TheLightyearsExplode

2022年01月07日

Rolling Stone Indiaが選んだ2021年のベストシングル10曲!


あけましておめでとうございます。
気がつけば2021年も終わり、2022年が始まってしまいましたが、例によって、昨年末、Rolling Stone Indiaによるインドの音楽シーンの年間ベストシングル10曲が発表されたので、今年も紹介してみたいと思います。
前回は、わたくし軽刈田が選出した年間10選をお届けしているので、外国人目線の10選と、インドの都市の若者向けカルチャー誌の10曲を聴き比べてみるのも面白いはず。


いつもながら、Rolling Stone India誌のセレクトは洋楽的な洗練を志向した楽曲が多く、インドの都市の若者文化を牽引するメディアならではのセンスが楽しめます。
それではさっそくチェックしてみましょう!



1. Vasundhara Vee “Run”


ムンバイのR&B/ソウル/ジャズシンガー。
オリジナル曲はまだこの"Run"しかリリースしていないようだが、彼女の実力を示すには、
この一曲で十分だったようだ。
イントロのアカペラの堂々たる歌いっぷりを聴けば、高い評価の理由は簡単に理解できるだろう。
こういうタイプの本格的なジャズやソウルが歌えるシンガーはこれまでインドにいなかった。
決して派手な音楽性ではなく、トレンドを追うようなタイプでも無さそうだが、これから先インド国内や海外でどのような受け入れられ方をしてゆくのだろうか。
例えばエイミー・ワインハウスみたいな「危なっかしい魅力」があれば、大きな注目を集めることもできそうだが、どちらかというと彼女は堅実なタイプのようだ。
いずれにしても、今後非常に気になる存在である。



2. Sunflower Tape Machine “Sophomore Sweetheart”

Sunflower Tape MachineはチェンナイのアーティストAryaman Singhのソロプロジェクト。
基本的には電子音楽アーティストとして活動しつつ、この曲のようにバンドを交えた形態で楽曲をリリースすることもあるようだ。
サイケデリックでレトロな質感のエレクトロニック・ポップは、こちらもまた別の意味でインドらしからぬ音楽性。
ミュージックビデオを見る限り、彼の音楽性と同様に、無国籍的な都会生活をしている人物のようだ。(ビデオの最初の方に、寿司を食べる様子も出てくる)
それにしても、近年インドのインディーミュージックシーンで80年代的な映像をやたらと目にするようになった。
80年代のインドは経済解放政策を取り入れる前で、例えば家庭用ビデオカメラなどは極めて入手しづらい時代だった。
実際は、こうした懐古的な映像で表されるような80年代はインドにはほとんど存在しなかったと言っていい。
だからこそというべきか、持ち得なかった過去への架空のノスタルジーとしての80年代ブームが来ているのかもしれない。
日本でも90年代に、60年代や70年代の洋楽的なサウンドがもてはやされたりしたことがあったが、それと同じような現象とも言えるだろうか。



3. Hanumankind  “Genghis”


ベンガルールのアンダーグラウンド・ラッパーが3位にランクイン。
これまで、日本のアニメを題材にするなど、かなりサブカル寄りなラップをリリースしていたHanumankindが化けた。
(過去のHanumankindについてはこちらから)
ソリッドなビートに、確実に言葉をビートに乗せてゆくラップ。
技巧にも音響にも走らずに、まるで詩人のようにリリックを紡いでゆくその姿勢は、インドの英語ラッパーではかなり珍しい部類に入る。
今年は同郷のSmokey the Ghostも充実した作品を数多くリリースしていた。
これまで、インドのヒップホップシーンはムンバイやデリーのヒンディー語(あるいはパンジャービー語)ラッパーが牽引してきたように思うが、ここに来てベンガルールの英語ラップシーンも燃え上がりつつあるようだ。



4. The Lightyears Explode – “Nostalgia 99”


4位はムンバイのロックバンドThe Lightyear Explode.
かつてはパンク的なアティテュードを感じさせる楽曲が多かったが、ここ最近は明確にレトロ調のダンスポップを意識した曲作りを行っている。
それが単に懐古趣味によるものなのか、ヴェイパーウェイヴのようなある種の批評性を持ったものなのかは今ひとつ分かりづらいが、いずれにしてもこうしたサウンドが今のインドで「クールなもの」として受け入れられているというのは確かなようだ。
この曲も1999年頃を懐かしむ内容の歌詞に反して、サウンドはかなり80's的。



5. Swarathma “Dus Minute Aur”


5位にようやく英語以外のインドの言語で歌う楽曲がランクイン。
Swarathmaはベンガルールのフォークロックバンド。
インドには、自国の伝統音楽と西洋のロックを融合した「フュージョン・ロック」バンドが数多くいるが、彼らがユニークなのは、いわゆる宮廷音楽的な古典音楽ではなく、より土着的な民謡をロックと融合しているところ。
70年代のイギリスのロックで例えると、クラシックの影響を受けたリッチー・ブラックモア(Deep Purple, Rainbow)や、オペラとロックの融合を試みたQueenではなく、イギリスやアイルランドの民謡を現代風に演奏したPentangleやFairport Conventionに近いと言えるかもしれない(と書いても一部のおっさんしか分からないが)。
他の古典音楽系のフュージョンロックバンド(例えばこの記事を参照)と比べると、その歌い回しは実に独特で、正直に言うと、日本人のロックリスナーの耳で聴いて、かっこいいと思えるかどうかは微妙なところだ。
この曲はオリジナル曲で、睡眠の大切さを訴える内容だという。
なんだかますます分からなくなってきたが、Rolling Stone Indiaからの評価は高く、2018年にも彼らのアルバム"Raah e Fakira"がベストアルバムの一枚に選ばれている。
なんにせよ、都会の若者向けの媒体で、欧米風の音楽だけでなく、伝統文化の要素を色濃く残した音楽がきちんと評価されているっていうのは喜ばしいことだと思う。
改めて聴くと、ポストロック的に始まってハードロック的に展開し、美しいハーモニーも入って来るアレンジがなかなかに秀逸。
ちなみに彼らがカバーする伝統音楽はインド各地におよび、ベンガルの大詩人タゴールの曲もカバーしている。



6. Jaden Maskie “Rhythm Of My Heart”


ゴアを拠点に活動するシンガーソングライターによるR&B風味の楽曲。
5位のSwarathmaとはうってかわって、いかにもRolling Stone Indiaが選びそうな曲だ。
キャッチーなメロディーとダンサブルなアレンジはいかにも現代のグローバルなポップミュージックで、ちょっとK-Popっぽくもあるけれどそう聞こえないのは、憂いを帯びた彼の声のせいだろう。
それにしても、こう言ってはなんだが、冴えない理系の大学生みたいな見た目の彼がこんな気の利いたポップスを歌うなんて、インドも変わったものだとつくづく思わされる。



7. Karshni “daddy hates second place”


Karshniはプネーのシンガーソングライター。
ピアノの伴奏で美しく歌う内容は、子どもに期待しすぎるあまり、一位以外は認めなくなってしまっている父親についてとのこと。
今のインドに、英語で歌う弾き語り系のシンガーソングライターは本当に多いが、リスナー層が厚いジャンルではないので、一部を除いてそこまで多くのリスナーを獲得しているとは言い難い状況だ。
だが、彼ら/彼女たちの多くは、商業的な成功よりもアーティストとしての表現を重視しているようで、彼女のように優れた才能も少なからず存在するので見逃せない。



8. Adrian D’souza, Neuman Pinto “Never Let it Go”


ムンバイのドラマーとシンガーソングライターのコラボレーションによる、さわやかなシティポップ風の楽曲。
名前を見る限り、どちらもクリスチャンのようだ。
D'souzaもPintoもインドのクリスチャンに多い姓で、音楽界では、やはりムンバイを拠点にセンスの良い楽曲を作っているNikhil D'souzaというシンガーもいる。
インド洋を望むマリン・ドライブあたりを運転しながら聴いたら最高の気分が味わえるだろう。



9. Albatross "Neptune Murder"


ムンバイのAlbatrossは、かなりドラマティックな構成の楽曲を特徴とするメタルバンド。 
2008年結成というから、インドではなかなか古株のバンドということになる。
プログレッシブ・メタル的な部分もあるが、過剰なテクニカルさはなく、芝居がかったクセの強いヴォーカルの印象が強い。
全体的な雰囲気は、欧米のバンドで言うとデンマーク出身のKing Diamondに似ている。
2021年にこういうサウンドを奏でるバンドも、2021年にこの曲をベスト9に選出するRolling Stone Indiaも、個人的には決して嫌いではない。



10. Krishna.K, AKR "Butterflies"


チェンナイのシンガーソングライターKrishna.KとプロデューサーのAKRのコラボレーション。 
アコースティックで軽やかなサウンドに絡むサイケデリックなシンセが印象的なドリームポップ的な曲。
Rolling Stone Indiaによると、「今なお求められている、そよ風のように心地よいオールドスクールなポップのアレンジによる現実逃避」とのこと。
“A thousand butterflies could fly us away on a chariot of gold through the mystic galaxy.”という歌い出しのフレーズがインド的(神話的)に聞こえるような気がしなくもない。



というわけで、今回はいかにもRolling Stone Indiaっぽい英語ポップスを中心に、インドのインディペンデント・シーンに特徴的な80年代テイストを感じさせる楽曲が目立つ結果となった。
Swarathma以外は、言われなければインドのアーティストだと分からない楽曲ばかりで、いわゆる洋楽ポップス的なセンスの良さが年々進化していることが一目瞭然だ。
Albatross以外は、オシャレな服屋とかカフェでかかっていても違和感なく聴けるレベルに達していると思うが、それは同時にグローバルな市場で圧倒的な差別化ができる個性の欠如ということでもあり、その殻をどこまで破れるかが、今後のインドのアーティストの課題となってくるのかもしれない。
いずれにしても、変わり続けるインドの都市部のカルチャーがリアルに伝わってくる面白い選曲であることは確かで、こうしたインドのステレオタイプから大きく外れた音楽シーンはますます拡大してゆくことになるだろう。



一昨年2020年のRolling Stone Indiaが選んだベストシングル10選はこちら




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goshimasayama18 at 21:35|PermalinkComments(0)

2021年01月12日

Rolling Stone Indiaが選んだ2020年のシングル10選!

Rolling Stone Indiaが選ぶ2020年の10選シリーズ、今回はベストシングルを紹介します!
(もとの記事はこちら)


このTop 10はこれまでのアルバムやミュージックビデオと比べて、かなりカラーがはっきりしていて、いわゆる洋楽ポップス的なものが中心に選ばれている様子。
ご存知の通り、インドのメインストリーム音楽は映画音楽なので、欧米風のキャッチーなポップスは、インドではインディーミュージックということになる。
そのあたりの音楽ジャンルの「捻れ」も面白いのだが、前置きはこれくらいにして、それではさっそく見てみよう。


1. Chirag Todi feat. Tanya Nambiar, Pushkar Srivatsal  “Desire”

インド西部グジャラート州アーメダーバード出身のギタリスト/ヴォーカリストのChirag Todiは、ジャズロックバンドHeat Sinkのメンバーとしても活動している。
この"Desire"はスムースなファンクネスが心地よい一曲で、例によってこれが2020年のインドで最良のシングル曲かと言われると首を傾げたくなる部分もあるが、きっとこのさりげない感じがセンスの良さと評されて選出されたのだろう。
それにしても、aswekeepsearchingといいShashwat Bulusuといい、アーメダーバードはけっこういいミュージシャンを輩出する街だ。
いちどしっかりこの街のシーンを掘ってみないといけない。
共演のPushkar Srivatsalはムンバイの男女ポップデュオSecond Sightの一員、Tanya Nambiarはデリーの女性ヴォーカリストで、ソロでも客演でも活躍している。


2. Tejas  “The Bombay Doors”

コロナウイルスによるロックダウンをという逆境を活かして製作された「オンライン・ミュージカル」"Conference Call: The Musicall!"も記憶に新しいムンバイのシンガーソングライター、Tejas Menonの"The Bombay Doors"はファンキーなシンセポップ。
1位のChirag Todiもそうだが、この手のファンキーなポップスを手掛けるインディーアーティストはインドにも結構いて、Justin Bieberあたりの影響(有名過ぎてだれも名前を挙げないが)が結構あるんじゃないかと思う。


3. Dhruv Visvanath  “Dear Madeline”

ニューデリーのシンガーソングライターDhruv Visvanathは、パーカッシブなフィンガースタイルギターでも知られるミュージシャン。
アメリカのAcoustic Guitar Magazineで30歳以下の偉大なギタリスト30名に選ばれたこともあるという。
2018年には"The Lost Cause"がRolling Stone Indiaによるベストアルバム10選にも選出されており、国内外で高く評価されている。


4. Mali  “Age of Limbo”

ムンバイのマラヤーリー(ケーララ)系シンガーソングライターMaliの"The Age of Limbo"は、コロナウイルスによるロックダウンの真っ只中に発表された作品。
タイトルの'limbo'の元々の意味は、キリスト教の「辺獄」。
洗礼を受けずに死んだ人が死後にゆく場所という意味だが、そこから転じて忘却や無視された状態、あるいは宙ぶらりんの不確定な状態を表している。 
この曲自体はコロナウイルス流行の前に作られたもので、本来は紛争をテーマにした曲だそうだが、期せずして歌詞の内容が現在の状況と一致したことから、このようなミュージックビデオを製作することにしたという。
ちなみにもしロックダウンが起きなければ、Maliは別の楽曲のミュージックビデオを日本で撮影する予定だったとのこと。
状況が落ち着いたら、ぜひ日本にも来て欲しいところだ。


5. When Chai Met Toast  “When We Feel Young”

ケーララ州のフォークロックバンドWhen Chai Met Toastの"When We Feel Young"は、Rolling Stone Indiaによる2020年のベストミュージックビデオ(こちら)の第8位にも選ばれていた楽曲。
私の知る限り、ここ数年でベストシングルとベストミュージックビデオの両方に選出されていた楽曲は初めてのはず。
彼らはいつも質の高い楽曲を届けてくれる、安心して聴くことができるバンドのひとつ。


6. Nishu  “Pardo”

言わずと知れたコルカタのドリームポップデュオParekh & Singhの一人、Nischay Parekhのソロプロジェクト。
Parekh & Singhは英語のアコースティック・ポップだが、ソロではメロディーセンスはそのままに、ヒンディー語のシンセポップを聴かせてくれている。


7. Kalika  “Made Up”

KalikaはプネーのシンガーソングライターPrannay Sastryのソロプロジェクト。
ベストミュージックビデオ部門の1位にも選ばれた女性ソウルシンガーのSanjeeta Bhattacharyaと、マルチプレイヤーJay Kshirsagarをヴォーカルに迎えた"Made Up"は、南インドの古典音楽カルナーティックを思わせるギターリフが印象的な曲。


8. Seedhe Maut x Karan Kanchan  “Dum Pishaach”

インドNo.1アンダーグラウンド・ヒップホップレーベルAzadi Records所属のデリーの二人組Seedhe MautがムンバイのビートメイカーKaran Kanchanと組んだ"Dum Pistaach"は、ヘヴィロックっぽいギターを大胆に取り入れた意欲作。
Karan Kanchanはジャパニーズカルチャー好きが高じて、日本にも存在しない「和風トラップミュージック」のJ-Trapを生み出したことでも知られているが、昨今ではヒップホップシーンでも引っ張りだこの人気となっている。
インドとアメコミと日本風の要素が融合したようなビジュアルイメージも面白い。


9. The Lightyears Explode  “Satire”

ムンバイのロックバンドThe Light Years Explodeの"Satire"は、エレクトロファンクっぽい要素を取り入れたサウンド。
タイトルは「風刺」という意味だが、風刺の効いた社会的なリリックの曲も多い彼らはパンクバンドと見なされることもあるようで、かつてインタビューしたインド北東部のデスメタルバンドも彼らのことを優れたパンクロックバンドと評していた。


10. Runt – “Last Breath”

RuntはムンバイのシンガーソングライターSiddharth Basrurによるプロジェクトらしい。
彼はこれまでレゲエっぽい楽曲などをリリースしているが、この曲はインストゥルメンタルのヘヴィロック。
これといって特筆すべきところのない曲で、個人的にはトップ10に選ぶべき楽曲とは思わないが、まあそこは選者の好みなのだろう。


全体的にヒップホップ色が薄く、ロック/ポップスが強いのは媒体の性質によるのかもしれない。
英語詞の曲が目立つ(10曲中7曲)のもあいかわらずで、英語以外ではヒンディー語の楽曲しか選ばれていないのも、Rolling Stone Indiaの拠点がムンバイであることと無関係ではないだろう(ムンバイがあるマハーラーシュトラ州はマラーティー語圏だが、ヒンディー語で制作されるエンターテインメントの中心地でもある)。
全体的に、「ソツなく洋楽っぽい」感じの曲が選ばれがちなのは、日本で言う渋谷系っぽい価値観だと見ることもできそうだ。

いずれにしても、今年もなかなか興味深いラインナップではあった。
それでは今回はこのへんで!



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goshimasayama18 at 20:39|PermalinkComments(0)

2020年02月01日

ムンバイのハードコアバンドRiot Peddlersとインドのパンクロックシーン!

ムンバイのハードコアパンクバンドRiot Peddlersが、デビュー作以来7年ぶりとなるニューEPをリリースした。
今回はその話題を書こうと思っていたのだが、200本を超える記事を書いてきたこのブログで、実はパンクロックについて触れるのはこれが初めて!
というわけで、今回はインドのパンクロックシーンについてもあわせて紹介してみます。


いきなり結論から書くと、21世紀に入ってからインディーミュージックシーンが発展したインドでは、パンクロックの存在感は決して大きくない。
というか、外から眺める限り、その存在はかなり小さいように見える。

これにはいくつかの理由が考えられる。
まず1つめは、かつてのアメリカやイギリスでパンクバンドをやっていたような、社会に不満を持つ若者たちの表現手段が、パンクロックからヒップホップに完全に移行してしまったということ。これはインドに限らず世界的な傾向だろう。
それに、バンドをやるためには、楽器やリハーサルスタジオにも安くないお金がかかる。
とくにインドの場合、経済的に恵まれない層の若者たちにとって、エレキギターやドラムセットを買うなんて夢のまた夢。
体一つでできるラップと違い、そもそもロックはそれなりに裕福でないとできないジャンルなのだ。
インドでは、ヒップホップにおいてもレコードとターンテーブルを使ったDJはほとんど普及しておらず、ヒューマンビートボックスやインターネットからダウンロードしたビートを使うのが主流である。
インドではレコード(音楽ソフトとしてはカセットテープが主流でほとんど流通しなかった)もターンテーブルも、やはりそれなりに高価なものだからだ。
洋の東西を問わず、「衝動的に、かつ手軽にできる音楽」であるということが、怒れる若者たちの意見を代弁する音楽となるための絶対条件なのだ。

パンクロックのアティテュードを簡単に言うならば、「反骨精神」ということになるだろうが、パンクロックのサウンド面での特徴といえば、それはもちろん「激しさ」でだ。
ところが、インドでは、過激で暴力的な音楽のジャンルとしては、パンクよりもヘヴィメタルのほうが圧倒的に人気がある。
階級社会のインドでは、人々は自分を「より良く見せよう」という意識が高い。
そのせいかどうかは分からないが、あえて低俗にふるまい初期衝動の発散に終始するパンクロックよりも、構築的で技巧的なヘヴィメタルを志す若者たちが多いのだ。
インドにはとくにデスメタルやメタルコアなどのエクストリーム系のバンドが多く、それに対してハードコア・パンクは非常に少ない(これも今日ではインドに限らない世界的な傾向と言えるかもしれないが…)
もうひとつインドに関して言えば、パンクロックが流行した時代にインディーミュージックが盛んでなく、パンクシーンが形成されなかったということも、パンクの存在感が小さいそもそもの理由として挙げられるだろう。

そんなわけで、インドではパンクロックは、決して盛んなわけではないのだが、それでも各地で草の根的な活動を繰り広げているバンドたちがいる。
まずは、冒頭でも触れたムンバイのスリーピースバンドRiot Pedllers.
TheRiotPeddlers
(画像は彼らのFacebookから拝借)
モヒカン頭のインド人は初めて見たという人が多いのではないだろうか。
彼らのファーストアルバム"Sarkarsm"から、"Bollywood Song"をさっそく聴いていただこう。


いかにもインドっぽい旋律のヘタクソな歌から始まるが、これはインドの娯楽の絶対的メインストリームであるボリウッドをおちょくっているのである。
その後の歌詞を冒頭の4行だけ載せると、こんな感じである。

I hate this song, it makes me sick
Bollywood can suck my dick
I have a big frown on my face,
Need to get the fuck out of this place

あえて訳すまでもないと思うが、ここにはボリウッドに対する痛烈な嫌悪感が表されている。
インドの娯楽映画は日本にもファンが多いので少し言いづらいのだが(私も別に嫌いではない)、あんなものはクソだと思う人が一定の割合でいるというのは、主流文化の避けられない宿命だろう。こういうカウンターカルチャーが無かったら、かえって不健全というものだ。
アルバムタイトルの"Sarkarsm"は、インドの諸言語で「権力者」 を意味する'sarkar'と、英語で「皮肉」を意味する'sarcasm'をかけ合わせた造語で、「権力やメインストリームに対する皮肉」といった意味と思われる。
(ちなみに"Sarkar"というタイトルの映画はヒンディー語でもタミル語でもあって、ヒンディー語版は名優アミターブ・バッチャン主演のマフィア映画のシリーズ、タミル語版はヴィジャイ主演の選挙をテーマにした作品)

続いては、新作"Strength in Dumbers"(今度は「数の力」という意味の'strength in numbers'をもじっていて「アホどもの力」とでも訳せるだろうか)から"Muslim Dudes On Bikes".

ヒンドゥー・ナショナリズムの台頭にともなって肩身の狭い思いをしているムスリムへの、少々手荒い応援歌である(ちなみにバンドのメンバーは3人ともヒンドゥーのようだ)。
このEPは5曲入りでたったの11分というパンクロックらしい潔い内容。
彼らのサウンドは、これといった特徴のないハードコアパンクだが、主流文化に毒づき、マイノリティーに共感する彼らのアティテュードは、間違いなくパンクロックのものである。

続いて紹介するバンドは、プネーのFalse Flag.
これは2018年にリリースされたネパールのパンクバンドNeck Deep in FilthとのスプリットEPで、最初の4曲がFalse Flagの楽曲。

彼らについて紹介した記事によると、False Flagはマルキシズム的な思想に基づいた、反女性差別、反カースト差別的な主張を持ったバンドとのことである。
以前、ジャマイカン・ミュージックを武器に戦う活動家のDelhi Sultanateを紹介したときにも思ったことだが、政治的な主張をより多くの人に伝えたいのであれば、もっとインドの大衆に受け入れられやすいジャンルだってあるはずだ。
それでもこうしたインドでは全くポピュラーではないジャンルを選んでいる理由は、おそらくだが、彼らにとっては、その思想とパンクロックのサウンドは不可分のものであって、どちらか片方では成立し得ないものだからなのだろう。
政治性が極端に排除された日本の音楽シーンのことを考えると、ちょっと背筋が伸びる思いである。
まあ、パンクロックを聴いて背筋を伸ばすのもなんだけど。

こちらは、昨年デビューしたムンバイの5人組Pacifist.
スマホで撮ったみたいな縦長の画像に味わいを感じる。
ここまで紹介したどのバンドもまともなミュージックビデオを作成していないことからも、インドのパンクシーンがかなり草の根的な状況であることが分かるだろう。

彼らはAt The Drive InやHelmetなどの影響を受けているとのことだが、ヴォーカリストのSidharth Raveendranはもともとはデスメタルバンドのメンバーだったそうだ。
こうした経歴や、この映像の観客の様子からも、インドのハードコアパンクがメタルシーンとかなり接近しているということが見て取れる。

続いては、同じくムンバイから、Green Dayあたりが大好きそうなバンド、Punk On Toastの"My Friends"を紹介する。
 
ギターをかかえて両足を揃えてジャンプ!
なんだか青春っぽい。
Hi-Standardあたりを思い出すアラフォーの人も多いんじゃないだろうか。
この曲はかなりポップなメロディックパンクだが、彼らの他の曲はもっとハードコアっぽかったりもする。
インドのパンクロックの中心地を挙げるとしたら、やはり最大の都市ムンバイということになるようで、ムンバイには、他にもマスコアからの影響を受けたDeath By FungiやGreyfadeといったバンドが存在している。

インド東部のウエスト・ベンガル州コルカタのThe Lightyears Explodeは、よりポップな音楽性のバンド。
政治的というよりは内政的なテーマを歌っているようだ。


同じくコルカタにはRoad2Renaissanceというバンドもいる。
曲は、その名も"Marijuana Song".
DoorsやPink Floydらの影響も公言している彼らをパンクバンドとして紹介いいものかどうか迷うが、パンク的な要素のあるサウンドではある。

あくまで印象としてだが、コルカタのバンドからはニューヨークのバンドのような文学的洗練を感じることが多い。
タゴールやサタジット・レイで知られる文化的な土地であることと、なにか関係があるのだろうか。


歴史を遡って、インドで最初のパンクバンドについて調べてみると、どうやら2002年にムンバイで結成されたTripwireというバンドに行き着くようだ。

Ramones, Sex Pistols, Black Flag, Bad  Religionといったクラシックなバンドの影響を受けているようだが、個人的には彼らのサウンドからはあまりパンクを感じない。
労働者階級出身であることがパンクスの絶対条件だとは思わないが、彼らからは、隠しきれない「育ちの良さ」みたいなものが感じられてしまって、パンク的な破壊衝動をあまり感じられないというのが正直なところである。

2004年にデリーで結成されたSuperfuzzというバンドもインドにおける初期パンクロックにカテゴライズされることがあるようだ。

この曲に関しては、ニルヴァーナ風のサウンドに、リアム・ギャラガー風のヴォーカルといった感じだが、全ての曲がこのスタイルというわけでもなく、ロックバンドとしての作曲/パフォーマンス能力はこの時代のインドにしてはなかなか高いものを持っているようである。
その後、彼らはIndigo Childrenと改名し、90年代のUKのバンドを思わせるようなポップなロックを演奏している。

と、ここまで読んで(聴いて)いただいて分かる通り、インドのパンクバンドは、サウンド的には亜流の域を出ないものが多く、強いオリジナリティやカリスマ的な人気バンドが存在しているわけではない。
それでも、破壊衝動や社会への怒りと不満をパンクロックに乗せて表現している人たちがインドにもいるということに、まず何よりもうれしさを感じる。
カウンターカルチャーとしての音楽の本流がヒップホップに移ってしまったとしても、やはりどうしてもパンクロックでしか表現できないフィーリングというものがあるのだ。

かつて、ブルーハーツは『パンクロック』という曲で、極めて率直にこう歌った。
僕 パンクロックが好きだ 
中途ハンパな気持ちじゃなくて
本当に心から好きなんだ 
インドにも同じように感じている若者たちがいるのだと思うと、かつてこのジャンルの音楽にずいぶん力をもらった一人として、単純にうれしいのである。

インドのパンクロックシーンはまだまだ発展途上だし、その規模から考えると、これから爆発的に成長するとも思えないが、インドの都市の片隅で、ヘタクソなパンクバンドに合わせてモッシュしている若者たちがいると思うと、またいっそうインドという国が身近に感じられるというものである。

がんばれ!インドのパンクバンド!


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