PeterCatRecordingCo.

2022年04月03日

インドで洋楽的音楽をどうやって表現するかという問題



あたりまえすぎる話だが、インドという国は、アメリカやイギリスとは全く異なる文化的背景を持っている。
そんな彼らが欧米で生まれたロックやヒップホップを演奏しようとするとき、「インド人であること」とどうやって向き合っているのだろうか、というのが今回のテーマ。

日本でも、欧米由来のポップミュージックを定着させるために、さまざまな手法が編み出されてきた。
例えば、日本語を英語っぽく発音して歌ったり(矢沢、桑田等)、逆に日本語らしい響きをあえてロックに乗せてみたり(はっぴいえんど等)、普通にロックっぽい服や髪型にしても似合わないので、とことん化粧を濃くして髪の毛を極限まで逆だてることで違和感を逆手に取ってみたり(初期ビジュアル系)といった方法論のことである。
日本と比べてインディペンデント音楽の歴史の浅いインドでは、今まさに、インド的な文化と欧米由来の表現をどう両立させるか、いろんなアーティストがいろんなスタイルを確立している真っ最中。
というわけで、今回は、完全な独断で、彼らの取り組み方を3つに分類して紹介してみます。


分類その1:「オシャレ洋楽追求型」

ひとつめのタイプは、インドらしさと欧米の音楽を無理に折衷しようとしないで、もうとことん洋楽的なセンスを追求してしまおう、というスタイル。
ふだんチャパティーにダール(食事として一般的な豆カレー)をつけて食べている現実をとりあえずなかったことにして、パンにジャムを塗って食べてる欧米とおんなじスタイルでやってみました、という方法論だ。
彼らはたいてい英語で歌っていて、音を聴いただけではインド人だとはまったく分からないようなサウンドを作っている。
インドは英語が準公用語のれっきとした英語圏。
英語で教育を受けている若者たちも多く、やろうと思えばこれができてしまうのがインドの底力でもある。

例えば、毎回超オシャレなミュージックビデオを作るコルカタのParekh & Singh.

Parekh & Singh "I Love You Baby, I Love You Doll"


彼らの顔立ちと最後の農村風景でインドのアーティストであることが分かるが、逆にいうとそれ以外はインドらしい要素はまったくないサウンドと世界観だ。

ムンバイの女性R&BシンガーKayanも、毎回オシャレ洋楽風のサウンドとミュージックビデオを作っている。

Kayan "Cool Kids"



あたり前といえばあたり前だが、この手のサウンドを志向するアーティストはほとんどが都会出身。
おそらくだが、彼らはべつに無理してオシャレぶっているわけではなくて(それもあるかもしれないが)、海外での生活経験があったり、ふだんから欧米的なライフスタイルで生活していたりするために、ごく自然とこうした世界観の作品を作っているのだろう。

クラブミュージック界隈にもこの傾向は強くて、例えば俳優のJim Sarbhを起用したこのApe Echoesあたりは音も映像もかなりセンスよく仕上がっている。

Ape Echoes "Hold Tight"



オシャレとは真逆になるが、ヘヴィメタルもこの傾向が強い。
要はそれだけ様式が確立しているからだと思うのだが、彼らがバイクを疾走させるハイウェイには、間違ってもオートリクシャーとか積荷満載の南アジア的デコトラは走っていない。

Against Evil "Mean Machine"



…と、インド人であることを「なかったこと」にして表現を追求するオシャレ洋楽型のアーティストだが、面白いのは、彼らのなかに、サウンドでは洋楽的な音を追求しながらも、ミュージックビデオではインド的な要素を強く打ち出しているアーティストがいるということだ。

例えば、インドのオシャレ洋楽型アーティストの最右翼に位置づけられるデリーのヴィンテージポップバンド、Peter Cat Recording Co.

Peter Cat Recording Co. "Floated By"


バカラック的なヴィンテージポップを退廃的な雰囲気で演奏する彼らのミュージックビデオは、なぜかインドの伝統的な結婚式だ。
ひょっとしたらインドの伝統とオールディーズ的なポップサウンドは、彼らの中で「ノスタルジー」というキーワードで繋がっているのかもしれない。

ケーララ州出身のフォークポップバンドWhen Chai Met Toastの"Yellow Pepar Daisy"は、「未来から現代を振り返る」という飛び道具的な手法で、懐かしさと現代を結びつけている。

When Chai Met Toast "Yellow Paper Daisy"


無国籍的なアニメを導入したEasy Wanderlingsの"Beneath the Fireworks"でも、サリー姿の女性などインド的な要素が見て取れる。

Easy Wanderlings "Beneath the Fireworks"


この、「音は洋楽、映像はインド」というスタイルは、洋楽的なサウンドとインド人としてのルーツが彼らの中に違和感なく共存しているからこそ実践されているのだろう。



分類その2:「フュージョン型」

次に紹介するスタイルは「フュージョン型」。
洋楽的なサウンドとインドの文化的アイデンティティの融合を図ろうとしているアーティストたちだ。
フュージョンという言葉は、インドの音楽シーンでは伝統音楽と西洋音楽を融合させたスタイルを表す言葉として古くから使われてきた。
現代インドでその代表格を挙げるとするならば、例えば、このブログで常々「印DM」として紹介しているRitvizだ。

Ritviz "Liggi"


EDMにインドっぽい旋律をごく自然に融合させ、ミュージックビデオでも伝統と欧米文化が共存しているインドの今をクールに描くRitvizは、まさに現代のフュージョン・アーティストだ。

ヒップホップでフュージョンスタイルを代表するアーティストといえば、ムンバイのSwadesiをおいて他にない。
彼らは政治的・社会的テーマを常に題材にしながらも、インドの大地に根ざした表現を常に意識しており、さまざまな古典音楽や伝統音楽のリズムとヒップホップの融合を試みてきた。
彼らのSwadesiというアーティスト名は、そもそもインド独立運動の一環として巻き起こった国産品愛用を呼びかける「スワデーシー運動」から取られており、その名前からもインドの社会に根ざしつつ、文化と伝統を大事にするというアティテュードが伝わってくる。
この曲では、古典音楽のパーカッショニストViveick Rajagopalanと共演している。

Viveick Rajagopalan feat. Swadesi "Ta Dhom"


彼らは他にも、イギリス在住のインド系ドラマーSarathy Korwarと共演したり、少数民族ワールリー族のリズムやアートを取り入れて彼らの権利を訴えたり("Warli Revolt")と、常に伝統とヒップホップとの接点でありつづけてきた。
大変悲しいことに、Swadesiのメンバーの一人、MC Tod Fodが24歳の若さで亡くなったというニュースが先日飛び込んできた。(この曲では2:44あたりからラップを披露しているのがTodFodだ)
この曲のリリースは2017年なので、当時、彼はまだ19歳だったということになる。
ヒップホップ黎明期のインドで、あまりにも明確にスタイルを確立していたため、彼はてっきりもっと年上のアーティストなのだと思っていた。
インドは今後のインディペンデント・ミュージック・シーンを担う大きな才能を失った。
改めて彼の冥福を祈りたい。


話を戻す。
エレクトロニカの分野でユニークなフュージョン・サウンドを作り出しているアーティストがLifafa.
彼は「オシャレ洋楽型アーティスト」として紹介したPeter Cat Recording Co.のヴォーカリストでもあり、ふたつのスタイルを股に掛ける非常に面白い存在である。

Lifafa "Wahin Ka Wahin"


イントロや間奏で使われているのは、パンジャーブ地方の民謡"Bhabo Kehndi Eh"のメロディー。
極めて現代的な空気感と伝統を巧みに融合させるセンスはインドならでは。
インドでも世界でも、もっと評価されてほしいアーティストの一人だ。

ロックとインド音楽のフュージョンは、ビートルズの時代から取り組まれてきた古くて新しいテーマだ。
インド人の手にかかると、インドの楽器を導入するだけでなく、ヴォーカル的あるいはリズム的なアプローチが取られることが多くなる。

Pakshee "Raah Piya"


Agam "Mist of Capricorn"


古典音楽への深い理解があって初めて再現できるこのサウンドは、単なるエキゾチシズムでインドの要素を取り入れている欧米のロックミュージシャンには絶対に出せない、本場ならではのスタイルだ。

そして第3の分類は、このフュージョン型の派生系とも言えるスタイル。


分類その3:「ステレオタイプ利用型」

他のあらゆる国でもそうであるように、インドでも、リアルなローカル文化と外国人が求める「インドらしさ」には若干の相違がある。
例えば、よく旅行者が土産物屋で買って着ているような、タイダイ染めにシヴァ神やガネーシャ神が描かれたTシャツを着ているインド人はまずいない。
漢字で「一番」と書かれたTシャツを着ている日本人がいないのと同じことだ。
ところが、タイダイに神様がプリントされたTシャツを作って売っているインド人がいるのと同じように、いかにもステレオタイプなイメージをうまく利用して、海外からの注目を集めているアーティストたちが、少ないながらも存在している。

この方法論に気がついたのは、前回紹介したBloodywoodのミュージックビデオを見ていたときだった。

Bloodywood "Dana Dan"


Bloodywood "Machi Bhasad"


サウンド的にはバングラー的なアゲまくるリズムを違和感なくメタルに融合している彼らだが、よく見るとミュージックビデオはなかなかあざとく作られている。
"Dana Dan"のいかにもナンチャッテインド風の格好をした女性ダンサーとか、"Machi Bhasad"のロケ地はラージャスターンなのに突然パンジャーブのバングラー・ダンサーが出現するところとか、「キャッチーなインドっぽさを出すためには多少の不自然は気にしない」というスタンスがあるように感じられるのだ。
念のため言っておくと、別に彼らのこのしたたかな方法論を批判するつもりはない。
YouTubeのコメント欄を見ると、Bloodywoodのミュージックビデオは外国人による賞賛がほとんど。
他のインドのアーティストのYouYubeのコメント欄が、どんなに洋楽的なスタイルで表現しても、インド人のコメントで溢れているのとは対照的だ。
ステレオタイプは偏見や差別の温床にもなりうるやっかいなものだが、ショービジネスにおいては、分かりやすく個性を打ち出し、注目を集めるための武器にもなり得る。

この方法論を非常に有効に使ったのが、フィメール・ラッパーSofia Ashrafだ。

Sofia Ashraf "Kodaikanal Won't"


彼女はグローバル企業の工場がタミルナードゥ州で引き起こした土壌汚染に対する抗議を世界に知らしめるために、サリー姿でNicki Minajのヒット曲"Anaconda"をカバーするという手法を選んだ(しかもラップとはいい意味でミスマッチな古典舞踊つき)。
ショートカットでタトゥーの入った見た目から判断すると、おそらくSofia Ashrafはサリーよりも洋装でいることが多い現代的(西洋的という意味で)な女性だと思うが、この判断は見事に的中し、このミュージックビデオはNicki Minaj本人がリツイートするなど、大きな注目を集め、抗議活動に大きく寄与した。
おそらく、洋楽っぽいオリジナル曲や、典型的なインド音楽で訴えても、南アジアのローカルな問題が世界の注目を集めることは難しかっただろう。
当時、彼女のラップのスキルはそこまで高くはなかったが、このステレオタイプの利用というアイデアが、成功をもたらしたのだ。


ダンスミュージックの分野では、欧米目線で形成されたインドのサイケデリックなイメージを自ら活用する例も見られる。
ムンバイの電子音楽家OAFFのこのミュージックビデオは、伝統的な絵画を使って全く新しい世界を再構築している。

OAFF x Landslands  "Grip"


映像作家はフランス出身のThomas Rebour.
インド的な映像をあえて外国のアーティストに制作させて、新しい感覚を生み出しているのが面白い。


例を挙げればまだいくらでも紹介できそうなのだけど、きりがないので今回はこのくらいにしておく。
何が言いたいのかというと、グローバリゼーションが進んだ結果、世界が画一化してつまらなくなるのかというと、必ずしもそういうわけではなくて、結局やっぱりそれぞれの地域から、ユニークで面白いものが生まれてくるんだなあ、ということ。
いつも書いているようにインドの音楽シーンは爆発的な発展の真っ最中で、これからもますます面白い作品が期待できそうだ。
もちろん、どのスタイルのアーティストでも、積極的に紹介していくつもりです。



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goshimasayama18 at 23:06|PermalinkComments(0)

2021年06月29日

デリーの渋谷系ポップとインディアン・フォークトロニカの話 Peter Cat Recording Co.のフロントマン Suryakant Sawhney a.k.a. Lifafa



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Peter Cat Recording Co.(以下PCRC)は、2009年にヴォーカル/ギターのSuryakant Sawhneyを中心に結成されたバンドだ。
どこか懐かしさを感じさせる彼らのサウンドからは、ジャズ、サイケ、ソウル、ディスコ、ジプシー音楽など、多岐にわたる音楽の影響が感じられる。
彼らは2018年にはパリのレーベルPanacheと契約しており、インドのインディー・アーティストのなかでは、世界的にもそのセンスが評価されているバンドのひとつである。



この"Floated By"と"Where the Money Flows"は、バカラック・マナーのノスタルジックなバラード。



かと思えば、この"Memory Box"はクラシックなディスコ・サウンドだ。
(曲は32秒頃からリズムイン。それにしても8分を超える楽曲は長すぎるけど)

この3曲はいずれも2019年に発表されたアルバム"Bismillah"の収録曲で、このアルバムはRolling Stone Indiaによる年間ベストアルバムのひとつに選出されるなど、高い評価を得た。

もう少し前の時代の彼らの音楽性も興味深い。

この"Portrait of a Time"はオールディーズ・ジャズを思わせる曲だし…


"Love Demons"のように、独特のサイケデリック感覚をたたえた楽曲もある。
このギターのチューニングのゆらぎっぷり!(狂っているとはあえて言わない)

お聴きいただいて分かる通り、彼らのサウンドは、往年のポピュラーミュージックを現代的なセンスで再構築したもので、そこには、物質的には豊かだが退屈な日常への諦念や、その虚無感への対抗手段としての遊び心が存在している。
こうしたスタイルや精神は、日本のインディー音楽史で言えば、「渋谷系」的なアプローチと呼ぶことができるだろう。(音楽性に反して、ビジュアル面では毎回かなり濃いインド色を出しているのが面白い)

それでは、PCRCの中心人物Suryakant Sawhneyという人物は、例えば大滝詠一的なポップミュージック職人なのかというと、ことはそんなに単純ではない。
Suryakantは、自身のソロプロジェクトである'Lifafa'名義で、PCRCとは全く異なる、なんとも形容し難い音楽を発表しているのだ。

2019年にリリースしたファーストアルバムの"Jaago"の冒頭を飾るタイトルチューンでは、宗教音楽を思わせるハルモニウムとヒンディー語のヴォーカルから始まる。
だが、長いイントロが終わると、インド的なサウンドがループされ、有機的ながらも独特なグルーヴが形成されてゆく。

同アルバム収録のNikammaも、インド的な音色のビートの上を漂う気怠げなヒンディー語のヴォーカルが印象的だ。
これはいったい、新しい音楽なのか、懐かしい音楽なのか。
デジタルに反復するビートと、ローカル色の濃い音色とヒンディー語の響き。
あえてLifafaのジャンルに名前をつけるとしたら、「インディアン・フォークトロニカ」ということになるだろうか。

つい先日、Suryakantはコロナ禍のなかLifafa名義のセカンドアルバム"Superpower 2020"をリリース。
あいかわらずインドっぽい要素と現代的な要素が混在した、独特の音楽世界を表現している。


Suryakant曰く、PCRCがギターで作曲したヨーロッパ音楽なのに対して、Lifafaはコンピューターで作曲したヒンディー・オリエンテッドな電子音楽で、さらには政治的・社会的なテーマも扱っているとのこと。
ある記事によると、Lifafaのトラックはボリウッドのクラシックな音源をサンプリングして作られたものだという。
PCRCで欧米のポップミュージックを再構築したように、彼はインドの過去の音楽遺産を再構築して、現代に通じるアートを作ろうとしているのだろうか。


PCRCの中心人物にしてLifafaの張本人であるSuryakant Sawhneyは、そのサウンド同様に、なんとも不思議な経歴の持ち主だ。
船乗りの父を持つ彼は、子供時代の大部分を、地中海を航行する商用船の上で過ごしたという。
父はディーン・マーティンのような古風なポップスのファン、母はヒンドゥーの賛美歌バジャンの歌手だったというから、彼の音楽に見られるヨーロッパ的憂愁や、洋楽ポップスとインドの伝統音楽の影響といった要素は、幼い時期に全て揃っていたのだ。

Suryakantが10代の頃に父が亡くなり、彼は母と共にデリー近郊のグルガオンで暮らすこととなった。
音楽的に恵まれた環境に育ったとはいえ、彼は最初からミュージシャンを目指していたわけではなく、その頃の彼の興味は映像製作の分野に向いていた。
父を亡くしてもなお彼の家庭は裕福だったようで、大学時代は米サンフランシスコに留学し、アニメーションを学んだ。
だが、資金面から映画制作を断念した彼は、次なる表現の手段として、インドに帰国してPeter Cat Recording Co.を結成する。



海外経験のあるアーティストが欧米の音楽ジャンルをインドに導入し、国内のシーンの第一人者になるという現象は、インドでは珍しくない。(例えばレゲエ/スカのSka Vengers, ドリームポップのEasy Wanderlings, シンガーソングライターのSanjeeta Bhattacharya, トラップのSu Realなど)
だが、PCRCにしろLifafaにしろ、Suryakantの音楽に対するアプローチは、単に海外の音楽ジャンルの導入にとどまらないセンスを感じる。
そのスタイルの向こう側に、お手本となったジャンルの模倣に留まらないオリジナリティと精神性が感じられるのだ。



欧米のポピュラー音楽の伝統を踏まえたクールネスと、インドならではのサウンドが、Suryakantという触媒を通して、様々な形象で溢れ出している。
決してメインストリームで聴かれる音楽ではないかもしれないが、彼の音楽がもっと様々な場面で評価されるようになることを願ってやまない。

例えば、PCRCが落ち着いた喫茶店で流れていたり、Lifafaがチャイとインドスイーツが美味しいカフェで流れていたりしたら、すごくハマると思うのだけど。



参考サイト:
https://www.platform-mag.com/music/lifafa-aka-suryakant-sawhney.html

https://www.thestrandmagazine.com/single-post/2020/09/25/in-conversation-suryakant-sawhney-doesnt-fit-in-a-box

https://www.rediff.com/getahead/report/have-you-heard-suryakant-sawhney-sing/20200311.htm





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goshimasayama18 at 21:46|PermalinkComments(0)

2020年01月26日

Rolling Stone Indiaが選ぶ2019年ベストアルバム10選!

毎年紹介しているRolling Stone India誌が選ぶ年間ベストシリーズ、今回は2019年のベストアルバムを紹介します!
(元の記事はこちら)
同誌の編集者が選ぶこのセレクションは、毎年「ボリウッドのようないかにもインドらしい音楽」ではなく「オシャレで洗練された音楽」を選出してくるのが特徴。
日本にもよくある「歌謡曲やアイドルは取り扱わず、作家性が強くてセンスの良いものを紹介するメディア」みたいな傾向があるので、決してインドの主流ではないものの、「インドの先端的なインディーミュージック」と思って読んでみてください
今回は各アルバムを代表する1曲の動画を貼り付けておきます。
Spotifyなんかでも聴けるので、気に入った楽曲があったらぜひアルバムを通して聴いてみてください。

Peter Cat Recording Co. "Bismillah"

Peter Cat Recording Co.はニューデリーで2009年に結成された、インドのインディーミュージックシーンではベテランにあたるバンド。
この"Bismillah"は彼らの久しぶりのアルバムだ(おそらく前作は2012年リリース)。
以前からジプシー・ジャズやボールルームのようなレトロな音楽の影響を強く受けた作風が特徴としているが、今作でもその路線を踏襲。
バート・バカラックみたいに聴こえるところもあれば、曲によってはサイケデリックな要素もある。
過去の優れた音楽をセンスよくまとめるスタイルは、日本でいうと90年代の渋谷系を思わせる。
インドのオシャレ系アーティストの代表格で、フランスのPanache Parisレーベルと契約している。


Parekh & Singh "Science City"

こちらもインドを代表するオシャレアーティストとして有名なコルカタのドリームポップデュオ。
彼らはイギリスのPeacefrogレーベルと契約しており、日本でも高橋幸宏に紹介されたりしている。
今作でもその音楽性は健在で、ウェス・アンダーソン的な世界観ともども確固たる個性を確立している。


The Koniac Net "They Finelly Herd Us"

2011年結成のムンバイのオルタナティブロックバンドで、Stills, Smashing Pumkins, Death Cab For Cutieらに影響を受けているとのこと。
確かに、90年代から2000年ごろのバンドのような質感のあるサウンドで、楽曲も非常によくできている。
Rolling Stone India曰く、「ロックが死んだというやつがいるなら、このアルバムはその復活だ」。


Shubhangi Joshi Collective "Babel Fish"

ギター/ヴォーカルのShubangi Joshi率いるムンバイのインディーポップバンド。
曲はファンクっぽかったりジャズっぽかったり、たまにボサノバっぽかったりする。
ここまで全て英語ヴォーカルの洋楽的サウンドが占めているところがいかにもRolling Stone India的な感じだ。


Blackstratblues "When It's Time"
ムンバイのギタリストWarren Mendonsaが率いるインストゥルメンタルバンド。
2017年のこの企画でもベストアルバム10選に選出されたこのランキングの常連だ。
その時もまったく21世紀らしからぬサウンドで驚かせたが、今作も音楽性は変わらず、ジェフ・ベックのような心地よい音色のフュージョン風サウンドを聴かせてくれている。
ギタリストとしての力量は非常に高いと思うが、音楽の質さえ高ければ、あまり同時代性に関係なく選出されるのがこのランキングの面白いところ。
ちなみにWarren Mendonsaはボリウッド音楽のプロデューサー集団として有名なShankar-Eshaan-LoyのLoy Mendonsaの甥にあたる。


Lifafa "Jaago"

ここにきてようやくインドらしさのあるサウンドが入ってきた。
Lifafaは冒頭で紹介したPeter Cat Recording Co.のヴォーカリスト、Suryakant Sawhneyのソロプロジェクトで、バンドとはうってかわって、こちらではエレクトロニカ的なサウンドに取り組んでいる。
無国籍な音になりがちなエレクトロニカ・アーティストのなかでは珍しく、彼はインド的な要素を大胆に導入して、独特の世界観を築き上げている。
そのせいか、不思議な暖かさがあり、妙にクセになるサウンドだ。


Divine "Kohinoor" 

2019年はインドのヒップホップ界にとっては飛躍の年だった。
その最大の理由は、映画『ガリーボーイ』のヒットによって、それまでアンダーグラウンドなカルチャーだったヒップホップが広く知られるようになったこと。
Divineはインドのストリートヒップホップ創成期から活躍するムンバイのラッパーで、『ガリーボーイ』の主人公の兄貴分的なキャラクターであるMCシェールのモデルとしても注目された。
今作は自身のレーベル'Gully Gang Entertainment'からのリリースで、同レーベルのShah RuleやD'evilらが参加している。
『ガリーボーイ』のエグゼクティブ・プロデューサーを務めたNasによるインタールードも収録されており、「メジャー感」で他のアーティストと一線を画す内容。
表題曲のイントロや、Chal Bombayのビートなど、レゲエっぽい要素が入ってきているところにも注目したい。
個人的にはダンスホール・レゲエやレゲトンはもっとインドで流行る可能性のある音楽だと思っている。
最近のボリウッド系の曲ではかなりレゲトン的なビートが使われていて、それゆえにアンダーグラウンド・ヒップホップ界隈では敬遠されていたのかもしれないが、今後どうなるだろうか。
このDivine、ムンバイのヒップホップシーンのアニキ的な立ち位置を確立しており、日本でいうとZeebra的な存在、のような気がする。


Arivu x ofRo "Therukaral"


日本語で「浴びる、お風呂」みたいな名前の二人組は、インド南部タミルナードゥ州のヒップホップユニット。
今作は、日本でも映画祭で公開された『カーラ 黒い砦の闘い(原題"Kaala")』の監督パー・ランジットによる音楽プロジェクト、その名もCasteless Collectiveの一員でもあるラッパーArivuと、プロデューサーのofRoによるプロジェクトによるファーストアルバムにあたる。
Casteless Collectiveではカースト制度に反対するメッセージを、タミルの伝統音楽Gaanaとラップを融合した音楽に乗せて発信していたが、このユニットでは、政治的なメッセージはそのままに、よりヒップホップ色の強いスタイルに取り組んでいる。
この"Anti-Indian"は、「タミル人としてのアイデンティティを持っていることが、北インドのヒンドゥー的な価値観のナショナリストにとっては『反インド的』になるのか?」という痛烈なメッセージの曲のようだ。


Taba Chake "Bombay Dreams"

「茶畑」みたいな変わった名前の彼は、インド北東部アルナーチャル・プラデーシュ州出身のシンガー・ソングライターで、現在ではムンバイを拠点に活動をしている。
ギターやウクレレの音色が心地よいアコースティックな質感のアルバムで、ちょっとジャック・ジョンソンみたいな雰囲気もある。
いわゆる「インドの山奥」であるインド北東部には、この手の南国っぽいアコースティック・サウンドのアーティストが結構いるのだが、地元の伝統音楽との親和性があるのだろうか。
このアルバムは曲によって英語、ヒンディー語、そしてアルナーチャルの言語であるニシ語の3つの言語で歌われており、自身のルーツに対する彼のこだわりも感じられる。


Winit Tikoo "Tamasha" 

カシミールのフュージョン・ロック(伝統音楽とロックの融合)バンド。
以前紹介したベストミュージックビデオに続いて、混乱が続くカシミールのアーティストがここにもランクインした。
以前Anand Bhaskar Collectiveを紹介したときにも感じたことだが、北インドの伝統音楽風の歌い方は、グランジ風の演奏に非常に合うようだ。
Pearl JamのEddie Vedderのような声の揺らぎがあるのだ。
そう考えると、かつて映画『デッドマン・ウォーキング』のサウンドトラックでEddy VedderとNusrat Fateh Ali Khanを共演させた人は、ずいぶん早くこのことに気づいていたのだなあ、と思う。


と、ざっと10枚のアルバムを紹介してみた。
「今のインドでかっこいい音」であるのと同時に、地域の多様性やアクチュアルなメッセージ性にも配慮したラインナップであると言えるだろう。
欧米の音楽への憧れが具現化したようなものもあれば、「インド人としてのルーツ」が入っているものもあるのが、いつもながらインドの音楽シーンの面白いところ。

昨年、一昨年のベスト10と比べてみるのも一興です。





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goshimasayama18 at 14:19|PermalinkComments(0)

2020年01月04日

Rolling Stone Indiaが選ぶ2019年のベストミュージックビデオ11選

今年もRolling Stone India誌が選ぶ2019年のベストミュージックビデオが発表された。
例年なら10選であるところ、今回はなぜか中途半端な11選。
二部作になっているものもあるので、そういう意味では12選ということになる。

インドのミュージックビデオは近年加速度的にその質を向上させており、今年も見ごたえのある作品が選ばれている。
例によってとくに順位はつけられていないのだが、ウェブサイトで紹介された順番に、さっそく見ていこう。

The Local Train "Gustaakh"


The Local Trainはデリーを拠点に活動する活動するヒンディー語で歌うロックバンド。
この"Gustaakh"は彼らが2018年に発表したセカンドアルバムからのミュージックビデオとなる。
彼らは毎回ショートフィルム風の凝った映像を作っていて、過去にもロードムービー仕立ての"Khudi"のミュージックビデオが2017年のRolling Stone Indiaのベストミュージックビデオとして選出されている。
今回はコマ撮りによる近未来SFという新機軸で、ムンバイの映像作家Vijesh Rajanによる作品。
日本生まれのカルチャーである「怪獣映画」は、近年ハリウッドでのリメイクが相次いでいるが、その波がインドまで届いていると思うと感慨深いものがある。


Vasu Dixit "Nadiyolage"

Vasu Dixitは映画のプレイバックシンガーとしても活躍するシンガーRaghu Dixitの弟で、ベンガルール(バンガロール)を拠点に活動するバンドSwarathmaのヴォーカリスト。
この曲でもバンドと同様に伝統音楽を現代的/幻想的にアレンジしたフュージョンフォークサウンドを披露している。
Swarathmaとしても、2018年に発表したアルバム"Raah-E-Fakira"がRolling Stone Indiaの年間ベストアルバムに選ばれており、欧米的洗練を評価することが多い同誌にも、その音楽センスは高く評価されている。
この楽曲は、ベンガルールの詩人Mamta Sagarのカンナダ語の詩(「川の詩」という意味らしい)がもとになっているとのこと。
CGアニメーションによる映像は、やはり同郷ベンガルールのアニメ作家Rita Dhankaniによるもので、水や生命をテーマにした幻想的な映像は、一瞬も目が離せないほどに美しい。
この手の映像を作らせるとインドのアーティストは本当に素晴らしい才能を見せるが、それはやはり彼らの哲学や宇宙観によるものなのだろうか。
幻想的なアニメによるミュージックビデオは、先日紹介したEasy WanderlingsGouri and Akshaなども発表しており、最近のインドの音楽シーンのトレンドのひとつになっている。


Black Letters "In My Senses"

Black Lettersはケーララ州出身でベンガルールを拠点に活動しているポストロックバンド。
彼らもまた毎回優れた映像作品を発表していて、2017年にも"Falter"という曲がRolling Stone Indiaが選ぶベストミュージックビデオに選出されている。
このビデオに見られるような、レトロ/ローファイ感覚のサウンドや映像は、インドのインディー音楽シーンの新しいトレンドだ。
シーンの成熟にともなって、古い時代を古臭いダサいものとして扱うのではなく、クールなものとして再定義する感覚が、インドでも芽生えてきているのだ。


Parekh & Singh "Summer Skin"

インドのインディーロックファン(自分とマサラワーラー鹿島さん以外にいるのか不明だが)にはおなじみのコルカタ出身のドリームポップデュオ。
彼らはイギリスのレーベルPeacefrogと契約しており、日本でも高橋幸宏に紹介されるなど、国際的にも高い評価を得ている。
ウェス・アンダーソンを思わせるポップな色使いと世界観はこの"Summer Skin"でも健在で、これまでも彼らのビデオを手がけてきた映像作家のMisha Ghoseが今作も制作している。
Parekh & Singhは衣装から小道具まで、毎回かなりこだわったビデオを作っており、その制作費はどこから出ているのか非常に疑問に思っていたのだが、どうやら「実家がとんでもない大金持ち」というのがその真相らしい。
それでもここまで凝った世界観を構築するのは簡単なことではない。
彼らのこだわり抜いた姿勢にあらためてリスペクトを捧げたい。


Small Talk "Tired"

このミュージックビデオはムンバイのオルタナティブバンドSmall Talkのデビュー作品で、同郷ムンバイの映像作家兼ミュージシャンのJishnu Guhaが手がけている。
ポップでモダンな都市生活に、少しの空虚さと孤独感を感じさせる作風は、先進国の都市文化に通じる感覚と言えるだろう。
世界的な視点で見ると、けっして新しい種類の作品ではないかもしれないが、こうした感覚の映像がインドでも作られるようになったという意義が評価されてこのリストに選出されたものと思われる。


Parikrama "Tears of the Wizard"

20年のキャリアを誇るデリーのベテランハードロックバンドの初のミュージックビデオ(とRolling Stone Indiaは紹介していたが、私の知る限り、彼らは以前にもミュージックビデオを制作している)。
この作品は、黒い衣装に身を包んで荒野で演奏するという、メタルバンドに非常にありがちなもの。
音楽的にも映像的にも急に古典的なものが入ってくるあたり、やはりインドは一筋縄ではいかない。
この曲調にギターソロではなくバイオリンソロが入ってくるのはインドならではだ(バイオリンはインド古典音楽の楽器として、とくに南インド音楽でよく使用されている)。
やはり「欧米っぽいものをインド人が作った」ことを評価しての選出なのだろうか。


Peter Cat Recording Co. "Floated By"

2009年にデリーで結成された彼らは、強いて言えばオルタナティブ・ポップバンドと呼ぶことができるだろう。
ジプシー・ジャズなどを取り入れ、インドではかなり古くからオシャレでセンスの良いサウンドを聴かせていたバンドのひとつだ。
今作では、バート・バカラックあたりの影響を感じさせる渋谷系的なサウンドを披露している。
昔ながらの結婚式の映像を合わせるセンスは、Black Lettersの"In My Senses"同様に、伝統とモダンの融合を試みたものだ。
ちなみに結婚式のシーンは、ヴォーカルのSuryakant Sawhneyの実際の結婚式の映像が使われているとのこと。
こんなに現代的なサウンドを作るアーティストでも、結婚式は完全に伝統的なスタイルで行っているのが面白い。


The F16s "Amber"

The F16sは2012年結成のチェンナイのインディーロックバンド。
この作品も、前述の通りインドの音楽シーンでトレンドとなっているアニメによるミュージックビデオで、アーメダーバードのアニメーション作家Deepti Sharmaが制作している。
インドのアニメのミュージックビデオでは、スタジオジブリなどの日本のアニメーションの影響を感じる作品も多いなかで、このビデオではアメリカのカートゥーン調の映像が効果的に使われている。
扱われているテーマは、インターネット、パーティーカルチャー、返信願望、孤独感、そして自己の喪失といったグローバルな現代都市文化に共通して見られるもの。
1:56に一瞬寿司が出てくることにも注目!
寿司はここ最近のインドのフィクション作品のなかで、「モダンで奇妙な食べ物」として象徴的に扱われることが多い。
インドでも大都市を中心に寿司店が増えてきているが、「生魚を食べる」というインドとは真逆の食文化は、インド人にとってそれだけインパクトがあるものなのだろう。
それにしても、インドのインディーバンドのミュージックビデオに寿司が出てくるなんて、少し前までは想像もできなかった。


Your Chin "Luv Important"

Your Chinはムンバイのエレクトロニック・ポップアーティストRaxit Tewariによるソロプロジェクト。
彼はオルタナティブ・ロックバンドSky Rabbitの中心メンバーとしても活動している。
シュールな世界観のミュージックビデオはクラブミュージック系の音楽にありがちなものだが、やはりインドのアーティストがこの「ワールド・クラス」の作品を作ったということに意義がある。


Aabha Hanjura "Roshwalla" Part1 and Part2


Aabha Hanjuraは、ベンガルールで活動する女性シンガーで、印パ、ヒンドゥー/ムスリムの対立が続く北部カシミール地方の音楽を現代風にアレンジして歌っている。
衣装や顔立ちからすると、彼女自身もカシミール系のようなので、紛争の難を逃れて活動拠点を南部ベンガルールに移してきたのかもしれない。
コチを拠点にしたプロダクションMadGeniusによるミュージックビデオは、劇中で人形劇が繰り広げられるというメタ構造。
パート1の人形劇では古い価値観の権威に引き裂かれる恋人たちが描かれ、パート2では彼らが愛と意志の力で圧迫を乗り越える様が描かれている。
カシミール地方は、1947年の印パ分離独立にともなって両国に分断されて以来、悲劇にさらされ続けている土地だ。
インド領のカシミールは、全人口の8割をヒンドゥー教徒が占めるインドでは例外的にムスリムが多数派を占める地域となった。
この地域では、カシミールの独立やパキスタンとの併合を目指す運動が盛んに行われ、武装勢力によるテロ行為やその弾圧を目的とした政府側の暴力行為によって、多くの血が流された。
それでも、インド独立以降、この地域はジャンムー・カシミール州として、他州同様の自治権が与えられていた。
ところが、昨年10月、ヒンドゥー至上主義的な傾向を持つBJP(インド人民党)のモディ政権は、ジャンムー・カシミールの州の自治権を剥奪し、連邦直轄領としてしまう。
これに対する抗議運動を抑えるため、中央政府はカシミール地方のインターネットを遮断し、4ヶ月以上にも及ぶ封鎖を続けている。
ロックと伝統音楽と融合した音楽性は今聴くと少し古臭く聴こえるし、映像も選出された他のミュージックビデオに比べると垢抜けなく見えるかもしれないが、Rolling Stone Indiaは、こうした時代背景を考慮したうえで、この楽曲とビデオが持つメッセージが与えうる希望を評価して、ベストミュージックビデオのひとつに選出したという。
こう見えて、じつは社会的なメッセージのある一曲なのだ。


Uday Benegal "Antigravity"

Uday Benegalは、老舗ロックバンドIndus Creedのヴォーカリスト。
Indus Creedの前身は1984年にムンバイで結成されたRock Machineだから、インドのロック史上では最古参と呼べるほどのベテランシンガーということになる。
この楽曲は、インド音楽界の超大物A.R.ラフマーンとボリウッドの音楽プロデューサーClinton Cerejoが立ち上げたデジタルメディア企業Qyukiグループによって立ち上げられた、英語で歌うインド人アーティストを世界に売り出すためのプロジェクト'Nexa Music'の一環としてリリースされたもののようだ(ちなみにこのプロジェクトは日印合弁企業のMaruti Suzukiによって支援されている)。
大手がバックについているだけあって、モダンヘヴィロック風の楽曲も、'antigravity(反重力)'を映像化したミュージックビデオも非常にクオリティが高く、すでに500万回を超える再生回数を叩き出している。
映像はドバイを拠点に活動する映像作家のTejal Patni.
英語話者数ではアメリカに次ぐ人数を誇るインドが、本格的に英語ポピュラーミュージックのマーケットに進出することができるのかどうか、非常に興味深い試みだ。


ざっと11曲を見てみたが、今年は映画『ガリーボーイ』による空前のストリートラップブームが巻き起こっていたにも関わらず、ヒップホップからの選出がゼロだったことに驚いた。
個人的には、Dopeadeliczの"Aai Shapath Saheve Me Navtho"や、MC AltafとD'Evilが共演した"Wazan Hai"(いずれもムンバイ最大のスラムであるダラヴィ出身のラッパー)あたりは選出されても良かったように思う。
(彼らのミュージックビデオは「Real Gully Boys!! ムンバイ最大のスラム ダラヴィのヒップホップシーン その1」参照)
ヒップホップシーンがすでに成熟し、表現が類型化してきたことが「ヒップホップ外し」の理由かもしれないが、この企画は、多分にRolling Stone Indiaの編集方針による恣意的な部分が大きいので(例えば、バングラーラップなどのボリウッド的な大衆性の強いものは例年選出されない)、単に選者の好みなのかもしれない。
それでもこうして11曲を並べて見てみると、インドのインディペンデント系音楽カルチャーのトレンドが読み取れるように思う。

今年とくに目立ったのは、アニメーションの流行だ。
インドでは多くの若手アーティストが日本のアニメを見て育っており、おそらくはその影響が少なからずあるものと考えられる。
(もちろん、インドは映像系アーティストの人材が豊富で、またインディミュージシャンにとっては、予算の都合などで実写では表現できない映像を簡単に作れるという理由もあるだろう)
インドにおける東アジア系カルチャーは、音楽ではK-Popの人気が圧倒的だが、映像においては日本のアニメの存在感が非常に大きい。
なにかと英米志向の強いインド人だが、今後、映像や音楽の分野でアジアのカルチャーの影響がどのように開花するのか、今後も注目して見てゆきたい。

また、「古き良きインド」的なものを、ノスタルジーとしてではなく「キッチュでクールなもの」として描く傾向も近年目立ってきている。
こうした表現は、伝統文化と若者文化の間にある種の断絶があるからこそ可能なものであり、「変わりゆくインド」を象徴するものと言えるだろう。
一方で、「モダンな都市生活」を描くときに、それを憧れの対象としてではなく、虚無感や孤独感をともなったものとして描く作品も目立つようになった。
こうした傾向は今後も加速してゆくものと思われるが、その中で世界的に評価される作品が生み出されるのか、あるいはインドならでは面白さにあふれた作品がとび出してくるのか。
いずれにしても、近年急速に進歩しているインドの音楽シーンやミュージックビデオから、ますます目が離せなくなりそうだ。


過去の映像作品と比べてみるのも一興です!




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goshimasayama18 at 06:12|PermalinkComments(0)