2024年09月01日
映画音楽に進出するインディーアーティストたち
もうこのブログに100回くらい書いてきたことだけど、インドでは長らく映画音楽がポピュラー音楽シーンを独占していた。
いつも記事にしているインディペンデント系の音楽シーンが発展してきたのは、インターネットが普及した以降のここ10年ほどに過ぎない。
インドの音楽シーンでは、映画のための音楽を専門に手掛ける作曲家・作詞家・プレイバックシンガーと、自分たちの表現を追求するインディーズのアーティストは別々の世界に暮らしていて、前者の市場のほうがずっと大きく、大きなお金が動いている、というのがちょっと前までの常識だった。
ところが、ここ5年ほどの間に、状況はかなり変化してきている。
インドではいまやヒップホップが映画音楽を超えて、もっとも人気があるジャンルなのだという説まであるという。
参考記事:
日印ハーフのラッパーBig Dealも、インタビューで「ヒップホップはインドでボリウッド以上に人気のあるジャンルになっている」と熱く語っていた。
まあこれはかなり贔屓目に見た意見かもしれないが、ヒップホップを含めたインディーズ勢が急速な成長を遂げ、インドのポピュラーミュージックシーンで存在感を強めているのは間違いない。
それを象徴する事象として、ここ数年の間に、インディーズのミュージシャンが映画音楽に起用される例が多くなってきた。
その背景には、インディーズミュージシャンのレベルの向上と、とくに都市部の若者の音楽の好みが、これまで以上に多様化してきたという理由がありそうだ。
私の知る限りでは、映画音楽に進出したインディーミュージシャンでもっとも「化けた」のは、OAFF名義でムンバイ在住の電子ポップアーティストKabeer Kathpaliaだ。
以前は渋めのエレクトロニック音楽を作っていたOAFFは、2022年にAmazon Primeが制作した映画"Gehraiyaan"に起用されると、一気に映画音楽家として注目を集めるようになった。
OAFF, Savera "Doobey"
歌っているのはLothikaというシンガー。
作詞は映画専門の作詞家であるKausar Munirが手掛けているという点では、インド映画マナーに則った楽曲と言える。
この曲のSpotifyでの再生回数は1億回以上。
タイトルトラックの"Gehraiyaan Title Track"にいたっては、3億回以上再生されている。
映画の主演は人気女優ディーピカー・パードゥコーンと『ガリーボーイ』の助演で注目を集めたシッダーント・チャトゥルヴェーディ。
監督は"Kapoor and Sons"(2016年。邦題『カプール家の家族写真』)らを手がけたシャクン・バトラー(Shakun Batra)が務めている。
OAFFは2023年のNetflix制作による映画"Kho Gaye Hum Kahan"にも関わっているのだが、この作品はさらに多くのインディーズアーティストが起用されていて、サントラにはプロデューサーのKaran KanchanやラッパーのYashrajも参加。
以前インタビューで「あらゆるスタイルに挑戦したい」と言っていたKaran Kanchanが、ここでは古典音楽出身でボリウッド映画での歌唱も多いRashmeet Kaurと組んで、見事にフィルミーポップ風のサウンドに挑戦している。
Karan Kanchan, Rashmeet Kaur, Yashraj "Ishq Nachaawe"
この映画の監督は『ガリーボーイ』や『人生は二度とない(Zindagi Na Milegi Dobara)』のゾーヤー・アクタルで、主演はまたしてもシッダーント・チャトゥルヴェーディ。
(ところで、人物名にカナ表記とアルファベット表記が混じっているが、これは検索しても日本語で情報がなさそうな人はアルファベット表記で、ある程度情報が得られそうな人はカナ表記にしているからです)
音楽のセレクトから監督・主演まで、いかにも都市部のミドルクラスをターゲットにした陣容だ。
ムンバイのメタルバンドPentagramの出身のVishal Dadlani(ボリウッドの作曲家コンビVishal-Shekharの一人)のように、インディーズから映画音楽に転身した例もあり、OAFFが今後どういう活動をしてゆくのか、気になるところではある。
もうちょっと前の作品だと、シンガーソングライターのPrateek Kuhadの名曲"Kasoor"のアコースティックバージョンがNetflix映画の『ダマカ テロ独占生中継(Dhamaka)』(2021)で使われていたのが記憶に残っている。
Prateek Kuhad "Kasoor (Acoustic)"
これは映画のために書き下ろされたのではなく、既存の曲が映画に使われたという珍しい例。
ここまで読んで気づいた方もいるかと思うが、インディーミュージシャンの起用はNetflixとかAmazon Primeとかの配信系の映画が多い。
インディーズ勢の音楽性が配信作品の客層の好みと合致しているからだろう。
ヒップホップに関して言うと、ここ数年の間に、Honey SinghとかBadshahじゃなくてストリート系のラッパーが映画音楽に起用される例も見られるようになってきて、いちばん驚いたのは、この"Farrey"という2023年の学園もの映画にMC STANが参加していたこと。
"ABCD(Anybody Can Dance)"や"A Flying Jatt"(『フライング・ジャット』)の映画音楽を手がけたSachin-Jigarによる曲でラップを披露している。
MC Stan, Sachin-Jigar & Maanuni Desai "Farrey Title Track"
おそらくインド初のエモ系、マンブル系ラッパーとしてシーンに登場したMC STANは、映画音楽からはいちばん遠いところにいると思ったのだが、実はあんまりこだわりがなかったようだ。
セルアウトとかそういう批判がないのかは不明。
ラップ部分のリリックのみSTAN本人が手がけている。
映画にはサルマン・カーンの姪のAlizeh Agunihotriが主演。サントラには他にBadshahが参加したいつもの感じのパーティーチューンなんかも収められている。
ストリート系のラッパーが映画音楽に参加した例としては(ヒップホップ映画の『ガリーボーイ』(2019)は別にして)、さかのぼればDIVINEとインドのベースミュージックの第一人者であるNucleyaが起用された"Mukkabaaz"(2018)や、もっと前にはベンガルールのBrodha VとSmokey the Ghostが参加していた 『チェンナイ・エクスプレス』(2013)もあった。
いずれも各ラッパーのソロ作品に比べるとかなり映画に寄せた音楽性で、アーティストの個性を全面に出した起用というよりは、楽曲の中のラップ要員としての起用という印象が強い。
「映画のための音楽」と個人の作家性が極めて強いヒップホップはあんまり相性が良くなさそうだが、このあたりの関係が今後どうなってゆくかはちょっと気になるところだ。
ここまでヒンディー語のいわゆるボリウッド映画について述べてきたが、南インドはまた状況が違っていて、タミルあたりだとArivuなんてもう映画の曲ばっかりだし、最近注目のラッパーPaal Dabbaもかなり映画の曲を手がけている。
Paal Dabba & Dacalty "Makkamishi"
2024年の映画"Brother"の曲。
濃いめの映像、3連のリズムとパーカッション使いがこれぞタミルという感じだ。
Arivu "Arakkonam Style"
こちらもまたタミルっぽさとヒップホップの理想的な融合と言えるビート、ラップ、メロディー。
映画"Blue Star"(2024)には、自身もダリット(カーストの枠外に位置付けられてきた被差別民)出身で、ダリット映画を手がけてきたことでも知られるパー・ランジット(Pa. Ranjith)が制作に名を連ねている。
Arivuはもともと彼が召集した音楽ユニット、その名もCasteless Collectiveの一員でもあり、ランジットは『カーラ 黒い砦の闘い』(2018年。"Kaala")でもラップを大幅にフィーチャーしていた。
タミル人に関しては、メジャー(映画)とインディーズ音楽の垣根がそもそもあんまりなく、2つのシーンがタミルであることの誇りで繋がっているような印象を受ける。
タミルのベテランヒップホップデュオHip Hop Tamizha(まんま「タミルのヒップホップ」という意味)なんて映画音楽を手掛けるだけじゃなくてメンバーのAdhiが映画の主演までしているし。
Hip Hop Tamizha "Vengamavan"
これは2019年の"Natpe Thunai"という映画の曲。
この頃は、いかにもタミル映画の曲にラップが入っている、という印象だったけど、最近の映画の曲になるとかなりヒップホップ色が強くなってきている。
Hip Hop Tamizha "Unakaaga"
これはAdhiが主演だけでなく監督も務めた"Kadaisi Ulaga Por"という今年公開された映画の曲。
今後、タミルの映画音楽がどれくらい洋楽的なヒップホップに寄って来るのかはちょっと注目したいポイントである。
南インド方面で驚いたのは、アーメダーバード出身のポストロックバンドAswekeepsearchingが、今年(2024年の)公開の"Footage"という映画のサウンドトラックを全て手掛けているということ。
予告編ではかなり大きく彼らの名前が取り上げられていてびっくりした。
映像的なポストロックは確かに映画音楽にぴったりだが、エンタメ的な派手さとは離れた音楽であるためか、インドで映画音楽に使用された例は聞いたことがない。
ケーララ州のマラヤーラム語映画で、この独特のセンスはいかにもといった感じ。
サントラはすでにサブスクでリリースされていて、予告編の曲は弾き語り風だが、他の曲では彼ららしいダイナミズムに溢れたサウンドを楽しむことができる。
2017年リリースの"Zia"に収録されていたこの曲も映画で使用されているようだ。
Aswekeepsearching "Kalga"
ここまで紹介した曲が、ほとんど「インディー系のアーティストが映画のためのサントラを制作」とか、「映画のサントラにインディー系のアーティストが起用」だったのに対して、このケースはAswekeepsearchingの音楽のスタイルを映画に寄せることなく映画音楽として成立させていて、他の例とは違うタイプの起用方法だと言えそうだ。
そういえばマラヤーラム語映画では、以前"S Durga"(2018)という映画でもスラッシュメタルバンドのChaosが起用された例があったが、こういう傾向が今後他の言語の映画にも広がってゆくのかどうか、興味深いところではある。
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2024年08月21日
インドで人気を博すK-Popアーティスト AOORA
いまさらすぎることを改めて書いてしまうが、世界中のあらゆる地域と同様に、インドでもK-Popの人気は凄まじい。
BTSやBLACK PINKのようなビッグネームに関しては言うまでもなく、2018年に北東部ナガランド州で行われたHornbill Music Festivalでは、M.O.N.Tという無名の男性グループまで熱狂的に受け入れられている。
参考記事:
この記事で触れたインド人メンバーSidが在籍していたK-PopグループZ-Boysはその後活動を休止してしまったようだが、最近では人気の裾野はさらに広がっており、Hybe Japan所属の多国籍ポップグループ「&TEAM」(エンティーム)のファンもインドにいたりする。
先日出演したJ-WAVEの'POP OF THE WORLD'の中で、&TEAMからのコメントを放送するという企画があったのだが、その告知に対して、インドから「&TEAMと同じツイートにカルカッタとかボンベイとかインドのヒップホップとか書かれてるんだけど、どういうこと?」「彼らがインドのヒップホップを聞いてコメントするの?」といったリアクションが何件も寄せられていた。
calcutta, bombay, indian hip hop and &team in same tweet?? what is this??😭 https://t.co/gdJe8OASSm pic.twitter.com/Ozy8Qunt9S
— div♡ (@prodkei) August 16, 2024
そうじゃなくてごめん。
インドでのK-Pop人気に関する驚きはさらに続く。
最近いちばんびっくりしたのは、「インドで現地の言葉で歌い人気を博しているK-Popシンガー」がいるということだ。
彼の名前はAoora.
2011年にAA(「ダブルA」と読む)というグループでデビューした彼は、2022年にSNSで公開したボリウッド映画のヒット曲(ちなみに2017年の映画"Tiger Zinda Hai"の挿入歌"Swag Se Swagat")を使ったマッシュアップ動画でインドでの注目を集める。
2023年には、ウッタル・プラデーシュ州が企画したインドと韓国の国交50周年記念フェスティバルに出演し、これを機にインド国内での活動を本格化した。
Aooraの驚くべき点は、いかにもK-Pop的なきらびやかなサウンドに、インドの言語や楽器を融合して、かなりインドを意識したスタイルで活動しているということだ。
彼がまずインドでリリースしたのは、往年のボリウッドの懐メロ的ヒット曲のカバーだった。
AOORA "Yeh Sham Mastani"
オリジナルは1971年のヒンディー語映画"Kati Patang".
オリジナルはディスコをインド的に解釈した音楽でカルト的な人気を持つ、1982年のヒンディー語映画"Disco Dancer"の挿入歌。
2曲ともEDMポップとして違和感ない仕上がりだが、いかにもオールドボリウッド調のオリジナル版を聴けば、そのアレンジの妙に舌を巻くはずだ。
やっぱり「K-Popといえばこんな感じ」というシグネチャースタイルがあるのは強いなと思う。
若干ユニセックスな雰囲気のある東アジア的イケメンっぷりも、インドを拠点に活動するうえではユニークな強みになっていることだろう。
(インドのインディーズシーンでは、ラッパーのMC STANとかシンガーソングライターのDohnraj、最近俳優としても活躍しているKrakenのMoses Koulあたりがユニセックスイケメン的な雰囲気を持っている。今後インドでもこうした非マッチョ的男性の人気が出てくるのだろうか)
AOORAがすごいのは、インドの最大マーケットである北インドのヒンディー語圏だけでなく、インド各地の文化をまんべんなくアプローチしているということ。
AOORA "Thi Thi Thara"
この曲ではケーララ州の公用語マラヤーラム語で歌唱し、ミュージックビデオではケーララの伝統芸能カタカリ・ダンスのダンサーと共演している。
パンジャーブのバングラーじゃなくて南インド、それもタミルじゃなくてケーララを選ぶあたりのセンスにしびれる。
AOORA "Hoki Re Rasiya"
インドのお祭りソングの定番、ホーリーに合わせたこんな曲もリリースしていて、本当に目配りが効いている。
AOORAのミュージックビデオの再生回数は数万回から数百万回。
「インドで大人気」とまで呼ぶにはまだ1〜2ケタ足りないかもしれないが、それでも人気インディーズバンドと同じくらいの支持を集めているのは確かなようだ。
M.O.N.TのHornbill Music Festival出演もそうだが、アーティストが自ら草の根的にK-Pop普及に励んでいるというバイタリティーもすごい。
インディーズではなくメジャー志向で、かつこういうスタイルで活動しているアーティストは、少なくとも日本人では聞いたことがない。
世界のポップミュージックシーンですでに確固たる地位を築いているK-Popがここまでのことをやれば、そりゃ支持されるのも分かる。
ちなみに東アジア〜東南アジアでは一定の支持を集めた日本のAKBグループは、二度にわたってインド進出を試み、いずれも頓挫してしまっている。
インド以西ではカワイイの一点突破型の日本的アイドルはほとんど人気がないが、ミャンマーあたりにポップカルチャーの分水嶺があるのだろうか。
(「かつて占領していた国の文化を受け入れやすい」という法則が発動しているだけ、という身も蓋もないの話かもしれないが)
以前紹介したKSHMRとEric NamとArmaan Malikのような興味深いコラボレーションも散発的に行われていて、インドとK-Popの関係はこれからも何かが起きそうな予感がする。
いろいろなものが混ざってどんどん面白くなってきているインドの(というか世界中の)音楽シーンで、K-Popの要素は今後どんな化学反応を起こしてくれるのだろうか。
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2024年08月17日
軽刈田 凡平のプロフィールのようなもの

アンタいったい何者?
とよく聞かれるので、簡単なプロフィール紹介です。
1978年生まれ。
学生時代に若気の至りの一人旅でインドを訪れ、街にうずまく混沌としたパワーと人々のバイタリティーに衝撃を受ける。
音楽好きだったため、「インド人がロックやブルースやヒップホップをやり始めたらすごいことになるだろうなあ」と思ったものの、当時(90年代後半)のインドでは映画音楽以外は非常にマイナーであり、そうした音楽とは出会えないまま終わる。
その後もインドに興味を持ち続けたまま時は流れ、2010年代後半、インドのロック、ヒップホップ、電子音楽等のシーンが非常に面白くなってきていることを発見。
2017年12月に「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)」名義でブログ「アッチャー・インディア 読んだり聞いたり考えたり」を開始。
各誌への寄稿、ラジオ出演なども行う。(下記参照)
インドのインディー音楽を中心に、インドのカルチャーや、世界中に出没している謎のインド人占い師「ヨギ・シン」について調査して書いています。
都内在住。
尊敬する人はタイガー・ジェット・シン。
これまでの活動実績
2018年
2019年
- 2019年1月27日 ユジク阿佐ヶ谷にて、映画『あまねき旋律』上映後のトークショー開催。
- 2019年8月 映画『シークレット・スーパースター』パンフレットにコラム寄稿。
- 2019年8月22日 秋葉原CLUB GOODMANにてマサラワーラー鹿島信治さんと"Indian Rock Night"開催。インド料理食べ放題+インドのロック紹介のイベント。
- 新宿にてサラーム海上さん、Hiroko Sarahさんとdues新宿にて映画『ガリーボーイ』公開記念イベント"Indian Hiphop Night"開催。
- 2019年11月30日 狛江のインド料理プルワリさんにてイベント「インド人の知らないインド音楽」開催。
2020年
- 2020年2月29日 狛江のインド料理プルワリさんにてイベント"Indian Night"開催。
- 2020年4月 映画『タゴール・ソングス』パンフレットにコラム寄稿。
- 2020年6月7日 ポレポレ東中野にて『タゴール・ソングス』上映後のオンライントークに出演。
- 2020年6月20日 Space & Cafeポレポレ坐にて『みんなで聴こう!!タゴールソングNIGHT タゴールからバウル、ボブ・ディラン、ラップまで ー現代ベンガル音楽の系譜ー』開催。
- 2020年11月8日 ムンバイ在住のHiroko Sarahさんとオンライン・トークイベント『Straight Outta India インドあの街この街ヒップホップの旅 南・西編』(スペシャル・ゲスト ムンバイのラッパーIbex)翌週の15日に『北・東編』(スペシャル・ゲスト browneyes)開催。初のオンライン有料イベントで、ムンバイ在住のHirokoさんとインド全土とパキスタン、バングラデシュのヒップホップを紹介。
- 2020年12月 阿佐ヶ谷書院『カレーにまつわるエトセトラ vol.1』にコンピレーション・アルバム『インドカレー屋のBGM 決定版』のレビューを寄稿。
2021年
- 2021年6月 Audio-Technicaさんが運営する音楽情報サイト、'Always Listening'さんからの依頼でインドのヒットチャートをテーマにした記事を執筆。
- 2021年6月16日 TBSラジオの『アフター6ジャンクション』20時台の「ビヨンド・ザ・カルチャー」コーナーに出演。「ボリウッドだけじゃない!今、世界でイチバン面白いのはインドポップスだ!特集」。
- 2021年7月 南インドのケーララ州の映画『ジャッリカットゥ 牛の怒り』配給元のイメージフォーラムさんのお招きで、公開記念のオンライントークイベントに出演。
- 2021年8月22日、29日 2週にわたってJ-WAVEの'ACROSS THE SKY'番組内のアジア各地のヒップホップを紹介するコーナー、'IMASIA'に出演。(ナビゲーターはSKY-HIさん)インドのヒップホップを4曲選んで紹介し、各ラッパーのエピソードなどを披露。
- 2021年8月28日 としま未来文化財団さん主催のイベント『バングラデシュの詩とラップ』で、映画『タゴール・ソングス』の佐々木美佳監督とトーク。
- 2021年9月29日 J-WAVEの'SONAR MUSIC'に出演。(ナビゲーターはあっこゴリラさん)8曲ほど紹介。
- 2021年10月10日 水戸映画祭にて『ジャッリカットゥ』上映後に安宅直子さん、山田タポシさんとのトークセッション。
- 11月11日、18日 2週にわたってInterFM 'Dave Fromm Show'のなかの「嘉右衛門presents 'The Road'」のコーナーに出演。ロックの話とヨギ・シンの話。
- 12月23日 Tokyo FM "THE TRAD"にインドのクリスマスソングのネタを提供。
2022年
- 4月13日 TBSラジオの『アフター6ジャンクション』20時台の「ビヨンド・ザ・カルチャー」コーナーに再出演。今回のテーマは「インドのヒップホップ スタイルウォーズ」。
- 7月17日 『ヒップホップ・モンゴリア』の島村一平さんに声をかけていただき、国立民族学博物館にて第1回「辺境ヒップホップ研究会」に参加。以降、この研究会は続いてゆき、2024年には書籍も出版(後述)
- 8月 マガジンハウスの女性誌『GINZA』のアニメクリエイター特集に、インドのアニメーションのミュージックビデオを紹介。
- 12月11日 「東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所(AA研)のフィールドサイエンス研究企画センターを拠点に活動を進めているプロジェクト」であるFieldnet主催のオンラインイベント「躍動する南アジアのポピュラー音楽文化の諸相」にて「レペゼンされる重層的的アイデンティティ」というテーマで発表。
2023年
- 3月13日 ふたたびJ-WAVEの'SONAR MUSIC'に出演。『RRR』のヒットにあやかった「ナートゥの向こう側!踊れる #インド音楽」という企画で、インド映画の音楽を紹介する。
- 3月 雑誌『TRANSIT』59号「東インド・バングラデシュ特集」にコルカタとバングラデシュの音楽シーンについての記事を寄稿。
- 3月26日 京都のインド料理レストラン「ティラガ」さんにて「インドから学び〜舎 今、インド音楽が熱い。拓徹と軽刈田凡平が読み解く、インド音楽の最新事情」。
- 4月 上述の『TRANSIT』59号のに連動した企画で、Spotifyにインド・バングラデシュ両国のインディペンデント音楽をセレクトしたプレイリストを公開。「音楽で旅するベンガル」というコンセプトになっているからよかったら聴いてみて。
- 4月 共同通信さんから依頼された佐々木美佳さんの『うたいおどる言葉、黄金のベンガルで』について書いた書評が地方各紙に掲載される。
- 10月 ドキュメンタリー映画『燃えあがる女性記者たち』にコメントを寄せる。
- 10月 ついに謎のインド人占い師「ヨギ・シン」との遭遇に成功!そしてインタビューも試みる。
- 11月5日 高田世界館さんにて、『燃えあがる女性記者たち』上映後のトークイベントを行う。
2024年
- 5月 友人でもあるインドのプロデューサーのカラン・カンチャンがJ-WAVEの'M.A.A.D. SPIN'に出演。通訳として呼ばれる。番組終了後、ナビゲーターのWatusiさん、Naz Chrisさんのはからいで、別スタジオで収録中だったZeebraさんをKaran Kanchanに紹介。
- 6月 これまでの「辺境ヒップホップ研究会」の活動をまとめた書籍『辺境のラッパーたち 立ち上がる「声の民族誌」』(島村一平編)が青土社から出版。軽刈田はインドに関する章を「成り上がり・フロム・ガリー How To Be Big In India」というタイトルで書く。
- 7月11日 都市伝説系YouTuberの「都市ボーイズ」の「はやせやすひろ」さんがヨギ・シンに遭遇し、私のブログを見つけてくれて、YouTubeで紹介してくれる。
- 7月25日 TOKYO FM 'THE TRAD' に出演。パーソナリティーはハマ・オカモトさんの代打のオカモトショウさんと中川絵美里さん。Sidhu Moose Walaの曲などをかける。
- 8月17日 J-WAVE 'POP OF THE WORLD'に出演。ナビゲーターはハリー杉山さんとジェニーさん。
世界的ヒット中のHanumankind "Big Dawgs"などをかける。 - 9月 共同通信さんから依頼された小林真樹さんの『インドの台所』について書いた書評が地方各紙に掲載される。
2025年
- 5月 『季刊民族学』192号(2025年春号)「特集 ヒップホップ——逆転の哲学(ダースレイダー責任編集)」に「多層都市ムンバイのヒップホップシーン——エンターテインメント、エンパワーメント、ポップカルチャー、そしてストリートカルチャー」を寄稿。 昨年末にムンバイでの調査内容について書く。内容はKaran Aujlaのライブ、IIT Bombayの学園祭Mood Indigoのヒップホップナイト、ヒップホップレーベルDesi Trill主催のオープンマイクイベント、スラム出身のラッパーStreet Sheikhへのインタビューと公演でのサイファーの様子など。
- 5月6日 青山のライブハウス「月見ル君想フ」にて、「インド、月見ルに現る 〜ネパールもちょこっと同行中〜」にてインドのロック、メタル、EDM、ヒップホップ、R&Bを紹介。共演のインド人落語家SanQさんの英語落語(「お菊の皿」)が面白かった。
- 6月1日 ミュージック・マガジン6月増刊号『ミュージック・ガイドブック 2010-2024 VOL2』に2010~24年の15年間を代表する南アジアの15作品を選盤。総論も寄稿。
インドだけではなく「南アジア」ということで、いつものインディペンデント系を中心に、周辺諸国や在外アーティストも含めて、この15年間の同時代性や歴史的意義なども考慮しながら選出する過程は悩みつつも楽しかった。
他にもヒップホップ、R&B、ジャズの各種サブジャンルや世界各地域の音楽に関する話題が網羅されていて、エレクトロニック、インターネット・カルチャー、クィア・カルチャー、ロック、ポップスなどを特集したVol.1と合わせてオススメ。
その他、某大学にてインド文化の授業のゲスト講師などもやったことがあります。
何か書いてくれとか喋ってくれとかあったらお気軽にご相談ください。
(PCでこのブログを開いたときに左手に出るメッセージ欄や、TwitterのDM、Facebookからのメッセージでご連絡ください)
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goshimasayama18 at 16:22|Permalink│Comments(0)
2024年08月15日
インドのヒップホップが世界に知られる日が来たのか? "Big Dawgs"大ヒット中のHanumankindを紹介!
まさかの事態が起きている。
Def Jam India所属のラッパーHanumankindが7月9日にリリースしたシングル"Big Dawgs"が、SpotifyやApple Musicなどの大手サブスクのグローバルチャートで軒並みTop20に入る世界的にヒットを記録しているのだ。
Hanumankind "Big Dawgs" ft. Kalmi
この曲がリリースされてすぐに、私もその異様なかっこよさにシビれて「そろそろインドのラップは世界で聴かれるべき」とツイートしたのだが、まさか本当にこんなビッグヒットになるとは思わなかった。
やばいなー!
— 軽刈田 凡平 (@Calcutta_Bombay) July 10, 2024
その名もHanumankind、インドの英語ラップはそろそろ世界で聴かれるべき。
頭蓋骨を内側から引っ掻くようなビート、インドらしさとヤバさを両立させたMV、冒頭の老人の肖像はヨギ・シンが写真を見せてくることもある初代サイババ。見どころ聴きどころ多すぎる!https://t.co/OxYdnWcnOb
"Big Dawg"は8月14日現在、SpotifyのグローバルTop50で7位にランクインしている。
インド人は人口が多いので、インドでだけ盛り上がっているのが数の論理でチャート上位に食い込んでいるだけなんじゃないのか、と思う人もいるかもしれないが、この曲はUSトップ50でも現在13位。
本物の世界的バイラルを巻き起こしているのだ。
HanumankindことSooraj Cherukatはインド最南部の西側、ケーララ州にルーツを持つ両親のもとに生まれた。
幼い頃に父の仕事の都合で米国に引っ越し、20歳までをテキサス州で過ごしたのち、帰国してタミルナードゥ州の大学に入学。
ゴールドマン・サックスでインターンシップを経験するなど、エリートのキャリアを歩んでいたようだが、その後ITシティとして有名なベンガルールを拠点にラッパーとしての本格的な活動を始めた。
ベンガルールのシーンにはBrodha VやSmokey the Ghost, SIRIなど他にも英語でラップするラッパーが多く、英語でラップするHanumankindにとっても好都合だったのかもしれない。
彼のような帰国子女アーティストはインドのインディーズシーンでたびたび見かけることがある。
とくにインターネットが普及する以前、彼らは海外の最新のサウンドをインド国内に紹介する役割を担っていた。
メインストリームの映画産業を含めて、サウンドに関しては欧米の流行への目配りが効いているインドの音楽シーンだが、いっぽうで歌詞については保守的で、英語の曲がヒットすることは稀だ。
日本のヒット曲が日本語のポップスばかりなのと同様に、インドでも売れるのは地元言語の曲ばかり。
もっぱら英語でラップするHanumankindは、DIVINEやEmiway Bantaiのようなヒンディー語でラップして数千万から数億回の再生回数を叩き出すラッパーと比べると、コアなヒップホップファンに支えられた通好みなラッパーという印象だった。
つまり、「英語でラップする」という彼の(本場っぽく聞こえると言う意味では)強みでもあり、(地元をレペゼンする音楽として受け入れられにくいという)弱みでもある点は、国内でのセールスという点では圧倒的不利に働いていたのだ。
それが、ここにきて世界的マーケットでのまさかの大逆転というわけである。
"Big Dawgs"の印象的なビートはKalmiによるプロデュース。
Kalmiはアーンドラ・プラデーシュ州の海辺の街ヴィシャーカパトナム出身で、現在はテランガナ州のハイデラーバードを拠点に活動している。
いろんな地名が出てきて分かりづらいと思うが、Hanumankindの生まれ故郷ケーララやタミルナードゥ、活動拠点のベンガルールを含めて、ここまで出てきた地名は全て南インドだということだけ覚えてもらえればOKだ。
インドという国は、人口規模や経済規模から、ムンバイやデリーといった北インドの文化・人々が幅を利かせている傾向があるのだが、サウスの人々は総じてそうした状況への反発心が強く、自分たちの文化に誇りを持っている。
"Big Dawgs"のリリックに'The Southern Family gon' carry me to way beyond'というラインがあるが、これは彼が育ったアメリカ南部のことではなく、南インドのことを言っているのである(ダブルミーニングかもしれない)。
まあともかく、同じサウス仲間のKalmiはこれまでもHanumankindと何度も共演していて、この"Rush Hour"のブルースっぽいビートなんて、かなりかっこいい。
Hanumankind "Rush Hour" (Prod. By Kalmi)
この曲のリリックにはWWEの名レスラー、ミック・フォーリーの名前が出てくる。
HanumankindというMCネームは、猿の姿をしたヒンドゥー教の神ハヌマーンとMankind(人類)という英単語を合わせたものだが、マンカインドはミック・フォーリーの別名(別キャラクターとしてのリングネーム)でもあり、おそらく彼が意図したのはこのリングネームのほうだろう。
インドでは総じてプロレス(というかアメリカのWWE)の人気が高い。
だいぶ前にインドでのプロレス人気について記事を書いているので、興味のある方はこちらをどうぞ。(この記事に書いたインドのプロレス団体Ring Ka Kingはその後あえなく消滅)
また話がそれた。
このKalmi、8ビットっぽいサウンドの曲をリリースしていたり、Karan KanchanとJ-Trapの曲でコラボしていたりと、ヒップホップのビートメーカーだけがやりたいタイプではなくて、どちらかというとエレクトロニック畑のアーティストらしい。
Karan Kanchan然り、こうした出自のアーティストがヒップホップのビートを数多く手掛けているところが、インドのヒップホップをビートの面から見た時の面白さと言えるかもしれない。
せっかくなのでHanumankindの他の曲もいくつか紹介してみる。
個人的に非常に好きなのが、タイトルからして最高なこの曲。
Hanumankind x Primal Shais "Beer and Biriyani"
ヘヴィなビートに合わせて、「ビールとビリヤニは最高」というリリック、そしてただビールを飲んでビリヤニを食べるだけのミュージックビデオ、本当に最高じゃないか。
(ちなみに彼が食べているのは故郷のケーララ風のビリヤニ)
この曲をプロデュースしているPrimal Shaisもサウスのケーララ出身。
彼もまたHanumankindとよくコラボレーションしていて、KalmiとともにHanumankindのシグネチャースタイルともいえるミドルテンポのヘヴィなビートを作り上げた一人である。
Hanumankind "Go To Sleep" ft. Primal Shais
HanumankindとPrimal ShaisはベンガルールでのBoiler Roomセッションもやっていて、こちらもかなりかっこいいので、興味がある方はこちらのリンクからぜひどうぞ。
Boiler Roomパフォーマンスを見る限り、Primal Shaisもヒップホップのビートメーカーというよりはエレクトロニックをルーツとして持つプロデューサーのようだ。
HanumankindはBoilerroomでも「南インド最高!」みたいなMCを繰り返していて、やっぱりサウス独特のプライドというかレペゼン意識があるんだなあと再認識。
こちらはまた別の曲。
Hanumankind "Skyline"
彼には珍しいメロウなビートに乗せたラップもなかなかかっこいい。
ところで、Hanumankindのことを最初に知ったのは6年前のこのミュージックビデオだった。
若き日のHanumankindがスーパーマリオの曲に合わせてラップしている。
この曲を見つけた時は、ビートルズのTシャツを着たちょっとナードな雰囲気のラッパーがこんなに変わるとは思わなかった。
このスーパーマリオラップもキュートで最高だけどね。
Hanumankindをきっかけにインドのラッパーが世界で聴かれる時代が来るのか?
国籍の壁の次に、言語の壁が破られる時代は来るのか?
インドだけじゃない、世界の音楽シーンもどんどん面白くなっている。
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2024年08月05日
オディシャのお祭りラップ
インド全土のインディーズ音楽情報を網羅したいと思っているこのブログだが、インドはあまりにも広大で、いつも北インドのヒンディー語圏のアーティストについて書くことがが多くなってしまっている。
それじゃいかんということで、今回はインド東部のオディシャ州のラッパーたちに注目したい。
オディシャ州はベンガル湾に面した東インドの北側、コルカタの南のほうに位置している。
州の公用語はオディア語、州都はブバネーシュワル。
なお、州や言語の表記に関しては、オディシャ/オリッサ、オディア/オリヤーという揺れが見られるが、ここではオディシャとオディアとさせていただく。
オディシャには「コナーラクの太陽寺院」という世界遺産があるものの、ムンバイやベンガルールのような国際的な都市があるわけではなく、どちらかというと鄙びた田舎の州といった趣の地方である。

(画像出典:https://www.britannica.com/place/Odisha/Economy)
以前「インドのラッパーたちはやたらと独立記念日(8月15日)をテーマにしたラップをする」とか「色のついた粉や水をぶっかけ合うお祭り『ホーリー』に合わせてラップの曲がリリースされている」という記事を書いたことがあるが、こうした記念日ソング、祭ソングの傾向は、ここオディシャでも変わらない。
オディシャ州といえば、海辺の街プリー出身の日印ハーフのラッパーBig Dealのことを思い出す人も多いだろう。
オディシャ州の言語であるオディア語と英語の両方でラップする彼に「ラップの言語はどうやって選んでいるの?」と聞いてみたところ、「オディア語でラップするときはお祝いのようなより楽しい雰囲気にしていて、英語でラップするときは議論を呼ぶようなものにしている」という答えが返ってきた。
(↑インタビュー詳細はこちらから)
「お祝いのような」と訳した部分は、cerebratoryという英単語を使っていた。
パーティーラップっぽい曲のことを言っているのかなと思っていたのだけど、オディア語ラップを詳しくチェックしてゆくと、むしろそれよりも「オディシャのお祭りについてラップをする」という意味のほうが強かったのかもしれない。
彼も、他のオディシャのラッパーも、オディア語でやたらと地元の祭りについてラップしているのだ。
「祭」といえばさぶちゃん(北島三郎)。
演歌とヒップホップは、ローカル色(地元レペゼン意識)が強く、カタギじゃない雰囲気を持ち、型にはまった生き方よりもタフで自由な生き方を志向するという点で共通点があると思うのだが、日本ではヒップホップが受容される過程で、演歌的なドメスティックな要素はほとんど排除されてしまった。
本場アメリカに寄せることこそがヒップホップ的にリアルという価値観が強かったためだろう。
それに反して、インドでは、そしてもちろんここオディシャでも、地元の祭りとヒップホップが思いっきり繋がっているのである。
ローカルこそがリアル、というわけだ。
例えば、Big Dealの曲に、生まれ故郷プリーで行われるRath Yatraという大きなお祭りをテーマにした"Choka Dolia"という曲がある。
(Rath Yatraについてもラート・ヤートラとかラト・ヤトラとか日本語での表記が定まっていないようなので、ここはアルファベット表記でいきます)
Rapper Big Deal "Chaka Dolia(Rath Yatra 2024 Special) " ft. SatyajeetJena
タイトルにRath Yatra 2024 Specialとあるように、この曲は7月に行われるRath Yatraに合わせてリリースされた曲で、英語字幕を見れば分かる通り、ヒンドゥーの神への帰依がラップされている。
アメリカにクリスチャン・ラップがあるように、インドにはヒンドゥー・ラップ(とはあまり呼ばれていないが、ヒンドゥーの信仰をテーマにしたラップ)が存在している。
ベンガルールのBrodha Vの初期の代表曲"Aatma Raama"あたりがその代表曲と言えるだろう。
Big Dealがラップするのは、もっぱら地元で強く信仰されている神様「ジャガンナート」のことだ。
最初のほうに別の神様であるクリシュナの名前も出てくるが、ヒンドゥー教は多神教かつ様々な文化の集合体であるため、この地域ではクリシュナとジャガンナートは同じ神だと捉えられている部分もあるようだ。
真っ黒な顔に丸い目をしたマンガのキャラクターみたいなジャガンナートと、ヒンドゥーの神々のなかでもとりわけイケメンに描かれるクリシュナが同一というのはよそ者には理解しがたいが、本来は目に見えない信仰の対象である神が、別の形象で現されているということなのだろう。
ところで、以前Big Dealから「自分は神を信じて入るけど、特定の信仰は持っていない」という言葉を聞いたことがある。
この曲ではヒンドゥーの神への信仰を語っていて、言ってることと違うじゃん、とつっこみたくなってしまうところだが、私が思うに、おそらく彼の中でジャガンナートに帰依することと、特定の宗教を選ばないことは矛盾していない。
彼にとって、あるいはもしかしたら地元の多くの人たちにとって、ジャガンナートへの信仰は、地域に根ざしたあまりにも日常的な存在で、誰かが枠組みや教義を作った宗教よりも、はるかに普遍的なことなのだろう。
この曲の後半では、ムスリムとして生まれたサラベガ(17世紀のオディア語詩人)がジャガンナートに帰依したというエピソードがラップされている。
これは昨今インドで盛んなヒンドゥーナショナリズム的な「イスラム教よりヒンドゥーのほうが立派なんだ」という主張をしているのではなくて、ジャガンナートは宗教の垣根なんて関係なくありがたい神様なんだよ、と言っているのだと思う。
このあたりは、日本人が初詣で地元の寺や神社にお参りする時に、いちいち自分は仏教徒とか神道の信者とか考えないのと同じような感覚なのかもしれない。
彼は"Kalia"と題したジャガンナートと地元への愛に満ちたラップのシリーズを発表していて、この"Kalia3"では珍しく英語でジャガンナートへの感謝と帰依がラップされている。
Big Deal "Kalia 3"
彼は世界中にジャガンナートの素晴らしさを伝えるべく、この曲を英語でラップしているとのこと。
それがちゃんとオディシャの人々に支持されているのが素晴らしい。
そして、この曲でも「カーストも宗教も関係なく、誰もが平等」とラップされている。
調べてみると、Big Deal以外にも、Rath Yatraについてオディア語でラップした曲はたくさんリリースされているようだ。
Rapper Rajesh "Jay Jagannath 2"
これはRapper Rajeshによる"Jai Jagannath 2"という曲。
Jai Jagannathという言葉はBig Dealもよく発しているが、ジャガンナート神を讃える祈りのことばで、オディシャでは挨拶のようにも使われているようだ。
最初に笛を吹いている人物が演じているのはクリシュナなので、やはりここでもクリシュナとジャガンナートが同一視されている。
この宗教歌謡っぽい曲が、ヴァースに入ると当然のようにラップになるところに、今のインドでのヒップホップの定着っぷりが感じられる。
あと関係ないけど、オディシャのラッパーにはMC○○じゃなくて、Rapper○○って名乗っている人が多いような気がする。
Big Dealも正式にはRapper Big Dealの名義で活動しているし、ダリット(カースト制度の枠外に置かれた被差別民)出身のラッパーでRapper Dule Rockerという人もいる。
インドでも他の地域でラッパー○○というMCネームは見た記憶がないので、なんでだかちょっと気になるところだ。
続いてこちらはUstaadというラッパーの"Re Kalia"という曲
Ustaad "Re Kalia"
これもインドのラッパーの曲によくあることなのだが、"Re Kalia"という曲名とは別に、タイトル欄にいろんなサブタイトル(?)が書かれていて、Jai JagannathやShri Jagannathというジャガンナート神への賛美に加えて、やはりRath Yatra Songとお祭りソングであることが明記されている。
Big Dealもタイトルに使っていたKaliaという言葉は、ググってみた限りでは、「黒みがかった美」すなわちクリシュナを讃える言葉らしい。
青い姿で描かれることが多いクリシュナ神だが、シヴァやクリシュナのように青い肌で書かれるヒンドゥーの神は、もともとは黒い肌だったことを表していると言われる。
このKaliaは、クリシュナを讃えるのと同時に、おそらく真っ黒い肌で描かれるジャガンナートとも関係している言葉という意味を持っているのではないかと思う。
Subham Riku "Jaga Kalia"
こちらはSubham Rikuというラッパーの"Jaga Kalia"という曲。
ここでもタイトルにKaliaという言葉が使われ、Rath Yatra Rap Songというサブタイトルがつけられている。
昨年リリースされて700回程度しか再生されていない曲だが、なかなかちゃんとしている。
数年前にオディア語のラップをチェックしたときには、率直に言ってかなり垢抜けない感じだったのが、すごい勢いで進化しているようだ。
オディア語ラップ、ご覧の通りムンバイやデリーとはまた別の方向性で成熟してきている。
オディシャのリアルというのが、伝統的なお祭りや信仰と地続きになっているというのが、なんとも最高ではないですか。
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