HirokoSarah

2021年04月18日

日本人によるヒンディー語のオリジナル・インド古典フュージョン! Hiroko & Ibex "Aatmavishwas -Believe In Yourself-"



前回の記事「日本語で歌うインド人シンガーソングライター」 Drish Tの反響が非常に大きかったのだが、今回は逆方向から同様の衝撃を与えてくれる楽曲を紹介したい。




以前、"Mystic Jounetsu"(『ミスティック情熱』)でコラボレーションしていたムンバイ在住の日本人ダンサー/シンガーHiroko Sarahとムンバイのヒップホップシーンの創成期から活動するラッパーのIbexによる新曲"Aatmavishwas -Believe In Yourself"は、なんと全編がヒンディー語で歌われている。
つまり、今回は「ヒンディー語で歌う日本人シンガーソングライター」の作品というわけだ。
さっそくミュージックビデオを見ていただこう。



前作のIbexによる日本語混じりのラップも衝撃だったが、今回はそれを上回る衝撃!
歌詞のこと、古典音楽の要素をふんだんに取り入れたアレンジのこと、ミュージックビデオのダンスや衣装のこと、気になることがありすぎる!
ということで、コロナウイルス感染者の急増により、再びロックダウン下にあるムンバイのHirokoさんに、インタビューを申し込んでみた。

Hirokoさんとは、最近では昨年11月のインドのヒップホップを紹介しまくるオンラインイベント'STRAIGHT OUTTA INDIA'で共演しているものの、インタビューは昨年5月のロックダウン中にリリースされた楽曲の特集以来。

前回のインタビューもロックダウンの真っ最中だったので、Hirokoさんに「ロックダウンを呼ぶ男」とか言われつつ(笑)、新曲の話題を中心にいろいろと話を伺った。


ー新曲の"Aatmavishwas -Believe In Yourself-"はまた新しい方向性の作品になりましたね!
制作の経緯を教えてください。

「以前からインド・フュージョンの楽曲やヒンディー語の歌の作品を制作したいと思っていたんですが、ようやく形にできました!
なんとなくインストはこんな感じにしたいというイメージがあって、そこからまずボーカルメロディーを作曲しました。実は最初はテンポがゆっくりめのIndian Fusion R&Bのつもりで作曲していたのですが、歌詞を書いたら予想外にパワフルになったので、BPMを上げてアップテンポなダンスナンバーに仕上がりました。
タブラのビートも入れることは決めていたのですが、せっかくだからインド古典音楽の要素を入れてみようと思って、こういう形になりました。
カタックダンサー(古典舞踊のひとつ。Hirokoは今年カタックダンスのB.A. 学士を取得した)としてのインド古典音楽へのリスペクトもあって、今回タブラは現代音楽風にアレンジはせず、古典要素をメインに取り入れることにしたんです」

ロックやダンスミュージックなどに古典音楽の要素を取り入れた音楽は、インドでは「フュージョン・ミュージック」と呼ばれている。
日本の伝統音楽と現代音楽の融合にも言えることだが、こうした「フュージョン」は、よほどセンスよくやらないと、逆にダサいものになってしまうというリスクを孕んでいる。
とくに、今回はダンスホール的なリズムにヒンディー語の歌とラップ、さらにはタブラのビートまで乗るという盛り沢山の作品だ。


「Ibexにはラップで参加してもらうことを最初から決めていましたが、彼のシグネチャースタイルであるダンスホールのビートを取り入れて、古典のタブラビートと合わせてアレンジしたら面白いなと考えました。
タブラの他に、シンセサイザー音源ですがインドの打弦楽器サントゥールも取り入れています。イントロや私のボーカルパートのインストに入っているこのサントゥールの美メロがお気に入りです。
サントゥール部分は、ムンバイ在住のサントゥール奏者の友人Takahiro Araiくんに聴いてもらい、アドバイスをもらいました。
アドバイスをもらったのは『ラーガ(インド古典音楽の旋律を構築するための規則)に基づいたメロディーにするべきか』というポイントで、『この曲は古典音楽ではなくフュージョンなので、ラーガを気にせず独創的にすればよいのではないか。ラーガを気にするあまり野暮ったい音楽になってしまう可能性もあるし』という結論になりました。
ボーカル、ラップ、ダンスホールのドラムビート、タブラ、サントゥール、ベースと、要素だけ見るとこれでもか!ってくらい色々入ってるんですよね。バランスにはすごく気をつけましたが、これでもか!くらいがインド的なんですよ(笑)」

それぞれのサウンドの良さを最大限に引き出しつつ、お互いがぶつからないように相当意識したそうで、ミックスやマスタリングにはかなりこだわったとのこと。
日本のサウンドエンジニアのAki Ishiyamaさんに何十回とリテイクをしてもらい、ようやくこのサウンドが完成したそうだ。

こちらはアドバイスをくれたというムンバイのTakahiro Araiさんのサントゥール演奏の映像。


インドの古典音楽や古典舞踊は一生をかけてその真髄を追求しなければならないほどに深みのあるものだが、Hirokoさん同様、現地に住んでまでその道を追求する姿勢には尊敬の念を抱かざるを得ない。
それにしても、古典のみならず、ラッパーとの共演やフュージョンにも果敢に取り組むHirokoさんのいい意味での異端っぷりは際立っている。


ーこれまではHirokoさんが日本語で歌ってIbexが英語でラップしていましたが、今回は全てヒンディー語ですよね。Hirokoさんにとってヒンディー語で歌うことは新しいチャレンジだったと思いますが、ヒンディー語での作詞やメロディーに乗せることなど、苦労した点やとくにこだわった点はありますか?

「カタックダンスの師匠とお話しする時はヒンディー語なので、 以前からプライベートレッスンでヒンディー語は学んでいました。以前ライブでボリウッドのヒンディー語ソングのカバーを歌ったことはありますが、自分で作詞したのは初めてでした。
歌詞はまず英語で作詞してから、ヒンディー語に訳しました。ヒンディー語の歌詞をリズムに乗せるのは、あまり難しくなかったです。どの言語でも、歌詞をリズムに乗せるのが楽しくて好きなんです。
こだわった点は、ラップではないけれど、歌詞のほぼ全体で韻を踏むようにしたところです。
インドの人ってたぶん韻を踏むのが好きなんだと思うのですが、インドでは、ラップ以外の歌の歌詞や詩などでも韻を踏んでいるものが多いんです。響きも綺麗ですしね。
苦労したのは発音です。
ヒンディー語は喋るのも難しいですが、メロディーとリズムに乗せながら発音まで意識するのは難しくて、毎日家で歌って録音して、それをIbexやヒンディー語の先生にチェックしてもらって、また直して、を繰り返しました。
日本語だとわりと柔軟性があるというか、『あなた』を『あーなーたー』と歌っても違和感なく、意味が通じますよね?でも、ヒンディー語は微妙な発音の違いで意味が変わったりするので、例えば『सोचते(考える、思う)』の発音は『ソーチテ』で、リズム重視で『ソチーテ』と歌ってしまうとインドの人には違和感があるようで、そこを指摘されました。
その後、歌詞に『सोचते』が入った曲ばかり聴いて研究しました(笑)」


ーサウンドについても、タブラが大胆にフィーチャーされていて、かなり古典テイストを入れてきていますよね。とくにタブラは非常に印象的です。タブラ奏者のGauravにはどんなリクエストをしていたのでしょう?

「Gauravには、とにかく現代アレンジはせず、古典(セミクラシカル)テイストのタブラビートにしてほしいと依頼しました。
あと、基本のリズムはTeen taal(16拍子)でとお願いしました。ドラムのビートがダンスホール・スタイルで変則的に入っているので、Teen Taalの四つ打ち的リズムが合うという確信があったんです。
最初にGauravからあがってきたサンプルが、なぜかKeherwa taal(8拍子)ベースだったのですが、聴いてみたらインストのドラムのビートと似ていて、多分合わせてくれたんだろうなぁと思ったのですが、それだとタブラのビートがかき消されてしまうので、そこはTeen taalにしてとお願いしました。
あと、Ibexのラップがパワフルなので、そこからのトランジションにパワフルなタブラパターンを入れてもらいました。
また、一番のこだわりはイントロのTihaiと、中盤のタブラソロとBolです。ここは思いっきり古典の雰囲気を出して、ミュージックビデオでは私もカタックダンスを踊ろうと考えました」


タブラ奏者はGaurav Chowdhary.
Hirokoさんの『負けないで』のカバーにも参加していたものの、本格的なフュージョン作品への参加は今回が初めてだったという。
低音を支えるダンスホール・レゲエのビートと、高音域を中心に細かいリズムを刻むタブラの音色の立体的な融合がこの曲を際立たせている。

'Tihai'と'Bol'については、少し説明が必要だろう。
Tihaiというのは、北インド古典音楽のリズムのキメの部分で使われる技法で、恥ずかしながら何度聞いてもよく理解できないのだが(なんとなくは分かる)、Hirokoさんいわく「Tihai(ティハイ)は北インド古典音楽で、あるひとまとまりの完結を表すもので、同じコンポジションを三回繰り返してから、サム(一拍目)で終わるもの」とのこと。
「このページの解説がわかりやすくて面白い」とHirokoさんにこのリンクを紹介してもらったのだが、分かったような、分からないような…。
 

'Bol'とは、タブラで用いられる「口で発するリズム」のこと("Aatmavishwas"では2:20からの部分で取り入れられている)。
タブラの音色は全て、'Dha'とか'Na'とか'Tin'といった声で表現することができる。
タブラ奏者は師匠から口頭でリズムを教わって修行し、自分の叩くリズムを全て声でも表現することができるのだ。
Bolで表現したリズムをその通りにタブラで叩くパートはタブラ演奏の見せ場のひとつで、この曲のソロはまさにそうした構成になっている。

タブラとの共演について、ラッパーのIbexに聞いてみた。

ータブラのビートに乗せたラップのフロウがすごくナチュラルに聞こえますが、特に気をつけたとこはありますか?

「そうだな、この(ダンスホールの)スタイルは俺のオリジナルなラップ・フロウで、自分の感覚や気持ちをリリックといっしょにビートに乗せるようにしている。この曲でも同じように、俺のフロウが自分のシグネチャー・スタイルである(ダンスホールの)ビートにばっちりはまったんだ」

ーインドにはダンスホールっぽいフロウでラップするラッパーはほとんどいないと思うのですが、ヒンディー語でダンスホールっぽくラップするのは難しいのでしょうか?

「ダンスホールには独特のヴァイブがあって、インドで次に来る流行になるだろうね。俺はショーン・ポールとかスノーみたいなアーティストを聴いてラップを始めたから、ダンスホール・フロウは自然と出てくるんだ。でもダンスホールやレゲエのフレイヴァーに合わせてヒンディーでトースティング(レゲエ版のラップ)をするラッパーは少ないね。
ダンスホールはヒップホップのラップのフロウに比べて、メロディーの要素が多いから、より難しいのは間違いないと思う。言葉をひねったり、工夫したりしなきゃならないから、より作るのが複雑になるんだ」

ダンスホール・レゲエやレゲトン風のビートは、アンダーグラウンドからメインストリームまで、インドのヒップホップでも広く導入されているが、Ibexの言葉の通り、ダンスホール風のフロウを披露するラッパーは意外にもほとんど見当たらない。
Ibexは2月にリリースした"Mama Sitaphal"でもヒンディー語のダンスホール・ラップを披露していて、こちらもかなりクールな仕上がり。

ヒンディー語は言葉の響きもダンスホールにばっちり合うと思うし(どちらも吉幾三っぽく聞こえるときがある)、ヒンディー・ダンスホールはこれから注目したいジャンルである。

続いて、"Aatmavishwas"アレンジについて、再びHirokoさんに聞いてみた。

ーアレンジもかなり凝っていますよね。とくに、静かなイントロから始まってリズムが入ってくるところとか、ソロでタブラのBolからラップが入ってくるところが印象に残りました。どんなふうに曲の構成を考えたのでしょう?

「ありがとうございます!私のメロディーに合わせて、インストのアレンジは日本のアレンジャー PEPE BEATSさんにお願いしましたが、私がMusic Directorとして曲全体の構成を考えました。
まず私のボーカルパート(メインコーラス、ヴァース、ブリッジ)のメロディーを完成し、その後にIbexラップパートを入れ、メリハリをつけるため間にBolとタブラソロ、という感じに構成していきました。タブラ奏者のBolとラップは似ているところもあって、掛け合いは絶対面白いなと思ったので、Bol→タブラソロ→ラップという流れにしました。
静かなサントゥールのイントロから始まって、アップテンポになるところもこだわりましたね。
また、イントロに入っているタブラのTihaiですが、カタックダンスでも曲の最初にあのようにTihaiが入るんです。
インド古典音楽や舞踊界隈の方なら『おっ』と思っていただけるかも」
 
 
ー歌詞の内容についても教えてください。訳を読む限り、かなりポジティブなメッセージですね。

「タイトルの"आत्मविश्वास Aatmavishwas"は'self confidence (自信)'という意味のヒンディー語で、 歌詞は私とIbexの実生活での経験を紡いだものです。
人生で似たような経験をした人や困難な状況にある人達に勇気を与えるパワフルな歌詞になっています。
  
'自分を信じて。
自信をもって、あなたのままでいて。
あいつらが何を言おうがどう思おうが気にしないで。
誰もあなたに強制はできない。
誰もあなたを変えられない。
だってあなたはパーフェクトだから'
(※メインコーラスとヴァース部分より)

実はこの歌詞を書いた時、私はとある人から精神的ハラスメントを受けていて、ストレスから身体を壊して自宅で二週間くらい寝込んでいたんです。
だいぶ身体が回復してきた頃に、いきなりぱーっと歌詞が降ってきて一気に書き上げました。
書き上げたら気分がスッキリして、前へ進むぞー('आगे बढ़ो Move ahead'. このフレーズはこの曲のリリックでも使われている)という気持ちになり、そこからはストレスも無くなっていきました。
私が歌詞を書く時は、なぜか気分が落ちていたり大変な出来事があった時が多くて(笑)、ネガティブな感情を昇華して歌詞を書く感じなんです。」


YouTubeの字幕をONにすると、日本語や英語でも字幕を見ることができるので、ぜひ映像やメロディーといっしょに歌詞も味わってみてほしい。
歌詞はこのサイトでも翻訳つきで読むことができる(https://genius.com/Hiroko-and-ibex-aatmavishwas-believe-in-yourself-lyrics)。
Ibexに、ラップのパートについても聞いてみた。

「この曲は俺たちが2人とも、本当にストレスの多いときに書いたものなんだ。俺はロックダウンの最中にこのリリックを書いた。世界中が最悪の時を過ごしていて、俺は本当に自由になりたかったし、心を開いて自分自身を取り戻す必要があった。この歌詞を書くプロセスを通して、音楽がポジティブさと希望をもたらしてくれたんだ。
このリリックを純粋な形で引き出してくるのは大変だったよ」


サウンドだけでなく、ミュージックビデオもインドらしさを感じさせつつも、非常にクールに仕上がっている。
映像へのこだわりについてHirokoさんに聞いてみた。

ー『ミスティック情熱』のときは、日本のポップカルチャーを想起させるような映像が多かったですが、今回はインドの伝統的な要素が目立ちます。映像で意識したことを教えてください。

「楽曲がインド古典の要素を取り入れていたので、映像もインドの伝統的な雰囲気を入れたいと思いました。
ただ、古典の雰囲気だけではなく、Ibexのラップパートのダンスホール・フレイヴァーや、カタックの衣装から現代風な衣装までの七変化など『どんな私も私だよ!だからありのままを見てね』というコンセプトのもと、色々なイメージの映像を入れつつ、全体的にはまとまった映像作品にすることを意識しました。
北インド風なロケーションが多いですが、実はムンバイのみで撮影しています」

ミュージックビデオで踊っているのは、Ibexの"Mama Sitaphal"にも参加しているムンバイのダンスホール・ダンサーSanikaとAditi.
二人ともダンスホールをルーツに持つダンサーだが、Sanikaは南インドの古典舞踊バラタナティヤムも学んでいるそうで、Ibexのラップ・パートではダンスホール、Hirokoさんのヴォーカル・パートではセミクラシカルと、多彩なダンスを見せてくれている。
カタックダンスのパートはHiroko、ダンスホールのパートはSanika, セミクラシカルのパートはHirokoとSanikaの共作によって振付が行われたという。


ーダンスと音楽や歌詞との関係について教えてください。

「イントロやタブラソロでタブラと一緒に踊っているのは、ピュア・カタックダンスです。
ミュージックビデオのイントロで入っているグングルー(足につける鈴)の音は、撮影中踊っていた私の本物のグングルーの音なんですよ。
また、歌の前半私のヴァースで私と二人のダンサーが踊っているのは、古き良きボリウッド映画のようなセミクラシカル・スタイルのダンスです。
古典舞踊のムドラー(象徴的な手の形やしぐさ)を取り入れつつ、アレンジした振付になっています。
例えば、
『क्योंकि आप एकदम सही हो
(Because you are perfect)
(だってあなたはパーフェクトだから)  』
という部分は、カタックダンスのアビナヤ(表示的な意味を持つ舞踊。詳しくはExcite辞書「インド舞踊」参照。https://www.excite.co.jp/dictionary/ency/content/インド舞踊/)でも使っているムーブメントを取り入れました。
このミュージックビデオでは、シンガーである私とダンサーである私のそれぞれの個性を最大限に活かすことができました」 

リリック同様に、ダンスも古典的なものと現代的なものが有機的に融合しながらそれぞれが意味を持ち、強いメッセージを発信しているのだ。
その撮影はかなりハードなものだった。
 
「撮影はムンバイの自宅から車で約3時間半の郊外にあるセットで行い、朝10時に自宅を出発して午後2時から撮影開始、夜9時半すぎまで撮影しました。その後、ハイウェイ沿いのDhaba(ロードサイドのレストラン)で皆で遅いディナーを食べて、帰宅は深夜2時半でした。
ハードスケジュールでしたが、とっても楽しかったです。
チームの皆のサポートのおかげで、撮影はスムーズに行うことができました。
特に、D.O.P.(撮影監督)のMohitとBTSフォト撮影担当のAkashは休む間もなくずっと撮影してくれていたので、かなり疲れたと思います。ちなみにフォトグラファーのAkashは、インドのラッパー Emiway BantaiやKR$NAのミュージックビデオ撮影にもいつも同行しているんですよ。
撮影日が二週間ずれていたらロックダウンで撮影できなかったので、ぎりぎり良いタイミングで撮影ができてよかったです」

完全なインディペンデントで製作されたにもかかわらず、クオリティの高い映像に驚いたが、EmiwayやKR$NAといったインドを代表する人気ラッパーのミュージックビデオの撮影にも携わるスタッフが関わっていたと聞いて納得。
それにしてもムンバイとデリーという異なる拠点を持ち、かつて激しいビーフを繰り広げていたこの2人が同じスタッフを使っているという情報にはちょっとびっくりした。



印象的な衣装にもかなりこだわったようだ。

「私の衣装は全て自前で、カタックダンスの衣装はステージで着ているものです。もともとダンサーなので衣装やインドジュエリーは色々持っているのですが、今回こだわりポイントとして、ウェスタンスタイルのジャンプスーツにインドジュエリーをコーディネートしてみました。
また、Ibexと私が一緒に登場するシーンでは、事前に打ち合わせして衣装のカラーコーディネーションをしました。
ラッパーのIbexは今回、インドの伝統的なブラッククルターに迷彩柄のスカーフでターバンを巻くという、これまでにない衣装も取り入れています。
ブラッククルターにターバンのIbexとダンスホールダンサー達のシーンはかなりクールな映像になっています。
タブラ奏者のGauravもインドの伝統的なパグリー(ターバンの一種)をかぶっており、ターバン萌えな皆様やインド映画ファンの皆様にも楽しんでいただける映像になっていると思いますよ!」


ー最後に、Hirokoさんの今後の予定を教えて下さい。

「いくつかのミュージックプロジェクトが進行中です。
Hirokoソロ(ヒンディー語)、チーム・ミスティック情熱の新曲(日本語・英語)などなど。
そして、前回の記事で紹介されていたインドで日本語で歌うシンガーソングライター Drish Tちゃんとも『コラボしたいね!』と話しています。
これからも、マルチリンガル・シンガー&ダンサーとして素敵な作品をたくさん作りたいと思います!」


すでにこの"Aatmavishwas"はインド国内のiTunesStoreのダンスミュージックチャートで2位、日本でもチャートインするなど高い評価を得ており、今後の活動にもますます期待が募る。
日本もインドもコロナウイルスが再び猛威を奮い始めており、心配は尽きないが、次回のインタビューはぜひロックダウンのない環境で行えたら…と心から願っている。




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goshimasayama18 at 20:36|PermalinkComments(0)

2020年05月19日

ロックダウン中に発表されたインドの楽曲(その2) Hirokoさんインタビューと国境を超えたコラボレーション



前回の記事で、ロックダウン下のインドで発表された楽曲たちを紹介した。
今回は、インドのミュージシャンたちとコラボレーションしてZARDの『負けないで』のカバーを発表したムンバイ在住のシンガー/ダンサーのHirokoさんのインタビューをお届けする。
Hirokoさんに聞いた製作裏話や現在のムンバイの状況と、コロナウイルス禍のなかで、国境を越えて行われた共演の数々を紹介したい

Hirokoさんへのインタビューの前に、改めてタブラ・バージョンのカバーを聴いてみよう。


−お久しぶりです。軽刈田です。さっそくですが、今回のコラボレーションの経緯を教えてください。

「2月末〜3月上旬にかけて日本やインドでCovid-19感染者が出始め、インド政府が日本人へのビザを一時無効としたことで、私を含めたインドを愛する日本人の間で動揺が広がりました。
ムンバイ在住の私も、日本に自由に行くことができなくなりました。
実はこの頃に日本に住んでいた姉が急逝したのですが、私は日本に行けないため最期のお別れもできませんでした。
そうこうしているうちにインドでもCovid-19の感染者が増え始め、ムンバイでは3月21日から、インド全土では3月25日からロックダウンが始まり、自宅に引きこもる軟禁生活が始まりました。
日本やインドや世界中でCovid-19が蔓延していく様子が毎日ネットを通じて目に入ってきて、私自身も不安な気持ちが大きくなってきたのですが、このままだといけないなと自分自身を元気づけるために毎日自宅で一人で歌っていたのが、ZARDの『負けないで』でした。
もともとZARDの坂井泉水さんの歌は大好きだったのですが、ロックダウンの軟禁生活のなか『負けないで』を歌っていたらとても元気が出たんです。
この元気になる歌を私の声で歌って、リスナーの皆さんに少しでも元気をおすそわけできたら良いなと思い、カバー曲を制作することを決めました。
せっかくインドにいるのだからインド要素を取り入れたカバー曲にしたいなと思って、友人のインド人アーティスト達にコラボを提案してみたら、みんな賛同してくれてプロジェクトが始動しました。」

さらりと話しているが、コロナウイルスによる異国でのロックダウンという災難に加えて、お姉さんの急逝という悲劇まで重なってしまっていたとは…。
『負けないで』という選曲は、世界中の同じ状況下にいる人々への応援歌というだけではなく、自分への励ましでもあったのだ。
それを知ったうえで改めて聴くと、Hirokoさんの歌声からまた違った印象が感じられる。


−プロデューサーのKushmirとキーボードのSamuelはHirokoさんと同じムンバイですが、タブラのGauravはデリーからの参加ですね。

「はい、本プロジェクトチームはムンバイだけでなく、デリー、日本からのメンバーで、全員WFH (Work From Home) で制作しました。
ミュージックプロデューサーのKushmirとVideo EditingのIan (Ibex名義でラッパーとしても活動)はもともとの友人で、以前ブログでも紹介していただいた『ミスティック情熱』のメンバーです。
PianistのSamuelはKushmirの友人、Sound Mixing & Masteringの石山さんは私のソロ曲「Arigatou」でもお世話になったサウンドエンジニアさん。
そして、タブラのGaurav Chowdharyは昔ムンバイに住んでいて、私が初めてムンバイに来てダンス修業をしていた時に知りあった古くからの友人です。Gauravはアクターでもあり、『Teen Taal』というヒンディー映画にも出演しています。」

Hirokoさんから教えてもらったパーソネルは以下の通り。

Vocalist : Hiroko (Mumbai)
Music Producer : Kushmir (Mumbai)
Pianist : Samuel Jubal D’souza (Mumbai)
Tabla Player : Gaurav Chowdhary (Delhi)
Sound Mixing & Mastering : Aki Ishiyama (Japan)
Video Editing : Ian Hunt (Mumbai)
 
Hirokoさんが以前リリースした"Mystic Jounetsu"(『ミスティック情熱』)についてはこちらの記事を参照してほしい。
日本のカルチャーや音楽がどのようにインドに影響を与えているかが分かる興味深いインタビューになっている。 
 


ちなみに"Mystic Jounetsu"にも参加していたビートメーカーのKushmirは、ソロのWFH(Work From Home)作品も発表している。


彼は、最近では、日本の映像クリエイター入交星士(Seishi Irimajiri)とコラボレーションした作品も発表しており、こちらも非常に興味深い仕上がりだ。


Hirokoさんが語っているGauravが出演した映画『Teen Taal』は、彼の亡くなったお父さん(タブラ奏者)の実話をもとにしたストーリーで、Gaurav自身が脚本も書いているとのこと。
Gauravはタブラ奏者、俳優、脚本というマルチな才能を持った人物のようだ。 


キーボードのSamuelも、ロックダウン中に自宅からNicole C. Mullenの"Redeemer"のカバー曲を発表している。

歌っているのは彼の奥さん。
彼は敬虔なクリスチャンのようで、この動画には「こんな時でも、イエスは見守ってくれているということを思い出して欲しくてこの曲を演奏していると決めた。彼は我々が思うよりもずっと近くで、その手で包んでくれている」というメッセージが添えられている。

−今回は完全にオンライン上でのコラボレーションになったと思いますが、どのような進め方で製作したのでしょうか?苦労した点はありますか?

「楽曲については、インド要素を取り入れつつも、オリジナルのZARDのイメージは大切にしたかったので、今回はタブラを入れたアレンジにしました。
まずKushmirに『負けないで』のオリジナル楽曲を聴いてもらい、ビート制作を依頼しました。
KushmirのビートにSamuelのピアノを乗せたインストをGauravに送り、それに合わせてタブラを録音したデータを私に送ってもらいました。
並行して、私のボーカルを自宅で録音しました。
そして、インストのステム、タブラトラック、ボーカルトラックをサウンドエンジニアの石山さんに送り、ミキシング・マスタリングをしてもらいました。
ミュージックビデオは、出演アーティスト4名がそれぞれ自宅でスマホで動画を撮影し、私がまとめてビデオエディット担当のIanに送り、エディットしてもらいました。
WFHでコラボしているイメージをお見せしたかったので、4名が同時にパフォーマンスしている映像にしました。」

タブラ・バージョンでのカバーということで、もっとインドの要素が入ってくるかと思っていたのだが、オリジナルを大切にしたうえでのアレンジだったようだ。
Hirokoさんのコメントは続く。

「このように、基本的なやりとりはWhatsAppやメールで問題なく進められましたが、一番苦労したのはレコーディングでした。
ロックダウン中でスタジオに行けないので、自宅でのレコーディングでしたが、自宅にスタジオマイクが無いのでなんとスマホでレコーディングしました。
Naezyがまだ有名になる前にスマホでレコーディング・撮影したという話を思い出しながら。(笑)
スマホでのレコーディングですから音質は良くなくて、サウンドエンジニアの石山さんもかなり苦労されたようです。
それでも、聴いてくださったリスナーの皆さんから「元気が出ました!」というコメントをたくさんいただいて、嬉しかったです。」

さすが、日本よりもインドのほうが落ち着くと公言してはばからないHirokoさん。
スマホでレコーディングしてしまうという、あるモノで、できる範囲でやってしまおうという精神は、まさにインディアン・スピリッツ。
コメントにあるNaezyのエピソードは、ムンバイのスラム出身で、今ではインドを代表するラッパーの一人となったNaezy(昨年インドの映画賞を総なめにした『ガリーボーイ』の主人公のモデルだ)が注目されるきっかけとなった楽曲"Aafat!"をiPadのみで製作・撮影したことを指している。



−さて、ロックダウンが長く続いていますが、ムンバイの様子はどうですか?

「ロックダウンももう53日(ムンバイは55日 ※5月16日現在)続いており、自宅軟禁生活もすっかり慣れました。
食材の買い出し以外は外出禁止なので、基本的に家に引きこもって、在宅で仕事をしたりWebinar(ウェブセミナー)を開催したり、ダンスのオンラインクラスを受講したり逆に教えたり、次の音楽プロジェクトの作詞作曲をしたり、料理を楽しんだりしています。
ムンバイはインドで一番感染者が多く、ホットスポットが多いレッドゾーンとなっており、ロックダウンはまだまだ延長されそうです。
もともとムンバイは人口が多く密集度が高いのですが、特にアジア最大のスラム ダーラーヴィー地区での感染が広がっているのがとても心配です。」

ダーラーヴィー(ダラヴィ)は、映画『スラムドッグ$ミリオネア』や『ガリーボーイ』 の舞台にもなったスラム街だ。
貧しい人々が多く暮らすスラムは、衛生環境も悪いうえに、人口も多く住居も過密状態であり、こうしたエリアでコロナウイルスが蔓延してしまうと、いったい収束にはどれくらいかかるのか、想像もつかない。

「また、私もチャリティーライブなどで参加させてもらっているワダーラー・ゴワンディー地区のスラムの子供達ともメッセージで話したのですが、政府からの食料配給がなかなか行き届いておらず、私からムンバイポリスやボランティア団体にTwitterで直訴して支援していただけるようお願いしたりもしました。
ムンバイ以外のエリアでも、ロックダウンによって大変な影響を受けている貧困層や出稼ぎ労働者、会社から給料を払ってもらえないミドルクラスなどがたくさんいます。
これらに対してインド政府は色々な経済支援策を出しており、また、多くの富裕層が寄付をしたり、ボランティア団体が貧困層をサポートしたりしています。それでもまだまだ足りないのですが。
一日も早くCovid-19の件が終息して、またスラムの子供達の元気が姿が見たいですし、音楽やダンスのステージライブがしたいです。」 

Hirokoさんはワダーラー地区でダンスと音楽を教える活動を行なっている。
その教室で育った青年のなかには、現在ではラッパーになった者もいる。
音楽がスラムの若者たちの力と誇りとなり、それが引き継がれてゆく一例だ。
ワダーラー地区の様子とその青年、Wasimのラップはこの映像で見ることができる。


−このあともHirokoさんは音楽活動の予定がたくさんあるようですが、教えてもらえますか?

「『ミスティック情熱』チームでの日本語・英語ラップ曲次回作、ヒンディー語楽曲など、コラボプロジェクトがいくつか進行しています。
ロックダウンが終わって最初に行きたいのは、レコーディングスタジオかな(笑)
日本の皆さんも緊急事態宣言で外出の自粛要請をうけて、色々と制限された生活を送られていることと思います。
ですが、日本もインドもみんなで負けないで乗り切りましょう!」

…と、Hirokoさんはどこまでもポジティブに先を見据えているようだ。
ムンバイの状況が落ち着いて、進行中のプロジェクトがリリースされることを楽しみに待ちたい。


Hirokoさんの『負けないで』のような、インドと海外のアーティストによる国境を超えたコラボレーションは、他にも行われているようだ。
デリーのロックバンドCyanideのヴォーカリストでシンガーソングライターRohan Solomonは、5大陸9カ国の20都市のアーティストと、ロックダウンの孤独をテーマにした楽曲"Keep Holding On"をリリースした。

Rohan Solomonは、Anderson Paakによるグラミー賞(最優秀ラップ・パフォーマンス)受賞曲"Bubblin"にアシスタント・エンジニアとして関わるなど、裏方としても活躍している。
この楽曲でも、"We Are The World"形式のアレンジで、ロックダウンの孤独のもとでも自分にとって大切なものを保ち続けようというメッセージをドラマチックに聴かせてくれている。

ムンバイのジャズギタリストであるAdil Manuelは、フランス領レユニオン諸島のバンドTincrès Projektとインド洋をはさんだコラボレーションによる楽曲"Hope"を発表。

これまでに何度も共演経験があったとのことで、息のあったパフォーマンスを聴かせてくれている。

ムンバイのアコースティック・デュオSecond Sightは、2021年にリリース予定だったニューアルバムのプランを、このロックダウンにともなって変更し、世界中のミュージシャンとのコラボレーションによるラテン・ジャズに仕上げた。
この“Shallow Waters”には、キューバのパーカッショニスト、スリランカのベーシスト、そしてブラジルのピアニストが参加している。

曲のテーマは、「政府に対して疑問を持つことが、まるで国を憎んでいるかのように思われてしまうという考えが広まっているということ」だという。
インドのみならず、日本でも同じような状況があるのではないだろうか。


ロックダウン下でのインドのインディーミュージシャンたちの活動は、音楽メディアのRolling Stone Indiaが各種SNSで'#ArtistsWFH'というSNSで発信している。
また、古典音楽の大御所たちにも、様々なパフォーマンスを日々配信している人たちか多い。

一刻も早くこの状況が落ち着くことを願うばかりだが、こうした状況にもめげずに、またこうした状況だからこそできる活動を模索しているアーティストたちを見ていると、元気が湧いてくるのも確かだ。
今しばらく、こうした状況ならではのパフォーマンスを楽しみつつ、コロナウイルスの収束を待ちたい。



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goshimasayama18 at 19:27|PermalinkComments(0)

2020年05月17日

ロックダウン中に発表されたインドの楽曲(その1) ヒップホップから『負けないで』まで



今回の世界的な新型コロナウイルス禍に対して、インドは3月25日から全土のロックダウン(必需品購入等の必要最低限の用事以外での外出禁止)に踏み切った。
これは、日本のような「要請」ではなく、罰則も伴う法的な措置である。
インド政府はかなり早い時期から厳しい方策を取ったのだ。

当初、モディ首相によるこの速やかな判断は高く評価されたものの、都市部で出稼ぎ労働者が大量に職を失い、故郷に帰るために何百キロもの距離を徒歩で移動したり、バスに乗るために大混雑を引き起こしたりといった混乱も起きている。
貧富の差の激しいインドでは、ロックダウンや経済への影響が弱者を直撃しており、多様な社会における対応策の困難さを露呈している。
こうした状況に対し、政府は28兆円規模の経済対策を発表し、民間でもこの国ならではの相互扶助がいたるところで見られているが、なにしろインドは広く、13億もの人口のすみずみまで支援が行き渡るのは非常に難しいのが現実だ。

当初3週間の予定だったインドのロックダウンは、その後2度の延長の発表があり、現時点での一応の終了予定は5月17日となっているが、おそらくこれで解除にはならず、もうじき3度目の延長が発表される見込みである。
インド政府は感染者数によって全インドをレッド、グリーン、オレンジの3つのゾーンに分け、それぞれ異なる制限を行なっているが、ムンバイ最大のスラム街ダラヴィ(『スラムドッグ$ミリオネア』や『ガリーボーイ』の舞台になった場所だ)などの貧困地帯・過密地帯でもコロナウイルスの蔓延が確認されており、日本同様に収束のめどは立っていない。

このような状況下で、インドのミュージシャンたちもライブや外部でのスタジオワーク等の活動が全面的に制限されてしまっているわけだが、それでも多くのアーティストが積極的に音楽を通してメッセージを発表している。

デリーを代表するラッパーPrabh Deepの動きはかなり早く、3月26日にこの "Pandemic"をリリースした。

デリーに暮らすシク教徒の若者のリアリティーをラップしてきた彼は、これまでもストリートの話題だけではなく、カシミール問題などについてタイムリーな楽曲を発表してきた。
彼の特徴である、どこか達観したような醒めた雰囲気を感じさせるリリックとフロウはこの曲でも健在。
ロックダウン同様の戒厳令が続いているカシミールに想いを馳せるラインがとくに印象に残る。
以前は名トラックメーカーのSez on the Beatとコラボレーションすることが多かったPrabh Deepだが、Sezがレーベル(Azadi Records)を離れたため、今作は自身の手によるビートに乗せてラップしている。
Prabh Deepはラッパーとしてだけではなく、トラックメーカーとしての才能も証明しつつあるようだ。



ムンバイの老舗ヒップホップクルーMumbai's FinestのラッパーAceは、"Stay Home Stay Safe"というタイトルの楽曲をリリースし、簡潔にメッセージを伝えている。

かなり具体的に手洗いやマスクの重要性を訴えているこのビデオは、ストリートに根ざしたムンバイのヒップホップシーンらしい率直なメッセージソングだ。
シーンの重鎮である彼が若いファン相手にこうした発信をする意味は大きいだろう。



バンガロールを拠点に活動している日印ハーフのラッパーBig Dealは、また異なる視点の楽曲をリリースしている。
彼はこれまでも、少数民族として非差別的な扱いを受けることが多いインド北東部出身者に共感を寄せる楽曲を発表していたが、今回も北東部の人々がコロナ呼ばわりされていること(このウイルスが同じモンゴロイド系の中国起源だからだろう)に対して強く抗議する内容となっている。

Big Dealは東部のオディシャ州出身。
小さい頃から、その東アジア人的な見た目ゆえに差別を受け、高校ではインド北東部にほど近いダージリンに進学した。
しかし、彼とよく似た見た目の北東部出身者が多いダージリンでも、地元出身者ではないことを理由に、また差別を経験してしまう。
こうした幼少期〜若者時代を過ごしたことから、偏見や差別は彼のリリックの重要なテーマとなっているのだ。




インドでの(そして世界での)COVID-19の蔓延はいっこうに先が見えないが、こうした状況下でも、インドのヒップホップシーンでは、言うべき人が言うべきことをきちんと発言しているということに、少しだけ安心した次第である。

ヒップホップ界以外でも、パンデミックやロックダウンという未曾有の状況は、良かれ悪しかれ多くのアーティストにインスピレーションを与えているようだ。
ムンバイのシンガーソングライターMaliは、"Age of Limbo"のミュージックビデオでロックダウンされた都市の様子をディストピア的に描いている。
 
タイトルの'limbo'の元々の意味は、キリスト教の「辺獄」。
洗礼を受けずに死んだ人が死後にゆく場所という意味だが、そこから転じて忘却や無視された状態、あるいは宙ぶらりんの不確定な状態を表している。 
この曲自体はコロナウイルス流行の前に作られたもので、本来は紛争をテーマにした曲だそうだが、期せずして歌詞の内容が現在の状況と一致したことから、このようなミュージックビデオを製作することにしたという。
ちなみにもしロックダウンが起きなければ、Maliは別の楽曲のミュージックビデオを日本で撮影する予定だったとのこと。
状況が落ち着いたら、ぜひ日本にも来て欲しいところだ。

ロックダウンのもとで、オンライン上でのコラボレーションも盛んに行われている。
インドの古典音楽と西洋音楽の融合をテーマにした男女デュオのMaati Baaniは、9カ国17人のミュージシャンと共演した楽曲Karpur Gauramを発表した。



インド音楽界の大御所中の大御所、A.R.Rahmanもインドを代表する17名のミュージシャンの共演による楽曲"Hum Haar Nahin Maanenge"をリリース。

古典音楽や映画音楽で活躍するシンガーから、B'zのツアーメンバーに起用されたことでも有名な凄腕女性ベーシストのMohini Deyまで、多彩なミュージシャンが安定感のあるパフォーマンスを見せてくれている。

以前このブログで紹介した日印コラボレーションのチルホップ"Mystic Jounetsu"(『ミスティック情熱』)を発表したムンバイ在住の日本人ダンサー/シンガーのHiroko Sarahさんも、以前共演したビートメーカーのKushmirやデリーのタブラ奏者のGaurav Chowdharyとの共演によるZARDのカバー曲『負けないで』を発表した。



インドでも、できる人ができる範囲で、また今だからこそできる形で表現を続けているということが、なんとも心強い限り。

次回は、Hirokoさんにこのコラボレーションに至った経緯やインドのロックダウン事情などを聞いたインタビューを中心に、第2弾をお届けします!

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goshimasayama18 at 15:14|PermalinkComments(0)

2019年02月15日

日本とインドのアーティストによる驚愕のコラボレーション "Mystic Jounetsu"って何だ?

このブログではこれまでも日本のカルチャーの影響をうけたインドの音楽を紹介してきたが、ここに来てその究極とも言える楽曲がリリースされた。

ムンバイを拠点に活動するラッパーIbexが、現地でインドの伝統舞踊カタックのダンサーとして活躍するHiroko Sarah(この曲ではコーラスを担当)とコラボレーションし、ビートメーカーのKushmirがトラックを作った曲の名前は"Mystic Jounetsu(ミスティック情熱)"!!

以前からこのプロジェクトについて、日印の文化が融合したものになると聞いてはいたのだが、まさかこう来るとは!
様々な言語のラッパーが活躍するインドで、ここまで本格的に日本語でラップしたのはIbexが初めてではないだろうか。
アゲアゲなトラックが多いインドのヒップホップシーンのなかで、この曲ではKushmirのチルホップ寄りのトラックにHirokoが歌うどことなく和風なメロディーがきれいにはまっている。

リリックはこちら(https://genius.com/Ibex-mystic-jounetsu-lyrics-lyrics)からご覧いただけるが、なんといきなり故Nujabes(チルホップの創始者とされる日本のアーティスト)への追悼から始まる。
お聴きの通り日本語の単語がほとんど全てのラインに入っていて、Ibexの日本のカルチャーへの愛着が感じられるものになっているので、聴くだけではなく、ぜひ読んでみてほしい。

さっそくIbex, Hiroko, Kushmirの3人にインタビューを申し込み、この曲が生み出された背景やインドのヒップホップシーン、そしてインドにおける日本文化についてたっぷり語ってもらった。
今回はその様子をお届けします。
読み応えあり!



凡平「このプロジェクトを始めたきっかけを教えてください。そもそも誰の発案だったのでしょうか?」

Ibex「俺は基本的にはラッパーだけど、ミキサーもやっているんだ。
あるときクライアントの一人がチルホップのビートにあわせてレコーディングしていて、それがきっかけでチルホップというジャンルに興味を持った。
そこから掘り下げて聞いているうちに、チルホップのパイオニアの今は亡きNujabesサンを見つけたんだ。
俺は大のアニメファンでもあって『サムライ・チャンプルー』を見ていたんだけど、あとになってこのアニメの曲は全部Nujabesサンがやっていたって気がついたよ。
ラッパーにとってチルホップのビートに合わせて曲を作るのは本当にクールなこと。
このジャンルは日本で生まれたわけだし、日本の要素を入れることでこの曲をさらなるレベルに高められると思ったんだ」

チルホップ(Chill-hop)やローファイ・ヒップホップ(Lo-Fi Hiphop/Lo-Fi Beats)と呼ばれるジャンルはここ数年世界的なブームになっていて、興味深いことに世界中のこのジャンルのトラックメイカーたちが、ヴィジュアルイメージに日本のアニメを取り入れている。
(例えばこんな感じ。このジャンルについてはこの記事に詳しい。beipana: Lo-Fi Hip Hopはどうやって拡大したか

もともと典型的なバッドボーイ文化だったヒップホップと、オタク・カルチャーであるアニメがこんなふうに結びつくというのは非常に面白い現象だ。
Beipanaの記事にも、アニメ『サムライ・チャンプルー』がこの2つを結びつけたきっかけのひとつだと書かれているが、このIbexの回答はそれを裏付けるものだ。


凡平「3人はどうやって出会ったんですか?HirokoとIbexが最初に知り合って、そのあとにこのトラックを作るためにKushmirを見つけた、と聞きましたが…」

Hiroko「Ibexは昔からドラゴンボールやジブリのアニメとか、ゲーム、寿司や日本食、日本文化が大好きで、私が日本人だからということと、二人ともムンバイをベースにアーティスト活動と会社勤めをしているという状況が似ていたので、意気投合して、そのうち何かコラボで作品が作れたら良いねーと話していたんです。
そんななかで、Ibexが日本語ラップの作品を作りたいとアイディアを出して、私がそれに賛同してこのプロジェクトが始動しました。
私はIbexに日本語を教えたり、作詞を手伝ったり、そしてコーラスもすることになったんです」
 
Ibex「こういうジャンルはインドでは全く新しいものだったから、プロデュースしてくれるアーティストを探していたんだ。日本人のアーティストも探したよ。
そのときにKushmirのアルバムを聴いたんだ。それはアンビエントだったんだけど、まさに15分間の至福だった。
アンビエントとチルホップは近いジャンルだし、彼こそが俺たちの曲をプロデュースするのに最適だと感じた。そしたら彼もこのアイデアを気に入って、すぐにこのプロジェクトに入ってくれたんだ」

Hiroko「実は、『ミスティック情熱』は三年越しのプロジェクトなんですよ。
最初にIbexと私で日本語で歌詞を作って、Nujabesのビートにラップとコーラスを乗せたデモテープを作り、それをベースにしてビートメイカーを探しました。
インドではchillhopはメジャーではないので、ビートメイカーは海外か日本で探していたんですが、なかなか決まらなくて。そんな時にIbexのひらめきでKushmirに打診したら、快諾してくれて、ようやくビート制作が始動しました。
ビートが完成して、私が日本に一時帰国中に歌のレコーディングと日本のシーンの撮影を行ったんです。
そしてラップと歌を乗せてミックス・マスタリングした曲が完成し、ムンバイでのMV撮影を計画したんですが、DOPの人が忙しかったり、ムンバイの長いモンスーンシーズン(雨期)に入って撮影ができなかったりで、延び延びになってしまって。その後数ヶ月して、ようやく撮影が完了し、映像編集へ入れました。
しかし、またまた依頼していたエディターが忙しくて進まず、結局Ibex自身が映像編集をすることに決めたんです。
会社の仕事や次の音楽プロジェクトと並行しての映像編集はかなり大変だったと思いますが、Ibexは諦めず、頑張ってベストな作品を作ってくれました。
映像編集をするときには、元ウェブデザイナー、グラフィックデザイナーでもある私がカラーコレクションのアドバイスをしました」


ここで少し補足すると、映画音楽や伝統音楽以外の音楽シーンがまだまだ発展途上のインドでは、音楽だけで生計を立てているミュージシャンというのは本当に少ない。
ほとんどのミュージシャンが、昼は別の仕事をしながら、限られた時間を音楽制作に充てているという現実がある。
インドでは映画音楽などの商業音楽でない限り、「音楽で食べてゆく」というのは極めて難しい。
難しいというよりも、「インディーミュージシャンからプロになる」という道筋が、いまだにきちんと整備されていないのが現状なのだ。
日本に例えると、バンドブーム以前の状況を思い出してもらえれば少し近いかもしれない。
ストリートラッパーのDivineやNaezyの半生をモデルに"Gully Boy"という映画がとても話題になっているが、これは逆説的に音楽で成り上がることが本当に珍しいということの証でもある。
音楽制作が必ずしも成功というゴールに繋がっていない中で、これだけの時間と労力をかけて音楽を作ってゆくインドのミュージシャンたちの情熱には感服するしかない。

楽曲だけでなくミュージックビデオにおいても、イメージの決定、撮影場所の選定、画面の構図、衣装、編集など全てをHirokoとIbexが行ったという。

Hiroko「そんなこだわりに対して、協力してくださった皆様には本当に感謝しています。
また、日本の伝統文化を紹介するために、インド ムンバイにある日本山妙法寺の森田上人、ムンバイ剣道部の皆様にもご協力いただきました。
お陰様でとてもクールな映像を撮ることができたと思います。
今回のMVには神社やお寺のシーンも出てきますが、どの場所でもまず最初にきちんとお参りしてから、撮影をしたんです。私の神仏への礼儀、こだわりですね(笑)」

日本で撮ったように見えるIbexのシーンが全てインドで撮られていると聞いてびっくり。
ちなみにビデオの最初にABBAのレコードが出てくるが、ABBAがサンプリングされているわけではなく、この曲のためにシーケンスを組んだビートが使われている。

凡平「IbexとKushmirに聞きたいのですが、いつ、どんなふうにヒップホップと出会ったんですか?影響を受けたアーティストや、どうやってパフォーマーになったかを教えてください」

Ibex「学校に通っていた1998年頃に、Eminemで最初にヒップホップに触れたんだ。自分にとって最初に覚えたラップの曲はLinkin Parkの"The End"だよ。
最初に聴いたのはEminemだけど、影響を受けたのはSean PaulとかDamian Marleyだな。俺の曲はジャンル的にはダンスホールだから。
たくさんのローカル・ギグをクラブでやるようになって、そのまま止まらずにここまで来たって感じだよ。俺たちは情熱があるから、続けられているんだ」

ダンスホールスタイルのIbexの曲。こっちが本業ということらしい。


Kushmir「俺の場合はMTVでいろんなヒップホップのビデオを見ていたんだ。大学時代に友達がTupac Shakurのアルバムをくれて、それからだんだんこのジャンルにのめり込んでいった。
影響を受けたのはNotrious BIGとKanye Westだな。
Kanye WestがMPC(リズムマシン)でパフォーマンスしているのを見て、すごく影響を受けた。次の日には自分で買って来て、自分で音楽を作り始めたってわけ」


凡平「Ibexが日本語でラップしているのを聴いて驚きました。日本語のリリックはどうやって作ったんですか?」

Ibex「このことについては、リリックの名義は全部Hirokoサンにしないといけないな。翻訳サイトを使おうと思って検索もしてみたんだけど、彼女の手助けがなかったらちょうどいい言葉やセンテンスを見つけられなかったよ。
彼女のおかげで日本語のリリックがずいぶんスムースに進んだんだ。Hirokoサンにアリガトウ、だよ」

Hiroko「日本語ラップ部分は、Ibexが英語で歌詞を書いてそれを私が日本語に訳したり、Ibexから指定された言葉と韻をふめる日本語の単語を私が調べて送ったりして作りました。
私の歌パートの歌詞も、Ibexが英語でイメージした文章を作って、それを私が日本語に訳しながら、こう変えたらどう?とアドバイスして変えていき、今回の歌詞になりました。
あと、レコーディング前にIbexに日本語の発音の特訓をしたんです。かなりスパルタに(笑)
スパルタレッスンの甲斐あって、Ibexの日本語ラップはかなりスムースなflowに仕上がったと思います。
Ibexはもともと英語・ヒンディーでのラップは上手くてスムースなフロウなのですが、日本語ラップは初めてだったので、レコーディング前にたくさん練習したと思います。
私の声で日本語ラップ部分をモバイルで録音して、そのデータを発音の参考としてIbexに送ったり。
私はラップはできないんですけどね(笑)」


凡平「リリックは日本語と英語のミックスということで、一般的なインド人や英語圏のリスナーには意味が伝わりにくいと思うのですが、そこは雰囲気や響きを重視したということですか?
インドだと、いろんな言語のラップや音楽があるので、言葉の一部がわからなくても雰囲気や響きで楽しめる、みたいなこともあるのかなあ、と思ったのですが」

Ibex「うん。俺は最初は日本だけをターゲットにしようとしたんだけど、この曲が英語と日本語のミックスになったことで、世界中にいる多くのチルホップのリスナーにより届けやすくなったと気づいたんだ。
インドのリスナーに関してはラウドでアップビートなボリウッドの曲のようには楽しんでくれないかも、とも思っていた。
でもリリースしてみたら、インド人の友達やファンもみんなこの曲をとても気に入ってくれて驚いたよ。
大勢の人からリリックの訳について聴かれたけど、Youtubeの英語翻訳つきの字幕とかで解決する問題さ。
リスナーがリリックの意味を理解できなくても、雰囲気やサウンドを重視して聴いたりするだろ?
理想を言えば、俺はみんなに最初は楽曲と映像を楽しんでもらって、次に歌詞に注目してほしい。Youtubeを字幕付きで見るとかしてね。
genius.comで歌詞を読むこともできるよ。
テレビやパーティーやYoutubeで海外の曲を楽しむことも多いと思うけど、例えば有名なスペイン語の曲の"Taki Taki"は、意味はわからなくても世界中のたくさんの国でヒットして楽しまれているだろ。
インドにはいろんな言語の音楽やラップがある。だから部分的に言葉がわからなくても、雰囲気やサウンドを楽しむことができると思うんだ。
インドは多様性があって、全ての州にそれぞれのスタイルの伝統音楽や文化がある。
インドはこんなふうに多様性に富んだ国だから、あらゆる形式の音楽や文化を受け入れて楽しむことができるんだ。たとえそれが海外のものでもね。
日本は俺を含めて多くのインド人にとって憧れの場所だよ。音楽もとても進んでいるし。
サウンド、音楽性、ビジュアルの要素がうまくいっていれば、言葉がわからなくても曲は楽しめると思うんだ」

Hiroko「私達日本人がヒンディー語映画の歌を意味がわからなくても楽しめるように、海外のリスナーも日本語の意味がわからなくても、音楽や雰囲気が良ければ楽しんでもらえるのではないかと考えました。
ただ、インドでは英語ラップよりヒンディー語ラップがより好まれる傾向にありますね。
IbexもDIVINEと同様クリスチャンで、母語は英語ですが、ヒンディー語でのラップ作品も制作しています」
  
Ibexの「インドのリスナーに関してはラウドでアップビートなボリウッドの曲のようには楽しんでくれないかも」という心配は、インドの音楽シーンでは派手なボリウッド映画のミュージカルナンバーが主流で、こうしたサウンドのヒップホップはまだまだアンダーグラウンドなものだということを意味している。
今度はインドのヒップホップシーンの現状について聞いてみた。


凡平「インドのヒップホップはどんどん成長して来ているようだけど、それについてどう思います?」

Ibex「その通りだね。2008年ごろからヒップホップシーンにいるけど、その頃は全然シーンは大きくなかった。アンダーグラウンドラップは、みんなが集まるパーティーで聴いて楽しむような音楽だとは思われていないんだけど、商業的な映画のGully Boyが公開されて、今まさにそれが変わろうとしているところなんだ。
インドのアンダーグラウンドなヒップホップやラップも、レストランやクラブや結婚パーティーでプレイされるようになってきた。
インド中に広く知れ渡って、受け入れられて来ているところだよ」

Kushmir「今はインドのアンダーグラウンド・ヒップホップシーンの黄金時代だね。アンダーグラウンドのヒップホップアーティストにとって、才能を見せつけるいい機会だよ」


ここでいう「アンダーグラウンド・ラップ」は、ボリウッド的なラップミュージック(例えばYo Yo Honey Singhとか)に対比して言われているものだ。
日本でいうと、DA PUMPのような音楽と、漢とかKOHHがやっているヒップホップの違いを想像してみると近いかもしれない。


凡平「インドのレゲエ・シーンはどうですか?Ibexはダンスホールに合わせてラップしたりもしていますよね。Reggae RajahsとかSka Vengers以外でオススメのアーティストがいたら教えてください」

Ibex「Reggae RajahsとSka Vengersはインドじゅうにレゲエやダンスホールを行き渡らせたパイオニアだね。
Reggae RajahsのメンバーのGeneral Zoozがムンバイでダンスホールを流行らせた中心人物だよ。
DJ Bob Omuloもレゲエでラップしたり歌ったりしている。彼はヒップホップアーティストとしてのほうが有名ではあるけど。
レゲエ/ダンスホールならDJ Major Cがトップ・セレクタ(註:レゲエにおけるDJ)だね。
King Jassimも注目すべきレゲエアーティストだ。
Apache Indianは今や国際的なスターだけど、運が良ければムンバイのClub Raastaで彼のライブが見られるよ」


凡平「『Mystic Jounetsu』はチルホップということですが、インドでも最近Smokey The GhostとかTienasとかTre EssとかEnkoreみたいに、チルホップ/ローファイ・ヒップホップっぽいトラックを作るアーティストが増えて来ているように感じます。インドのヒップホップシーンのトレンドはどんな感じですか?」

Ibex「うん。今名前を挙げたようなアーティストは俺たちがいるアンダーグラウンド・ヒップホップシーンに属している。チルホップやローファイは、次にインドじゅうで流行するものになるかもしれないね。(註:今はまだ流行っていないということだろう)
俺たちインドのアンダーグラウンド・シーンは、もともと英語でラップを始めたんだけど、今の流行はヒンディー・ラップだ。ヒンディーはインドじゅうで話されている主要言語だから、そのほうがより理解してもらえて、受け入れてもらえるんだ。
英語や他の言語のラップがインドで流行するにはまだ時間がかかるかもしれないけど、英語や他の外国語のラップや音楽がインドじゅうで受け入れられる日が来ると思うよ。俺たちは好きなこと、情熱を注げることをやり続けるよ」

Kushmir「チルホップやローファイはまだまだニッチなリスナーのものだな。でも世界中で少しずつ成長して来ているよ」

ちなみに二人にインドでおすすめのラッパーを聞いたところ、Emiway, Seedhe Maut, Enkoreの名前が挙がった。


凡平「ここで少し話題を変えて、IbexやKushmirも日本の文化(アニメやゲーム)が好きだと聞きました。
インドにも日本の文化の影響を受けているミュージシャンはいるようですが(エレクトロニカのKomorebiや、ロックバンドのKrakenなど)、日本文化ってインドでも存在感、あるんでしょうか?」

Ibex「ああ。日本に関するものをずっと楽しんできたよ。とくにビデオゲームを小さい頃から日本のものだとは気づかずにずっと楽しんできたんだ。
例えばカプコンの『ストリートファイター』とか、Neo Geoの『キング・オブ・ファイターズ』とか、ニンテンドーのファミコンの8-bitゲームとか。
日本のカルチャーに影響を受けているうちに、アニメや映画の音楽も楽しむようになったんだ。
まだまだニッチではあるけど、もし日本文化が好きなら、インドでも見つけたり体験したりできるようになってきたよ。
ありがたいことに、ムンバイでは日本にいるみたいな気分になれる場所がたくさんある。レストランとか、クールジャパンフェスティバルとか、コスプレ、アニメや映画、カフェ、日本映画のフェスティバルとかね」

Kushmir「俺もビデオゲームやアニメを見て育ってきたから、それらは俺の人生の大きな部分を占めているよ。とくに『鋼の錬金術師』だな。見てると涙が出てくるよ。あとは『デスノート』。ビデオゲームだと『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』と『ストリート・ファイター』だな。日本文化に影響を受けているインド人ミュージシャンは多いよ。
ドラゴンボールのフィギュアのコレクションも持ってる」

『Mystic Jounetsu』のミュージックビデオ(3:09頃)にも出てきたスーパーサイヤ人の悟空のフィギュアもKushmirのものだそうで、ビデオの中の折り鶴はIbexとHirokoが折ったものだとのこと。

Hiroko「日本人目線で見ても、インドの人達は日本人に対してとても友好的で、特にムンバイは私にとって居心地が良い場所です。
日本の文化や日本のテクノロジーはインドでも評価が高くて、日本人は親切で礼儀正しいというイメージが浸透していますね。
ムンバイとデリーで不定期に開催される『クールジャパンフェスティバル』では、たくさんのインド人アニメファンやコスプレイヤーが集まって盛り上がっています」

おお、これはナガランドのコスプレファンたちが行きたがっていたイベントのことだ。
離れてはいても同じアジアという親近感があるのだろうか。たとえまだニッチな存在だとしても、アメリカやイギリスと比べて、日本文化に影響を受けたアーティストの割合は確実に多いような印象を受ける。 

Hirokoがデザインしたジャケットは、サムライチャンプルーの決めポーズから取ったもの。
mysticjounetsu
彼女が触媒になって、ヒップホップ、アニメ、日本文化がチルホップという象徴的な形でインドで結晶したというわけだ。
だが彼らの間での日印の文化的影響は、一方向だけのものではない。
IbexとKushmirが日本文化に影響を受けているのと同様に、Hirokoもまた豊かなインド文化から、大きな影響を受けている。

凡平「Hirokoさんはもともとダンサーですが、この曲ではすごくきれいなコーラスを聴かせてくれていますね」

Hiroko「
ありがとうございます。
シンガーとしてオフィシャルな作品に参加したのは今回が初めてなんですが、実は5才から10年間ピアノと声楽を学んでいたんです。
子供の頃から歌や踊りや演技が大好きで、ずっと何らかのステージに立ってました。
子供〜学生時代はチアガールをやったり、ピアノと声楽以外にも演劇で舞台に立ったり、合唱部に所属してコンクールに出場したり。
大人になってからは、毎週末クラブ通いをして音楽と踊りを楽しんでました。
日本でベリーダンスを習ったのちにインドでボリウッドダンス、ラジャスターニダンスや古典舞踊のカタックを学び、ステージで踊っています。
今はインドで古典舞踊カタックをメインに踊っていて、時には『ラーマーヤナ』のダンスドラマ内でヒンディー語の台詞で演技をしたり、時々インドのTV CMに演技や踊りで出演したりしています」

なんだかもうすごいバイタリティーだ。
Hirokoさんのこれまでの人生とダンス遍歴は、日経WOMANのこの記事に詳しい。(日経WOMAN「趣味だったインドのダンス 40歳で現地のCM出演へ」) 
クラブ通い時代は
筋金入りのクラバーで、有名DJの友人も多いと伺った。
舞台に立つのが大好きな女の子が大人になってクラバーになり、やがてインドで古典舞踊のダンサーになって現地のラッパーと曲をリリースするようになるって、なんて面白い人生なんだろう。


凡平「古典舞踊とは別にインドのクラブでパフォーマンスをされたりしているようですが、ムンバイのクラブでオススメのところがあったら教えてください」 

Hiroko「Raasta Bombayがオススメですね。
ムンバイには色々なナイトクラブやバーがありますが、ボリウッドやトランスのDJイベントが多いなか、Raastaはボリウッド音楽禁止(笑)で、純粋にクラブミュージックを楽しみたい人が集まる場所です。
レゲエやヒップホップの定例イベントや、Apache Indianのようなスペシャルゲスト出演のイベントなどが開催されています」

Raasta BombayでのHiroko&Ibexの共演したときの映像を教えてもらった。
 

Ibex「ああ。クラブでもやっているよ。もしレゲエやダンスホールが好きなら、ムンバイならRaastaを強くすすめるよ。ヒップホップなら、たくさんあるけど、Hard Rock CafeかBlue Frog, I-Bar, Social Offline, 3-Wise Monkeysかな」

Kushmir「俺はヒップホップとかエレクトロニックミュージックが好きなんだけど、今じゃムンバイにはいろんなタイプのジャンルを楽しめる場所がたくさんあるよ。でも俺が好きなのはThe Denだな。水曜にプレイされるエレクトロニック・ミュージックが素晴らしいよ」


凡平「このメンバーで、ライブをしたり新作を作ったりする予定はありますか?」

Ibex「ああ、この曲をライブでもやってみたいと思ってる。ショーが決まったら連絡するよ。このミスティック情熱チームでもっとたくさんのコラボレーションもしてみたいね」

Hiroko「次はIbexとラップとタブラとカタックダンスのコラボレーションを考えているんです。それか、IbexのラップとKushmirのビートと私のコーラスに、三味線みたいな日本の楽器を入れてみるとか。
ライブについては、実は、MVを観てくださった日本のイベント・音楽関係の方からインドで開催されるクールジャパン的なイベントやDJイベントでのパフォーマンスオファーをいただいたんですよ。とても有り難いお話です。
そのうち日本でも、Ibex feat. Hirokoでパフォーマンスができたら良いなぁと思います。
日本のオーガナイザーさん、是非呼んでください!笑


曲名同様に、音楽やパフォーマンスにかける情熱と、日本文化への愛情が強く印象に残ったインタビューだった。
以前Tre Essを取り上げた時にも思ったことだが、こういう突然変異的な面白いサウンドが出てくることにインドのアンダーグラウンドシーンの自由さや懐の深さをしみじみと感じた。
発展途上のシーンだからこその情熱と自由さがあるように思えるのだ。

日本とインドの音楽をシーンをつなぐきっかけにもなりそうなこの一曲。
Gully Boyの公開という追い風もある中で、この異彩を放つ楽曲がインドでどう受け入れられるかもとっても気になる。
日本でのパフォーマンスもぜひとも実現してほしい。
インドのアンダーグラウンドな音楽が、少しずつ、我々の身近な存在になってきているのを感じる。
さらなるコラボレーションも期待して待ちたい。

この楽曲を聴いたり購入したりは、こちらから!
https://linkco.re/BYyN6ZcD

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goshimasayama18 at 21:28|PermalinkComments(0)