに、なぜこんなことに。

田舎のお母さん、心配してるよ。まあそれ言ったらSlipknotの故郷のアイオワだってど田舎なわけだから言いっこなしかもだけど。

 

今度はデスメタルから離れまして、インドのメタルバンド100選から18位のバンド、アッサム州のXontrax.


音は激しいけど、なんか短髪のメンバーがすごく真面目そう。

邪悪な感じがあんまりしないな…。もっともてそうな音楽やれよ、って言いたくなる感じ。

 

続いて、インドのメタルバンドベスト10041位、ミゾラム州のComora、お聴きください。


おお、ちゃんとした(?)ミュージックビデオだ。

こちらもサウンドは激しいけど、なんかすっげえ朴訥。山の中で民族衣装を着て演奏してる…。なぜこのシチュエーション、この格好でこの音楽なのか。

 

続いて、メタルバンドベスト10058位、首刈りがかつて行われていたというナガランドのIncipitというバンド。


これ、メタルじゃないじゃん。なんかジャーニーみたいな爽やか感じのロック。

メンバーやっぱり朴訥としてるなあ。

 

うーん、ランキング下位のバンドになってくると、朴訥ばかりが気になって、なにが彼らをメタルに駆り立てているのか、映像を見てもよく分からない。

 

ここから先は完全にアタクシの推測。

高野秀行の「西南シルクロードは密林に消える」って本によると、2002年ごろのナガランド州ディマプルという町の様子はこんなふうだったという。

 

何よりも意外だったのは、その若者たちのファッションだ。Tシャツか派手な柄のシャツをだらっと着流し、下は膝小僧が見え隠れするくらいの長さのハーフパンツ。頭にはバンダナを巻くかアポロキャップをかぶり、素足にジョギングシューズをはいている。いわゆるヒップ・ホップ系のストリート・ファッションというやつだ。

女の子もまちがってもサリーなど着ておらず、茶髪が多く、服装もTシャツにジーンズなどで、これまた日本の今時の若い子と変わらない。

(中略)

「ナガ人はクリスチャンだから、インド人よりずっとアメリカナイズされているんだ」

 

そう、インド全体では2%に満たないキリスト教徒だが、セブン・シスターズ諸州では人口の2割ものクリスチャンがいる。人口規模が圧倒的に多いアッサム州にヒンドゥー教徒が多いので、地域全体では2割にとどまっているが、ナガランド、ミゾラムでは9割、メーガーラヤでは7割以上がクリスチャンだ。

 

歴史的にヒンドゥー文化圏外だったこの地域では、もともとはヒンドゥー信仰よりもアニミズム(精霊信仰)が盛んだった。

そこに、西洋の宣教師たちがこぞって布教に訪れたことで、住民の多くがクリスチャンに改宗し、現在に至っている。

セブン・シスターズ諸州では、キリスト教への改宗によって精神的な面での欧米化が早くから進んでおり、かつ文化的にもいわゆるインド的なものへの共感がしづらい文化的背景であることから、ボリウッドの影響も少なかったと思われる。

おそらくだが、インターネットの発展などで、同時代の欧米の文化に接することができるようになったとき、セブン・シスターズの若者たちは、インドのポップカルチャーであるボリウッド的なものよりも、アメリカを始めとする欧米の文化のほうに魅力を感じたのではないだろうか。

その中の一部の若者たちはデスメタルのような激しいサウンドに惹かれ、結果的にインドの他の地域よりも、デスメタルバンドの数が顕著に多い、ということになった、とは言えないだろうか。

ちなみにこの地域、他国と国境を接する軍事上の要衝でもあるため、道路や電気といったインフラは意外と整備されているようで、楽器(エレキギターとかね)の入手や演奏は以外と容易だったのかもしれない。

とはいえ、やっぱりこの推論にはちょっと無理があるような感じもする。

 

こうなったら、便利なこのご時世、SNSを通じて直接彼らに聞いてみたいと思います。
いったいどんな返事が返ってくるのか、乞う御期待!



2018年01月21日

神話炸裂!インドのペイガン・メタル!

こんにちは、伊藤政則です(ウソ)。

先日、映画「バーフバリ」についての記事で、神話的なものがインド人の感性に深く根ざしているのではないか、ってな話を書いたのだけど、今回はそれに関連して一席。

インドの若者って実は結構メタル好き率が高いのではないかと思っていて、以前紹介したRolling Stone India誌が選ぶ2017ベストアルバム10とか、ベストミュージックビデオ10の中にも、今どきしれっとゴリゴリのデスメタルやスラッシュが選ばれるくらい。

というわけで、今回紹介するのはインドのペイガン・メタル!

とは言ってみたものの、みなさん、ペイガン・メタルって言葉はご存知ですか?

知らねえよなあ。

知らなくて普通です。

 

ヘヴィ・メタルという音楽は、その創生期から反キリスト教的、悪魔主義的なイメージを打ち出していたのは周知の通り。Black Sabbathとかね。

でもそれって、おそらく当初は反社会的、アンチモラルな感じで、かつ不気味でやばい感じのイメージ作りだったと思うんですよ(単なる悪趣味という気もしないでもない)。

ところがだんだん、本気で悪魔崇拝をし始めて、ビバ悪魔!地獄最高!ってな音楽を作る奴らが出てきた。

いわゆるブラック・メタルというやつですな。

屍体を模した白塗りのメイクをして(コープス・ペイントという)、トゲトゲのいっぱいついた黒い服を着て「地獄からやってきた悪魔だぜ!ギャー!」ってな歌を歌う。

ひどい連中になると、悪魔主義の思想を行動に移して教会に放火したり、殺人を犯したりする奴も出てくる。何て奴らだ。

 ブラックメタル
 典型的なブラックメタルバンドはこんな佇まい

ところが、そのうち彼らは気づいたんでしょうな。

「あれ?悪魔って、キリスト教の中の概念じゃん。アンチ=キリストって言ってるのに、キリスト教が考え出した概念を歌ってるのっておかしくね?」と。

 

そこで彼ら(註:ブラック・メタルの本場、北欧のバンド達のことです)は考えた。

「キリスト教の考えた概念である悪魔について歌うんじゃなくて、キリスト教伝来以前の俺たちの独自の文化や信仰をメタルにしよう!これこそが真の反権威、反宗教だ!」と。

こういう思想の音楽をペイガン・メタルという。

同じような発想でできたジャンルにヴァイキング・メタルというのもあって、もちろん食べ放題のことを歌詞にしているのではなく、俺たちの古代の英雄たる海の覇者をメタルにしようって寸法だ。

 

で、インド。

北欧で「独自の文化」をブラック・メタル、デス・メタル的サウンドに乗せた連中がいたのと同じように、インドでも独自の文化、具体的には神話的ヒンドゥー世界をメタルにしたバンドっていうのがいる。

彼らはVedic Metalというジャンルで呼ばれていて、VedicというのはVedaの形容詞。世界史で習ったリグ・ヴェーダとかのヴェーダだ。

Vedic Metalというのはインドの古典である神話、伝承、哲学なんかをテーマにしたバンドということ。

 

前置きが長くなりました。まずはこちらをお聴きください、Rudra” Hymns from the Blazing Chariot”


 「オーム!」のマントラとタブラのイントロから、怒涛のメタル・サウンドに!

どうやらインドの超大作古典文学「マハー・バーラタ」をテーマにした曲の模様。

このビデオ、バーフバリみたいなドラマ部分もイカす。

考えてみれば、神々の戦いを描いたヒロイックな神話はヘヴィーメタルの題材にぴったりだよなあ。

ちなみにRudraというのはインド神話に出てくる暴風神とのこと。

Wikipediaによると、なになに、「『リグ・ヴェーダ』の中では彼はアスラとも呼ばれ、アスラ神族が悪魔とされる時代以前の名残りをとどめている。」

おおっ!インドのペイガン・メタルにぴったりのバンド名じゃないか!

 

続いての曲。The Down Troddence で、その名も”Shiva”


彼らは”Folk Metal”として紹介されることも多いようで、フォークっていっても南こうせつとかさだまさしじゃなくて、民間伝承メタルという意味だろう。

 

続いてDevoid”Brahma Weapon”

「神の武器」とでも訳したら良いのかな。

 

 

だんだんおなかいっぱいになってきたので、次で最後!

Bhairav ”Kaal ratri”

 

いつ歌が始まるのかと思っていたらなんとインストだった。230秒くらいからの展開が結構すごい。


さて、欧米のペイガン・メタルバンドが宗教的権威たるキリスト教への反発から悪魔主義、ペイガニズムに傾いていったのは最初の方に書いた通り。
それじゃあインドのVedic Metalはどういうところから出てきたのか。 

インドの最近の小説なんかだと、欧米文化に憧れつつも、物質主義的、功利主義的な考え方に反発する若者の気持ちというのが描かれていて、欧米で生まれたエクストリームミュージックにヒンドゥーの神話という組み合わせは、そういう西洋へのアンビバレンツな感情というところから出てきたものなんじゃないだろうか。
西洋から生まれた音楽のある種の究極と言えるデスメタル的なサウンドに乗せて、自分たちの文化的・宗教的なルーツを誇らしげ歌うというのは、矛盾と言えば矛盾だけどなんだかとっても面白い。

単に手近にあるものでこういうサウンドにふさわしいモチーフがヒンドゥー神話だったってだけかもしれないけれど。

 

本日の各バンド、改めて紹介します。

Rudraはインドではなくシンガポールのインド系のバンドで1992年結成。

あ!いきなりインド本国のバンドじゃなかった!インド系ではあるけど…。それにかなりの歴史があるバンドでした。
 rudra

かなり早い段階からこの音楽性を導入していたようで、幾度かのメンバーチェンジの末、現在はKathir – Vocals&BassShiva – DrumsSimon – GuitarsVinod – Guitarsのメンバーで活動している。

メタルとインド舞踊の融合といったかなーり斬新な試みもしているようだ。




The Down Troddence
2009年結成のケララ州のバンド。

the down troddence
このバンドには名前を見るとムスリムのメンバーも在籍しているみたいだ。

ヒンドゥー的なテーマを扱っていても反イスラム的な思想というのはないみたいで、そう考えるとインドの音楽シーンというのは本当に健全。

この”Shiva”のビデオはIndiGo South Asian Music Awardsのベストミュージックビデオ賞を受賞したとのこと。

 

Devoidはムンバイのバンドで、2005年に結成。
 devoid

反体制、宗教、戦争をテーマにしたデス/スラッシュ・メタルバンドらしいが詳しくは不明でした。

 

Bhairav2009年にデリーで結成されたバンドで、シヴァ神への絶対的な帰依を拠り所にしているという。
bhairav
音楽的には80年代のスラッシュメタルに影響を受けているようだ。

 

日本に縄文メタルとか無いし、アメリカにもインディアンメタル(あれ?インドのメタルになっちゃったけど)というのは無い(知る限りでは)。

「メタル」というすでにそれ自体が強烈な個性を放つジャンルすらも自らの伝統的世界観に取り込んでしまうインド。さすが、懐が深いなあ。

 

と思ったら、モンゴルのメタルバンドというのも凄かった!

https://gakkimania.jp/freak/1174

 

いやはや世界は広いっすな。

 

 

追記:Vedic Metalのジャンルに括られるバンドとして、チェコのCult of Fire、ウクライナのAryadevaといった東欧のバンドもいる。

面白いところでは、ロシアのバンドでKartikeya というのがいて、彼らはインドの古典声楽(マントラみたいなもの?)と共演した楽曲なんかも発表している。"Kannada - Munjaaneddu Kumbaaranna"という曲。
 

なんかもう独特の世界だ(このバンド、普段は普通のデス声で歌っている)。間奏のギターソロは筋肉少女帯の橘高みたいだし。

なぜ非インド人である彼らがVedic Metalを標榜しているのかは不明だが、おそらくはインド-ヨーロッパをつなぐアーリア人主義的なものがあるのではないかと思われる。この考えを突き詰めるとナチズムに行き着くわけで(実際にブラック・メタルバンドには親ナチを表明しているバンドもいる)、Vedic Metalにはこういった危険な側面もあることも頭に入れておきたい。

入れておいてどうする、とも思うけど。



2018年01月17日

Rolling Stone Indiaが選ぶ2017年ベストミュージックビデオ10選(後編)

前回の続きです。

Rolling Stone Indiaが選ぶ2017年のベストビデオ10選、今日は6位から10位を紹介!

このへんになるとなんか思わせぶりなアートっぽい?のが目立ってくる。

 

6. Sandunes: “Does Bombay Dream of NOLA” ムンバイ エレクトロニカ
 

叙情的なエレクトロニカに白黒のアニメ。

ニューオリンズの神秘主義(ヴードゥーみたいなやつか?)に基づいた世界観を表しているそう。

このサウンドにニューオリンズと来たか。

いろんなところから玉が飛んでくるな…。

 

7. Thaikkudam Bridge: “Inside My Head” コチ ロック
 

Thaikkudam Bridgeはいつかきちんと紹介しようと思っていたケララ出身のヘヴィーロックバンドで、これはいつもはマラヤラム語で歌っている彼らが英語で歌った一曲。

普段はもっとインドっぽい歌い回しが目立つバンドなんだけど、英語だと洋楽的メロディーラインが際立ってくるね。

使用言語によるメロディーラインへの影響ってのはインドの現代音楽の興味深いテーマかもしれない。

インドの言語で洋楽的メロディーっていうのは有りでも(3位のThe Local Train然り)、逆はまずないっていう。

あまりにも唐突な内容の映像だったので、思わず3回くらい見ちゃったのだけど、ジャングルを舞台にしたストーリーで登場人物は以下の4人。

A:ジャングルの中を徘徊する若い男

B:ナイフを持った男。男Aを見つけて尾行する

C:毒蛇に首を咬まれた男

D:男Cの連れ。なんとかして手当てをしないとって状況

4人とも、どうしてジャングルの中にいるのかとか、どういった関係なのかとかいったことは一切示されない。こういうの不条理っていうの?不親切っていうの?

この4人が極限的状況で、助け合ったり裏切ったり、といった内容のミュージックビデオ。

なかなか日本のバンドではできないセンスではある。

確かにプレデターみたいな密林の映像は緊張感があるし、密室劇的な面白さや、人間存在の本質を深く洞察した哲学的な部分(とか言ってみた)はあるかもだけど、いったい何?何故?という疑問は最後まで拭えず。

うーむ。深いのか、何なのか。

 

8. Black Letters: “Falter” バンガロール ロック
 

曲はアンビエント調だけど、自称オルタナティヴロックバンドということで、ジャンルはロックにしてみた。

海、人、魚の叙情的な映像だが、内陸部のバンドらしく海なのに魚は淡水魚(金魚)っていうこだわりの無さっぷりが気にならないこともない。

 

9. When Chai Met Toast: “Fight” コチ ロック
 

こちらもケララ出身のロックバンドで、曲によってはバンジョーが入る曲なんかもあって、無国籍な感じのポップをやっている。

映画にしろ何にしろ、インドの男性観ってマッチョだけどナイーヴという先入観があったのだけど、最近の音楽をやってる人たちだとこういうポップな感じもアリになってきたのか。

このビデオ、映像のセンスに関しては、なんとなくバンドブーム頃〜90年代初期の日本のバンドっぽいテイストって気もするなあ。

 

10. Chaos: “All Against All” ティルヴァナンタプラム スラッシュメタル
 

またケララ!そしてメタル!
 このバンド名にしてこの曲名!
映像は泥の中で大勢の男たちがぶつかり合い、その近くで演奏するバンド!
無意味にビックリマークを多用してしまったが、理屈は抜きにしてメタルだぜこんちくしょう!っていう感じだけは強烈に伝わってくるじゃないですか。

この楽曲に合わせてどんなビデオを撮ろうかっていう打ち合わせの席で、「泥の中、100人くらいのほぼ裸の男達が左右から走ってきて、ぶつかり合い、取っ組み合うってのはどうでしょう?」「いいねー」っていうやり取りがあったんだろうか。
ちょと出オチ感のある内容ではある(途中で夜になったりはするけど)
 

 

はい、というわけで、今日は6位から10位までを見てみました。

こうやって続けて見てみると、やっぱりこれも媒体(Rolling Stone India)の特質なのかもだけど、極力インドっぽさを排した無国籍風な映像の作品が目立つという印象がする。
かつアーティスティックで内省的な作品ももてはやされる傾向があるんだな、と思いました。

イギリスからの独立後も、高級とされる場所だと英語こそが公用語っていう風潮のあったインドではあるけれども、こういうポップカルチャーの分野でも、非ドメスティックなものが高尚な趣味、みたいな、脱亜入欧って感じの価値観があるのかもしれない。


人様が作って、人様が選んだビデオを見ながら言いたいこと言ってアタクシはいったい何様なんでしょう?という気がしなくもないですが、ま、そんなことを思った次第でございます。



2018年01月15日

Rolling Stone Indiaが選ぶ2017年ベストミュージックビデオ10選

Rolling Stone India2017年のベストアルバムに続いて、2017年のベストミュージックビデオを発表した。(記事はこちら

 

選考基準は、映画の映像をそのまま使用した挿入歌・主題歌は除く楽曲ということのようだ。

ミュージシャン名と都市・ジャンルを添えて紹介します。

 

1.    Run Pussy Run: “Roaches” プネー ロック
 

同じくプネーのLMB Production所属の映像作家Anurag Ramgopalによる作品とのこと。

Rolling Stone Indiaによると「freak funk group」だそうで、他の曲もリズミカルでセンス良さげな歌と演奏のバンドだ。

 

ゴキブリっていえば、昔コルカタの安宿のドミトリーで、バックパックにものすごく大きなゴキブリがとまってたのを見つけて、サンダルで横から引っぱたいたら、びゅーんって飛んでって、少し離れたところの欧米人のリュックにくっついた。

荷物の持ち主が連れと談笑してたので、言いだすのもなんだな、と思って様子を見てたら、しばらくして気がついて「ギャーオ!コックローチ!」て大騒ぎしてた。

ゴキブリって国籍を問わずこの扱いなんだなあと思ったものです。

記事に、この昆虫が苦手な人は見ないでね、みたいなことが書いてあったけど、インドでもゴキブリ嫌い、虫嫌いって人がいるんだなあ、としみじみ。

 

 

2. Blushing Satellite: “Who Am I?” バンガロール ロック

 

アイデンティティの危機をテーマにしたビデオとのことで、正直、他の国のミュージックビデオで似たようなものを見たことがあるような気がするけど、こういう「イギリスかアメリカのバンドみたいな内省的なロックのサウンドで『自分とは何者か』という問いかけを歌う文化圏」にインドも入っているのだなあ、と再びしみじみ。

 

3. The Local Train: “Khudi”  デリー ロック

 

ヒンディーロックと言っているけれど、言葉がヒンディー語なだけでサウンドは英米風の爽快なロックだ。

バイクが好きで自分のバイクでいろんなところを旅したいと思っているデリバリーのアルバイトが、仕事の合間に聞いたこのバンドの音楽と、ちょっとした事故をきっかけに、仕事を投げ出して自由に走り始める、というストーリーと思われる。

曲のブレイクと映像を合わせる小技も効いている。

クオリティの高い映像はVijesh Rajanという映画監督による作品で、India Film Project Awardsのミュージックビデオ部門で‘Platinum Film of the Year 2017’ を獲得したとのこと。

 

4. Parekh & Singh: “Ghost” コルカタ ポップ

 

コルカタのバンドはこのブログ始めて以来初なのではないだろうか。とはいえ無国籍風の幻想的ポップソング。

 Peacefrogっていうロンドンのレーベルと契約しているこのバンドは、すでに日本での注目もそれなりにされているようで(ごめんよおじさんこの手の音楽に詳しくなくて)、こちらのサイトに詳しい。

なるほど、アタクシ映像にも詳しくないのだけど(何にも詳しくない笑)、このビデオはウェス・アンダーソン(ロイヤル・テネンバウムズとかダージリン急行の人か!)監督へのオマージュとのこと。

Rolling Stone Indiaによるとペットの犬を失った少女がいかに悲しみを乗り越えるかというストーリーとのこと。見ていて全然気づかなかった。(最初に持ってるのが犬の首輪だったのね)

自分の理解力の無さにだんだん心配になってきた…。


 

5. Pakshee: “Raah Piya” デリー フュージョンロック(インド音楽とのフュージョンね)

 

Rolling Stoneにしては珍しくインド色の強いバンドを扱っている。

ジャズ、フュージョン風な演奏とインド古典なヴォーカルの融合、と思っていたら途中でラップも入ってきてビックリ。

二人のヴォーカルはヒンドゥスターニーとカルナーティックというインドの北と南それぞれの伝統音楽のスタイルで歌っている。

映像に関しては、きれいだけど単にいろんな自然の中で演奏してるだけなんじゃ、という気がしないでもない。

それにしてもインドのバンドは6弦ベースが好きだなあ。

 
ベストアルバムと同様、映像のほうも極力インド的要素(ボリウッド的に大勢で舞い踊るみたいな)を排した、欧米的アーティスティックな作品が目立つセレクトとなっている。 

長くなりそうなのでまずはこのへんで!



2018年01月13日

Rolling Stone Indiaによる2017年ベスト・アルバム!

Rolling Stone India誌が選ぶ2017年のベストアルバム10枚が発表された。

昨年はロック、ポップス、ヒップホップともにインドのインディーズ(略して印ディーズ)始まって以来の豊作だったとのこと。

記事はこちら


順位は以下のとおり。

各ミュージシャンの出身地とジャンルも添えて紹介します!

 

1. Prabh Deep: Class-Sikh  デリー ヒップホップ

 アルバムタイトルを見てわかる通りシク教徒のラッパーで、これがデビューアルバム。
10月のリリース以来、大きな話題になっている作品。
デリーのヒップホップシーンはボリウッド系の華やかな(軽薄な)印象が強いけど、こうしたよりリアルな題材を扱ったシーンもちゃんとある。

知的かつ叙情的なトラックはデリーのトラックメーカーSez on the Beatによるもの。

2曲ほど紹介してみます。



 

2. Blackstratblues: The Last Analog Generation ムンバイ ロック(インスト)

 その名に違わぬ、ポストロックや打ち込みの要素を一切含まない70年代風ギターインスト!

 2017年のアルバムからのビデオがないので、こちらで聴いてみてください。

 一音一音に心地よさのあるギターがジェフ・ベックを思わせる、最近いないタイプのギタリスト。

 3位のTejasがゲスト参加している曲「Love Song To The Truth」もAOR風で、まったく「今」を感じさせないこのアルバムが2位っていうのも凄い!

 

3. Tejas: Make It Happen ムンバイ ロック(シンガーソングライター)

 70年代的な要素に現代的・都会的なニュアンスもあるロック。

 レニー・クラヴィッツとかMaroon5とかSuchmosあたりを思わせるところがある。
 

 

 

4. Skrat: Bison チェンナイ ロック

 こちらもニューアルバムからのビデオがなかったのでこちらから音をどうぞ。

 オルタナっぽかったり、例えばニュージーランドのDatsunsみたいな70年代ハードロックリバイバル的な雰囲気のある曲も。
 

5. Menwhopause: Neon Delhi ニューデリー ロック

 これも最新アルバムからビデオになっている曲があんまり良くなかったので、こちらから音だけ聴いてみてください。

 例えばFranz FerdinandRadioheadっぽいUK色が強い曲、流麗なピアノソロがある曲、ちょっとプログレっぽい曲など。

 

 

6. Gutslit: Amputheatre ムンバイ デスメタル

来た!ブルータル・デスメタルバンド!演奏も上手い!ドラムとかやばいよ。

シーク教徒のベーシスト(6弦ベース!)はメタルらしくターバンも黒で決めてる!

こんな常識や世間体なんかクソ喰らえみたいな音楽やってるのに、戒律を守ってターバンはちゃんと巻くんだなあとしみじみ。

インドのデスメタルは結構盛んらしく、他にも面白いバンドがいるのでいずれ紹介します。

 
 

7. Kraken: LUSH デリー ロック

なんと日本のアニメや文化から影響を受けているバンドとのこと。

デリーには他にも日本文化に影響を受けたTarana Marwahというエレクトロニカのミュージシャンもいる。

なにかと欧米志向の印象が強いインドでも日本のサブカルチャーは一定の存在感を放っているみたいだ。

ビデオも日本のジブリの森?


 

8. Joshish: Ird Gird ムンバイ ロック

ポスト・プログレ(post-prog)バンドとして紹介されていて、そういうジャンル名は聞いたことがないけど、ポスト・ロックと呼ぶにはプログレ色が強くて、そう呼ぶのがいちばんしっくりくるバンド。

リズムチェンジや変わったコード感のバッキングが印象的。

 

9. Disco Puppet: Princess This バンガロール エレクトロニカ

インドのエレクトロニカは他のジャンルと比べてもかなりレベルが高いと思っているのだけど、これまた素晴らしく不思議な雰囲気のバンド。
アンビエントっぽかったり、ドラムンベースっぽいところがあったり。

中心人物のShoumik Biswasは同じくバンガロールのポストロックバンドSpace Behind The Yellow RoomのドラマーとカルカッタのポップロックバンドMonkey In Meのドラマーも勤めているとのこと。

カルカッタってずいぶん遠いけど大丈夫なのか。


 

10. Aswekeepsearching: Zia  アーメダーバード ポストロック

個人的にこのバンドは凄く良いと思うなあ。10位じゃなくてもっと上でいいのに!

心地よい静かなパートから激しい部分まで、詩的かつ映像的なサウンドが素晴らしい。インドはポストロックが結構盛んなようだけど、酒も飲めないグジャラート州にこんなバンドがいるなんて!
 

Rolling Stoneという媒体の性質なんだろうけど、無国籍というかインド色の薄いものが多い中、社会派の1位と日本風味の7位が際立っているというのがアタクシの印象。
それにしてもヒップホップから70年代ロック、デスメタル、ポストロックまでというバラエティーの広さは凄い。

世界的な視点で見たときに、各バンドのサウンドに圧倒的なオリジナリティーや革新性があるかと言われるとそういうわけでもないけど、日本でもよくあるように、「まるで本場」みたいなサウンドが評価されてのランクインと思われる。
あんまりインド色の強いサウンドは敬遠してみました、みたいなね。 

あとなんか頭が良さそうなバンドが多いよね。

バカです!ロックです!みたいなのは少なくともこの中にはいない。

Rolling Stone Indiaの好みなのか、インドでロックはけっこう上流説を裏付けるものなのか。

面白いバンドにもたくさん出会えたので、そのうち細かく紹介したいと思います!