NH7Weekender

2019年08月31日

インド北東部のロック・フェスティバルは、懐かしのメタル天国だった!

先日、インド北東部アルナーチャル・プラデーシュ州の辺境で行われる究極の音楽フェス、Ziro Festival of Musicについて紹介した。
インド北東部は一般の旅行者があまり足を踏み入れることの少ないエリアではあるが、じつは、Ziro以外にも数多くのロック系フェスティバルが行われるフェス天国なのである。
まずはインド北東部の地理的なおさらいから。
この地図で赤く塗られている部分に注目してほしい。
インド北東部地図NEとシッキム
インド主要部と北東部との間の、南からえぐられているように見える場所にはバングラデシュがあり、北から押しつぶされているように見える場所はブータン、そしてすぐ西にはネパールが位置している。
インド北東部
インド北東部とは、この地図に書かれた7つの州(7 Sisters States)に、ブータンとネパールに挟まれたシッキム州を含めた地域のことだ。

インド北東部には、インドの大部分とは異なりモンゴロイド系の民族が多く暮らしている。
北東部は典型的なインド文化(ヒンドゥー/イスラーム系統の文化)の影響が薄く、クリスチャンの割合が多いこともあって、欧米文化の受容が進んでおり、かなり早くからロックミュージックが人気となっていた地域でもある。
今回は、ここ北東部で行われる音楽フェスティバルが、予想のかなり斜め上をゆく実態だったので、その様子をお伝えしたい。

ほんの数十年前まで首狩りが行われていた秘境、ナガランド州では、毎年12月にHornbill International Music Festivalが開催されている。
これは、ナガランド独自の豊かな文化を継承し広めてゆくことを目的に開催されるHornbill Festivalの一部として行われるもので、毎年多くの観客を集めている。
ちなみにHornbillとは、ナガランドの象徴である大きなクチバシとツノのような突起を持つ鳥「サイチョウ」のこと。

このHornbill International Music Festivalは、地元のアーティストの演奏だけでなく、K-Popアイドルのライブ(3:52〜)や、なんと珍しいBlues Night(8:32〜)なども行われており、外国籍を含めた多彩なアーティストが出演している辺境らしからぬフェスだ。

他の州にも注目すべきフェスはある。
インド北東部最北端のアルナーチャル・プラデーシュ州Dambukでは、毎年12月にOrange Festival of Adventure & Musicが行われている。
このフェスは、「インドで最初のアドベンチャーと音楽の祭典」と言われており、一時休止していたものの2015年から再び開催されるようになった。
このイベントも、単なる音楽フェスではなく、地元文化の紹介や、さまざまなアウトドア体験なども行われる多彩な内容のものだ。

「アドベンチャーと音楽のフェスティバル」だけあって、ライブの模様の紹介は3:00頃から。
このOrange Festivalにも地元のバンドから海外勢まで、多彩なミュージシャンが出演して大いに盛り上がっているようだ。


「インドのロックの首都」と呼ばれるメガラヤ州のシロンでは、全国のさまざまな主要都市で開催されている音楽フェスのNH7 Weekenderの北東部版が行われている。
このNH7 Weekenderは、他の都市ではサマーソニックのような都市型フェスとして行われているが、ここシロンではフジロックのように山岳部の豊かな自然のなかで開催されている。
'The happiest music festival'のキャッチコピーの通り、こちらもかなり楽しそうな様子のフェスだ。

それぞれのフェスについてはまた改めて紹介しようと思っているのだが、今回注目したいのは、これらのフェスで招聘されている欧米のアーティストについてだ。

まずHornbill Festivalから見ていこう。
このフェスの2015年のヘッドライナーは、なんとジャーマン・メタルの代表的バンドHelloween!
メタル系に絞ったフェスでもないのに、Helloweenがトリを務めるっていうのはちょっとすごいことだ。
その前年には、ヴィニー・ムーア(マイケル・シェンカーが在籍していたことで有名なUFOの現リードギタリスト)を招聘しているというから、これまた驚かされる。

さらに、アルナーチャルのOrange Festivalでは、2016年には、元祖ネオクラシカル系速弾きギタリストの「王者」ことイングヴェイ・マルムスティーンを、2017年には元Poison、元Mr.Bigのギタリストのリッチー・コッツェンをトリに据えている。
北東部はそんなにメタル/ハードロック系ギタリストが好きなんだろうか。

それだけではない。
シロンのNH7 Weekenderでは、2015年にはアメリカの'スラッシュメタル四天王'のひとつメガデスを、2017年にこちらも天才ギタリストのスティーヴ・ヴァイをヘッドライナーにしているというから、もう筋金入りである。
シンコーミュージックの「ヤングギター」(メタル系ギタリストがよく掲載されているギター教則雑誌)が後援で、ウドー音楽事務所が仕切っているんじゃないかというラインナップだ。

フェス以外でインド北東部でのライブを行った海外のアーティストも強烈だ。
年代順にアーティスト名とライブを行った土地を書いてゆくと、

2004年
Firehouse(アメリカのポップなハードロックバンド):メガラヤ州シロン、ナガランド州ディマプル、ミゾラム州アイゾール

2007年
エリック・マーティン(Mr.Bigのヴォーカリスト):シロン、ディマプル
Scorpions(ドイツの大御所ハードロックバンド):シロン

2008年
White Lion(アメリカのメタルバンド):シロン

2009年
Mr.Big(アメリカの技巧派揃いのハードロックバンド):シロン、ディマプル

2012年
Firehouse(2004年に続いて):ディマプル、マニプル州インパール
Stryper(アメリカのクリスチャン・メタルバンド):ナガランド州ディマプル、同州コヒマ

2013年
Hoobastank(アメリカのロックバンド):シロン

みなさん、このバンドたちをご存知だろうか?
いずれも1980年代〜90年代に活躍した往年のメタルバンドで、ついてこれるのはアラフォーの元メタル好きだけなのではないかと思う。(唯一、Hoobastankだけは21世紀のバンド)
インド北東部の人たちは"Burrn!"(日本が誇るヘヴィメタル雑誌。欧米での人気に関わらず、日本での人気の高いバンドを中心に取り上げる)を熟読しているんじゃないかっていうラインナップだ。
っていうか、自分も高校生の頃にBurrn!を読んでなかったら分からない顔ぶればかり。
北東部のロックファンは、FirehouseやWhite Lionの曲をちゃんと知っていて、ライブで盛り上がれるのだろうか。
ひょっとしたらインド北東部では伊藤政則(日本が誇るヘヴィメタル評論家)のラジオ番組が聴けるのかもしれない。

ライブで客席に聖書を投げることで有名な'クリスチャン・メタルバンド'Stryperが入っているのは、キリスト教徒が多い土地柄を反映しているものと思われ、2019年にはWhitecrossというまた別のアメリカのクリスチャン・メタルバンドもディマプルとシロンでライブを行っている。 
 
興味深いのは、これらのバンドがムンバイやデリーといった大都市をツアーしたついでにインド北東部に来ているのではなく、むしろインド北東部をツアーするためだけにインドに来ている例がほとんどだということである。 
FirehouseやStryperはインド主要部の大都市には目もくれずに北東部のみをツアーしているし、日本でも人気の高いMr.Bigも、ムンバイにもデリーにも寄らずに、バンガロールと北東部のみでライブを行っている。
つまり、北東部は、インドのなかでもそれだけ音楽の趣味が特殊ということなのだ。
メタルに関して言えば、インド主要部では、デスメタルのような、よりヘヴィなバンドが人気だが、インド北東部は日本同様に、メロディックでポップなメタルバンドが根強い人気のようで、モンゴロイド系民族としての共通点を感じさせられる。

それにしても、既視感のある光景だ。
90年代のグランジ/オルタナティブブーム以降、欧米では人気のなくなったメタルバンドが、まだ人気を保っていた日本によくツアーに来ていたものだが、それと同じような現象が、いまインド北東部で起きているのだ。 

かつて、日本でのみ人気のあった外国のバンドが'big in Japan'などと呼ばれて揶揄されていたが、それと同じようなことも起きているのかもしれない。
2018年のHornbill Festivalでは、韓国ではまだデビュー前のアイドルグループMONTがコンサートを行ったが、それはもう大変な歓迎っぷりと盛り上がりだった。
北東部の人たちは、国際的に有名かどうかにかかわらず、外国からくる華やかなアーティストにとにかく飢えているのだろう。
このへんも、往年の日本を思わせるような状況だ。
(よく知られているように、QueenやBon Jovi, Cheap Trickなどの世界的人気バンドは、最初は日本から人気に火がついた)

メタル以外の招聘アーティストもなかなかに香ばしい。
Hornbillでは2017年にドイツのディスコ・グループBonny M(「ラスプーチン」などのヒット曲で有名。彼らの「バハマ・ママ」は日本の一部の地域の盆踊りにも使われている)を呼んでいるし、Orange Festivalも同じ年にドイツの電子音楽グループTangerine Dreamを招聘している。
メタルではないが、2015年のHornbillではABBAのトリビュートバンドを呼んでいるのも面白い。

以前、インド北東部のメタル人気の高さを検証する記事や、シッキム州の人とマニアックなロック談義をしたという思い出話を書いたことがあるが、北東部の人々音楽の好みには本当に驚かされるばかりだ。

こうした「旬を過ぎた」バンドが北東部のみを回るツアーをしている一方で、Iron MaidenやBon Joviのような超ビッグネームのバンドは、ムンバイなどの主要部の大都市だけをツアーしており、おそらくギャラやスケジュールの都合だと思うが、北東部には来てくれていない。
そのため、北東部の人たちは、代わりにわざわざ欧米からコピーバンドを呼んで、これまた大いに盛り上がっている。
Hornbill Festivalでは2014年にBon JoviのトリビュートバンドBon Gioviを、Orange Festivalでは2018年にメンバーが全員女性のIron MaidenのトリビュートバンドIron Maidensを呼んでいる。

最後に、北東部でのメタル系アーティストのライブの様子をお届けすることとしたい。
まずは、Hornbill FestivalでのHelloweenのライブ。
不安定なオーディエンス・ショットだが、その分観客の盛り上がりがダイレクトに伝わってくる。

ナガランドのメタルファンたちも『守護神伝 第二章』、聴き込んでるみたいだ。
別の動画だと、"I Want Out"で盛り上がっている様子も撮影されていて、インド中央政府から抑圧的な扱いをされ続けているナガの人々が、彼らの曲に自分たちの境遇を重ね合わせているのかもなあ、としみじみ思ったりもした。

続いてはアルナーチャル・プラデーシュ州のOrange Festivalでの王者イングヴェイのライブ。
こちらもかなりたくさんの人が集まって盛り上がっている。

へー、今キーボードの人がヴォーカル兼任なんだな。
どうでもいいけど、キーボードを弾きながら歌うメタルのヴォーカリストって初めて見た。
久しぶりに見た王者は一時期に比べてずいぶんシェイプアップしていて、ギタープレイも絶好調!

「インドのロックの首都」メガラヤ州シロンでのメガデスのライブも大盛り上がり!



 Steve Vaiのライヴには、最近B'zのツアーメンバーとしても活躍しているインド出身の女性バカテクベーシスト、Mohini Deiがゲスト出演している。



ナガランド州ディマプルでのMr.Bigのライブから、"To Be With You"での大合唱の様子。


より知名度が落ちるはずのStryperでもこの盛り上がり!

1986年リリースのこの曲をリアルタイムで聴いているとは思えない若いお客さんが多いが、この人気はいったいどこからやってくるのだろう。

Firehouseのバラード"I Live My Life For You"もほとんどのオーディエンスはばっちり歌えるようだ。

Wikipediaによると、彼らは全米での人気が失速した後も、日本、タイ、マレーシア、フィリピン、インドネシア、シンガポールなどアジア諸国では高い人気を保っているそうなので、こうしたキャッチーな曲調が東アジア人の琴線に触れるのかもしれない。

MCのときの声色もジョン・ボンジョヴィそっくりなBon Giovi.

完コピ!これはこれで見て見たいかも。

女性コピーバンドのIron Maidensは演奏はいまいちだが、この盛り上がり。


実際にインドでは、Girish and ChroniclesPerfect Strangersのような実力派バンドによる有名バンドのトリビュートイベント(要は、ひたすらカバー曲を演奏する)も頻繁に行われているのだが、やはり本場の欧米から来たバンドは本物っぽさが違うということなのだろう。
このあたりのロックとの距離感は、我々日本人にとってもなんとなく共感できるものだ。
インド北東部、やっぱりものすごく面白い。

それではみなさんまた来週。
See ya! 
(高校生のころ聴いていた伊藤政則のラジオはいつもこんなふうに締められていたのを思い出したもので、つい)


(この後、2019.9.14加筆)
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goshimasayama18 at 12:41|PermalinkComments(0)

2019年04月09日

ただただ上質で心地よいメロディーとハーモニー! Easy Wanderlings

インドっぽいサウンドやテーマのミュージシャンを紹介することが多いこのブログだが、インドには、インドらしさの全くない無国籍でオシャレなサウンドを追求しているアーティストもたくさんいる。
しかしながら、彼らの音楽を欧米のトップミュージシャンたちと比較すると、まだまだ匹敵するクオリティーのものは少ないのもまた事実。
結果的に、インドらしさのある音楽のほうが、日本に住む我々から見るとユニークだったりかっこよかったりするので、どうしても紹介するアーティストの多くがインドっぽい要素を持つ人たちになってしまうのだ。

そんな中、今回紹介するアーティストは、インドらしさ皆無にして、同時に素晴らしく質の高いポップミュージックを作っている。
そのバンドの名前は、Easy Wanderlings.

バンドのFacebookによると、マハーラーシュトラ州の学園都市プネーを拠点に活動するドリームポップ/インディー/ソウルバンドとある。
さっそくその音楽を聴いてみよう。

彼らが2017年にリリースしたアルバム"As Written in the Stars"から、"Enjoy It While It Lasts"

どうだろう。
まるで淡い水彩画のような美しい音楽。
シンプルなようでいてじつに緻密に、必要な音が必要な場所に、過剰な主張をせずに置かれている。

同じアルバムから"Dream To Keep Us Going".

このビデオは、彼らの地元プネーで行われたNH7 Weekender Festivalのドキュメンタリーを兼ねた作りになっている。
静かなイントロから温かい音色のエレキギターのフレーズが始まり、男女のヴォーカルの掛け合いやハーモニーが続くドラマティックな構成の曲だが、聴き心地はあくまでもメロウでソフト。
音が余計な邪魔をしない、居心地の良いカフェのような音楽だ。

彼らは、自分たちの音楽を「1日の仕事を終えた後のような、日曜日にのんびりと窓の外を眺めているような、あるいは真夜中の散歩をしているときのような気分を作るもの」と語っているが、まさにそんな時間に聴くのにぴったりのすばらしいサウンドだ。
私も最近は、帰りに一駅分夜道を歩きながら聴いたり、車窓の風景をぼんやりと眺めながら聴いたりしているが、そうすると日常を流れる時間の心地よさがぐっと増すような、そんな不思議な魅力が彼らの音楽にはある。

Easy Wanderlingsの音楽を紹介する記事には、ソウルフル、ドリーミー、ソフト、ポップといった言葉が並ぶ。
彼らの音楽はインドでも高い評価を得ていて、まだ活動開始後間もないにも関わらず、VIMA Music AwardsのChill Song of the Yearや、Beehype Magazineの2017年ベストアルバムなど、数々の賞を受賞している。

この叙情的でありながらも押し付けがましさの全くない音楽には、 彼らの独特の哲学が反映されているようだ。
彼らは「音楽こそが主役であり、表現者が注目を集めるべきではない」という思想のもとに活動しているらしく、その哲学に関しては、Facebookのページにもメンバー名すら載せていないほどの徹底ぶりだ。 
(同じようなコンセプトに基づいて作られた名盤といえば、イギリスのロックバンドTravisが2001年に発表した"Invisible Band"を思い出す。Travisのほうがサウンドはよりロックだが、聴き心地の良さの質感はEasy Wanderlingsともよく似ているように思う)

そんな彼らなので、ウェブ上で得られた情報は非常に少なかったのだが、どうやらEasy Wanderlingsはフルートやバイオリンを含めた8人組のバンドのようだ。
彼らは2015年にサンフランシスコでギターのSanyanthとベースのMalayによって結成され、現在はプネーを拠点に活動を続けているらしい。

ただ、コロンビアのボゴタに滞在していた時に作った曲や、海外を拠点にしているメンバーもいるという情報もあり、単にインドのバンドという一言では片付けられない一面もある。

そのボゴタで作ったという曲。


I'm 25 tomorrow, should I be worried?
 明日で僕は25歳になる 僕は悩むべきなんだだろうか
Half my life is gone past, incomplete resolutions
 人生の半分が過ぎても、分からないことだってまだまだある
Tired of fighting myself, it's together from now on. 
自分との戦いにはもううんざりだ これからは自分と仲良くやってゆくよ
I’m getting off this treadmill and walk the stony road.
ランニングマシンを降りて、石造りの道を歩くんだ

個人的であると同時に共感を覚えることができる歌詞は、彼らのサウンド同様に、エモーショナルだが、やわらかく、あたたかい。

さらにはアコーディオンの音色が印象的なこんな曲もある。


バラエティーに富んだ上質なポップミュージックを生み出すEasy Wanderingsとは、いったいどんなグループなのか。
彼らの結成の経緯について、音楽の秘密について、現在の活動について、メールでバンドの創設者Sanyanthに聞いてみた。

凡平「サンフランシスコでSanyanthとMalayでバンドを結成したと聞いたんですが、どんなふうに音楽を始めたんですか?」

Sanyanth「僕がサンフランシスコで社会起業論(social entrepreneurship)の修士課程にいた頃、Malayはインドにいて、Satyajit Ray Film and Television Instituteで音響を学んでいたんだ。その頃はミュージシャンになるつもりなんてなかったんだけど、サンフランシスコにいた最後の数ヶ月に、ちょっと曲を書いてみようかなと思って試してみた。そうしたらルームメイトがその曲を聴いて、これはリリースすべきだって言ったんだ。それからインドに戻って、ずっと親友だったMalayに会ったら、彼はこの曲を僕たちでレコーディングして世に出すべきだって言った。そういうわけで2015年の中頃にEasy Wanderlingsを結成したんだ。彼は僕にシンガーのPratika(女性ヴォーカル)を紹介してくれて、別の友達を通して他のメンバーもみんな集まって、音楽を作ってゆくことになったんだよ」


凡平「Easy Wanderlingsはバンドというよりも、理想の音楽を演奏するためのプロジェクトに近いと書かれている記事を読んだのですが、あなたたちは固定メンバーで活動するバンドですか、それともプロジェクト的なものですか?」

Sanyanth「はっきりとバンドだと言えるよ。ここ3年の間、メンバーは増え続けていて、今は8人の放浪者たちがいるんだ(註:Sanyanthはメンバーのことを「放浪者たち(wanderlings)」と呼んでいる)彼らは他のプロジェクトもやっているから、全員でパフォーマンスできないこともあるけど、できるだけ8人でステージに立てるようにしてる。たまには他のミュージシャンや友達とステージで共演することもあるよ。
これが今のメンバー8人だ。
Sanyanth Naroth – Composer/ Songwriter / Vocalist 
Sharad Rao - Electric Guitar / Vocalist
Malay Vadalkar - Bass
Pratika Gopinath - Female Vocalist
Nitin Muralikrishna - Keyboard
Siya Ragade - Flute
Shardul Bapat- Violin
Abraham Zachariah - Drums 」


凡平「ずいぶんいろんなタイプの曲を書いていますが、曲作りはどうやって?」

Sanyanth「単に人生経験をもとに曲を書いているんだ。会話したこととか、見たこととか。人生にはいろんなことがあるから、僕たちはいつもいろんなことを話しているし、音楽的にも特定の雰囲気にこだわるつもりはない。曲作りのプロセスは、だいたい僕が作曲して歌詞を書いて、それから残りの放浪者たちで演奏するんだ。みんなからのフィードバックをもとに、メンバーといっしょにいい感じになるまで一音づつ作っていくんだよ。
曲作りのインスピレーションは、注意を払ってさえいればどこにでもある。それは心の中でどう感じるかということとも関係がある。人生に夢中になって、興味のあることや好きなことをすればするほど、想像力を刺激する新鮮な気持ちでいられるよ。」


凡平「コロンビアのボゴタにいたと伺いましたが」

Sanyanth「うん。ボゴタには友達を訪ねに行ったんだ。それからしばらく学校で社会革新(social innovation)について教えたり、社会起業家と働いたりしていたよ」


凡平「プネー、チェンナイ、コペンハーゲン、バレンシアにも仲間がいると伺いました。今も演奏するために世界中から集まってくるのですか?」

Sanyanth「コペンハーゲンの友人Vilhelm Juhlerがプネーで学んでいた時に、一緒にステージに立ったり、アルバムで演奏してもらったりしたよ。キーボードのNitin MuralikrishnaはバレンシアのBerlkee College of Musicで音楽制作、テクノロジー、イノベーションの修士号を取ったんだ。アルバムをレコーディングのときは、彼のパートはそこでレコーディングして送ってもらったんだよ。今は彼はインドに戻ってきて、プネーのGrey Spark Audioっていうスタジオでチーフエンジニアとして働いている。面白いミュージシャンに出会ったら、いつも一緒にやってみて、彼らがテーブルに何をもたらすことができるのか、そしてそれが音楽にどんなスパイスを加えてくれるか試してみるんだ。本当にわくわくするよ。
僕たちはアートワークのためにも多くのアーティストとコラボレーションをしている。それから#iwandereasyっていう楽しみも始めた。インスタグラムで僕らとみんなのお気に入りのふらっとでかけている(wander)時間を共有するために、世界中の人たちに呼びかけているんだ。僕らのファンが送ってくれる美しい場所やすばらしい瞬間を見るのはすごく素敵なことだよ。」
(その様子は彼らのウェブサイトhttps://easywanderlings.com/%23iwandereasyで見ることができる)


凡平「アーティストではなく、音楽そのものにフォーカスする姿勢だそうですね。でも、あなたたちの美しい音楽を聴いたら、どんな人が作っているのか気になってしまうと思うんです」

Sanyanth「僕たちが音楽に焦点をあてたかったのは、みんなに音楽の質について判断してもらうべきだと考えたからなんだ。僕らのことがもっと知りたかったら、いつでもメールをくれたりライブを見にきたりして構わないよ。
日本にも近いうちに演奏しに行けたらいいなあ。ぜひバンドと一緒に行ってみたい国のひとつなんだよ。」


自分たちの存在よりも音楽そのものを重視する彼らは、決して頑固なわけではなく、純粋に音楽を大事にするアーティストたちだった。

彼らの音楽同様に興味深いのはそのバックグラウンドだ。
南アジア系の人々が海外で欧米の文化を取り入れ、グローバルなネットワークで作り出した音楽といえば、90年代には自身のルーツに根ざしたバングラ・ビートやエイジアン・アンダーグラウンドがあった。
それが2010年代も後半になると、インドのグローバル化を反映するかのように、インドのルーツから遠く離れた、こうした普遍的で非常に質の高いポップミュージックまでもが生み出されるようになったというわけだ。

個人的な感想だが、今はインディペンデントシーンで活動している彼らだが、その美しく映像的な音楽は、近年の垢抜けた作風のインド映画にもぴったりだと思う。
昨今インドでは映画音楽とインディーズシーンの距離がますます縮まっており、インドのエンターテインメントのメインストリームである映画業界からのオファーが来る可能性も高いのではないだろうか。

日本でのライブもぜひ実現してもらいたい。
インドのアーティストの来日公演は、まだまだ古典音楽やコアなジャンル(昨年来日したデスメタルバンドのGutslitとか)に限られているが、もうじき彼らのようなインド産の上質なポップアーティストが日本で見られる日が来るかもしれない。
まずはフジロックあたりで呼んでくれないかな。
苗場の自然の中で彼らの音楽が聴けたらさぞ気持ちいいと思うんだけど。

インドの音楽シーンはますます豊かに、面白くなってゆくばかりだ。


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2018年12月17日

インドの音楽シーンと企業文化! 酒とダンスとスニーカー、そしてデスメタルにG-Shock!

これまでこのブログでいくつかのインドのフェスを取り上げてきて、ひとつ気づいたことがある。
それは、様々なイベントで、お酒を扱うグローバル企業がスポンサーになっているケースがやたらと多いということ。

以前記事にした'Badardi NH7 Weekender'は、ラムで有名なバカルディが冠スポンサーについているし、先日紹介した超巨大EDMフェス'Sunburn'については、2007年の第1回はスミノフ、2008年はカールスバーグ、2009年にはインドのキングフィッシャー、2010年にはデンマークのビール会社Tuborgと、毎年酒造メーカーのスポンサーがついて実施されている。
BacardiNH7Weekender

他にも大規模フェスのVH1 Supersonicはバドワイザー、先日紹介したDJ NOBUが出演したムンバイの'Far Out Left'はスミノフとハイネケンがスポンサーについている。
BudweiserVh1supersonic
faroutleftmumbai

というわけで、今回は酒造メーカーをはじめとするいろんな企業とインドの音楽シーンとの関わりについて紹介してみたいと思います。

今日ではいろんなアルコール飲料の会社が音楽フェスをサポートするようになっているのだけれど、飲酒という行為はインド文化の中では長らく悪徳とされてきた。
長らくインドを支配していたイスラム教ではもちろんアルコールはご法度だし、人口の8割を占めるヒンドゥー教でも、飲酒は戒めるべきものという扱いだ。
今日でも、グジャラート州のような保守的な州(Dry Stateと呼ばれる)では公の場での飲酒が禁止されているし、それ以外の州でもヒンドゥー教の祝日などには酒類の提供が禁止されていたりもする(Dry Dayという)。
インドの保守的な社会では、飲酒は後ろめたいことであり、「酒好き」は不名誉な称号。
インドの酒飲みたちにとって、酒は味わうものではなく、手っ取り早く酔っ払って憂さを忘れるためのものであり、味はともかく度数の高い強い酒ほどありがたがられてきた。
そんなだからよけい酒飲みのイメージが悪くなるっていう悪循環とも言える状況がインド社会のアルコール事情だ。

ところがそんなインドでも、ここにきて少しずつアルコールのイメージが変わりつつある。
経済成長や欧米文化からの影響で、飲酒が肯定的でお洒落な文化に変わりつつあるのだ。
13億の人口(例え富裕層がそのうちの1割程度だとしても)を抱え、発展を続けるインドを世界の酒造会社が放っておくはずがない。

「酔うためのお酒」ではなく「飲むことがかっこいいお酒」へ。
新しい音楽を楽しめるセンスと経済的余裕のある若者たちが集まる音楽フェスは、お洒落で現代的な、新しいアルコールのイメージにぴったりなのだろう。
インドの音楽フェスへの酒造メーカーの手厚いサポートは、こうした背景が大きく影響している。

インド国内の酒造産業もこうした流れと無関係ではなく、日本のインド料理屋でもよく見かけるインド産ワインメーカーの'Sula'は、自分たちのワイナリーで独自のフェスティバル、その名も'Sula Fest'を開催している。

ご覧の通り、かなり本格的なフェスで、2018年はインドのエミネムことBrodha V、インディアン・ロックの大御所Indian Ocean、インド音楽とダンスミュージックの融合の第一人者Nucleyaなどの国内の人気アーティストに加え、海外のバンドも招聘して開催しており、相当な力の入れようであることが分かる。

お酒の会社以外で音楽シーンとの関わりが目立つのは、スポーツ関連の会社だ。
例えばこちらの'Suede Gully'という曲。

ムンバイのDivine、デリーのPrabh Deep、北東部メガラヤ州のKhasi Bloodz、タミルのMadurai Souljourと、まさにインドじゅうのヒップホップの実力派アーティストが集まったこの曲は、ご覧のようにPumaが全面的なバックアップをしている。
白シャツのボタンを上まで留めて、ターバン姿でアグレッシブなパフォーマンスを見せるPrabh Deepがかっこいい!
ラップ、ダンス、グラフィティとヒップホップの様々な要素が詰まったこのビデオは、Pumaのスニーカーを新しいカルチャーの象徴として印象づけるに十分なものだ。

続いて、ミュージックビデオではないがNikeのインド向けプロモーション動画。

インドのトップアスリート達が出演しているこのビデオからは、スポーツを単なる競技以上のカルチャーというかライフスタイルとして定着させようという意図が感じられる。
インドは人口のわりにオリンピックのような国際大会でめったに名前を聞かないことからも分かる通り、スポーツ文化の未成熟な国だが、ここにもまた伸びしろがあるということなのだろう。
'Da Da Ding'というこの楽曲は、インド人ではなくフランス人プロデューサーのGener8ionとアメリカ人ラッパーGizzleによるものだが、スポーツにもとづく新しいライフスタイルの一部として、音楽もまた印象的な使われ方をしているのが分かるだろう。

続いて紹介するのは、Prabh Deepと同じAzadi Recordsに所属するムンバイのラッパー、Tienasの曲、その名も'Fake Adidas'.

偽物のアディダスと安物の服しかないとラップするこの曲は、逆説的に本物のヒップホップのフィーリングを間違いなく持っている。
インドらしからぬセンスのトラックからも新しい世代のラッパーの矜持がうかがえるというものだ。
スニーカーがヒップホップの象徴的なファッションアイテムとしてインドでも浸透していることがよく分かる楽曲だ。
このRaja Kumariのビデオでも、彼女がAdidasを履きこなしているのが分かる(1:40あたりから)。
本場カリフォルニア育ちの彼女が履いているのはフェイクではなくもちろん本物。


ここまでヒップホップとスニーカーの関係を紹介してきたが、スニーカーメーカーがサポートしているのはヒップホップだけではない。
先日の記事で紹介した少年ナイフが出演したゴアのインディーロックフェスはVansが冠スポンサーとなったものだった。
VansNewWaveMusicFest 

インドで靴といえば、伝統的なもの以外は、長らくビジネススーツと合わせるドレスシューズかサンダルかという状況だった。
それが、ごらんの通り、ヒップホップなどの人気が高まってきたことに合わせて、スニーカーは単なる機能的な運動靴からお洒落アイテムとしての地位を獲得することになった。
ここでも、インドの経済成長と市場規模を見越したグローバル企業の戦略が働いていることは言うまでもないだろう。

フェスに酒造会社、ヒップホップにスニーカーの会社と、ここまではまあ想像の通りかもしれないが、個人的にすごく気に入っているのがコレ。
G-Shock
このブログでも紹介したDemonic Resurrectionや、先日来日公演を行ったGutslitも出演するエクストリームメタル系のフェス、Fireballの冠スポンサーは、なんと我らがカシオのG-Shock!

フェスに酒、ヒップホップにスニーカー、そしてデスメタルにG-Shock.
G-Shockの不必要なほどの頑丈さをファッションとして受け入れてもらうために選んだのがデスメタルというのがなかなかに味わい深い。
どんなに激しくモッシュしても壊れないってことだろうか。
このFireball、共演のZygnemaも2006年結成のムンバイのベテランバンドで、出演バンド数こそ少ないものの、北東部以外の実力派バンドが揃ったイベントだ。

そういえば、インドの航空会社のJet Airwaysが「シンガポールでのJudas Priestのライブのチケットが当たる!」という謎のキャンペーンをやっていたこともあった(ちなみのそのライブの前座はBabymetal)。
JudasPriestJetAirwaysSingapore
日本や欧米では邪悪で悪趣味なイメージのヘヴィーメタルが企業のキャンペーンに使われることはほとんどないが、インドではメタルもクールで先鋭的な音楽のひとつ、ということのようだ。

というわけで、今回はインドの音楽シーンと企業との関係についてざっと紹介してみました。
映画音楽に比べるとまだまだ非主流のロックやヒップホップとはいえ、これだけのサポートが各企業から得られているというのは、こうした音楽の愛好家がそれだけの経済力・購買力のある層と重なっているということの証左でもあるのだろう。

それでは!


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2018年09月06日

インドで最大のロックフェス!NH7 Weekender!

先日、あまりにも面白いネタだったので、インド辺境の超通好みなフェス、Ziro Festivalを紹介してしまったが、よく考えたらいきなりダモ鈴木が出演する山奥のフェスティバルを取り上げるより先に、これがインドの盛り上がってる大規模都市型フェスですよ、っていうのを紹介するべきだった。

というわけで、今回はインドの大都市を巡って開催される大型フェス、NH7 Weekenderを紹介します。
このNH7 Weekenderは、イベントプロモーターOnly Much Louder の代表、Vijay Nairがイギリスのグラストンベリーのような音楽イベントをインドでも開催したいと思ったことがきっかけで始まったフェスティバル。
第1回目は2010年にマハーラーシュトラ州プネーで開催され、そのときからグローバル洋酒企業のBacardiが冠スポンサーとなってサポートしている。
マハーラーシュトラ州はインド最大の都市ムンバイを擁する州で、プネーはムンバイから車や鉄道で4時間弱の距離にある学園都市。
学生や若者が多く、独自の音楽シーンもあるこの街は、インドでフェスを行うのにぴったりの場所だろう。
第1回は37組のアーティストが出演し、海外からはイギリスのポップロックバンドThe Magic NumbersとUKインディアンによるAsian Dub Fundation(フジロックでもおなじみ)が参加した。
その時の様子がこちら。

ちょっと戸惑いながらも盛り上がるオーディエンスが微笑ましい。

その後、毎年の開催ごとに規模を拡大してゆき、プネー以外にもデリー(郊外のノイダ)、バンガロール、コルカタ、シロンなどでも開催されるようになった。
インドを代表する都市に加え、ここでも何度もこのブログで紹介している独自の文化を持った「インド北東部」メガラヤ州の州都シロンが入っていることに、北東部の音楽カルチャーの強さをあらためて感じる。

これまでに参加した海外のアーティストは、主なものだけでMark Ronson、Mutemath、Flying Lotus、Mogwai、Basement Jaxx、Imogen Heap、Steve Vai、Megadethなど。
ジャンルも年代も非常に多様性に富んだ顔ぶれだ。
いわゆるワールドミュージック的なジャンルからも、Wailers、Rodrigo y Gabriela、Seun Kutiなどのツボを押さえたアーティストを招聘しており、さらにはTalvin SinghやTrilok Gurtu、Karsh Kaleといった海外のシーンでも活躍しているインド系アーティストも多数出演している。
もちろん、出演者の大半を占めるのはインドのアーティストで、このブログで今まで紹介してきた中でも、Su RealDemonic RessurectionBlackstratbluesReggae RajahsSka VengersAgamSandunesTejasRhythm ShawDivineParekh and SinghAditi Rameshら、多くの実力派アーティストたちがパフォーマンスした。
2017年にはコメディアンが出演するステージも設けられ、Kunal Raoも出演したようだ。

最近のフェスの様子はこんな感じ。

規模もぐっと大きくなって、オーディエンスの盛り上がりっぷりも板についてきた。

メガラヤ州シロンでは、同じイベントでも大きく雰囲気を変えて、自然の中でのビッグフェスとなる。

これ、インド版のフジロックだなあ!行きたい。。。

この様子を見る限り、インドの音楽シーンはいつまでたっても映画音楽の一強だとか言われているけれど、インディーズシーンも十分に盛り上がってるじゃないですか。
これはおそらく、日本で洋楽聴いている人があんまりいないとはいってもフジロックやサマソニのような洋楽系フェスには大勢人が集まる、みたいなのと似ている状況なんじゃないだろうか。

そう考えてみると、ドメスティックな商業的音楽シーンがメインストリームでありながらも、サブカル的シーンにも根強いファンがいる日本とインドの音楽シーンって、結構似ているような気もする。

インドにはまだまだ素晴らしいフェスティバルがたくさんあるので、また改めて紹介します!
それでは!

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「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」

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goshimasayama18 at 00:35|PermalinkComments(0)