WhenChaiMetToast

2021年12月29日

2021年度版 軽刈田 凡平's インドのインディー音楽top10

今年も多作だったインドのインディペンデント音楽シーン。
というわけで、昨年に続いて今年も2021年にリリースされた作品の中から、売り上げでもチャートでもなく、あくまで私的な感覚で今年のトップ10を選んでみました。
対象は、ミュージックビデオまたはアルバムまたは楽曲。
10曲のなかの順位はとくにありません。
例によって広すぎるインド、とてもじゃないけど全てをチェックしているとは言えないので、ここに入っていない傑作もあるはずですが、それでもこの10曲を聴いてもらえれば、今のインドのシーンの雰囲気が分かるんじゃないかと思います。

それではさっそく!


Seedhe Maut  "न"(Na) (アルバム)


デリーのSeedhe Mautが、同じくデリーを拠点とするレーベルAzadi Recordsからリリースしたこのアルバムは、インドのヒップホップのひとつの到達点と言っても過言ではないだろう。

ビートとラップによるリズムの応酬に次ぐ応酬。
かつて天才タブラ奏者ザキール・フセインのソロ作品を聴いて「パーカッションだけで音楽が成立するのか!」と感じたのと同種の衝撃を、このアルバムは感じさせてくれた。
トラックのかっこよさとラップのスキル、サウンドやフロウの現代性とインドらしさ、そしていかにもヒップホップらしい不穏な空気感が、ここには融合している。
これまで、DIVINEにしろEmiwayにしろ、インドのラッパーを語るときには、ラッパーたちののライフストーリーを合わせて紹介することで記事を成立させていたけれど、この作品に関しては、単純に音と雰囲気だけで語ることができる。
掛け値なしに名作と呼ぶことができる作品。





Prabh Deep "Tabia" (アルバム)


こちらもデリー出身のPrabh Deepによる、やはりAzadi Recordsからリリースされた作品。
2017年、インドのヒップホップシーンに彗星のように現れたPrabh Deepは、デリーのストリートの危険な雰囲気を漂わせ、パンジャービー・シクながらもバングラーらしさの全くないラップを乗せて一躍時代の寵児となった。

サウンド面での核を担っていたプロデューサーのSez on the Beatと袂を分かってからは、(ムンバイにおけるDIVINEのような)デリー版ストリートラッパーとしての道を歩むのだろうなあと思っていたのだが、その予想はいい意味で裏切られた。
自身がビートを手掛けたこの"Tabia"では、生楽器や民謡的な要素も取り入れ、もともと持っていた耽美的な要素をさらに研ぎ澄ませた、オルタナティブ・ヒップホップの傑作を作り上げたのだ。
ダリの作品を思わせるシュールリアリスティックなカバーアートにふさわしい独特の浮遊感のある音色。
独特の存在感はますます先鋭化し、その音の質感は、インドの他のヒップホップ作品よりも、むしろこの後紹介するLifafa "Superpower2020"(フォークトロニカ)にも近いものとなっている。
バングラー的な要素は皆無でも、やはりパンジャーブの伝統を感じさせる声も美しい。

昨年まではDIVINE、Emiway、MC STANらムンバイ勢の活躍が目立ったインドのヒップホップシーンだが、今年はデリーのアーティストたちがそのユニークな存在感を示した一年となった。





Lifafa "Superpower2020"(アルバム)

こちらもデリー勢。
意識して選んだわけではないが、今年はデリーのアーティストたちの個性が開花した一年だったのかもしれない。



Lifafaは、ビンテージなポップサウンドを奏でるバンドPeter Cat Recording Co.の中心人物、Suryakant Sawhneyのソロプロジェクト。
ヨーロッパ的な英語ポップスのPCRCに対して、このLifafaでは、伝統音楽と電子音楽を融合させたトラックにヒンディー語ヴォーカルを乗せた独特のサウンドを追求している。
シンプルで素朴な音像ながら、センスの良さとインド以外ではありえない質感を同時に感じさせる才能は唯一無二。
「足し算的」な手法が目立つインドのポピュラーミュージックのなかで、「引き算」の美学で名作を作り上げた。

そういえば、ここまで紹介してきたデリーの3作品はいずれも「引き算的」な手法が際立っている。
これまでデリーといえばYo Yo Honey Singhらの「盛り盛り、増し増し」なスタイルの派手なパーティーラッパーが存在感を示していたが、サブカルチャー的な音楽シーンでは、新しい動きが始まっているのかもしれない。

"Wahin Ka Wahin"の冒頭と間奏で印象的なメロディーはパンジャーブの伝統歌"Bhabo Kehndi Eh"で、パキスタン系カナダ人の電子音楽アーティストKhanvictが今年リリースした"Closer"(こちらも名曲!)でも使われていたもの。
南アジア系アーティストのルーツからの引用の仕方はいつもながら趣味が良い。





Armaan Malik, Eric Nam with KSHMR "Echo"(シングル)

代々映画音楽に携わってきた家系に生まれたインドポピュラー音楽界のサラブレッド、Armaan Malikが、韓国系アメリカ人のEric Nam, インド系アメリカ人のEDMアーティストKSHMRとコラボレーションした1曲。


Armaan Malikは幼い頃から古典音楽を学んだのち、ここがいかにも現代ボリウッドのシンガーらしいのだが、アメリカの名門バークリー音楽大学に進学し、西洋ポピュラー音楽も修めている。
その彼が、インドでも高い人気を誇るK-Popに接近したのがこの"Echo"だ。

典型的なインドらしさを封印し、K-Popの定番である無国籍なEDMポップススタイルのこの曲は、それゆえに印象に残らなかったのか、インド以外ではあまり話題にならなかったようではある。
(2021年12月25日現在、YouTubeの再生回数は2680万回ほど。なかなかの数字だが、映画音楽をはじめとするヒット曲ともなれば一億再生を超えることもあるインドのポップスにおいては、「まあまあ」の実績だ)
リリースされた当初、この曲をK-PopならぬI-Popと呼ぶメディアもあったが、その後I-Popという言葉はぱったり聞かなくなってしまった。

それでも、様々なルーツとグローバル文化が融合したこの曲は、今年のインドの音楽シーンを象徴するものとして、記憶に残しておくべき作品だろう。






Sidhu Moose Wala "Moosedrilla"他


もともとパンジャーブの伝統音楽だったバングラーは、ヒップホップや欧米のダンスミュージックとの融合を繰り返しながら、進化を続けてきたジャンルだ。
一般的には、2000年代に世界的にヒットしたPanjabi MCらに代表される「過去の音楽」という印象が強いが、インド(とくに北インド)や南アジア系ディアスポラでは、今なお人気ジャンルの座を保っている。
その最新の人気アーティストがこのSidhu Moose Wala.




パンジャーブ州の小さな村で生まれた彼は、確かな実力と現代的なビート、そしてギャングスタ的な危険なキャラクターで、一気に人気アーティストに上り詰めた。
彼のリリースは非常に多く、今年だけで数十曲に及ぶのだが、強いて1曲挙げるとしたら、この"Moosedrilla".
大胆にドリルビートを導入し、ガリーラップ(ムンバイ発のストリートラップ)の帝王DIVINEをゲストに迎えたこの曲は、インドのヒップホップの第一波である「バングラー」の新鋭アーティストと、いまやすっかり定着したストリート系ラップが地続きであることを示したもの。
エリアやスタイルを超えたコラボレーションは、年々増え続けており、今後も面白い作品が期待できそうだ。



Songs Inspired by the Film the Beatles and India(アルバム/Various Artists)


欧米のポピュラー音楽とインドとの接点を紐解いてゆけば、そのルーツは1960年代のカウンターカルチャーとしてのロック、とくにビートルズにたどりつく。
リバプール出身の4人の若者は、エイトビートのダンスミュージックだったロックにシタールやタブラなどのインドの楽器を導入し、サイケデリアやノスタルジックな感覚を表現した。

しかしその後長く、インド音楽と欧米のポピュラーミュージックとの関係は、欧米側が一方的に影響を受けるという一方通行な状態が続いていた。
ビートルズの時代から50余年。
経済成長やインターネットの普及を経て、インディペンデントな音楽シーンが急速に拡大しつつあるインドから、ようやくビートルズへの返信が届けられた。

このアルバムは、現代インドの音楽シーンで活躍するロック、電子音楽、伝統音楽などのミュージシャンが、ビートルズの楽曲(主にインドの聖地リシケーシュ滞在時に書かれたもの)を彼らならではの手法でカバーしたもの。

インドのアーティストの素晴らしいところは、単純に欧米の音楽を模倣するだけでなく、彼らの伝統や独自の感覚をそこに加えていることだ。
そんな現代インドのアーティストたちによるカバーとなれば、絶対に面白いに決まっている。
つまり、ビートルズが行おうとしていたロックへのインド音楽の導入を、「本家」が行っているというわけである。



ビートルズのインド的解釈だけではなく、ビートルズがインドっぽいアレンジで演奏していた楽曲を、あえてクラブミュージック的なスタイルで再現しているものもある。
インドからビートルズへの53年越しの回答は、西洋ポップスとインドをつなぐ輪は、かくして完全な円環を描くに至った。



Shashwat Bulusu "Winter Winter"(シングル、ミュージックいビデオ)

アーメダーバード出身のシンガーソングライター、Shashwat Bulusuについては、この記事で紹介した"Sunset by the Vembanad"、そして"Playground"が強く印象に残っていた。


つまり、歪んだギターサウンドを基調とした、情熱と憂鬱が入り混じったオルタナティブ・ロックのアーティストとして認識していたということだ。
その彼が今年9月にリリースした"Winter Winter"には驚かされた。



叙情的なピアノのアルペジオに、全編オートチューンのヴォーカル、そしてゴーギャンの絵と現代アートが融合したようなミュージックビデオ。
Shashwatの新曲は、完全に新しいスタイルに舵を切りつつも、それでもなお情熱とメランコリーを同時に感じさせる質感を保っていた。
このセンスには驚かされたし、唸らされた。
ポストロックのaswekeepsearching然り、アーメダーバードはユニークなアーティストを生み出す都市として、今後も注目すべきエリアとなるだろう。



When Chai Met Toast "Yellow Paper Daisy"(シングル、ミュージックビデオ)

ケーララ州の英国風フォークポップバンド、When Chai Met Toastは、これまでも良質な楽曲を数多く発表してきたが、2021年はとくに充実した年となった。
(これは2018年に書いた記事)


今年はニューアルバム"When We Feel Young"をはじめ、多くの楽曲をリリースしたが、その中でも出色の出来だったのが、この"Yellow Paper Daisy"だ。


叙情的かつエモーショナルな楽曲の素晴らしさはいつもどおりだが、ここで注目したいのは、フォーキーなサウンドに全く似つかわしくないSF調のミュージックビデオだ。
セラピーのために未来から現代のケーララに送り込まれてきたカップルを演じているのは、それぞれインド北東部とチベットにルーツを持つ俳優たちだ。
バンドの故郷ケーララを相対化する存在としての、地理的な距離感と時間的な設定が、じつに絶妙。
現代を舞台にしながらも、彼らの楽曲にふさわしいノスタルジーと感傷を感じさせてくれる作品となった。

まあそんな理屈をこねなくても、十分に素晴らしい作品なのは言うまでもなく、この楽曲・映像をJ-WAVEのSONAR MUSICに出演した際に紹介したところ、ナビゲーターのあっこゴリラさんもかなり面白がってくれていた。





Karan Kanchan "Marzi", "Houdini"他(シングル)

名実ともにインドを代表するビートメーカーとなったKaran Kanchanにとっても、2021年はますます飛躍した年となった。
インド各地のラッパーのプロデュースや、Netflixを通して全世界に配信された映画『ザ・ホワイトタイガー』の主題歌(ラップはムンバイのDIVINEとUSのVince Staples)を手がけたのみならず、ソロ作品でも非常に充実した楽曲をリリースしていたからだ。

近年インドで目立っているローファイ・ヒップホップに挑戦したこの"Marzi"は、ローファイ・ガールへのオマージュであるミュージックビデオも含めて最高。
さらっと作ったように見えるが、Kanchanがこのスタイルのトラックを発表するのは初めてであるということを考えると驚愕だ。


テレビ画面に映るDVDのロゴは、21世紀の新しいノスタルジーを象徴するナイスな目の付け所。

この"Houdini"ではうって変わって超ヘヴィなスタイルを披露。


ラッパーのRawalとBhargも派手さこそないものの確かなスキルでサウンドを支えている。
Karan Kanchan, 次にどんなスタイルを披露するのか、どこまで高みに上り詰めるのか、ますます楽しみなアーティストだ。







Pasha Bhai "Kumbakharna"(ミュージックビデオ)

インドのミュージックビデオがストリートや食文化をどう描いているか、という点は、個人的にずっと注目しているテーマなのだが、そういった意味でこれまでに見てきた中での最高傑作がこの作品だ。


Pasha Bhaiはベンガルールのローカルラッパー。
以前ブログで紹介した時は、NEXというアーティスト名で活動していたようだが、気がついたら改名していた様子だ。



Shivaj Nagarなる地区の濃厚な空気感を、スパイスや肉を焼く煙や体臭や排気ガスの匂いまで漂ってきそうなほどリアルに映しきっている。
とくに夜の闇の濃さが素晴らしい。
高層ビルでもIT企業でもない、ベンガルールの下町の雰囲気が伝わってくるこのミュージックビデオは、気軽に旅ができない時代に、擬似インド体験としても何度もリピート再生した。
もちろん、ドープなビートもレイドバックしたラップも秀逸だ。
おそらく現地でもさほど有名でないであろうアーティストからも、こんなふうに注目すべき作品が出てくるあたり、本当にインドのシーンは油断できない。




と、ごくごく私的なセンスで10作品を選ばせてもらいました。
今年の全体的な印象を語るとすれば、何度も書いたように、とくにデリーのアーティストの活躍が目立つ一年だった。
また、Top10に選んだ"Echo"や"Moosedrilla"のように、エリアを(ときに国籍も)超えたコラボレーションや、ビートルズのトリビュートアルバムのように、時代をも超えた傑作が多く生み出され、よりボーダレスな新しいインド音楽が生まれようとしている胎動を感じることもできた。

悩みに悩んで次点とした作品を挙げるとすれば、Hiroko & Ibexの"Aatmavishwas"Drish T.
"Aatmavishwas"はフュージョンとしての完成度が非常に高かったし、Drish Tもインドでの日本のカルチャーの浸透を新しい次元で感じさせてくれる存在だったが、インドのシーンを見渡すにあたって、冷静に見られない日本関連のものを無意識に避けてしまったところはあったのかもしれない。
でもどちらも非常に素晴らしかった。
またSmokey the Ghostの"Hip Hop is Indian"も、インドのヒップホップシーン全体を見渡したスケール感とインドらしさのあるビートが強く印象に残っている。


個人的なことを言わせてもらうと、今年はブログ4年目にして、なぜか急にラジオから声がかかるようになり、TBSラジオの宇多丸さんのアトロク(アフター6ジャンクション)、J-WAVEのあっこゴリラさんの
SONAR MUSICとSKY-HIさんのIMASIA(ACROSS THE SKY内のコーナー)、InterFMのDave Fromm Showなど、いろんな番組でインドの音楽を紹介させてもらった。
映画『ジャッリカットゥ』やベンガル関連のイベントで話をさせてもらったり、文章を書かせてもらう機会もあって、自分が面白いと思っているものを面白いと思ってくれている人が、少しずつでも増えてきていることを、とてもうれしく感じた1年だった。

毎回書いているように、インドの音楽シーンは年々すさまじい勢いで発展しており、面白いものを面白く伝えなければ、といういい意味でのプレッシャーは増すばかり。

今年もご愛読、ありがとうございました!




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goshimasayama18 at 00:09|PermalinkComments(0)

2021年11月16日

サウスのロックバンドが相次いでアルバムをリリース! When Chai Met Toast



南インドを代表する2組のポップロックバンドが、立て続けにアルバムとEPをリリースした。

まず1組目は、このブログで以前にも紹介したことがあるケーララ州のWhen Chai Met Toast.


When Chai Met Toastは2016年にコチで結成されたロックバンドで、これまでも数々の優れたフォークポップ調の楽曲を発表してきたが、10月29日に発表した"When We Feel Young"が意外にも彼らのファーストアルバムとなる。

ケーララ州は、古くからキリスト教の信仰がさかんで、教育政策に力を入れてきた州だからか(つまり英語を自由に操れる人が多い)、ロックなどの欧米のポピュラーミュージックが古くから根付いていた土地である。
今作では、彼らはEDM的な四つ打ちのビートを取り入れた曲にも挑戦しているが、やはり彼らの魅力が最も感じられるのは、どこか懐かしいフォーク風の曲である。

例えば、タイトルトラックのWhen We Feel Young.


"Ocean Tide"はバンジョーの響きに、90年代のイギリスのバンドTravisの"Sing"という曲を思い出した。(褒め言葉のつもり)


When Chai Met Toastという個性的なバンド名は、「インドが西洋に出会った時」を意味しているとのこと。
もちろん、チャイがインドを、トーストが西洋を表しているわけだが、インドの国民的な飲み物であるスパイスの入りミルクティー「チャイ」の歴史はじつはかなり新しく、広まったのはイギリス統治時代である19世紀のことだと言われている。
つまり、トーストと出会うまでもなく、チャイの中にも西洋(紅茶文化)とインド(スパイス文化)が混在しているのだ。
考えてみれば、インド料理にかかせない唐辛子(チリ)も原産は中南米で、大航海時代に海を渡ってインドに伝えられている。
インドの文化は、大昔から世界中のさまざまな文化を受け入れて発展してきたのだ。
When Chai Met Toastというバンド名は、はからずも、そうして発展してきたインド文化が、さらに新しく西洋の文化(例えば、ロックや英国フォーク)を受け入れたことを意味していると捉えることもできる。

彼らのサウンドを聴くと、「西洋の文化を導入しすぎちゃって、すっかりインド的な要素がなくなっちゃったんじゃないの?」と言いたくもなるかもしれないが、例えばこんなふうに洋楽的なメロディーを取り入れながらも、美しいヒンディー語の響きを活かした曲も演奏している。


故郷ケーララ州の言語であるマラヤーラム語ではなく、北インドを中心にインド全体に話者数の多いヒンディー語を選んだのは、やはりマーケットの規模が理由だろう。
(マラヤーラム語の話者数が3,500万人ほどなのに対し、ヒンディー語は5億人以上が話すことができる)

こちらの"Break Free"は英語とタミル語のバイリンガル。



タミル語の話者数は約7,000万人。
南インドでもっとも話者数の多い言語である。
彼らが歌詞に使う言語をどのように決めているのかは分からないが、インドのマルチリンガル・ミュージシャンの言語選択事情というのは、ちょっと気になるテーマではある。


彼らは"When We Feel Young"発表後も積極的にリリースを続けていて、このYellow Paper Daisyは、Prateek Kuhadを感じさせるキャッチーかつ切ないメロディーが素晴らしい佳曲。


冒頭に出てくるタイトルに"Yellow Paper Daisy feat. Kerala"とあるが、このKeralaとはもちろん彼らの故郷ケーララ州のこと。
フィーチャリングのあとにアーティスト名でなく地名が出てくるのは初めて見た。

ここから始まるストーリーがまた独特で、2071年のカップルが、セラピーの最後のセッションのために2016年のケーララの田舎にタイムスリップしてくるところから物語が始まる。
豊かな自然と素朴で優しい人々に触れた二人は、やがて愛情を取り戻してゆく…という、フォーキーなサウンドに似合わないSF仕立てのストーリーで、先月出演した J-WAVEの"SONAR MUSIC"でオンエアした際に、ナビゲーターのあっこゴリラさんも「このサウンドにこの映像!」とかなり面白がってくれていた。
イギリス的なフォークロックとSF的な世界観、そして故郷の大自然という相反する要素があたりまえのように融合しているのが2021年のインドのロックバンドのセンスである。
主人公の二人を演じているのは、それぞれインド北東部とチベットにルーツを持つ俳優たちで、「インドの外ではないけれど、マジョリティとは全く別」という微妙な距離感を表現するために選ばれたのだろう。


彼らはNature Tapesと称して、ケーララの自然の中でアンプラグド・スタイルで楽曲を披露する映像も公開していて、こちらもまた彼らの音楽とケーララの魅力が存分に楽しめる内容になっている。


"Yellow Paper Daisy"のロケ地はケーララ特有の汽水地帯に位置するMunroe Island.


"Ocean Tide"のロケ地は美しい海辺の街Varkalaだ。

気軽に旅に出られるようになるにはもうしばらくかかりそうだが、このNature Tapesは、そんな日々の中でちょっとした非日常が感じられるシリーズになっている。

続いてお隣タミルナードゥのF16sについて書こうと思っていたのだけど、もう十分長くなったので、また次回!



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goshimasayama18 at 18:04|PermalinkComments(0)

2021年09月29日

J-WAVE 'SONAR MUSIC'出演! オンエアした曲、紹介したかったけどやめた曲など


9月29日(水)J-WAVEであっこゴリラさんがナビゲートする「SONAR MUSIC」にて、たっぷりとインドの音楽を紹介させていただきました!

めちゃくちゃ楽しかったー!
1時間近く、時間はたっぷりあったはずなのに、伝えたいことがあって、ちょっと喋りすぎちゃったかな…と少し反省もしてますが、自分の好きな音楽(そしてほとんどの人が知らないであろう音楽)をラジオを通してたくさんの人に伝えられるというのは何度経験してもすごくうれしいもの。

当日オンエアした曲をあらためて紹介します! 



Su Real "East West Badman Rudeboy Mash Up Ting"
デリーのEDM/トラップ系プロデューサー!


Ritviz "Chalo Charlein feat. Seedhe Maut"
プネーのインド的EDM(印DM)プロデューサーとデリーのラップデュオの共演!


When Chai Met Toast "Yellow Paper Daisy"

ケーララ州のフォークロックバンド!


Pineapple Express "Cloud 8.9"
ベンガルールのプログレッシブ・メタルバンド、インドの古典音楽との融合!


Drish T "Convenience Store(コンビニ)"
ムンバイ出身の日本語で歌う(!)シンガーソングライター!


Siri "Gold"
ベンガルールの女性ラッパー!


Seedhe Maut "Nanchaku ft. MC STAN"
デリーのラップデュオにプネーの気鋭の存在MC STANがゲスト参加!


MC STAN "Ek Din Pyaar"
プネーのラッパー!



今回の選曲は、インドでの人気や知名度よりも、純粋にサウンド的にかっこよかったり面白かったりするアーティストを集めたという印象。
この"SONAR MUSIC"は毎回かなり面白い特集を組んでいる音楽番組なだけに、リスナーの皆さんの反応が気になるところでしたが、気に入ってもらえたらうれしいです。


(ここからはちょっと余談)
6月の宇多丸さんのTBS「アフター6ジャンクション」、先月のSKY-HIさんの"IMASIA"に続いて、3本目のラジオ出演(全部ラッパーの番組!)となったわけだけど、ラジオで紹介する曲を選ぶのって、毎回かなり悩む。
インドの音楽やインドという国にとくに興味のないリスナーのみなさんにも「インドの音楽って面白い!」と思ってもらいたいし、できれば楽曲だけじゃなくて、興味深いエピソードなんかも話したい。
いかにもインドっぽい音がいいのか、インドらしからぬ欧米のポップスみたいな曲がいいのかも悩みどころだ(結局、毎回両方を選曲している)。
ラジオでは、私が出演するコーナーの前後に、当然ながら日本やアメリカやイギリスの完成度の高いポピュラーミュージックが流されているわけで、いずれにしてもそこに埋もれない曲を選びたい。
さらに欲を言えば、番組やパーソナリティーのカラーにあった曲が紹介できると、なお良い。

SONAR MUSICのナビゲーターのあっこゴリラさんの曲は以前から聴いていて、"DON'T PUSH ME feat.Moment Joon" みたいな曲で、女性やマイノリティが社会で感じている生きづらさを、きちんと表現しているのがかっこいいと思っていた。
日本語のリリックでは表現が難しいこういう社会的なテーマを、ヒップホップのフォーマットのなかでかっこよく表現するというのは、センスも勇気も必要なことだ。

だから、このブログでも度々話題にしているような、日本とはまた違う形で保守性や排他性が残るインドの社会の中で女性としての意見を表明しているフィメール・ラッパーのことを紹介したかったし、それに対するあっこゴリラさんの意見を聞いてみたかった。

ところが、「コレ!」という曲がなかなか見つからない。
インドにもフィメール・ラッパーはそれなりにいるのだが、ブログで文章を添えてミュージックビデオを紹介するぶんには良くても、ラジオでオンエアするとなると、曲としてはちょっと弱かったりするのだ。
メッセージは最高なのだけど、ラップのスキルがいまいちだったり、インドのアーティストにしては完成度の高いトラックでも、もしアメリカのトップアーティストの曲が流れた後だったら、そこまで魅力的に響かなかったりする。

できればインドらしいインパクトがあり、かつラップのスキルも十分で、メッセージも強烈な曲があれば良いのだが…と思っていたら、ぴったりの曲があった。

インド系アメリカ人で最近はインド国内での活躍がめざましいRaja Kumariをリーダーとして、ベンガルールのSiri, メガラヤのMeba Ofilia, ムンバイのDee MC,といったインドじゅうのフィメールラッパーが共演した"Rani Cypher"だ。

いかにもインド的なコーラスも耳を惹きつけるし、サビの女性に対する「忘れないで、あなたはクイーン(タイトルの'Rani'は女王の意)」というメッセージも素晴らしい。
ラップが英語でいわゆる洋楽リスナーにも聴きやすいのも良いし、冒頭で'As a woman in this industry, we have to work harder, we have to be better, we have to do so much more'という語りが入っているのでコンセプトが分かりやすい。
在外インド人であるRaja Kumariとインド各地の異なるバックグラウンドのフィメール・ラッパーのコラボレーションというのもぜひ触れたいポイントだ。

これは紹介したい楽曲の最右翼。さあリリックを細かくチェックしようと思ったら。
冒頭のヴァースで、ヘイターたちへのメッセージとして、こんなリリックをラップしていたのでびっくりした。

'I Nagasaki on them haters, ground zero'

マジか…。
これって明確に「ヘイターどもはナガサキのグラウンド・ゼロみたいにぶっ潰してやる」って意味だよね。

ラップの中で語呂のいい言葉を選んだのだろうが、さすがにこれはない。
(このリリックをラップしているのはSiriで、彼女に対しては、きちんと抗議しておきます。返事が来たらまたご報告します) 

この曲に関して言えば、この部分のリリック以外はコンセプトもサウンドも最高だし、こうしたリリックが含まれていることを注釈したうえで紹介しようかとも思ったのだけど、せっかく大勢の音楽ファンにとって未知のインド音楽を紹介するのに、ネガティブな話はしたくないので、残念だがこの"Rani"はリストから外すことになった。

インド社会の悪い意味での保守性のもとで女性たちが苦しんでいる現状に対して、ラップという新しい手段で声を上げることは、とても素晴らしいことだと思う。

問題は、虐げられている人々を鼓舞するために、別の虐げられた人たちが傷つくような表現をするっていうのはそもそもどうなのか、という話だ。

彼女の他の曲もたくさん聴いたが、彼女は決して露悪的な表現を好むラッパーではないと認識している。
(ヒップホップ的な範囲での強がりやディスりはもちろんあるが)
おそらく彼女にとって原爆投下は遠い国の歴史上の出来事で、いまだに犠牲者やその家族が、直接的、間接的に苦しんでいることを単純に知らないのだろう。

もちろん、彼女のしたような表現がインドで一般的に許容されているわけではなく、同じくベンガルールを拠点に活動するラッパーのSmokey The Ghostはこんなふうにフォローしてくれている。



(Smokeyはこの後、今回の一件について「原爆の悲劇はインドでもよく知られているし、これは単なる『特権的な無知』に過ぎない」との解釈を伝えてくれた)


いろいろ考えた結果、結局、フィメール・ラッパーの曲はSiriの"Gold"という曲を選んだ。
彼女の無知は責めるべきだし、この"Raani"のリリックは論外だが、彼女が本来伝えようとしているメッセージの価値はゆるぎないし、インドの女性ラッパーのなかでも音楽的にとくに秀でていると考えてのことだ。

まあとにかく、こうやって誤解や失敗を繰り返しながら国と国との関係とか、人と人との関係ってのは良くなっていくものだと信じている。 

言いたいのは、リスペクトを大事にしよう、ってこと。

最後に、今回紹介したアーティストについて、これまでに書いた記事を貼り付けておきます。



Su Real



Ritviz



When Chai Met Toast
 


Pineapple Express
 


Drish T



Seedhe MautとSiriが所属しているAzadi Records.
 


MC STANについては、書こう書こうと思ってまだ書いてない!
近々特集したいと思ってます。



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2018年の自選おすすめ記事はこちらからどうぞ! 
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2020年を振り返る独断で選んだ10曲はこちらから


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2021年06月14日

Always Listening by Audio-Technicaに記事を書きました!

Audio-Technicaさんが運営している音楽情報サイト"Always Listening"にSpotifyのインドのヒットチャートを分析した記事を書かせていただきました!

記事はコチラ↓


Always Listeningでインドの音楽シーンに興味をもってくださった方のために、紹介した音楽をさらに深掘りできるブログ記事のリンク一覧をご用意しました。

最新型パンジャービー・ラッパーのSidhu Moose Walaについてはこちらから!
じつはかなりハードコアな一面も持っている男です。




彼と共演しているRaja KumariやDIVINEについても深く紹介しています。


DIVINEについては記事では触れていませんでしたが、Sidhu Moose Walaの"Moosedrilla"の後半で熱いラップを披露しているラッパーで、映画『ガリーボーイ』の登場人物のモデルの一人でもあります。


Always-Listeningで紹介したRitvizのようなインド風エレクトロニック・ダンスミュージックは、勝手に印DMと呼んで親しんでいます。



バンド名も面白い南部ケーララ州出身の英国風フォークロックバンドWhen Chai Met Toastは、じつはチャイよりもコーヒー好き。
(インド南部はコーヒー文化圏なんです)
インドには、彼らのようにインドらしさ皆無なサウンドのアーティストもたくさんいるのです。




英語ヴォーカルのシンガーソングライターはとくに優れた才能が多く、注目しているシーンです。
記事で触れたDitty, Nida, Prateek Kuhadに加えて、Raghav Meattleもお気に入りの一人。




ブログ『アッチャー ・インディア 読んだり聴いたり考えたり』には、他にもいろんな記事を書いていますので(全部で300本以上!)、ぜひ他にも読んでみてください。


今回の'Always-Listening'みたいに、ヒットチャートをもとに記事を書くというのは、これまでありそうでなかったのだけど、とても良い経験でした!
Always Listeningには他にも世界中の音楽に関する興味深い記事がたくさん載っているので、ぜひいろいろとお楽しみください!





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2021年01月12日

Rolling Stone Indiaが選んだ2020年のシングル10選!

Rolling Stone Indiaが選ぶ2020年の10選シリーズ、今回はベストシングルを紹介します!
(もとの記事はこちら)


このTop 10はこれまでのアルバムやミュージックビデオと比べて、かなりカラーがはっきりしていて、いわゆる洋楽ポップス的なものが中心に選ばれている様子。
ご存知の通り、インドのメインストリーム音楽は映画音楽なので、欧米風のキャッチーなポップスは、インドではインディーミュージックということになる。
そのあたりの音楽ジャンルの「捻れ」も面白いのだが、前置きはこれくらいにして、それではさっそく見てみよう。


1. Chirag Todi feat. Tanya Nambiar, Pushkar Srivatsal  “Desire”

インド西部グジャラート州アーメダーバード出身のギタリスト/ヴォーカリストのChirag Todiは、ジャズロックバンドHeat Sinkのメンバーとしても活動している。
この"Desire"はスムースなファンクネスが心地よい一曲で、例によってこれが2020年のインドで最良のシングル曲かと言われると首を傾げたくなる部分もあるが、きっとこのさりげない感じがセンスの良さと評されて選出されたのだろう。
それにしても、aswekeepsearchingといいShashwat Bulusuといい、アーメダーバードはけっこういいミュージシャンを輩出する街だ。
いちどしっかりこの街のシーンを掘ってみないといけない。
共演のPushkar Srivatsalはムンバイの男女ポップデュオSecond Sightの一員、Tanya Nambiarはデリーの女性ヴォーカリストで、ソロでも客演でも活躍している。


2. Tejas  “The Bombay Doors”

コロナウイルスによるロックダウンをという逆境を活かして製作された「オンライン・ミュージカル」"Conference Call: The Musicall!"も記憶に新しいムンバイのシンガーソングライター、Tejas Menonの"The Bombay Doors"はファンキーなシンセポップ。
1位のChirag Todiもそうだが、この手のファンキーなポップスを手掛けるインディーアーティストはインドにも結構いて、Justin Bieberあたりの影響(有名過ぎてだれも名前を挙げないが)が結構あるんじゃないかと思う。


3. Dhruv Visvanath  “Dear Madeline”

ニューデリーのシンガーソングライターDhruv Visvanathは、パーカッシブなフィンガースタイルギターでも知られるミュージシャン。
アメリカのAcoustic Guitar Magazineで30歳以下の偉大なギタリスト30名に選ばれたこともあるという。
2018年には"The Lost Cause"がRolling Stone Indiaによるベストアルバム10選にも選出されており、国内外で高く評価されている。


4. Mali  “Age of Limbo”

ムンバイのマラヤーリー(ケーララ)系シンガーソングライターMaliの"The Age of Limbo"は、コロナウイルスによるロックダウンの真っ只中に発表された作品。
タイトルの'limbo'の元々の意味は、キリスト教の「辺獄」。
洗礼を受けずに死んだ人が死後にゆく場所という意味だが、そこから転じて忘却や無視された状態、あるいは宙ぶらりんの不確定な状態を表している。 
この曲自体はコロナウイルス流行の前に作られたもので、本来は紛争をテーマにした曲だそうだが、期せずして歌詞の内容が現在の状況と一致したことから、このようなミュージックビデオを製作することにしたという。
ちなみにもしロックダウンが起きなければ、Maliは別の楽曲のミュージックビデオを日本で撮影する予定だったとのこと。
状況が落ち着いたら、ぜひ日本にも来て欲しいところだ。


5. When Chai Met Toast  “When We Feel Young”

ケーララ州のフォークロックバンドWhen Chai Met Toastの"When We Feel Young"は、Rolling Stone Indiaによる2020年のベストミュージックビデオ(こちら)の第8位にも選ばれていた楽曲。
私の知る限り、ここ数年でベストシングルとベストミュージックビデオの両方に選出されていた楽曲は初めてのはず。
彼らはいつも質の高い楽曲を届けてくれる、安心して聴くことができるバンドのひとつ。


6. Nishu  “Pardo”

言わずと知れたコルカタのドリームポップデュオParekh & Singhの一人、Nischay Parekhのソロプロジェクト。
Parekh & Singhは英語のアコースティック・ポップだが、ソロではメロディーセンスはそのままに、ヒンディー語のシンセポップを聴かせてくれている。


7. Kalika  “Made Up”

KalikaはプネーのシンガーソングライターPrannay Sastryのソロプロジェクト。
ベストミュージックビデオ部門の1位にも選ばれた女性ソウルシンガーのSanjeeta Bhattacharyaと、マルチプレイヤーJay Kshirsagarをヴォーカルに迎えた"Made Up"は、南インドの古典音楽カルナーティックを思わせるギターリフが印象的な曲。


8. Seedhe Maut x Karan Kanchan  “Dum Pishaach”

インドNo.1アンダーグラウンド・ヒップホップレーベルAzadi Records所属のデリーの二人組Seedhe MautがムンバイのビートメイカーKaran Kanchanと組んだ"Dum Pistaach"は、ヘヴィロックっぽいギターを大胆に取り入れた意欲作。
Karan Kanchanはジャパニーズカルチャー好きが高じて、日本にも存在しない「和風トラップミュージック」のJ-Trapを生み出したことでも知られているが、昨今ではヒップホップシーンでも引っ張りだこの人気となっている。
インドとアメコミと日本風の要素が融合したようなビジュアルイメージも面白い。


9. The Lightyears Explode  “Satire”

ムンバイのロックバンドThe Light Years Explodeの"Satire"は、エレクトロファンクっぽい要素を取り入れたサウンド。
タイトルは「風刺」という意味だが、風刺の効いた社会的なリリックの曲も多い彼らはパンクバンドと見なされることもあるようで、かつてインタビューしたインド北東部のデスメタルバンドも彼らのことを優れたパンクロックバンドと評していた。


10. Runt – “Last Breath”

RuntはムンバイのシンガーソングライターSiddharth Basrurによるプロジェクトらしい。
彼はこれまでレゲエっぽい楽曲などをリリースしているが、この曲はインストゥルメンタルのヘヴィロック。
これといって特筆すべきところのない曲で、個人的にはトップ10に選ぶべき楽曲とは思わないが、まあそこは選者の好みなのだろう。


全体的にヒップホップ色が薄く、ロック/ポップスが強いのは媒体の性質によるのかもしれない。
英語詞の曲が目立つ(10曲中7曲)のもあいかわらずで、英語以外ではヒンディー語の楽曲しか選ばれていないのも、Rolling Stone Indiaの拠点がムンバイであることと無関係ではないだろう(ムンバイがあるマハーラーシュトラ州はマラーティー語圏だが、ヒンディー語で制作されるエンターテインメントの中心地でもある)。
全体的に、「ソツなく洋楽っぽい」感じの曲が選ばれがちなのは、日本で言う渋谷系っぽい価値観だと見ることもできそうだ。

いずれにしても、今年もなかなか興味深いラインナップではあった。
それでは今回はこのへんで!



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goshimasayama18 at 20:39|PermalinkComments(0)

2021年01月08日

Rolling Stone Indiaが選ぶ2020年ベストミュージックビデオ10選!

というわけで、今回はRolling Stone Indiaが選ぶ2020年のインドのミュージックビデオ10選!

(元の記事はこちら↑)

「コレを選んできたか!」というのもあれば、「コレかあ?」というのもあり、また「コレは素晴らしかったのにすっかり忘れてた!」というセレクトもあったりして、こちらもまた興味深いランキングになっています。
時代性はともかく「洋楽っぽさ」を重視していたベストアルバム10選(こちら)とはうってかわって、ミュージックビデオのほうはインドならではの映像が選ばれているのも見どころ。
それではさっそく見てみましょう!



1. Sanjeeta Bhattacharya  “Red”
Sanjeeta Bhattacharyaは、アメリカの名門バークリー音楽大学を卒業したシンガーソングライター。
日本語タイトルの"Natsukashii"など、これまでも興味深い楽曲を数多く発表している。
この新曲で、従来のオーガニック・ソウル的な曲調とは異なる違うラップを導入した新しいスタイルを披露した。

共演しているシンガー/ラッパーのNiu Razaはマダガスカル出身だそうで、バークリーの人脈だろうか。
音楽性の変化に合わせて、見た目的にも、これまでの自然体で可愛らしいビジュアルイメージから、大人っぽい雰囲気への脱却を図っているようだ。
ミュージックビデオはインドのインディー音楽によくある無国籍風の映像。
楽曲はあいかわらず上質だが、ミュージックビデオとして年間ナンバーワンかと言われると、ちょっと疑問ではある。


2. Kamakshi Khanna  “Qareeb”
昨年は新型コロナウイルスの影響で通常の撮影が困難だったせいか、アニメーションを活かしたミュージックビデオが目立った一年だった。
この作品はフェルトの質感を活かしたコマ撮りアニメ。
インドのアニメのミュージックビデオは、ほとんど絵が動かない低予算のものから凝ったものまで、センスを感じられるものが多く、今後、日本のアーティストが制作を依頼したりしても面白いんじゃないかなと思う。
この曲のタイトルの"Qareeb"は「接触すること、そばにいること」を意味するウルドゥー語のようだ。
Kamakshi Khannaはデリーを拠点に活動しているシンガーソングライターで、出会いと孤独感を描いた映像が、憂いを帯びた歌声と切ないメロディーによく合っている。


3. Prabh Deep  “Chitta” 
デリーのアンダーグラウンド・ヒップホップシーンを代表するラッパー、Prabh Deepの"Chitta"もまた、実写とアニメーションを融合した作風。
前半の実写部分に見られる手書き風のエフェクトも最近のインドのミュージックビデオでよく見られる表現だ。
いつもどおりタイトなターバンにストリートファッションを合わせた彼のスタイルに、カートゥーン調の映像がマッチしている。
曲調は、メロウなビートのいつものPrabh Deepスタイル。


4. Shashwat Bulusu  “Sunset by the Vembanad”
インド西部グジャラート州バローダのシンガーソングライターShashwat Bulusuの"Sunset by the Vembanad"は、彼のホームタウンを遠く離れた北東部のメガラヤ州、トリプラ州、アッサム州で撮影されたもの。
このミュージックビデオを制作したのはBoyer Debbarmaという映像作家で、自身もスケートボーダーであり、スケートボードを専門に撮影するHuckoというメディアの運営もしているという。
BoyerがShashwatの音楽に興味を持ってコンタクトしたところ、ShashwatもBoyerの映像をチェックしており、今回のコラボレーションにつながったそうだ。
個人的にもかなり印象に残った作品で、リリース当時、このミュージックビデオと絡めてインドのスケートボードシーンについての記事を書こうと思っていたのだが、すっかり忘れていた。
ミュージックビデオに出てくる若者はKunal Chhetriというスケートボーダー。
人気の少ない街中や、トリプラの自然の中で、大して面白くもなさそうにスケートボードを走らせる彼の姿には、不思議と惹きつけられるものを感じる。
例えば大都市の公園で得意げに次々にトリックを披露するような映像だったら、こんなに心に引っかかるミュージックビデオにはならなかっただろう。
彼の退屈そうな表情やたたずまいに、強烈なリアルさを感じる。
情熱的なようにも投げやりなようにも聴こえるShashwatの歌声も印象的。 


5. DIVINE  “Punya Paap”

軽刈田セレクトによる2020年のベスト10(こちら)にも選出したムンバイのラッパーDIVINEの"Punya Paap".
これまで「ストリートの兄貴」的なイメージで売ってきたDIVINEだが、名実ともにスターとなったことでそのイメージの転換を迫られ、この曲ではキリスト教の信仰や内面的なテーマを打ち出してきた。
一方で、まったく真逆のメインストリーム/エンターテインメント路線の曲にも取り組んでいて、彼の方向性の模索はまだまだ続きそうだ。



6. That Boy Roby  “Backdrop”

チャンディーガル出身のロック・バンドThat Boy Robyはこのランキングの常連で、2018年には、サイケデリックなロックに古いボリウッドの映像を再編集したB級レトロ感覚あふれるミュージックビデオがランクインしていた(こちらを参照)。
その時は、「インドもいよいよドメスティックな『ダサさ』を逆説的にクールなものとして受け入れられるようになったのか」としみじみと感じたものだったが、今作では大幅に方向転換し、環境音楽的な静かなサウンドに、ドキュメンタリー風の映像を合わせたミュージックビデオを披露している。
あまりの変貌っぷりに、どうしちゃったの?と思ってしまうが、映像のクオリティは非常に高い。
インド北部ヒマーチャル・プラデーシュ州スピティ・ヴァレーの人々の冬の暮らしを詩情豊かに描いた映像は、同地で活躍する写真家Himanshu Khagtaによるものだそうだ。


7. Lifafa  “Laash”

Lifafaは、バート・バカラック風のノスタルジックなポップスを演奏する「デリーの渋谷系バンド」Peter Cat Recording Co.のヴォーカリストSuryakant Sawhneyによるエレクトロニック・フォーク・プロジェクト。
Lifafa名義のソロ作品では、PCRCとはうってかわって、インドっぽさと現代らしさ、伝統音楽と電子音楽の不思議な融合を聴かせてくれる。
6分43秒もあるミュージックビデオは、ハンディカメラで撮られたロードムービー風だが、最後の最後で予想外の展開を見せる。


8. When Chai Met Toast  “When We Feel Young”

ケーララ州出身のフォークロックバンドWhen Chai Met Toastの"When We Feel Young"も、やはりアニメーションによるミュージックビデオだった。
夜の道をドライブしながら過去を振り返る初老の夫婦を主人公とした映像は、彼らの音楽同様に、心温まる色合いとストーリーが印象に残る。



9. Komorebi  “Rebirth”
宮崎駿などのジャパニーズ・カルチャーの影響を受けているデリーのエレクトロニカ・アーティストKomorebiの"Rebirth"は、CGと化した彼女がインドと日本を行き来する興味深い作品。
軽刈田による2020年のベスト10(こちら)ではコルカタのSayantika Ghoshをセレクトしたが、インドでは電子音楽とジャパニーズ・カルチャーの融合がひとつの様式となっているようだ。




10. Raghav Meattle  “City Life”

軽刈田も注目しているムンバイのシンガー・ソングライターRaghav Meattleの"City Life".
お気に入りの曲が選ばれているとやはりうれしい。
フィルムカメラを使って撮られた映像は、コロナウイルス禍以降に見ると、もう戻れない過去のようにも見えて切なさが募る。



というわけで、Rolling Stone Indiaが選んだ2020年のミュージックビデオ10選を紹介してみました。
ベストアルバム同様、このミュージックビデオ10選も、音楽的にはこれといってインドっぽさのない、無国籍なサウンドが並んでいるのだが、やはり映像が入るとぐっとインドらしさが感じられる。

大手レーベルと契約しているDIVINE以外は、コロナウイルスの影響を受けたと思われるアニメーションやドキュメンタリー調(少人数での撮影を余儀なくされたのだろう)の映像が目立つのが印象的だ。
過去のランキングと比べてみるのも一興です。






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goshimasayama18 at 18:53|PermalinkComments(0)

2018年10月08日

ケーララ州のロック・シーン特集!

Kerala_map
先日ケーララ州出身の英国風フォークロックバンド、When Chai Met Toastを紹介したが、ケーララといえば、他にもこのブログで紹介してきたスラッシュメタルバンドのChaosや、ハードロックバンドRocazaurusを生んだ、インドでも有数の「ロックどころ」だ。

有名なバンドの数ではデリーやムンバイ、バンガロールのような大都市のほうが多いかもしれないが、前回も書いたように、人口や都市の規模と比較すると、相当多くのロックバンドがケララにいるということになる。
(ムンバイを擁するマハーラーシュトラ州の人口1.1億人、バンガロールを擁するカルナータカ州の6,500万人に対し、ケーララ州は3,500万人。デリーは州ではなく連邦直轄領だが、限られた都市部にケララの半分以上の2,000万人もの人口を抱えている)
今回はそんなケララ州のロックシーンを紹介することにします。
州や街ごとの音楽シーン特集は前々からやりたかった企画。
例によって情報過多ぎみかもしれないけど、じっくりお楽しみください。

ケーララ州のロック史で最初に語られるべきバンドは13AD.
その結成はなんと1977年にまでさかのぼる。
Glen La Rive(ヴォーカル)、Eloy Isaacs(ギター)、Paul KJ(ベース)、Jackson Aruja(キーボード)、Pinson Correia(ドラム)の5人からなる彼らが1990に発表したデビューアルバム、'Ground Zero'のタイトルトラックがこちら。

ヨーロッパのバンドを思わせる翳りあるメロディーのメタルサウンドは結構日本人好みなんじゃないだろうか。
当時のBurrn!の輸入版コーナーで80点くらいを獲得しそうな印象。
彼らは以前紹介したムンバイのRock MachineIndus Creed)やカルカッタのShivaらと並んでインドのロック創成期を作ってきたバンドとされている。
1995年に一度解散したのち、2008年にこの代表曲のタイトルであるGround Zeroという名前で再結成し、今ではドバイを拠点に活動している。
ドバイは人口の半分が出稼ぎによるインド系で、その多くをケーララ人が占めている。

現在も国内で活躍するケーララ出身の大御所バンドとしては、Motherjaneが挙げられる。
彼らは1996年にClyde Rozario(ベース)、John Thomas(ドラム)、Mithun Raju(ギター)らで結成。
やがてMithunが脱退し、古典音楽的なフレーズを得意とし、インドロックシーンの名ギタリストとして名を馳せるBaiju Dharmajanが加入。
ヴォーカリストとしてSuraj Maniを加えた体制で、2001年にデビューアルバムInsane Biographyをリリースした。
2008年に発表したアルバム'Maktub'からの曲、'Chasing the Sun'.

コナッコル(声でリズムを取る南インドの唱法)で始まり、かの有名な北インドの聖地ヴァラナシの映像を取り入れたビデオはいかにもインドのバンドといった印象。
変拍子の入った演奏とハイトーンヴォーカルはDream Theaterのようなプログレッシブ・メタルを想起させる曲調だ。

よりヘヴィーなバンドとしては、2009年結成のThe Down Troddenceがいる。
彼らはツインギターにキーボードを要する6人組で、スラッシュメタルやグルーヴメタルにケーララの伝統音楽を取り入れた音楽性を特徴としている。
英語で歌うことが多い彼らがマラヤラム語で歌っている、'Shiva'.

この曲でもギターがときどきラーガ的なフレーズを奏でている。
ビデオはもうなにがなんだか分からない。

以前紹介したバンドもおさらい。
社会派スラッシュメタルバンドのChaosの'Game'.


3ピースのロックンロール系ヘヴィーメタルバンドの'Rocazaurus'.



ここまで紹介してきたバンドは、主に英語で歌うヘヴィーメタル系のバンドたち。
メタル以外のジャンルで英語で歌うケーララのバンドとしては、先日紹介したWhen Chai Met Toastのほかには、ポストロックのBlack Lettersがいる。
Rolling Stone誌が選ぶ2017年のベストミュージックビデオの第8位に選ばれた曲'Falter'.

コチ出身の彼らは、今では活動の拠点をバンガロールに移している。
When Chai Met Toast同様、国籍を感じさせないセンスのバンドだ。

こういった主に英語で歌うバンドたちとは別に、地元の言語マラヤーラム語で歌うロックバンドというのもたくさんいて、彼らの多くがケーララの伝統音楽とのフュージョン的な音楽性で人気を博している。
彼らのパイオニアかつ代表格と言えるバンドが2003年に結成されたAvial.
Avialとはヨーグルトとココナッツで野菜を煮込んだケララ州の郷土料理で、バンド名からも彼らの強い地元愛が伺える。
彼らはDJを含んだ5人組で、モダンな演奏にケーララ民謡風のヴォーカルがかなり個性的。
'Nada Nada'

ステージ衣装としてルンギー(男性用巻きスカートとも言えるインドの民族衣装)を着用するなど、見た目の面でも地元の要素を強く打ち出している。

2013年に結成されたThaikkudam Bridgeは、こちらも地元の食文化からとった'Fish Rock'を標榜している。
この'Navarasam'はケーララの伝統舞踊のカタカリ・ダンスをフィーチャーしたビデオだ。
インドのバンドがインド要素をロックに取り入れるとき、演奏ではなくヴォーカルによりインドの要素を取り入れる傾向があるというのは以前分析してみた通り
彼らのテーマ曲とも言える'Fish Rock'のライブはすごい盛り上がりだ。


より伝統文化の影響の強いバンドとしては、この'Masala Coffee'がいる。
これは「自分自身のために生きる女性を讃える」というテーマの曲。
2014年に結成された彼らは、ソニーミュージックと契約し、映画の楽曲も手がけるなどメジャーに活躍の場を移している。

今回は便宜的に英語で歌うバンドと、マラヤーラム語で歌う地元の伝統音楽の要素が強いバンドに分けて紹介したが、多くのバンドが英語と地元言語の両方を取り入れているし、ロック色の強いバンドでもケーララの伝統要素が顔を出すことが少なからずある。
ケーララの音楽シーンでは「伝統/ローカル」から「モダン/西洋」までがグラデーションのように分け目なく繋がっているといった印象。
ここまで強いローカル文化の影響というのは、デリーやムンバイやバンガロールのような都市部では見ることのできないケーララならではの特徴だ。

なぜここまでケーララでロックが盛んなのかという疑問を持つ人は他にもいるようで、質問サイトのQuoraでも、同じような質問をしている人がいた。
「なぜケーララには都市文化がないのに、バンドがたくさんいるのか?」
その回答がなかなか興味深かったので、以下にまとめてみたい。

1.ケーララには地元のバンドがたくさんいるし、高い識字率(93%)、インターネット普及率から、海外の音楽に接する機会も多いから。

2.インドに都市文化がないなんてことはなくて、ケーララはインドの中でも発展している州だから(ナイトライフが充実していないとしても、コンサートなんて夜9時に終われば十分)。

3.ケーララ州から海外に出稼ぎにいっている人が多いので、彼らが海外の音楽や文化を持って帰ってくるから。

4.若者たちが新しい文化を取り入れることに積極的だから。

5.インターネットだけでなく、テレビの普及率も高く、地元メディアで音楽が取り上げられることも多いから(Youtubeでもケーララのテレビ局、Kappa TVのMusic Mojoという番組が見られるが、相当な数の個性的なミュージシャンを紹介している)。

6.他の州に比べて、ダンスよりも音楽(歌手とか)に注目する傾向があるから。

いずれもなるほどと頷けるものばかりだ。
ほとんどが現地のインド人による回答なので、おそらく正しい答えと言ってよいのだろう。

3について補足すると、ケーララ州は教育に力を入れ優秀な人材を多く輩出しているものの、週内に大きな都市や産業がないため、他の州や海外に出稼ぎに行く人が多いという背景があることを表している。
今回紹介した13AD(Ground Zero)がドバイに、Black Lettersがバンガロールに拠点を移したのも、より大きなマーケットを求めてのことだろう。

また、個人的に気になったのが1.
高い識字率やインターネット普及率から、海外のバンドに接する機会が多いというのも、地元にすでに多くのバンドがいるので、ローカルのシーンに接する機会が多いというのも分かる。
では、そのもとからいる地元のバンドたちは、どうして音楽を始めることになったのか。
パイオニアとなったバンドが結成された時点では、地元のバンドはいなかったはずだし、インターネットもなかったはずだ。

ここから先は完全に筆者の想像だが、ケーララ州がキリスト教文化の強い土地であるということが影響しているのではないだろうか。
以前も紹介した通り、キリスト教徒の割合は、インド全体では2%程度だが、ケーララ州では20%にものぼる。
しかも、ケーララ州は大航海時代にポルトガルやスペインによって伝えらえるはるか以前、1世紀に聖トマスによってキリスト教が伝えられたとされるほどにキリスト教の伝統の根強い土地だ。
ケーララ同様に、大都市を擁さないにもかかわらず、ロックやメタルが盛んな北東部も、クリスチャンの割合が高い地域だというのは何度も書いている通り。
セブン・シスターズ・ステイトと呼ばれる北東部7州のキリスト教徒の割合は、ケーララ同様20%を占め、ナガランド州やミゾラム州ではキリスト教徒の割合は9割にも達する。
(ただし、インド北東部ではカトリックが多いケーララとは異なり、プロテスタントの割合が高いという特徴がある)

こうした背景から、同じキリスト教文化圏である欧米の文化への親和性がより高くても不思議はない。
現に、名前を見る限り、ケーララのロックのパイオニア13ADはメンバー全員がクリスチャンのようだし、ベテランのMotherjaneも4人中2人がクリスチャンだ。
キリスト教文化のバックグラウンドや、高い教育水準や識字率、インターネット環境、リベラルな意識といった複合的な要素がケーララ州でこれだけ多くのロックバンドを育んでいるのだろう。

最後に、そんなケーララの多様性を美しく歌ったThaikkudam Bridgeの楽曲"One"を。
ケララの自然や文化を美しくとらえたビデオがとても印象的だ。

素朴な漁村、屈託のない笑顔、手つかずの自然、さまざまな信仰と豊かな文化。
これを見たらケーララに行きたくなること請け合いの素晴らしいビデオだ。

というわけで、今回はケーララのロックシーンを特集してみました。
またいずれ同じように地域ごとのシーンを切り取った記事も書いてみたいと思います。

それでは! 

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goshimasayama18 at 21:16|PermalinkComments(0)

2018年09月29日

ケララ州の良質英国風フォーク・ポップ! When Chai Met Toast

こんにちは、軽刈田 凡平です。
今回紹介するのは、先日、ニューEP"Believe"を発売したばかりのケララ州コチ出身の4人組アコースティックロックバンド、その名もWhen Chai Met Toast!

彼らのBandcampのプロフィールによると、この素敵なバンド名はどうやら"When four Indian boys meet English folk"という意味の様子。
ではさっそく、彼らの新曲、"Believe".

彼らは2014年にギター、バンジョーを担当するAchyut Jaigopalとヴォーカル/ギターのAshwin Gopakumarの二人組として結成され、その後、キーボードのPalee FrancisとドラムのPai Saileshを加えて4人編成のバンドとなった。
サウンドだけ聴くとインドのバンドだと分からないようなサウンドがとても印象的だが、実際に彼らの高品質なポップミュージックは国際的な評価も高く、すでに日本のウェブサイトでも紹介されている
サウンドもクオリティーが高いが、映像もとても美しく、昨今のインドのミュージックビデオのレベルの高さを感じさせる出来だ。

お気に入りのバンドとしてMumford and SonsやLumineersのようなバンドを挙げている彼ら。
少し前のアルバムでは、よりイギリスっぽいサウンドを聴かせてくれている。

ゴキゲンなバンジョーが印象的な、彼らの英国フォーク愛が伝わってくるような楽曲だ。

若手とは思えない洗練されたサウンドを聴かせてくれる彼らだが、まだ決して長くはないその活動期間がずっと順調だったわけではない。
2015年にはAshwinのアメリカへの引越しによってバンドは活動休止状態となり、その間Achyutは一時期カルナータカ州出身の伝統音楽的ポップシンガー、Raghu Dixitのツアーに参加していた。
しかし自分たちの音楽を表現したい情熱には抗えなかったのか、Achyutのツアーの終了とAshwinの帰国にともない、彼らはWhen Chai Met Toastとしての活動を再開。
今回はPaleeとPaiを加えた4人組としての再始動となり、ますますその評価を高めていった。

2017年に発表されたアルバムから、"Beautiful World"


同じアルバムから、Rolling Stone Indiaの2017年度ベストミュージックビデオ第9位に選ばれた曲、"Fight"
 
この曲ではよりロック色が強いサウンドを聴かせてくれているが、いずれにしてもインドのバンドらしさを全く感じさせないポップチューンだ。

その後も彼らの国際的な評価は高まるばかりで、つい先ごろも彼らのFacebookではニューEPからの楽曲"Khoj"がAppleのチャートにランクインしたことが喜びとともに報告されていたばかりだ。
スクリーンショット 2018-09-25 23.09.30


ここで、そんな彼らの出身地であるケララ州を少しだけ紹介したい。

彼らの出身地ケララは、マラヤラム語を公用語とするインド最南部の州で、彼らの出身地コチは大航海時代から栄える歴史ある港町だ。
キリスト教徒(カトリック)が多い州として知られ、その割合は州の人口の20%にのぼる(インド全体ではクリスチャンの割合は2%程度)。
Kerala_map

伝統的に州議会で力を持っていた共産党系の政党が教育や富の分配に力を入れ、低いGDPにもかかわらずインド全国の中で最も高い識字率(94%)、最も長い平均寿命(77歳)、最も低い人口増加率(3.4%)を達成しており、その政策は「ケララ・モデル」として高く評価されている。

ムンバイやデリー、バンガロールのような大都市もなければ、人口規模もそこまで大きくはない州だが、このような背景からか良質なミュージシャン、とくにロックバンドを数多く排出している。
80年代から活躍しているMotherjane, 13AD(現Ground Zero)をはじめ、Downtroddence, Chaos, Rocazaurusのようなヘヴィーメタル勢や、Avial, Agam, Thaikkudam Bridgeのようなマラヤラム語ヴォーカルのインドフュージョンロックなど、興味深いバンドが非常に多いので、改めて紹介する機会を持ちたい。

ちなみにケララ州を始めとするインド南部では、紅茶よりもコーヒーが好まれており、Facebookのプロフィールによると、Chaiの名を冠したバンド名にもかかわらず、彼らもチャイではなくコーヒーを飲んでいるとのこと。
どっちにしても、チャイのスパイシーさを全く感じさせないバンドのWhen Chai Met Toastでした。

それでは今日はこのへんで!

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2018年01月17日

Rolling Stone Indiaが選ぶ2017年ベストミュージックビデオ10選(後編)

前回の続きです。

Rolling Stone Indiaが選ぶ2017年のベストビデオ10選、今日は6位から10位を紹介!

このへんになるとなんか思わせぶりなアートっぽい?のが目立ってくる。

 

6. Sandunes: “Does Bombay Dream of NOLA” ムンバイ エレクトロニカ
 

叙情的なエレクトロニカに白黒のアニメ。

ニューオリンズの神秘主義(ヴードゥーみたいなやつか?)に基づいた世界観を表しているそう。

このサウンドにニューオリンズと来たか。

いろんなところから玉が飛んでくるな…。

 

7. Thaikkudam Bridge: “Inside My Head” コチ ロック
 

Thaikkudam Bridgeはいつかきちんと紹介しようと思っていたケララ出身のヘヴィーロックバンドで、これはいつもはマラヤラム語で歌っている彼らが英語で歌った一曲。

普段はもっとインドっぽい歌い回しが目立つバンドなんだけど、英語だと洋楽的メロディーラインが際立ってくるね。

使用言語によるメロディーラインへの影響ってのはインドの現代音楽の興味深いテーマかもしれない。

インドの言語で洋楽的メロディーっていうのは有りでも(3位のThe Local Train然り)、逆はまずないっていう。

あまりにも唐突な内容の映像だったので、思わず3回くらい見ちゃったのだけど、ジャングルを舞台にしたストーリーで登場人物は以下の4人。

A:ジャングルの中を徘徊する若い男

B:ナイフを持った男。男Aを見つけて尾行する

C:毒蛇に首を咬まれた男

D:男Cの連れ。なんとかして手当てをしないとって状況

4人とも、どうしてジャングルの中にいるのかとか、どういった関係なのかとかいったことは一切示されない。こういうの不条理っていうの?不親切っていうの?

この4人が極限的状況で、助け合ったり裏切ったり、といった内容のミュージックビデオ。

なかなか日本のバンドではできないセンスではある。

確かにプレデターみたいな密林の映像は緊張感があるし、密室劇的な面白さや、人間存在の本質を深く洞察した哲学的な部分(とか言ってみた)はあるかもだけど、いったい何?何故?という疑問は最後まで拭えず。

うーむ。深いのか、何なのか。

 

8. Black Letters: “Falter” バンガロール ロック
 

曲はアンビエント調だけど、自称オルタナティヴロックバンドということで、ジャンルはロックにしてみた。

海、人、魚の叙情的な映像だが、内陸部のバンドらしく海なのに魚は淡水魚(金魚)っていうこだわりの無さっぷりが気にならないこともない。

 

9. When Chai Met Toast: “Fight” コチ ロック
 

こちらもケララ出身のロックバンドで、曲によってはバンジョーが入る曲なんかもあって、無国籍な感じのポップをやっている。

映画にしろ何にしろ、インドの男性観ってマッチョだけどナイーヴという先入観があったのだけど、最近の音楽をやってる人たちだとこういうポップな感じもアリになってきたのか。

このビデオ、映像のセンスに関しては、なんとなくバンドブーム頃〜90年代初期の日本のバンドっぽいテイストって気もするなあ。

 

10. Chaos: “All Against All” ティルヴァナンタプラム スラッシュメタル
 

またケララ!そしてメタル!
 このバンド名にしてこの曲名!
映像は泥の中で大勢の男たちがぶつかり合い、その近くで演奏するバンド!
無意味にビックリマークを多用してしまったが、理屈は抜きにしてメタルだぜこんちくしょう!っていう感じだけは強烈に伝わってくるじゃないですか。

この楽曲に合わせてどんなビデオを撮ろうかっていう打ち合わせの席で、「泥の中、100人くらいのほぼ裸の男達が左右から走ってきて、ぶつかり合い、取っ組み合うってのはどうでしょう?」「いいねー」っていうやり取りがあったんだろうか。
ちょと出オチ感のある内容ではある(途中で夜になったりはするけど)
 

 

はい、というわけで、今日は6位から10位までを見てみました。

こうやって続けて見てみると、やっぱりこれも媒体(Rolling Stone India)の特質なのかもだけど、極力インドっぽさを排した無国籍風な映像の作品が目立つという印象がする。
かつアーティスティックで内省的な作品ももてはやされる傾向があるんだな、と思いました。

イギリスからの独立後も、高級とされる場所だと英語こそが公用語っていう風潮のあったインドではあるけれども、こういうポップカルチャーの分野でも、非ドメスティックなものが高尚な趣味、みたいな、脱亜入欧って感じの価値観があるのかもしれない。


人様が作って、人様が選んだビデオを見ながら言いたいこと言ってアタクシはいったい何様なんでしょう?という気がしなくもないですが、ま、そんなことを思った次第でございます。



goshimasayama18 at 22:40|PermalinkComments(0)