2024年06月12日

知られざるチャイ・ラップの世界


インドのラッパーはやたらと地元の食べ物のことをラップする。
日本でもたまに地元のグルメを取り上げたリリックを見かけることがあるが、インドの場合は、それがあまりにも多すぎる気がする。
郷土愛はいいけど、レペゼンするのそこかよ、と突っ込みたくもなる。
これは以前からずっと気になっていた傾向で、3年前にこのネタで一本記事を書いたこともあった。


その後もローカルグルメラップをちょくちょく見つけては、またそのうち記事にしようとストックしていたのだけど、最近、その中でさらに気になるサブジャンルを見つけてしまった。
それが「チャイラップ」だ。
チャイというのは、もちろんインドの国民的飲料の、あのシナモンとかカルダモンとかを入れた甘いミルクティーのことである。
(こだわる人はチャーイと書くみたいだし、正しいヒンディー語ではチャーエだと聞いたこともあるが、俺はこだわらない派なのでこの記事ではチャイで行きます)

最初に断っておくと、今回の記事では、人気アーティストとかかっこいい曲は一切出てこない。
インドのいろんな街で、いろんな無名のラッパーたちがチャイのことをラップしている。
ただそれだけだ。
でも、そのへんのにいちゃんに毛が生えたみたいなラッパーが、毎日飲んでいる飲み物(しかも、酒じゃない)のことをやたらとラップにしているっていう事実そのものが、すごくインドっぽくて面白い。
とかくローカルになりがちなヒップホップで、州や街の名物料理ではなくて、チャイという、国全体を代表(レペゼン)する飲み物を取り上げているというのもなんだか味わい深い。

さて、そろそろ一杯めのチャイの準備ができたようだ。
さっそく飲んで(聴いて)みようか。



最初に紹介したいのは、Shivam Raazなるシンガー/ラッパーの"Tea Lovers | Garam Wali Chai"という曲だ。
Tea LoversとGaram Wali Chaiのどっちが曲名かよくわからないうえに、YouTubeの動画タイトルには、Chai AnthemとかChai Whatsapp Statusとかさらにいろいろ書いてあっていきなり混沌としているが、そんなことを気にしているようではチャイラップは飲み干せない。

Shivam Raaz "Tea Lovers | Garam Wali Chai"

この曲をやっているShivam Raazという人物、情報が少なすぎてよく分からないのだが、どうやらインド中央部マディヤ・プラデーシュ州で活動しているラッパー兼シンガーらしい。
チルなビートに合わせたラップも心地よいが、何よりも、この町ではイケてるのであろうチャイ屋に若者がたむろっているだけの、素人っぽさ満載の映像がたまらない。
YouTubeで彼がアップしている動画を見ると、アコースティックギターで弾き語りをしていたり、学校で音楽を教えていたりもするので、きっと地元ではちょっと有名な音楽が得意な兄ちゃんなのだろう。
彼の動画はどれも数千回程度しか再生されていないのだが、このチャイラップだけは堂々の一万再生越えで、ダントツの人気を誇っている。
チャイラップ(というジャンルにインド人が自覚的かどうかは別にして)の人気の高さが分かろうというものだ。


続いて紹介するのは、Abhijeet IjateとDaninという人たちによる"Tribute : चाय | tea".
ヒンディー語(デーヴァナーガリー文字)の部分は、Google先生によると、そのものずばりチャイと書かれているらしい。

Abhijeet Ijate, Danin "Tribute : चाय | tea"


このミュージックビデオは、Brewersという短編ドラマやインタビュー動画などをアップしているYouTubeチャンネルでアップされていたもので、解説によると、

日の出前から日没後まで
エネルギッシュな一日の始まりから
午後のさりげない会話まで
人生に甘いいろどりを加えるささやかなひとときから
生涯の思い出をつくる時間まで
チャイはいつもそばにいる
これは、インドでほとんどあらゆる時に使える「言い訳」に対する私たちからのささやかな賛辞である


とのこと。
確かにチャイはインドであらゆる機会に飲まれているし、言っていることはその通りなのだが、わざわざ曲を作ってミュージックビデオも撮って、さらにこんなポエムまで書いてしまうところに、チャイへの深すぎる愛情(ていうか業)を感じる。
今度は店ではなくて屋外でチャイを飲むいろんな人々が出てくるが、外で飲むチャイってやたらと美味く感じられるんだよなあ。
外国人向けの動画でもないのに、いかにもな古典舞踊のおねえちゃんたちが華を添えているのもイイ。
この動画の舞台がどこの街なのかは良く分からなかったが、音楽面で中心的な役割を果たしているらしいミュージシャンのAbhijeet Ijateは、インド西部のプネーを拠点に活動しているようである。
まあでも、こういう動画の舞台がどこかなんて詮索しても意味がないのかもしれないな。
なにしろチャイは「インドでほとんどあらゆる時に使える言い訳」だっていうんだから。



「アルコールの歌ばっかりだなー」と頭をかかえる若者二人に、テレビの向こう側からの「チャイ売りの歌、聴いてくれる?」という唐突な呼びかけで始まる(翻訳:Google先生)次の曲は、Chai-Matthi Talesというデリーなコメディ動画のチャンネルからリリースされたもの。

Kalakaar "Chai Anthem"


コメント欄には「チャイ・アンセムを広めて俺たちがいかにチャイ好きか分からせようぜ」とか「これはバズるの間違いなしだ。どうしてメインストリームの奴らはチャイの曲をリリースしないんだ」とか「チャイ中毒で一日に15杯は飲む」とかいう、ふざけつつもガチなチャイ愛を感じられる声が寄せられている。
このKalakaarというラッパー、結構うまいなあと思って調べてみたら、ソロでは普通に今っぽい曲をリリースしていた
とはいえ、多士済々のインドのヒップホップシーンでは、彼の曲はまだ数十から300再生程度。
チャイのように甘くはない世界である。



こちらはまた別のラッパーによるチャイ・アンセム。
そもそもの疑問に戻るが、いかにチャイがインドの国民的ドリンクとはいえ、果たして「お茶」にアンセムが必要なのだろうか。
日本に緑茶アンセムなんてないし、イギリスの紅茶アンセムというのも聴いたことがない。
インドは国の祝日までラップにしてしまうお国柄なので、これもインドの国民性と言えるのかもしれない。


Rappeer Ankit "Chai Anthem"


ほぼリリックビデオなので、動画として見るべきところはないが、笛とタブラ風の音が入ったいかにもインドっぽいビートが味わい深い。
ラップしているのはRapper Ankitという東インド内陸部のチャッティースガル州のラッパー。
MCじゃなくてRapperと頭につけるラッパーはインドでたまに見かけることがある。



次は、名前にラッパーじゃなくて「シンガー」がついているShafi Singerという人がやっている"Chai Wala Rap Song"という曲。

Shafi Singer "Chai Wala Rap Song"


このShafi Singer、どうやらハイデラバードの人らしいが、彼のYouTubeチャンネルを見てみると、名前にシンガーと付いているのにラップばかりしている。
彼がアップしている動画はだいたい数百〜1万再生ほどで、決して有名とはいえないラッパー(シンガー?)だが、この曲だけは48,000回くらい再生されている。
やはりチャイをテーマにしたラップの人気は根強いみたいだ。

道端のチャイ屋とそこに集う野郎どもをただ撮っただけみたいな動画と、このヒップホップともEDMとも言えない独特の垢抜けないビートがいい。
まだ誰もジャンル名を付けていないサウンドだと思うのだが、南インドでは、どうやらこういう速めのエレクトロニックなビートにラップ風の歌をつけたジャンルが根付きつつあるようだ。
(例えばこのリンクの最後の曲)




いよいよ最後の曲。
MaOneというラッパーの"Garam Chai Rap Song".
Garamはヒンディー語などの言語でhotという意味だ。

MaOne "Garam Chai Rap Song"


どうやらコルカタのラッパーらしいが、合成みたいな映像、カップを持った子どもたち、微動だにしない後ろの兄ちゃんたち、地元感丸出しの何の変哲もなさすぎるロケ地(後ろを子どもを抱いたオッサンが歩いていたりする)など、全てが謎すぎる。
ただ、チャイが好きなことだけは分かるというのが、チャイラップの真髄である。


律儀に6曲全部聴いてくれた方はもうお腹がタプタプになっていることだろう。
つくづく思うのは、インドのラッパーたち、というかインド人が、ここまで自分の国の大衆的な食文化であるチャイを愛しているというのが、率直に言うと、ちょっとうらやましいということだ。
たとえ垢抜けなかろうがダサかろうが、チャイへの愛をラップという形で表現しようという発想に至るっていうのが最高だ。
意識的にせよ、無意識的にせよ、日本のヒップホップがアメリカ的なスタイルをどう日本語で表現するかというテーマに終始しがちなのに対して、彼らの普段着&自然体っぷりは、むしろ超リアルな姿勢だと言える。
「憧れるのをやめましょう」とか言うでもなく、ヒップホップを適当に自分のものにしちゃってるインド人たちのアティテュードに、見習うべきところは大いにあるんじゃないだろうか。
インドって、いろんな意味でなんだかすごく豊かだよなあ、とも改めて感じた次第である。




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goshimasayama18 at 23:41|PermalinkComments(0)

2024年05月26日

ヨギ・シン情報まとめ!


この「アッチャー・インディア」は一応音楽ブログなのですが、音楽には全く関係のない謎の占い師「ヨギ・シン」の話題がなぜか最大(最長)のシリーズになっている。

世界中の街に出没し、「あなたはラッキーな顔をしている」と声をかけて、小さな紙に書きとめた言葉でで、人の心を読み取って当てる謎のインド人占い師、ヨギ・シン。
好きな数字や好きな色や母親の名前などを的中させ、お金を要求するという手口を使う「彼」は、なんと200年も前から存在しているという。

最初に断っておくと、私のスタンスは、「彼」を詐欺師として非難したいわけではない。
また、「彼」が信仰していると思われるシク教の教義と結びつけて解釈する意図もない
この「占い師」が世界中に広まった過程には、パンジャーブで生まれたシク教という宗教の歴史や、彼らのコミュニティの特性と大きな関わりがあると考えているが、それは信仰や教義とは全く別の次元の話だ。

若干イリーガルな稼ぎ方なら他にもいくらでも方法はあるだろうし、もし海外に渡航できるだけの資金があるなら、他のリスクが少ない働き方を選ぶこともできるはず。
この2020年代に、100年も昔から伝わる技術だけで、世界中をまたにかけている彼らの存在にとにかく興味がある。
私が彼らにここまでこだわっている理由は、ただそれだけだ。

ヨギ・シンの情報がここまでまとまっているのはたぶん世界でもこのブログだけ。

私がどうやって彼らの存在を知り、惹かれたのか?
どのように彼らに出会い、彼らは何を語ったのか?
彼らの「占い」のトリックは何だったのか、そして彼らの正体は何者なのか?

ここまでに書いた数多くの記事のリンクをまとめてみました。
日本で、あるいは海外で、この不思議な占い師に遭遇した方、ぜひ情報をください。


まずは、とある本をきっかけに彼の存在を知り、その正体についての想いを馳せるプロローグ的な記事がこの2本です。
(100回記念特集)謎のインド人占い師 Yogi Singhに会いたい




その1年後、ヨギ・シンが東京に出没との情報を受けての捜索記、そして遭遇!
あのヨギ・シン(Yogi Singh)がついに来日!接近遭遇なるか?


ヨギ・シンを探して インド謎の占い師捜索記(その1)


ヨギ・シンを探して インド謎の占い師捜索記(その2)


ヨギ・シンを探して インド謎の占い師捜索記(その3)


彼らの「占い」について、インドのマジックという観点から調べて見たところ、これがめちゃくちゃ面白かったという話。
知られざる魔術大国インド ヨギ・シンの秘術にせまる(その1)


知られざる魔術大国インド ヨギ・シンの秘術にせまる(その2)


この日本に、かつてここまでヨギ・シンに迫った人がいた!今にして思えば、彼らの「トリック」についてはほぼここで解明されていたのではないかと思う。
探偵は一人だけではなかった! 「ヨギ・シン」をめぐる謎の情報を追う


インドのマジック続編。
日本語でここまでインド奇術の真髄と悲哀に迫った本があったとはびっくり。
インド魔術の神秘に迫る!山田真美さんの名著『インド大魔法団』『マンゴーの木』


ヨギ・シンはどこから来たのか。彼らはどんな人々なのか、その正体を考察してみたシリーズ。
ヨギ・シンの正体、そしてルーツに迫る(その1)



そして2023年、ついにヨギ・シンとの本格的な接触に成功!


ヨギ・シンとの対話(後編)

ヨギ・シンとの遭遇を終えて

ヨギ・シンとの遭遇から1ヶ月も経たないうちに、新しいヨギ・シンの出没情報が寄せられた!

二人目のヨギ・シンとの対話

二人目のヨギ・シンとの再開



また書いたら足していきますね。


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goshimasayama18 at 20:30|PermalinkComments(13)ヨギ・シン 

2024年05月13日

インドとラテン風ポップ/ヒップホップ 2024年度版


以前も何度か記事にしたことがあるネタだが、インドのポップスやヒップホップを聴いていると、ラテンっぽい要素が目立つ曲がかなりたくさんあることに気がつく。



インドとラテンが共通して持つ独特の濃くてケレン味たっぷりのノリが、地球を半周して共鳴しているんじゃないかと思っているのだが、本当のところはわからない。
インドの音楽シーンは日本よりもはるかにアメリカのシーンの影響を受けているので、いまやアメリカのメインストリームのひとつとなったラテンポップスが、単にインドでも流行しているだけなのかもしれない。
んなことは考えてもしょうがない。今回は、ラテン風のインドのポップス/ヒップホップの最新版を紹介します。


近年のこのテーマでの重要作としては、インド系アメリカ人の大物EDMプロデューサーKSHMRが昨年11月にリリースしたアルバム"Karam"がまず挙げられる。
インド各地のラッパーをフィーチャーしたこのアルバム、ラテンっぽい曲がかなり目立つ内容だった。


今回は南インドのケーララ出身のラッパーDabzeeとVedanをフィーチャーした"La Vida"と、デリーのベテランKR$NAが参加した"Zero After Zero"を紹介したい。

KSHMR, Dabzee, Vedan "La Vida"



KSHMR, KR$NA, Talay Riley "Zero After Zero"


"La Vida"のほうは歌詞にもスペイン語が取り入れられていて、より本格的なラテン風味になっているのがポイント。
2つめの"Zero After Zero"でラップしているKR$NAはソロ作品でもラテンの要素を導入していて、昨年リリースされた"Prarthana"のビートもラテンっぽいベースラインやメロディーがループされている。

KR$NA "Prathana"


この曲はレゲトンっぽい最近のリズムとは違って、もっと古いタイプのラテン音楽を引っ張ってきているのが面白い。
同郷デリーのラップデュオSeedhe Mautをフィーチャーしたこの"Hola Amigo"(分かりやすすぎるタイトル)は、なんでか知らないが格好までメキシコ人に寄せている。

KR$NA ft. Seedhe Maut "Hola Amigo"


メキシコ人の扮装をすることが、インドでどんな意味があるのか、リリックとは関係があるのか、スペイン語はインド人にとってどう響くのか、いろいろと気になるが、いつもながら彼らのラップはかなりかっこよく仕上がっている。


と、こんなふうにラテンっぽいラップが多いインドでも、「とうとうここまで来たか」と感じたのが、デリーのラッパーKarunが若干18歳のシンガーLambo Driveらと共演したこの曲だ。

Karun, Lambo Drive, Arpit Bala & Revo Lekhak "Maharani"


この曲も今風のレゲトンではなく、もっと古いタイプのラテンっぽいリズムやコードが使われているのだが、後半にはサンタナみたいなギターまで入ってくるラテンっぷり。
映像を見る限りは完全にインドだが、音だけ聴いているとプエルトリコなのかメキシコなのかキューバなのか、どこにいるのか分からなくなってくる。


ラテン風味を楽曲に取り入れているのはヒップホップだけではなくて、最近デビューしたインドの4人組女性ダンスポップグループW.I.S.H.のデビュー曲もかなりラテンっぽかった。

W.I.S.H. "Lazeez"


インドでも人気の高いK-Popガールズグループの雰囲気を取り入れつつ、音楽的にはインドで流行っているっぽいラテンポップに仕上げるというのは、インドではまだ珍しいこの手のガールズグループを成功させようと考えた時に必然的に導き出される結論なのだろう。
結果的に郷ひろみとか西城秀樹がカバーしていた90年代のラテンポップっぽく聴こえないでもないが(もしくはSantanaの"Smooth")、このミュージックビデオも含めたちょっとダサい感じが大衆音楽としてはむしろ肝心な部分なのかもしれない。
W.I.S.H.については、その売り出し方も含めてかなり興味深い存在だと思っているので、いずれ詳しく特集してみたい。


インド本国を離れて、在外インド系シンガーたちもラテン的な要素を積極的に導入している。
例えばカナダで活躍するRaghav.
彼に関しては、全英チャートやカナダチャートでのヒット作品も多いので、「ラテン化するインドポップ」の文脈ではなく単に北米のアーティストの傾向として見るべきかもしれないが。

Raghav "Desperado (feat. Tesher)"


共演のTesherもカナダで活躍するインド系のラッパーだ。
イントロのインドっぽいフレーズからシームレスにラテンっぽいメロディー(ここもサビはスペイン語)につながるのが面白い。
このリズムパターンはインドのポップスでよく使われるやつだが、考えてみればラテンポップスともかなり親和性が高いリズムである。

この分野で、いつかインド人による世界的なヒット曲が生まれたりしたら面白いなあ、と思っているのだけど、その日はそんなに遠くないのかもしれない。



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goshimasayama18 at 21:40|PermalinkComments(0)

2024年05月03日

インドからいろんなアーティストが来日しまくっている!

気がつけば1ヶ月以上、新しい記事を書いていなかった。
これはブログを始めて以来はじめてのことだ。
この間、何をしていたのかというと、インドから来たいろんな人たちと会っていた。

まず4月上旬に日本にやってきたのは、オディシャ州プリー出身の日印ハーフのラッパーBig Deal.
彼のことは以前もこのブログで何度か紹介している。

これは6年前に書いたごく簡単なBig Dealの紹介記事なんだが、改めて読み返してみたら、文章があまりにも酷くて驚いた。
でもまあ彼がどんなバックグラウンドを持ったラッパーなのかはとりあえずわかってもらえると思う。

こちらは4年前に書いた記事。
当時公開されていた映画を絡めてどうにか読んでもらおうという浅ましさが感じられてオエッとなったが、それはこっちの問題で、Big Deal がヒップホップという外来の文化にインドならでは状況を真摯に重ねていることがよく理解できるはずだ。


今回Big Dealは関空から来日。
到着翌日に、さっそく大阪を拠点に活動している生ヒップホップバンド「韻シスト」のベーシストShyoudogとドラマーのTarow-Oneを紹介した。
シンガーをやっているかみさんのツテで、Shyoudogとは以前から知り合いだったのだが、Big Dealに彼らの音源を聴かせてみたところ、非常に気に入ったとのことで、予定を調整してもらったのだ。
彼らがやっているお店(チルアウト酒場ネバフ食堂)にて顔合わせ。
好きなラッパーの話とかですぐにうちとけて、ちょうどお客さんが少ない時間帯だったので、MPCとミニキーボードで音を出してBig Dealにフリースタイルをしてもらった。
それにしてもラッパーってすげえなあ、と思ったのは、ちょうどその日休みだったスタッフ兼ラッパーの方がお店に顔を出したときに「ちょっと今インドのラッパーが来てるからフリースタイルやってよ」って言われて、ちゃんと韻踏んでラップしてたってこと。
「え?インド?ラッパー?いいっすよ」って感じであたり前のようにラップしてて、猪木の「いつ何時、誰の挑戦でも受ける」って言葉を思い出した。
図らずも実現した日印ラッパー&ミュージシャンのセッションを間近に見られたのは最高だった。
Shyoudog, Tarow-One, OneMiさんありがとう。


Big Dealは4月12日には東京で行われたMusic Bridge Tokyoっていう国際音楽イベントに出演したDarthreider & The Bassonsのステージにゲスト出演。オディア語のラップで会場を盛り上げた。

それにしてもこのイベントのダースレイダーさんは凄かったなあ。
客席は外国のお客さんがほとんどだったのだけど、ドラムとベースのみという最小限のバンドに合わせて、ほとんど英語のラップやフリースタイルで沸かせていた。
いろんな国の人がいるし、俺みたいな日本人もいるわけだから、ノンネイティブにも分かるごくシンプルな英語しか使っていないのだけど、言葉の力と場を支配する力でグルーヴを生み出してゆくパフォーマンスは、MCという言葉が本来意味するMaster of Ceremonyという言葉にふさわしいものだった。
Darthreider & The Bassonsが海外のフェスによく呼ばれている理由が分かった気がした。

Big Dealは、その2日後にはダースレイダーさんと仙台を代表するラッパーのHUNGERさん(この2人は国立民族学博物館で密かに行われている「辺境ヒップホップ研究会」のメンバーでもある)と都内でスタジオ入りして1曲レコーディング。
三者三様のフローが楽しめる日本語、英語、オディア語のマイクリレーはそう遠くないうちに世に出るはずなので楽しみにしていてください。
Big Dealはその後も日本各地を満喫してつい先日無事ムンバイに帰ったとのこと。
東京ではダースレイダーさん、HUNGERさんを交えたインタビューも行なっていて、これも近々、たぶん辺境ヒップホップ研究会のウェブサイトで公開されるはずなので、乞うご期待。



4月中旬には、昨年も1ヶ月の日本滞在を楽しんだビートメーカーのKaran Kanchanが再び来日。
今回は2ヶ月間、日本の各地を旅するという。
彼についてはこのブログでもたびたび取り上げているが、最近ではDIVINEのアルバムでの楽曲プロデュースやNetflix映画の音楽を担当したことなどでますます活躍の幅を広げ、なんとSpotifyとYouTubeでのプロデュースした楽曲の合計再生回数が10億回(!)を超えたとのこと。
いまやインドでもっとも勢いのあるプロデューサーと言ってもまったく過言ではなくなった。

過去の記事や辺境ヒップホップ研究会でのインタビューを貼っておきます。





今回の滞在では、前回の来日で関係を構築したアーティストとのコラボレーションにも取り組むそうで、ここでも日印のアーティストの絆が生まれそうだ。
5月4日には京都のBrooklyn Night Bazaarで日本での初DJを披露する予定もある。
日本のヒップホップなんかもかけるそうなので、近くの方はぜひ遊びに行ってみてください。
KKBrooklynBazaar

関東近郊の方は、5月11日(土)の深夜25時から、J-WAVEのM.A.A.D Spinという番組でインタビューが放送されるので、ぜひそちらを楽しみにしてほしい。
ちなみになぜか私が通訳やってます。
自分は留学したり英語を真面目に勉強したりしたことが全くなく、英語でのコミュニケーションは常に「根性英語」でやっている。
今回も電波に乗せるにもかかわらず非常に適当な通訳でたいへん恐縮なのだが、彼が話しているインドの音楽シーンだったり、彼の日本文化への思い入れだったりの話は大変面白いので、ぜひ聴いてみてください。
ナビゲーターのNazwa!のお二人(Naz Chrisさん、Watusiさん)が上手に話をリードしてくれています。

Karan Kanchanはスタジオでたまたま同じ時間に収録していたZeebraさんとも挨拶を交わしていた。
この4枚目の写真、近いうちに「え!あの二人が!」ってなるんじゃないかと思う。


せっかくなので最近彼が出演したビッグステージ、Lollapalooza Indiaのときのダイジェスト映像と、最近リリースした中でとくにかっこいいと思う曲を貼っておきます。




彼は他にもPritamやVishal Shekharといった映画音楽の大御所とコラボレーションしたり、Boiler Roomに出演したりもしていて、インドでも揺るぎないビッグネームになってきている。

Karan Kanchanはこの後も日本にしばらく滞在して、音楽制作(久しぶりのJ-Trapを三味線奏者の寂空-Jack-さんと共演で作るとのこと)や各地の観光をするとのこと。


そういえば、3月にはデリーのベテランラッパーKR$NAも来日していて、銀座の新しいクラブZouk Tokyoでのイベントに出演してたらしい。


デジタル分野での音楽マーケティングなどを手掛けているBelieveの主催企画だったとのこと。
これ全然気が付かなくて、SNSで見つけた時にはもう終わっていたのだけど、日本で本格的なパフォーマンスを行ったインドのラッパーは、彼が初めてだったんじゃないかと思う。

KR$NAは昨年も来日していて、この"Joota Japani"という曲のミュージックビデオを撮影していた。
いつもは日本のヒップホップの映像を撮影しているクルーが手掛けていて、かなりお金をかけた気合いの入った作品に仕上がっている。
(ギャルがガラケーを使っているのが気になるが)



この曲のビートは、1955年の名作ヒンディー語映画"Shree 420"の挿入歌"Mera Joota Hai Japani"(「靴は日本製、ズボンは英国製、帽子はロシア製だけど心はインド製」という歌詞で知られる)をサンプリングしたもの。
インドのオールディーズにあたる映画音楽をヒップホップに転用する手法は、Karan Kanchanが"Bazigaar"で導入して大ヒットさせたのを参考にしたものだろう。
KR$NAはTeriyaki Boyzの"Tokyo Drift"のビートに乗せたフリースタイルを披露していたりもするので、結構日本好きなのかもしれない。



まあこんなわけで、円安の影響もあってかインドのアーティストたちの来日が相次いている昨今。
この来日ラッシュの中で知ったのだけど、Arjun Kunungoっていう日本にも拠点を作って活動している人もいて、この曲では日本のラッパーCyber Ruiと共演している。


これからもいろんなコラボレーションが見られそうだ。


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goshimasayama18 at 00:37|PermalinkComments(0)インドのヒップホップ 

2024年03月27日

インドのエレクトロニック・ミュージックの現在地 SandunesとDualist Inqiry


インドの音楽シーンに焦点をあてていろいろ書いてきて気がついたことがあって、それは、優れたアーティストを紹介しようと思った時に、書いやすいジャンルと書きにくいジャンルがはっきりと分かれているということだ。

書きやすいのは、例えばヒップホップ。
ビートやフロウがインドっぽかったり、扱っているメッセージがインドならではだったりすることが多く、地域性も豊かで、最近は純粋にかっこいい曲も非常に多いので、インドのヒップホップについてならいくらでも書けると思えるくらいだ(読みたい人がいるかは別にして)。
ロックみたいな、もともとカウンターカルチャー的な意味合いの強かったこのジャンルが(インドでどんなふうに解釈され、実践されているかというのも記事にしやすい。
伝統音楽や古典音楽を取り入れた、インドでフュージョンと呼ばれるジャンルも紹介のしがいがある。

では、逆に書きにくいのはどんなジャンルかというと、ダントツで、無国籍で音響至上主義的なタイプの電子音楽だ。
電子音楽でも、トランスみたいに思想の強いジャンルだったり、最近書いたインド独自のヒンドゥー的ハードコアみたいな独自性の強いものはまだいい。
そうではなくて、純粋に音の響きのセンスや美しさを追求しているようなタイプの電子音楽となると、今では世界中でどこで誰がやっていても不思議ではないし、またPCさえあれば場所や文化に関係なく同じものが作れてしまうので、地域性も生まれにくい。
そもそも自分があんまり聴いてこなかったジャンルだという理由もあって、これまでこのブログでは、インドの無国籍風電子音楽をほとんど紹介してこなかった。

だが、このジャンルでもインドには優れたアーティスがたくさん存在している。
今回は、その中でも高い評価を得ている2人を紹介したい。

まず紹介するのはムンバイ出身で現在はロスアンジェルスを拠点に活動しているSanaya Ardeshirによるソロプロジェクト、Sandunes.
最新作は昨年リリースされた"The Ground Beneath Her Feet"で、この作品は彼女のパートナーでもあるベーシスト兼ミックスエンジニアのKrishna Jhaveriと南インド各地を旅する中で生まれたという。



Sandunes "Mother Figure ft. Peni Candra Rani"


Sandunes "Feel Me from Inside"


Sandunes "Pelican Dance"


アルバムを通して、エレクトロニカっぽかったり、ドラムンベースっぽかったり、こういう音楽をどう言葉にしたら良いのかよく分からないのだけど、電子音と生演奏が織りなす緻密なサウンドは、非常に映像的というか、乗り心地の良い列車に乗って次々と変わりゆく車窓の景色を眺めているような感覚が味わえる。
ヴォーカル入りトラックも何曲か入っている多彩な作風だが、どんな楽曲でも、美しく、繊細されているのがこのアルバムの特徴だろう。
(個人的には、ちょっと洗練されすぎているかなと思わないでもないが、それはたぶん好みの問題)

彼女が様々な媒体で答えたインタビューによると、アルバムタイトルはアメリカのインド系作家のサルマン・ラシュディの小説から取られているそうで、制作期間に新型コロナウイルスの流行していたことの影響も受けているらしい。
"Earthquake"とか"Tsunami"とか"Cyclone"なんていう曲名もあるので、たぶんパンデミックによる社会不安や精神的危機をテーマにしている部分もあるのかもしれない。

彼女はこれまでに、ロンドン出身のジャズドラマーRichard Spavenとの共作アルバムを発表したり、カリフォルニア在住のタミル系R&B/カルナーティックシンガーのSid Sriramや同郷のシンガーソングライターLandslandsをゲストに迎えるなど、多様な人脈とのコラボレーションも行っていて、それぞれ興味深い仕上がりになっている。


Spaven X Sandunes "1759" (Outro)


Sandunes, Landslands "Eleven, Eleven"


変わったところでは、曹洞宗の僧侶で折り紙作家としても知られた内山興正の著書の影響を受けた'Handful of Thought'という生演奏のパフォーマンスをしたことがある。
これまでにデンマークの大規模フェスRoskilde Festivalや、ワールドミュージックの祭典として名高いWomad Festivalでの演奏経験があり、日本でもRichard Spavenとの共演作がele-kingのウェブサイトで紹介されたことがあるなど、彼女はそれなりに海外からの注目も集めているようだ。
なかなか商業的な成功を収めるのは難しいスタイルかもしれないが、例えば、彼女がインドであれ、他の国であれ、映画音楽を手掛けたりするとすごく面白いと思うのだけど、どうだろうか。



続いて紹介するのは、「心身二元論者相談窓口」というなんともミステリアスなアーティスト名のDualist Inquiry.
デラドゥンの名門ドゥーン・スクールを卒業したのち、カリフォルニアへの音楽留学を経てインドで活動しているSahej Bakshiによるソロプロジェクトだ。
今年2月にリリースされた"When We Get There"は、Sandunes同様に、やはり映像的な感性を感じられる優れた作品である。




Dualist Inqury "Days Away"


Dualist Inquiry "All There Is"


Sandunesの最新作がどこか自然の美を感じさせる作風だったのに対して、Dualist Inquiryのニューアルバムからは都会的な美しさが感じられる。

以前はもっとエレクトロニックポップ的なスタイルで活動していて、それはそれでかっこよかった。

Dualist Inquiry "Lumina"


これは10年前に作品で、インド系アメリカ人の映像作家Isaac Ravishankaraがミュージックビデオを手掛けている。
Dualist Inquiryは現在ゴアを拠点に活動していて、なるほどゴアの欧米とインドが混ざり合った風土はいかにも彼の音楽とよく合っている。



今回紹介した彼らの音楽は、無国籍で(とはいえ確かに西洋ルーツなのだが)、知的でセンスがよく、深みがあり、破綻や下世話な部分がない。
その音像は、現代的で国際的なインド人像、つまり、英語を第一言語として、英語が通じる場所なら国や地域にこだわりなく生きる、教養あるミドルクラスの若者たちを想起させる。
国籍や文化のくびきから解き放たれたような彼らの音楽を聴いていると、なんだか自分がインドという国やルーツにこだわって音楽を紹介しているのがマヌケに思えてしまうが、これも確かに現代の「インドらしい」音楽なのだ。

今回注目したSandunesとDualist Inquiryは10年以上のキャリアを持つベテランだが、こうしたタイプのアーティストは、その後もインドで続々と登場している。
どこかもうひとつ突き抜けた部分を持つアーティストが出てくると、インドの無国籍電子音楽も世界的な評価が得られるんじゃないかと思う。
その中の誰かが、いつかフェスとかでしれっと来日したりする日も遠くないんじゃないかな。


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