KamakshiKhanna

2023年01月05日

(前編)Rolling Stone Indiaが選ぶ2022年のベストシングルTop22 インドのインディー音楽はここまで来た



例年このブログで特集している「Rolling Stone Indiaが選ぶベスト○○Top10」シリーズ。
前回特集したベストアルバム部門が、例年と違って15作品選ばれていてびっくりしたのだが、そのあとに発表されたベストシングル部門はなんと22作品!
例年の倍以上!
もちろんこれはインドのインディー音楽シーンが急成長していることを端的に表しているのだが、いい作品が多かったらその中から厳選して10作品選ぶのではなく、躊躇なく15作品とか22作品とか選んでしまうところがいかにもインドらしい。

というわけで、今年は大盤振る舞い。
2回に分けてその22作品をすべて紹介する。

はじめに結論から言ってしまうと、このランキングに選ばれた曲は、Rolling Stone Indiaという媒体の性格を反映して、洋楽的な意味での「よい曲」が並んでいる。
何も言わずに聴かせたらインドのアーティストだとは思えない曲ばかりで、インドの音楽シーンもここまでグローバルになってきたのかと思うと感慨深い。
いっぽうで、それは海外のアーティストと比較したときに没個性という意味でもあるわけで、今日のポピュラー音楽としての洗練された響きを維持しつつ、インド的な特徴も融合した音楽をどう作るかという点が、今後のインドのインディー音楽の発展のひとつの鍵となるのだろう。
能書きはともかくさっそく紹介に移ります。


22位 BeBhumika, Katoptris  “Pareshaan” 

Ritvizマナーの男女ヴォーカルのヒンディー語EDM(いわゆる'印DM')。
インド的アイデンティティと現代的なポップサウンドの両立という点では、この曲は上位ランクの楽曲よりもがんばっている。
ただインド国内ではこの手のサウンドは珍しくなくなってきており、インドのシーンの中で今後オリジナリティをどう出してゆくのかというまた別の課題がありそうだ。
Ritvizフォロワーにとどまらない次の展開を期待したい。


21位 The Runway "Find Me, Find You"

このブログでも何度も紹介している、インド北東部のナガランド州から登場したバンド。
聴いての通り80年代リバイバル風のポップなロックだが、北東部のバンドにありがちな80〜90年代趣味が、結果的に今の時代の懐古的エモさ嗜好にばっちりはまっているように思える。
2022年は、ナガランドからこれまた80年代趣味全開なAbout Usというすごいハードロックバンドも登場しており、しばらくナガのシーンから目が離せなくなりそうだ。


20位 Mali  “Ashes” 

Maliはムンバイ出身のマラヤーリー系(ケーララ系)シンガーソングライター。
彼女のいつものスタイルであるやわらかいアコースティックなサウンドとやさしいヴォーカルの1曲。
そういえば、彼女はコロナ前に日本でミュージックビデオを撮ることを計画していたようだが、その後どうなったのだろうか。


19位 Kenneth Soares  “Cigarettes”

イントロのパーカッション使いやレイドバックした雰囲気など、70年代アメリカンロックを思わせるインドでは珍しいタイプの曲。
しいて近い雰囲気を挙げるとしたら13位のTejasだろうか。
ムンバイのシンガーソングライターだそうだ。


18位 Tanmaya Bhatnagar  “kyun hota hai?”

ニューデリーのシンガーソングライターによる歌ものヒンディー・エレクトロポップ。
全体的に柔らかめのサウンドが心地よい。
この手のエレクトロポップ勢は本当に増えてきた。

17位 Gaya "Qisse"

品の良いアコースティックなアーバンフォーク。
声質や歌い回しに、北インドっぽい節回しが顔を出すのがチャーミングだ。
ムンバイだろうか、下町を叙情的に撮影したミュージックビデオも美しい。
北インドの人かと思ったら、チェンナイ生まれ、ドバイ育ちとのこと。


16位 Raghav Meattle  “Am I Overthinking This?” 
2020年にリリースした"City Life"が記憶に新しいムンバイのシンガーソングライターRaghav Meattleの新曲は、こちらもアコースティックなフォークだが、英語詞ということもあり、洋楽的なサウンドが印象的。
しみじみと感じ入る曲だが、ややシンプルすぎるようにも思う。


15位 Anoushka Maskey  “So Long, Already. Again.” 

インド北東部シッキム州のシンガーソングライターによる、これまたアコースティックな曲。
彼女の歌声にはなんとも形容し難い寂寥感があって、どこか日本のフォークソングを思わせる雰囲気がある。
インドに数多い女性シンガーソングライターのなかでも、声に個性が感じられるアーティストだ。


14位 Kamakshi Khanna and Sanjeeta Bhattacharya  “Swimming”

デリーのシンガーソングライター2人によるコラボレーション。
これもおだやかなバラードだが、歌声ひとつで空気を変える力があるKamakshi Khannaと実力派シンガーSanjeeta Bhattacharyaの共演となると、さすがに聴きごたえがある。
ミュージックビデオの「女の園」的な世界観も独特だ。
ところで、さいきんのSanjeetaのミュージックビデオは、一昨年の"Khoya Sa"もそうだったが同性愛的なテーマで作られているときが多くてなんかドギマギする。


13位 Tejas  “As I’m Getting Older”

ムンバイのシンガーソングライター(どうでもいいけどこのランキングはムンバイとデリーのSSWばっかりだな)Tejasの新作は、いつも通りのダンサブルなポップチューン。
いつも通りよくできているのだが、ちょっとマンネリ感があるかな。


12位 Aanchal Bordoloi  “Whiskey Blues” 

北東部アッサム州出身、ベンガルールを拠点に活動しているシンガーソングライターによる曲。
タイトル通りアメリカっぽい曲調のアーバンフォークだが、いかに大都市ベンガルールとはいえ、まだまだ保守的なインドで女性がWhisley Bluesというタイトルの曲を発表するのはどういう受け止められ方をするのだろうか。
リベラルな性質の媒体なので、そのあたりの時代性というか先進性もランキングに影響しているのだろうか。


11位 Aarifah  “Now She Knows”

ムンバイ出身の女性シンガーソングライターのデビューシングル。
深みのある声で歌われる洋楽的アコースティックバラード。
歌もメロも後半盛り上がってゆくアレンジも悪くないのだが、ここまでちょっと同系統の曲が多すぎるような気がしないでもない。
選者の好みなのだろうか。


というわけで、ここまで12曲を紹介してみました。
上位10曲はまた次回!


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2022年05月08日

インドのアニメーション・ミュージックビデオ特集!(その2・コマ撮り編)


前回お届けしたインドのアニメーション・ミュージックビデオ特集。
 

これまでブログで紹介していなかった作品を中心に、5つの動画を紹介したけれど、まだまだ紹介しきれなかった作品がある。
ということで、今回は、インドのインディー音楽シーンのアニメーション・ミュージックビデオ特集第2弾。
「コマ撮りアニメ編」をお届けします!

デリーを拠点にするヒンディー・ロックバンドThe Local Train"Gustaakh"は、ネオン輝く近未来都市を舞台にした「怪獣もの」という意表を突く設定。


ハリウッドのSFか日本の特撮を思わせるインドらしからぬセンスだが、映像も非常に凝っていてこれがなかなか面白い。
(そのわりに、曲によっては1,000万から2,000万回再生されている彼らの楽曲のなかでは少なめな72万回再生なのがもったいない…)
2018年にリリースされた彼らのセカンドアルバム"Vaaqif"の収録曲で、ミュージックビデオは映画監督Vijesh RajanのシナリオをMosambi Juice Productionsなるスタジオが制作している。
彼らは毎回映画を思わせる凝ったミュージックビデオを作っているが、この作品も30人以上ものスタッフが関わって作られている。
ちなみに曲のタイトルはヒンディー語/ウルドゥー語で「傲慢」を意味しているようだ。


こちらもニューデリーのシンガーソングライターKamakshi Khanna"Qareeb"(アラビア語由来の言葉で「近く」を意味しているらしい)は、フェルトを使ったやわらかな雰囲気が印象的なミュージックビデオだ。



ストーリーは、恋愛に拠り所をもとめていた孤独な若い女性が、音楽を通して自分に自信を取り戻すまでを描いたもの。
監督は実写作品も手掛けている映像作家のArsh Grewal.
彼女のインスタグラムを見ると、Parekh & SinghやSanjeeta Bhattacharya, Lifafaらのインディミュージシャンも数多くフォローしており、次なるコラボレーションに期待がかかる。
Kamakshi Khannaは最近リリースしたSanjeeta Bhattacharyaとのコラボレーション"Swimming"も女性たちだけの幻想的な世界観を美しく描いたミュージックビデオが秀逸だった。


コルカタ出身のシンガーソングライターTajdar Junaid"Ekta Golpo"は、ベンガル民謡っぽい素朴なメロディーをカントリー的なアレンジで歌った曲。


Tajdar JunaidはWhale in the Pondと並んで、コルカタらしい詩的なサウンドのベンガリ・フォークポップを代表するアーティストだ。
楽曲のリリース数は少なく、マイペースに活動しているアーティストのようだが、昨年はムンバイのギタリストBlackstratbluesとのコラボレーションを発表している。
「雲の王国」を舞台にかわいらしい馬たちが繰り広げる民話的ストーリーのアニメーションは、Pigeon and Co.なるプロダクションが手掛けたもの。
こちらも素朴なサウンドに似合う幻想的な作風だ。



前回のアニメーション・ミュージックビデオ特集でも取り上げたTaba Chake"Morning Sun"は、身近なものを活かした、カジュアルながらもアイディアが光っている。


インド北東部シッキム州出身の映像作家Tribeny Raiが完全に予算ゼロで作った作品とのこと。
アコースティックかつポップな楽曲とよく合った映像作品に仕上がっている。


インドを代表するメロディーメイカー、Prateek Kuhad"With You/For You"は、コマ撮りならではの実写を交えた映像が効果的。


ミュージックビデオを手掛けたのは、グラフィックデザイナーのKaran Kumar.
こちらもローバジェットながらも、カラフルでポップな色彩が曲調に合っている。
予算があるならあるなりに、無いなら無いなりに、楽曲に合わせた素敵な作品を作ってくるところにインドの映像作家たちの底力を感じる。

アニメーションのミュージックビデオ、じつはまだまだ紹介したい作品がたくさんあるのだけど、きりがないので今回はいったんここまで。
続きはまたいつか書いてみたいと思います。



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2022年01月20日

Rolling Stone Indiaが選んだ2021年ベストミュージックビデオ10選!

毎年恒例のRolling Stone Indiaが選んだ年間ベスト10シリーズ。
ベストシングル、ベストアルバムに続いて、今回は、ベストミュージックビデオを紹介します!



シングル部門では小洒落たサウンドを追求し、アルバム部門ではトレンドに関係なく優れたサウンド(70's風ギターインストからデスメタルまで)を評価していたこのランキング、ミュージックビデオ部門となるとまた別の傾向が見えてくるから面白い。
ますます隆盛するインドのインディペンデント音楽シーンの勢いが感じられる映像作品が揃っている。
それではさっそく!



1. Aditi Ramesh "Shakti"


1位に選ばれたのは、ムンバイのR&Bシンガー、Aditi Rameshが年の瀬12月にリリースした"Shakti"(「力」という意味).
彼女はインドの女性が社会で直面する困難をテーマとした曲をこれまでも数多くリリースしていて、この"Shakti"でもそうした姿勢は一貫している。
歌詞の中には「3月8日(国際女性デー)にだけ女性に注目する企業にはウンザリ」とか「自分らしく生きたいだけなのに、何をしても細かく詮索される」なんてフレーズもあり、インドのみならず共感できる女性も多いんじゃないだろうか。
Aditiはミュージックビデオの中で、女子高生からサリー姿、OL風、カジュアルまであらゆる女性を演じながら、女性が思うままに好きなように生きることを歌う。
こうした内容は、以前紹介した" Marriageable Age"とも共通したものだが、サウンド的にはインド的な要素がさらに取り入れられ、よりオリジナルなものになっている。


古典音楽を思わせるメロディーラインに対して歌詞が英語なのは、子供時代にニューヨークで南インド古典音楽のカルナーティックを学んでいたというAditiならではのセンスだろう。
映像を手掛けたのは、俳優や映画音楽なども手がけるRonit Sarkar.
映画的な感覚を活かした作風に、映画界とインディペンデント音楽シーンのさらなる接近を感じる。



2. JBabe "Punch Me in the Third Eye"


JBabeはチェンナイのスタイリッシュなロックバンドF16sのギターヴォーカルJosh Fernandezによるソロプロジェクト。
F16sと比べてかなり激しいパンクロック的なスタイルのサウンドだ。
このミュージックビデオは、両親に堅苦しいお見合いを設定された若い男女の、親に隠している本当の姿がテーマとなっている。
親子や世代による価値観の相違はインドの映画や小説でも頻繁に扱われている題材で、ロックやR&Bを好む若者たちにとっても切実な問題なのだろう。
監督は、最近ブッとんだミュージックビデオを相次いで手掛けているLendrick Kumar.
この記事(↓)で紹介しているF16sのミュージックビデオも必見だ。
 





3. Takar Nabam "Good Night (In Memory of Laika)"


3位にランクインしたのは、インド北東部の最果て、アルナーチャル・プラデーシュ州出身のシンガーソングライターTakar Nabam.
この楽曲とミュージックビデオは、1957年にソビエトで有人宇宙飛行に向けた実験のためにロケットに乗せられた、歴史上初めて宇宙に達した生き物である「宇宙犬ライカ」に捧げられたものだ。
そのロケットは地球に帰るための設計はされておらず、ライカは宇宙空間に達した数時間後に船内の温度上昇により死亡したと言われている。
ライカについては、吉田真百合さんという漫画家の『ライカの星』という作品を読んでものすごく感動したところだったので、このミュージックビデオにも大いに心揺さぶられた。
最後に出てくる'Please forgive us'というメッセージに、動物を大事にする文化の強いインドらしさを強く感じさせられる。

インドのインディペンデント音楽シーンでは、以前からアニメーションによるミュージックビデオがけっこう作られていたが、コロナウイルスによるロックダウン以降、密になる撮影が難しくなったことから、さらにアニメ作品が目立つようになった。
アニメ大国日本の感覚で見ると、まだまだチープさもあるかもしれないが、それでもセンスの良い作品もかなり多くなってきている。



4. Kamakshi Khanna ft. OAFF "Duur"


Kamakshi Khannaはデリー出身のシンガーソングライター。
この曲はムンバイの電子音楽アーティストOAFFとのコラボレーションとなっている。
これまで面白いミュージックビデオを数多く発表しているOAFFにしては少し地味に感じられる作品だが、インドのインディペンデント音楽シーンでは、このクールさこそが評価されるのだろう。
(OAFFの面白い映像作品は"Perpetuate", "Grip"など)
チル系の「印DM」(インドの電子音楽)というか、歌モノのトリップホップ的なサウンドも今のインドっぽい。



5. Jayesh Malan "Full / Circle"


12分もあるこの作品は、ミュージックビデオというよりも、環境音楽/環境映像のショートフィルムと呼ぶ方がふさわしいかもしれない。
Jayesh Malaniはマディヤ・プラデーシュ州ボーパール生まれのマルチインストゥルメンタルプレイヤーにして映像作家。
ビートのないギターと自然の音を含んだサウンド、そして美しい映像は、1日の終わりにアロマでも焚きながら見たら疲れが取れそう。
それにしても、YouTubeでたった1100再生ほどでしかない作品をきちんと探してきてランキングに入れるRolling Stone Indiaの慧眼はなかなかのものだ。



6. Dhruv Vishvanath "Fly"


Dhruv Visvanathはデリー出身のギタリスト。
ふだんはアコースティックギターをフィンガースタイルで弾くことが多いが、この曲では超ファジーなエレクトリックギターを披露している。
「キッチンでたった一人で反乱を起こすタマゴ」のコマ撮りアニメがかわいらしい。
ちなみにサムネイル画像の右下に見える日の丸のようなマークは、インドで食品につけることが義務付けられている「ノンベジタリアン製品」を意味するもので、ベジタリアン製品の場合は緑色になる。
なかなか芸が細かい。
インドではコマ撮りアニメのミュージックビデオにも凝った作品が多くて、例えば人気ロックバンドThe Local Trainの"Gustaakh"なんかはなかなかのものだ。



7. Komorebi "Chanda"


宮崎駿などの日本文化からの影響を公言しているデリーの電子音楽アーティスト、その名もKomorebiの"Chanda"もアニメーションのミュージックビデオ。
「月」を意味する'Chanda'というタイトルは、KomorebiことTarana Marwahの亡き祖父Karamchandから取られているとのこと。
すでにこの世にはいない人を思うエッチングのようなタッチの映像が幻想的だ。
曲もため息が出るほど美しい。



8. Sanjeeta Bhattacharya, Aman Sagar  "Khoya Sa"


アメリカの名門音楽大学バークリーを卒業したSanjeeta Bhattacharyaは、R&Bの影響を感じさせる洗練された音楽でこのランキングの常連となっているアーティスト。
一昨年もマダガスカルの女性ラッパーNiu Razaと共演した"Red"が、Rolling Stone India選出のベストミュージックビデオ第1位に選ばれている。
彼女は楽曲ごとに、オーガニックソウル、ラテン音楽、ラップとスタイルを変えてきたが、この"Khoya Sa"は、新機軸のヒンディー語のR&B。
ミュージックビデオのではなんと同性愛者を自ら演じている。
インドでも映画や音楽で性的マイノリティが扱われることが増えてきているとはいえ、まだまだ保守的な要素が強いインドでは、かなり挑発的な作品と考えて良いだろう。
インドのインディペンデントシーンでは、一般的なインド社会と比べてかなり「攻めた」作品も散見されるが、こうした点もまた魅力のひとつである。





9. Kayan "Be Alright"


KayanはロックバンドKimochi Youkaiやエレクトロニック・デュオNothing Anonymousでも活躍する(どちらもかなりセンスいい!)ムンバイの女性シンガーAmbika Nayakのソロ名義。
このミュージックビデオは、インドでも最近目立つようになった80年代〜90年代風の映像が特徴的だが、アナログなノイズやレトロフューチャーっぽい分かりやすいクリシェをあえて使わずに、画面の色味や歌詞のフォントやファッションで往時を現したところにセンスを感じる。



10. Ankur Sabharwar "Better Man"


Ankur Sabharwarはデリーのロックアーティスト。
こちらは50年代〜60年代の洋画の怪奇映画を思わせるモノクロの映像で、サウンドも洋楽ポップス風。
サビで転調するところがいい。
楽曲も映像も、インド人のレトロ欧米趣味の好例といえそうな作品だ。



というわけで、Rolling Stone Indiaが選んだミュージックビデオ10作品を紹介してみました。
ご存知の通り、インドには映画のシーンをそのまま使った映画音楽のミュージックビデオもたくさんあるし、映画音楽ではなくてもより商業的な音楽の豪華絢爛なミュージックビデオだって結構作られている(例えばメインストリーム・ラッパーのYo Yo Honey Singhなど)。
そうした映像作品と比べると、かなり低予算な感じも否めないけれど、それでもインディペンデントなアーティストたちがこうした面白い音楽や映像を作っているということはきちんと押さえておきたい。

今年の傾向としては、1位のAditi Rameshや2位のJBabeのように、インドの現代社会で若者が感じている問題を映像化した作品や、アニメ作品(コマ撮り含む)が多かったのが特徴と言えるだろう。
モノクローム映像を使った映像や、レトロな風合いを感じさせる映像も目立っている。

とはいえ、やはりRolling Stone Indiaらしく、「欧米的洗練」が重視されたセレクトとなっていて、それが悪いわけではないのだが、いつかまた違う視点で選んだ軽刈田によるお気に入りミュージックビデオ特集の記事も書いてみたいと思った。


過去にRolling Stone Indiaが選んだ各年のミュージックビデオも面白いので、よかったらこちらからどうぞ。

2020年はShashwat BulusuとDIVINEとRaghav Meattleが良かった。


2019年は正直あんまり記憶にないが、しいて言えば寿司が出てくるF16sのミュージックビデオが印象に残っている。


2018年の白眉はRitviz.
思えばこの年あたりから、レトロ的表現が目につくようになった。





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2021年01月08日

Rolling Stone Indiaが選ぶ2020年ベストミュージックビデオ10選!

というわけで、今回はRolling Stone Indiaが選ぶ2020年のインドのミュージックビデオ10選!

(元の記事はこちら↑)

「コレを選んできたか!」というのもあれば、「コレかあ?」というのもあり、また「コレは素晴らしかったのにすっかり忘れてた!」というセレクトもあったりして、こちらもまた興味深いランキングになっています。
時代性はともかく「洋楽っぽさ」を重視していたベストアルバム10選(こちら)とはうってかわって、ミュージックビデオのほうはインドならではの映像が選ばれているのも見どころ。
それではさっそく見てみましょう!



1. Sanjeeta Bhattacharya  “Red”
Sanjeeta Bhattacharyaは、アメリカの名門バークリー音楽大学を卒業したシンガーソングライター。
日本語タイトルの"Natsukashii"など、これまでも興味深い楽曲を数多く発表している。
この新曲で、従来のオーガニック・ソウル的な曲調とは異なる違うラップを導入した新しいスタイルを披露した。

共演しているシンガー/ラッパーのNiu Razaはマダガスカル出身だそうで、バークリーの人脈だろうか。
音楽性の変化に合わせて、見た目的にも、これまでの自然体で可愛らしいビジュアルイメージから、大人っぽい雰囲気への脱却を図っているようだ。
ミュージックビデオはインドのインディー音楽によくある無国籍風の映像。
楽曲はあいかわらず上質だが、ミュージックビデオとして年間ナンバーワンかと言われると、ちょっと疑問ではある。


2. Kamakshi Khanna  “Qareeb”
昨年は新型コロナウイルスの影響で通常の撮影が困難だったせいか、アニメーションを活かしたミュージックビデオが目立った一年だった。
この作品はフェルトの質感を活かしたコマ撮りアニメ。
インドのアニメのミュージックビデオは、ほとんど絵が動かない低予算のものから凝ったものまで、センスを感じられるものが多く、今後、日本のアーティストが制作を依頼したりしても面白いんじゃないかなと思う。
この曲のタイトルの"Qareeb"は「接触すること、そばにいること」を意味するウルドゥー語のようだ。
Kamakshi Khannaはデリーを拠点に活動しているシンガーソングライターで、出会いと孤独感を描いた映像が、憂いを帯びた歌声と切ないメロディーによく合っている。


3. Prabh Deep  “Chitta” 
デリーのアンダーグラウンド・ヒップホップシーンを代表するラッパー、Prabh Deepの"Chitta"もまた、実写とアニメーションを融合した作風。
前半の実写部分に見られる手書き風のエフェクトも最近のインドのミュージックビデオでよく見られる表現だ。
いつもどおりタイトなターバンにストリートファッションを合わせた彼のスタイルに、カートゥーン調の映像がマッチしている。
曲調は、メロウなビートのいつものPrabh Deepスタイル。


4. Shashwat Bulusu  “Sunset by the Vembanad”
インド西部グジャラート州バローダのシンガーソングライターShashwat Bulusuの"Sunset by the Vembanad"は、彼のホームタウンを遠く離れた北東部のメガラヤ州、トリプラ州、アッサム州で撮影されたもの。
このミュージックビデオを制作したのはBoyer Debbarmaという映像作家で、自身もスケートボーダーであり、スケートボードを専門に撮影するHuckoというメディアの運営もしているという。
BoyerがShashwatの音楽に興味を持ってコンタクトしたところ、ShashwatもBoyerの映像をチェックしており、今回のコラボレーションにつながったそうだ。
個人的にもかなり印象に残った作品で、リリース当時、このミュージックビデオと絡めてインドのスケートボードシーンについての記事を書こうと思っていたのだが、すっかり忘れていた。
ミュージックビデオに出てくる若者はKunal Chhetriというスケートボーダー。
人気の少ない街中や、トリプラの自然の中で、大して面白くもなさそうにスケートボードを走らせる彼の姿には、不思議と惹きつけられるものを感じる。
例えば大都市の公園で得意げに次々にトリックを披露するような映像だったら、こんなに心に引っかかるミュージックビデオにはならなかっただろう。
彼の退屈そうな表情やたたずまいに、強烈なリアルさを感じる。
情熱的なようにも投げやりなようにも聴こえるShashwatの歌声も印象的。 


5. DIVINE  “Punya Paap”

軽刈田セレクトによる2020年のベスト10(こちら)にも選出したムンバイのラッパーDIVINEの"Punya Paap".
これまで「ストリートの兄貴」的なイメージで売ってきたDIVINEだが、名実ともにスターとなったことでそのイメージの転換を迫られ、この曲ではキリスト教の信仰や内面的なテーマを打ち出してきた。
一方で、まったく真逆のメインストリーム/エンターテインメント路線の曲にも取り組んでいて、彼の方向性の模索はまだまだ続きそうだ。



6. That Boy Roby  “Backdrop”

チャンディーガル出身のロック・バンドThat Boy Robyはこのランキングの常連で、2018年には、サイケデリックなロックに古いボリウッドの映像を再編集したB級レトロ感覚あふれるミュージックビデオがランクインしていた(こちらを参照)。
その時は、「インドもいよいよドメスティックな『ダサさ』を逆説的にクールなものとして受け入れられるようになったのか」としみじみと感じたものだったが、今作では大幅に方向転換し、環境音楽的な静かなサウンドに、ドキュメンタリー風の映像を合わせたミュージックビデオを披露している。
あまりの変貌っぷりに、どうしちゃったの?と思ってしまうが、映像のクオリティは非常に高い。
インド北部ヒマーチャル・プラデーシュ州スピティ・ヴァレーの人々の冬の暮らしを詩情豊かに描いた映像は、同地で活躍する写真家Himanshu Khagtaによるものだそうだ。


7. Lifafa  “Laash”

Lifafaは、バート・バカラック風のノスタルジックなポップスを演奏する「デリーの渋谷系バンド」Peter Cat Recording Co.のヴォーカリストSuryakant Sawhneyによるエレクトロニック・フォーク・プロジェクト。
Lifafa名義のソロ作品では、PCRCとはうってかわって、インドっぽさと現代らしさ、伝統音楽と電子音楽の不思議な融合を聴かせてくれる。
6分43秒もあるミュージックビデオは、ハンディカメラで撮られたロードムービー風だが、最後の最後で予想外の展開を見せる。


8. When Chai Met Toast  “When We Feel Young”

ケーララ州出身のフォークロックバンドWhen Chai Met Toastの"When We Feel Young"も、やはりアニメーションによるミュージックビデオだった。
夜の道をドライブしながら過去を振り返る初老の夫婦を主人公とした映像は、彼らの音楽同様に、心温まる色合いとストーリーが印象に残る。



9. Komorebi  “Rebirth”
宮崎駿などのジャパニーズ・カルチャーの影響を受けているデリーのエレクトロニカ・アーティストKomorebiの"Rebirth"は、CGと化した彼女がインドと日本を行き来する興味深い作品。
軽刈田による2020年のベスト10(こちら)ではコルカタのSayantika Ghoshをセレクトしたが、インドでは電子音楽とジャパニーズ・カルチャーの融合がひとつの様式となっているようだ。




10. Raghav Meattle  “City Life”

軽刈田も注目しているムンバイのシンガー・ソングライターRaghav Meattleの"City Life".
お気に入りの曲が選ばれているとやはりうれしい。
フィルムカメラを使って撮られた映像は、コロナウイルス禍以降に見ると、もう戻れない過去のようにも見えて切なさが募る。



というわけで、Rolling Stone Indiaが選んだ2020年のミュージックビデオ10選を紹介してみました。
ベストアルバム同様、このミュージックビデオ10選も、音楽的にはこれといってインドっぽさのない、無国籍なサウンドが並んでいるのだが、やはり映像が入るとぐっとインドらしさが感じられる。

大手レーベルと契約しているDIVINE以外は、コロナウイルスの影響を受けたと思われるアニメーションやドキュメンタリー調(少人数での撮影を余儀なくされたのだろう)の映像が目立つのが印象的だ。
過去のランキングと比べてみるのも一興です。






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