2018年02月18日
以前紹介したアーティストの近況
トリプラ州のアイデンティティーとポジティブなメッセージを英語でラップするBorkung Hrankhawl(BK)は地元のラッパーやシンガーと共演した新曲をYoutubeにアップ。
共演はポップシンガーのParmita Reang、ロックバンドLadybirdのヴォーカリストのNuai、ポップロックシンガーのAben、ラッパーのZwing Lee。
この曲は州議会選挙の前にトリプラ人の意識を高めるためにジャンルを超えたアーティストが集まって作った作品とのことで、今回もメッセージ色の強い曲になっているようだ。
BKのいつものパートナー、Inaによるロック/EDM色の強いトラックは相変わらずだが、歌の部分がちょっと弱いかな。
共演のZwing LeeはBKと同じような北東部出身者への人種差別反対の主張をラップしているようで、メッセージ色の強い"Mere Geet"のミュージックビデオは一見の価値がある。
同じく英語ラッパーではインドNo.1とも称されることの多いバンガロールのBrodha Vも新曲をYoutubeにアップ。
今回はインド音楽が入ってくるのは最後の方のみで、全体的にEminemっぽいフロウが印象的に仕上がっている。
以前インタビューを行ったアルナーチャル・プラデーシュ州のデスメタルギタリスト、Tanaは、自身のバンドSacred Secrecyのニューアルバムのレコーディングを終えたところとのこと。
現在ミキシング中でリリースは夏頃だそうなので、完成したらまたみなさんに紹介できると思います。
ところで、先日のインタビューの結論として、インド北東部でもデスメタルはやっぱりアングラな音楽だった、という話になっていたけれど、彼のFacebook を見ていたら、非常に気になるものを見つけた。
それがこれ。
Feestival of Arunachalっていう、かなりちゃんとした地元のお祭りっていうか公式行事にタナのデスメタルバンドSacred Secrecyが出演するという。
他の出演者は地元のオーディション番組の優勝者、伝統音楽や映画音楽のシンガー、政治家など。
午後7:40からのわりといい時間に出してもらえるみたいだけど、日本だとこういうイベントに地元のデスメタルバンドが出演ってないよね。
やっぱりインド北東部、デスメタルが市民権を得てるんじゃないだろうか。
と思って本人に確認してみたら、「運営スタッフと知り合いで出演させてもらったんだよ。主催のお役人にはただの地元のロックバンドって言ってあるんだ。連中は演奏するまでどんな音楽か知らないんだよ。いつもこんなふうに騙してるんだけど、オーディエンスには楽しんでもらってるよ。騒音だって思う奴も、俺たちの音楽のパワーを感じてくれてるはずだね」とのこと。
なんだよそれ、最高じゃないか。
2018年02月17日
レペゼン俺の街! 各地のラッパーと巡るインドの旅
ヤンキーは地元が好き、みたいなのに通じるものがあるのかもしれない。
その気質はインドでも全く同じ。
州ごとに言語も違えば文化も違う、そんなインドのラッパー達がお国自慢のラップをやらないわけがない!
ということで、インド中のいろんな街でラッパーが地元の街を練り歩いてるビデオをYoutubeで探してみたら、出てくる出てくる。
今回はインド各地の街をラッパーが練り歩くビデオをみながら、いろんな街を巡ってみましょう。
街の名前言われたって違いが分かんねえよ、って人も、こうして比べて見てみれば、それぞれの街の個性を楽しんでいただけると思います)。
まずは地図、載っけときますね。
スタートはDIVINEさんの地元、マハーラーシュトラ州のムンバイ(旧ボンベイ)から!
曲の名前も"Yeh mera Bombay" (This is my Bombay)!!
インド西部、アラビア海に面したムンバイは、インド最大の都市にして商業の中心地。
でもこのビデオは、高層ビルや高級ホテルが立ち並び、ビジネスマンが行き交う大都会ではなく、庶民的っていうか下町っていうか、ギリギリスラムまで行かないくらいの地区で撮影しているところが肝心。
街のオヤジ達(一部カワイコちゃん)が「これが俺たちのボンベイだぜ」ってキメまくる。
「街の名前は変わったって、ここは何も変わらない俺たちのボンベイさ」っていうのは以前書いた通り。
満員のバスや電車、お祭りの人間ピラミッド、タージマハルホテルといったムンバイの象徴的な風景も挟み込まれるけど、最新のオフィス街なんかは一切出てこないのが逆に粋ってもんでしょう。
この曲、州の公用語マラーティー語ではなくてヒンディーでラップされているんだけど、それも多文化・他言語都市のムンバイならではと言える。
続いてはムンバイからインド亜大陸を北東に横断して、オディシャ州(旧名オリッサ州)へ。
ここの州都ブバネシュワールにほど近い、プリーという街出身のラッパー、Big Dealで、"Mu Heli Odia"
Big Dealは日本人のお母さんとインド人のお父さんとの間に生まれた日印ハーフのラッパーで、歌詞の最初のほうにもそのことが出てくる。今ではバンガロールを拠点として活躍しているようだ。
いずれきちんと紹介してみたいアーティストのひとりです。
プリーは漁民たちが暮らす小さな街で、映像も小さな漁船の上から始まる。
"Mu Heli Odia"は、この州で話されているオディア語で「俺はオディシャ人だぜ!」といった意味合いらしい。
プリーのオヤジ達が「俺はオディシャ人。オディア語を話すオディア野郎たちさ」とやるのはムンバイのDIVINEとほぼ同じだけど、映像は大都会のムンバイと比べると、ずいぶん鄙びた感じがするよね。
近くにジャガンナート寺院という大きなヒンドゥーの寺院があるせいか、サードゥー(ヒンドゥー行者)がちょくちょく出てくるところも見所。
海、海辺のラクダ、祭礼用の仮面、寺院、飛び立つ海鳥やクジラとローカル色がいっぱい。
俺やったるぜ的なリリックだけど、2:20くらいのところで、「インド中で食べられてるRosagolla(お菓子の名前)って、もとはオディシャのなんだぜ」なんてフレーズが入ってくるところも地元愛を感じる。
この曲は初のオディア語ラップソングということらしいが、オディア人としてのプライドが詰まった1曲なのだ。
では続きましてはプリーからぐーっと南へ下ってチェンナイ(旧名マドラス)へ。
チェンナイのあるタミル・ナードゥ州は、保守的というか真面目な州らしくて、夜更かししないようにナイトクラブのかわりにアフタヌーンクラブというのがあるとか、英語で落語をやる噺家が浮気の小噺をしても全然うけなかったとか、って話もあるところ。
それだけに、ラッパーもあんまりいないようではあるのだけど、見つけました。練り歩きビデオを。
MC Valluvarで「Thara Local」。言語はもちろんタミル語です。
チェンナイは、ムンバイ、デリー、コルカタと並び称されるインド第4の都市のはずなんだけど、撮影された地区の問題か、これまた今まで以上にド下町。
垢抜けない感じのラッパーと、映画音楽かなんかからサンプリングしたと思われるトラックがいい味出してる!
南インドに入って、街行く人々の肌の色がぐっと濃くなり、彫りの深い北インド系とはまた違ったドラヴィダ系の顔立ちになったのがお分かりいただけるだろうか。
最初と最後に出てくる屋外集会所、クリケット、おばちゃんが作るローカルフードに洗濯物干してる路地裏と、溢れ出る地元感がたまんない。
路地を練り歩いてると子供達がついてくるのも素敵だ。なんかかっこいいことやってる近所のあんちゃんって感じなんだろうね。
2分過ぎから急に路地裏ダンス対決が始まるところも、"Straight Outta Madras"っていうTシャツもイカす!
さて、最後はチェンナイからぐーっと北北西に移動して、タール砂漠の州、ラージャスタンへ。
地図に記載のあるジャイプルのもっと西、旧市街の街並みが美しい青色に塗られていることでも有名な「ブルーシティ」ことジョードプルのラッパー集団、J19 Squadで、"Mharo Jodhpur"。聴いてみてください。
男らしいラージャスターニー語のラップと、16世紀頃に建てられた青い街並みが非常にいい感じだ。
ワルってことのアピールなのか、砂漠の街なのにみんな革ジャンを着ているが、暑くないのだろうかと若干心配ではある。
あとどうでもいいけど、インドのミュージックビデオって、空撮が好きだよね。
ドローンあるから使おうぜ!ってノリなんだろうか。
ヒゲの先をツンと上に向けた男達がたくさん出てくるが、これは戦士として名高いこの地方特有の身だしなみ。途中で出てくる先のとがった靴や、色鮮やかなターバンもラージャスタン独特のものだ。
あとこれまた地元の食べ物が出てくるけど、世界中どこでも郷土のうまいものってのは自慢なんだろうね。
ここで出てくるのは、地元スタイルのカレーとカチョリという揚げ菓子で、あくまでも庶民的なのがストリート感ってとこでしょうか。
青い旧市街の真ん中の小高い丘の上にそびえるのは、いまでは美術館になっている古城メヘラーンガル砦。
最後の方にはこの地方のマハラジャが住んでいたウメイド・バワン・パレス(今では高級ホテルになっている)も出てきて、これまたお国自慢色満載!
というわけで、今回は大都会から海辺や砂漠の街まで、ヒップホップで巡ってみました。
こうして見てみてつくづく思うのは、インドの人たちはラップを黒人文化のコピーではなくて、完全に自分たちのものにしちゃってるんだなあってこと。
ヒップホップのビデオに地元の普通のおばちゃんとかそのへんの子どもを出そうってのは、日本人の感覚だと「あえて」的な考え方でもしない限り、なかなか出ない発想だろう。
日本語ラップの黎明期なんかだと、みんな東京にニューヨークみたいな「ヤバいストリート」っぽいイメージを重ねて、そっちに寄せた表現をしていたように思う。
もちろん、当時とはラップの国際化の度合いが全然違うっちゃ違うのだけれども、なんというか、インド人は、自分たちが黒人文化に寄っていくのではなくて、ラップのほうを無理やり自分たち側に構わず引き寄せちゃっている感じがする。
そしてそれが結果的にものすごく面白い表現になっている。
これだけ多様な言語や文化を持つインドの、どこに行ってもちゃんとその傾向があるってのが、なんつうかソウルを感じるじゃございませんか。
日本であえて似たテイストを探すなら、この曲かなー。
また他の街で練り歩きラップを見つけたら紹介します!
それでは今日はこのへんで。
2018年02月14日
ソカ、レゲトン…、ラテン化するインドポップス
前々から、インドとラテン系って、いわゆるイケメンの直球的なかっこのつけ方(及び顔の濃さ)とか、リズムへのこだわりとか、似ているところがあるよなあと思っていたのだけど、ここに来て、パンジャービー語、スペイン語、英語の3ヶ国語を使ったインド製ラテンポップスというのが誕生!
これが最近のボリウッドソングでよくあるヒップホップ経由のラテンテイストとばっちり合った至極の出来!
非スペイン語圏のスペイン語ポップスというのも珍しいのではないだろうか。
それでは聴いてみてください。Badal ft. Raja Kumari, Dr.Zeusで "Vamos"
どうっすか?かなり違和感なくラテンにしてインドでしょう?
しかも、ヒップホップでもロックでもなんでもインド風にしてしまう彼らが、この曲についてはごくごく自然なラテンテイスト。
スペイン語の部分は「さあパーティーだ」とか「君はイケナイ女の子だぜ」とか「こっちにおいでよ」的なことを言っているだけなので、スペイン語の必然性が無いっちゃあ無くて、響きと本格的なラテン風味が欲しかったってことなんだろうか。
メインで歌ってるBadalは1995年生まれ(若い!)のシンガーソングライター。
女性シンガーのRaja Kumariは、アメリカ国籍の南インド系シンガー/ラッパーで、最近はDIVINEとのコラボレーションをはじめとして、インド国内で引く手数多の活躍をしている。
Dr. Zeusはこの中ではいちばんのベテラン。バーミンガム出身のパンジャーブ系シンガー/プロデューサーで、90年代の世界的バングラブームの頃から活躍し始め、2014年以降はボリウッドの音楽も手がけている。
アメリカやイギリスからの逆輸入組を含めた インド人3人が集まって、誰もラテン系のルーツを持っていないのにスペイン語まじりのヒット曲を出すっていうんだから面白い。(Youtubeにアップされて1週間で1,000万ビューに届く勢い!)
しかも英語こそが進歩と教養の象徴みたいに思っているインド人が、かなり大衆的な曲でスペイン語を取り入れてるっていうのに非常に驚いた。
さらに、驚いたと同時にちょっと感動した。
なんで感動したかっていうと、アタクシの非常に乏しいラテン系の音楽の知識からすると、この曲に代表されるボリウッドのヒット曲のラテンの要素って、ジャンル的にはレゲトンとかソカに近いものだと思う。
で、プエルトリコ生まれのレゲトンはひとまず置いておいて、ここで注目したいのはトリニダード・トバゴで生まれた「ソカ」だ。
カリブ海に浮かぶ島国の中で最も南に位置するトリニダード・トバゴは、実は人口の約4割がインド系。
移民としてやってきた彼らは、奴隷として連れてこられたアフリカ系を超える同国最大のエスニック集団で、今でもこの国の人口のなんと2割弱がヒンドゥー教徒だ。
「ソカ(Soca)」はソウルとカリプソの頭文字を合わせた造語とされるが、それだけでなく、こうした背景のあるこの島に息づくインドのリズムもブレンドされてできた音楽と言われている。
(よりインド系のコミュニティーに根ざした「チャトニー」という音楽もある。"Chutney"はインド料理でおなじみの「チャツネ」のこと)
昔のソカはインドの音楽とは似ても似つかないんだけど、ヒップホップ等を経由した今日のソカと、同じようにヒップホップやラテンのリズムの影響を受けた今日のインドのポップスが、結果的になんだかすごく似たような感じになってきている。
本国を遠く離れたカリブのインド系移民が暮らす島の音楽と、インドのポップスが、長い時間をかけて同じような方向性になってきている。
これって、「つながった!」って感じがして、ちょっと感動しませんか?
ソカといえば、バルバドス出身のインド系シンガーRupeeのこんなスマッシュヒット(一発屋ともいう)もあった 。
ソカ/レゲトン系で最近のヒット曲といえばこの曲。
グラミー賞3部門ノミネートのLuis Fonsi ft. Daddy Yankeeの"Despacito". 再生回数はなんと48億回!
スペイン語圏を超えてヒットしたこの曲はインドにもしっかり届いたようで、こんなカバーを見つけた。
バーンスリー(インドの横笛)やタブラを用いたカバーなんだが、まず何に驚いたかって、このiPadの使い方!なんだこれ?
これだけでこの記事の他の内容がどうでも良くなるくらいの驚き!
最新のテクノロジーを使っているのに出てくるフレージングはどうしようもなくインド。ハイテクと伝統をごくあたりまえのように繋げてしまう。
iPadのこんな使い方を思いつくのはインド人だけ!
日本で雅楽やってる人で、iPadでひちりきみたいな音出そうって思う人絶対にいないもん。
カバーやiPadの使い方のアイデアの面白さだけじゃなくて、1:40くらいからの本気出してバカテクになるところも凄い!
インドの人たち、よっぽどDespacitoが気に入ったようで、この曲をインド人がカバーしているやつを探すと、とにかくいろんなバージョンがヒットする。
君たちいったいどれだけこの曲好きなんだ。続いては学生ノリが微笑ましいラップカバー!
楽しそうだなー。
みんなけっこう歌上手いし。
ラテンものに北インド的歌い回しがハマるってことを再認識させられる出来だ。
さらに正統派(?)のパンジャビ語カバー! (曲は40秒くらいから)
あれ?これがオリジナルだったっけ?これなんてボリウッド映画の曲だっけ?って言いたくなるほどのしっくりきてる!
最初に書いた「インドとラテンのイケメンのかっこつけ方が同じ」って話もこのビデオを見ていただければ誰でもご理解いただけるでしょう。
最後にお届けするのはインストのこのバージョン!
タブラが入ってるのは最初に紹介したのと同じだけど、ハルモニウムとギターに歌(1:40あたりから)が入るととたんにロマっていうかジプシーっぽいノリが出てくる。
そういえば フラメンコで有名なロマの人たちも、もともとのルーツはインドのラージャスタンあたりと聞く。
ってことは、西のスペインと東のカリブ、スペイン語圏がインドをキーワードに西と東でつながったってことだ!
そういえば、最初に見た"Vamos"のRaja Kumariもフラメンコっぽい格好していたし。
と、思いっきり妄想とこじつけによるものかもしれないけれども、インドから東西のスペイン語圏がつながった!っていうのがすごく面白いと思った次第でございます。
インド系はヒンドゥー、スペイン系はカトリックと、セクシー系にかっこつけてるくせに宗教的にはけっこう保守的なところも似てると言えば似てる。
人口の増加率を考えると 、21世紀はインドとラテン系の世紀になるかもしれないよ。続きを読む
2018年02月11日
欧米の「インド風ロック」と「インドのロック」の違い
90年代、インドとロックが大好きな若者だったアタクシは、よく「インドに影響を受けたロック」を聴いていたものでございます。
でも、欧米人が演奏する「インド風ロック」は、本場のインドを知ってしまった身からすると、どこかやっぱり物足りなかった。
時は流れて2018年。
ここでも紹介しているように、インドにもロックバンド がたくさんいる時代になった。
その中にはインド音楽の要素が入ったバンドもたくさんいる。
ボンカレーしかなかった街にインド人が作る本格インドカレーのお店ができたようなものだ。
本場のインド風ロック!最高ではないか。
実際、素晴らしいバンドがたくさんいる。
で、インドのバンドをいろいろ聴いてみてあることに気がついた。
それはどういうことかというと、
「欧米のバンドがやっているインド風ロック」と「インドのバンドのインド風ロック」って、全然違う!
ということ。
それを今日はアタクシなりに説明したいと思います。
まあとにかく聴いてみてください。
まずは欧米のやつから行きますよ。「知ってるよ」って人は飛ばしてくれても大丈夫です。
やっぱりまずはビートルズから。
ジョンの曲でシタールが印象的なNorwegian Wood.
とりあえず手軽にインドっぽくするならシタール入れとくか、って感じだね。
同じくジョンで、サイケデリックなTommorow Never Knows.
ずっと同じ音程が続くドローン的な音を入れるのもインドっぽさを出すポイントの一つですな。
当時からインド風の要素とサイケデリックって、セットで出てくることが多かったよね。
ヨガとか瞑想とかドラッグとかで知覚の扉を開く、みたいな。
次。ビートルズでインドといえばジョージ。
シタールのラヴィ・シャンカールに弟子入りしたりもしてたよね。
おお、かなり本格的!ってか本格的すぎて普通のビートルズファンはこの曲好きじゃないと思う。
ドローン音にシタール、バイオリン的な楽器の漂うようなメロディーがヴォーカルとユニゾンと、インド要素満載!
ビートルズときたらストーンズ。「黒くぬれ!」(原題:Paint it, Black)
全編にブライアン・ジョーンズのシタールだぜ!メロディーもそれっぽい感じにしてみたぜ!適当だけどな!俺たち不良だけどよ、インドっぽくしてみたぜ!って雰囲気だろうか。
時代は一気に90年代へ。久しぶりに出てきたインドかぶれバンド、Kula Shakerで "Tattva"をお聴きください。
Tattvaはサンスクリット語で「真理」とかそんな意味の言葉だったと思う。
同じフレーズを繰り返すマントラ的なAメロでインド的な要素を出した後で、ぐっとポップなBメロに続くところの解放感が素敵。
彼らのインドかぶれっぷりったるや相当なもので、実際にヒンドゥーの宗教歌のカヴァーとかもやっていたりする。
こうやって並べてみると、インドに影響を受けたロックって……もっとあるかと思ったけど、あんまりなかったな…。
60年代と90年代しか無いし、90年代はクーラシェイカーだけだし。
ヒッピームーブメントの頃からインド風ファッションを取り入れるミュージシャンも多かったから、実態以上にロックへのインドの影響って、大きく感じられるのかもしれない。
あと偶然だけど並べたバンドが全部イギリスのバンドだった。
ロックに豪快さとパーティーと反骨精神を求めるアメリカ人は、内省的なインド的要素と相性が良くないのかもしれないね。
はい、それじゃあ次は本場インドのバンドがインド音楽を取り入れた曲ってのを聴いてみてください!
以前紹介したことがあるAnand Bhaskar CollectiveさんのMalhar.
なんかイギリスのバンドと全然違うよね。とにかくこの歌!
演奏のコード感は逆にちょっとイギリスのツェッペリンっぽい感じもあるかな。
続いてはRolling Stone Indiaが選ぶ2017年のTop10ミュージックビデオにも選ばれていたニューデリーのバンド。
PakseeのRaah Piya.
これも全然違うぞ。
演奏部分はむしろファンク的にグルーヴしていて、でもまたしてもヴォーカルがどうしようもなくインド!
途中で唐突にラップするところもイカす。
どんどん行きましょう。インド風ロックというより、ロック風インド!AgamでMist of Capricorn(Manavyalakincharadate)。カッコの中の単語、南インドの言葉だと思うけど、長え!
エンヤっぽい感じで始まったと思ったら、歌い回しからエレキギターのフレーズまで、あらゆるところがインドだ。
…と、こんなふうに、イギリスのバンドとインドのバンド、インドっぽいロックをやるにしても、全然違った感じの出来になるのだから不思議。
インドっぽさの解釈、インドっぽさをどこで出すかがまるで違う。
イギリスのバンドとインドのバンド、それぞれがどの部分でインドっぽさを出そうとしているのか、まとめてみるとこんな感じになると思う。
イギリスのバンドの中のインドっぽい要素
・シタールやタブラといった楽器の「音色」
・ずっと同じ音程が続くドローンノート
・マントラ的に繰り返したり、エスニックな旋律だったりするそれっぽいメロディーライン
・でも歌の発声自体はインドっぽくはなく、普通の英語のポップスやロックと同じように歌われる。
イギリスのバンドがやるときのインドっぽい要素
・とにかく歌い回し!
南インドのカルナーティックや北インドのヒンドゥスターニー音楽に由来する独特に揺れて上下する音程。
・同様にギターやバイオリンといったリード楽器も、インド的な「音程の取り方、運び方」をする。
・でも演奏の核になるリズムや伴奏部分は、むしろ普通のロックだったりファンクだったりする(タブラやシタールといった記号的なインド楽器が使われることはない)。
と、こんな感じだ。
要は、イギリスのバンドが楽器の「音色」や「ドローン音」「メロディーライン」でインドを表現しているのに対して、インドのバンドは歌やリード楽器の「歌い回し・フレージング」でインド的な要素を出している。
アタクシ、古典音楽には全然詳しくないのだけど、 どうもインドの古典音楽というのは、声楽がすべての基本となっていて、楽器の演奏も声楽を模したものとして表現されるという話を聞いたことがある。
ところが、そのインド古典声楽の歌い方は、ロックとも、西洋のいかなる音楽とも違う。
欧米人のロックミュージシャンがインド声楽を理解し、体得して表現するのは大変だ。
そもそも、それをやってしまうと、ロックの歌い方ではなくなってしまうし、そこまでインド音楽を本格的にやりたいわけでもないのだろう。
そこで、イギリスのバンドは、ロック的な楽曲に、声楽ではなく、インドの楽器の音色や、エスニックなメロディーラインを取り入れることでことでインドっぽさを演出することにした。
ありあわせの材料で作ったなんちゃってエスニック風料理に、インドのスパイスをふりかけてみました、みたいな感じと言えるかな。
いっぽう、インドのバンドたちは、ロックを演奏するのだから、基本編成はギター、ベース、ドラムス、キーボードといった王道の楽器で固めつつ、インドの要素を取り入れるために、インド音楽のすべての基本であるヴォーカルをまず取り入れることにした。
エレキギターなどのロックの楽器で本格的な古典音楽のフレーズを弾いて、さらにインドらしさを演出している人たちもいる。
(古典音楽の楽器でインドっぽいフレーズを弾いてしまうと、それはまんま古典音楽になってしまうので、インド人はやらないのだろう)
洋風の器に、本場のインド料理を盛りつけてみました、ってところかな。
とまあ、最近のインドの音楽をいろいろ聴いているうちに、こんなふうな違いを発見したって次第です。
だから何だよ、って言われても困るのだけどね。
2018年02月10日
秘境ナガランドの“We are the World”
今回紹介するのは「ナガランド」。
例のインド北東部7州「セブン・シスターズ」の中のひとつだ。
州の名前の「ナガ」とは、インドとミャンマーの国境付近に広がる山岳密林地帯に暮らす民族の名前で、ほんの数十年前まで、部族間の抗争や成人の儀式として「首狩り」の風習が行われていたことでも知られている。
かつてはインド、ミャンマーの両国を相手にした武装独立闘争が展開されており、ナガランド州もインド政府によって長らく外国人の訪問が制限されていた。
そのせいもあって、このあたりはごく最近まで『アジア最後の秘境』と呼ばれていた。
最近では、外国人観光客にも解放されていて、他のインド北東部の諸州と同じく非インド的な方向に発展してきているようで、北東部名物デスメタルバンド*もちゃんといる。
*クリックするとナガランドのデス/ブラックメタルバンドAguaresの曲、その名も“Storm of Satanic Cult”(中二っぽいかわいいタイトル!)が聴けます。
このナガランド、いつも「首狩り」とか「秘境」とか、見世物的好奇心を煽るフレーズでばかり紹介されているのが正直ちょっと気の毒だなって思うのと、そこに輪をかけてアタクシもデスメタルバンドなんかを紹介してしまったところなので、今回は、ナガランドの美しく調和した姿を感じられる曲を紹介させてもらいます。
本日紹介するのは、“Voice of Naga”というグループ(プロジェクト?)の“As One”という曲。
この曲、何が面白いって、あの“We are the World”のように、ナガランドに暮らすさまざまなコミュニティーが、それぞれ個性的な服装、歌唱方法、振り付けで1フレーズずつ歌ってるっていうこと。
「ナガ族」は、単一の文化のもとに暮らしているのではなく、異なる習俗、言語、服装を持った16の「部族」(Angami, Ao, Chakhesang, Chang, Kachari, Khiamniungan, Konyak, Kuki, Lotha, Phom, Pochury, Rengma, Sangtam, Sumi, Yimchunger, Zeme-Liangmai)の総称(と、英語版Wikipediaをはじめいろんなサイトに書いてあった)とされている。
この曲では、ナガの16部族にインド各州からの移民の人々なども加わって、個性を競いつつナガランドの調和が歌われており(多分)、この曲を聴けば、ナガランドでどんな人々が暮らしているかっていうのが自ずと分かるようになっているってわけだ。
モンゴロイド系のナガの人々のなかに、インドのいわゆるメインランドの人たち(テルグーとかパンジャーブとかビハールとか)が出てくると、歌い回しも顔立ちもぐっと濃くなるのがちょっと面白い。
あと、イスラム教徒の人たちに関しては、民族名や出身地ではなくて「ムスリム」とざっくりひとまとめにされているところも趣深い(歌い出しはやっぱり「アッラー」)。民族的な相違に関わらず、ムスリムはひとつのコミュニティーという扱いなのだろう。
それにしてもよくこれだけいろんな部族から歌の上手い人集めてきたよなあ。
この中からさらに選抜したメンバーで「India’s Got Talent」っていう全国区のオーディション番組にも出たようだ。
そのときに歌った曲は「Dil Hai Hindustani」。
これは「わたしの心はインド人」という意味で、「北東部出身のわてら、顔かたちや服装は一般的なインド人と違うかもしれへんけど、国を愛するれっきとしたインド人なんでっせ。忘れないでおくんなまし」といった意味もあっての選曲なのだろう。
今回紹介した「As One」、つっこみ所を探せば、なんかユニセフ的な毒気のなさっていうか善良さが鼻につくとか、最後の方で真ん中に座ってる政治家っぽいオッサンが気になるとか(みんなに慕われている立派な人なのかもしれないけど)、茶髪の女の子はきっとふだんは民族衣装着てないよね、とか(日本でいう花火大会の浴衣みたいなもんかね)、途中で出てくる部族のダンスの映像がなんか観光客向けのっぽいとか(別にいいけど)、映像を見ないで曲だけ聴くとけっこうつまらないとか(それを言っちゃあおしめえよ)いろいろあるのだけれども、コンセプトの面白さと完成度の高さは素直に素晴らしいと思う。
A.R.ラフマーンあたりに、インド全国版のこういう曲を作ってもらえたら、是非聴いてみたいなあ。
と思ったら、この曲の最後のクレジットの「アドバイザー」としてA.R.ラフマーンの名前が!やっぱり絡んでいたのか。
でもナガランドの文化を網羅しただけで曲の長さが8分超で、まさに長(なが)ランド(すいません)。
もしインド全国版を作ったら、いったいどれくらいの長さになるのか想像もつかないですなあ。
魅力の尽きぬインド北東部、今回はナガランドからのお届けでした。