2024年05月26日
ヨギ・シン情報まとめ!
この「アッチャー・インディア」は一応音楽ブログなのですが、音楽には全く関係のない謎の占い師「ヨギ・シン」の話題がいちおう最大のシリーズになっています。
世界中の街に出没し、「あなたはラッキーな顔をしている」と声をかけて、小さな紙に書きとめた言葉でで、人の心を読み取って当てる謎のインド人占い師、ヨギ・シン。
好きな数字や好きな色や母親の名前などを的中させ、お金を要求するという手口を使う「彼」は、なんと200年も前から存在しているという。
最初に断っておくと、私のスタンスは、「彼」を詐欺師として非難したいわけではない。
また、「彼」が信仰していると思われるシク教の教義と結びつけて解釈する意図もない
この「占い師」が世界中に広まった過程には、パンジャーブで生まれたシク教という宗教の歴史や、彼らのコミュニティの特性と大きな関わりがあると考えているが、それは信仰や教義とは全く別の次元の話だ。
若干イリーガルな稼ぎ方なら他にもいくらでも方法はあるだろうし、もし海外に渡航できるだけの資金があるなら、他のリスクが少ない働き方を選ぶこともできるはず。
この2020年代に、100年も昔から伝わる技術だけで、世界中をまたにかけている彼らの存在にとにかく興味がある。
私が彼らにここまでこだわっている理由は、ただそれだけだ。
ヨギ・シンの情報がここまでまとまっているのはたぶん世界でもこのブログだけ。
私がどうやって彼らの存在を知り、惹かれたのか?
どのように彼らに出会い、彼らは何を語ったのか?
彼らの「占い」のトリックは何だったのか、そして彼らの正体は何者なのか?
ここまでに書いた数多くの記事のリンクをまとめてみました。
日本で、あるいは海外で、この不思議な占い師に遭遇した方、ぜひ情報をください。
まずは、とある本をきっかけに彼の存在を知り、その正体についての想いを馳せるプロローグ的な記事がこの2本です。
(100回記念特集)謎のインド人占い師 Yogi Singhに会いたい
ヨギ・シンを探して インド謎の占い師捜索記(その1)
ヨギ・シンを探して インド謎の占い師捜索記(その2)
ヨギ・シンを探して インド謎の占い師捜索記(その3)
彼らの「占い」について、インドのマジックという観点から調べて見たところ、これがめちゃくちゃ面白かったという話。
知られざる魔術大国インド ヨギ・シンの秘術にせまる(その1)
知られざる魔術大国インド ヨギ・シンの秘術にせまる(その2)
この日本に、かつてここまでヨギ・シンに迫った人がいた!今にして思えば、彼らの「トリック」についてはほぼここで解明されていたのではないかと思う。
探偵は一人だけではなかった! 「ヨギ・シン」をめぐる謎の情報を追う
インドのマジック続編。
日本語でここまでインド奇術の真髄と悲哀に迫った本があったとはびっくり。
インド魔術の神秘に迫る!山田真美さんの名著『インド大魔法団』『マンゴーの木』
ヨギ・シンはどこから来たのか。彼らはどんな人々なのか、その正体を考察してみたシリーズ。
ヨギ・シンの正体、そしてルーツに迫る(その1)
そして2023年、ついにヨギ・シンとの本格的な接触に成功!
ヨギ・シンとの対話(後編)
ヨギ・シンとの遭遇を終えて
ヨギ・シンとの遭遇から1ヶ月も経たないうちに、新しいヨギ・シンの出没情報が寄せられた!
二人目のヨギ・シンとの対話
二人目のヨギ・シンとの再開
また書いたら足していきますね。
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2024年05月13日
インドとラテン風ポップ/ヒップホップ 2024年度版
以前も何度か記事にしたことがあるネタだが、インドのポップスやヒップホップを聴いていると、ラテンっぽい要素が目立つ曲がかなりたくさんあることに気がつく。
インドとラテンが共通して持つ独特の濃くてケレン味たっぷりのノリが、地球を半周して共鳴しているんじゃないかと思っているのだが、本当のところはわからない。
インドの音楽シーンは日本よりもはるかにアメリカのシーンの影響を受けているので、いまやアメリカのメインストリームのひとつとなったラテンポップスが、単にインドでも流行しているだけなのかもしれない。
んなことは考えてもしょうがない。今回は、ラテン風のインドのポップス/ヒップホップの最新版を紹介します。
近年のこのテーマでの重要作としては、インド系アメリカ人の大物EDMプロデューサーKSHMRが昨年11月にリリースしたアルバム"Karam"がまず挙げられる。
インド各地のラッパーをフィーチャーしたこのアルバム、ラテンっぽい曲がかなり目立つ内容だった。
今回は南インドのケーララ出身のラッパーDabzeeとVedanをフィーチャーした"La Vida"と、デリーのベテランKR$NAが参加した"Zero After Zero"を紹介したい。
KSHMR, Dabzee, Vedan "La Vida"
KSHMR, KR$NA, Talay Riley "Zero After Zero"
"La Vida"のほうは歌詞にもスペイン語が取り入れられていて、より本格的なラテン風味になっているのがポイント。
2つめの"Zero After Zero"でラップしているKR$NAはソロ作品でもラテンの要素を導入していて、昨年リリースされた"Prarthana"のビートもラテンっぽいベースラインやメロディーがループされている。
KR$NA "Prathana"
この曲はレゲトンっぽい最近のリズムとは違って、もっと古いタイプのラテン音楽を引っ張ってきているのが面白い。
同郷デリーのラップデュオSeedhe Mautをフィーチャーしたこの"Hola Amigo"(分かりやすすぎるタイトル)は、なんでか知らないが格好までメキシコ人に寄せている。
KR$NA ft. Seedhe Maut "Hola Amigo"
メキシコ人の扮装をすることが、インドでどんな意味があるのか、リリックとは関係があるのか、スペイン語はインド人にとってどう響くのか、いろいろと気になるが、いつもながら彼らのラップはかなりかっこよく仕上がっている。
と、こんなふうにラテンっぽいラップが多いインドでも、「とうとうここまで来たか」と感じたのが、デリーのラッパーKarunが若干18歳のシンガーLambo Driveらと共演したこの曲だ。
Karun, Lambo Drive, Arpit Bala & Revo Lekhak "Maharani"
この曲も今風のレゲトンではなく、もっと古いタイプのラテンっぽいリズムやコードが使われているのだが、後半にはサンタナみたいなギターまで入ってくるラテンっぷり。
映像を見る限りは完全にインドだが、音だけ聴いているとプエルトリコなのかメキシコなのかキューバなのか、どこにいるのか分からなくなってくる。
ラテン風味を楽曲に取り入れているのはヒップホップだけではなくて、最近デビューしたインドの4人組女性ダンスポップグループW.I.S.H.のデビュー曲もかなりラテンっぽかった。
W.I.S.H. "Lazeez"
インドでも人気の高いK-Popガールズグループの雰囲気を取り入れつつ、音楽的にはインドで流行っているっぽいラテンポップに仕上げるというのは、インドではまだ珍しいこの手のガールズグループを成功させようと考えた時に必然的に導き出される結論なのだろう。
結果的に郷ひろみとか西城秀樹がカバーしていた90年代のラテンポップっぽく聴こえないでもないが(もしくはSantanaの"Smooth")、このミュージックビデオも含めたちょっとダサい感じが大衆音楽としてはむしろ肝心な部分なのかもしれない。
W.I.S.H.については、その売り出し方も含めてかなり興味深い存在だと思っているので、いずれ詳しく特集してみたい。
インド本国を離れて、在外インド系シンガーたちもラテン的な要素を積極的に導入している。
例えばカナダで活躍するRaghav.
彼に関しては、全英チャートやカナダチャートでのヒット作品も多いので、「ラテン化するインドポップ」の文脈ではなく単に北米のアーティストの傾向として見るべきかもしれないが。
Raghav "Desperado (feat. Tesher)"
共演のTesherもカナダで活躍するインド系のラッパーだ。
イントロのインドっぽいフレーズからシームレスにラテンっぽいメロディー(ここもサビはスペイン語)につながるのが面白い。
このリズムパターンはインドのポップスでよく使われるやつだが、考えてみればラテンポップスともかなり親和性が高いリズムである。
この分野で、いつかインド人による世界的なヒット曲が生まれたりしたら面白いなあ、と思っているのだけど、その日はそんなに遠くないのかもしれない。
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goshimasayama18 at 21:40|Permalink│Comments(0)
2024年05月03日
インドからいろんなアーティストが来日しまくっている!
気がつけば1ヶ月以上、新しい記事を書いていなかった。
これはブログを始めて以来はじめてのことだ。
この間、何をしていたのかというと、インドから来たいろんな人たちと会っていた。
まず4月上旬に日本にやってきたのは、オディシャ州プリー出身の日印ハーフのラッパーBig Deal.
彼のことは以前もこのブログで何度か紹介している。
これは6年前に書いたごく簡単なBig Dealの紹介記事なんだが、改めて読み返してみたら、文章があまりにも酷くて驚いた。
でもまあ彼がどんなバックグラウンドを持ったラッパーなのかはとりあえずわかってもらえると思う。
こちらは4年前に書いた記事。
当時公開されていた映画を絡めてどうにか読んでもらおうという浅ましさが感じられてオエッとなったが、それはこっちの問題で、Big Deal がヒップホップという外来の文化にインドならでは状況を真摯に重ねていることがよく理解できるはずだ。
今回Big Dealは関空から来日。
到着翌日に、さっそく大阪を拠点に活動している生ヒップホップバンド「韻シスト」のベーシストShyoudogとドラマーのTarow-Oneを紹介した。
シンガーをやっているかみさんのツテで、Shyoudogとは以前から知り合いだったのだが、Big Dealに彼らの音源を聴かせてみたところ、非常に気に入ったとのことで、予定を調整してもらったのだ。
彼らがやっているお店(チルアウト酒場ネバフ食堂)にて顔合わせ。
好きなラッパーの話とかですぐにうちとけて、ちょうどお客さんが少ない時間帯だったので、MPCとミニキーボードで音を出してBig Dealにフリースタイルをしてもらった。
それにしてもラッパーってすげえなあ、と思ったのは、ちょうどその日休みだったスタッフ兼ラッパーの方がお店に顔を出したときに「ちょっと今インドのラッパーが来てるからフリースタイルやってよ」って言われて、ちゃんと韻踏んでラップしてたってこと。
「え?インド?ラッパー?いいっすよ」って感じであたり前のようにラップしてて、猪木の「いつ何時、誰の挑戦でも受ける」って言葉を思い出した。
図らずも実現した日印ラッパー&ミュージシャンのセッションを間近に見られたのは最高だった。
Shyoudog, Tarow-One, OneMiさんありがとう。
Big Dealは4月12日には東京で行われたMusic Bridge Tokyoっていう国際音楽イベントに出演したDarthreider & The Bassonsのステージにゲスト出演。オディア語のラップで会場を盛り上げた。
それにしてもこのイベントのダースレイダーさんは凄かったなあ。
客席は外国のお客さんがほとんどだったのだけど、ドラムとベースのみという最小限のバンドに合わせて、ほとんど英語のラップやフリースタイルで沸かせていた。
いろんな国の人がいるし、俺みたいな日本人もいるわけだから、ノンネイティブにも分かるごくシンプルな英語しか使っていないのだけど、言葉の力と場を支配する力でグルーヴを生み出してゆくパフォーマンスは、MCという言葉が本来意味するMaster of Ceremonyという言葉にふさわしいものだった。
Darthreider & The Bassonsが海外のフェスによく呼ばれている理由が分かった気がした。
Big Dealは、その2日後にはダースレイダーさんと仙台を代表するラッパーのHUNGERさん(この2人は国立民族学博物館で密かに行われている「辺境ヒップホップ研究会」のメンバーでもある)と都内でスタジオ入りして1曲レコーディング。
三者三様のフローが楽しめる日本語、英語、オディア語のマイクリレーはそう遠くないうちに世に出るはずなので楽しみにしていてください。
Big Dealはその後も日本各地を満喫してつい先日無事ムンバイに帰ったとのこと。
東京ではダースレイダーさん、HUNGERさんを交えたインタビューも行なっていて、これも近々、たぶん辺境ヒップホップ研究会のウェブサイトで公開されるはずなので、乞うご期待。
4月中旬には、昨年も1ヶ月の日本滞在を楽しんだビートメーカーのKaran Kanchanが再び来日。
今回は2ヶ月間、日本の各地を旅するという。
彼についてはこのブログでもたびたび取り上げているが、最近ではDIVINEのアルバムでの楽曲プロデュースやNetflix映画の音楽を担当したことなどでますます活躍の幅を広げ、なんとSpotifyとYouTubeでのプロデュースした楽曲の合計再生回数が10億回(!)を超えたとのこと。
いまやインドでもっとも勢いのあるプロデューサーと言ってもまったく過言ではなくなった。
過去の記事や辺境ヒップホップ研究会でのインタビューを貼っておきます。
今回の滞在では、前回の来日で関係を構築したアーティストとのコラボレーションにも取り組むそうで、ここでも日印のアーティストの絆が生まれそうだ。
5月4日には京都のBrooklyn Night Bazaarで日本での初DJを披露する予定もある。
日本のヒップホップなんかもかけるそうなので、近くの方はぜひ遊びに行ってみてください。
関東近郊の方は、5月11日(土)の深夜25時から、J-WAVEのM.A.A.D Spinという番組でインタビューが放送されるので、ぜひそちらを楽しみにしてほしい。
ちなみになぜか私が通訳やってます。
自分は留学したり英語を真面目に勉強したりしたことが全くなく、英語でのコミュニケーションは常に「根性英語」でやっている。
今回も電波に乗せるにもかかわらず非常に適当な通訳でたいへん恐縮なのだが、彼が話しているインドの音楽シーンだったり、彼の日本文化への思い入れだったりの話は大変面白いので、ぜひ聴いてみてください。
ナビゲーターのNazwa!のお二人(Naz Chrisさん、Watusiさん)が上手に話をリードしてくれています。
Karan Kanchanはスタジオでたまたま同じ時間に収録していたZeebraさんとも挨拶を交わしていた。
この4枚目の写真、近いうちに「え!あの二人が!」ってなるんじゃないかと思う。
せっかくなので最近彼が出演したビッグステージ、Lollapalooza Indiaのときのダイジェスト映像と、最近リリースした中でとくにかっこいいと思う曲を貼っておきます。
彼は他にもPritamやVishal Shekharといった映画音楽の大御所とコラボレーションしたり、Boiler Roomに出演したりもしていて、インドでも揺るぎないビッグネームになってきている。
Karan Kanchanはこの後も日本にしばらく滞在して、音楽制作(久しぶりのJ-Trapを三味線奏者の寂空-Jack-さんと共演で作るとのこと)や各地の観光をするとのこと。
そういえば、3月にはデリーのベテランラッパーKR$NAも来日していて、銀座の新しいクラブZouk Tokyoでのイベントに出演してたらしい。
デジタル分野での音楽マーケティングなどを手掛けているBelieveの主催企画だったとのこと。
これ全然気が付かなくて、SNSで見つけた時にはもう終わっていたのだけど、日本で本格的なパフォーマンスを行ったインドのラッパーは、彼が初めてだったんじゃないかと思う。
KR$NAは昨年も来日していて、この"Joota Japani"という曲のミュージックビデオを撮影していた。
いつもは日本のヒップホップの映像を撮影しているクルーが手掛けていて、かなりお金をかけた気合いの入った作品に仕上がっている。
(ギャルがガラケーを使っているのが気になるが)
この曲のビートは、1955年の名作ヒンディー語映画"Shree 420"の挿入歌"Mera Joota Hai Japani"(「靴は日本製、ズボンは英国製、帽子はロシア製だけど心はインド製」という歌詞で知られる)をサンプリングしたもの。
インドのオールディーズにあたる映画音楽をヒップホップに転用する手法は、Karan Kanchanが"Bazigaar"で導入して大ヒットさせたのを参考にしたものだろう。
KR$NAはTeriyaki Boyzの"Tokyo Drift"のビートに乗せたフリースタイルを披露していたりもするので、結構日本好きなのかもしれない。
まあこんなわけで、円安の影響もあってかインドのアーティストたちの来日が相次いている昨今。
この来日ラッシュの中で知ったのだけど、Arjun Kunungoっていう日本にも拠点を作って活動している人もいて、この曲では日本のラッパーCyber Ruiと共演している。
これからもいろんなコラボレーションが見られそうだ。
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これはブログを始めて以来はじめてのことだ。
この間、何をしていたのかというと、インドから来たいろんな人たちと会っていた。
まず4月上旬に日本にやってきたのは、オディシャ州プリー出身の日印ハーフのラッパーBig Deal.
彼のことは以前もこのブログで何度か紹介している。
これは6年前に書いたごく簡単なBig Dealの紹介記事なんだが、改めて読み返してみたら、文章があまりにも酷くて驚いた。
でもまあ彼がどんなバックグラウンドを持ったラッパーなのかはとりあえずわかってもらえると思う。
こちらは4年前に書いた記事。
当時公開されていた映画を絡めてどうにか読んでもらおうという浅ましさが感じられてオエッとなったが、それはこっちの問題で、Big Deal がヒップホップという外来の文化にインドならでは状況を真摯に重ねていることがよく理解できるはずだ。
今回Big Dealは関空から来日。
到着翌日に、さっそく大阪を拠点に活動している生ヒップホップバンド「韻シスト」のベーシストShyoudogとドラマーのTarow-Oneを紹介した。
シンガーをやっているかみさんのツテで、Shyoudogとは以前から知り合いだったのだが、Big Dealに彼らの音源を聴かせてみたところ、非常に気に入ったとのことで、予定を調整してもらったのだ。
彼らがやっているお店(チルアウト酒場ネバフ食堂)にて顔合わせ。
好きなラッパーの話とかですぐにうちとけて、ちょうどお客さんが少ない時間帯だったので、MPCとミニキーボードで音を出してBig Dealにフリースタイルをしてもらった。
それにしてもラッパーってすげえなあ、と思ったのは、ちょうどその日休みだったスタッフ兼ラッパーの方がお店に顔を出したときに「ちょっと今インドのラッパーが来てるからフリースタイルやってよ」って言われて、ちゃんと韻踏んでラップしてたってこと。
「え?インド?ラッパー?いいっすよ」って感じであたり前のようにラップしてて、猪木の「いつ何時、誰の挑戦でも受ける」って言葉を思い出した。
図らずも実現した日印ラッパー&ミュージシャンのセッションを間近に見られたのは最高だった。
Shyoudog, Tarow-One, OneMiさんありがとう。
Big Dealは4月12日には東京で行われたMusic Bridge Tokyoっていう国際音楽イベントに出演したDarthreider & The Bassonsのステージにゲスト出演。オディア語のラップで会場を盛り上げた。
それにしてもこのイベントのダースレイダーさんは凄かったなあ。
客席は外国のお客さんがほとんどだったのだけど、ドラムとベースのみという最小限のバンドに合わせて、ほとんど英語のラップやフリースタイルで沸かせていた。
いろんな国の人がいるし、俺みたいな日本人もいるわけだから、ノンネイティブにも分かるごくシンプルな英語しか使っていないのだけど、言葉の力と場を支配する力でグルーヴを生み出してゆくパフォーマンスは、MCという言葉が本来意味するMaster of Ceremonyという言葉にふさわしいものだった。
Darthreider & The Bassonsが海外のフェスによく呼ばれている理由が分かった気がした。
Big Dealは、その2日後にはダースレイダーさんと仙台を代表するラッパーのHUNGERさん(この2人は国立民族学博物館で密かに行われている「辺境ヒップホップ研究会」のメンバーでもある)と都内でスタジオ入りして1曲レコーディング。
三者三様のフローが楽しめる日本語、英語、オディア語のマイクリレーはそう遠くないうちに世に出るはずなので楽しみにしていてください。
Big Dealはその後も日本各地を満喫してつい先日無事ムンバイに帰ったとのこと。
東京ではダースレイダーさん、HUNGERさんを交えたインタビューも行なっていて、これも近々、たぶん辺境ヒップホップ研究会のウェブサイトで公開されるはずなので、乞うご期待。
4月中旬には、昨年も1ヶ月の日本滞在を楽しんだビートメーカーのKaran Kanchanが再び来日。
今回は2ヶ月間、日本の各地を旅するという。
彼についてはこのブログでもたびたび取り上げているが、最近ではDIVINEのアルバムでの楽曲プロデュースやNetflix映画の音楽を担当したことなどでますます活躍の幅を広げ、なんとSpotifyとYouTubeでのプロデュースした楽曲の合計再生回数が10億回(!)を超えたとのこと。
いまやインドでもっとも勢いのあるプロデューサーと言ってもまったく過言ではなくなった。
過去の記事や辺境ヒップホップ研究会でのインタビューを貼っておきます。
今回の滞在では、前回の来日で関係を構築したアーティストとのコラボレーションにも取り組むそうで、ここでも日印のアーティストの絆が生まれそうだ。
5月4日には京都のBrooklyn Night Bazaarで日本での初DJを披露する予定もある。
日本のヒップホップなんかもかけるそうなので、近くの方はぜひ遊びに行ってみてください。
関東近郊の方は、5月11日(土)の深夜25時から、J-WAVEのM.A.A.D Spinという番組でインタビューが放送されるので、ぜひそちらを楽しみにしてほしい。
ちなみになぜか私が通訳やってます。
自分は留学したり英語を真面目に勉強したりしたことが全くなく、英語でのコミュニケーションは常に「根性英語」でやっている。
今回も電波に乗せるにもかかわらず非常に適当な通訳でたいへん恐縮なのだが、彼が話しているインドの音楽シーンだったり、彼の日本文化への思い入れだったりの話は大変面白いので、ぜひ聴いてみてください。
ナビゲーターのNazwa!のお二人(Naz Chrisさん、Watusiさん)が上手に話をリードしてくれています。
Karan Kanchanはスタジオでたまたま同じ時間に収録していたZeebraさんとも挨拶を交わしていた。
この4枚目の写真、近いうちに「え!あの二人が!」ってなるんじゃないかと思う。
せっかくなので最近彼が出演したビッグステージ、Lollapalooza Indiaのときのダイジェスト映像と、最近リリースした中でとくにかっこいいと思う曲を貼っておきます。
彼は他にもPritamやVishal Shekharといった映画音楽の大御所とコラボレーションしたり、Boiler Roomに出演したりもしていて、インドでも揺るぎないビッグネームになってきている。
Karan Kanchanはこの後も日本にしばらく滞在して、音楽制作(久しぶりのJ-Trapを三味線奏者の寂空-Jack-さんと共演で作るとのこと)や各地の観光をするとのこと。
そういえば、3月にはデリーのベテランラッパーKR$NAも来日していて、銀座の新しいクラブZouk Tokyoでのイベントに出演してたらしい。
え??KR$NA今日来てたの?
— 軽刈田 凡平 (@Calcutta_Bombay) March 21, 2024
全然気が付かなかった!!
Red Eyeと¥ellow Bucksも出てたのか。見たかったー!
たぶんこの中だとKR$NAいちばんベテランだし、どんなステージ見せてくれたのか超気になる。 pic.twitter.com/D6WW3X2QBw
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これ全然気が付かなくて、SNSで見つけた時にはもう終わっていたのだけど、日本で本格的なパフォーマンスを行ったインドのラッパーは、彼が初めてだったんじゃないかと思う。
KR$NAは昨年も来日していて、この"Joota Japani"という曲のミュージックビデオを撮影していた。
いつもは日本のヒップホップの映像を撮影しているクルーが手掛けていて、かなりお金をかけた気合いの入った作品に仕上がっている。
(ギャルがガラケーを使っているのが気になるが)
この曲のビートは、1955年の名作ヒンディー語映画"Shree 420"の挿入歌"Mera Joota Hai Japani"(「靴は日本製、ズボンは英国製、帽子はロシア製だけど心はインド製」という歌詞で知られる)をサンプリングしたもの。
インドのオールディーズにあたる映画音楽をヒップホップに転用する手法は、Karan Kanchanが"Bazigaar"で導入して大ヒットさせたのを参考にしたものだろう。
KR$NAはTeriyaki Boyzの"Tokyo Drift"のビートに乗せたフリースタイルを披露していたりもするので、結構日本好きなのかもしれない。
まあこんなわけで、円安の影響もあってかインドのアーティストたちの来日が相次いている昨今。
この来日ラッシュの中で知ったのだけど、Arjun Kunungoっていう日本にも拠点を作って活動している人もいて、この曲では日本のラッパーCyber Ruiと共演している。
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2024年03月27日
インドのエレクトロニック・ミュージックの現在地 SandunesとDualist Inqiry
インドの音楽シーンに焦点をあてていろいろ書いてきて気がついたことがあって、それは、優れたアーティストを紹介しようと思った時に、書いやすいジャンルと書きにくいジャンルがはっきりと分かれているということだ。
書きやすいのは、例えばヒップホップ。
ビートやフロウがインドっぽかったり、扱っているメッセージがインドならではだったりすることが多く、地域性も豊かで、最近は純粋にかっこいい曲も非常に多いので、インドのヒップホップについてならいくらでも書けると思えるくらいだ(読みたい人がいるかは別にして)。
ロックみたいな、もともとカウンターカルチャー的な意味合いの強かったこのジャンルが(インドでどんなふうに解釈され、実践されているかというのも記事にしやすい。
伝統音楽や古典音楽を取り入れた、インドでフュージョンと呼ばれるジャンルも紹介のしがいがある。
では、逆に書きにくいのはどんなジャンルかというと、ダントツで、無国籍で音響至上主義的なタイプの電子音楽だ。
電子音楽でも、トランスみたいに思想の強いジャンルだったり、最近書いたインド独自のヒンドゥー的ハードコアみたいな独自性の強いものはまだいい。
そうではなくて、純粋に音の響きのセンスや美しさを追求しているようなタイプの電子音楽となると、今では世界中でどこで誰がやっていても不思議ではないし、またPCさえあれば場所や文化に関係なく同じものが作れてしまうので、地域性も生まれにくい。
そもそも自分があんまり聴いてこなかったジャンルだという理由もあって、これまでこのブログでは、インドの無国籍風電子音楽をほとんど紹介してこなかった。
だが、このジャンルでもインドには優れたアーティスがたくさん存在している。
今回は、その中でも高い評価を得ている2人を紹介したい。
まず紹介するのはムンバイ出身で現在はロスアンジェルスを拠点に活動しているSanaya Ardeshirによるソロプロジェクト、Sandunes.
最新作は昨年リリースされた"The Ground Beneath Her Feet"で、この作品は彼女のパートナーでもあるベーシスト兼ミックスエンジニアのKrishna Jhaveriと南インド各地を旅する中で生まれたという。
Sandunes "Mother Figure ft. Peni Candra Rani"
Sandunes "Feel Me from Inside"
Sandunes "Pelican Dance"
アルバムを通して、エレクトロニカっぽかったり、ドラムンベースっぽかったり、こういう音楽をどう言葉にしたら良いのかよく分からないのだけど、電子音と生演奏が織りなす緻密なサウンドは、非常に映像的というか、乗り心地の良い列車に乗って次々と変わりゆく車窓の景色を眺めているような感覚が味わえる。
ヴォーカル入りトラックも何曲か入っている多彩な作風だが、どんな楽曲でも、美しく、繊細されているのがこのアルバムの特徴だろう。
(個人的には、ちょっと洗練されすぎているかなと思わないでもないが、それはたぶん好みの問題)
彼女が様々な媒体で答えたインタビューによると、アルバムタイトルはアメリカのインド系作家のサルマン・ラシュディの小説から取られているそうで、制作期間に新型コロナウイルスの流行していたことの影響も受けているらしい。
"Earthquake"とか"Tsunami"とか"Cyclone"なんていう曲名もあるので、たぶんパンデミックによる社会不安や精神的危機をテーマにしている部分もあるのかもしれない。
彼女はこれまでに、ロンドン出身のジャズドラマーRichard Spavenとの共作アルバムを発表したり、カリフォルニア在住のタミル系R&B/カルナーティックシンガーのSid Sriramや同郷のシンガーソングライターLandslandsをゲストに迎えるなど、多様な人脈とのコラボレーションも行っていて、それぞれ興味深い仕上がりになっている。
Spaven X Sandunes "1759" (Outro)
Sandunes, Landslands "Eleven, Eleven"
変わったところでは、曹洞宗の僧侶で折り紙作家としても知られた内山興正の著書の影響を受けた'Handful of Thought'という生演奏のパフォーマンスをしたことがある。
これまでにデンマークの大規模フェスRoskilde Festivalや、ワールドミュージックの祭典として名高いWomad Festivalでの演奏経験があり、日本でもRichard Spavenとの共演作がele-kingのウェブサイトで紹介されたことがあるなど、彼女はそれなりに海外からの注目も集めているようだ。
なかなか商業的な成功を収めるのは難しいスタイルかもしれないが、例えば、彼女がインドであれ、他の国であれ、映画音楽を手掛けたりするとすごく面白いと思うのだけど、どうだろうか。
続いて紹介するのは、「心身二元論者相談窓口」というなんともミステリアスなアーティスト名のDualist Inquiry.
デラドゥンの名門ドゥーン・スクールを卒業したのち、カリフォルニアへの音楽留学を経てインドで活動しているSahej Bakshiによるソロプロジェクトだ。
今年2月にリリースされた"When We Get There"は、Sandunes同様に、やはり映像的な感性を感じられる優れた作品である。
Dualist Inqury "Days Away"
Dualist Inquiry "All There Is"
Sandunesの最新作がどこか自然の美を感じさせる作風だったのに対して、Dualist Inquiryのニューアルバムからは都会的な美しさが感じられる。
以前はもっとエレクトロニックポップ的なスタイルで活動していて、それはそれでかっこよかった。
Dualist Inquiry "Lumina"
これは10年前に作品で、インド系アメリカ人の映像作家Isaac Ravishankaraがミュージックビデオを手掛けている。
Dualist Inquiryは現在ゴアを拠点に活動していて、なるほどゴアの欧米とインドが混ざり合った風土はいかにも彼の音楽とよく合っている。
今回紹介した彼らの音楽は、無国籍で(とはいえ確かに西洋ルーツなのだが)、知的でセンスがよく、深みがあり、破綻や下世話な部分がない。
その音像は、現代的で国際的なインド人像、つまり、英語を第一言語として、英語が通じる場所なら国や地域にこだわりなく生きる、教養あるミドルクラスの若者たちを想起させる。
国籍や文化のくびきから解き放たれたような彼らの音楽を聴いていると、なんだか自分がインドという国やルーツにこだわって音楽を紹介しているのがマヌケに思えてしまうが、これも確かに現代の「インドらしい」音楽なのだ。
今回注目したSandunesとDualist Inquiryは10年以上のキャリアを持つベテランだが、こうしたタイプのアーティストは、その後もインドで続々と登場している。
どこかもうひとつ突き抜けた部分を持つアーティストが出てくると、インドの無国籍電子音楽も世界的な評価が得られるんじゃないかと思う。
その中の誰かが、いつかフェスとかでしれっと来日したりする日も遠くないんじゃないかな。
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2024年03月10日
どこにでもラッパーがいるインド 地方都市のヒップホップシーン(南インド編)
前回に続いて、今回は南インドの地方都市のラッパーを紹介する。
YouTubeでひたすら「都市名 rapper」で検索して気がついたことがひとつあって、それは南インドには北インドほどラッパーがいないということだ。
その理由は複数考えられるのだが、まず第一に南インドには北インドほど大きな都市がないということ。
前回の記事で、「YouTubeで、英語で『インドの都市名(スペース)rapper』で検索すると、人口規模100位くらいまでの街であれば確実にラッパーを見つけることができる」と書いたが、インドの人口規模100位までの都市に、南インド5州(アーンドラ・プラデーシュ、テランガーナ、カルナータカ、タミルナードゥ、ケーララ)が占める割合は20ほどしかない。
二つ目の理由は、北インドのヒップホップ受容で大きな役割を果たしたパンジャーブ系のような人々が、南インドには存在しないということだ。
もう何度も書いたことなのでざっくりと書くが、インド北西部に位置するパンジャーブ地方は、イギリスや北米への移住者が多く、彼らはヒップホップや欧米のダンスミュージックを、郷土の伝統音楽のバングラーと融合し、母国へと輸入する役割を果たした。
南インドからも海外への移住した人々は多いが、伝統的にタミル人はマレーシアやシンガポールへの移民が多く、ケーララからはUAEなどのペルシア湾岸諸国に渡る人が多い。
こうした理由から「本場のヒップホップに衝撃を受けて逆輸入する」という事象が北インドに比べて少なかった可能性はあると思う。
理屈はこれくらいにして、まずは南インドの西岸側からヒップホップの旅を始めてみたい。
古くはヒッピーたちの楽園として知られ、現在はインド人ミドルクラスのイケてるリゾート地となっている旧ポルトガル領の街、ゴアのラッパーを紹介する。
Tsumyoki x Bharg "Pink Blue"
この楽園っぽいポップさはまさにゴアのイメージにぴったり。
TsumyokiことNathan Joseph Mendesは若干23歳の若手ラッパーで、影響を受けたアーティストにXXXTentacionやJuice WRLDの名前も挙げている現代派。
ラッパーといいながらもラップじゃない(歌モノ)だっていうところも今っぽい。
彼はソロアーティストとしてムンバイのDIVINEのGully Gangレーベルと契約しており、また地元のラッパーたちと結成したGoa Trap Cultureというユニットでも活動をしている。
Tsumyokiという不思議なMCネームは日本文化の影響があるそうで、2019年にリリースしたThe Art Of Flexingには"Tokyo Drift!"(Teriyaki Boyzの曲とは無関係っぽい)とか"Super Saiyan!"という曲もやっている(SoundCloudで聴ける)。
この"Pink Blue"で共演しているBhargは北インドのデリー出身の同世代のラッパーで、Tsumyoki同様にポップなスタイルで人気を博している。
こうした地域を超えた新世代のコラボレーションは今後も増えて行きそうだ。
続いては、インド西岸を南に進み、カルナータカ州のマンガロール(現在の正式な名称はマンガルール)に行ってみよう。
マンガロールといえば銀座にあるマンガロール料理店「バンゲラズ・キッチン」がけっこう有名だが、料理だけじゃなくてラップもなかなかウマい街だった!
D.O.C "Coast Guards"
ユニット名のD.O.CというのはDepartment of Cultureの略だそうで、"Coast Guard"というタイトルはいかにも港湾都市マンガロールにふさわしい。
古い映画音楽をサンプリングしたらしいビートは地元のVernon Tauroなるプロデューサーによるもので、やはり彼が作ったビートに乗せたこの地元ラッパーたちのサイファーもなかなかかっこいい(最初に出てくる髭のラッパーがシブい!)。
マンガロールはD.O.Cのメンバーをはじめとして結構いいラッパーがいそうだが、YouTubeでの再生回数はいずれも数万回程度。
彼らがどの言語でラップしているのかは分からないが、この地域の母語はトゥル語という話者数200万人程度の比較的マイナーな言語であるため、もしかしたらあまり聴かれていないのは彼らが話者数の少ないトゥル語でラップしているからなのかもしれない。
さらにインド西岸を南下し、ケーララ州に突入。
タイトルは南インドの野菜スープカレー"Sambar"だ!
ThirumaLi x Thudwiser x Fejo x Dabzee "Sambar"
以前も書いたことがあるが、インドのラッパーはやたらと食べ物のことをラップする。
この映像はヒップホップのミュージックビデオと料理番組の融合みたいになっていて、英語字幕をオンにするとひたすら料理のことをラップしているのが分かる。
ふざけた曲だがDef Jam Indiaからのリリース。
やはりインドでは食とヒップホップは切り離せない、のだろうか。
途中で聖書に関するリリックも出てくるのがキリスト教徒が多いケーララらしい。
最初にクレジットされているThirumaLiは、識字率100%を達成したことでも知られる汽水性の入江の街コッタヤムの出身、共演のラッパーFejoとDabzeeはさらに南の海辺の都市コチの出身だ。
ビートメーカーのThudwiserもケーララ出身のようだが、どこの街かは分からなかった。
続いて、インド最南端のカニャクマリを通ってインド南部の東側、タミルナードゥ州に入ろう。
ここでは中小都市のかっこいいラッパーが見つけられなかったので、州都チェンナイのいかにもタミルらしいラッパーを紹介する。
Paal Dabba "170CM"
昔のマイケル・ジャクソンかってくらい曲が始まるまでが長いが(曲は2:30から)、映像の色彩や雰囲気が急にタミル映画っぽくなったのが面白い!
タミル語らしさを活かしたフロウと今っぽい重いベースとホーンセクションのビートの組み合わせがかっこよく、ゲームっぽい世界から最後はルンギー(腰布)&サリーのダンスになるのが最高だ。
次はチェンナイから北に向かい、南インド内陸部のテランガーナ州の州都ハイデラバードへ。
ここから『バーフバリ』や『RRR』で日本でも知られるようになったテルグ語圏に入る。
MC Hari "Khadahhar"
このミュージックビデオは、ハイデラバードの下町エリアのラッパーのライフスタイルを表現しているとのことで、ギャングスタ的な内容なのかと思って見てみたら、ひたすらフライヤーを撒いてサイファーをするという健全なものだった。
2:17に「選手権」という謎の日本語がプリントされたTシャツを着た男が出てくるが、ラップのチャンピオンシップっていうことなのか、偶然なのか。
面白いのはたまに映像の雰囲気がテルグ語映画っぽくなることで、例えばこのNiteeshというシンガーをフィーチャーした"Raaglani"のミュージックビデオなんて、かなりテルグ語映画っぽい雰囲気になっていると思う。
MC Hari "Raagalani(Ft. Niteesh)"
ハイデラバードから東南東に150キロほど行ったところにあるテランガーナ州の小さな街、ミリャラグダ(Miryalaguda)という街にもかっこいいラッパーを見つけた。
Karthee "Miryalaguda Rap"
タイトルからして地元レペゼンがテーマのようで、いかにも田舎町って感じの市場とか空き地とかでラップしているのがたまらない。
そして彼のビートもまた伝統とヒップホップのミクスチャー加減がいい具合で、テルグ語の響きを活かしたフロウも多彩で、かなり実力のあるラッパーと見た。
YouTubeでの再生回数は約2ヶ月で10万回弱。
この街の規模ではかなり健闘していると言えるだろう。
Kartheeという名前をインド全国区の音楽メディアで見る日が遠からず来るかもしれない。
最後はテランガーナ州から東へ。
インド海軍の拠点都市でもあるアーンドラ・プラデーシュ州のヴィシャーカパトナムのラッパーを紹介する。
Choppy Da Prophet "Voice of the Street"
いきなり出てくるタバコ咥えたバアさんが超シブい。
若者がスリやひったくりといったセコい犯罪を繰り返すミュージックビデオは演出なのかリアルなのか。
ラップはちょっと単調だが、ビートの勢いとミュージックビデオの下町の雰囲気が良い。
というわけで、南インドの地方都市のラッパーたち(一部チェンナイやハイデラバードといった大都市を含むが)を紹介してきた。
北インド同様に、というかそれ以上に各都市の特徴や地元レペゼン意識(≒郷土愛)が強く感じられるラッパーが多く、またそれぞれにラップのスキルも高くて、改めてインドのヒップホップシーンの広さと深さを感じた。
今回はかっこいいと思えるラッパーを中心に紹介したのだが(あたりまえか)、中には垢抜けなくてヘタだけど、2周くらい回って結果的に面白いことになっているこんなラッパーもいたりして、インドのヒップホップシーンは本当に底辺が広がってきている。
Royal Telugu "Bhai"
テランガナ州のオンゴールという街のラッパー。
ラップにトランスみたいなビートを取り入れていたり、時代と共鳴している部分もあるのだが、狙ってやったというよりは、たまたまそうなってしまったような面白さがある。
いい意味でのガラパゴス状態のまま、彼が成長していったらどんな魅力的な音楽が生まれるのだろうか。
今後も地方都市のシーンはちょくちょくチェックして紹介してゆきたいと思います。
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