MTVEMA
2021年11月30日
MTV EMA 2021を振り返る Best India ActはDIVINEが受賞!
少し前の話題になるが、今年もMTV Europe Music Award(以下、MTV EMA)が11月15日に開催された(今年の会場はハンガリーのブダペスト)。
主要部門では、最優秀ポップ賞・最優秀グループ賞をBTSが、最優秀アーティスト賞・最優秀楽曲賞をEd Sheeranが、最優秀ビデオ賞をLil Nas Xが受賞したのだが、そのあたりの話は私よりも詳しい人がいくらでもいるだろうからそちらにまかせる。
MTV EMAでは、こうした主要部門以外にも様々なローカルアクトが選出される。
ヨーロッパ各国のアーティストはもちろん、Best Japanese ActとかBest Australian Actみたいに国ごとに選ばれるものもあれば、Best African ActとかBest Caribbean Actみたいに地域単位で選出されるものもある。
このブログが注目するのはもちろんBest India Actということになる。
(ところでBest Indian ActではなくIndia Actなのは何故だろう)
ちなみに南アジアに関しては、選出されるのはBest India Actのみで、パキスタンやバングラデシュやスリランカのアーティストは対象外のようだ。
イギリスあたりにはパキスタンやバングラデシュ系の人も多いし、国別に選ぶのが難しければ、せめてBest South Asian Actとしても良いのではないかと思うのだが、どうだろうね。
とにもかくにも、今年のMTV EMA Best India Actにノミネートされたのはこの5組だった。
DIVINE
ソロとしては昨年に続いて2度目、2018年にRaja Kumariとのデュエットで選出されたのを含めれば、3回目のノミネートとなる。
DIVINEはこのブログでも何度も紹介しているムンバイのストリートラッパーで、映画『ガリーボーイ』(作中のキャラクターMC Sherのモデルとなった)以降、一躍人気アーティストの座に躍り出た。
2021年の彼は、Netflix制作の映画"The White Tiger"の主題歌となった"Jungle Mantra"や、メタリカのトリビュートアルバム"Blacklist"に収録された"The Unforgiven"などのごく限られたリリースしかなかったので、おそらくこのノミネートは昨年12月に発表されたアルバム"Punya Paap"を評してのものだろう。
このアルバムで、DIVINEはこれまでのストリートラッパーから脱却し、この"3:59AM"や表題曲"Punya Paap"などの内面的なテーマの楽曲や、ボリウッド的パーティーラップの"Mirchi"などの新しい作風に挑戦した。
DIVINEのこれまでについては、こちらから。
Kaam Bhaari x Spitfire x Rākhis
同じくムンバイのラッパーのKaam Bhaariも昨年に続いて2度目のノミネート。
今回はインド中部マディヤ・プラデーシュ州の小都市チャタルプル出身のラッパーのSpitfireと、ビートメーカーRākhisとの共演での選出となった。
この曲は『ガリーボーイ』の主演俳優Ranveer Singhが設立したヒップホップレーベルIncInkからのリリース。
同作にはKaam Bhaariもラッパー役でカメオ出演しており、Spitfireもサウンドトラックに参加している。
Rākhisは先日紹介したビートルズのトリビュートアルバム"Songs Inspired by The Film the Beatles and India"にも参加していたKiss NukaことAnushka Manchandaの兄弟でもある。
Raja Kumari
Raja Kumariはインド系(テルグ系)アメリカ人で、アメリカの音楽シーンでソングライターとして活躍(関わった作品がグラミー賞にノミネートされたこともある)したのち、近年ではラッパー/ソングライターとして拠点をインドに移して活動している。
まだまだ保守的な気風が残るインド育ちの女性にはなかなか出せない、タフな雰囲気が印象的なフィメールラッパーである。
この曲では、彼女のシグネチャースタイルでもあるインド古典音楽のリズムにルーツを持つラップを披露している。
彼女も『ガリーボーイ』に審査員役でカメオ出演しており、偶然かもしれないが今年のヒップホップ系のノミニーは全員『ガリーボーイ』関係者ということになる。
公開後そろそろ3年が経とうとしているが、あの映画がインドの音楽シーンに与えたインパクトの大きさを、改めて感じさせられる。
ちなみにDIVINEとRaka Kumariは『ガリーボーイ』にエグゼクティブ・プロデューサーとしてクレジットされていたNYのラッパーNasのレーベルのインド支部であるMass Appeal Indiaに所属している。
Zephyrtone
ZephyrtoneはSayanとZephyrの二人の幼なじみによって2015年に結成されたエレクトロニック音楽ユニット。
2017年には"Only You"がMTV Asiaでフィーチャーされるなど、これまでにも高い評価を得ている。
AviciiやZeddの影響を受けているとのことで、さもありなんというサウンドのEDMポップだ。
この曲では、コルカタのラッパーEPR Iyerとのコラボレーションを実現させている。
Ananya Birla
2016年にデビューしたムンバイ出身の女性シンガー。LAのマネジメント事務所と契約を結んでおり、Sean Kingston, Afrojackなどの欧米人アーティストとの共演を果たすなど、グローバルに活動している。
インドで初めて英語の曲でプラチナムヒットを獲得したシンガーであり、現在までの5曲のシングルでプラチナムを獲得している。
この曲はDaft Punkやシンセウェイヴ的な雰囲気を濃厚に感じさせる仕上がりだ。
彼女の活躍は音楽界に限らず、インドの地方でマイクロファイナンスを展開するなど、社会活動家としても積極的に活動しているようだ。
ところで、彼女の名字を見て、もしやと思って調べてみたら、やはりインドの大財閥であるAditya Birla Groupの社長の娘だそう。
…と、お聴きいただいて分かる通り、MTV EMAのBest India Actにノミネートされるのは、「グローバルな(つまり、欧米的な)ポップミュージックとして洗練されたアーティストで、かつ映画音楽以外のもの」という基準があるようだ。
ヒップホップ3組とEDMアーティストと洋楽的女性シンガーという組み合わせは、現在のインドのインディペンデント音楽シーンを表すという意味でも、的確であるように思う。
この中から、投票によってBest India Actに選ばれたのはDIVINE.
彼がこれまでインドの音楽シーンに及ぼしてきた影響や、アルバム"Punya Paap"の内容を考えれば、納得の結果と言えるだろう。
個人的な好みから言わせてもらうと、ZephyrtoneとAnanya Birlaは典型的な洋楽っぽいサウンドではあるものの、彼らならではの個性にちょっと欠けているように感じられる。
インドの人たちが「自分の国からもこんなに洗練されたアーティストが出てきた」と評価するのは分からなくもないが、同じような音楽をやっているアーティストは世界中にたくさんいるわけで、発展著しいインドの音楽シーンを象徴する「現象」としては面白くても、印象にはあまり残らないなあ、というのが正直なところ。
その点、ヒップホップ勢は、言語によるところも大きいが、いずれもインド的なオリジナルの要素を強く感じさせるサウンドだった。
(もっとも、投票したのはほとんどが海外在住者を含めたインド人だろうから、こうした外国人の視点からの「インドらしさ」は選考には影響していないだろう)
また、ストリート出身(っぽい)DIVINEとKaam Bhari, 海外出身のRaja Kumari, 都会の富裕層っぽいZephyrtone, ガチで大富豪のAnanya Birlaというノミニーのラインナップも、現在のインドの音楽シーンを象徴していると言える。
正直に言うと、インド国内でもどれくらい注目されているのか分からないMTV EMAだが、インドのインディペンデント音楽(ここでは、「非映画音楽」くらいの意味に受け取ってほしい)を対象としたアワードはあまりないので、今後も定点観測を続けてみたい。
2018年のMTV EMAの記事はこちらから!
2019年は書き忘れていたみたいですが、2020年のMTV EMAについてはこちらから!
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主要部門では、最優秀ポップ賞・最優秀グループ賞をBTSが、最優秀アーティスト賞・最優秀楽曲賞をEd Sheeranが、最優秀ビデオ賞をLil Nas Xが受賞したのだが、そのあたりの話は私よりも詳しい人がいくらでもいるだろうからそちらにまかせる。
MTV EMAでは、こうした主要部門以外にも様々なローカルアクトが選出される。
ヨーロッパ各国のアーティストはもちろん、Best Japanese ActとかBest Australian Actみたいに国ごとに選ばれるものもあれば、Best African ActとかBest Caribbean Actみたいに地域単位で選出されるものもある。
このブログが注目するのはもちろんBest India Actということになる。
(ところでBest Indian ActではなくIndia Actなのは何故だろう)
ちなみに南アジアに関しては、選出されるのはBest India Actのみで、パキスタンやバングラデシュやスリランカのアーティストは対象外のようだ。
イギリスあたりにはパキスタンやバングラデシュ系の人も多いし、国別に選ぶのが難しければ、せめてBest South Asian Actとしても良いのではないかと思うのだが、どうだろうね。
とにもかくにも、今年のMTV EMA Best India Actにノミネートされたのはこの5組だった。
DIVINE
ソロとしては昨年に続いて2度目、2018年にRaja Kumariとのデュエットで選出されたのを含めれば、3回目のノミネートとなる。
DIVINEはこのブログでも何度も紹介しているムンバイのストリートラッパーで、映画『ガリーボーイ』(作中のキャラクターMC Sherのモデルとなった)以降、一躍人気アーティストの座に躍り出た。
2021年の彼は、Netflix制作の映画"The White Tiger"の主題歌となった"Jungle Mantra"や、メタリカのトリビュートアルバム"Blacklist"に収録された"The Unforgiven"などのごく限られたリリースしかなかったので、おそらくこのノミネートは昨年12月に発表されたアルバム"Punya Paap"を評してのものだろう。
このアルバムで、DIVINEはこれまでのストリートラッパーから脱却し、この"3:59AM"や表題曲"Punya Paap"などの内面的なテーマの楽曲や、ボリウッド的パーティーラップの"Mirchi"などの新しい作風に挑戦した。
DIVINEのこれまでについては、こちらから。
Kaam Bhaari x Spitfire x Rākhis
同じくムンバイのラッパーのKaam Bhaariも昨年に続いて2度目のノミネート。
今回はインド中部マディヤ・プラデーシュ州の小都市チャタルプル出身のラッパーのSpitfireと、ビートメーカーRākhisとの共演での選出となった。
この曲は『ガリーボーイ』の主演俳優Ranveer Singhが設立したヒップホップレーベルIncInkからのリリース。
同作にはKaam Bhaariもラッパー役でカメオ出演しており、Spitfireもサウンドトラックに参加している。
Rākhisは先日紹介したビートルズのトリビュートアルバム"Songs Inspired by The Film the Beatles and India"にも参加していたKiss NukaことAnushka Manchandaの兄弟でもある。
Raja Kumari
Raja Kumariはインド系(テルグ系)アメリカ人で、アメリカの音楽シーンでソングライターとして活躍(関わった作品がグラミー賞にノミネートされたこともある)したのち、近年ではラッパー/ソングライターとして拠点をインドに移して活動している。
まだまだ保守的な気風が残るインド育ちの女性にはなかなか出せない、タフな雰囲気が印象的なフィメールラッパーである。
この曲では、彼女のシグネチャースタイルでもあるインド古典音楽のリズムにルーツを持つラップを披露している。
彼女も『ガリーボーイ』に審査員役でカメオ出演しており、偶然かもしれないが今年のヒップホップ系のノミニーは全員『ガリーボーイ』関係者ということになる。
公開後そろそろ3年が経とうとしているが、あの映画がインドの音楽シーンに与えたインパクトの大きさを、改めて感じさせられる。
ちなみにDIVINEとRaka Kumariは『ガリーボーイ』にエグゼクティブ・プロデューサーとしてクレジットされていたNYのラッパーNasのレーベルのインド支部であるMass Appeal Indiaに所属している。
Zephyrtone
ZephyrtoneはSayanとZephyrの二人の幼なじみによって2015年に結成されたエレクトロニック音楽ユニット。
2017年には"Only You"がMTV Asiaでフィーチャーされるなど、これまでにも高い評価を得ている。
AviciiやZeddの影響を受けているとのことで、さもありなんというサウンドのEDMポップだ。
この曲では、コルカタのラッパーEPR Iyerとのコラボレーションを実現させている。
Ananya Birla
2016年にデビューしたムンバイ出身の女性シンガー。LAのマネジメント事務所と契約を結んでおり、Sean Kingston, Afrojackなどの欧米人アーティストとの共演を果たすなど、グローバルに活動している。
インドで初めて英語の曲でプラチナムヒットを獲得したシンガーであり、現在までの5曲のシングルでプラチナムを獲得している。
この曲はDaft Punkやシンセウェイヴ的な雰囲気を濃厚に感じさせる仕上がりだ。
彼女の活躍は音楽界に限らず、インドの地方でマイクロファイナンスを展開するなど、社会活動家としても積極的に活動しているようだ。
ところで、彼女の名字を見て、もしやと思って調べてみたら、やはりインドの大財閥であるAditya Birla Groupの社長の娘だそう。
…と、お聴きいただいて分かる通り、MTV EMAのBest India Actにノミネートされるのは、「グローバルな(つまり、欧米的な)ポップミュージックとして洗練されたアーティストで、かつ映画音楽以外のもの」という基準があるようだ。
ヒップホップ3組とEDMアーティストと洋楽的女性シンガーという組み合わせは、現在のインドのインディペンデント音楽シーンを表すという意味でも、的確であるように思う。
この中から、投票によってBest India Actに選ばれたのはDIVINE.
彼がこれまでインドの音楽シーンに及ぼしてきた影響や、アルバム"Punya Paap"の内容を考えれば、納得の結果と言えるだろう。
個人的な好みから言わせてもらうと、ZephyrtoneとAnanya Birlaは典型的な洋楽っぽいサウンドではあるものの、彼らならではの個性にちょっと欠けているように感じられる。
インドの人たちが「自分の国からもこんなに洗練されたアーティストが出てきた」と評価するのは分からなくもないが、同じような音楽をやっているアーティストは世界中にたくさんいるわけで、発展著しいインドの音楽シーンを象徴する「現象」としては面白くても、印象にはあまり残らないなあ、というのが正直なところ。
その点、ヒップホップ勢は、言語によるところも大きいが、いずれもインド的なオリジナルの要素を強く感じさせるサウンドだった。
(もっとも、投票したのはほとんどが海外在住者を含めたインド人だろうから、こうした外国人の視点からの「インドらしさ」は選考には影響していないだろう)
また、ストリート出身(っぽい)DIVINEとKaam Bhari, 海外出身のRaja Kumari, 都会の富裕層っぽいZephyrtone, ガチで大富豪のAnanya Birlaというノミニーのラインナップも、現在のインドの音楽シーンを象徴していると言える。
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2020年12月19日
2020年のインドの音楽シーン総決算!(MTV Europe Music AwardsとSpotify編)
今回は2020年のインドの音楽シーンを振り返る話題をお届けしたい。
MTV Europe Music Awards 2020が11月9日に行われ、Best India ActにシンガーソングライターのArmaan Malikが3月にリリースした"Control"が選出された。
Armaan Malikはムンバイ出身のポップシンガーで、この曲は彼が英語で歌った初めての楽曲。
Malikはこれまでに映画のプレイバックシンガーとして、インドの10言語で歌ったことがあるそうだが、今後は英語ヴォーカルの都会的シンガーとしても売り出してゆくのかもしれない。
MTV EMAのBest India Actは、過去3年間ラッパーの受賞が続いていたため、シンガーソングライターの受賞は2016年のPrateek Kuhad以来となる。
(過去3年の受賞者は、2017年Hard Kaur, 2018年Big Ri and Meba Ofilia, 2019年Emiway Bantai)
今年もMalik以外のノミネートは全員ラッパーだったというのが時代を感じさせられる。
ちなみに他のノミネートされたアーティスト/楽曲は以下の通りだった。
Prabh Deep "Chitta"
デリーのPrabh Deepはインドのアンダーグラウンド・ヒップホップシーンを牽引するAzadi Recordsの看板アーティスト。
DIVINE "Chal Bombay"
言わずと知れたムンバイのGully(ストリート)ラッパーで、米ラッパーNazのレーベルのインド部門'Mass Appeal India'の所属になって以降、活動を活発化させている。
この曲では、これまでのストリート・ラップから、売れ線のラテン風ラップに大きく転換したスタイルを披露した。
SIRI ft. Sez on the Beat "My Jam"
ベンガルールのフィーメイル・ラッパーSIRIと、インドを代表するビートメイカーであるSezによるコラボレーションで、リリックは英語とカンナダ語のバイリンガル。
フィーメイル・ラッパーでは2017年にHard Kaurが受賞しており、2018年、2019年には惜しくも受賞を逃したもののRaja Kumariがノミネートされていた。
Kaam Bhari "Mohabbat"
ボリウッド映画『ガリーボーイ』への出演も記憶に新しいムンバイの若手ラッパー。
『ガリーボーイ』の主演俳優ランヴィール・シンが立ち上げたレーベルIncInkと契約し、女性シンガー/ラッパーNukaとのコラボレーションを行うなど、ここにきて活躍の場を広げている。
結果的にシンガーソングライターのArmaan Malikが受賞したとはいえ、ここまでラッパーのノミネートが多かった年はこれまでになかった。
いまひとつノミネートや選考の基準が分からないMTV EMAの各国部門だが、インドのヒップホップ勢の躍進ぶりを感じさせられるセレクトではある。
(ちなみに今年のMTV EMA Best Japan ActはOfficial 髭男dism. おそらくインドの映画音楽や日本のアイドルポップのようなローカルな大衆音楽ではなく、欧米的な視点から見たセンスの良い楽曲を選出しているものと思われる。)
一方で、Spotify Indiaが発表した、2020年にインド国内と海外で最も多く聴かれたインドのインディーアーティストのトップ10を見ると、また違った印象を受ける。
ランキングを見る前に、インド国内でのSpotifyの位置づけを説明しなければならないのだが、インドでは、Gaana, JioSaavn, Wynk Musicといった国内の音楽ストリーミングサービスがシェアの7割を占めており、Spotifyは15%ほどのシェアしかない後発サービスに過ぎない。
Spotifyの利用に年額で1,189ルピー(1,700円弱)かかるのに対して、Gaanaは年額299ルピー(400円強)で利用できる。
インド国内の音楽ストリーミング企業は、各地の言語でのサービス提供や、国内の楽曲を充実させることに注力しており、低額の利用料金でローカル色の強い国内市場を押さえ込んでいる。
つまり、インドのSpotifyユーザーは、音楽にお金をかける意志があり、海外の音楽も積極的に聴こうとしている熱心な音楽ファンということになるのだ。
前置きが長くなったが、こちらが2020年にSpotifyで最も多く聴かれたインドのインディーアーティストtop10だ。

国内でも海外でも、RitvizやNucleya, Zaedenといったいわゆる印DM(インド風EDM)がかなり聴かれていることが分かる。
ヒップホップのアーティストは海外で9位に入ったEmiway Bantaiただ1人のみ。
ラッパーが席巻したMTV EMAのノミネーションとは全く異なる結果となった。
ムーブメントとしては熱く盛り上がっているように見えるインドのヒップホップだが、コアな音楽ファンの間でも、量としてそこまで聴かれているわけではないようだ。
(もしかしたら音楽にそこまでお金をかけない、「地元のヤンキー」みたいな層が熱心に聴いている可能性もなくはないが…)
これは、ラップバトル番組が盛り上がっているように見えて、ヒットチャート上位にはなかなかヒップホップが食い込んでこない日本の状況とも似ているかもしれない。
それにしても興味深いランキングである。
Ritviz(海外で2位、国内で1位)のセンスの良さには以前から注目していたが、ここまでの人気とは思わなかった。
Prateek Kuhad(海外で1位、国内で2位)はアメリカのレーベルElektraと契約するなど、インド国内にとどまらず活躍の場を広げており、数多いインドのシンガーソングライターのなかでも卓越した存在のようだ。
海外と国内で若干の傾向の違いも見られる。
海外では、国内のランキングには入っていないLost Storiesが4位にランクインしており、より印DM好まれているようだ。
一方、国内では、Dino James, Anuv Jain, Ankur Tewari, Bhuvan Bamといったシンガーソングライターが存在感を放っているのが印象的だ。
国内10位のWhen Chai Met Toastは英国フォーク風のセンスを持ったロックバンド。
なんというか、国内チャートは、全体的に「育ちの良さ」が感じられるランキングではある。
両方にランクインしているアーティストは5組。
印DMのRitviz, Nucleya, Zaedenと、シンガーソングライターのPrateek Kuhad以外では、ヒンディー・ロックバンドのThe Local Trainがランクインしている。
彼らも洋楽的センスとインド的大衆性の融合に優れたバンドで、インドのリスナーのツボを抑えた音楽性ということになるのだろう。
インディーミュージックに限定せず、インド国内で最も多く聴かれたアルバムとアーティストのランキングを見ると、やはり映画音楽が圧倒的な強さを誇っていることが分かる。

いつもこのブログで大々的に紹介しているインディー音楽は影も形もない。
映画音楽/プレイバックシンガー以外で唯一ランクインしたのはBTSで、インドでのK-POP人気の強さを改めて感じさせられる。
面白かったのは、インドの音楽ストリーミングサービスJioSaavnが始めた、インド各地の言語で歌うアーティストを紹介するキャンペーン"We Are India"ついて書かれたこの記事。
とくに興味深いのは、この記事の中でJioSaavnのディレクターが「インドのミレニアル世代は、自分たちの母語で歌われる音楽や、現代的なレンズを通して彼らの文化を再現するアーティストを好む傾向がある」と述べていること。
ご存知のように、インドは地域ごとに無数の言語が存在する国だ。
ある記事によると、公用語だけで22言語、その他の言語も含めると200言語、さらに1600の方言が存在しているという(正確な言語や方言の数は、専門家でも分からないだろう)。
かつては、マーケット規模やプロモーションのための媒体、流通経路などの関係で、主要な言語の音楽ばかり聴かれる傾向があったが、インターネットの普及により、よりマイナーな言語の音楽でも、容易にリスナーに届けることができるようになったのだ。
ネットやストリーミングサービスの普及により、シーンが集約するのではなく、より多様化しているというわけである。
「現代的なレンズを通して彼らの文化を再現するアーティスト」というのは、まさにインドの伝統的な要素をEDMと融合させたRitvizらの「印DM」などを指している。
この記事では、映画音楽のインディーミュージックの垣根が曖昧になってきていることなどにも触れられており、いずれにしてもインドの音楽シーンはますますその面白さを増していると考えて良いだろう。
…と、たまにはシーン全体を俯瞰した記事を書いてみました!
個人的には非常に面白かったのだけど、みなさんいかがでしたでしょうか。
それではまた!
https://www.valuechampion.in/credit-cards/music-streaming-apps-which-one-should-you-choose
https://inc42.com/resources/hottest-music-streaming-apps-in-india-2020/
https://www.statista.com/statistics/922400/india-music-app-market-share/
https://rollingstoneindia.com/armaan-malik-prabh-deep-divine-mtv-europe-music-awards-ema-best-india-act/
https://indianexpress.com/article/entertainment/music/spotify-wrapped-2020-top-10-most-streamed-tracks-in-india-7074966/
https://www.financialexpress.com/brandwagon/jiosaavn-celebrates-excellence-in-regional-music-through-we-are-india-campaign/2045717/
https://net.keizaikai.co.jp/archives/23747
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goshimasayama18 at 23:30|Permalink│Comments(0)
2018年11月06日
MTV EMA2018最優秀インド人アーティスト発表!Big-Ri & Meba Ofilia
MTV EMA (Europe Music Awards)2018がスペインのビルバオで開催され、各部門の受賞アーティストが発表された。
ヨーロッパといいながら、なぜかたくさんの国のベストミュージシャンが選ばれるこのイベント。
今年のBest India Music Actに選ばれたのは、R&B/ヒップホップアーティストのBig-Ri & Meba Ofiliaによる楽曲'Done Talking'だった。
Big-Riは2009年に結成されたメガラヤ州のヒップホップグループKhasi Bloodzのメンバーの一人。
メガラヤ州はこのブログでも何度も紹介してきた、独特の文化と高い音楽性を誇るインド北東部8州(セブン・シスターズ+シッキム)の1つだ。
ヨーロッパといいながら、なぜかたくさんの国のベストミュージシャンが選ばれるこのイベント。
今年のBest India Music Actに選ばれたのは、R&B/ヒップホップアーティストのBig-Ri & Meba Ofiliaによる楽曲'Done Talking'だった。
Big-Riは2009年に結成されたメガラヤ州のヒップホップグループKhasi Bloodzのメンバーの一人。
メガラヤ州はこのブログでも何度も紹介してきた、独特の文化と高い音楽性を誇るインド北東部8州(セブン・シスターズ+シッキム)の1つだ。
Khasiとはメガラヤ州に住む先住民族の名称で、彼らもまた自分たちのルーツに誇りを持ったアーティストであることが分かる。
Khasi Bloodzはインドらしからぬこなれた英語のラップを聴かせる実力派ラッパー集団で、ここでもBig-Riは安定したラップを披露しているが、何しろ圧巻なのは同じくメガラヤ州出身の女性シンガー/ラッパーのMeba Ofiliaだ。
情感のこもった歌唱から小気味いいラップまで、独特のハスキーヴォイスで素晴らしい歌声を聴かせてくれている。
Mebaはまだメガラヤの州都Shillongで法律を学んでいる大学生。
オリジナル曲もほとんどなく、1年前にKhasi Bloodzと共演した楽曲ではまだまだ実力を発揮できていなかったが、この'Done Talking'で急速に成長した姿を見せつけることになった。
こう言っては大変失礼だが、インドの山奥から出てきたとはとても思えない堂々たるパフォーマンスで、この曲の素晴らしさの8割方が彼女によるものと言っても過言ではないと思う。
大都市や国際都市があるわけでもなく、人口も少ない北東部だが、ここの人々のロックやヒップホップ偏差値の高さにはいつもながら本当に驚かされる。
ちなみにこの賞を受賞した北東部のアーティストとしては、他には先日のナガランド特集で紹介したAlobo Nagaがいる。
北東部のミュージシャンはその音楽的才能の高さに比べて、民族的にマイノリティーであることもあって、なかなかインドの音楽シーンの主流には食い込めていないような印象を持っているのだけど、こうした海外の賞ではきちんと評価されているんだなあ、と思うと感慨深い。
今年ノミネートされていた他のアーティストはこちらのみなさんです。
Raja Kumari ft. Divine 'Roots'.
このブログでも取り上げたカリフォルニア出身の米国籍のテルグ系ラッパーRaja Kumariと、ムンバイのヒンディー語ラッパーDivineによる2度目のコラボレーション。
トラックもかっこいいし、ラップもさすがのテンションだけど、この二人はいつもこんな感じなので、ここに来てまたインド人としてのルーツを誇るみたいなテーマはちょっと新鮮味が無いような気もする。
ちなみに彼女は昨年に続いて2度目のノミネートだった。
Monica Dogra &Curtain Blue 'Spell'
Monica Dograはボルティモア出身のインド系(北西部ジャンムー系)シンガー兼女優で、MTV EMAでは2015年、2016年に続いて3度目のノミネート。
この曲ではデリーのバンドThe CircusのヴォーカリストAbhishek BhatiaのソロプロジェクトであるCurtain Blueとのコラボレーションとなっている。
Skyharbor 'Dim'
Skyharborはインド系のメンバーによるオルタナティブ/プログレッシブ・メタルバンドで、デリー、ムンバイ、アメリカのクリーブランドなど、さまざまな土地の出身者で構成されている。
2010年結成。
日本の音楽シーンとも縁があり、BabymetalのUSツアーのオープニングアクトを務めたり、マーティ・フリードマンのJ-Popカバーアルバムに参加したりもしている。
Nikhil 'Silver and Gold'
Nikhil D'souzaはムンバイ出身のシンガー・ソングライター。
'Silver and Gold'はジェフ・バックリィやスティングらの影響を受けて曲を作り始めた彼のソロデビュー曲。
アコースティックに始まって徐々に盛り上がるアレンジもよく出来ているし、力強くも繊細なヴォーカルも素晴らしい。
やけに貫禄がある歌いっぷりだと思ったら、どうやら彼は長らくボリウッド映画のプレイバック・シンガーとして活躍していたようで、いまでは拠点をイギリスに移して活動している様子。
古城で撮られたビデオも美しい。
どれも完成度の高い楽曲ではあるけれども、いったいどうやってこの5曲が選ばれたのか、謎だなあ。
そもそもRaja KumariやMonica Dograはアメリカ国籍だし、Nikhilは今ではイギリスを拠点に活動しているみたいだし。
共通項はメジャーレーベルからリリースされている作家性の強い英語の楽曲ということくらいか。
欧米の音楽シーンとの親和性も求められているセレクションのような気もする。
この賞は、2013年、2014年はYo Yo Honey Singh、2015年は女優でもあるPriyanka Chopraと、よりポップな(まあ、なんつうか下世話な)曲が選ばれたこともあり、インディー色の強いRolling Stone Indiaのベストアルバムなんかと比べるとこれはこれで個性があって面白い。
そのうちそれぞれのアーティストについても、深く紹介してみたいと思います!
ところで、インドにも増してさらに謎なのは、Best Japan Act.
今年のノミネートはLittle Glee Monster、Daoko、Glim Spanky、水曜日のカンパネラ(英語名称はWednesday Campanella)、Yahyelで、受賞はLittle Glee Monsterだって。
別に異存はないけど、インド系移民はヨーロッパにも多いのでBest India Actはまあ分かるとしても、Best Japan Actはいったいどういう基準で選んでいるんだろう。
Chaiとかは入らないのか。
うーん、謎。
まあいいや、それでは今回はここまで!
Khasi Bloodzはインドらしからぬこなれた英語のラップを聴かせる実力派ラッパー集団で、ここでもBig-Riは安定したラップを披露しているが、何しろ圧巻なのは同じくメガラヤ州出身の女性シンガー/ラッパーのMeba Ofiliaだ。
情感のこもった歌唱から小気味いいラップまで、独特のハスキーヴォイスで素晴らしい歌声を聴かせてくれている。
Mebaはまだメガラヤの州都Shillongで法律を学んでいる大学生。
オリジナル曲もほとんどなく、1年前にKhasi Bloodzと共演した楽曲ではまだまだ実力を発揮できていなかったが、この'Done Talking'で急速に成長した姿を見せつけることになった。
こう言っては大変失礼だが、インドの山奥から出てきたとはとても思えない堂々たるパフォーマンスで、この曲の素晴らしさの8割方が彼女によるものと言っても過言ではないと思う。
大都市や国際都市があるわけでもなく、人口も少ない北東部だが、ここの人々のロックやヒップホップ偏差値の高さにはいつもながら本当に驚かされる。
ちなみにこの賞を受賞した北東部のアーティストとしては、他には先日のナガランド特集で紹介したAlobo Nagaがいる。
北東部のミュージシャンはその音楽的才能の高さに比べて、民族的にマイノリティーであることもあって、なかなかインドの音楽シーンの主流には食い込めていないような印象を持っているのだけど、こうした海外の賞ではきちんと評価されているんだなあ、と思うと感慨深い。
今年ノミネートされていた他のアーティストはこちらのみなさんです。
Raja Kumari ft. Divine 'Roots'.
このブログでも取り上げたカリフォルニア出身の米国籍のテルグ系ラッパーRaja Kumariと、ムンバイのヒンディー語ラッパーDivineによる2度目のコラボレーション。
トラックもかっこいいし、ラップもさすがのテンションだけど、この二人はいつもこんな感じなので、ここに来てまたインド人としてのルーツを誇るみたいなテーマはちょっと新鮮味が無いような気もする。
ちなみに彼女は昨年に続いて2度目のノミネートだった。
Monica Dogra &Curtain Blue 'Spell'
Monica Dograはボルティモア出身のインド系(北西部ジャンムー系)シンガー兼女優で、MTV EMAでは2015年、2016年に続いて3度目のノミネート。
この曲ではデリーのバンドThe CircusのヴォーカリストAbhishek BhatiaのソロプロジェクトであるCurtain Blueとのコラボレーションとなっている。
Skyharbor 'Dim'
Skyharborはインド系のメンバーによるオルタナティブ/プログレッシブ・メタルバンドで、デリー、ムンバイ、アメリカのクリーブランドなど、さまざまな土地の出身者で構成されている。
2010年結成。
日本の音楽シーンとも縁があり、BabymetalのUSツアーのオープニングアクトを務めたり、マーティ・フリードマンのJ-Popカバーアルバムに参加したりもしている。
Nikhil 'Silver and Gold'
Nikhil D'souzaはムンバイ出身のシンガー・ソングライター。
'Silver and Gold'はジェフ・バックリィやスティングらの影響を受けて曲を作り始めた彼のソロデビュー曲。
アコースティックに始まって徐々に盛り上がるアレンジもよく出来ているし、力強くも繊細なヴォーカルも素晴らしい。
やけに貫禄がある歌いっぷりだと思ったら、どうやら彼は長らくボリウッド映画のプレイバック・シンガーとして活躍していたようで、いまでは拠点をイギリスに移して活動している様子。
古城で撮られたビデオも美しい。
どれも完成度の高い楽曲ではあるけれども、いったいどうやってこの5曲が選ばれたのか、謎だなあ。
そもそもRaja KumariやMonica Dograはアメリカ国籍だし、Nikhilは今ではイギリスを拠点に活動しているみたいだし。
共通項はメジャーレーベルからリリースされている作家性の強い英語の楽曲ということくらいか。
欧米の音楽シーンとの親和性も求められているセレクションのような気もする。
この賞は、2013年、2014年はYo Yo Honey Singh、2015年は女優でもあるPriyanka Chopraと、よりポップな(まあ、なんつうか下世話な)曲が選ばれたこともあり、インディー色の強いRolling Stone Indiaのベストアルバムなんかと比べるとこれはこれで個性があって面白い。
そのうちそれぞれのアーティストについても、深く紹介してみたいと思います!
ところで、インドにも増してさらに謎なのは、Best Japan Act.
今年のノミネートはLittle Glee Monster、Daoko、Glim Spanky、水曜日のカンパネラ(英語名称はWednesday Campanella)、Yahyelで、受賞はLittle Glee Monsterだって。
別に異存はないけど、インド系移民はヨーロッパにも多いのでBest India Actはまあ分かるとしても、Best Japan Actはいったいどういう基準で選んでいるんだろう。
Chaiとかは入らないのか。
うーん、謎。
まあいいや、それでは今回はここまで!
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「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」
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goshimasayama18 at 23:28|Permalink│Comments(0)