ReemaSangupta

2021年08月06日

ここ最近の気になる曲特集! インドのヒップホップ集大成、ノスタルジック・ポップ、強烈メタル&オルタナティブ・ロック!


忙しさにかまけてブログの更新を怠っていた間も、インドの音楽シーンでは日々名曲が量産されていた。
記事にできなかった佳曲はtwitterで紹介しているのだが、時とともに流れてしまうツイートにとどめるだけではもったいない楽曲が立て続けにリリースされたので、記事にしたためておくことにする。
(このブログの過去の記事だって探しづらくて埋もれちゃうじゃないか、というご意見もあるかもしれないが…スミマセン)


まず紹介したいのは、南部のIT都市ベンガルールを拠点に活動するラッパー、Smokey The Ghostの新曲"Hip Hop Is Indian".


インドでは地元言語(ベンガルールならカンナダ語)でラップするラッパーが多い中で、Smokey The Ghostは英語でのラップにこだわっている。
その理由はおそらく、lo-fi的だったりエクスペリメンタルだったりするビートとの相性を考えてのことだろう。
英語ラップと言っても、彼はアメリカっぽい英語ではなく、あえて南インド訛りの英語でラップすることで地元をレペゼンする意識を表明している。

だが、この曲で彼がテーマにしているのは、もっとスケールの大きい、「インド全体のヒップホップ・シーン」だ。
シタールを大胆に導入した、これ以上ないほどインド的なビートに乗せて、Smokeyはインド全土のラッパーやクラシックのタイトルを盛り込んだリリックをライムしている。

1番のヴァースでは、インドには珍しいスクラッチDJ(カセットテープが主流でレコード文化が根付かなかったインドでは、ビートメイキングにターンテーブルが使われることはなかった)のDJ Panicに始まり、Smokeyとの共演経験もあるデリーのPrabh Deep, 北東部を代表するラッパーであるメガラヤ州のKhasi BloodzMeba Ofilia, ムンバイのフィーメイル・ラッパーDee MC, ベンガルールの盟友Brodha V(彼に関しては、代表曲の"Aatma Raama"が挙げられている)、ムンバイのシーンを初期から支えたACE, DIVINE(本名のVivianの名前でラップされる)、Naezy(DIVINEとNaezyの名曲"Mere Gully Mein"のリリックも登場)、そしてBombay BassmentBob Omuloの名前がshout outされる。

続く2番のヴァースでも、BadshahYo Yo Honey Singhといったメインストリームラッパーから、Jay Seanなどの在外インド人ラッパー/シンガー、南インド諸州のラッパーたちまで、ジャンルも地域も国境すらも超えて、インド系ヒップホップ・アーティストを幅広く讃えているのだ。
(コルカタのラッパーに触れられていないのがちょっと残念ではあるが、ベンガル語のシーンはやはりインド全体の中ではマイナーなのか…)

言語、民族、宗教、文化、地域、思想など、あらゆる多様性にあふれるインドは、多様性の分だけ対立の種にも事欠かない。
インディペンデントのミュージシャンたちに話を聞く限りでは、若い世代にはこうした対立にうんざりしている人も多いようで、そんな時、ヒップホップのような新しい文化が、分断を超える役割を果たしているのだ。
スキルとセンスとリリックの内容で評価されるラップの世界では、信仰やバックグラウンドが異なるアーティスト同士が認め合い、リスペクトしあっている。

インドの優れたヒップホップが聴きたければ、この曲に名前が出てくるアーティストを掘ってゆけば間違いない。
この曲は、インドにおけるヒップホップ・カルチャーを讃える美しいアンセムだ。


(Smokey The Ghostについては、以前書いたこの記事でも特集しています)



続いて紹介する曲は、個人的にインドで最高のシンガーソングライターだと思っているPrateek Kuhadの新EPからの曲"Shehron Ke Raaz".
Prateekは昨年アメリカの名門Elektraレーベルとの契約を発表したので、てっきり英語の曲を中心にリリースしてゆくのかと思ったら、意外にも全曲ヒンディー語のEPをリリースしてきた。
アトロクに出演したときに紹介した"Kasoor"も大好評だったが、今回の"Shehron Ke Raaz"も、切ないメロディーと繊細なファルセットボイスが絶品な名曲!

Prateek Kuhadはいつも美しいミュージックビデオを作ることでも知られているが、この作品の映像作家Reema Senguptaとは、2017年の"Tum Jab Paas"以来のコラボレーションとなる。
ノスタルジックな映像の舞台は、ムンバイの老舗イラーニー・カフェである"Excelcior Cafe".(もちろん日本のあのチェーン店とは無関係だ)
イラーニー・カフェとは、19世紀にイランから移住してきたパールスィー(ゾロアスター教徒)やムスリムによって運営される、独自の食文化を提供する飲食店のこと。
近年その数は減少の一途を辿っており、イラーニー・カフェは古き良き時代のムンバイを象徴する存在でもあるのだ。
どこか懐かしさを感じさせるPrateekの音楽にぴったりな映像の舞台と言えるだろう。

タイトルの意味は「街の秘密」。
「今夜、君と僕はこの街の秘密」という歌詞も美しい。
歌詞の英訳はこのリリックビデオで見ることができる。
なお、Cafe Excelsiorを含めたムンバイのイラーニー・カフェについては、Komeさんのブログのこちらの記事に、とても詳しく書かれている。






KASCK"Death To The Crooked"は、このブログでは久しぶりに取り上げるオーセンティックなヘヴィ・メタル。
KASCKはマハーラーシュトラ州プネー出身のスラッシュメタルバンドで、この曲を含むデビューEP"Deal With The Devil"を9月に発表する予定。
プログレッシブ・メタルや技巧的なデスメタルが盛んなインドで、サウンドもタイトルも、ここまで伝統的なヘヴィメタルの世界観を継承しているバンドは珍しい。

だが、ミュージックビデオを見てもらえば分かる通り、楽曲のテーマはヘヴィメタルらしいファンタジーや抽象性とは真逆の、むしろハードコア・パンク的とも言える極めて社会的・政治的なものだ。
歌詞の内容は、盲目的な宗教ナショナリズムによる憎悪、政治や権力の暴走などを扱っている。
インド社会を反映した強烈なアジテーションとド直球なメタル・サウンドの組み合わせが、なんとも言えないカタルシスと高揚感を生む曲だ。



JBABEは、チェンナイのロックバンドF16sのギター・ヴォーカルJosh Fernandezのソロプロジェクト 。
"Punch Me In My Third Eye"は、叙情的なポップロックを奏でるF16sとはうってかわって、90年代のグランジ/オルタナティブ的なエネルギーが爆発した一曲だ。
親に従いインドの伝統的なお見合いの席で顔を合わせたものの、もはや伝統的な価値観を持ち合わせていない若い世代をコミカルな描いたミュージックビデオがとにかく面白い。

両親の間で居心地悪そうに座る男女が、二人きりになった瞬間にあけすけな本音で語り出し、暴れ始めるというあらすじ(想像上の出来事?)で、タイトルも伝統的な考え方を皮肉ったものだろう。
ミュージックビデオ監督のLendrick Kumarという名前にもニヤリとさせられた。

インドの多様性は、言語や文化や宗教といった横軸の広がり、カーストや貧富といった縦軸の格差に加えて、保守的な価値観と新しい考え方という、世代や思想的な面にもおよんでおり、まさに四次元的な多様さを持っていると言える。

インドでは、そうした多様性のせめぎ合いの中で、面白い楽曲が日々生み出されているのだ。




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goshimasayama18 at 22:13|PermalinkComments(0)