TreEss

2019年07月05日

大注目レーベル NRTYAの多彩すぎるアーティストたち

突然だが、これまでこのブログで紹介して来たアーティストの中でも、とくに面白い何人かをピックアップしてみる。
  • ムンバイのキャリアウーマンのブルースを歌う、カルナーティックの素養を持つジャズ/ソウルシンガーAditi Ramesh.
  • 凄腕ギタリストにして、タブラでも少年時代から天才的な腕前を持っていたコルカタ出身のマルチプレイヤー、Rhythm Shaw.
  • インドの中でも後進的なジャールカンド州からユニークなサウンドを発信するヒップホップアーティストTre Essと、彼の相棒でブルースからエレクトロニカまで変幻自在のギタリストThe Mellow Turtle.
  • バンガロールのテクノ/ドラムンベースアーティストで、日本人にはびっくりのアーティスト名を持つWatashi.
様々なジャンルや活動拠点で活躍する彼らには、じつはひとつの共通点がある。
(もちろん、インド人のインディーミュージシャンだということ以外でだ)

それは、ムンバイを拠点とする新進レーベル"NRTYA"から楽曲をリリースしているということ。
このNRTYAは、インドのインディー音楽界のいたるところでその名前を目にする、今インドでもっとも注目すべきレーベルだ。
今回は、この新進レーベルNRTYAについて紹介します。

NRTYAは、Raghu Vamshi, Sharan Punjabi, Parth Tacoの3名によって2017年に立ち上げられた、まだ新しいレーベルだ。
VamshiとPunjabiの二人は、自身もTansane名義でエレクトロニカ・アーティストとしても活動しており、Tacoは音楽プログラマーとしても活躍している。
根っからの音楽好きでもあり、自身も表現者として、また制作者として音楽に関わっている人たちが運営するレーベルなのだ。

NRTYAは2017年の発足以来、ものすごい勢いで作品をリリースしており、これまでに扱ったアーティストは70近く、200曲以上のトラックをSoundcloudなどのメディアで発表している。
カバーするジャンルは電子音楽を中心に多岐にわたり、これまでテクノ、アンビエント、トリップホップ、ヒップホップ、アシッドジャズ、メタルなどの作品をリリースしてきた。
また、Aditi Ramesh, Rhytm Shaw, The Mellow Turtle, Tre Ess, Easy Wanderlingsといったアーティストのマネジメントも担当しており、作品のリリースだけでなく、所属アーティストによるイベントを各地で企画するなど、インドのインディーミュージックシーンを活性化すべく様々な活動を行なっている。

これは私の企業秘密なのだが、インドのインディー音楽で面白いアーティストを探そうと思ったら、まずこのレーベルをチェックすれば必ず誰か見つかるという、インド音楽を紹介する自分にとって非常にありがたい存在でもある。
あまりにも多すぎるリリース作品の中から、これまで紹介して来たアーティストを含めて、何人かを紹介してみたい。

ジャズ/ブルースシンガーのAditi Rameshは女性のみで結成されたバンドLadies Compartmentの一員としても活躍している。
最新の音源ではジャズと古典音楽を自在に息器するヴォーカリゼーションを聴かせてくれた。


エレクトロニカ・アーティストのPurva Ashadha and Fuegoによるこのアンビエントの清冽さはどうだ。

Mohit RaoのトラックにTre Essのラップを乗せたこの楽曲は、インドのアンダーグラウンドヒップホップのサウンド面の追求のひとつの到達点と言えるか。

古典音楽の要素を現代風にアレンジした楽曲もちらほら。ジャールカンドのThe Mellow Turtleの"Laced".


音が徐々に重なってゆき、魔法のようなハーモニーを奏でるドリームポップ。Topsheの"1,000 AQI".
このチープなビデオに出てくる、インドのどこにでといそうな兄ちゃんがこの素晴らしい音楽を作っていると思うと、インドの奥深さを改めて感じる。

NRTYAに所属する天才プレイヤーRhythm Shaw. 今回はマヌーシュ・スウィングスタイルのギターでお父さんのNepal Shawと共演する動画を紹介。
彼の多才っぷりを見るたびに、インドの音楽英才教育の恐ろしさを感じる。


なんとも形容しがたい音楽性の4人組バンドApe Echoes(しいて言えばフューチャー・ファンクか)のサウンドは完全に無国籍なセンスの良さ。
センスの良いミュージックビデオは、ジャイプル出身の人気シンガーソングライターPrateek Kuhadが昨年リリースした"Cold/Mess"と同じウクライナ人監督監督Dar Gaiとインド人俳優Jim Sarbhによるものだ。

バンガロールのテクノアーティストWatashiによるハードな質感のこの楽曲。テクノは扱ってもEDMは扱わないところに、インディーレーベルとしての矜持のようなものを感じる。

創設者2人によるTansaneがトラックメーカーとなって、Aditi RameshのスキャットとラッパーThe Accountantをフィーチャーした"Campus Recruitment"はインドの大学での就職活動をテーマにした楽曲。
Tansaneの名前は16世紀のインドの大音楽家Tansenから取ったものだろうか。

NRTYAからのリリースではないが、The Mellow TurtleとTre Essのジャールカンド州の2人は、盲目の少年シンガーDheeraj Kumar Guptaをフィーチャーした楽曲"Dil Aziz"をプロデュースした。
作曲は同じ盲学校に通う14歳少年Subhash Kumar.
イノセントさと深みを兼ね備えた歌声が素晴らしい。
シンプルながらも古典的なものを古く聴こえさせないトラック、そしてソウルフルなギターソロもさすがだ。
インディーのNRTYAではなく、インドの大手音楽配信サイトJioSaavnからのリリースなのは、少しでも多くの人の耳に届くようにという親心か。
これは以前The Mellow Turtleがインタビューで語っていた、ソーシャルワーカーとしての盲学校で音楽を教える活動が形になったもので、すでに各種サイトで多くの再生回数を集め、高い評価を得ているようだ。
「The Mellow Turtleインタビュー!驚異の音楽性の秘密とは?」

NRTYAにはインド全土からアーティストの音源が送られてきており、その中で優れたものを世に出しているそうだ。
ジャールカンドのようなインディーミュージックが盛んでない地域からも、The Mellow TurtleとTre Essのような優れた才能を発掘し、彼らがまた次の才能を育てて世の中に送り出すという好循環が生まれている。
こんなふうに、音楽の分野だけにとどまらない才気と気概を感じさせられるアーティストが多いのも、インドの音楽シーンの素晴らしいところだ。

ちなみにレーベル名の5文字のアルファベット"NRTYA"、覚えにくいなと思っていたのだが、これはPunjabiによると、「永遠のエネルギーの5つの元素、すなわち想像、維持、破壊、幻影、解放を含む宇宙の舞踊」を意味しているという(と言われてもよくわからないが)。
おそらく読み方は「ヌルティヤ」でよいのだと思うが、私はCharがやってる江戸屋レーベルみたいに「成田屋」と読んでいる。
この成田屋、もといNRTYA、現代インドの音楽シーンの多様性と勢いをもっとも象徴するレーベルである。

みなさんも、「インドの最新の面白い音楽を紹介してほしい」と聞かれることがあったら(あんまりないとは思うけど)、まずはこのレーベルをチェックしてみることをお勧めする。
それでは!


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「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」

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2018年07月29日

革新者の覚悟!ジャールカンドの天才ラッパー Tre Essのインタビュー!

お待たせしました!
以前このブログで紹介したところかなり反響があった、後進地域ジャールカンド州出身の天才ラップアーティスト、Tre Essに送っていた質問の答えが届きました。
(彼について紹介した記事はこちらから)


今回はそのメールインタビューの様子を紹介します!
音楽制作について、地元について、ミュージシャンとしてのキャリアについて、非常に真摯に包み隠さず語ってくれたTre Essに改めて感謝!


ーあなたの音楽はとても独特だけど、今までラッパーとして、あるいはトラックメイカーとして誰に影響を受けてきたか教えてくれる? 

「そうだな、日常的にいつも何かしらの影響は受けているよ。でも、やっとわかったことなんだけど、アーティストとして他の誰かに必要以上に憧れるべきじゃないと思う。そんなふうに憧れることに意味があるのか俺には分からないな。俺が受けた影響は多岐にわたるよ。音楽を始めた頃はドラマーだったから、その頃はLinkin Parkとか、他のメインストリームのロックバンドに影響を受けたよ。じきにヒップホップに出会って、自分の可能性を音楽で解き放ってみたいと感じるようになったんだ。実験的(エクスペリメンタル)って言われるようなことをたくさんバンドでしてみたかった。そういう何でもありって感じがヒップホップの魅力だね!
もしかつて僕がしたみたいに、時間をかけてヒップホップを理解しようとすれば、『ヒップホップ』っていうあいまいなジャンルのもとに、いかにエクスペリメンタルな音楽がたくさんあるか分かるはずさ。
ヒップホップはアートとしての価値が低いって批判する人も多いけど、あらゆる物事には2つの面があるんだよ。分かる?
2018年にヒップホップを作ることは簡単だし、人気はあるけどゴミみたいな音楽もたくさんある。でも今や第三世界のキッズたち(註:自分を含めて、ということだろう)だって、今まで以上にいろんな音楽にアクセスすることができる。最初の頃、俺はすごくオールドスクールだった。その頃はNas, Biggie, Redmanがお気に入りのアーティストだった。でもプロダクションがどんどん良くなってゆく中で、ヒップホップがどれだけ進化したかを理解したんだ。
かつて物事はすごく一面的だった。でもいつまでも古いアーティストばかりにこだわるべきじゃないんだ。それじゃあ影響の源が限られてしまう。今現在のベストなミュージシャンとしては、Vince Staples, Isaiah Rashad, Earl Sweatshirt, Anderson Paak, Big K.R.I.TとかFreddie Gibbsなんかを考えているよ。
でも繰り返すけど、影響は毎日のように受けているんだ。ある日はレッチリだったり、ある日はCharles Bradelyだったり」

と、いきなり熱を込めて回答してくれた。
当方の翻訳力不足で、意味が取りにくいところもあるかもしれないが、大意はつかめると思う。
ここで注目すべきは、彼がヒップホップをエクスペリメンタル(実験的)な要素のある進化しつづける音楽と定義していることだろう。
ジャールカンドのタフな暮らしを綴ったリリックにも特徴があるTre Essだが、ヒップホップの本質としてコトバよりも音楽的革新性を挙げていることに、彼のサウンドクリエイターとしての矜持が伺える。
また、この手の質問に「Eminemに影響を受けてラップを始めたんだ」とか答えるラッパーが多いなかで、表現者として他のアーティストに過剰な憧れを持ち続けることに疑問を持つ姿勢はとても印象的だ。
彼はキャリアの早い段階から、自分自身のことも「エクスペリメンタルな革新を続ける表現者の一人」として位置づけていたのだろう。
続いては、気になる地元のシーンについて。
Tre Essを紹介した記事でも書いた通り、ジャールカンド州はインドの中でも貧しい地域であり、有名ミュージシャンを多く輩出している都市部とは大きく環境が異なる。
都市部を離れれば、インド社会の中で被差別的な立場を強いられてきた先住民族が支配する地域もあり、特有の社会問題もある州だ。

ー正直に言うと、あなたがジャールカンドのラーンチー出身ということにかなり驚いたんだ。なぜかって、インドのコンテンポラリーなミュージシャンはほとんどがデリーとかムンバイみたいな大都市の出身だから。ジャールカンドの音楽シーンについて教えてくれる?

 「そうだな、俺たち3人でラーンチーのシーン全体を作ってるみたいなもんだよ。3人ってのは、俺とThe Mellow Turtleと、"ホンモノ(OG)"のJayant Doraiburuのこと。Mellowは俺が考えるインドで最高のブルースアーティストで、また最高のエレクトロニカアーティストの一人でもある。Jayantは、彼にできない音楽は何もないんじゃないか、っていうくらいの奴だよ。彼は俺が見たことがある楽器は何でも演奏できるし、やれって言えばラップも歌もできる。でも実際のところ、彼は素晴らしいサウンドエンジニアでプロデューサーなんだ。
JayantはVikritっていうバンドをやってて、インドやネパールのメタルシーンで活躍してる。俺たちはお互いに違うタイプのサウンドをカバーしていて、しょっちゅうお互いにインスパイアされているってことが気に入っているのさ。
他にもたくさんのアーティストがジャールカンドにはいるけど、彼らは今ひとつ活気や野心に欠けているんだ。昔はそんな状況がいやだったけど、今じゃ自分たちで変えなきゃいけないと思ってるよ。
俺たちはそういう気づきを広げようと努力していて、無料のギグをしたりいろいろしてるけど、このことに関してはそんなに楽観的ってわけじゃないね。俺はコミュニティーを良くしようとしない人間になるのはまっぴらごめんだから、ただ良いことをして、自分が育ったクソみたいな環境をマシにしようとしてるだけってとこさ」

このブログでも大々的に紹介したThe Mellow Turtleに加えて、ラーンチーのミュージックシーンの第3の男として、The Mellow Turtleのインタビューでも名前が挙がったJayant Doraiburuが出てきた。
Tre Essも語っているように、彼はDream TheaterやSymphony Xに影響を受けたプログレッシブ・メタルバンド、Vikritのドラマーも務めている。
彼らのウェブサイトによると、やっているのはこんな曲
確かに、Tre EssともThe Mellow Turtleともまったく違うヘヴィーメタルを演奏している。
ラップ、ブルース/エレクトロニカ、メタルと全然違うジャンルのアーティストが刺激し合っているというのも、狭い街のシーンならではだろう。
彼らに次ぐアーティストは出てくるのだろうか。

続いては、個人的に初めて出会った彼の曲であり、現在のインドのアンダーグラウンドヒップホップシーンを代表する曲ともいえる" New Religion"について聞いてみた。
Tre Essの名義ながら、コルカタ、ムンバイ、ニューヨークのラッパー総勢7名を客演に迎えた意欲作だ。


ー“New Religion”はマルチリンガル・ラップソングっだけど、どうやってインドやニューヨークのアーティストたちを集めたの?
北インドのリスナーたちは、この曲に出てくる英語とヒンディー語とベンガル語がみんな理解できているってこと?(註:南インドは北インドとはまったく違う言語体系の言葉が話されている)

 「ここでフィーチャーした連中のほとんどは友達で、以前共演したことがあったんだ。彼らのうち何人かは初めてコラボレーションしたけど、今後彼らのために何かしらプロデュースすることになってる。
北インドのほとんどの人はヒンディーが理解できるし、英語が理解できる人もいるよ。ベンガル語が理解できるのはもっとベンガル人に限られてくるかな。でも俺にとってそれは大した問題じゃなくて、リスナーには全体のうちちょっとでも伝わればいい。
この曲を気に入っているって言ってくれる人もいるし、俺はフィーチャーした人たちをもっと絞るってことをすべきじゃなかったと思ってる。もしそうしたら完全に良さを失ってしまうんだ。もし言葉が理解できないラッパーがいるとしても、それは君のためにいるんじゃなくて、俺のためにいるんだよ!この曲の全員がそれぞれ異なるグループをレペゼンしているんだ。みんなが別々だと思っているスタイルとか、分けるべきだと思っているジャンルをみんないっしょにして素晴らしいサウンドを作ろうってアイデアなんだよ。
もしこの曲がベンガル語から始まるからって、全体を聴かないで聴くのをやめようって人がいたら、それはそいつらの損失であって俺の損失じゃない。そいつが生きてきた中で最高のインディアン・ヒップホップを聴き逃して嘆くことになるってわけさ」

明確なコンセプトと過剰なまでの自信。
そしてその根底には、新しい試みへの強い意志がある。
例えば既存の欧米のヒップホップとインドの伝統的なサウンドを融合させて、ヒップホップというジャンルをより「拡げて」いるアーティストもいるが、Tre Essはヒップホップを「拡げる」のではなく、「前に進める」という明確な意識を持ったアーティストと言えるだろう。

ー“New Religion”っていうタイトルの意味を教えてくれる?以前インタビューしたヘヴィーメタルのミュージシャン(Third SovereignのVedantのこと。彼へのインタビュー記事はこちら)が、宗教やコミュニティー同士の争いにはうんざりしていて、ヘヴィーメタルこそが新しい宗教みたいなものさ、ってことを言っていたんだ。あなたもヒップホップに関して、同じような意見を持っているの?

 「それはすごく面白いね。俺も似たような意見だよ。俺は音楽全体が新しい宗教だと思ってる。ラップとか、メタルとか、ポップとか、好みはいろいろだろうけど、それは俺が知ったことじゃない。部分的にはそういうアイデアがこの曲のタイトルの背景にあるし、残り半分はみんなのこの曲のパフォーマンスそのものから来てる。
宗教には神々が必要だろ?俺は8人の神の候補者を紹介してるってわけさ。ハハハ。
俺たちをただの若いナルシシストだと思ってる古臭い信心深い連中は腹をたてるだろうけど、俺たちはそういう時代遅れの先入観をからかってるのさ。もし気に入らないってんなら、ふーん、そんならお前が何かやってみせろってことさ」

この既存の価値観に対する強烈な反発!
Brodha Vのように、ヒップホップで成り上がりつつも、ヒンドゥーの神への祈りを忘れないというスタンスや、経験なクリスチャンだというDIVINE、シク教徒であることを全面的に出しているPrabh Deepみたいなアーティストもインドにはいるが、彼はより反権威主義的なスタンスだ。
これは彼がより保守的な地域の出身であることも関係しているのかもしれない。
物質主義、功利主義が浸透している都会であれば伝統的な価値観を見直したくもなるかもしれないが、旧弊な価値観に縛られざるを得ない地域においては、音楽こそが精神の自由をもたらす第一の価値観ということになるのだろう。

 ーThe Mellow Turtleとあなたが共演している曲が本当に気に入ってるんだけど、彼もラーンチー出身だよね。どうやって彼と出会って、共演するようになったの?

「Mellow!俺の唯一の親友さ、ハハハ。俺たちは共通の友達の友だちのJayantを通して出会った。その頃彼は俺たち両方のサウンドエンジニアをやっていたんだ。JayantがMellowの曲を聴かせてくれたから、俺はその曲にいろんなフリースタイルを乗せてみた。そんなにいい出来じゃなかったけど、その時にすでに共同制作の友情が始まってたってわけさ。で、俺たちはそれ以来いろんな優れた曲を作り続けてる」

The Mellow Turtleへのインタビューでも語られていたエピソードだ。
その最初に共演した曲というのがこの"Tangerine".


やがてアルバム"Elephant Ride""Dzong"でも共演し、唯一無二のサウンドを作り上げてゆくのは今までに紹介した通り。
続いて今後の活動について聴いてみた。

ーインドの才能あるミュージシャンのほとんどは、活動拠点をデリーとかムンバイとかバンガロールに移しているよね。あなたもそんなふうに拠点を移したい?それともラーンチーにとどまり続けるつもり?

「ああ、1日だってそのことを考えない日はないよ。いつかは動かなきゃいけないって感じているけど、それがいつかは分からないな。バンガロールには3回ほど行ったことがあるんだけど、大嫌いだったんだよ。俺はああいう街が持ってる雰囲気は好きじゃないんだ。俺はラーンチーもずっと嫌いだった。仕事は早く進まなかったりするし。でもそれが夕暮れ時になるとまったく変わるんだよ。
どんなことかっていうと、例えば友だちと15分か20分ドライブするだけで、みんなが長い時間かけて旅行でもしない限り得られないような静けさを見つけることができる。このへんの自然はすごくきれいなんだ。目に映る全てが美しく、しかもそこにも何一つ人の手で計画されたものなんてないんだ!街の中に、今でも自然のままの森林地帯があるんだよ!俺にとってはそれがいちばん美しいものだよ。
でもすごく皮肉なことに、青々とした森林地帯のうち、どこに銃を構えたナクサライトが潜んでいるか分からないんだよ」

ここまで、ずっと強気で不遜とも言えるラッパー然とした態度を見せてきた彼が、初めてその葛藤を見せた答えだ。
音楽的に成功するための大都会への憧れと、故郷の自然への愛着、アンビバレントな感情。 
だが彼が愛する美しい故郷の自然すらも暴力と無縁ではない。
ナクサライトとは、インドの主に貧困地域で活動する毛沢東主義派のテロリストのことで、以前紹介したジャールカンドゆえの闇を感じる内容だ。


ーあなたのミュージシャンとしてのキャリアのゴールは何?

 「俺は一人でも多くの人々に音楽を届けたい。どれだけ長くかかるかはわからないけど、俺はやらなきゃいけないんだ。他の誰かがやってくれるわけじゃないし、ジャールカンドの音楽シーンは俺が音楽を作るのを止めたら死んでしまう。俺は他の仕事も探しているし、実際に始めてもいる。金をあっちこっちに投資したりもしているし、これからの人生でいつか音楽を止めなきゃいけないかどうかも分からない。でも音楽なしの生活を俺は知らないんだ。将来にことについてそんなに心配はしたくない。だってほとんどの人は思い通りにならないものだから。でも未来のインドのアーティストたちのために、しっかりした基盤を作れたらいいと思ってるよ。彼らが何であれ自分たちの作品以外のことであんまり心配しなくて良いように」

強気な態度で既存の権威に噛みつくラッパー、エクスペリメンタルな要素を取り入れたサウンドクリエイター。
そんな彼の口から「投資」なんて言葉が出てくるところにインドのシーンの特異性を感じる。
Taru Dalmiaのドキュメンタリーでも出てきたテーマだが、インドではヒップホップは「ストリートの音楽」であるが、「大衆の音楽」ではなく「エリートの音楽」というややねじれた存在になっているのだ。
The Mellow Turtleも法律事務所で働くエリートでもある。
でも、彼らがやっていることが決して金持ちの道楽ではなく、極めて真摯に誠実に音楽や表現と向き合っているということは音楽を聴けば分かるはずだ。
自分たちだけでなく、後進のミュージシャンのことまで考えているというのだから推して知るべしだ。

最後にくだらない質問をひとつ。
“Tre Ess”って名前、アメリカン・プロレスのWWEのトリプルHを意識してつけたっていう記事を読んだんだけど、WWEってインドで人気あるの?

「ハハハ、そう、WWEはインドでも大人気だよ。今はもう見ていなくて、MMA(総合格闘技)を見てるけど、以前はずいぶん楽しんだよ」

おお、ここでもやはりインドでWWE大人気説を裏付ける返事が返ってきた。
唐突だが、プロレスにおいて新しい価値観を提唱した人物といえば、日本のマット界ならば前田日明ということになる。
Tre Essのインタビューを終えて、前田日明が80年代にUWFを立ち上げた時に発した言葉「選ばれてあることの恍惚と不安、二つ我にあり」 を思い出した。
(実際は前田自身の言葉ではなく、原典は太宰で、さらにその元ネタはヴェルレーヌなわけだが)
UWFは従来のプロレスとは異なる格闘技的な要素を持った団体で、前田にとってプロレスとは常に過激に進化しつづけるものであり、かつてその姿勢の提唱者だったアントニオ猪木が既存のプロレスの枠の中に収まってしまったことへの強烈なプロテストでもあった。

Tre Essが前田日明なら、当初は革新的だったものの新しい表現を追求しなくなったヒップホップアーティストはアントニオ猪木(その他当時のプロレスラー)にあたる。
保守的、後進的なジャールカンドで革新的なヒップホップを作り続けてゆくことについて、彼もまた恍惚と不安の中にいるのだろう。
今のところ、そうした葛藤や、狭いシーンならではの出会いは、彼の音楽をより魅力的なものにしているように思える。
今後彼は、そしてMellow TurtleやJayantといったラーンチーのミュージシャンたちはどんな音楽を作ってゆくのか。
大都市への進出はあるのか。それとも地元のシーンをさらに発展させてゆくのか。

ジャールカンドのシーンともども、今後も紹介してゆきたいと思います!
それでは!
 
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2018年06月23日

The Mellow Turtleインタビュー!驚異の音楽性の秘密とは?

先日紹介した、ジャールカンド州ラーンチー出身の驚くべき音楽性を誇るギタリスト/シンガー・ソングライターのThe Mellow Turtle.
インドの中でも後進的な地域の出身ながら、時代もジャンルも超越した先進的なハイブリッドサウンドを奏でる彼の音楽遍歴やバックグラウンドはいかなるものなのか?
想像を超える実態が明らかになった驚愕のメールインタビューの模様をお届けします!
その前に、The Mellow Turtleの紹介記事はこちら

—あなたのFacebookページを読むと、ずいぶんいろんなタイプの音楽を聴いてきたみたいだね(註:彼はおすすめとして、Tom Misch, FKJ, Bonobo, B.B.King, Muddy Waters, Alt J, Ratatat, Ska Vengers, The F16sなど、海外、国内を問わず非常に多様なアーティストを挙げている)。 それにブルースロックだったり、ヒップホップだったり、エクスペリメンタルなものだったり、すごくいろいろなスタイルの曲を書いているけど、いったいどんな音楽的影響を受けてきたのか、教えてもらえる


MT
「最近聞いているのはアフリカのマリのブルースだよ。Ali Farka Toure, Songhoy Blues, Vieux Farka Toureとかだな。 大きな影響を受けたアーティストといえば、The Black Keys, Ratatat, Gorillaz, Chet Faker, Glass Animals, Morcheeba, Thievery Corporation, Muddy Waters, Howlin Wolfあたりってことになる。 最近じゃヒンドゥスターニー(北インド)の古典音楽も聴き始めたよ。」 

マリのブルース!そっちから球が飛んでくるとは思わなかった!
他にも、インディーロック、新世代シンガー・ソングライター、ローファイ、伝説的ブルースマンと、古典から現代まで、センス良すぎるラインナップだ。
さらに地元インドの古典音楽まで聴き始めたとは!
ギタリストにもかかわらず、いわゆるギターヒーロー的なテクニカルなプレイヤーを挙げずに、いろいろなジャンルのグッドミュージックを挙げているのも印象的。
本当に音楽そのものが大好きなのだろう。

 

—マリのブルースって、いったいどこで知ったの?

 MTYoutubeで見つけて、そこからインターネットで調べ始めたんだ。Ali Farka ToureRy Cooderのアルバム「Talking Timbuktu」はチェックすべきだよ。すごく美しい音楽だ」

 

 
Ali Farka Toureのソロアルバムはこちら!

 

Ali Farka Toure、不勉強にして初耳だったのだけど、聴いてみてびっくりした。
なぜって、もはやすっかり伝統芸能として形骸化し、息絶えたと思っていたブルースの「精神」が、彼の音楽に生々しく息づいていたから。
アフリカ系アメリカ人によって生まれ、そのままアメリカで死んだと思われていたブルースは、その精神的故郷アフリカで今も生き残っていた。
そしてインドの後進地域のミュージシャンに影響を与え、さらに新しい音楽の母胎となっている。
なんて素晴らしい話なんだろう!


—いつ、どんなふうにギターの演奏を始めたの?

MT
134歳のころにギターを弾き始めた。理由はギターのサウンドにどっぷりはまっちゃってたから。それでギターのレッスンを始めたんだけど、少しの間だけレッスンを受けて、あとはウェブ上のタブ譜を見ながら練習したよ」 


—お気に入りのソングライターやパフォーマー、ギタリストは誰?

MT
「それは難しい質問だな。ソングライターとしては、Ben Howardが大好きだ。ベスト・パフォーマーを挙げるなら、Anderson Paakってことになるね。お気に入りのギタリストってことなら、B.B.Kingがいちばんだよ」 

Ben Howardは先日紹介したAsterix Majorを思わせる叙情的なフォーク系シンガー・ソングライターだ。
The Mellow Turtle、守備範囲広すぎだろう。


Anderson Paakはカリフォルニアのゲットー出身のアーティスト。アメリカの黒人音楽の誕生から現在までを全て詰め込んだようなラッパー/シンガー/ドラマー。
ケンドリック・ラマーらと並んで、現在のヒップホップシーンで高い評価を得ている。


B.B.Kingは言うまでもないブルースの大御所だ。これは彼が映画ブルースブラザーズ2000でも披露していた代表曲の1つ。
 

こうして彼のお気に入りの音楽を並べてみると、音楽性は様々だが、サウンドやスタイルのかっこよさを追求するだけでなく、魂を込めて真摯に表現しているタイプのアーティストが多いことに気がつく。
とくに彼の黒人音楽の好みに関しては、耐え難きを耐え、忍び難きを忍ばざるを得ないジャールカンドの暮らしの中で育まれた感覚が共鳴するアーティストを挙げているようにも感じる。考えすぎだろうか?


—あなたがTre Essと競演している曲がすごく好きなんだけど、彼もラーンチー出身だよね。いつ、どんなふうに出会って、共作を始めるようになったか教えてもらえる?

MT
「ありがとう!友達のJayantElephant RideEPを作っていたときに、SumitTre Essの本名)もJayantのスタジオでソロアルバムをレコーディングしてたんだ。ある日スタジオに顔を出したらJayantが、僕らの曲に合わせてラップをした奴がいるって言うんだ。それをチェックしてみたらすごく良かったから、そのTangerineって曲のラップをそのまま残しておくことにしたんだよ。その後、僕らはスタジオで顔を合わせて、いっしょにレコーディングするようになった。それで今じゃすっかり大親友になったってわけさ。」 

それがこの曲、Tangerine. Tre Essのラップは2:10頃から。
ラップが入ることで、ブルースロック調の曲がより現代的、立体的になっているのがわかる。



—ラーンチーやジャールカンド州のミュージックシーンについて教えてくれる?ジャールカンドじゃどんなところでライブをしているの?ライブハウスみたいなところとか、フェスとかあるの?

MT
「ラーンチーのシーンは本当に退屈だよ。生演奏が聴ける場所なんてないね。へヴィーメタルとカバーバンドのリスナーがいるだけさ。ラーンチーでライブを企画しようとしたことがあったんだ。でも観客は古いヒンディー語とか英語の曲のカバーばっかりリクエストしてきた。ここで新しいタイプの音楽を聴く人を見つけるのは本当に大変だよ」 

音楽好きがほとんどいない街で、偶然出会った全く違うジャンルの才能あふれるミュージシャン2人。
ムンバイやデリーのような音楽シーンが成熟した大都市だったら、出会わずにすれ違うだけだったかもしれない。
音楽の神様はたまにこうして才能のあるもの同士を引き合わせる。
そして、そんな音楽好きがほとんどいない街で、純粋に自分たちの音楽を追求しつづけるThe Mellow TurtleTre Essには、心からのリスペクトを感じる。
でも、本当に今のままでいいの?

 —インドの場合、多くの才能あるミュージシャンがデリーやムンバイやバンガロールみたいな大都市に活動拠点を移しているよね。あなたも活動拠点を大都市に移したいと思う?それともラーンチーにとどまり続けるつもり?


MT「正直言って、まだなんとも言えないよ。理想を言えば、ラーンチーとムンバイと両方で過ごすことができればいいけど。都会の生活はとても厳しいよね。生活にお金もかかるし、交通状況も最悪で(駐:ラッシュアワーや交通渋滞のことか)移動のためにずいぶん時間を無駄にしなきゃならない。でもボンベイみたいな街に住めば、もっとライブの機会は増えるし、音楽業界の先頭に立っている人たちにも会える。僕の音楽を聴いてくれるファンを増やすこともできると思うし。」

 日本でも、いや世界中でも、同じように感じている地方在住のミュージシャンは多いことと思う。上京して一人暮らしするのだってバカにならないお金がかかる。

都会出身のミュージシャンとは、そもそも前提条件から違うってわけだ。
でも、だからこそ、彼のように地方から大都市のシーンとは関係なく面白い音楽が出てきたりもするのだけど。

 

—あなたのアルバムのタイトル『Dzong』(ゾン)とか、曲名の『Dzongka』(ゾンカ)っていうのは、ブータンの言語の『ゾンカ語』のことだよね?もしそうなら、どうしてこのタイトルをつけたのか、意味を教えてもらえる?

MT「ブータンの言葉だと、『Dzong』っていうのは宗教や行政や社会福祉を全て執り行う城のことなんだ。このアルバムを通して、僕は精神的なことや政治的なこと、社会的なことを表現したかった。それから僕は建物としての『Dzong』にすっかり魅了されてるんだ。すごくきれいなんだよ。そういうわけでアルバムに『Dzong』ってタイトルをつけたんだ。

 これが「Dzong」(ゾン)

PunakhaDzongInSpring
Dzongka』っていうのはブータンの言葉を意味している。この曲では、自分たちの独自のサウンドを追求してみたんだ。ブータンが独自の言語や文化を持っているようにね。『Dzong』をレコーディングしているとき、僕とSumitTre Ess)でブータンに行く機会があったんだ。二人ともブータンの文化や雰囲気がすっかり気に入ったんだよ。僕が今までに見た中で一番美しい国だった。」


今度はブータンと来たか!
アメリカや世界中のグッドセンスな音楽のスタイルに乗せて、地元の街のブルース(憂鬱)を歌う。それだけでも十分なのに、隣国の文化からもインスパイアを受けたという彼らの感受性には恐れ入る。時代も地理的な条件もいっさい関係ないみたいだ。

 

-あなたのFacebookのページによると、ソーシャルワーカーや起業家としても活躍しているみたいだね。音楽以外ではどんなことをしているの?

MT
「父の不動産会社で働いていて、プロジェクトの責任者をしているよ。ソーシャルワーカーとしては、今はSt.Michales盲学校のとても才能あるミュージシャンたちのメンターとレコーディングをしているよ。学校で週に2回、ギターも教えているんだ。学校でセッションのための部屋も作ろうとしているんだ」

 不動産会社はともかく、盲学校でのプロジェクトはとても面白そうだ

初期のブルースマンからレイ・チャールズ、スティーヴィー・ワンダーを経てラウル・ミドンまで、盲目の素晴らしいミュージシャンは数多くいる。
彼の音楽的センスと、インドの土壌から、どんなミュージシャンが出てくるのだろうか。

インタビューを通して感じたのは、彼の音楽全般に対する情熱だ。
地域も時代も超え、あらゆる音楽に興味を持ち、良いものを聴き分ける音楽ファンとしての情熱。
そしてそこから受けた影響を、音楽シーンのない街で世界中のどこにもない自分の音楽として作り、表現する情熱。

また、音楽の普遍性と地域性ということについても考えさせられた。
彼の音楽は、先に述べたような世界中のさまざまな音楽からの影響で成り立っている。
だが、彼の作るサウンドの、ビートの隙間からは、紛れもないインドの地方都市の空気が漂ってくるのもまた事実だ(これは、Tre Essの音楽からも感じることだ)。

ニューヨークの音楽にはニューヨークの、西海岸の音楽には西海岸の空気があるように、彼の作る音楽からは、ジャールカンドの空気感が伝わって来る。
昼の暑さを忘れさせるくらい涼しくなった夜の、排気ガスやどこからともなく漂う煮炊きの匂い、オートリクシャーのエンジンとクラクションの音、暗い街角で行くあてもなく佇む人々の眼差しや息遣いが感じられるような音像だと、私は感じている。

The Mellow Turtle. ジャールカンド州ラーンチーが生んだ稀有な才能。
今後彼がどんな音楽を作り出すのか。
またみなさんに紹介できることを楽しみにしています。



goshimasayama18 at 20:21|PermalinkComments(2)

2018年06月15日

ジャールカンドの突然変異! The Mellow Turtle

前回、ジャールカンド州ラーンチー出身のラッパー、Tre Essを紹介した。
貧しく保守的な地域だと思っていたジャールカンドから本格的なラッパーが出てきたことに大いに驚いたものだが、驚きはこれだけでは終わらなかった。

Tre Essと頻繁に共演している同じくラーンチー出身のギタリスト、The Mellow TurtleことRishabh Lohia .
ブルースをベースにしつつ、トリップホップやエレクトロニカの要素もある楽曲の数々は、これまたジャールカンド離れした驚愕のサウンド!
まずはぜひ聴いてみてください。

昨年リリースされたセカンドアルバム"Dzong"から、"Minor Men"


Tre Essと共演した曲"Lake Dive"

アルバムタイトルの"Dzong"とは、ブータンの言語「ゾンカ語」のことだが、ブータンからは距離のあるジャールカンドで、どういう意味が込められているのだろうか。

ファーストアルバムではよりルーツ的なサウンドを聴かせている!
静止画と字幕、フリー素材だけで作ったみたいなビデオが微笑ましいぞ。
地元の写真なのだろうか。

これは何だろう、ローファイ・ヘヴィー・ブルース・ロックとでも呼ぶべきか。
途中で入ってくるラップがG.Love的な雰囲気も醸し出している。

インド古典を使った"Laced"もセンスが良い!


何なんでしょう。この、古いものも新しいものもセンスよくミックスしたオリジナリティー溢れるサウンドは。
ジャールカンドや周辺地域の後進性については前回の記事でも触れたが、デリーやムンバイといった大都市ではなく、ラーンチーからこのサウンドが生み出されるということは、インドに詳しくない人のために分かりやすく説明すると、東京に例えるとすれば足立区からコーネリアスが出てきたくらいのインパクトがある。

彼のFacebookのページによると、お気に入りのミュージシャンとして、Tom MischやFKJといった、ルーツミュージックを現代的な方法で再構築しているアーティストに加えて、B.B. KingやMuddy Watersのような昔ながらのブルースアーティストを挙げている。
ちなみにインドのアーティストでは、お気に入りとしてこのブログでも取り上げたSka Vengersの名前が挙がっていた。
同ページには、The Mellow Turtleは起業家、社会活動家としての顔も持っていると紹介されていたが、彼もまたSka VengersのTaruのような啓蒙活動をしているのだろうか。
ぜひ本人に聞いてみたいところだ。

これまでこのブログで見てきたインドのミュージシャンは、ロックならロック、ラップならラップとひとつのジャンルからの影響しか表現しないアーティストばかりだった。
中には、インドの伝統音楽や映画音楽など、地元の文化と欧米の音楽との融合を試みているミュージシャンはいたが、彼のように西洋音楽の中の異なるジャンルを、それも時代をまたいでセンスよく融合させるという、言ってみればBeck的なセンスを持ち合わせたミュージシャンというのはインドでは本当に稀有。
いったいどうやってジャールカンドでこのセンスが育まれたのだろう。

Tre EssとThe Mellow Turtle.
ジャールカンドが生んだ突然変異。
ラーンチーにはいったいどんなシーンがあるのか。
彼らの音楽的センスはどのように育まれたのか。
二人にメッセージを送って確かめてみたいと思います。
返事がもらえるといいなあ。 


追記:
The Mellow TurtleとTre Essのコラボレーションで最も気に入っているのがここで聴けるアルバム「Blues off the Ashtray」からの楽曲。
https://soundcloud.com/nrtya/sets/tre-ess-x-the-mellow-turtle
以前聞いて「おおっ!」と思ったものの記事を書いているときに見つけられなかったのだけど、再び発見したので改めて載せておきます。
ブルースとヒップホップ、黒人音楽の始まりと現在地がまさかインドで違和感なく融合するとは。 

goshimasayama18 at 00:19|PermalinkComments(0)

2018年06月11日

インドのヒップホップの「新宗教」って何だ?Tre Ess!

こないだRolling Stone Indiaのウェブサイトを開いたら、いきなり日本語で書かれた「新宗教」っていう文字が目に入ってきてびっくりした。

いったい何事かと思ってみたら、数々の才能あるアーティストが所属するムンバイのレーベル、NRTYAに所属するラッパー/トラックメイカーのTre Essによる新曲「New Religion」を紹介する記事だった。
この曲は、Tre Essがムンバイ、コルカタ、ニューヨークのラッパーと共演した、総勢8名によるマルチリンガル・ラップだ(なぜジャケットに漢字が使われているのかは全くもって不明)。



小慣れた英語のフロウもはまってるし、ところどころにインドの要素を入れつつ最後はギターも入ってヘヴィーロック的な展開を見せるディープなトラックもかっこいい!

マイクリレーの順番は、
Cizzy(コルカタ、ベンガル語)
Tienas(ムンバイ、英語)
Kav E(ムンバイ、英語)
Tre Ess( ラーンチー、英語)
Gravity( ムンバイ、ヒンディー語)
Jay Kila(ニューヨークのインド系ラッパー、英語)
Nihal Shatty and the Accountant(ムンバイ、英語)
最後にまたTre Ess、と続く。

Gravityのパートでヒンディー語になったところで、タブラの音が入ってサウンドもインドっぽくなるところなんかもなかなか小粋にできている。
ヒンドゥー、イスラム、シク教、キリスト教、仏教など多くの宗教を抱えるインドで「新宗教」とはどういうことかと思ったが、その真意はリリックからははっきりしない。
リリックの内容は、英語のパートを見る限りだと不穏で暴力的な都市での生活を語ったもののようで、宗教っぽい部分といえば、TienasとTre Essのパートで"I'm a god"というフレーズが使われているくらいか。
推測するに、「神に祈っても救われないこの世の中で、ヒップホップの価値観こそが俺たちの新しい宗教なのさ」といったところだろうか。

そういえば、キリスト教が盛んなインド北東部のデスメタルバンド、Third Sovereignも、彼らの音楽にブラックメタルのような反キリスト教的な要素があるのかという質問に対して、「俺たちは、反宗教というより、宗教同士、コミュニティー同士の対立にうんざりしているんだ。ヘヴィーメタルはそれ自身がひとつの宗教みたいな感じだ。違いや対立にこだわるんじゃなくて、音楽は個人のバックグラウンドに関係なく夢中になることができる。ブラックメタルのアーティストは宗教の垣根を越えた表現として音楽を演奏しているんだ」と語っていた。
この曲についても、ジャンルは違えど同じような意味合いがあるのかもしれない。

さて、もう1つこの曲でびっくりしたのは、この流暢な英語ラップと完成度の高いトラックを披露しているTre Essが、ムンバイやデリーのような大都市ではなく、ジャールカンド州のラーンチーの出身だということ。
ジャールカンドといってもピンと来ない人が多いと思うが、地理的には下の地図の赤い部分にあたり、コルカタがあるウエスト・ベンガル州の西、仏教の聖地ブッダガヤがあるビハール州の南、タージマハルで有名なアーグラーやヒンドゥーの聖地ヴァラナシがあるウッタル・プラデーシュ州の南東に位置している。
ジャールカンドは2000年にビハール州から独立して生まれた新しい州で、先に述べた周辺の州と比べると、これといった大都市や観光地があるわけではないため、インドに行ったことがある人でも、訪れたことがある人はあまりいないのではないかと思う。

ジャールカンド
で、なぜそのジャールカンド州出身だとそんなにびっくりするのかというと、ジャールカンドはインドに33ある州と連邦直轄領のうち、住民一人当たりGDPが下から5番目の、極めて貧しい州だからということに尽きる(ジャールカンドのGDPは2015-16年のデータでUS$960)。
隣接するビハール州が住民一人当たりGDPのワースト1(US$520)、ウッタル・プラデーシュ州がワースト2(US$740)で、このあたりは人口こそ多いものの、インド主要部の中でもとくに貧しく後進的な地域とされている。(人口に関していうと、この3州は合計で約3.5億人を擁し、インド全体の3割弱を占める地域ではある)
首都デリーの一人当たり年間GDPはUS$4,500だから、その格差の程がお分かり頂けると思う。

また、ジャールカンドは人口の3割ほどを「指定部族」が占める。
指定部族とは、ヒンドゥーやイスラムとは異なる伝統を持ち、歴史的に被差別的な立場を強いられてきた人々であり、ビハール州からの独立にも、そうした背景が関係していると聞く。

先日のレゲエ活動家Taru Dalmiaの記事でも書いた通り、英語のラップはインドの一般大衆からすると、まだまだエリート・ミュージックという印象を持たれるジャンル。
失礼ながら、こんな後進的なイメージの州から、ここまで洗練されたヒップホップ(歌詞はリアルなストリートライフだとしても)が出てきたら、そりゃあ驚くってものでしょう。
ちなみに以前行った「全インド州別ヘヴィーメタル状況調査」でも、ジャールカンドにはメタルバンドは一組も存在していないという結果が出ている。おそらくは貧困や保守性を原因として、ラップだけでなく現代的な西洋音楽全般が普及していない様子が伺える。

そんなジャールカンド出身のTre Ess、「New Religion」だけが他のミュージシャンの助けもあって奇跡的な出来なのかと思ったら、そんなことは全然なく、他の曲もやはり驚愕の出来。

Tre Ess "Bycicle Thieves"(ft. Gravity) 

こちらもムンバイのGravityとの共演だが、ジャジーで夜の空気感を感じさせるトラックのクールさといったら!

Tre Ess "Through the Window"

こちらも生演奏の不穏な感じのトラック(インドのヒップホップにありがちな、アゲる方向に持っていかないところが逆に重い!)に、ジャールカンドの荒んだ暮らしが綴られている。
リリックはYoutubeから見ると確認できるんだけど、

Everybody and their momma is a rebel in Jharkhand
  誰もが、母親でさえもがジャールカンドでは反逆者
Several consequences / For your lil princess, born in war trenches 
  戦場みたいな所で生まれたあんたの娘の成り行きさ

というラインから始まって、

Your worst nightmare is cuter than my dreams お前の最悪の悪夢も俺の夢よりずっとマシさ
Don't ever fuck with boys from RNC! ラーンチーの男達を怒らせるんじゃないぜ
I Told you, Don't fuck with boys from RNC! 言っただろ、ラーンチーの男達を怒らせるな
I could show you 14 years old killers from the local basti! 地元のスラムじゃ14歳の殺し屋だっているんだ

と終わる(bastiはヒンディー語で貧しい人々が住む過密地域という意味らしい)。

…少し話がそれるが、アタクシがインドの最近の音楽を熱心に聴き始めた最初のきっかけは、ヒップホップだった。
インドの特定のアーティストという意味ではない。
これだけインターネットが発達して、簡単な機材とスマホでもあれば、誰もが自分の表現を世の中に訴えることができる時代。
様々な差別や貧富の差、不条理で非合理なことに満ちているインドにこそ、ラップという形でリアルな自己表現をするアーティストが必ずいるんじゃないかと思って、いろんな音楽を掘り始めた。
その後、いろんな意味で面白い音楽にたくさん出会えたということはこのブログでいつも書いている通り。
そのなかでも、これは久しぶりのめっけもの感がある。

Tre Ess レペゼン・ジャールカンド。
このサウンド、このリリック。
これは本物かもしれない。

ウェブ上の記事によると、Tre Essはお気に入りとして、Vince Staplesのようなラッパーに加え、フューチャー・ソウルのHiatus Kaiyoteや、ジャズ/ファンク寄りのSnarky Puppy、ダブ・ステップ的シンガーソングライターのJames Blakeなど、ジャンルにこだわらない(というかジャンル分けが非常にしづらい)アーティストを挙げており、やはりジャールカンドらしからぬセンスを感じる。

あ、ちなみにTre Essの名前の由来は、本名の頭文字が全てSから始まるというころで、アメリカのプロレス団体WWEのTriple Hにあやかってつけたものだそうだ。
これもまた「インド人WWE好き説」を裏付けるエピソードのひとつと言えそうだ。

そしてジャールカンド州ラーンチー出身の驚くべき才能はこのTre Ess だけじゃない!
その話はまた改めて! 


goshimasayama18 at 21:41|PermalinkComments(0)