RiotPeddlers

2020年02月01日

ムンバイのハードコアバンドRiot Peddlersとインドのパンクロックシーン!

ムンバイのハードコアパンクバンドRiot Peddlersが、デビュー作以来7年ぶりとなるニューEPをリリースした。
今回はその話題を書こうと思っていたのだが、200本を超える記事を書いてきたこのブログで、実はパンクロックについて触れるのはこれが初めて!
というわけで、今回はインドのパンクロックシーンについてもあわせて紹介してみます。


いきなり結論から書くと、21世紀に入ってからインディーミュージックシーンが発展したインドでは、パンクロックの存在感は決して大きくない。
というか、外から眺める限り、その存在はかなり小さいように見える。

これにはいくつかの理由が考えられる。
まず1つめは、かつてのアメリカやイギリスでパンクバンドをやっていたような、社会に不満を持つ若者たちの表現手段が、パンクロックからヒップホップに完全に移行してしまったということ。これはインドに限らず世界的な傾向だろう。
それに、バンドをやるためには、楽器やリハーサルスタジオにも安くないお金がかかる。
とくにインドの場合、経済的に恵まれない層の若者たちにとって、エレキギターやドラムセットを買うなんて夢のまた夢。
体一つでできるラップと違い、そもそもロックはそれなりに裕福でないとできないジャンルなのだ。
インドでは、ヒップホップにおいてもレコードとターンテーブルを使ったDJはほとんど普及しておらず、ヒューマンビートボックスやインターネットからダウンロードしたビートを使うのが主流である。
インドではレコード(音楽ソフトとしてはカセットテープが主流でほとんど流通しなかった)もターンテーブルも、やはりそれなりに高価なものだからだ。
洋の東西を問わず、「衝動的に、かつ手軽にできる音楽」であるということが、怒れる若者たちの意見を代弁する音楽となるための絶対条件なのだ。

パンクロックのアティテュードを簡単に言うならば、「反骨精神」ということになるだろうが、パンクロックのサウンド面での特徴といえば、それはもちろん「激しさ」でだ。
ところが、インドでは、過激で暴力的な音楽のジャンルとしては、パンクよりもヘヴィメタルのほうが圧倒的に人気がある。
階級社会のインドでは、人々は自分を「より良く見せよう」という意識が高い。
そのせいかどうかは分からないが、あえて低俗にふるまい初期衝動の発散に終始するパンクロックよりも、構築的で技巧的なヘヴィメタルを志す若者たちが多いのだ。
インドにはとくにデスメタルやメタルコアなどのエクストリーム系のバンドが多く、それに対してハードコア・パンクは非常に少ない(これも今日ではインドに限らない世界的な傾向と言えるかもしれないが…)
もうひとつインドに関して言えば、パンクロックが流行した時代にインディーミュージックが盛んでなく、パンクシーンが形成されなかったということも、パンクの存在感が小さいそもそもの理由として挙げられるだろう。

そんなわけで、インドではパンクロックは、決して盛んなわけではないのだが、それでも各地で草の根的な活動を繰り広げているバンドたちがいる。
まずは、冒頭でも触れたムンバイのスリーピースバンドRiot Pedllers.
TheRiotPeddlers
(画像は彼らのFacebookから拝借)
モヒカン頭のインド人は初めて見たという人が多いのではないだろうか。
彼らのファーストアルバム"Sarkarsm"から、"Bollywood Song"をさっそく聴いていただこう。


いかにもインドっぽい旋律のヘタクソな歌から始まるが、これはインドの娯楽の絶対的メインストリームであるボリウッドをおちょくっているのである。
その後の歌詞を冒頭の4行だけ載せると、こんな感じである。

I hate this song, it makes me sick
Bollywood can suck my dick
I have a big frown on my face,
Need to get the fuck out of this place

あえて訳すまでもないと思うが、ここにはボリウッドに対する痛烈な嫌悪感が表されている。
インドの娯楽映画は日本にもファンが多いので少し言いづらいのだが(私も別に嫌いではない)、あんなものはクソだと思う人が一定の割合でいるというのは、主流文化の避けられない宿命だろう。こういうカウンターカルチャーが無かったら、かえって不健全というものだ。
アルバムタイトルの"Sarkarsm"は、インドの諸言語で「権力者」 を意味する'sarkar'と、英語で「皮肉」を意味する'sarcasm'をかけ合わせた造語で、「権力やメインストリームに対する皮肉」といった意味と思われる。
(ちなみに"Sarkar"というタイトルの映画はヒンディー語でもタミル語でもあって、ヒンディー語版は名優アミターブ・バッチャン主演のマフィア映画のシリーズ、タミル語版はヴィジャイ主演の選挙をテーマにした作品)

続いては、新作"Strength in Dumbers"(今度は「数の力」という意味の'strength in numbers'をもじっていて「アホどもの力」とでも訳せるだろうか)から"Muslim Dudes On Bikes".

ヒンドゥー・ナショナリズムの台頭にともなって肩身の狭い思いをしているムスリムへの、少々手荒い応援歌である(ちなみにバンドのメンバーは3人ともヒンドゥーのようだ)。
このEPは5曲入りでたったの11分というパンクロックらしい潔い内容。
彼らのサウンドは、これといった特徴のないハードコアパンクだが、主流文化に毒づき、マイノリティーに共感する彼らのアティテュードは、間違いなくパンクロックのものである。

続いて紹介するバンドは、プネーのFalse Flag.
これは2018年にリリースされたネパールのパンクバンドNeck Deep in FilthとのスプリットEPで、最初の4曲がFalse Flagの楽曲。

彼らについて紹介した記事によると、False Flagはマルキシズム的な思想に基づいた、反女性差別、反カースト差別的な主張を持ったバンドとのことである。
以前、ジャマイカン・ミュージックを武器に戦う活動家のDelhi Sultanateを紹介したときにも思ったことだが、政治的な主張をより多くの人に伝えたいのであれば、もっとインドの大衆に受け入れられやすいジャンルだってあるはずだ。
それでもこうしたインドでは全くポピュラーではないジャンルを選んでいる理由は、おそらくだが、彼らにとっては、その思想とパンクロックのサウンドは不可分のものであって、どちらか片方では成立し得ないものだからなのだろう。
政治性が極端に排除された日本の音楽シーンのことを考えると、ちょっと背筋が伸びる思いである。
まあ、パンクロックを聴いて背筋を伸ばすのもなんだけど。

こちらは、昨年デビューしたムンバイの5人組Pacifist.
スマホで撮ったみたいな縦長の画像に味わいを感じる。
ここまで紹介したどのバンドもまともなミュージックビデオを作成していないことからも、インドのパンクシーンがかなり草の根的な状況であることが分かるだろう。

彼らはAt The Drive InやHelmetなどの影響を受けているとのことだが、ヴォーカリストのSidharth Raveendranはもともとはデスメタルバンドのメンバーだったそうだ。
こうした経歴や、この映像の観客の様子からも、インドのハードコアパンクがメタルシーンとかなり接近しているということが見て取れる。

続いては、同じくムンバイから、Green Dayあたりが大好きそうなバンド、Punk On Toastの"My Friends"を紹介する。
 
ギターをかかえて両足を揃えてジャンプ!
なんだか青春っぽい。
Hi-Standardあたりを思い出すアラフォーの人も多いんじゃないだろうか。
この曲はかなりポップなメロディックパンクだが、彼らの他の曲はもっとハードコアっぽかったりもする。
インドのパンクロックの中心地を挙げるとしたら、やはり最大の都市ムンバイということになるようで、ムンバイには、他にもマスコアからの影響を受けたDeath By FungiやGreyfadeといったバンドが存在している。

インド東部のウエスト・ベンガル州コルカタのThe Lightyears Explodeは、よりポップな音楽性のバンド。
政治的というよりは内政的なテーマを歌っているようだ。


同じくコルカタにはRoad2Renaissanceというバンドもいる。
曲は、その名も"Marijuana Song".
DoorsやPink Floydらの影響も公言している彼らをパンクバンドとして紹介いいものかどうか迷うが、パンク的な要素のあるサウンドではある。

あくまで印象としてだが、コルカタのバンドからはニューヨークのバンドのような文学的洗練を感じることが多い。
タゴールやサタジット・レイで知られる文化的な土地であることと、なにか関係があるのだろうか。


歴史を遡って、インドで最初のパンクバンドについて調べてみると、どうやら2002年にムンバイで結成されたTripwireというバンドに行き着くようだ。

Ramones, Sex Pistols, Black Flag, Bad  Religionといったクラシックなバンドの影響を受けているようだが、個人的には彼らのサウンドからはあまりパンクを感じない。
労働者階級出身であることがパンクスの絶対条件だとは思わないが、彼らからは、隠しきれない「育ちの良さ」みたいなものが感じられてしまって、パンク的な破壊衝動をあまり感じられないというのが正直なところである。

2004年にデリーで結成されたSuperfuzzというバンドもインドにおける初期パンクロックにカテゴライズされることがあるようだ。

この曲に関しては、ニルヴァーナ風のサウンドに、リアム・ギャラガー風のヴォーカルといった感じだが、全ての曲がこのスタイルというわけでもなく、ロックバンドとしての作曲/パフォーマンス能力はこの時代のインドにしてはなかなか高いものを持っているようである。
その後、彼らはIndigo Childrenと改名し、90年代のUKのバンドを思わせるようなポップなロックを演奏している。

と、ここまで読んで(聴いて)いただいて分かる通り、インドのパンクバンドは、サウンド的には亜流の域を出ないものが多く、強いオリジナリティやカリスマ的な人気バンドが存在しているわけではない。
それでも、破壊衝動や社会への怒りと不満をパンクロックに乗せて表現している人たちがインドにもいるということに、まず何よりもうれしさを感じる。
カウンターカルチャーとしての音楽の本流がヒップホップに移ってしまったとしても、やはりどうしてもパンクロックでしか表現できないフィーリングというものがあるのだ。

かつて、ブルーハーツは『パンクロック』という曲で、極めて率直にこう歌った。
僕 パンクロックが好きだ 
中途ハンパな気持ちじゃなくて
本当に心から好きなんだ 
インドにも同じように感じている若者たちがいるのだと思うと、かつてこのジャンルの音楽にずいぶん力をもらった一人として、単純にうれしいのである。

インドのパンクロックシーンはまだまだ発展途上だし、その規模から考えると、これから爆発的に成長するとも思えないが、インドの都市の片隅で、ヘタクソなパンクバンドに合わせてモッシュしている若者たちがいると思うと、またいっそうインドという国が身近に感じられるというものである。

がんばれ!インドのパンクバンド!


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goshimasayama18 at 14:15|PermalinkComments(0)