SidSriram

2023年12月28日

2023年度版 軽刈田 凡平's インドのインディー音楽top10


今年もインドのインディペンデント音楽シーンがどんどん大きく、面白くなった1年でした。
もはやとても一人の力で掘り続けるのは無理なほどに巨大化してしまったシーンのなかで、これこそが注目すべきトピック(シングル、アルバム、ミュージックビデオ、出来事)だと思ったものを、10個ほど選んで紹介させてもらいます。

10個並べてるけど、順位はとくになし。
ジャンル的にも地理的にも多様化しまくっているインドのシーンから10個トピックを選ぶのはとても難しかったけど、5年後、10年後に振り返った時に、「そうそう!あのときがこのブームのきっかけだったよね」とか「そういえばあんなことあったなあ」と思えそうなものを選んでみたつもり。



Bloodywood来日


まさか去年に続いて今年もBloodywoodの来日を10大トピックの筆頭に挙げることになるとは思わなかった。
彼らが今年6/28に大阪(梅田TRAD)、6/29に渋谷(Spotify O-EAST)で開催したワールドツアーのファイナル公演は凄まじかった。
去年のフジロックの「誰だかよく分からないけど、こいつらスゲエ!」という状態とは異なり、誰もがBloodywoodことを知っていて、高い期待を抱いているという状況の中で、彼らはその予測を軽々と上回るパフォーマンスを披露した。
ギターソロはなく、ドラムセットもバスドラ1つ、タム1つと極めてシンプルな音楽性とステージセットで観客を熱狂させた彼らのスタイルは、新世代ヘヴィミュージックのひとつの雛形としても注目に値するものだった。




JATAYU来日


今年のフジロックでもインドのバンドが優れたパフォーマンスを見せた。
チェンナイのカルナーティック・ジャムバンドJATAYUは前夜祭とField of Heavenに出演。
去年のBloodywoodのような大規模ステージやド派手な音楽性ではなかったこともあり、大きなセンセーションを巻き起こすには至らなかったが、JATAYUは日本のリスナーがこれまで聴いたことがない浮遊感溢れるフレーズとタイトなグルーヴで確かな爪痕を残した。
インタビューによると、彼らはシンガポールのショーケースイベントに出演したときに関係者の目に留まり、フジロックの出演につながったとのこと。
今年リリースした台湾のバンド「漂流出口」との共演曲"The Wild Kids"も、アジア的な混沌をロックで表現した出色の作品だった。
(漂流出口もすごく面白くて良いバンドです)




Sid Sriram "Sidharth"(アルバム)


今年はメインストリームのど真ん中で活躍している映画のプレイバックシンガー(吹き替え歌手)が、相次いで充実したオリジナル(非映画)アルバムを発表した年でもあった。
インドにおいて「インディーズ音楽」とは、「映画音楽ではない音楽」を指す概念だと言っても過言ではない。
メジャーの真ん中で活躍しているアーティストがインディペンデントを志向する時代がインドにやってきたのだ。
カリフォルニア在住のSid Sriramが、現地の(インド系ではない)ミュージシャンと制作した現代的R&Bスタイルのこのアルバムを「インドのインディー音楽」として扱うべきかどうかは悩んだが、こうした背景と内容の素晴らしさを考えれば、この10選から外すわけにはいかないだろう。
カルナーティック音楽をルーツに持つ彼の歌声は信仰に根差した聖性を湛えていて、結果的にゴスペルのような美しさが感じられる。
以前の記事でも紹介したので今回は別の曲をピックアップしたが、アルバム中の"Dear Sahana""Do the Dance"はとくにその傾向が強く、涙が出そうなくらい感動した。


他に今年リリースされたプレイバックシンガーのインディペンデント作品としては、Armaan Malikの"Only Just Begun"も現在進行形のヒンディーポップスのが楽しめる佳作だった。
この作品にはヒップホップビートメイカーKaran Kanchanも参加していて、インディペンデントとメジャーの垣根がますます低くなってきていることを感じさせられた。



KSHMR "Karam"


KSHMRのインドのヒップホップ界への参入は、成長と拡大の一途を辿るシーンへの黒船来航とも言える出来事だった。
世界的に高い評価を得るインド系アメリカ人のEDMプロデューサーである彼は、今作では個々のラッパーの良さを引き出すビートメーカーの役割に徹し、ラテンやインド映画音楽の要素をスパイスとしたトラックの数々に彩られた名作を生み出した。
インドの音楽シーンが国内に閉じているのではなく、グローバルにつながっていることを感じさせるアルバムだ。




Chaar Diwaari X Gravity "Violence"


6月に旅行で来日していたビートメーカーのKaran Kanchanが注目アーティストとして名前を挙げていたのがこのChaar Diwaariだった。
ニューデリー出身のこのラッパーはまだ20歳(!)。
アンダーグラウンドの空気感を濃厚にまとった"Barood""Garam"といった個性的なトラックだけでなく、ギタリスト/ソングライターのBhargと共演したポップな"Roshini"など、アクの強さだけではない豊かな才能を示す楽曲を2023年に多数リリースした。
今後の活躍がもっとも期待されるアーティストの一人である。
KSHMRの"Karam"のような話題作から、彼のような超新星の出現まで、今年もインドのヒップホップシーンは非常に豊作だったと言える。



Ikka Ft.MC STAN "Urvashi"


Ikkaはパンジャービー系パーティーラップシーンで一世を風靡したYo Yo Honey SinghとBadshahを擁したデリーの伝説的ヒップホップクルーMafia Mundeer出身のラッパー。
ド派手で商業的なスタイルで人気を博したHoney SinghやBadshahとは異なり、ヒップホップのルーツに忠実な活動を重ねているIkkaが、マンブルラップ的な新世代フロウをインドに持ち込んだMC STANと共演したのがこの曲。
サウンドの印象としてはIkkaがかなりMC STANに寄せているように聴こえるが、ミュージックビデオを見るとMC STANがパーティーラップ的なスタイルに接近しているようにも見える。
プロデュースはアメリカで活躍するバングラデシュ出身のプロデューサーのSanjoy.
ボリウッドソングのマッシュアップをきっかけに在外南アジア系コミュニティから人気に火がついた彼の起用は、メジャー/インディー、国内/国外の垣根が意味を失いつつあるインドのシーンを象徴する人選だ。

そういえば、今年はHoney Singhがムンバイのストリート出身のスターEmiway Bantaiのプロデュースした楽曲もリリースされた(曲としてはイマイチ)。
ますますボーダレス化が進むインドのヒップホップシーンの今後がますます楽しみだ。



Diljit Dosanjh X SIA "Hass Hass"(シングル) "Ghost"(アルバム)


最近ずっと思っているのが、そろそろバングラーというジャンルを再評価すべき時期が来ているのではないか、ということ。
バングラーは、世界的にはPanjabi MCらが活躍した'00年代前半にブームを迎え、ほどなく下火になったジャンルかもしれないが、北インドでは今日に至るまで継続的に高い人気を誇っている。
インドのみならず、パンジャーブ系住民の多いオーストラリアや北米では、昨今バングラーシンガーがアリーナ規模のライブを成功させている(ただし観客はほぼ南アジア系だが)。
ジャマイカンにとってのレゲエやアフリカ系アメリカ人にとってのヒップホップのように、バングラーはパンジャービーたちの魂の音楽として愛され続けているのだ。
バングラーの特筆すべきところは、愛され続けているだけではなく進化しつづけていることで、Diljit Dosanjhがオーストラリア出身の人気シンガーSIAをフィーチャーしたこの曲は2023年度版バングラーを象徴する楽曲と言えるだろう。
Diljitが今年リリースしたアルバム"Ghost"も23曲入りというとんでもないボリュームで、現代型バングラーラップの理想系を示した作品だった。
昨年Sidhu Moose Walaの死という悲劇を迎えたバングラー界だが、それでもシーンは希望と意欲に満ちており、明るい未来が期待できる。



The Yellow Diary "Mann"


上質なヒンディー語のインディーポップを作り続けているムンバイのバンドThe Yellow Diaryは、この新曲"Mann"で変わらぬセンスの良さを見せつけた。
ボリウッド映画に使われても良さそうなキャッチーなヒンディー語ポップスだが、ジャジーなピアノやギターに彼ら独自の個性が光る。
音楽スタイル的にメジャーとインディーズの中間に位置するバンドであり、洋楽志向に偏りがちなインドのインディーポップシーンでインドらしさ溢れるサウンドを作る彼らは稀有な存在だ。



Sunflower Tape Machine "Rosemary"


インディーロック勢ではチェンナイを拠点に活動するAryaman SinghのソロプロジェクトSunflower Tape Machineがリリースした"Rosemary"の繊細な美しさも素晴らしかった。
楽曲ごとにアンビエント、シューゲイザー、80’s風ポップと作風を変えながら、1年に1、2曲のみリリースするという非常にマイペースな活動を続けている彼の最新作は、アコースティックギター1本で聴かせるフォークポップ。
シンプルこの上ない楽曲をメロディーとハーモニーで聴かせるセンスに痺れた。
日本からインドの音楽シーンをチェックしていて、彼のような完全にインディペンデントな才能に出会えたときの感動はひとしおだ。



Komorebi "The Fall"(アルバム)


デリーを拠点に活動しているKomorebiは、アニメなど日本の文化の影響を受けているTarana Marwahによるソロプロジェクト。
以前からポップなエレクトロニカを聴かせてくれていたが、今作ではぐっとスケール感を増してノルウェーのAURORAのような幻想的で美しい作品を作り上げた。
Easy Wanderlings, Dhruv Visvanath, Blackstratbluesといったインドのインディーズシーンを代表するアーティストのコラボレーションも作品に華を添えている。
こうした無国籍で高品質な楽曲がリリースされているということもインドの音楽シーンの誇るべき部分であり、もっと世界が注目してくれたらいいのにといつも思っている。




というわけで2023年の10選はこんな感じでした。
今年は秋以降のヨギ・シン来日騒動(騒いでいたのは自分だけだが)もあり、シーンをあまり細かくチェックできていなかったので、きっとここに挙げた以外の素晴らしい作品や出来事もたくさんあったことと思う。
次点はムンバイのロックバンドThe Lightyear Explodeのアルバム"Suburban Prose".
80’s〜90年代前半の雰囲気のあるポップでキャッチーな曲がたくさん入ったアルバムなので、興味がある人はぜひチェックしてみてほしい。
あとコルカタのラッパーCizzyは今年クラシック級の名曲を何曲もドロップしていた。
(例えば"Number One Fan", "Baad De Bhai"
注目されることが少ないベンガル語ラップに正当な評価を与えるためにも選びたかったのだが、ジャンルのバランスを考えて泣く泣く選外とした。


過去2年分の軽刈田セレクトによる年間トップ10もいちおう貼っておきます。
毎年面白くなり続けているインドの音楽シーン、来年はどんな作品がリリースされるのか、ますます楽しみだ。









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goshimasayama18 at 15:03|PermalinkComments(0)

2023年09月16日

在外インド系アーティストによるルーツへの愛があふれるミュージックビデオ (カリフォルニア編)



「インド人による音楽」について書くときに、ひとつ悩ましい問題があって、それは「在外インド人」をどう扱うかということである。
インド人は移民や仕事や留学や親の都合で海外に渡る人が多く、そのまま海外の国籍を取得したり、その2世、3世として生まれる人も多い。
インドでは、海外で暮らしているインド国籍の人のことをNRI(Non-Resident Indian)と呼び、インドにルーツを持つ外国籍の人をPIO(People of Indian Origin)と呼ぶ。
世界中には、じつに1300万人を超えるNRIと1900万人近いPIOがいる。
彼らからの母国への仕送り総額は、じつに1000億ドルを越えており(GDPの約3%)、NRI, PIOは国の経済にも大きな影響を与える存在なのだ。

これだけの数の在外インド人の中には、当然ながらミュージシャンとして活動している人もいる。
それで何が悩ましいのかというと、彼らのうち、いったいどこまでを「インドの音楽」として扱うべきか、という問題である。

インド国内の音楽シーンと在外インド人のミュージシャンはほぼシームレスに繋がっていて、たとえば前回の記事で書いたように、インドで生まれて国内で活動しているけど英語でポップスを歌っている人もいれば、海外生まれで外国籍でもインドの言語で伝統音楽の影響の強い歌を歌っている人もいる。
さらには、外国生まれだけど今はインドで活動しているとか、インドで生まれたけど今では海外を拠点にしているとか、海外生まれで海外在住だけどインドを主なマーケットにしているとか、インド系ミュージシャンの出身地、国籍、言語、マーケットの組み合わせは何通りもある。
音楽的にも、ルーツと欧米的ポピュラーミュージックのジャンルをどう融合するのか(あるいはしないのか)という多様性が無限に存在していて、「インドの音楽シーン」という言葉を明確に定義づけることは極めて困難だ。

結論から言うと、このブログでは、インドに活動の軸足を置いていたり、インド国内のシーンとの関わりの深いアーティストを中心に紹介することにしている。
在外シーンの面白さも分かってはいるのだが、ただでさえ広いインド、とてもそこまで手が回らないからだ。
そんなわけで、外国籍で英語で歌っているようなアーティストは、どうしても優先順位が低くなってしまう。

ところが、そんな在外インド系アーティストのなかには、インド本国のミュージシャン以上に自身のルーツへの愛にあふれた作品を作っている人たちもいる。
そして、それがインド人でも移民でもない日本のリスナーを、大いに感動させたりすることがある。
今回は、そんな作品をいくつか紹介する。



Sid Sriram "Do the Dance"


この曲は、先月リリースされたSid Sriramのアルバム"Sidharth"からの1曲。
Sid Sriramは南インドのタミルナードゥ州チェンナイ生まれのシンガーソングライターで、1歳のときに両親と共にカリフォルニアに移住。
今ではサンフランシスコを拠点に活動している。
ソウルフルさのなかに独特の切なさが内包された歌声にまず心を奪われるが、その歌声と同じくらい素晴らしいのがミュージックビデオだ。
このチルな感じのR&Bにインドの伝統舞踊を合わせるセンスは在外インド系シンガーならでは。
撮影地はL.A.郊外のビーチで名高いマリブのヒンドゥー寺院で、90万人を超えるインド系アメリカ人が暮らしているカリフォルニアには、こんな立派な寺院が建てられているのだ。
踊っているのはUCLAのRaas Batakaというインド舞踊チーム。
彼女たちはインド西部に位置するグジャラート州の「ラース」(Raas. または「ダンディヤ・ラース」Dandhiya Raas)や「ガルバ」(Garba)と呼ばれる伝統舞踊を踊るグループだ。
インドの伝統/古典舞踊の種類はいくつか知っていたが、このラースとガルバというのは聞いたことがなかった。
名門大学にインドのローカルな舞踊を踊るチームが存在しているとは、さすがカリフォルニア。
グジャラートにルーツを持つ学生たちが多く所属しているのだろう。

前述の通り、Sid Sriramは南インドのタミルナードゥ州出身だ。
タミルナードゥとグジャラートは1,400キロ離れていて、同じインド国内といっても、言語や文化の違いを考えると、ほぼ外国と言えるほどに遠い地域である。
まったく異なるルーツを持ったインド系の人々が、移住先のアメリカで、ホスト社会の文化の影響を受けたR&Bのミュージックビデオで共演しているというのがなんともぐっとくる。

Sid Sriramは基本的にはR&Bスタイルのシンガーだが、そのルーツには南インドの古典であるカルナーティック音楽がある。
先ほどの"Do the Dance"と同じく"Sidharth"に収録されている"Dear Sahana"は、そんな彼のカルナーティックのルーツが伺える曲だ。


Sid Sriram "Dear Sahana"


カルナーティック音楽とR&Bの融合は、まるでゴスペルのような聖性を湛えている。
"Sahana"は女性の名前だが、ミュージックビデオはすべての南アジア系女性に対する賛歌のように捉えることもできる美しい作品だ。
アルバムタイトルの"Sidarth"は彼の本名で、自らのルーツとアメリカ音楽を最高の形で融合した傑作である。


ちなみにSid Sriramはタミル語、テルグ語、カンナダ語などの南インドの言語の作品を中心とした映画のプレイバックシンガーとしても活動している。
というか、むしろプレイバックシンガーとして録音した楽曲のほうが圧倒的に多くて、10年ほどのキャリアの間に200本近い作品でその歌声を披露している。
映画音楽分野での評価も高く、さまざまな映画賞でベストプレイバックシンガー賞を8回も受賞(ノミネートを含めると20回以上)。
日本でも上映された作品では"Mersal"(日本公開時のタイトルは『マジック』)の"Maacho"という曲を歌っているので、読者の中には映画館で彼の歌声を聴いたことがある人もいることだろう。
フィルミ・ソングとR&Bスタイルのソロ作品、さらには古典音楽のカルナーティックを歌っている時のスタイルの違いを味わってみるのも面白い。




Sandhya Chari "My Roots"


Sandhya Chariが2021年の12月にリリースした"My Roots"も、とても美しいミュージックビデオが印象的な曲だ。
彼女もSid Sriramと同じサンフランシスコ在住のタミル系アメリカ人。
華麗な衣装を身にまとった女性たちは、インド、パキスタン、ネパールの14の異なる地域の出身で、彼女たちのさまざまなスタイルは、それぞれのルーツをレペゼンしているとのこと。
歌詞は英語とタミル語(南インドの一言語)とヒンドゥー語(北インドで広く話されている言語)で書かれており、この曲が多様なルーツを持った南アジア系の人々に向けて作られているということが分かる。
国境を越えなくても地域ごとに言語が違う南アジアの女性たちが、言語や出身地を超えて自らのルーツを誇るこの作品は、祖国を遠く離れたカリフォルニアだからこそ生まれたものだろう。



もう一人カリフォルニア出身の女性シンガー/ラッパーを紹介する。
L.A.郊外のクレアモント出身で、南インドのアーンドラ・プラデーシュにルーツを持つRaja Kumariは、幼い頃から習っていた古典舞踊で使われるリズムに言葉を乗せたところラップになることを発見した(!)というユニークすぎる音楽的ルーツを持つアーティストだ。




その詳細は過去の記事(とくに、ここに貼ったリンクの1つめの記事)を読んでもらうとして、彼女はラップだけでなくファッションの面でもインドの伝統とヒップホップの融合を試みていて、それがまた非常にかっこいい。

Raja Kumari "I Did It"


間奏部分で披露される古典音楽由来のリズムと、インドのアクセサリーをブリンブリン的に身につけるセンス、そして伝統舞踊とヒップホップがごく自然に繋がったダンスは、インド人が表現しうるヒップホップのひとつの理想形と言えるだろう。


Raja Kumari "N.R.I."


"N.R.I."という率直なタイトルのこの曲では、アメリカではインド人として偏見に晒され、インドではアメリカ人として扱われるフラストレーションを歌っている。
この曲は主に同様の境遇のNRI/PIOの人々に向けた曲だろうが、それでもこのミュージックビデオは500万再生を超えていて、在外インド人マーケットの大きさをあらためて感じさせられる。
彼らにとってこの曲のメッセージは大いに共感できるものなのだろう。
このミュージックビデオでも、ヘッドドレスやサリー風の衣装、鼻ピアスなどのインドモチーフの衣装があいかわらずキマっている。



Raja Kumari "I Believe In You"


彼女が2016年にリリースされた"Believe in You"のミュージックビデオを久しぶりにチェックしてみたら、なんと最初に紹介したSid Sriramの"Do the Dance"に登場したマリブのヒンドゥー寺院に対する感謝のメッセージが冒頭に出てくることに気がついた。
どうやら彼女がさまざまなスタイルの古典舞踊を習っていたのもこの同じ寺院だったようだ。
なんという偶然。
(この記事を書き始めたとき、じつはカリフォルニア限定にするつもりはなかったのだが、たまたまこのテーマで書きたかったアーティストが全員カリフォルニア在住だということに気がついたのだ)

この寺院がたくさんの才能あるインド系アメリカ人に影響を与えていると思うと、遠く離れたマリブの方角に手を合わせたくなった次第である。




さて、ここからは音楽の話を離れた余談だが、NRI(インド国籍の海外在住者)とPIO(外国籍のインド系住民)が多い国のランキングを調べてみたところ、以下のような統計を見つけた。

スクリーンショット 2023-09-06 1.19.38

インド国籍を保持したまま海外で暮らしているNRIには、おそらく出稼ぎ目的の人の割合が多いものと思うが、UAEやサウジアラビアといったペルシア湾岸諸国が上位を占めている。
UAEのドバイは人口の90%が外国人労働者で、その半数近くをインド系が占めているという。
インド映画でやっかみ混じりに描かれがちなアメリカやイギリスの在住者は、NRIには意外と少ないのだなという印象だ。


スクリーンショット 2023-09-06 1.20.04

いっぽう、「外国籍のインド系住民」であるPIOが多い国を見てみると、NRIとはまったく違う国名が並んでいる。
とくに、3位にランクインしたミャンマーに、こんなにも多くのインド系住民が暮らしているとは知らなかった。
調べてみると、どうやら200万人のインド系ミャンマー人のほとんどがタミルにルーツを持つようで、他には地理的に近いインド北東部マニプル州のメイテイ人、テルグ人、ベンガル人などが暮らしているという。

海外に暮らすインド系の人々は、国や地域によってそのルーツに特徴があり、UKやカナダにはパンジャーブ系が多く、マレーシアやスリランカはほとんどがタミル系だ。
マレーシアではインドでヒップホップが流行する前からタミル語ラップが作られていて、インド国内のタミル語映画でもマレーシアのタミル系ラッパーが起用されることがある。
PIOの9位にランクインしているカリブ海の島国トリニダード・トバゴと8位の太平洋の島国モーリシャスには、北インドのビハール州あたりにルーツを持つボージュプリー系の人々が数多く住んでいて、トリニダードには、ボージュプリーの人々がカリブの音楽に影響を受けて作ったチャトニーというジャンルも存在している(チャトニーとは、カレーに合わせて食べたりするあの「チャツネ」のこと)。
ちなみに湾岸諸国での出稼ぎ者にはケーララ人が多い。

彼らの文化を探ってゆけば、さらなる面白い音楽を見つけられるのかもしれないが、インド国内だけで手いっぱいで、とてもそこまで手が回らない!
いつかまた彼らの音楽についても書いてみたいのだけど。

(イギリスのインド系音楽については、栗田知宏著「ブリティッシュ・エイジアン音楽の社会学: 交渉するエスニシティと文化実践」という日本語で読める貴重な文献がある。このテーマに興味を持っている人であれば、絶対に面白い一冊だ)



参考サイト:
https://www.findeasy.in/population-of-overseas-indians/

https://mea.gov.in/images/attach/NRIs-and-PIOs_1.pdf



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