Systemhouse33
2019年08月04日
世界に進出するインドのメタルバンド!
前回の記事で、ケーララ州のスラッシュメタルバンドAmorphiaの日本ツアーの話題をお届けした。
7月5日付の'Rolling Stone India'電子版の記事によると、今年(2019年)はインドのメタルバンドが今までになく国際的に大活躍している年だそうで、9月までに9つのバンドの海外ツアーが行われるという。
2月のAmorphiaの日本ツアーに続いて、3〜4月には、ムンバイのメタルバンドZygnemaが東欧からフランスまでヨーロッパ9か国、16都市を巡るツアーを敢行した。
Zygnemaは2006年に結成されたスラッシュ/グルーヴメタルバンドで、これまでにもドイツ(メタル系の巨大フェスティバルWacken Open Airへの出演)やノルウェー、タイ、ドバイなどへのツアー経験がある。
2013年のWackenでのライブ映像
セパルトゥラやパンテラといった大御所バンドを思わせるサウンドで、メタルの本場のオーディエンスを盛り上げている。
新曲の"I Am Nothing"は女性への性暴力を告発した内容。
社会派バンドとしての側面もある。
ところでこのZygnemaというバンド名、重々しくていかにもメタルバンドらしい響きだけど、どんな意味だろうと思って調べてみたら、「ホシミドロ」っていう藻みたいな植物の名前だった。
藻っていうのはどうなんだろうね、メタルのバンド名として。
ムンバイのスラッシュメタルバンド、Systemhouse 33は、イスラエルのバンドOrphaned Landと西ヨーロッパ7か国20都市を4月にツアーした。
彼らもまた2003年に結成された老舗バンドで、ボーカリストのSamron Jodeは、以前このブログでも紹介したシタールをフィーチャーしたエレクトロニックメタルバンドParatraのギタリストとしても昨年秋にヨーロッパツアーをしたばかり。
Systemhouse 33はピュアなメタルバンドだが、Paratraではかなりダンスミュージック寄りの全く異なるアプローチを聴かせている。
(参考記事:「混ぜるな危険!(ヘヴィーメタルとインド古典音楽を) インドで生まれた新ジャンル、シタール・メタルとは一体何なのか」)
昨年来日した黒ターバンのベーシストGurdip Singh Narangが率いるムンバイのブルータルデスメタルバンドGutslitは、アメリカのベテランバンドDying Fetusのサポート公演を含むドイツや東欧を中心としたツアーを7月に行ったばかり。
王道のデスメタルサウンドを演奏しつつも、見た目に分かりやすいインド人の要素もある(メタルだけにターバンの色は必ず黒!)彼らは、ビジュアル戦略にも非常に長けたバンドだ。
彼らは典型的なメタルバンドの枠に収まらないかなりユニークなセンスを持っていて、例えば彼らの新しいビジュアルイメージは、ピンク色を基調にしたメルヘンチックなテイストの、ツノがチェーンソーになったかわいらしくも残酷なユニコーンのイラストだ。

デザインしたのはドラマーのAaron Pinto.
かつてこのバンドのスタイリッシュなカートゥーン調のミュージックビデオを手がけたこともある、稀有なセンスの持ち主である。
バンガロールで1998年に結成されたベテランバンドKryptosは、7月にいくつかの野外フェスティバルへの出演を含めたドイツツアーを実施。
彼らも2013年と2017年にWacken Open Airに出演したことがある。
彼らのサウンドは、1980年代を彷彿させるのオールドスクールなメタルサウンドに、デス/スラッシュメタル的なヴォーカルが乗ったもの。
こちらは今年発売のアルバム。
意図的にB級感を狙ったこのアルバムジャケットは彼らのサウンドにぴったりで、彼らもなかなかのビジュアルセンスを持っているようだ。
南インドの伝統音楽とメタルを融合したプログレッシブ・カルナーティック・フュージョンを掲げるProject Mishramは、7月にイギリス公演を行ったばかり。
彼らはツインギターにフルートとバイオリン奏者を含むバンガロール出身の7人組バンドだ。
ラップメタル的に始まる楽曲だが、古典声楽風のボーカルが入ってくると空気感が一変して、一気にインドの大地に連れて行かれてしまう。
変拍子や複雑なキメの多いインド古典音楽は、プログレッシブ・メタルとの親和性が高く、彼らの他にもParadigm Shift, Agam, Pineapple Expressらがフュージョン・メタルの世界で活躍している。
ボリウッドをもじったバンド名のBloodywoodsはWacken Open Airでの公演を含むツアーを7月〜8月にかけて実施。
ドイツ、イギリス、フランス、ロシアを巡るこのツアータイトルは、その名もRaj Against The Machine.
言うまでもなく、これは90年代から活躍するアメリカの政治的ラップメタルバンドRage Against The Machineのパロディーだ。
これはインドのフォーク(民謡)メタルを標榜する彼らが、春の訪れとともに色粉をぶっかけあうお祭り「ホーリー」をテーマにした楽曲。
当初はインドの要素を取り入れたパロディ/コミックバンド的なイメージで活動していたが、思いのほか本格的なサウンドが評価されてしまい(日本でもすでにいくつかのブログやメディアで紹介されている)、最近ではメンタルヘルスをテーマにしたシリアスな楽曲も発表している。
インド南東部アーンドラ・プラデーシュ州の港町Visakhapatnam出身の正統派パワーメタルバンドAgainst Evilは、ドイツのDoc Gator Recordsと契約し、8月にドイツ、オーストリア、ベルギー、スイスを巡るツアーを実施する。
このツアーは、おもにドイツのメタルファンによるクラウドファンディングによって実現することになったもので、国境を超えたメタルコミュニティーのサポート力を感じさせられる。
お隣テランガナ州の州都ハイデラバードのデスメタルバンドGodlessは9月にドイツのバンドDivideとともにヨーロッパ8カ国を回るツアーを実施。
彼らも昨年、Wacken Open Airへの出演を果たしている。
と、2019年はこれだけのヘヴィーメタルバンドが海外に飛躍する年になった。
記事にも書いたように、インドのメタルバンドの海外進出は急に始まったものではなく、これまでもフェスティバルへの出演などを含めたヨーロッパツアーはいくつものバンドが行なっている。
2008年にはすでにRolling Stone India紙でインドのメタルシーンの興隆についての特集記事が掲載されており、インドでのヘヴィーメタルブームは一過性のものではなく、完全に定着していると言えるだろう。
世界的には「知られざるメタル大国」だったインドのバンドの実力に、徐々に世界中が気づいて来ているのだ。
今回同誌に紹介されていた以外にも、これまでに海外ツアーを実施したバンドは複数おり、ムンバイのシンフォニック・デスメタルバンド、Demonic Resurrectionは、2014年にWacken, 2018年にイギリスのBloodstock Festivalに出演しており、今年も8月から9月にかけてイギリスツアーを行うなど積極的に海外で活動している。
世界最大級のメタル系フェスティバルであるドイツのWacken Open Airに出演したインドのバンドは多く、バンガロールのEc{c}entric Pendulumや北東部メガラヤ州のPlague Throat(ともにデスメタル)もそれぞれ2011年と2014年に同フェスへの参加を果たしている。
また、インド系アメリカ人を含むSkyharborは、昨年、Babymetalのサポートに起用され、アメリカをともにツアーした。
フェスティバルのヘッドライナーを務めるような大物バンドはまだインドから出て来ていないが、どのバンドも演奏能力が高く、各ジャンルの特徴を余すところなく表現できている。
インドのメタルバンドのポテンシャルは想像以上に高いということがお分かりいただけるだろう
以前、映画『ガリーボーイ』をきっかけに、ストリートのラッパーたちがメジャーシーンでも注目されるようになり、インドのヒップホップシーンが大いに活性化してきていることを紹介した。
これまで夢や希望が持てなかったスラムに暮らす若者たちが、ヒップホップを通して名を挙げ、スターになることすらできる時代がやってきたのだ。
前回も書いたように、ヘヴィーメタルはヒップホップに比べて、言語よりもサウンドが重視されるため、優れた楽曲と演奏能力さえあれば、インド国内のみならず海外での評価もされやすいジャンルだ。
スラム出身でも、ラッパーとして評価されればインドのスターになれるように、ヘヴィーメタルバンドとして評価されれば、国籍に関係なく世界をツアーできる時代がやってきた。
新たにバンドを結成するインドの若者たちにとっても、これは嬉しいニュースだろう。
インドのヘヴィーメタルの勢いは、まだまだ続きそうだ。
凡平自選の2018年度のおすすめ記事はこちらからどうぞ!
ジャンル別記事一覧!
7月5日付の'Rolling Stone India'電子版の記事によると、今年(2019年)はインドのメタルバンドが今までになく国際的に大活躍している年だそうで、9月までに9つのバンドの海外ツアーが行われるという。
2月のAmorphiaの日本ツアーに続いて、3〜4月には、ムンバイのメタルバンドZygnemaが東欧からフランスまでヨーロッパ9か国、16都市を巡るツアーを敢行した。
Zygnemaは2006年に結成されたスラッシュ/グルーヴメタルバンドで、これまでにもドイツ(メタル系の巨大フェスティバルWacken Open Airへの出演)やノルウェー、タイ、ドバイなどへのツアー経験がある。
2013年のWackenでのライブ映像
セパルトゥラやパンテラといった大御所バンドを思わせるサウンドで、メタルの本場のオーディエンスを盛り上げている。
新曲の"I Am Nothing"は女性への性暴力を告発した内容。
社会派バンドとしての側面もある。
ところでこのZygnemaというバンド名、重々しくていかにもメタルバンドらしい響きだけど、どんな意味だろうと思って調べてみたら、「ホシミドロ」っていう藻みたいな植物の名前だった。
藻っていうのはどうなんだろうね、メタルのバンド名として。
ムンバイのスラッシュメタルバンド、Systemhouse 33は、イスラエルのバンドOrphaned Landと西ヨーロッパ7か国20都市を4月にツアーした。
彼らもまた2003年に結成された老舗バンドで、ボーカリストのSamron Jodeは、以前このブログでも紹介したシタールをフィーチャーしたエレクトロニックメタルバンドParatraのギタリストとしても昨年秋にヨーロッパツアーをしたばかり。
Systemhouse 33はピュアなメタルバンドだが、Paratraではかなりダンスミュージック寄りの全く異なるアプローチを聴かせている。
(参考記事:「混ぜるな危険!(ヘヴィーメタルとインド古典音楽を) インドで生まれた新ジャンル、シタール・メタルとは一体何なのか」)
昨年来日した黒ターバンのベーシストGurdip Singh Narangが率いるムンバイのブルータルデスメタルバンドGutslitは、アメリカのベテランバンドDying Fetusのサポート公演を含むドイツや東欧を中心としたツアーを7月に行ったばかり。
王道のデスメタルサウンドを演奏しつつも、見た目に分かりやすいインド人の要素もある(メタルだけにターバンの色は必ず黒!)彼らは、ビジュアル戦略にも非常に長けたバンドだ。
彼らは典型的なメタルバンドの枠に収まらないかなりユニークなセンスを持っていて、例えば彼らの新しいビジュアルイメージは、ピンク色を基調にしたメルヘンチックなテイストの、ツノがチェーンソーになったかわいらしくも残酷なユニコーンのイラストだ。

デザインしたのはドラマーのAaron Pinto.
かつてこのバンドのスタイリッシュなカートゥーン調のミュージックビデオを手がけたこともある、稀有なセンスの持ち主である。
バンガロールで1998年に結成されたベテランバンドKryptosは、7月にいくつかの野外フェスティバルへの出演を含めたドイツツアーを実施。
彼らも2013年と2017年にWacken Open Airに出演したことがある。
彼らのサウンドは、1980年代を彷彿させるのオールドスクールなメタルサウンドに、デス/スラッシュメタル的なヴォーカルが乗ったもの。
こちらは今年発売のアルバム。
意図的にB級感を狙ったこのアルバムジャケットは彼らのサウンドにぴったりで、彼らもなかなかのビジュアルセンスを持っているようだ。
南インドの伝統音楽とメタルを融合したプログレッシブ・カルナーティック・フュージョンを掲げるProject Mishramは、7月にイギリス公演を行ったばかり。
彼らはツインギターにフルートとバイオリン奏者を含むバンガロール出身の7人組バンドだ。
ラップメタル的に始まる楽曲だが、古典声楽風のボーカルが入ってくると空気感が一変して、一気にインドの大地に連れて行かれてしまう。
変拍子や複雑なキメの多いインド古典音楽は、プログレッシブ・メタルとの親和性が高く、彼らの他にもParadigm Shift, Agam, Pineapple Expressらがフュージョン・メタルの世界で活躍している。
ボリウッドをもじったバンド名のBloodywoodsはWacken Open Airでの公演を含むツアーを7月〜8月にかけて実施。
ドイツ、イギリス、フランス、ロシアを巡るこのツアータイトルは、その名もRaj Against The Machine.
言うまでもなく、これは90年代から活躍するアメリカの政治的ラップメタルバンドRage Against The Machineのパロディーだ。
これはインドのフォーク(民謡)メタルを標榜する彼らが、春の訪れとともに色粉をぶっかけあうお祭り「ホーリー」をテーマにした楽曲。
当初はインドの要素を取り入れたパロディ/コミックバンド的なイメージで活動していたが、思いのほか本格的なサウンドが評価されてしまい(日本でもすでにいくつかのブログやメディアで紹介されている)、最近ではメンタルヘルスをテーマにしたシリアスな楽曲も発表している。
インド南東部アーンドラ・プラデーシュ州の港町Visakhapatnam出身の正統派パワーメタルバンドAgainst Evilは、ドイツのDoc Gator Recordsと契約し、8月にドイツ、オーストリア、ベルギー、スイスを巡るツアーを実施する。
このツアーは、おもにドイツのメタルファンによるクラウドファンディングによって実現することになったもので、国境を超えたメタルコミュニティーのサポート力を感じさせられる。
お隣テランガナ州の州都ハイデラバードのデスメタルバンドGodlessは9月にドイツのバンドDivideとともにヨーロッパ8カ国を回るツアーを実施。
彼らも昨年、Wacken Open Airへの出演を果たしている。
と、2019年はこれだけのヘヴィーメタルバンドが海外に飛躍する年になった。
記事にも書いたように、インドのメタルバンドの海外進出は急に始まったものではなく、これまでもフェスティバルへの出演などを含めたヨーロッパツアーはいくつものバンドが行なっている。
2008年にはすでにRolling Stone India紙でインドのメタルシーンの興隆についての特集記事が掲載されており、インドでのヘヴィーメタルブームは一過性のものではなく、完全に定着していると言えるだろう。
世界的には「知られざるメタル大国」だったインドのバンドの実力に、徐々に世界中が気づいて来ているのだ。
今回同誌に紹介されていた以外にも、これまでに海外ツアーを実施したバンドは複数おり、ムンバイのシンフォニック・デスメタルバンド、Demonic Resurrectionは、2014年にWacken, 2018年にイギリスのBloodstock Festivalに出演しており、今年も8月から9月にかけてイギリスツアーを行うなど積極的に海外で活動している。
世界最大級のメタル系フェスティバルであるドイツのWacken Open Airに出演したインドのバンドは多く、バンガロールのEc{c}entric Pendulumや北東部メガラヤ州のPlague Throat(ともにデスメタル)もそれぞれ2011年と2014年に同フェスへの参加を果たしている。
また、インド系アメリカ人を含むSkyharborは、昨年、Babymetalのサポートに起用され、アメリカをともにツアーした。
フェスティバルのヘッドライナーを務めるような大物バンドはまだインドから出て来ていないが、どのバンドも演奏能力が高く、各ジャンルの特徴を余すところなく表現できている。
インドのメタルバンドのポテンシャルは想像以上に高いということがお分かりいただけるだろう
以前、映画『ガリーボーイ』をきっかけに、ストリートのラッパーたちがメジャーシーンでも注目されるようになり、インドのヒップホップシーンが大いに活性化してきていることを紹介した。
これまで夢や希望が持てなかったスラムに暮らす若者たちが、ヒップホップを通して名を挙げ、スターになることすらできる時代がやってきたのだ。
前回も書いたように、ヘヴィーメタルはヒップホップに比べて、言語よりもサウンドが重視されるため、優れた楽曲と演奏能力さえあれば、インド国内のみならず海外での評価もされやすいジャンルだ。
スラム出身でも、ラッパーとして評価されればインドのスターになれるように、ヘヴィーメタルバンドとして評価されれば、国籍に関係なく世界をツアーできる時代がやってきた。
新たにバンドを結成するインドの若者たちにとっても、これは嬉しいニュースだろう。
インドのヘヴィーメタルの勢いは、まだまだ続きそうだ。
--------------------------------------
「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」
更新情報や小ネタはTwitter, Facebookで!
凡平自選の2018年度のおすすめ記事はこちらからどうぞ!
ジャンル別記事一覧!
goshimasayama18 at 14:16|Permalink│Comments(0)
2019年05月19日
混ぜるな危険!(ヘヴィーメタルとインド古典音楽を) インドで生まれた新ジャンル、シタール・メタルとは一体何なのか
突然だが、みなさんは「インド音楽」と聞いて何を想像するだろうか。
今日では歌って踊る映画音楽が広く知られているが、インド映画が広く知られるようになる前であれば、インドの音楽といえば、古典楽器シタールの調べを思い浮かべる人が多かったはずである。
悠久の時間を感じさせるゆるやかなリズムの上を、異国情緒たっぷりの音色がたゆたうような旋律を奏でる。
そんなシタールの響きは、当時の人々がインドに抱いていた神秘的なイメージにぴったりだった。
インド人のリズム隊とアメリカ人のギタリストに声をかけて制作されたこのアルバムは、なんとメンバーが一度も顔を合わせずに作られたという。
それぞれの場所で演奏するメンバー4人を映したこの"The Fall Of Sirius"では、より古典音楽色の強いシタールを聴かせてくれている。
Rishabh Seenは、もともと大好きだったMeshuggahやAnimals As Leadersといったテクニカルなメタルバンドの曲をシタールでカバーして、インターネット上で注目を集めていた。
Rishabhは、ムンバイのシンフォニック・デスメタルバンドDemonic Resurrectionによるヴィシュヌ神の転生をテーマにしたアルバム"Dashavatar"でもシタールを披露している。
インド広しと言えども、ヘヴィーメタルに合わせてシタールを弾くことに関しては間違いなく彼が第一人者だろう。
(「メタルdeクッキング!メキシコ料理編(しかも健康に良い) Demonic Resurrection!」この記事で紹介している"Matsya"のシタールがRishabによるものだ。余談だがDemonic ResurrectionのヴォーカリストDemonstealerは料理番組の司会者兼料理人も務めている変わり種。興味がある方はご一読を)
「リミットレスなインドの楽器シタールをフロントに据え、ヒンドゥスターニー音楽とヘヴィーメタルの融合を目指す世界初のバンド」というコンセプトのもと、今回は遠隔地のミュージシャンたちによるプロジェクトではなく、ライブパフォーマンスも行うバンドとして活動をしてゆくようだ。
もうひとつ紹介するバンドはParatra.
Samron Jude(2003年結成のムンバイの重鎮スラッシュメタルバンドSystemHouse 33のギタリスト)によって2012年に結成された、シタール奏者Akshat Deoraとの二人組ユニットである。
シタールの音色だけでなくエレクトロニック的なサウンドも取り入れた、これまた唯一無二な音楽を演奏している。
Akshatのプレイスタイルは、エキゾチックな音階を弾いてはいるものの、Rishabh Seenとは異なりファンキーなリズムを感じさせるより現代的な印象のものだ。
彼らが2017年にリリースしたアルバム"Genesis"(vol.1とvol.2の同時リリース)では、同じ楽曲をエレクトロニック・バージョンとメタル・バージョンでそれぞれ発表するという非常に面白い試みをしている。
昨年はシッキム州出身の実力派ハードロックヴォーカリストGirish Pradhanをフィーチャーしたヨーロッパツアー(ノルウェーのゴシックメタルバンドSireniaのサポートとして)も行なっており、一部では世界的な注目を集めているようだ。
タイプこそ異なるが、唯一無二であることに関しては甲乙つけがたいインドのシタール・メタルバンド2組。
悠久の時間を感じさせるゆるやかなリズムの上を、異国情緒たっぷりの音色がたゆたうような旋律を奏でる。
そんなシタールの響きは、当時の人々がインドに抱いていた神秘的なイメージにぴったりだった。
(実際はインドの古典音楽は結構激しかったりするんだけど)
シタールは、古参のロックファンにとっては、60年代にジョージ・ハリスンやブライアン・ジョーンズがバンドサウンドにサイケデリックな響きを導入するために演奏した楽器としても有名だ。
1967年のモントレー・ポップでのラヴィ・シャンカルの演奏を聴けば、インド古典音楽(これはヒンドゥスターニー音楽)がロックファンをも魅了するダイナミズムと美しさ、そして即興の妙を持っていることが分かるだろう。
モントレー・ポップ・フェスティバルから五十余年。
シタールは、古参のロックファンにとっては、60年代にジョージ・ハリスンやブライアン・ジョーンズがバンドサウンドにサイケデリックな響きを導入するために演奏した楽器としても有名だ。
1967年のモントレー・ポップでのラヴィ・シャンカルの演奏を聴けば、インド古典音楽(これはヒンドゥスターニー音楽)がロックファンをも魅了するダイナミズムと美しさ、そして即興の妙を持っていることが分かるだろう。
モントレー・ポップ・フェスティバルから五十余年。
いつもこのブログに書いているように、インドの音楽シーンも激変した。
そして今、かつてロックファンを虜にしたシタールの音色を、あろうことかロックのなかでも最も激しくうるさい音楽であるヘヴィーメタルと融合したバンドが登場したのである。
それも、1バンドだけではなく、複数のバンドがほぼ同時に出てきたというから驚かされる。
というわけで、今回は、インドだけが成し得た究極のキメラ・ミュージック、「シタール・メタル」を紹介します。
まず最初に紹介するバンドはMute The Saint.
古典音楽一家に生まれたシタール奏者Rishabh Seenを中心とするプロジェクトである。
2016年にリリースされたファーストアルバムから、"Sound of Scars".(曲は45秒あたりから)
ものすごいインパクト。
速弾きから始まり、リフを弾いているあたりまでは、ギター風のフレーズを単にシタールで弾いているだけのような印象を受けるが、シタール特有の大きなベンディングやビブラートが入った旋律を演奏し始めると、曲の雰囲気は激変する。
硬質なメタルサウンドのうえで波打つようなシタールの響きが、唯一無二な音世界を作り上げているのが分かるだろう。
直線的なギターの音色と大きな波を描くシタールの対比も面白い。
この1曲だけで、シタールという楽器の特性と可能性を十分すぎるほどに理解できるはずだ。
というわけで、今回は、インドだけが成し得た究極のキメラ・ミュージック、「シタール・メタル」を紹介します。
まず最初に紹介するバンドはMute The Saint.
古典音楽一家に生まれたシタール奏者Rishabh Seenを中心とするプロジェクトである。
2016年にリリースされたファーストアルバムから、"Sound of Scars".(曲は45秒あたりから)
ものすごいインパクト。
速弾きから始まり、リフを弾いているあたりまでは、ギター風のフレーズを単にシタールで弾いているだけのような印象を受けるが、シタール特有の大きなベンディングやビブラートが入った旋律を演奏し始めると、曲の雰囲気は激変する。
硬質なメタルサウンドのうえで波打つようなシタールの響きが、唯一無二な音世界を作り上げているのが分かるだろう。
直線的なギターの音色と大きな波を描くシタールの対比も面白い。
この1曲だけで、シタールという楽器の特性と可能性を十分すぎるほどに理解できるはずだ。
インド人のリズム隊とアメリカ人のギタリストに声をかけて制作されたこのアルバムは、なんとメンバーが一度も顔を合わせずに作られたという。
それぞれの場所で演奏するメンバー4人を映したこの"The Fall Of Sirius"では、より古典音楽色の強いシタールを聴かせてくれている。
Rishabh Seenは、もともと大好きだったMeshuggahやAnimals As Leadersといったテクニカルなメタルバンドの曲をシタールでカバーして、インターネット上で注目を集めていた。
Rishabhは、ムンバイのシンフォニック・デスメタルバンドDemonic Resurrectionによるヴィシュヌ神の転生をテーマにしたアルバム"Dashavatar"でもシタールを披露している。
インド広しと言えども、ヘヴィーメタルに合わせてシタールを弾くことに関しては間違いなく彼が第一人者だろう。
(「メタルdeクッキング!メキシコ料理編(しかも健康に良い) Demonic Resurrection!」この記事で紹介している"Matsya"のシタールがRishabによるものだ。余談だがDemonic ResurrectionのヴォーカリストDemonstealerは料理番組の司会者兼料理人も務めている変わり種。興味がある方はご一読を)
そんなRishabが、満を持して自分のやりたい音楽、すなわちシタールとヘヴィーメタルの融合のために始めたプロジェクトが、このMute The Saintということになる。
彼らについては、日本の音楽サイト"Marunouchi Muzik Magazine"が非常に丁寧に紹介とインタビューを行なっているので、詳しく知りたい方はぜひこちらを参照してほしい。
(Marunouchi Muzik Magazine 'NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【MUTE THE SAINT : MUTE THE SAINT】')
彼が「音楽的にはメロディック、リズム的にはダイナミック」と指摘するインド古典音楽とプログレッシブ・メタルの共通点は、インドでプログレッシブ系のロック(ポストロックやマスロックなどを含めて)が盛んな理由を読み解く鍵といえるかもしれない。
例えば、ソロの応酬や変拍子のキメ、深遠な精神性など、インドの古典音楽とプログレッシブ・ロックには、意外にも共通する特徴がいくつもあるのだ。
彼らについては、日本の音楽サイト"Marunouchi Muzik Magazine"が非常に丁寧に紹介とインタビューを行なっているので、詳しく知りたい方はぜひこちらを参照してほしい。
(Marunouchi Muzik Magazine 'NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【MUTE THE SAINT : MUTE THE SAINT】')
彼が「音楽的にはメロディック、リズム的にはダイナミック」と指摘するインド古典音楽とプログレッシブ・メタルの共通点は、インドでプログレッシブ系のロック(ポストロックやマスロックなどを含めて)が盛んな理由を読み解く鍵といえるかもしれない。
例えば、ソロの応酬や変拍子のキメ、深遠な精神性など、インドの古典音楽とプログレッシブ・ロックには、意外にも共通する特徴がいくつもあるのだ。
余談だが、このMarunouchi Muzik Magazineはヘヴィーミュージックを中心に多くのアーティストを紹介しており、以前当ブログでも紹介したプログレッシブメタル/インド古典音楽/ジャズ/EDMを融合した超絶バンドPineapple Expressにもインタビューを行うなど、インド方面にもかなり目配りが効いた内容になっている。
この手の音楽が好きな方はぜひチェックしてみるとよいだろう。
Rishabhが現在取り組んでいるバンドの名前は、その名もずばりSitar Metal.
音源のリリースこそまだしていないが、アメリカの技巧派インストゥルメンタル・ロックバンドPolyphiaのインド公演のサポートを務めるなど、早くも注目を集めている。
Rishabhが現在取り組んでいるバンドの名前は、その名もずばりSitar Metal.
音源のリリースこそまだしていないが、アメリカの技巧派インストゥルメンタル・ロックバンドPolyphiaのインド公演のサポートを務めるなど、早くも注目を集めている。
「リミットレスなインドの楽器シタールをフロントに据え、ヒンドゥスターニー音楽とヘヴィーメタルの融合を目指す世界初のバンド」というコンセプトのもと、今回は遠隔地のミュージシャンたちによるプロジェクトではなく、ライブパフォーマンスも行うバンドとして活動をしてゆくようだ。
古典音楽のエリートがここまでヘヴィーメタルに入れ込むというのはかなり突飛な印象を受けるが、Talvin SinghやKarsh Kaleといったタブラ奏者たちが「究極のリズム音楽」であるドラムンベース的なアプローチでエレクトロニカに挑戦したことを考えれば、シタール奏者が「究極の弦楽器音楽」であるヘヴィーメタルに取り組むというのも十分に理解できるような気がしないでもない。
(ここでいう「究極」は「音数が多い」という意味と理解してください。ちなみにRishabhはそのTalvin Singhとの共演を行うなど、メタル界にとどまらないジャンルレスな活躍をしている)
Sitar Metalは2019年にはアルバムリリースも予定されており、今年もっとも活躍が楽しみなアーティストのひとつだ。
もうひとつ紹介するバンドはParatra.
Samron Jude(2003年結成のムンバイの重鎮スラッシュメタルバンドSystemHouse 33のギタリスト)によって2012年に結成された、シタール奏者Akshat Deoraとの二人組ユニットである。
シタールの音色だけでなくエレクトロニック的なサウンドも取り入れた、これまた唯一無二な音楽を演奏している。
Akshatのプレイスタイルは、エキゾチックな音階を弾いてはいるものの、Rishabh Seenとは異なりファンキーなリズムを感じさせるより現代的な印象のものだ。
彼らが2017年にリリースしたアルバム"Genesis"(vol.1とvol.2の同時リリース)では、同じ楽曲をエレクトロニック・バージョンとメタル・バージョンでそれぞれ発表するという非常に面白い試みをしている。
エレクトロニック・バージョンのほうは、欧米の音楽シーンでサイケデリックを表す記号として長年いいように使われて来たインドからの、なんというかお礼参りみたいな印象を受ける音楽だ。
ビデオ・ドラッグ(古すぎるか)みたいな映像と合わせて彼らのサウンドを聴いていると、オールドスクールな感じのトリップ感覚が味わえて、なかなかに気持ちがいい。
彼らはメタルバンドであるにも関わらず、アジア最大(そして世界で3番目!)のエレクトロニック・ミュージックのフェスであるプネーのSunburn Festivalへの出演経験もあり、古典とメタルだけでなく、ダンスミュージックとの間にある壁も軽々と乗り越えている。
DJブースにはシタール奏者とヘヴィーメタルギタリスト、さらに脇には生ドラムという、なんだかもうわけが分からない状況だが、観客は大盛り上がりだ。
ビデオ・ドラッグ(古すぎるか)みたいな映像と合わせて彼らのサウンドを聴いていると、オールドスクールな感じのトリップ感覚が味わえて、なかなかに気持ちがいい。
彼らはメタルバンドであるにも関わらず、アジア最大(そして世界で3番目!)のエレクトロニック・ミュージックのフェスであるプネーのSunburn Festivalへの出演経験もあり、古典とメタルだけでなく、ダンスミュージックとの間にある壁も軽々と乗り越えている。
DJブースにはシタール奏者とヘヴィーメタルギタリスト、さらに脇には生ドラムという、なんだかもうわけが分からない状況だが、観客は大盛り上がりだ。
昨年はシッキム州出身の実力派ハードロックヴォーカリストGirish Pradhanをフィーチャーしたヨーロッパツアー(ノルウェーのゴシックメタルバンドSireniaのサポートとして)も行なっており、一部では世界的な注目を集めているようだ。
タイプこそ異なるが、唯一無二であることに関しては甲乙つけがたいインドのシタール・メタルバンド2組。
いずれもが、古典音楽とさまざまな音楽のフュージョンを躊躇なく行ってきたインドが生んだ新たなる傑作と呼ぶにふさわしく、ぜひとも日本でもその雄姿を見てみたいものである。
フェスとかで来日したら盛り上がると思うんだけどなあ。
凡平自選の2018年度のおすすめ記事はこちらからどうぞ!
--------------------------------------
「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」
更新情報や小ネタはTwitter, Facebookで!
凡平自選の2018年度のおすすめ記事はこちらからどうぞ!
goshimasayama18 at 20:35|Permalink│Comments(0)