JadenMaskie

2022年01月07日

Rolling Stone Indiaが選んだ2021年のベストシングル10曲!


あけましておめでとうございます。
気がつけば2021年も終わり、2022年が始まってしまいましたが、例によって、昨年末、Rolling Stone Indiaによるインドの音楽シーンの年間ベストシングル10曲が発表されたので、今年も紹介してみたいと思います。
前回は、わたくし軽刈田が選出した年間10選をお届けしているので、外国人目線の10選と、インドの都市の若者向けカルチャー誌の10曲を聴き比べてみるのも面白いはず。


いつもながら、Rolling Stone India誌のセレクトは洋楽的な洗練を志向した楽曲が多く、インドの都市の若者文化を牽引するメディアならではのセンスが楽しめます。
それではさっそくチェックしてみましょう!



1. Vasundhara Vee “Run”


ムンバイのR&B/ソウル/ジャズシンガー。
オリジナル曲はまだこの"Run"しかリリースしていないようだが、彼女の実力を示すには、
この一曲で十分だったようだ。
イントロのアカペラの堂々たる歌いっぷりを聴けば、高い評価の理由は簡単に理解できるだろう。
こういうタイプの本格的なジャズやソウルが歌えるシンガーはこれまでインドにいなかった。
決して派手な音楽性ではなく、トレンドを追うようなタイプでも無さそうだが、これから先インド国内や海外でどのような受け入れられ方をしてゆくのだろうか。
例えばエイミー・ワインハウスみたいな「危なっかしい魅力」があれば、大きな注目を集めることもできそうだが、どちらかというと彼女は堅実なタイプのようだ。
いずれにしても、今後非常に気になる存在である。



2. Sunflower Tape Machine “Sophomore Sweetheart”

Sunflower Tape MachineはチェンナイのアーティストAryaman Singhのソロプロジェクト。
基本的には電子音楽アーティストとして活動しつつ、この曲のようにバンドを交えた形態で楽曲をリリースすることもあるようだ。
サイケデリックでレトロな質感のエレクトロニック・ポップは、こちらもまた別の意味でインドらしからぬ音楽性。
ミュージックビデオを見る限り、彼の音楽性と同様に、無国籍的な都会生活をしている人物のようだ。(ビデオの最初の方に、寿司を食べる様子も出てくる)
それにしても、近年インドのインディーミュージックシーンで80年代的な映像をやたらと目にするようになった。
80年代のインドは経済解放政策を取り入れる前で、例えば家庭用ビデオカメラなどは極めて入手しづらい時代だった。
実際は、こうした懐古的な映像で表されるような80年代はインドにはほとんど存在しなかったと言っていい。
だからこそというべきか、持ち得なかった過去への架空のノスタルジーとしての80年代ブームが来ているのかもしれない。
日本でも90年代に、60年代や70年代の洋楽的なサウンドがもてはやされたりしたことがあったが、それと同じような現象とも言えるだろうか。



3. Hanumankind  “Genghis”


ベンガルールのアンダーグラウンド・ラッパーが3位にランクイン。
これまで、日本のアニメを題材にするなど、かなりサブカル寄りなラップをリリースしていたHanumankindが化けた。
(過去のHanumankindについてはこちらから)
ソリッドなビートに、確実に言葉をビートに乗せてゆくラップ。
技巧にも音響にも走らずに、まるで詩人のようにリリックを紡いでゆくその姿勢は、インドの英語ラッパーではかなり珍しい部類に入る。
今年は同郷のSmokey the Ghostも充実した作品を数多くリリースしていた。
これまで、インドのヒップホップシーンはムンバイやデリーのヒンディー語(あるいはパンジャービー語)ラッパーが牽引してきたように思うが、ここに来てベンガルールの英語ラップシーンも燃え上がりつつあるようだ。



4. The Lightyears Explode – “Nostalgia 99”


4位はムンバイのロックバンドThe Lightyear Explode.
かつてはパンク的なアティテュードを感じさせる楽曲が多かったが、ここ最近は明確にレトロ調のダンスポップを意識した曲作りを行っている。
それが単に懐古趣味によるものなのか、ヴェイパーウェイヴのようなある種の批評性を持ったものなのかは今ひとつ分かりづらいが、いずれにしてもこうしたサウンドが今のインドで「クールなもの」として受け入れられているというのは確かなようだ。
この曲も1999年頃を懐かしむ内容の歌詞に反して、サウンドはかなり80's的。



5. Swarathma “Dus Minute Aur”


5位にようやく英語以外のインドの言語で歌う楽曲がランクイン。
Swarathmaはベンガルールのフォークロックバンド。
インドには、自国の伝統音楽と西洋のロックを融合した「フュージョン・ロック」バンドが数多くいるが、彼らがユニークなのは、いわゆる宮廷音楽的な古典音楽ではなく、より土着的な民謡をロックと融合しているところ。
70年代のイギリスのロックで例えると、クラシックの影響を受けたリッチー・ブラックモア(Deep Purple, Rainbow)や、オペラとロックの融合を試みたQueenではなく、イギリスやアイルランドの民謡を現代風に演奏したPentangleやFairport Conventionに近いと言えるかもしれない(と書いても一部のおっさんしか分からないが)。
他の古典音楽系のフュージョンロックバンド(例えばこの記事を参照)と比べると、その歌い回しは実に独特で、正直に言うと、日本人のロックリスナーの耳で聴いて、かっこいいと思えるかどうかは微妙なところだ。
この曲はオリジナル曲で、睡眠の大切さを訴える内容だという。
なんだかますます分からなくなってきたが、Rolling Stone Indiaからの評価は高く、2018年にも彼らのアルバム"Raah e Fakira"がベストアルバムの一枚に選ばれている。
なんにせよ、都会の若者向けの媒体で、欧米風の音楽だけでなく、伝統文化の要素を色濃く残した音楽がきちんと評価されているっていうのは喜ばしいことだと思う。
改めて聴くと、ポストロック的に始まってハードロック的に展開し、美しいハーモニーも入って来るアレンジがなかなかに秀逸。
ちなみに彼らがカバーする伝統音楽はインド各地におよび、ベンガルの大詩人タゴールの曲もカバーしている。



6. Jaden Maskie “Rhythm Of My Heart”


ゴアを拠点に活動するシンガーソングライターによるR&B風味の楽曲。
5位のSwarathmaとはうってかわって、いかにもRolling Stone Indiaが選びそうな曲だ。
キャッチーなメロディーとダンサブルなアレンジはいかにも現代のグローバルなポップミュージックで、ちょっとK-Popっぽくもあるけれどそう聞こえないのは、憂いを帯びた彼の声のせいだろう。
それにしても、こう言ってはなんだが、冴えない理系の大学生みたいな見た目の彼がこんな気の利いたポップスを歌うなんて、インドも変わったものだとつくづく思わされる。



7. Karshni “daddy hates second place”


Karshniはプネーのシンガーソングライター。
ピアノの伴奏で美しく歌う内容は、子どもに期待しすぎるあまり、一位以外は認めなくなってしまっている父親についてとのこと。
今のインドに、英語で歌う弾き語り系のシンガーソングライターは本当に多いが、リスナー層が厚いジャンルではないので、一部を除いてそこまで多くのリスナーを獲得しているとは言い難い状況だ。
だが、彼ら/彼女たちの多くは、商業的な成功よりもアーティストとしての表現を重視しているようで、彼女のように優れた才能も少なからず存在するので見逃せない。



8. Adrian D’souza, Neuman Pinto “Never Let it Go”


ムンバイのドラマーとシンガーソングライターのコラボレーションによる、さわやかなシティポップ風の楽曲。
名前を見る限り、どちらもクリスチャンのようだ。
D'souzaもPintoもインドのクリスチャンに多い姓で、音楽界では、やはりムンバイを拠点にセンスの良い楽曲を作っているNikhil D'souzaというシンガーもいる。
インド洋を望むマリン・ドライブあたりを運転しながら聴いたら最高の気分が味わえるだろう。



9. Albatross "Neptune Murder"


ムンバイのAlbatrossは、かなりドラマティックな構成の楽曲を特徴とするメタルバンド。 
2008年結成というから、インドではなかなか古株のバンドということになる。
プログレッシブ・メタル的な部分もあるが、過剰なテクニカルさはなく、芝居がかったクセの強いヴォーカルの印象が強い。
全体的な雰囲気は、欧米のバンドで言うとデンマーク出身のKing Diamondに似ている。
2021年にこういうサウンドを奏でるバンドも、2021年にこの曲をベスト9に選出するRolling Stone Indiaも、個人的には決して嫌いではない。



10. Krishna.K, AKR "Butterflies"


チェンナイのシンガーソングライターKrishna.KとプロデューサーのAKRのコラボレーション。 
アコースティックで軽やかなサウンドに絡むサイケデリックなシンセが印象的なドリームポップ的な曲。
Rolling Stone Indiaによると、「今なお求められている、そよ風のように心地よいオールドスクールなポップのアレンジによる現実逃避」とのこと。
“A thousand butterflies could fly us away on a chariot of gold through the mystic galaxy.”という歌い出しのフレーズがインド的(神話的)に聞こえるような気がしなくもない。



というわけで、今回はいかにもRolling Stone Indiaっぽい英語ポップスを中心に、インドのインディペンデント・シーンに特徴的な80年代テイストを感じさせる楽曲が目立つ結果となった。
Swarathma以外は、言われなければインドのアーティストだと分からない楽曲ばかりで、いわゆる洋楽ポップス的なセンスの良さが年々進化していることが一目瞭然だ。
Albatross以外は、オシャレな服屋とかカフェでかかっていても違和感なく聴けるレベルに達していると思うが、それは同時にグローバルな市場で圧倒的な差別化ができる個性の欠如ということでもあり、その殻をどこまで破れるかが、今後のインドのアーティストの課題となってくるのかもしれない。
いずれにしても、変わり続けるインドの都市部のカルチャーがリアルに伝わってくる面白い選曲であることは確かで、こうしたインドのステレオタイプから大きく外れた音楽シーンはますます拡大してゆくことになるだろう。



一昨年2020年のRolling Stone Indiaが選んだベストシングル10選はこちら




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goshimasayama18 at 21:35|PermalinkComments(0)