K-Pop
2021年12月20日
インド北東部 晩秋の桜祭り Cherry Blossom Festival in Shillong
桜といえば日本を代表する花であることは論を待たないが、異論があるとすればシロンからだろう。
何を言っているのか訳が分からないだろうけど、まずは、この美しい桜の写真を見てほしい。



いやー、やっぱり日本の春はこれだよな、と言いたくなるが、じつはこれ、みんなインドで撮られたものなのである。
この写真のいずれもが、インド北東部のメガラヤ州の州都シロン(Shillong)で撮影されたものだ。
しかも、これは春ではなくて晩秋。
インドではムンバイにも桜の並木道があり、毎年3月に見頃となるが、シロンでは桜の種類が違うのか、毎年11月に満開の季節を迎える。
(写真の出典:
1枚目 https://www.cntraveller.in/story/covid-cant-stop-cherry-blossoms-from-blooming-in-shillong-meghalaya/
2枚目 https://timesofindia.indiatimes.com/travel/destinations/shillong-ready-to-host-indian-cherry-blossom-festival-in-nov/as61184175.cms
3枚目 https://indianexpress.com/article/north-east-india/meghalaya/cherry-blossom-festival-shillong-meghalaya-bloom-no-show-yet-show-must-go-on-4927948/)


(地図出典:Wikipedia)
このブログでも何度も紹介しているように、インド北東部は、アーリア系やドラヴィダ系の彫りの深い典型的な「インド人」ではなく、東アジア/東南アジア的な見た目の人々が多く暮らす土地である。
我々がインドと聞いてイメージする褐色の大地とは異なるヒマラヤのふもとの山間に桜が咲き誇る様子は、まるで日本の田舎の風景のようだ。

(出典:https://www.indiatimes.com/trending/environment/shillong-2021-cherry-blossom-festival-photos-555265.html)
北東部は文化的にも独特で、20世紀以降、欧米の伝道師たちによって持ち込まれたキリスト教の信仰が定着し、じつに人口の75%がクリスチャンだ。
そのためか、メガラヤ州にはインドではかなり早い時期から欧米のポピュラーミュージックが浸透していて、シロンは「インドのロックの首都」とも言われている。
日本で花見といえば宴会だが、そんなシロンではやはり桜の季節も音楽フェス。
今年はシロンの桜祭り、その名も'Shillong Cherry Blossom Festival'が2年ぶりに開催され、そのなかでインド国内外のアーティストが出演するライブが行われた。
今年のフェスティバルは、11月25〜27日の3日間にわたって行われ、大いに盛り上がったようだ。
出演アーティストを見てみよう。
まずは韓国から、K-Popの今年デビューしたガールズグループPIXY.
Cherry Blossom Festivalのステージでは、かつて世界的にヒットしたPanjabi MCの"Mundian To Bach Ke"をカバーするなど、インドのオーディエンスを意識したパフォーマンスを繰り広げた。
この曲は、インド北西部パンジャーブのバングラーを現代的にアレンジしたもので、メガラヤ州とは遠く離れた地方の音楽なのだが、それでもインドのための特別なパフォーマンスであることは十分に伝わったようで、観客も大いに盛り上がっている。
K-Pop人気はインドでも絶大で、韓国側もしっかりとインドをマーケットとして位置付けているようである。
PIXYのような新鋭K-Popグループによるインドでのプロモーション活動は、ここ数年さかんに行われていて、インド各地でK-Pop人気の裾野を広げることに貢献している。
他の出演者も見てみよう。
ポルトガルの女性EDM DJ, Mari Ferrariはこのブチ上げっぷり。
他には、ドバイのファンクグループ、Carl and the Reda Mafiaやタイのエレクトロニック・ポップ・アーティストPyraら国際色豊かな面々が出演している。
「そこまで世界的に有名ではないが面白いアーティスト」を呼ぶことにかけては、北東部のフェスはなかなかの慧眼を発揮していると言えるだろう。
このCherry Blossom Festivalには、地元メガラヤのアーティストたちも出演し、ステージを盛り上げている。
例えばこの女性シンガーのJessie Lyngdoh.
R&BシンガーのShane.
メガラヤ州の公用語は、地元言語のガロ語(Garo)、カシ語(Khasi)、そして英語。
北東部の地元言語は話者数が少ないためか、英語で歌うアーティストが多いのも特徴となっていえる。
EDMのDJ Wanshanのこの下世話な盛り上がりっぷりも最高。
BANJOPら地元のメンバーも複数出演した。
ロックバンドのRum and Monkeys.
シロンは小さな街だが、さすが「インドのロックの首都」と言われているだけあり、層の厚さを感じさせるラインナップである。
このフェスが北東部らしくて面白いところは、音楽だけでなく、コスプレ大会などのイベントも行われていること。
北東部では、見た目的な親近感からか、K-Popだけでなく日本のアニメやコスプレ文化も非常に高い人気を博している。
フェス全体の様子はこちらの動画で見ることができる。
この動画でも「サクラ」という言葉が使われているし、コスプレ大会も行われているこのフェスに、日本のアーティストにもぜひ出演してほしいところ。
秋に桜が見たくなったら、春まで待つ必要はない。
メガラヤ州シロンに行こう。
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何を言っているのか訳が分からないだろうけど、まずは、この美しい桜の写真を見てほしい。



いやー、やっぱり日本の春はこれだよな、と言いたくなるが、じつはこれ、みんなインドで撮られたものなのである。
この写真のいずれもが、インド北東部のメガラヤ州の州都シロン(Shillong)で撮影されたものだ。
しかも、これは春ではなくて晩秋。
インドではムンバイにも桜の並木道があり、毎年3月に見頃となるが、シロンでは桜の種類が違うのか、毎年11月に満開の季節を迎える。
(写真の出典:
1枚目 https://www.cntraveller.in/story/covid-cant-stop-cherry-blossoms-from-blooming-in-shillong-meghalaya/
2枚目 https://timesofindia.indiatimes.com/travel/destinations/shillong-ready-to-host-indian-cherry-blossom-festival-in-nov/as61184175.cms
3枚目 https://indianexpress.com/article/north-east-india/meghalaya/cherry-blossom-festival-shillong-meghalaya-bloom-no-show-yet-show-must-go-on-4927948/)


(地図出典:Wikipedia)
このブログでも何度も紹介しているように、インド北東部は、アーリア系やドラヴィダ系の彫りの深い典型的な「インド人」ではなく、東アジア/東南アジア的な見た目の人々が多く暮らす土地である。
我々がインドと聞いてイメージする褐色の大地とは異なるヒマラヤのふもとの山間に桜が咲き誇る様子は、まるで日本の田舎の風景のようだ。

(出典:https://www.indiatimes.com/trending/environment/shillong-2021-cherry-blossom-festival-photos-555265.html)
北東部は文化的にも独特で、20世紀以降、欧米の伝道師たちによって持ち込まれたキリスト教の信仰が定着し、じつに人口の75%がクリスチャンだ。
そのためか、メガラヤ州にはインドではかなり早い時期から欧米のポピュラーミュージックが浸透していて、シロンは「インドのロックの首都」とも言われている。
日本で花見といえば宴会だが、そんなシロンではやはり桜の季節も音楽フェス。
今年はシロンの桜祭り、その名も'Shillong Cherry Blossom Festival'が2年ぶりに開催され、そのなかでインド国内外のアーティストが出演するライブが行われた。
今年のフェスティバルは、11月25〜27日の3日間にわたって行われ、大いに盛り上がったようだ。
出演アーティストを見てみよう。
まずは韓国から、K-Popの今年デビューしたガールズグループPIXY.
Cherry Blossom Festivalのステージでは、かつて世界的にヒットしたPanjabi MCの"Mundian To Bach Ke"をカバーするなど、インドのオーディエンスを意識したパフォーマンスを繰り広げた。
この曲は、インド北西部パンジャーブのバングラーを現代的にアレンジしたもので、メガラヤ州とは遠く離れた地方の音楽なのだが、それでもインドのための特別なパフォーマンスであることは十分に伝わったようで、観客も大いに盛り上がっている。
K-Pop人気はインドでも絶大で、韓国側もしっかりとインドをマーケットとして位置付けているようである。
PIXYのような新鋭K-Popグループによるインドでのプロモーション活動は、ここ数年さかんに行われていて、インド各地でK-Pop人気の裾野を広げることに貢献している。
他の出演者も見てみよう。
ポルトガルの女性EDM DJ, Mari Ferrariはこのブチ上げっぷり。
他には、ドバイのファンクグループ、Carl and the Reda Mafiaやタイのエレクトロニック・ポップ・アーティストPyraら国際色豊かな面々が出演している。
「そこまで世界的に有名ではないが面白いアーティスト」を呼ぶことにかけては、北東部のフェスはなかなかの慧眼を発揮していると言えるだろう。
このCherry Blossom Festivalには、地元メガラヤのアーティストたちも出演し、ステージを盛り上げている。
例えばこの女性シンガーのJessie Lyngdoh.
R&BシンガーのShane.
メガラヤ州の公用語は、地元言語のガロ語(Garo)、カシ語(Khasi)、そして英語。
北東部の地元言語は話者数が少ないためか、英語で歌うアーティストが多いのも特徴となっていえる。
EDMのDJ Wanshanのこの下世話な盛り上がりっぷりも最高。
BANJOPら地元のメンバーも複数出演した。
ロックバンドのRum and Monkeys.
シロンは小さな街だが、さすが「インドのロックの首都」と言われているだけあり、層の厚さを感じさせるラインナップである。
このフェスが北東部らしくて面白いところは、音楽だけでなく、コスプレ大会などのイベントも行われていること。
北東部では、見た目的な親近感からか、K-Popだけでなく日本のアニメやコスプレ文化も非常に高い人気を博している。
フェス全体の様子はこちらの動画で見ることができる。
この動画でも「サクラ」という言葉が使われているし、コスプレ大会も行われているこのフェスに、日本のアーティストにもぜひ出演してほしいところ。
秋に桜が見たくなったら、春まで待つ必要はない。
メガラヤ州シロンに行こう。
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2021年06月01日
K-pop meets 'I-Pop'! インドと韓国のコラボレーションは新しい扉を開くのか?
5月21日にリリースされたArmaan Malik, Eric Nam, KSHMRのコラボレーションによる新曲"Echo"の評判が良い。
6月1日の時点でYouTubeの再生回数は1,000万回以上。
ヒット映画の音楽ともなれば億を超えることも珍しくないインドでは決してずば抜けた数字ではないが、映画と関係のない音楽としては大健闘していると言っていいだろう。
この楽曲に関わった人物を整理してみよう。
Armaan Malikはムンバイ出身のシンガー。
代々インド映画の音楽を作ってきた一家に生まれたArmaanは、幼い頃から古典音楽を学び、アメリカの名門バークリー音楽大学で学んだのち、EDM, R&B, そしてもちろん映画音楽などの分野で活躍している。
インド映画のプレイバック・シンガーにはよくある話だが、彼もまた多くの言語で歌っており、ヒンディー、英語、ベンガル語、テルグー語、マラーティー語、タミル語、グジャラーティー語、パンジャービー語、ウルドゥー語、マラヤーラム語、カンナダ語の楽曲をレコーディングしたことがあるという。
この"Chale Aana"は2019年のボリウッド映画"De De Pyaar De"の挿入歌で、作曲はArmaanの兄であるAmaal Mallik. (兄のAmaalは、弟と違って姓のアルファベット表記の'L'が2つある)
この曲の再生回数は1.6億回とケタ違いだ。
彼が歌う他の映画音楽では、5億再生を超えているものもある。
映画音楽以外の活動も見逃せない。
2020年のMTV Europe Music Awardsで、近年勢いづくヒップホップ勢を抑えてBest India Actを受賞した"Control"は、"Echo"同様にインドらしさをまったく感じさせない「洋楽的」なポップソングだ。
Armaanは、映画音楽という大衆音楽と、洋楽的なポピュラー・ミュージックという、対照的なふたつのジャンルの第一線で活躍しているシンガーなのだ。
Eric Namはアトランタ出身の韓国系アメリカ人シンガー。
011年に名門ボストン・カレッジを卒業し、ニューヨークのデロイト・コンサルティングで勤務するというエリート中のエリートだった彼は、YouTubeへのカバー曲動画の投稿や韓国でのオーディション番組への参加を経て、ミュージシャンとしてのキャリアをスタートさせた。
シンガーとしては、韓国語と英語の両方で楽曲をリリースしており、海外ツアーを行うなど、すでに国際的な活躍をしている。
この"Honestly"を聴けば分かる通り、そのサウンドはK-popのイメージを裏切らないきらびやかなダンスポップ。
声の質もArmaanに近く、ヴォーカリストとしての相性がぴったりなのがこの曲からも分かるだろう。
"Echo"のプロデュースを務めたKSHMRことNiles Hollwell-Dharはカリフォルニア出身のインド系アメリカ人のEDMアーティストだ。
名前の通り、カシミール地方出身のヒンドゥー教徒の父を持つ(母親はインド系ではないようだ)。
2003年に高校の友人と結成したヒップホップユニットThe Cataracsで活動したのち、2014年にKSHMRの名義でEDMに転向。
UltrasやTommorowlandなどの大規模フェスでもプレイし、2016年、2017年、2020年にはDJ Magの世界トップDJの12位に輝いているEDMシーンのトップスターの一人だ。
活動の場が違うので簡単には比較できないが、ジャンル内の評価で言えば、このKSHMRが3人の中でもっとも大きな成功を収めていると言えるかもしれない。
(再生回数で言えば圧倒的にArmaan Malikだが)
この曲はインドで行われたアジア最大のEDMフェス'Sunburn'のテーマ曲として作られたもの。
インド国内のマーケットを意識した作品では、このようにビジュアルにもサウンドにもインドらしい要素を取り入れており、最近ではインド国内のアーティストとのコラボレーションも多い。
…長くなったが、要は、この曲でコラボレーションした3人には、非常に多様性に富んだ背景があるということである。
国籍としては、インド、韓国、アメリカ。
音楽ジャンルとしては、フィルミ(インド映画音楽)、インド古典音楽、R&B、K-pop、EDM...
こうした多様性のある3人のコラボレーションなのだから、ものすごい化学反応が起きて、斬新なフュージョン音楽が生まれるのではないかと期待していたのだが、誤解を恐れずに言えば、出来上がった作品は、ポップミュージックとしての質は高いものの、音楽的な冒険はせずに、手堅くまとめたという印象だ。
"Echo"には、Armaanの古典音楽的な歌い回しも出てこなければ、KSHMRの得意なフュージョンの要素もない。
ミュージックビデオの映像も、K-Pop的な派手さや伝統的なインドのイメージとは無縁な、率直に言うとかなり地味なものである。
Eric Namは、Rolling Stone Indiaにこう語っている。
「"Echo"は3人のアジア人がグローバルな舞台で団結した重要な例なんだ。僕らの仲間がもっと増えたらいいのにって思ってる。僕たち(引用者注:アジア人)全体を代表してやってのけることができる人たちの、もっと大きなネットワークが欲しいんだ。僕らは、自分たちみたいなカルチャーに関わる人たちを、もっと大きなスクリーンで見たいと思って成長してきた。でも、伝統的に、そういう場所は僕らにオープンじゃなかったんだ。ようやく、少しずつオープンになってきてはいるけどね。それから今、人種間や社会的な緊張がこれまでになく高まってきている。だから、僕らにとって、今こそこういうことをやるのに最高の時なんだよ」
この言葉の中の、「アジア人にもショービジネスが少しずつオープンになってきている」というのはK-popの成功を、「人種間や社会的な緊張が高まっている」というのはコロナ以降のアジア人差別を指しているのだろう。
"Echo"をこのタイミングでリリースしたのは、5月がアメリカ合衆国における「アジア系アメリカ人および太平洋諸島出身者月間」(Asian American and Pacific Islander Heritage Month)であることも意識していたという。
だからこそ、彼らは偏見にもつながるステレオタイプと裏表な典型的なアジアの要素を前面に出すのではなく、あえて無国籍なポップミュージックを作り、音楽の質そのもので勝負しようとしたのだろう。
しかし、無国籍なポップミュージックとは、結局のところ、欧米の白人が作ったジャンルを意味している。
今のところ、インド国内と韓国の一部のファンには高い評価を得ているようだが、この方法論が世界でどこまで通用するのか、応援しつつ見守ってゆきたい。
ところで、記事のタイトルに'K-pop meets "I-pop"'と書いたが、'I-pop'とはこの曲を紹介するにあたり、インドの媒体が多用している言葉。
インドは英語が話せる人材も多いし、最近ではArmaanのようにバークリーなどの欧米の一流の音楽大学に進学する若者も増えている。
I-PopがK-Popのように、世界で評価される日が来るのだろうか。
この曲の再生回数は1.6億回とケタ違いだ。
彼が歌う他の映画音楽では、5億再生を超えているものもある。
映画音楽以外の活動も見逃せない。
2020年のMTV Europe Music Awardsで、近年勢いづくヒップホップ勢を抑えてBest India Actを受賞した"Control"は、"Echo"同様にインドらしさをまったく感じさせない「洋楽的」なポップソングだ。
Armaanは、映画音楽という大衆音楽と、洋楽的なポピュラー・ミュージックという、対照的なふたつのジャンルの第一線で活躍しているシンガーなのだ。
Eric Namはアトランタ出身の韓国系アメリカ人シンガー。
011年に名門ボストン・カレッジを卒業し、ニューヨークのデロイト・コンサルティングで勤務するというエリート中のエリートだった彼は、YouTubeへのカバー曲動画の投稿や韓国でのオーディション番組への参加を経て、ミュージシャンとしてのキャリアをスタートさせた。
シンガーとしては、韓国語と英語の両方で楽曲をリリースしており、海外ツアーを行うなど、すでに国際的な活躍をしている。
この"Honestly"を聴けば分かる通り、そのサウンドはK-popのイメージを裏切らないきらびやかなダンスポップ。
声の質もArmaanに近く、ヴォーカリストとしての相性がぴったりなのがこの曲からも分かるだろう。
"Echo"のプロデュースを務めたKSHMRことNiles Hollwell-Dharはカリフォルニア出身のインド系アメリカ人のEDMアーティストだ。
名前の通り、カシミール地方出身のヒンドゥー教徒の父を持つ(母親はインド系ではないようだ)。
2003年に高校の友人と結成したヒップホップユニットThe Cataracsで活動したのち、2014年にKSHMRの名義でEDMに転向。
UltrasやTommorowlandなどの大規模フェスでもプレイし、2016年、2017年、2020年にはDJ Magの世界トップDJの12位に輝いているEDMシーンのトップスターの一人だ。
活動の場が違うので簡単には比較できないが、ジャンル内の評価で言えば、このKSHMRが3人の中でもっとも大きな成功を収めていると言えるかもしれない。
(再生回数で言えば圧倒的にArmaan Malikだが)
この曲はインドで行われたアジア最大のEDMフェス'Sunburn'のテーマ曲として作られたもの。
インド国内のマーケットを意識した作品では、このようにビジュアルにもサウンドにもインドらしい要素を取り入れており、最近ではインド国内のアーティストとのコラボレーションも多い。
…長くなったが、要は、この曲でコラボレーションした3人には、非常に多様性に富んだ背景があるということである。
国籍としては、インド、韓国、アメリカ。
音楽ジャンルとしては、フィルミ(インド映画音楽)、インド古典音楽、R&B、K-pop、EDM...
こうした多様性のある3人のコラボレーションなのだから、ものすごい化学反応が起きて、斬新なフュージョン音楽が生まれるのではないかと期待していたのだが、誤解を恐れずに言えば、出来上がった作品は、ポップミュージックとしての質は高いものの、音楽的な冒険はせずに、手堅くまとめたという印象だ。
"Echo"には、Armaanの古典音楽的な歌い回しも出てこなければ、KSHMRの得意なフュージョンの要素もない。
ミュージックビデオの映像も、K-Pop的な派手さや伝統的なインドのイメージとは無縁な、率直に言うとかなり地味なものである。
Eric Namは、Rolling Stone Indiaにこう語っている。
「"Echo"は3人のアジア人がグローバルな舞台で団結した重要な例なんだ。僕らの仲間がもっと増えたらいいのにって思ってる。僕たち(引用者注:アジア人)全体を代表してやってのけることができる人たちの、もっと大きなネットワークが欲しいんだ。僕らは、自分たちみたいなカルチャーに関わる人たちを、もっと大きなスクリーンで見たいと思って成長してきた。でも、伝統的に、そういう場所は僕らにオープンじゃなかったんだ。ようやく、少しずつオープンになってきてはいるけどね。それから今、人種間や社会的な緊張がこれまでになく高まってきている。だから、僕らにとって、今こそこういうことをやるのに最高の時なんだよ」
この言葉の中の、「アジア人にもショービジネスが少しずつオープンになってきている」というのはK-popの成功を、「人種間や社会的な緊張が高まっている」というのはコロナ以降のアジア人差別を指しているのだろう。
"Echo"をこのタイミングでリリースしたのは、5月がアメリカ合衆国における「アジア系アメリカ人および太平洋諸島出身者月間」(Asian American and Pacific Islander Heritage Month)であることも意識していたという。
だからこそ、彼らは偏見にもつながるステレオタイプと裏表な典型的なアジアの要素を前面に出すのではなく、あえて無国籍なポップミュージックを作り、音楽の質そのもので勝負しようとしたのだろう。
しかし、無国籍なポップミュージックとは、結局のところ、欧米の白人が作ったジャンルを意味している。
今のところ、インド国内と韓国の一部のファンには高い評価を得ているようだが、この方法論が世界でどこまで通用するのか、応援しつつ見守ってゆきたい。
ところで、記事のタイトルに'K-pop meets "I-pop"'と書いたが、'I-pop'とはこの曲を紹介するにあたり、インドの媒体が多用している言葉。
インドは英語が話せる人材も多いし、最近ではArmaanのようにバークリーなどの欧米の一流の音楽大学に進学する若者も増えている。
I-PopがK-Popのように、世界で評価される日が来るのだろうか。
その時に、"Echo"はエポック・メイキングな楽曲として思い出されるものになるはずだ。
関連記事:
参考サイト:
https://rollingstoneindia.com/exclusive-armaan-malik-eric-nam-and-kshmr-collaborate-on-new-single-echo/
https://www.bollywoodbubble.com/bollywood-news/exclusive-armaan-malik-on-echo-taking-i-pop-global-dabbling-with-wanting-to-breakout-and-fear-of-rejection/
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関連記事:
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https://rollingstoneindia.com/exclusive-armaan-malik-eric-nam-and-kshmr-collaborate-on-new-single-echo/
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goshimasayama18 at 20:56|Permalink│Comments(0)
2019年05月06日
インドで盛り上がるK-Pop旋風!
カンボジアのトンレサップ湖に浮かぶ水上集落を訪れたときのことを、強烈に覚えている。
いきなりインドに関係のない話題で恐縮だが、今回のテーマを書くにあたって、どうしてもこの話から書き始めたかったのでご容赦いただきたい。
カンボジア最大の湖であるトンレサップ湖には、70年代まで続いたインドシナ半島の紛争から逃れてきた人々がボートハウスで暮らす水上集落がいくつも点在している。
正直にいうと、すでにインドで途上国の貧しい人々の現実を見聞きしていた私は、湖の水で食器を洗い、同じ湖に排泄する彼らの生活を見ても、さほどショックを受けることはなかった。
正直にいうと、すでにインドで途上国の貧しい人々の現実を見聞きしていた私は、湖の水で食器を洗い、同じ湖に排泄する彼らの生活を見ても、さほどショックを受けることはなかった。
水上集落に学校や商店や携帯電話の基地局が作られ、地上の村々と同じようなコミュニティーが形成されている状況にも、感心こそすれ大きな驚きを感じることはなかった。
不法占拠によって形成されたスラムなどでも、同じようにコミュニティーを構成する要素が自然発生するということを知っていたからだ。
だが、彼らが暮らす貧しいボートハウスの壁に、雑誌から切り抜いたと思われる韓流スターのポスターが貼られているのを見たときには、心底びっくりした。
韓国のエンターテインメントが日本同様に多くの国で人気を博しているということを情報としては知ってはいたものの、地面に家を建てることすらできない人々にとってさえ、韓流カルチャーが憧れの対象になっているとは、全く想像していなかったからだ。
韓国のエンターテインメントが日本同様に多くの国で人気を博しているということを情報としては知ってはいたものの、地面に家を建てることすらできない人々にとってさえ、韓流カルチャーが憧れの対象になっているとは、全く想像していなかったからだ。
(5年ほど前の話である。水上集落にはベトナムからの難民が多かった。その後、昨今のベトナムの経済成長にともなって、母国へ帰国する者が増え、解体された集落も多くなったと聞いている)
日本でも韓流ブームと言われて久しいが、少なくともアジアにおいては、その人気は我々が考える以上にかなりの辺境まで及んでいるようだ。
その時のポスターは、ミュージシャンではなく韓国人俳優のものであったと記憶しているが、今日では音楽の分野でもBTSに代表されるK-popのアーティストたちが世界中でファンを獲得していることは周知の事実だ。もちろんそれはインドも例外ではない。
インドの若者向けカルチャー誌であるRolling Stone Indiaでは、たびたびK-popアーティストが取り上げられている。
なかでも、BTSが表紙となった2017年の9月号は、現在では入手困難なコレクターズ・アイテムになっているほどの人気だという。

Rolling Stone Indiaは、カルチャー誌といってもボリウッドの大衆映画などは扱わず、先鋭的な表現を追求するインディーミュージシャンや海外のトップアーティストの情報を掲載する「センスの良さ」を売り物にした雑誌である。
日本でK-popが取り上げられる場合、日本のアイドル等と同じ「大衆歌謡系」の文化として取り上げられることが多いが、インドでは「クールなポップカルチャー」としての位置付けがされているのだ。
欧米のトレンドを押さえた質の高い楽曲と、確かな実力を伴ったパフォーマンスがそのような評価に繋がっているのだろう。
昨年公開されたBTSの活動を追った映画"Burn the Stage"は、インド全土の40都市で公開され、熱狂的に迎え入れられたという。
Rolling Stone Indiaでは、BTS以外でも、Exo, Blackpink, AteezといったK-Popの人気アーティストたちがたびたび取り上げられている。
同誌で取り上げられたことのある日本人が、ポストロックのMono(昨年北東部で行われたZiro Festivalに出演した)やエレクトロニカのDaisuke Tanabe(インドのレーベルからアルバムをリリースし、インドでのライブ経験もある)などのコアなジャンルのアーティストであることとは対照的である。
英語版のQ&AサイトQuoraに寄せられた回答によると、インドでの近年のK-Pop人気は爆発的に拡大しているようだ。(https://www.quora.com/Why-does-BTS-not-visit-India-for-a-concert)
2012年にニューデリーの名門大学であるジャワハルラール・ネルー大学(JNU)の小さな講堂で行われたK-Popコンテスト(コピーダンス大会のようなものか?)に集まった参加者はたったの37名、観客も300名のみだったが、2018年にはインド全土の11都市で予選が行われ、900名近い参加者と2,000人を超える観客を集めるまでになったという。
このイベントは在インド韓国大使館の機関である韓国文化センターの主催で行われている。
韓国政府が積極的にK-Popの輸出をバックアップしていることは知られているが、同時にインドでのファンの受け入れ態勢についても万全のフォローがされているようだ。
インドの若者向けカルチャー誌であるRolling Stone Indiaでは、たびたびK-popアーティストが取り上げられている。
なかでも、BTSが表紙となった2017年の9月号は、現在では入手困難なコレクターズ・アイテムになっているほどの人気だという。

Rolling Stone Indiaは、カルチャー誌といってもボリウッドの大衆映画などは扱わず、先鋭的な表現を追求するインディーミュージシャンや海外のトップアーティストの情報を掲載する「センスの良さ」を売り物にした雑誌である。
日本でK-popが取り上げられる場合、日本のアイドル等と同じ「大衆歌謡系」の文化として取り上げられることが多いが、インドでは「クールなポップカルチャー」としての位置付けがされているのだ。
欧米のトレンドを押さえた質の高い楽曲と、確かな実力を伴ったパフォーマンスがそのような評価に繋がっているのだろう。
昨年公開されたBTSの活動を追った映画"Burn the Stage"は、インド全土の40都市で公開され、熱狂的に迎え入れられたという。
Rolling Stone Indiaでは、BTS以外でも、Exo, Blackpink, AteezといったK-Popの人気アーティストたちがたびたび取り上げられている。
同誌で取り上げられたことのある日本人が、ポストロックのMono(昨年北東部で行われたZiro Festivalに出演した)やエレクトロニカのDaisuke Tanabe(インドのレーベルからアルバムをリリースし、インドでのライブ経験もある)などのコアなジャンルのアーティストであることとは対照的である。
英語版のQ&AサイトQuoraに寄せられた回答によると、インドでの近年のK-Pop人気は爆発的に拡大しているようだ。(https://www.quora.com/Why-does-BTS-not-visit-India-for-a-concert)
2012年にニューデリーの名門大学であるジャワハルラール・ネルー大学(JNU)の小さな講堂で行われたK-Popコンテスト(コピーダンス大会のようなものか?)に集まった参加者はたったの37名、観客も300名のみだったが、2018年にはインド全土の11都市で予選が行われ、900名近い参加者と2,000人を超える観客を集めるまでになったという。
このイベントは在インド韓国大使館の機関である韓国文化センターの主催で行われている。
韓国政府が積極的にK-Popの輸出をバックアップしていることは知られているが、同時にインドでのファンの受け入れ態勢についても万全のフォローがされているようだ。
ムンバイには、韓国政府の公認を受けたK-PopファンによるIndia Korea Friends Mumbai(IKFM)という組織もあるという。
日本文化に関してもアニメやゲームなどのオタクカルチャーを中心にインドに根強いファンを持っており、ムンバイのCool Japan Festivalのようなイベントには多くのインド人たちが集まっているが、コンテンツの輸出から現地でのファン組織までの全面的なサポート体制に関しては、韓国政府に大きく水を開けられているのかもしれない。
日本文化に関してもアニメやゲームなどのオタクカルチャーを中心にインドに根強いファンを持っており、ムンバイのCool Japan Festivalのようなイベントには多くのインド人たちが集まっているが、コンテンツの輸出から現地でのファン組織までの全面的なサポート体制に関しては、韓国政府に大きく水を開けられているのかもしれない。
以前紹介したように、インドにもJ-Popの熱心なファンもいることはいるのだが、日本の音楽は、一般的にはまだまだ知名度が高いとは言い難い。
(「電気グルーヴとインド古典音楽をリミックスして石野卓球にリツイートされたムンバイのJ-popファン」参照。)
(「電気グルーヴとインド古典音楽をリミックスして石野卓球にリツイートされたムンバイのJ-popファン」参照。)
韓国政府のみならず、K-Popのアーティストや所属事務所も、インドを未来の巨大マーケットとして重要視しているようだ。
インドではBTSやBlackpinkのような一線級のK-Popアーティストの公演こそまだ行われていないが、今後が期待される若手グループたちは、インドでの人気を確固たるものにすべく、次々とコンサートやプロモーションを行っている。
先日行われたムンバイのKorea Festivalに出演した若手男性グループIn2Itは、同イベントに出演していたAleXa(オーディション番組のProduce48出身)とともに、往年のボリウッドの大ヒット曲"Bole Chudiyan"をパフォーマンスして大喝采を浴びた。
今月(2019年5月)末からは、6人組の若手男性グループVAVがインドでのコンサートツアーとファンミーティングを実施すると発表した。(彼らはすでに米国、ブラジル、ヨーロッパ、日本、タイなどへのツアーを実施済み)
また、インド北東部のナガランド州で毎年行われているHornbill Festivalには、昨年は当時デビュー前だった3人組のMontというグループが出演。ファンの心をがっちり掴んだようだ。
このブログでも何度も紹介してきた通り、北東部はインドでは例外的にモンゴロイド系の人種が多く暮らす地域。
以前、ナガランドでは日本のアニメやコスプレが大人気であることを紹介したが、同様に東アジア系のカルチャーであるK-Popの人気もかなり高いということがこの映像からもお分かりいただけるだろう。
インドの中でもマイノリティーとして抑圧されがちな北東部の人々が、アーリア系やドラヴィダ系の顔立ちをしたインドのスターではなく、自分たちに似た外見のK-Popにより親近感を抱くというのは十分理解できることだ。
デビュー前のグループがこれだけの熱狂的な歓迎を受けるということは、個別のグループではなく、K-Popというブランドそのものの人気が完全に定着しているのだろう。
同じくインド北東部、メガラヤ州の州都シロンにあるSt.Mary's高校では、体操にBTSやNCT, BlackpinkなどのK-Popの楽曲を採用し、大いに盛り上がっているという。
(ちなみにこの情報は、英語版K-Pop情報サイト"Koreaboo.com"にも取り上げられており、それを昨年のMTV Europe Music AwardでBest India Actを受賞した同州出身のシンガーMeba OfiliaがFacebookで紹介していたのを読んで知ったものだ)
体育祭のようなイベントだと思うが、すごい盛り上がり。
先ほど紹介したVAVのツアーも、デリーと北東部マニプル州のインパールの2箇所で行われるとのことで、K-Popの仕掛け人たちも、北東部を重要なマーケットとして位置付けているようだ。
他にも、Imfact, Lucente, JJCC, ZE:A, 韓国系アメリカ人のDabitらがこれまでにインドを訪れている。
いずれもトップクラスの人気を誇るグループではないようだが、逆に駆け出しのグループがプロモーションのためにインドを訪れているということに、むしろ驚かされる。
昨今多くなってきている多国籍K-Popグループの究極とも言えるZ-Stars(それぞれ異なる国籍の7人組である男性グループのZ-Boysと女性グループのZ-Girlsから成る)には、なんとインド人のメンバーであるSidとPriyankaが在籍しており、K-Popの汎アジア戦略には、インドも確実に含まれていることを伺わせる。
(参考サイト:KPOPmonster「史上初インド人K-POPアイドル誕生へ! メンバー全員出身国が違う超多国籍グループ「Z-Girls」、「Z-Boys」2月デビューへ」)
ちなみにSid(本名Siddhant Arora)はZ-Boys加入前はデリー大学に在籍しており、Youtuberとしてボリウッドのカバー等を歌っていたそうで、Priyanka(本名Priyanka Mazumdar)は北東部アッサム州のグワハティ出身で以前にインドのK-Popフェスティバルでの入賞経験もあったとのこと。
インドのポップスターといえば、映画のプレイバックシンガーや、同様の音楽性のソロシンガーが中心(このブログでいつも紹介しているインディーズ系ではない、いわゆるメインストリームの話)。
最近になってようやくストリートラッパーが出てきたくらいで、K-Popのようなダンス/ヴォーカルグループというのはほとんど存在しない。
今後、K-Pop人気がインドの音楽シーンにどのような影響を及ぼすのか、非常に興味深いところである。
一方で、クールでダンス色の強いK-Popとは対照的な「カワイイ」の一点突破型の日本式アイドルであるAKBグループのひとつとして、ムンバイを拠点にしたMUM48の結成が2017年末に発表されたが、その後とんと音沙汰がなく、こちらもどうなっているのか、少々気になるところではある。
いくら秋元康とはいえ、なんのコネクションもないインドでゼロからグループを作り上げるというのは大変困難なことだと思うが、やはり頓挫してしまったのだろうか。
インドではBTSやBlackpinkのような一線級のK-Popアーティストの公演こそまだ行われていないが、今後が期待される若手グループたちは、インドでの人気を確固たるものにすべく、次々とコンサートやプロモーションを行っている。
先日行われたムンバイのKorea Festivalに出演した若手男性グループIn2Itは、同イベントに出演していたAleXa(オーディション番組のProduce48出身)とともに、往年のボリウッドの大ヒット曲"Bole Chudiyan"をパフォーマンスして大喝采を浴びた。
今月(2019年5月)末からは、6人組の若手男性グループVAVがインドでのコンサートツアーとファンミーティングを実施すると発表した。(彼らはすでに米国、ブラジル、ヨーロッパ、日本、タイなどへのツアーを実施済み)
また、インド北東部のナガランド州で毎年行われているHornbill Festivalには、昨年は当時デビュー前だった3人組のMontというグループが出演。ファンの心をがっちり掴んだようだ。
このブログでも何度も紹介してきた通り、北東部はインドでは例外的にモンゴロイド系の人種が多く暮らす地域。
以前、ナガランドでは日本のアニメやコスプレが大人気であることを紹介したが、同様に東アジア系のカルチャーであるK-Popの人気もかなり高いということがこの映像からもお分かりいただけるだろう。
インドの中でもマイノリティーとして抑圧されがちな北東部の人々が、アーリア系やドラヴィダ系の顔立ちをしたインドのスターではなく、自分たちに似た外見のK-Popにより親近感を抱くというのは十分理解できることだ。
デビュー前のグループがこれだけの熱狂的な歓迎を受けるということは、個別のグループではなく、K-Popというブランドそのものの人気が完全に定着しているのだろう。
同じくインド北東部、メガラヤ州の州都シロンにあるSt.Mary's高校では、体操にBTSやNCT, BlackpinkなどのK-Popの楽曲を採用し、大いに盛り上がっているという。
(ちなみにこの情報は、英語版K-Pop情報サイト"Koreaboo.com"にも取り上げられており、それを昨年のMTV Europe Music AwardでBest India Actを受賞した同州出身のシンガーMeba OfiliaがFacebookで紹介していたのを読んで知ったものだ)
体育祭のようなイベントだと思うが、すごい盛り上がり。
先ほど紹介したVAVのツアーも、デリーと北東部マニプル州のインパールの2箇所で行われるとのことで、K-Popの仕掛け人たちも、北東部を重要なマーケットとして位置付けているようだ。
他にも、Imfact, Lucente, JJCC, ZE:A, 韓国系アメリカ人のDabitらがこれまでにインドを訪れている。
いずれもトップクラスの人気を誇るグループではないようだが、逆に駆け出しのグループがプロモーションのためにインドを訪れているということに、むしろ驚かされる。
昨今多くなってきている多国籍K-Popグループの究極とも言えるZ-Stars(それぞれ異なる国籍の7人組である男性グループのZ-Boysと女性グループのZ-Girlsから成る)には、なんとインド人のメンバーであるSidとPriyankaが在籍しており、K-Popの汎アジア戦略には、インドも確実に含まれていることを伺わせる。
(参考サイト:KPOPmonster「史上初インド人K-POPアイドル誕生へ! メンバー全員出身国が違う超多国籍グループ「Z-Girls」、「Z-Boys」2月デビューへ」)
ちなみにSid(本名Siddhant Arora)はZ-Boys加入前はデリー大学に在籍しており、Youtuberとしてボリウッドのカバー等を歌っていたそうで、Priyanka(本名Priyanka Mazumdar)は北東部アッサム州のグワハティ出身で以前にインドのK-Popフェスティバルでの入賞経験もあったとのこと。
インドのポップスターといえば、映画のプレイバックシンガーや、同様の音楽性のソロシンガーが中心(このブログでいつも紹介しているインディーズ系ではない、いわゆるメインストリームの話)。
最近になってようやくストリートラッパーが出てきたくらいで、K-Popのようなダンス/ヴォーカルグループというのはほとんど存在しない。
今後、K-Pop人気がインドの音楽シーンにどのような影響を及ぼすのか、非常に興味深いところである。
一方で、クールでダンス色の強いK-Popとは対照的な「カワイイ」の一点突破型の日本式アイドルであるAKBグループのひとつとして、ムンバイを拠点にしたMUM48の結成が2017年末に発表されたが、その後とんと音沙汰がなく、こちらもどうなっているのか、少々気になるところではある。
いくら秋元康とはいえ、なんのコネクションもないインドでゼロからグループを作り上げるというのは大変困難なことだと思うが、やはり頓挫してしまったのだろうか。
個人的な意見だが、一般的にアイドルに代表される日本の大衆音楽は、ある種の未成熟な部分を愛でたり、ファンの共感の拠り所とする特徴があるように思う。
この特徴を持ち続けている限り、「成熟した/完成された音楽」を良しとする文化圏では、大々的に受け入れられることは難しいのではないか。
60年代にアメリカで「上を向いて歩こう」が1位になった理由は、楽曲の良さに加えて坂本九が極めて高い歌唱力を持っていたからだろう。
インドに日本式カワイイ的ポップカルチャーが本格的に根付くかどうかは、まだまだ未知数だ。
とはいえ、大衆的な人気とまでは行かなくても、世界中に非常にコアなファンを得ているのも日本のカルチャーの特徴だ。
これまで紹介してきたように、KomorebiやKrakenといったインディーアーティストは日本文化からの強い影響を打ち出しており、またSanjeeta Bhattacharyaのように日本語の歌詞を導入しているシンガーソングライターもいる。
(参考:「日本文化に影響を受けたインド人アーティスト、エレクトロニカ編! Komorebi, Hybrid Protokol」、「日本の文化に影響を受けたインド人アーティスト! ロックバンド編 Kraken」、「バークリー出身の才媛が日本語で歌うオーガニックソウル! Sanjeeta Bhattacharya」)
韓国や日本のポップカルチャーやサブカルチャーが、今後インドでどう受け入れられてゆくのか、注目して見守ってゆきたい。
凡平自選の2018年度のおすすめ記事はこちらからどうぞ!
インドに日本式カワイイ的ポップカルチャーが本格的に根付くかどうかは、まだまだ未知数だ。
とはいえ、大衆的な人気とまでは行かなくても、世界中に非常にコアなファンを得ているのも日本のカルチャーの特徴だ。
これまで紹介してきたように、KomorebiやKrakenといったインディーアーティストは日本文化からの強い影響を打ち出しており、またSanjeeta Bhattacharyaのように日本語の歌詞を導入しているシンガーソングライターもいる。
(参考:「日本文化に影響を受けたインド人アーティスト、エレクトロニカ編! Komorebi, Hybrid Protokol」、「日本の文化に影響を受けたインド人アーティスト! ロックバンド編 Kraken」、「バークリー出身の才媛が日本語で歌うオーガニックソウル! Sanjeeta Bhattacharya」)
韓国や日本のポップカルチャーやサブカルチャーが、今後インドでどう受け入れられてゆくのか、注目して見守ってゆきたい。
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goshimasayama18 at 00:35|Permalink│Comments(0)