TejasMenon
2020年06月06日
ロックダウン中に発表されたインドの楽曲(その3) 驚異の「オンライン会議ミュージカル」ほか
先日、「ロックダウン中に発表されたインドの楽曲(その1)」と「その2」という記事を書いたが、その後もいろんなミュージシャンが、この未曾有の状況に音楽を通してメッセージを発信したり、今だからこそできる表現に挑戦したりしている。
今回は、さらなるロックダウンソングス(そんな言葉はないけど)を紹介します!
(面白いものを見つけたら、今後も随時追加してゆくつもり)
まず紹介したいのは、政治的・社会的なトピックを取り上げてきたムンバイのラップグループSwadesiによる"Mahamaari".
パンデミックへの対応に失敗したモディ政権への批判と、それでも政権に従わざるを得ない一般大衆についてラップしたものだという。
MC Mawaliのヴァースには「資本主義こそ本当のパンデミック」というリリックが含まれているようだ。
これまでも積極的に伝統音楽の要素を導入してきた彼ららしく、このトラックでも非常にインド的なメロディーのサビが印象的。
ムンバイのシンガーソングライターTejas Menonは、仲間のミュージシャンたちとロックダウン中ならではのオンライン会議をテーマにした「ロック・オペラ」を発表した。
これはすごいアイデア!
オンライン会議アプリを利用したライブや演劇は聞いたことがあるが、ミュージカルというのは世界的に見ても極めて珍しいんじゃないだろうか。
アーティスト活動をしながら在宅でオフィスワークをしている登場人物たちが、会議中に突然心のうちを発散させるという内容は、定職につきながら音楽活動に励むミュージシャンが多いインドのインディーシーンならではのもの。
この状況ならではのトピックを、若干の批評性をともなうエンターテインメントに昇華させるセンスには唸らされる。
恋人役として出演している美しい女性シンガーは、「その1」でも紹介したMaliだ。
アメリカのペンシルバニア大学出身のインド系アカペラグループ、Penn MasalaはJohn Mayerの"Waiting on the World to Change"と映画『きっと、うまくいく』("3 Idiots")の挿入歌"Give Me Some Sunshine"のカバー曲をオンライン上のコラボレーションで披露。
しばらく見なかったうちになんかメンバーが増えているような気がする…。
(追記:詳しい方に伺ったところ、Penn Masalaはペンシルバニア大学に在籍している学生たちで結成されているため、卒業や入学にともなって、メンバーが脱退・加入する仕組みになっているとのこと。歌の上手い南アジア系の人って、たくさんいるんだなあ)
以前このブログでも取り上げたグジャラート州アーメダーバード出身のポストロックバンドAswekeepsearchingは、アンビエントアルバム"Sleep"を発表。
以前の記事で紹介したアルバム"Zia"に続く"Rooh"がロック色の強い作品だったが、今回はうって変わって静謐な音像の作品となっている。
制作自体はロックダウン以前に行われていたそうだが、家の中で穏やかに過ごすのにぴったりのアルバムとなっている。
音色ひとつひとつの美しさや存在感はあいかわらず素晴らしく、夜ランニングしながらイヤホンで聴いていたら、まったく激しさのない音楽にもかかわらず脳内麻薬が分泌されまくった。
ムンバイのヒップホップシーンの兄貴的存在であるDivineのレーベル'Gully Gang'からは、コロナウイルスの蔓延が報じられたインド最大のスラム、ダラヴィ出身のラッパーたち(MC Altaf, 7Bantaiz, Dopeadelicz)による"Stay Home Stay Safe"がリリースされた。
このタイトルは、奇しくも「その1」で紹介したやはりムンバイのベテランラッパーAceによる楽曲と同じものだが、いずれも同胞たちに向けて率直にメッセージを届けたいという気持ちがそのまま現れた結果なのだろう。
アクチュアルな社会問題に対して、即座に音楽を通したメッセージを発表するインドのラッパーたちの姿勢からは、学ぶべきところが多いように思う。
タミル系が多いダラヴィの住民に向けたメッセージだからか、最後のヴァースをラップするDopeadeliczのStony Psykoはタミル語でラップしており、ムンバイらしいマルチリンガル・ラップとなっている。
ムンバイのヒップホップシーンからもう1曲。
昨年リリースしたファーストアルバム"O"が高い評価を受けたムンバイのラッパーTienasは、早くもセカンドアルバムの"Season Pass"を発表。
彼が「ディストピア的悪夢」と呼ぶ社会的かつ内省的なリリックは、コロナウイルスによるロックダウン下の状況にふさわしい内容のものだ。
この"Fubu"は、歪んだトラックに、オールドスクールっぽいラップが乗るTienasの新しいスタイルを示したもの。
トラックはGhzi Purなる人物によるもので、リリックには、かつてAzadi Recordsに所属していた名トラックメーカーSez on the Beatへの訣別とも取れる'I made it without Sez Beat, Bitch'というラインも含まれている。
直後に'I don't do beef'(争うつもりはない)というリリックが来るが、その真意はいかに。
今作も非常に聞き応えがあり、インドの音楽情報サイトWild Cityでは「Kendrick LamarやVince Staples, Nujabesが好きなら、間違いなく気にいる作品」と評されている。
ムンバイのエレクトロニック系トラックメーカーMalfnktionは、地元民に捧げる曲として"Rani"を発表。
いかにもスマホで取り急ぎ撮影したような縦長画面の動画にDIY感覚を感じる。
世界的にも厳しい状況が続きそうですが、インドの音楽シーンからはまだまだこの時期ならではの面白い作品が出てきそうな予感。
引き続き、注目作を紹介してゆきたいと思います!
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goshimasayama18 at 12:00|Permalink│Comments(0)