TheLocalTrain

2020年08月17日

ヒンディー・ロックの代表格 The Local Trainの映画風ミュージックビデオ

「ヒンディー・ロック」というジャンルがある。
とくに難しい定義があるわけではなく、「ヒンディー語で歌われているロック」というだけのことである。

インドでは、一般的に英語よりもローカル言語で歌われている曲のほうが人気が高い(YouTubeやサブスクの再生回数が多い)。
英語の上手い人材が多い印象の強いインドだが、英会話ができる人の割合は20%、そのなかで「英会話が流暢にできる」という人の割合はたったの4%だけだという調査結果がある。
(出典:「インドで英語が話せる人は人口の何割?」 https://news.yahoo.co.jp/byline/terasawatakunori/20150801-00048077/ 大卒者では8割以上が「流暢に話せる」もしくは「少し話せる」と答えているから、当然ながら社会階層によってもその割合は大きく異なる)
映画『ヒンディー・ミディアム』で描かれていたように、英語は給料の良い職に就き、上流階級として扱われるための必須条件として扱われているが、国全体として見ると、まだまだ自在に話せる人は少ないのだ。


というわけで、インドにも、洋楽的な世界観を志向し、国際的な成功を目指して英語で歌うミュージシャンは多いけれど、インドの一般的なリスナーにとっては、やはり生まれ育ったときから話しているローカル言語のほうが馴染みやすいという傾向がある。
この状況は、日本の音楽シーンとも似ていると言えるかもしれない。

インドの音楽シーンと言語をめぐる状況をもう少し詳しく見てみよう。
「インドには20を超える公用語がある」と言われているが、インドの言語の中で、もっとも話者数/理解者数が多いのは、インド北部と中部の広い地域で話されているヒンディー語だ。
じつは、連邦政府の公用語として定められているのは、このヒンディー語と英語のみであり、タミル語やベンガル語などの言語は州レベルでの公用語(連邦政府は「指定言語」としている)に過ぎない。
ヒンディー語を公用語としない州でも、ボリウッド映画やテレビ番組などによってヒンディー語に親しんでいる人々は多く、つまり、ヒンディー語で音楽や映画を作れば、それだけ大きな市場にアピールできるのだ。

YouTubeを見る限り、同じようなタイプ/クオリティーの音楽でも、ヒンディー語で歌われている場合、英語を含む他の言語よりも数倍からひと桁くらい再生回数が多いという印象を受ける。
(ただしこれはインディー音楽に限る。映画音楽に関しては、ヒットした映画の曲であれば、言語を問わずさらに2桁くらい高い再生回数を叩き出している)
実際、英語やヒンディー以外の言語で歌うインドのインディーミュージシャンからは、ヒンディー語の曲ばかり聴かれている現状を嘆く声を聞くことも多い。

前置きが長くなったが、こうしたインドで最大の市場を持つヒンディー語のロックを代表する存在が、The Local Trainだ。
彼らは2008年に北インドのチャンディーガル出身のメンバーらによって結成され、その後デリーを拠点に活動を続けている。
垢抜けない印象のあったヒンディー・ロックに、洋楽的なメロディーとアレンジを導入し、その洗練された音楽性で高い人気を集めている。

インド最大言語の人気バンドということで予算も豊富なのか、彼らは凝った映画風のミュージックビデオを作ることでも知られており、2017年にリリースした"Khudi"では、Uber Eatsのようなバイクでの出前を仕事にしている青年が自由を求めて旅に出るまでの過程を鮮やかに描いている。

王道のポップ・ロック・サウンドに、クオリティーの高い映像による誰もが共感できるストーリー。
600万回以上という、インドのインディーバンドにしてはかなり多い再生回数を叩き出している理由が分かるだろう。

旅は彼らにとって大事なテーマなのか、この"Dil Mere"はヒマラヤ山脈の麓の町マナリ(Manali)を舞台にしたロードムービー風に撮影されている。

空撮を多用した美しい自然と、現地の人々の素朴な佇まいが清々しい印象を残すこの映像は、撮影に8日間、編集に30日間をかけたものだという。
このミュージックビデオのYouTubeでの再生回数は1,200万回以上!
彼らの人気の程がお分かりいただけるだろう。

現時点での最新アルバムは2018年にリリースされた"Vaaqif".
その収録曲"Gustaakh"のミュージックビデオは、なんと特撮SF風のコマ撮り作品だ。
日本の怪獣映画(のハリウッドリメイク?)の影響も感じられる作風が面白い。


彼らは、影響を受けたバンドにNirvana, Aerosmith, U2, Alt-J, The 1975を挙げている。
まったく音楽的な共通点のない顔ぶれだが、いずれも商業的に大きな成功を収めたバンドなので、王道のロックを奏でる彼ららしい好みとも言えるだろう。
(ちなみに国内のアーティストでは、Indian OceanとLucky Aliを挙げている)

メンバーの中にはロスアンジェルスの名門音楽学校MIの出身者(ギタリストのParas Thakur)も在籍しており、英語で歌っても良さそうな彼らだが、ヒンディー語で歌う理由をインタビューでこう答えている。

「僕らは90年代に育ったから、インドにロックやポップスが紹介される前の音楽を聴いていた。だから、僕らのルーツも、考え方も、心の中で自問自答するときも、いまだにヒンディー語なんだ。それに加えて、ウルドゥー語(ヒンディーと共通点の多いパキスタンなどの公用語)の詩も僕らの一部になっていて、ずっと楽しんできた。だから、ヒンディー語の音楽を通して自分たちのことを表現するって言うことは、ぼくらにとってすごく自然で、詩的なことでもあるんだ」
https://travelandleisureindia.in/the-local-train-interview/

彼らが表現したい世界観は、自分たちのルーツでもあるヒンディー/ウルドゥーでないと表現できないということなのだろう。

The Local Trainは、デリーでの大学祭や各地のフェスでのライブで人気を獲得し、2015年にはゼンハイザーによって「インドNo.1若手バンド」にも選ばれるなど、音楽業界での評価も高い。

つねに新しくて刺激的な音楽を探している映画業界が彼らのことを放っておくはずもなく、実際、彼らの"Aaoge Tum Labhi"は2015年のボリウッド映画"Angry Indian Goddeses"にも採用されている。

これは映画のために作曲したものではなく、彼らが以前に作っていた曲が映画に採用されたという経緯だったようだ。
(そのため、よくあるボリウッド・ソングのように、映画のシーンがミュージックビデオに使われていない。ちなみにこの曲の再生回数も1,000万回を超えている)
ご存知の通り、インドでは音楽シーンの主流は今でも映画音楽だが、彼らはボリウッドについて、どう考えているのだろうか。

「結局のところ、ボリウッドだろうとインディーだろうと、いい曲はいいし、ダメな曲はダメだよね。僕らは雇われて女優のダンスシーンのために曲を変えたりするミュージシャンにはなりたくない。僕らはインディーアーティストとして、自分たちが作りたいものだけを作りたいんだ。僕らの音楽をそのまま求めてくれるんだったら、誰であろうとうれしいよ」
「"Angry Indian Goddeses"で使われた曲も、アルバムでリリースされた通りだった。ディスコ調にしたり、ビートを変えたりはしなかった。インディーバンドにとっては大切なことさ」

自分たちの曲がそのままの形で使われるのであれば構わないが、映画のために魂を売ろうとは思わない。
人気バンドとなった今も、彼らはインディーアーティストとしての矜持を保っているようだ。
インドのインディー・ロックの、そしてヒンディー・ロックの代表的なバンドであるThe Local Trainが、今後どのような活躍をしてゆくのか、興味が尽きない。


参考サイト:
http://www.pritishaborthakur.com/2016/03/19/in-conversation-with-the-local-train/

https://themanipaljournal.com/2017/02/20/being-indie-and-hindi-the-local-train-interview/

https://travelandleisureindia.in/the-local-train-interview/




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goshimasayama18 at 18:10|PermalinkComments(0)

2020年01月04日

Rolling Stone Indiaが選ぶ2019年のベストミュージックビデオ11選

今年もRolling Stone India誌が選ぶ2019年のベストミュージックビデオが発表された。
例年なら10選であるところ、今回はなぜか中途半端な11選。
二部作になっているものもあるので、そういう意味では12選ということになる。

インドのミュージックビデオは近年加速度的にその質を向上させており、今年も見ごたえのある作品が選ばれている。
例によってとくに順位はつけられていないのだが、ウェブサイトで紹介された順番に、さっそく見ていこう。

The Local Train "Gustaakh"


The Local Trainはデリーを拠点に活動する活動するヒンディー語で歌うロックバンド。
この"Gustaakh"は彼らが2018年に発表したセカンドアルバムからのミュージックビデオとなる。
彼らは毎回ショートフィルム風の凝った映像を作っていて、過去にもロードムービー仕立ての"Khudi"のミュージックビデオが2017年のRolling Stone Indiaのベストミュージックビデオとして選出されている。
今回はコマ撮りによる近未来SFという新機軸で、ムンバイの映像作家Vijesh Rajanによる作品。
日本生まれのカルチャーである「怪獣映画」は、近年ハリウッドでのリメイクが相次いでいるが、その波がインドまで届いていると思うと感慨深いものがある。


Vasu Dixit "Nadiyolage"

Vasu Dixitは映画のプレイバックシンガーとしても活躍するシンガーRaghu Dixitの弟で、ベンガルール(バンガロール)を拠点に活動するバンドSwarathmaのヴォーカリスト。
この曲でもバンドと同様に伝統音楽を現代的/幻想的にアレンジしたフュージョンフォークサウンドを披露している。
Swarathmaとしても、2018年に発表したアルバム"Raah-E-Fakira"がRolling Stone Indiaの年間ベストアルバムに選ばれており、欧米的洗練を評価することが多い同誌にも、その音楽センスは高く評価されている。
この楽曲は、ベンガルールの詩人Mamta Sagarのカンナダ語の詩(「川の詩」という意味らしい)がもとになっているとのこと。
CGアニメーションによる映像は、やはり同郷ベンガルールのアニメ作家Rita Dhankaniによるもので、水や生命をテーマにした幻想的な映像は、一瞬も目が離せないほどに美しい。
この手の映像を作らせるとインドのアーティストは本当に素晴らしい才能を見せるが、それはやはり彼らの哲学や宇宙観によるものなのだろうか。
幻想的なアニメによるミュージックビデオは、先日紹介したEasy WanderlingsGouri and Akshaなども発表しており、最近のインドの音楽シーンのトレンドのひとつになっている。


Black Letters "In My Senses"

Black Lettersはケーララ州出身でベンガルールを拠点に活動しているポストロックバンド。
彼らもまた毎回優れた映像作品を発表していて、2017年にも"Falter"という曲がRolling Stone Indiaが選ぶベストミュージックビデオに選出されている。
このビデオに見られるような、レトロ/ローファイ感覚のサウンドや映像は、インドのインディー音楽シーンの新しいトレンドだ。
シーンの成熟にともなって、古い時代を古臭いダサいものとして扱うのではなく、クールなものとして再定義する感覚が、インドでも芽生えてきているのだ。


Parekh & Singh "Summer Skin"

インドのインディーロックファン(自分とマサラワーラー鹿島さん以外にいるのか不明だが)にはおなじみのコルカタ出身のドリームポップデュオ。
彼らはイギリスのレーベルPeacefrogと契約しており、日本でも高橋幸宏に紹介されるなど、国際的にも高い評価を得ている。
ウェス・アンダーソンを思わせるポップな色使いと世界観はこの"Summer Skin"でも健在で、これまでも彼らのビデオを手がけてきた映像作家のMisha Ghoseが今作も制作している。
Parekh & Singhは衣装から小道具まで、毎回かなりこだわったビデオを作っており、その制作費はどこから出ているのか非常に疑問に思っていたのだが、どうやら「実家がとんでもない大金持ち」というのがその真相らしい。
それでもここまで凝った世界観を構築するのは簡単なことではない。
彼らのこだわり抜いた姿勢にあらためてリスペクトを捧げたい。


Small Talk "Tired"

このミュージックビデオはムンバイのオルタナティブバンドSmall Talkのデビュー作品で、同郷ムンバイの映像作家兼ミュージシャンのJishnu Guhaが手がけている。
ポップでモダンな都市生活に、少しの空虚さと孤独感を感じさせる作風は、先進国の都市文化に通じる感覚と言えるだろう。
世界的な視点で見ると、けっして新しい種類の作品ではないかもしれないが、こうした感覚の映像がインドでも作られるようになったという意義が評価されてこのリストに選出されたものと思われる。


Parikrama "Tears of the Wizard"

20年のキャリアを誇るデリーのベテランハードロックバンドの初のミュージックビデオ(とRolling Stone Indiaは紹介していたが、私の知る限り、彼らは以前にもミュージックビデオを制作している)。
この作品は、黒い衣装に身を包んで荒野で演奏するという、メタルバンドに非常にありがちなもの。
音楽的にも映像的にも急に古典的なものが入ってくるあたり、やはりインドは一筋縄ではいかない。
この曲調にギターソロではなくバイオリンソロが入ってくるのはインドならではだ(バイオリンはインド古典音楽の楽器として、とくに南インド音楽でよく使用されている)。
やはり「欧米っぽいものをインド人が作った」ことを評価しての選出なのだろうか。


Peter Cat Recording Co. "Floated By"

2009年にデリーで結成された彼らは、強いて言えばオルタナティブ・ポップバンドと呼ぶことができるだろう。
ジプシー・ジャズなどを取り入れ、インドではかなり古くからオシャレでセンスの良いサウンドを聴かせていたバンドのひとつだ。
今作では、バート・バカラックあたりの影響を感じさせる渋谷系的なサウンドを披露している。
昔ながらの結婚式の映像を合わせるセンスは、Black Lettersの"In My Senses"同様に、伝統とモダンの融合を試みたものだ。
ちなみに結婚式のシーンは、ヴォーカルのSuryakant Sawhneyの実際の結婚式の映像が使われているとのこと。
こんなに現代的なサウンドを作るアーティストでも、結婚式は完全に伝統的なスタイルで行っているのが面白い。


The F16s "Amber"

The F16sは2012年結成のチェンナイのインディーロックバンド。
この作品も、前述の通りインドの音楽シーンでトレンドとなっているアニメによるミュージックビデオで、アーメダーバードのアニメーション作家Deepti Sharmaが制作している。
インドのアニメのミュージックビデオでは、スタジオジブリなどの日本のアニメーションの影響を感じる作品も多いなかで、このビデオではアメリカのカートゥーン調の映像が効果的に使われている。
扱われているテーマは、インターネット、パーティーカルチャー、返信願望、孤独感、そして自己の喪失といったグローバルな現代都市文化に共通して見られるもの。
1:56に一瞬寿司が出てくることにも注目!
寿司はここ最近のインドのフィクション作品のなかで、「モダンで奇妙な食べ物」として象徴的に扱われることが多い。
インドでも大都市を中心に寿司店が増えてきているが、「生魚を食べる」というインドとは真逆の食文化は、インド人にとってそれだけインパクトがあるものなのだろう。
それにしても、インドのインディーバンドのミュージックビデオに寿司が出てくるなんて、少し前までは想像もできなかった。


Your Chin "Luv Important"

Your Chinはムンバイのエレクトロニック・ポップアーティストRaxit Tewariによるソロプロジェクト。
彼はオルタナティブ・ロックバンドSky Rabbitの中心メンバーとしても活動している。
シュールな世界観のミュージックビデオはクラブミュージック系の音楽にありがちなものだが、やはりインドのアーティストがこの「ワールド・クラス」の作品を作ったということに意義がある。


Aabha Hanjura "Roshwalla" Part1 and Part2


Aabha Hanjuraは、ベンガルールで活動する女性シンガーで、印パ、ヒンドゥー/ムスリムの対立が続く北部カシミール地方の音楽を現代風にアレンジして歌っている。
衣装や顔立ちからすると、彼女自身もカシミール系のようなので、紛争の難を逃れて活動拠点を南部ベンガルールに移してきたのかもしれない。
コチを拠点にしたプロダクションMadGeniusによるミュージックビデオは、劇中で人形劇が繰り広げられるというメタ構造。
パート1の人形劇では古い価値観の権威に引き裂かれる恋人たちが描かれ、パート2では彼らが愛と意志の力で圧迫を乗り越える様が描かれている。
カシミール地方は、1947年の印パ分離独立にともなって両国に分断されて以来、悲劇にさらされ続けている土地だ。
インド領のカシミールは、全人口の8割をヒンドゥー教徒が占めるインドでは例外的にムスリムが多数派を占める地域となった。
この地域では、カシミールの独立やパキスタンとの併合を目指す運動が盛んに行われ、武装勢力によるテロ行為やその弾圧を目的とした政府側の暴力行為によって、多くの血が流された。
それでも、インド独立以降、この地域はジャンムー・カシミール州として、他州同様の自治権が与えられていた。
ところが、昨年10月、ヒンドゥー至上主義的な傾向を持つBJP(インド人民党)のモディ政権は、ジャンムー・カシミールの州の自治権を剥奪し、連邦直轄領としてしまう。
これに対する抗議運動を抑えるため、中央政府はカシミール地方のインターネットを遮断し、4ヶ月以上にも及ぶ封鎖を続けている。
ロックと伝統音楽と融合した音楽性は今聴くと少し古臭く聴こえるし、映像も選出された他のミュージックビデオに比べると垢抜けなく見えるかもしれないが、Rolling Stone Indiaは、こうした時代背景を考慮したうえで、この楽曲とビデオが持つメッセージが与えうる希望を評価して、ベストミュージックビデオのひとつに選出したという。
こう見えて、じつは社会的なメッセージのある一曲なのだ。


Uday Benegal "Antigravity"

Uday Benegalは、老舗ロックバンドIndus Creedのヴォーカリスト。
Indus Creedの前身は1984年にムンバイで結成されたRock Machineだから、インドのロック史上では最古参と呼べるほどのベテランシンガーということになる。
この楽曲は、インド音楽界の超大物A.R.ラフマーンとボリウッドの音楽プロデューサーClinton Cerejoが立ち上げたデジタルメディア企業Qyukiグループによって立ち上げられた、英語で歌うインド人アーティストを世界に売り出すためのプロジェクト'Nexa Music'の一環としてリリースされたもののようだ(ちなみにこのプロジェクトは日印合弁企業のMaruti Suzukiによって支援されている)。
大手がバックについているだけあって、モダンヘヴィロック風の楽曲も、'antigravity(反重力)'を映像化したミュージックビデオも非常にクオリティが高く、すでに500万回を超える再生回数を叩き出している。
映像はドバイを拠点に活動する映像作家のTejal Patni.
英語話者数ではアメリカに次ぐ人数を誇るインドが、本格的に英語ポピュラーミュージックのマーケットに進出することができるのかどうか、非常に興味深い試みだ。


ざっと11曲を見てみたが、今年は映画『ガリーボーイ』による空前のストリートラップブームが巻き起こっていたにも関わらず、ヒップホップからの選出がゼロだったことに驚いた。
個人的には、Dopeadeliczの"Aai Shapath Saheve Me Navtho"や、MC AltafとD'Evilが共演した"Wazan Hai"(いずれもムンバイ最大のスラムであるダラヴィ出身のラッパー)あたりは選出されても良かったように思う。
(彼らのミュージックビデオは「Real Gully Boys!! ムンバイ最大のスラム ダラヴィのヒップホップシーン その1」参照)
ヒップホップシーンがすでに成熟し、表現が類型化してきたことが「ヒップホップ外し」の理由かもしれないが、この企画は、多分にRolling Stone Indiaの編集方針による恣意的な部分が大きいので(例えば、バングラーラップなどのボリウッド的な大衆性の強いものは例年選出されない)、単に選者の好みなのかもしれない。
それでもこうして11曲を並べて見てみると、インドのインディペンデント系音楽カルチャーのトレンドが読み取れるように思う。

今年とくに目立ったのは、アニメーションの流行だ。
インドでは多くの若手アーティストが日本のアニメを見て育っており、おそらくはその影響が少なからずあるものと考えられる。
(もちろん、インドは映像系アーティストの人材が豊富で、またインディミュージシャンにとっては、予算の都合などで実写では表現できない映像を簡単に作れるという理由もあるだろう)
インドにおける東アジア系カルチャーは、音楽ではK-Popの人気が圧倒的だが、映像においては日本のアニメの存在感が非常に大きい。
なにかと英米志向の強いインド人だが、今後、映像や音楽の分野でアジアのカルチャーの影響がどのように開花するのか、今後も注目して見てゆきたい。

また、「古き良きインド」的なものを、ノスタルジーとしてではなく「キッチュでクールなもの」として描く傾向も近年目立ってきている。
こうした表現は、伝統文化と若者文化の間にある種の断絶があるからこそ可能なものであり、「変わりゆくインド」を象徴するものと言えるだろう。
一方で、「モダンな都市生活」を描くときに、それを憧れの対象としてではなく、虚無感や孤独感をともなったものとして描く作品も目立つようになった。
こうした傾向は今後も加速してゆくものと思われるが、その中で世界的に評価される作品が生み出されるのか、あるいはインドならでは面白さにあふれた作品がとび出してくるのか。
いずれにしても、近年急速に進歩しているインドの音楽シーンやミュージックビデオから、ますます目が離せなくなりそうだ。


過去の映像作品と比べてみるのも一興です!




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goshimasayama18 at 06:12|PermalinkComments(0)

2019年01月16日

Rolling Stone Indiaが選ぶ2018年のベストアルバムTop10!

前回、Rolling Stone India誌が選ぶ2018年のベストシングルを紹介したけど、今回は同誌が選ぶベストアルバムを紹介!
はっきりいって今回のほうがシングルよりもずっと面白くてかっこいい!
まだあまり知られていないグッドミュージックを探している人は是非ともチェックすべき10枚をご案内します。

こちらも順位はつけられていなかったので、ひとまず同誌サイトで紹介されている順に書いていきます。
アーティスト名とアルバム名のところにアルバム全体が聴けるサイトへのリンクになっていて、収録曲のYoutubeも貼っておいたので聴きながらお楽しみください。
それでは!

Rainburn, "Insignify"

イントロが結構長くて、曲が始まるのは1:53から。
選者の趣味なのだろうが、いきなりコテコテのメタルが出てくるところにこのセレクトの面白さを感じる。
今作はバンガロールを拠点に活動するプログレッシブメタルバンドのデビューアルバム。
インドではDream Theaterの影響下にあるようなこの手の音楽はかなり人気があり、多くのバンドが存在している(詳細後述)が、彼らはその中でもかなりレベルの高いバンドと言えるだろう。
2曲めの"Merchant of Dreams"(1:53〜)の途中にブルース風の進行が出てきたり、6曲めにアカペラ曲の"Purpose"(24:35〜)が収録されているあたりが個性だろうか。

The Local Train, "Vaaqif"

The Local Trainは2008年にインド北部チャンディーガルで結成され、現在はデリーを拠点に活動するヒンディーロックバンド。
ヒンディーロックとは何ぞやというと、文字どおりヒンディー語で歌われるロックのことだが、このバンドの場合、ヒンディーで歌ってもいかにもインド的な歌い回しは出てこず、完全に洋楽ロック的なメロディーとアレンジになっているのが良さでもあるし、少しもったいなく感じる部分でもある。
(ヒンディー語以外のマーケットにはなかなか届かないだろうから)

Dhruv Visvanath, "The Lost Cause"

ニューデリーで活動するシンガーソングライターで、アメリカのAcoustic Guitar Magazineで30歳以下の偉大なギタリスト30名に選ばれたこともあるというDhruv Visvanath。
このアルバムでも、ほぼアコースティックギターとヴォーカルハーモニーだけでドラマティックな楽曲を構成することに成功している。

Paradigm Shift, "Sammukh"

また出た!プログレッシブ・メタル・バンド!
彼らは最近日本でも注目されているPineapple Express同様、伝統音楽の要素(声楽やバイオリン)を大胆に取り入れた音楽性のバンドだ。
この手のプログレ・ミーツ・インディアなバンドは数多いが、変拍子や複雑なフレーズを駆使するプログレとインドの古典音楽にそれだけ親和性があるということなのだろう(他に注目株としてはタミルのAgam、もう少しグランジっぽいところでデリーのAnand Bhaskar Collectiveなど)。


Enkore, "Bombay Soul"

ムンバイのバイリンガルラッパー(英語とヒンディー)Enkoreが、このブログでも何度も名前が出て来ているデリーの鬼才トラックメイカーSez on the Beatのプロデュースでリリースしたアルバム。
Sezはいつものトラップ色の強いトラックではなく、スムースでチルな質感の音作りを意識している。
ギターを中心にしたメロウなトラックにところどころ顔を出すインド風味が心地よい。


Skyharbor, "Sunshine Dust"

アメリカ在住(インド系米国人?)のメンバーを含むSkyharborは、日本のBabymetalの全米ツアーのオープニングアクトを任されるなど人気上昇中のメタルバンドだ。
このブログではついついデスメタル、スラッシュメタル、正統派ヘヴィーメタルなどのオールドスクールなメタルバンドを中心に紹介してしまっているが、こういった現代的な音像のメタルバンドも多いので、いつかまとめて紹介したいところ。

Swarathma, "Raah-E-Fakira"

インドの伝統音楽とロックを融合したバンガロールのバンドの3枚目のアルバム。
これまで、Anand Bhaskar CollectivePineapple ExpressPakhseeなど、インドの古典声楽とロックを融合したバンドはいくつも紹介してきたけど、このバンドはより土着的・大衆的なインドのフォーク(民謡)とロックとの融合!
朗々としつつも繊細なニュアンスのある古典声楽と違って、骨太で素朴な歌声のインド民謡とロックの組み合わせは、これまた非常に面白い仕上がりになっている。
ロックの部分がけっこう練られたアレンジになっているので、朴訥としたヴォーカルが入ってくると、その落差にずっこけつつも、だんだん「これはこれでアリかも…」と思わされてくるから不思議だ。
ヴォーカリストは同じくインド民謡歌手のRaghu Dixitの弟、Vasu Dixit.
インドでは古典と現代音楽との融合が当たり前のように行われていて、またそれが普通にリスナーに受け入れられてもいる。
日本で同じようなことをしたら完全にイロモノだし、クールなものとして聴かれることもないだろう。
インド社会は急速に西欧化(ニアリーイコール資本主義化)しつつあるが、その根っこの部分には自分たちの文化や伝統の確固たる基盤があるのだ。


DCF_Shapes, "Live Vol.1"

インドの音楽シーンで活躍する一流プレイヤーによって構成されたファンクバンドのライブアルバムで、これが非常にかっこいい!
終始ファンキーなグルーヴにデジタル的な要素もうまくはまっていて、とにかく聴かせる、踊らせる。
ぜひライブで見てみたいバンドだ。
ちょっと渋さ知らズオーケストラみたいに聴こえるジャジーなところも気持ちいい。

ドラムにバンド名にもなっているDCFの別名を持つムンバイのセッションドラマーLindsey D'mello(2014年にDark Circle Factory名義で出したアルバムもかっこいい。DCFはその略称のようだ).
ギターにムンバイのインダストリアル・メタルバンドPentagramのRandolph.
サックスにインドを代表するジャズ・プレイヤーのRhys Sebastian D'souza.
'Funktastic'でラップを披露しているのはムンバイの老舗ヒップホップ・グループBombay Bassmentのメンバーでケニア出身のアフリカンであるBob katことBob Omulo.
ところで、インドのインディーズシーンの「ベテラン」である彼らの名前を見ると、英語のファーストネームやポルトガル語の苗字がずらり。インドのインディー音楽シーン創成期にクリスチャンのミュージシャンが果たした役割の大きさを再認識させられる。


Gabriel Daniel, "Conflicting"

バンガロールを拠点に活躍するオルタナティヴ系シンガー・ソングライターが、ドラマーとベースのサポートを加えて作ったアルバム。
いかにもシンガー・ソングライターといった叙情的な作風に、ところどころでポストロック的な要素やマスロックっぽい要素が光る。


Raghav Meattle, "Songs From Matchbox"

デリー出身のさわやか系シンガー・ソングライターのデビュー・アルバム。
60年代っぽくも聴こえるし、ちょっとジャック・ジョンソンみたいなサーフ系や西海岸系フォークを思わせる雰囲気もある楽曲は、どこか懐かしくて、そして完成度もとても高い。
インドのミュージシャンでここまでアメリカっぽい空気を感じさせる人は珍しい。


と、ざっと10枚を紹介してみた。
メタル、ロック、ヒップホップ、ファンク、SSWとジャンルも多岐にわたり、それぞれかなり聴き応えのある作品が揃っているのが分かるだろう。
シングル10選のときは、オシャレ感重視の雰囲気ものが多かった印象だが、このアルバム10選ではよりアーティストの個性が強く出た作品がピックアップされている。
Paradigm ShiftやSwarathmaみたいにいかにもインドといった要素が入ったバンドも面白いし、SkyharborやDCF_Shapesは国籍に関係なくかっこいい音楽を作っている。
Raghav Meattleの普遍的なグッドメロディーを作曲する才能も覚えておきたい。

「音楽とインド」というテーマで記事を書くことが多いため、ついついインドならではの音楽性や背景のあるアーティストを取り上げることが多いのだけど、こんなふうに純粋に優れた音楽を作っているミュージシャンたちもかなり高いレベルにいることが改めて分かるアルバムたちだった。
気に入ったアーティストがいたら、ぜひみなさんのプレイリストに加えてみてください。
2017年のベストアルバムtop10と聴き比べて見るのも一興です。
それではまた!

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★1月27日(日)ユジク阿佐ヶ谷にて「あまねき旋律」上映後にインド北東部ナガランド州の音楽シーンを語るトークイベントを行います

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