Godless
2022年02月26日
インドのアーティストたちによるカバー曲 番外編!
「カバー曲を通じて音楽の楽しみ方を提案するサイト」"eyeshadow"に、インドのミュージシャンが洋楽の有名曲など(1曲はボリウッドの人気曲)をカバーした10曲を選んで書かせてもらいました。
音楽業界のそうそうたる顔ぶれのみなさんに混じって声をかけていただき、うれしい限りです。
常々、「インドのインディペンデント・シーンが面白い」ってなことを言っているわけですが、そもそも自分以外でここに注目している人はほぼ皆無なわけで、なかなか興味を持ってもらうことが難しいジャンルなのは百も承知。
インドのインディーミュージックの面白さは、単にサウンド面だけではなく「欧米発のポピュラー音楽やポップカルチャーが、インドという磁場でどう変容するのか(あるいはしないのか)、それがローカル社会でどんな意味を持ち、どう受け入れられるのか」という部分にあると感じているのだけど、そういう目線で考えると、「インドのアーティストがどんな曲をどう解釈してカバーするのか」というのは、すごく意味深いアプローチの仕方だなあと思った次第です。
どうしてこれまで気がつかなかったんだろう。
ともかく、10曲選ぶにあたり、けっこう面白いのに選に漏れてしまった楽曲がいくつかあるので、今回はそういう楽曲たちを紹介します。
Thanda Thanda Pani "Baba Sehgal"
QueenとDavid Bowieが共演した"Under Pressure"をまんまサンプリングしたVanilla Iceの"Ice Ice Baby"を、さらにそのままパクった曲。
タイトルは'Cold Cold Water' という意味で(つまりほぼ意味はない)、歌っているのは「インドで最初のラッパー」Baba Sehgal.
今ではすっかりひとつのカルチャーとして定着しつつあるインドのヒップホップだが、その最初の一歩はこのしょうもない曲だったということはきちんと押さえておきたい。
それにしても、この曲のリリースが1992年というのは早い。
在外南アジア人によるヒップホップムーブメントであるDesi HipHopの象徴的存在だったBohemiaのデビュー(2002年)より10年もさきがけているし、ムンバイのストリートヒップホップ「ガリーラップ(gully rap)」誕生と比べると25年近く早いということになる。
この曲はインドのポピュラーミュージック史におけるオーパーツみたいな存在なのだ。
ちなみに日本だとm.c.A.Tの"Bomb a Head"が1993年で、EAST END×YURIの"DA.YO.NE"が1994年だから、それよりも早いということになる。
(ただし、吉幾三の「俺ら東京さ行ぐだ」は1984年で、やはり日本のヒップホップ受容よりも10年早い。Baba Sehgalも吉幾三的な存在だった可能性も否めない)
こちらは以前書いた関連記事です。
Su Real "Pakis in Paris"
言うまでもなくJay-ZとKanye Westによる"Niggas in Paris"のカバー。
デリー出身のDJ/ビートメーカーSu Realによる2016年のアルバム"Twerkistan"(名盤!)の収録曲で、ベンガルールのCharles Dickinsonなるラッパーがゲスト参加している。
Su Realはベースミュージックやダンスホールレゲエに南アジアの要素を導入したスタイルで活動しているアーティスト。
このブログの第1回目の記事で紹介した記念すべき存在でもある(これがその時の記事。当初は落語っぽい口調でインドの音楽を紹介するという謎のコンセプトだった)。
以前からインドのドメスティックな市場以外でも評価されて良い才能だと思っているのだけど、最近では国内のラップシーンの隆盛に合わせてラッパーのためのビート作りに活動の軸足を移しているようでもあり、なんだかちょっとやきもきしている。
ところで、Pakiという言葉は、映画『ボヘミアン・ラプソディ』でも出てきた通り、パキスタン人(あるいは、広く南アジア系)への蔑称でもあると思うのだけど、この言葉をパキスタンと対立関係にあるインド人が使うのは問題ないのだろうか。
黒人がniggaという言葉を使うのと同じニュアンスで、インド人が南アジア系であることを逆説的に誇る言葉として使っても差し支えないものなのか、ちょっと気になるところではある。
High "Wasted Words"
インド東部、ベンガル地方の都市コルカタは、イギリス統治時代の支配拠点だったこともあり、古くから西洋文化の受容が進んでいた街でもあった(その反発が、結果的にインド独立運動の起爆剤にもなるのだが)。
コルカタでは、イギリス人の血を引く「アングロ・インディアン」と呼ばれるコミュニティを中心としたロックバンドが1960年代から存在していたが、やがて彼らの多くが海外に渡ってしまい、そうした伝統も今ではすっかり途絶えてしまったようだ。
彼らが活動していた時代は、楽器や機材の調達もままならず、自分たちで機材を作ったり、選挙活動用のスピーカーを使ったり、工夫を重ねて演奏を続けていたようだ。
これはそうしたバンドのひとつ、HighによるAllman Brothers Bandのカバー曲。
Highの中心人物Dilip Balakrishnanは、The Cavaliers, Great Bearといったインディアン・ロックのパイオニア的バンドを経てHighを結成したが、その音楽活動は経済的成功には程遠く、インドのインディペンデント音楽の隆盛を見ないまま、1990年に39歳の若さでこの世を去った。
彼の死から20年が経過した2010年代以降、コルカタには新しい世代によるロックやヒップホップのシーンが生まれ、今ではParekh & Singh, Whale in the Pond, Cizzyといった才能あるアーティストが活躍している。
Against Evil "Ace of Spades"
言わずと知れた暴走ロックンロールバンドMotorheadの名曲を、南インドのアーンドラ・プラデーシュ州出身の正統派ヘヴィメタルバンドAgainst Evilがカバーしたのがこちら。
今のインドのインディーミュージックについて書くなら、メタルシーンについても触れないわけにはいけないなあ、と思っていたのだけど、eyeshadowさんの記事には結局、Pineapple Expressの"Dil Se"をセレクトした。
彼らのバカテク&古典音楽混じりの音楽性と、ボリウッドのカバーという面白さのほうを優先してしまったのだが、メタルファンによるメタルファンのためのメタルカバーといった趣のこちらもカッコいい。
高めのマイクスタンド、ジャック・ダニエルズなどの小道具からも彼らのMotorhead愛が伝わってくる。
テクニカルなプログレ系や激しさを追求したデスメタル系に偏りがちなインドのメタルシーンにおいて、珍しく直球なスタイルがシブくてイカす。
Godless "Angel of Death"
Slayerによるスラッシュメタルを代表する名曲を、ハイデラバードのデスメタルバンドGodlessがカバー。
GodlessはRolling Stone Indiaが選出する2021年のベストアルバムTop10の6位にランクインしたこともある実力派バンド。
その時の記事にも書いたのだが、宗教対立のニュースも多いインドで、ヒンドゥーとムスリムのメンバーが'Godless'、すなわち神の不在を名乗って仲良く反宗教的な音楽を演奏するということに、どこかユートピアめいたものを感じてしまう。
この曲に関しては説明は不要だろう。
原曲が持つ激しさや暴力性をとことん煮詰めたようなパフォーマンスは圧巻の一言。
Sanoli Chowdhury "Love Will Tear Us Apart"
過去の様々な音楽をアーカイブ的に聴くことが可能になった2010年代以降にシーンが発展したからだろうか、インドのインディペンデント音楽シーンでは、あらゆる時代や地域の音楽に影響を受けたアーティストが存在している。
Joy Divisionのイアン・カーティスの遺作となったこの曲を、ベンガルールの女性シンガーSanoli Chowdhuryがトリップホップ的なメロウなアレンジでカバー。
90年代以降の影響が強いインドのインディーズ・シーンにおいて、都市生活の憂鬱を80年代UKロックの影響を受けたスタイルで表現するタイプのアーティストも少しずつ目立つようになってきた。
例えばこのDohnraj.
今後、注目してゆきたい傾向である。
Voctronica "Evolution of A. R. Rahman"
映画音楽が圧倒的メインストリームとして君臨しているインドにおいて、いわゆる懐メロや有名曲をカバーしようと思ったら、やっぱり映画音楽を選ぶことになる。
その時代のもっとも大衆的なサウンドで作られてきた映画音楽を、Lo-Fiミックスなどの手法で現代的に再構築する動きもあり、いつもながらインドでは過去と現代、ローカルとグローバルが非常に面白い混ざり方をしているなあと思った次第。
これはムンバイのアカペラグループVoctronicaがインド映画音楽の巨匠A.R.ラフマーンの曲をカバーしたもの。
メンバーの一人Aditi RameshはジャズやR&B、ソロシンガーとしても活躍している。
というわけで、インドのアーティストによるカバー曲をいろいろと紹介してみました。
eyeshadowさんの記事もぜひお読みください!
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音楽業界のそうそうたる顔ぶれのみなさんに混じって声をかけていただき、うれしい限りです。
常々、「インドのインディペンデント・シーンが面白い」ってなことを言っているわけですが、そもそも自分以外でここに注目している人はほぼ皆無なわけで、なかなか興味を持ってもらうことが難しいジャンルなのは百も承知。
インドのインディーミュージックの面白さは、単にサウンド面だけではなく「欧米発のポピュラー音楽やポップカルチャーが、インドという磁場でどう変容するのか(あるいはしないのか)、それがローカル社会でどんな意味を持ち、どう受け入れられるのか」という部分にあると感じているのだけど、そういう目線で考えると、「インドのアーティストがどんな曲をどう解釈してカバーするのか」というのは、すごく意味深いアプローチの仕方だなあと思った次第です。
どうしてこれまで気がつかなかったんだろう。
ともかく、10曲選ぶにあたり、けっこう面白いのに選に漏れてしまった楽曲がいくつかあるので、今回はそういう楽曲たちを紹介します。
Thanda Thanda Pani "Baba Sehgal"
QueenとDavid Bowieが共演した"Under Pressure"をまんまサンプリングしたVanilla Iceの"Ice Ice Baby"を、さらにそのままパクった曲。
タイトルは'Cold Cold Water' という意味で(つまりほぼ意味はない)、歌っているのは「インドで最初のラッパー」Baba Sehgal.
今ではすっかりひとつのカルチャーとして定着しつつあるインドのヒップホップだが、その最初の一歩はこのしょうもない曲だったということはきちんと押さえておきたい。
それにしても、この曲のリリースが1992年というのは早い。
在外南アジア人によるヒップホップムーブメントであるDesi HipHopの象徴的存在だったBohemiaのデビュー(2002年)より10年もさきがけているし、ムンバイのストリートヒップホップ「ガリーラップ(gully rap)」誕生と比べると25年近く早いということになる。
この曲はインドのポピュラーミュージック史におけるオーパーツみたいな存在なのだ。
ちなみに日本だとm.c.A.Tの"Bomb a Head"が1993年で、EAST END×YURIの"DA.YO.NE"が1994年だから、それよりも早いということになる。
(ただし、吉幾三の「俺ら東京さ行ぐだ」は1984年で、やはり日本のヒップホップ受容よりも10年早い。Baba Sehgalも吉幾三的な存在だった可能性も否めない)
こちらは以前書いた関連記事です。
Su Real "Pakis in Paris"
言うまでもなくJay-ZとKanye Westによる"Niggas in Paris"のカバー。
デリー出身のDJ/ビートメーカーSu Realによる2016年のアルバム"Twerkistan"(名盤!)の収録曲で、ベンガルールのCharles Dickinsonなるラッパーがゲスト参加している。
Su Realはベースミュージックやダンスホールレゲエに南アジアの要素を導入したスタイルで活動しているアーティスト。
このブログの第1回目の記事で紹介した記念すべき存在でもある(これがその時の記事。当初は落語っぽい口調でインドの音楽を紹介するという謎のコンセプトだった)。
以前からインドのドメスティックな市場以外でも評価されて良い才能だと思っているのだけど、最近では国内のラップシーンの隆盛に合わせてラッパーのためのビート作りに活動の軸足を移しているようでもあり、なんだかちょっとやきもきしている。
ところで、Pakiという言葉は、映画『ボヘミアン・ラプソディ』でも出てきた通り、パキスタン人(あるいは、広く南アジア系)への蔑称でもあると思うのだけど、この言葉をパキスタンと対立関係にあるインド人が使うのは問題ないのだろうか。
黒人がniggaという言葉を使うのと同じニュアンスで、インド人が南アジア系であることを逆説的に誇る言葉として使っても差し支えないものなのか、ちょっと気になるところではある。
High "Wasted Words"
インド東部、ベンガル地方の都市コルカタは、イギリス統治時代の支配拠点だったこともあり、古くから西洋文化の受容が進んでいた街でもあった(その反発が、結果的にインド独立運動の起爆剤にもなるのだが)。
コルカタでは、イギリス人の血を引く「アングロ・インディアン」と呼ばれるコミュニティを中心としたロックバンドが1960年代から存在していたが、やがて彼らの多くが海外に渡ってしまい、そうした伝統も今ではすっかり途絶えてしまったようだ。
彼らが活動していた時代は、楽器や機材の調達もままならず、自分たちで機材を作ったり、選挙活動用のスピーカーを使ったり、工夫を重ねて演奏を続けていたようだ。
これはそうしたバンドのひとつ、HighによるAllman Brothers Bandのカバー曲。
Highの中心人物Dilip Balakrishnanは、The Cavaliers, Great Bearといったインディアン・ロックのパイオニア的バンドを経てHighを結成したが、その音楽活動は経済的成功には程遠く、インドのインディペンデント音楽の隆盛を見ないまま、1990年に39歳の若さでこの世を去った。
彼の死から20年が経過した2010年代以降、コルカタには新しい世代によるロックやヒップホップのシーンが生まれ、今ではParekh & Singh, Whale in the Pond, Cizzyといった才能あるアーティストが活躍している。
Against Evil "Ace of Spades"
言わずと知れた暴走ロックンロールバンドMotorheadの名曲を、南インドのアーンドラ・プラデーシュ州出身の正統派ヘヴィメタルバンドAgainst Evilがカバーしたのがこちら。
今のインドのインディーミュージックについて書くなら、メタルシーンについても触れないわけにはいけないなあ、と思っていたのだけど、eyeshadowさんの記事には結局、Pineapple Expressの"Dil Se"をセレクトした。
彼らのバカテク&古典音楽混じりの音楽性と、ボリウッドのカバーという面白さのほうを優先してしまったのだが、メタルファンによるメタルファンのためのメタルカバーといった趣のこちらもカッコいい。
高めのマイクスタンド、ジャック・ダニエルズなどの小道具からも彼らのMotorhead愛が伝わってくる。
テクニカルなプログレ系や激しさを追求したデスメタル系に偏りがちなインドのメタルシーンにおいて、珍しく直球なスタイルがシブくてイカす。
Godless "Angel of Death"
Slayerによるスラッシュメタルを代表する名曲を、ハイデラバードのデスメタルバンドGodlessがカバー。
GodlessはRolling Stone Indiaが選出する2021年のベストアルバムTop10の6位にランクインしたこともある実力派バンド。
その時の記事にも書いたのだが、宗教対立のニュースも多いインドで、ヒンドゥーとムスリムのメンバーが'Godless'、すなわち神の不在を名乗って仲良く反宗教的な音楽を演奏するということに、どこかユートピアめいたものを感じてしまう。
この曲に関しては説明は不要だろう。
原曲が持つ激しさや暴力性をとことん煮詰めたようなパフォーマンスは圧巻の一言。
Sanoli Chowdhury "Love Will Tear Us Apart"
過去の様々な音楽をアーカイブ的に聴くことが可能になった2010年代以降にシーンが発展したからだろうか、インドのインディペンデント音楽シーンでは、あらゆる時代や地域の音楽に影響を受けたアーティストが存在している。
Joy Divisionのイアン・カーティスの遺作となったこの曲を、ベンガルールの女性シンガーSanoli Chowdhuryがトリップホップ的なメロウなアレンジでカバー。
90年代以降の影響が強いインドのインディーズ・シーンにおいて、都市生活の憂鬱を80年代UKロックの影響を受けたスタイルで表現するタイプのアーティストも少しずつ目立つようになってきた。
例えばこのDohnraj.
今後、注目してゆきたい傾向である。
Voctronica "Evolution of A. R. Rahman"
映画音楽が圧倒的メインストリームとして君臨しているインドにおいて、いわゆる懐メロや有名曲をカバーしようと思ったら、やっぱり映画音楽を選ぶことになる。
その時代のもっとも大衆的なサウンドで作られてきた映画音楽を、Lo-Fiミックスなどの手法で現代的に再構築する動きもあり、いつもながらインドでは過去と現代、ローカルとグローバルが非常に面白い混ざり方をしているなあと思った次第。
これはムンバイのアカペラグループVoctronicaがインド映画音楽の巨匠A.R.ラフマーンの曲をカバーしたもの。
メンバーの一人Aditi RameshはジャズやR&B、ソロシンガーとしても活躍している。
というわけで、インドのアーティストによるカバー曲をいろいろと紹介してみました。
eyeshadowさんの記事もぜひお読みください!
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「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」
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goshimasayama18 at 14:37|Permalink│Comments(0)
2022年01月10日
Rolling Stone Indiaが選んだ2021年のベストアルバムTop10!
前回の記事ではRolling Stone Indiaが選んだ2021年のベストシングル10曲を紹介したが、今回特集するのは同誌が選んだ2021年のベストアルバム10選!
これがまた想像をはるかに超えていて、我々が知るインドや今日の音楽シーンのイメージを覆す驚くべき作品が選ばれている!
(元記事はこちら)
それではさっそく紹介してみよう。
1. Blackstratblues "Hindsight2020"
Rolling Stone Indiaが選んだ2021年のベストアルバム第1位は、ジェフ・ベックやサンタナを彷彿させる70年代スタイルのロックギタリスト、Warren MendonsaによるBlackstratblues名義のインストゥルメンタル・アルバム"This Will Be My Year".
世界の音楽のトレンドとまったく関係なく、2021年にこのアルバムを選ぶセンスにはただただ吃驚。
彼は派手なテクニックで魅せるタイプのギタリストではなく、チョーキングのトーンコントロールや絶妙なタメで聴かせる通好みなアーティストで、発展著しいインドの音楽シーンのなかでも、なんというか、かなり地味な存在だ。
今作はちょっとスティーヴ・キモックとか、あのへんのジャムバンドっぽい感じもある。
Warrenはじつはこのランキングの常連で、2017年にも前作のアルバム"The Lost Analog Generation"が2位にランクインしている。(単に評者の好みかもしれないが)
このアルバムでは、日本文化からの影響を受けているエレクトロニック・ミュージシャンのKomorebiが2曲に参加している。
ちなみにWarrenはインド映画音楽界のビッグネームである3人組Shankar-Eshaan-Loyの一人、Loy Mendonsaの息子でもある。
2. Prabh Deep "Tabia"
軽刈田も2021年のTop10に選出したデリーのラッパーPrabh Deepの"Tabia"が2位にランクイン。
私からの評はもう十分に書いたのでここでは繰り返さないが、Rolling Stone Indiaは、この作品の多様に解釈できる文学性とストーリーテリングを高く評価しているようだ。
確かに彼のリリックは、英訳で読んでも文豪の詩のような、あるいは宗教的な預言のような深みと味わいがある。
そこに加えてこの声とサウンド(トラックもPrabh Deep自身が手掛けている)。
インドのヒップホップアーティストの中でもただひとり別次元にいる孤高の存在と呼んでいいだろう。
高く評価されないわけがない。
3. Shreyas Iyenagar "Tough Times"
プネー出身のマルチ・インストゥルメンタル・プレイヤーが、新型コロナウイルスのパンデミックにインスパイアされて制作したジャズ・アルバムが3位にランクイン。
こちらもサウンド面での2021年らしさがある作品ではないが、シングル部門で1位のソウルシンガーVasundhara Veeと同様に、インドには珍しい本格志向のサウンドを評価されたのだろう。
4. Tejas "Outlast"
ムンバイのシンガー・ソングライターTejasのダンスポップアルバム。
優れたポップチューンを作るかたわら、一昨年はコロナウイルスによる全土ロックアウトの期間に、前代未聞の「オンライン会議ミュージカル」を作るなど、アイデアと才能あふれるアーティストである。
今作は、ちょっと80年代っぽかったり、K-Popっぽかったりと、現代インドの音楽シーンのトレンドを押さえた作風になっていて、Tejas曰く昨年解散したDaft Punkの影響も受けているとのこと。
言われてみればたしかにそう感じられるサウンドだ。
5. Second Sight "Coral"
このムンバイ出身の5人組は、個人的に今回のランキングの中で最大のめっけもの。
その音楽性は、ジャズ、プログレ、フォーク、R&B、ラップ、サイケなどの多彩な要素を含んでいる。
全編にわたってハーモニーが美しく、プログレッシブ・ロック的な複雑さはあるが、とっつきにくさはなく、とにかくリラックスした音像の作品だ。
2018年にEP "The Violet Hour"でデビュー(当時は男女2人組だったようだ)した彼らのファーストアルバム。
意図的にインド的な要素は入れない主義のようだが、このユニークなサウンドはインドでも世界でも、もっと聴かれて良いはずだ。
6. Godless "State of Chaos"
70’s風ギターインスト、ヒップホップ、ジャズ、ダンスポップと来て、ここにゴリゴリのデスメタルが入ってくるのがこのランキングの面白いところ。
南インドのハイデラーバードとベンガルールを拠点にしているGodlessは、2016年のデビュー以来、メタルシーンでは高い評価を得ていたバンドだ。
サウンドは若干類型的な印象を受けるものの、演奏力は高いし、リフやアレンジのセンスも良いし、インドのメタルバンドのレベルの高さを改めて思い知らされる。
メンバーの名前を見る限り、メンバーにはヒンドゥーとムスリムが混在しているようで、世界のメタルバンドの情報サイトEncyclopaedia Metallumによると、歌詞のテーマは「死、反宗教、紛争、人間の精神」とのこと。
宗教大国インドで、異なる宗教を持つ家庭に生まれた若者たちが、Godlessという名前で一緒に反宗教を掲げてデスメタルを演奏しているところに、どこかユートピアめいたものを感じてしまうのは感傷的すぎるだろうか。
そういう見方を抜きにしても、インド産メタルバンドとして、Kryptos, Against Evil, Gutslit, Demonic Resurrectionらに次いで、海外でも評価される可能性のあるバンドだと言えるだろう。
7. Arogya "Genesis"
デスメタルの次にこのバンドが来るところがまた面白い!
インド北東部シッキム州ガントクで結成されたArogyaは、Dir En Greyやthe GazettEらのビジュアル系アーティストの影響を受けたバンドとして、すでに日本や世界でも(一部で)注目を集めていた。
彼らにアルバム"Genesis"については、例えばこのAsian Rock Risingのレビューですでに日本語で詳しく紹介されている。
これまでネパールやアッサム州グワハティを拠点に、ネパール語の歌詞で活動していたという彼らだが(シッキムあたりにはネパール系の住民も多いので、もともとネイティブ言語だったのだろう)、今作では英語詞を採用し、よりスケールの大きいサウンドに生まれ変わっている。
これまでも、アニメやコスプレや音楽など、インド(とくに北東部)におけるジャパニーズ・カルチャーの影響については紹介してきたが、彼らはインドに何組か存在する日本の影響を受けたバンドの中でも、とくに際立った存在と言える。
小さなライブハウスよりも、巨大なアリーナでこそ映えそうな彼らのバンドサウンドにふさわしい人気と評価を彼らが得られることを、願ってやまない。
(これまでに書いたインドにおける日本文化の記事をいくつかリンクしておきます。ナガランドのコスプレフェス、なぜかJ-Popと呼ばれている北東部ミゾラム州のバンドAvora Records、日本の音楽にやたら詳しいデリーのバンドKraken. どの記事もおすすめです)
8. Mali "Caution to the Wind"
ムンバイ在住のシンガーソングライターMaliが8位にランクインした。
美しいメロディーの英語ポップスを歌うことにかけては以前から高い評価を得ていた彼女のファーストアルバム。
女性シンガーソングライターのなかでは、Sanjeeta Bhattacharyaあたりと並んで、今後もシーンをリードし続ける存在になりそうだ。
アルバム収録曲の"Age of Limbo"のミュージックビデオは、コロナ禍がなければ日本で撮影する予定だったそうで、状況が落ち着いたらぜひ日本にも来てもらいたい。
9. Lifafa "Superpower 2020"
軽刈田による2021年Top10でも選出したLifafaが9位にランクインしている。
Lifafaはヴィンテージなポップスを演奏するデリーのバンドPeter Cat Recording Co.の中心人物Suryakant Sawhneyによるソロプロジェクト。
そのサウンドのユニークさだけでも十分に評価に値するが、Rolling Stone Indiaは、パスティーシュとウィットに富み、ときに政治的でもある彼の歌詞を高く評していて、Prabh Deep同様、彼についてもその歌詞の内容を詳しく読んでみたいところだ。
(LifafaおよびPeter Cat Recording Co.については、こちらの記事から)
10. Mocaine "The Birth of Billy Munro"
MocaineはデリーのロックアーティストAmrit Mohanによるプロジェクト。
この"The Birth of Billy Munro"は、Nick Cave and the Bad Seeds(80〜90年代にロンドンを拠点に活躍したロックバンド)のオーストラリア人シンガー、ニック・ケイヴによる小説"Death of Bunny Munro"にインスパイアされたコンセプトアルバムとのことで、もはやこの情報だけで面白い。
サウンド的には、ブルース、ハードロック、グランジ等のアメリカン・ロックの影響が強い作風となっている。
2022年には早くもBilly Munroシリーズの続編をリリースする予定とのこと。
というわけで、アルバム10選に関しても、このサブスク全盛、シングル重視の時代にあっても、ジャンルを問わず充実した作品が多くリリースされていたことが分かるだろう。
昨年の10選と比べても、インドの音楽シーンがますます成熟してきていることが一目瞭然。
2022年にはどんな作品に出会えるのか、ますます楽しみだ。
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これがまた想像をはるかに超えていて、我々が知るインドや今日の音楽シーンのイメージを覆す驚くべき作品が選ばれている!
(元記事はこちら)
それではさっそく紹介してみよう。
1. Blackstratblues "Hindsight2020"
Rolling Stone Indiaが選んだ2021年のベストアルバム第1位は、ジェフ・ベックやサンタナを彷彿させる70年代スタイルのロックギタリスト、Warren MendonsaによるBlackstratblues名義のインストゥルメンタル・アルバム"This Will Be My Year".
世界の音楽のトレンドとまったく関係なく、2021年にこのアルバムを選ぶセンスにはただただ吃驚。
彼は派手なテクニックで魅せるタイプのギタリストではなく、チョーキングのトーンコントロールや絶妙なタメで聴かせる通好みなアーティストで、発展著しいインドの音楽シーンのなかでも、なんというか、かなり地味な存在だ。
今作はちょっとスティーヴ・キモックとか、あのへんのジャムバンドっぽい感じもある。
Warrenはじつはこのランキングの常連で、2017年にも前作のアルバム"The Lost Analog Generation"が2位にランクインしている。(単に評者の好みかもしれないが)
このアルバムでは、日本文化からの影響を受けているエレクトロニック・ミュージシャンのKomorebiが2曲に参加している。
ちなみにWarrenはインド映画音楽界のビッグネームである3人組Shankar-Eshaan-Loyの一人、Loy Mendonsaの息子でもある。
2. Prabh Deep "Tabia"
軽刈田も2021年のTop10に選出したデリーのラッパーPrabh Deepの"Tabia"が2位にランクイン。
私からの評はもう十分に書いたのでここでは繰り返さないが、Rolling Stone Indiaは、この作品の多様に解釈できる文学性とストーリーテリングを高く評価しているようだ。
確かに彼のリリックは、英訳で読んでも文豪の詩のような、あるいは宗教的な預言のような深みと味わいがある。
そこに加えてこの声とサウンド(トラックもPrabh Deep自身が手掛けている)。
インドのヒップホップアーティストの中でもただひとり別次元にいる孤高の存在と呼んでいいだろう。
高く評価されないわけがない。
3. Shreyas Iyenagar "Tough Times"
プネー出身のマルチ・インストゥルメンタル・プレイヤーが、新型コロナウイルスのパンデミックにインスパイアされて制作したジャズ・アルバムが3位にランクイン。
こちらもサウンド面での2021年らしさがある作品ではないが、シングル部門で1位のソウルシンガーVasundhara Veeと同様に、インドには珍しい本格志向のサウンドを評価されたのだろう。
4. Tejas "Outlast"
ムンバイのシンガー・ソングライターTejasのダンスポップアルバム。
優れたポップチューンを作るかたわら、一昨年はコロナウイルスによる全土ロックアウトの期間に、前代未聞の「オンライン会議ミュージカル」を作るなど、アイデアと才能あふれるアーティストである。
今作は、ちょっと80年代っぽかったり、K-Popっぽかったりと、現代インドの音楽シーンのトレンドを押さえた作風になっていて、Tejas曰く昨年解散したDaft Punkの影響も受けているとのこと。
言われてみればたしかにそう感じられるサウンドだ。
5. Second Sight "Coral"
このムンバイ出身の5人組は、個人的に今回のランキングの中で最大のめっけもの。
その音楽性は、ジャズ、プログレ、フォーク、R&B、ラップ、サイケなどの多彩な要素を含んでいる。
全編にわたってハーモニーが美しく、プログレッシブ・ロック的な複雑さはあるが、とっつきにくさはなく、とにかくリラックスした音像の作品だ。
2018年にEP "The Violet Hour"でデビュー(当時は男女2人組だったようだ)した彼らのファーストアルバム。
意図的にインド的な要素は入れない主義のようだが、このユニークなサウンドはインドでも世界でも、もっと聴かれて良いはずだ。
6. Godless "State of Chaos"
70’s風ギターインスト、ヒップホップ、ジャズ、ダンスポップと来て、ここにゴリゴリのデスメタルが入ってくるのがこのランキングの面白いところ。
南インドのハイデラーバードとベンガルールを拠点にしているGodlessは、2016年のデビュー以来、メタルシーンでは高い評価を得ていたバンドだ。
サウンドは若干類型的な印象を受けるものの、演奏力は高いし、リフやアレンジのセンスも良いし、インドのメタルバンドのレベルの高さを改めて思い知らされる。
メンバーの名前を見る限り、メンバーにはヒンドゥーとムスリムが混在しているようで、世界のメタルバンドの情報サイトEncyclopaedia Metallumによると、歌詞のテーマは「死、反宗教、紛争、人間の精神」とのこと。
宗教大国インドで、異なる宗教を持つ家庭に生まれた若者たちが、Godlessという名前で一緒に反宗教を掲げてデスメタルを演奏しているところに、どこかユートピアめいたものを感じてしまうのは感傷的すぎるだろうか。
そういう見方を抜きにしても、インド産メタルバンドとして、Kryptos, Against Evil, Gutslit, Demonic Resurrectionらに次いで、海外でも評価される可能性のあるバンドだと言えるだろう。
7. Arogya "Genesis"
デスメタルの次にこのバンドが来るところがまた面白い!
インド北東部シッキム州ガントクで結成されたArogyaは、Dir En Greyやthe GazettEらのビジュアル系アーティストの影響を受けたバンドとして、すでに日本や世界でも(一部で)注目を集めていた。
彼らにアルバム"Genesis"については、例えばこのAsian Rock Risingのレビューですでに日本語で詳しく紹介されている。
これまでネパールやアッサム州グワハティを拠点に、ネパール語の歌詞で活動していたという彼らだが(シッキムあたりにはネパール系の住民も多いので、もともとネイティブ言語だったのだろう)、今作では英語詞を採用し、よりスケールの大きいサウンドに生まれ変わっている。
これまでも、アニメやコスプレや音楽など、インド(とくに北東部)におけるジャパニーズ・カルチャーの影響については紹介してきたが、彼らはインドに何組か存在する日本の影響を受けたバンドの中でも、とくに際立った存在と言える。
小さなライブハウスよりも、巨大なアリーナでこそ映えそうな彼らのバンドサウンドにふさわしい人気と評価を彼らが得られることを、願ってやまない。
(これまでに書いたインドにおける日本文化の記事をいくつかリンクしておきます。ナガランドのコスプレフェス、なぜかJ-Popと呼ばれている北東部ミゾラム州のバンドAvora Records、日本の音楽にやたら詳しいデリーのバンドKraken. どの記事もおすすめです)
8. Mali "Caution to the Wind"
ムンバイ在住のシンガーソングライターMaliが8位にランクインした。
美しいメロディーの英語ポップスを歌うことにかけては以前から高い評価を得ていた彼女のファーストアルバム。
女性シンガーソングライターのなかでは、Sanjeeta Bhattacharyaあたりと並んで、今後もシーンをリードし続ける存在になりそうだ。
アルバム収録曲の"Age of Limbo"のミュージックビデオは、コロナ禍がなければ日本で撮影する予定だったそうで、状況が落ち着いたらぜひ日本にも来てもらいたい。
9. Lifafa "Superpower 2020"
軽刈田による2021年Top10でも選出したLifafaが9位にランクインしている。
Lifafaはヴィンテージなポップスを演奏するデリーのバンドPeter Cat Recording Co.の中心人物Suryakant Sawhneyによるソロプロジェクト。
そのサウンドのユニークさだけでも十分に評価に値するが、Rolling Stone Indiaは、パスティーシュとウィットに富み、ときに政治的でもある彼の歌詞を高く評していて、Prabh Deep同様、彼についてもその歌詞の内容を詳しく読んでみたいところだ。
(LifafaおよびPeter Cat Recording Co.については、こちらの記事から)
10. Mocaine "The Birth of Billy Munro"
MocaineはデリーのロックアーティストAmrit Mohanによるプロジェクト。
この"The Birth of Billy Munro"は、Nick Cave and the Bad Seeds(80〜90年代にロンドンを拠点に活躍したロックバンド)のオーストラリア人シンガー、ニック・ケイヴによる小説"Death of Bunny Munro"にインスパイアされたコンセプトアルバムとのことで、もはやこの情報だけで面白い。
サウンド的には、ブルース、ハードロック、グランジ等のアメリカン・ロックの影響が強い作風となっている。
2022年には早くもBilly Munroシリーズの続編をリリースする予定とのこと。
というわけで、アルバム10選に関しても、このサブスク全盛、シングル重視の時代にあっても、ジャンルを問わず充実した作品が多くリリースされていたことが分かるだろう。
昨年の10選と比べても、インドの音楽シーンがますます成熟してきていることが一目瞭然。
2022年にはどんな作品に出会えるのか、ますます楽しみだ。
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2020年03月05日
インドのメタル系フェスの最高峰!Bangalore Open Air
たびたびこのブログでも書いている通り、インドでは多くの音楽フェスティバルが開催されている。
もともとお祭り好き、踊り好き、音楽好きの多い国民性に加えて、インターネットの発展にともなって多様なジャンルのリスナーが育ってきたこと、経済成長によって欧米の人気アーティストを招聘できるようになったこと、自国のインディーミュージシャンが増えてきたことなどが、インドのフェス文化隆盛の理由と言えるだろう。
これまでに紹介してきたNH7 WeekenderやZiro Festivalのように、さまざまなジャンルのアーティストが出演するフェスもあれば、大規模EDMフェスのSunburnや古城を舞台にしたMagnetic Fieldsのように、エレクトロニック系に特化したものもある。
さて、インドで根強い人気を誇っている音楽ジャンルとして、忘れてはならないのがヘヴィメタルだ。
ヘヴィメタルに熱狂するインド人を見たのは、この2007年のIron Maidenのバンガロール公演が最初だった。
彼らの全盛期だった80年代にはまったくロックが浸透していなかったにも関わらず、これだけたくさんのMaidenのファンがインドにいることに、ずいぶん驚いたものだった。
インドのメタルファンたちは、海外のバンドに熱狂するだけではない。
ムンバイやバンガロールのような大都市は言うに及ばず、キリスト教徒が多く、欧米の文化への親和性の高い南部ケーララ州やインド北東部にも、数多くのヘヴィメタルバンドが存在しているのだ。
その中には、GutslitやAmorphiaのように、小規模ながらも来日公演を行ったバンドもいるし、Demonic ResurrectionやAgainst Evilといったヨーロッパツアーを成功させているバンドもいる。
そんな知られざるヘヴィメタル大国であるインドには、当然メタル系のフェスも存在していて、その頂点に君臨しているフェスが、今回紹介するBangalore Open Air(BOA)なのである。
このBOAは2012年にドイツの大御所スラッシュメタルバンド、Kreatorをヘッドライナーに第1回が行われ、以降、毎年Iced Earth, Destruction, Napalm Death, Vader, Overkillといった海外のベテランバンドをヘッドライナーに、インドのバンドも多数参加して、大いに盛り上がっている。
これはDestructionがトリを務めた2014年のフェスの様子。
インドからも、シッキム州のハードロックバンドGirish and Chroniclesや、正統派メタルサウンドにスラッシュメタル風のヴォーカルが乗るKryptosらが参加。
ときにモッシュピットも巻き起こるほどに盛り上がっている。
昨年のBOAの様子を見ると、5年間で会場の規模もぐっと大きくなっているのがわかる。
さて、このフェスの'Open Air'という名称にピンと来たあなたは、結構なメタルヘッズですね。
そう、このBOAでは、ヘヴィメタルの本場のひとつ、ドイツで行われている超巨大メタルフェス、Wacken Open Air(通称ヴァッケン、またはW:O:A)に参加するための南アジアのバンドのコンテストであるWacken Metal Battleの南アジアの決勝戦も行われているのだ。
BOA開催に先駆けた2011年から、インドからは毎年W:O:Aにバンドを送り込んでいる。
というわけで、ここではこれまでW:O:Aに参加したインドのバンドたちを紹介してみたい。
(デスメタルばかりなので食傷気味になるかもしれない)
まずは2011年にW:O:Aにインドから初参加を果たしたバンガロールのデス/メタルコアバンド、Eccentric Pendulum.
彼らは2018年にもW:O:A参戦を果たしている。
2012年に参加したのはムンバイのスラッシュ/グルーヴメタルバンドZygnema.
1998年結成のバンガロールのベテランKryptosは、2013年と2017年にW:O:A参戦を果たしている。
2014年のW:O:AにはムンバイのシンフォニックデスメタルバンドDemonic Resurrecrtionと北東部メガラヤ州シロンのPlague Throatの2バンドがインドから参加している。
2015年には同じく北東部から紅茶で有名なダージリンのデスメタルバンドSycoraxが出演。
2018年にはハイデラバードのGodlessが、2019年にはニューデリー出身のパロディバンド的な要素もあるBloodywoodがW:O:Aに参戦している。
同じようなメタルバンドがたくさん出演するフェスだからだと思うが、やはり類型的なデスメタルやメタルコアよりも、インドの要素が入った個性的なバンドの方が受け入れられやすいようで、オーディエンスの反応はBloodywoodが群を抜いて盛り上がっている。
インド国内のメタルファンは、自国の代表として正統派のメタルバンドを推したいのかもしれないが、海外のオーディエンスからすると、いかにもインドらしいバンドのほうが個性的で魅力的に感じられるというミスマッチがあるようにも思えるが、どうだろう。
2020年のBangalore Open Airは3月21日に開催され、スウェーデンのブラックメタルバンドMardukがヘッドライナーを務めるようだ。
インドからはDown Troddenceが出演する。


BOAに先立って、19日にはWacken Metal Battleのインド地区の決勝が、そして20日にはインド亜大陸の決勝が行われる。
果たして今年はどんなバンドがW:O:Aへのチケットを手に入れるのだろうか。
インドでも新型コロナウイルスの感染者が出てきており、デリーではホーリーに合わせて行われるフェスが中止になったりしているが、インドではフェスシーズンの大詰め。
BOAをはじめとするフェスが無事に行われることを願っている。
関連記事:
インドらしいメタルサウンドといえば、シタール・メタルやPineapple ExpressあたりもW:O:Aに出演したら盛り上がると思うんだけど。
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もともとお祭り好き、踊り好き、音楽好きの多い国民性に加えて、インターネットの発展にともなって多様なジャンルのリスナーが育ってきたこと、経済成長によって欧米の人気アーティストを招聘できるようになったこと、自国のインディーミュージシャンが増えてきたことなどが、インドのフェス文化隆盛の理由と言えるだろう。
これまでに紹介してきたNH7 WeekenderやZiro Festivalのように、さまざまなジャンルのアーティストが出演するフェスもあれば、大規模EDMフェスのSunburnや古城を舞台にしたMagnetic Fieldsのように、エレクトロニック系に特化したものもある。
さて、インドで根強い人気を誇っている音楽ジャンルとして、忘れてはならないのがヘヴィメタルだ。
ヘヴィメタルに熱狂するインド人を見たのは、この2007年のIron Maidenのバンガロール公演が最初だった。
彼らの全盛期だった80年代にはまったくロックが浸透していなかったにも関わらず、これだけたくさんのMaidenのファンがインドにいることに、ずいぶん驚いたものだった。
インドのメタルファンたちは、海外のバンドに熱狂するだけではない。
ムンバイやバンガロールのような大都市は言うに及ばず、キリスト教徒が多く、欧米の文化への親和性の高い南部ケーララ州やインド北東部にも、数多くのヘヴィメタルバンドが存在しているのだ。
(詳しくは、このカテゴリーで紹介している)
その中には、GutslitやAmorphiaのように、小規模ながらも来日公演を行ったバンドもいるし、Demonic ResurrectionやAgainst Evilといったヨーロッパツアーを成功させているバンドもいる。
そんな知られざるヘヴィメタル大国であるインドには、当然メタル系のフェスも存在していて、その頂点に君臨しているフェスが、今回紹介するBangalore Open Air(BOA)なのである。
このBOAは2012年にドイツの大御所スラッシュメタルバンド、Kreatorをヘッドライナーに第1回が行われ、以降、毎年Iced Earth, Destruction, Napalm Death, Vader, Overkillといった海外のベテランバンドをヘッドライナーに、インドのバンドも多数参加して、大いに盛り上がっている。
これはDestructionがトリを務めた2014年のフェスの様子。
インドからも、シッキム州のハードロックバンドGirish and Chroniclesや、正統派メタルサウンドにスラッシュメタル風のヴォーカルが乗るKryptosらが参加。
ときにモッシュピットも巻き起こるほどに盛り上がっている。
昨年のBOAの様子を見ると、5年間で会場の規模もぐっと大きくなっているのがわかる。
さて、このフェスの'Open Air'という名称にピンと来たあなたは、結構なメタルヘッズですね。
そう、このBOAでは、ヘヴィメタルの本場のひとつ、ドイツで行われている超巨大メタルフェス、Wacken Open Air(通称ヴァッケン、またはW:O:A)に参加するための南アジアのバンドのコンテストであるWacken Metal Battleの南アジアの決勝戦も行われているのだ。
BOA開催に先駆けた2011年から、インドからは毎年W:O:Aにバンドを送り込んでいる。
というわけで、ここではこれまでW:O:Aに参加したインドのバンドたちを紹介してみたい。
(デスメタルばかりなので食傷気味になるかもしれない)
まずは2011年にW:O:Aにインドから初参加を果たしたバンガロールのデス/メタルコアバンド、Eccentric Pendulum.
彼らは2018年にもW:O:A参戦を果たしている。
2012年に参加したのはムンバイのスラッシュ/グルーヴメタルバンドZygnema.
1998年結成のバンガロールのベテランKryptosは、2013年と2017年にW:O:A参戦を果たしている。
2014年のW:O:AにはムンバイのシンフォニックデスメタルバンドDemonic Resurrecrtionと北東部メガラヤ州シロンのPlague Throatの2バンドがインドから参加している。
2015年には同じく北東部から紅茶で有名なダージリンのデスメタルバンドSycoraxが出演。
2018年にはハイデラバードのGodlessが、2019年にはニューデリー出身のパロディバンド的な要素もあるBloodywoodがW:O:Aに参戦している。
同じようなメタルバンドがたくさん出演するフェスだからだと思うが、やはり類型的なデスメタルやメタルコアよりも、インドの要素が入った個性的なバンドの方が受け入れられやすいようで、オーディエンスの反応はBloodywoodが群を抜いて盛り上がっている。
インド国内のメタルファンは、自国の代表として正統派のメタルバンドを推したいのかもしれないが、海外のオーディエンスからすると、いかにもインドらしいバンドのほうが個性的で魅力的に感じられるというミスマッチがあるようにも思えるが、どうだろう。
2020年のBangalore Open Airは3月21日に開催され、スウェーデンのブラックメタルバンドMardukがヘッドライナーを務めるようだ。
インドからはDown Troddenceが出演する。


BOAに先立って、19日にはWacken Metal Battleのインド地区の決勝が、そして20日にはインド亜大陸の決勝が行われる。
果たして今年はどんなバンドがW:O:Aへのチケットを手に入れるのだろうか。
インドでも新型コロナウイルスの感染者が出てきており、デリーではホーリーに合わせて行われるフェスが中止になったりしているが、インドではフェスシーズンの大詰め。
BOAをはじめとするフェスが無事に行われることを願っている。
関連記事:
インドらしいメタルサウンドといえば、シタール・メタルやPineapple ExpressあたりもW:O:Aに出演したら盛り上がると思うんだけど。
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2019年08月04日
世界に進出するインドのメタルバンド!
前回の記事で、ケーララ州のスラッシュメタルバンドAmorphiaの日本ツアーの話題をお届けした。
7月5日付の'Rolling Stone India'電子版の記事によると、今年(2019年)はインドのメタルバンドが今までになく国際的に大活躍している年だそうで、9月までに9つのバンドの海外ツアーが行われるという。
2月のAmorphiaの日本ツアーに続いて、3〜4月には、ムンバイのメタルバンドZygnemaが東欧からフランスまでヨーロッパ9か国、16都市を巡るツアーを敢行した。
Zygnemaは2006年に結成されたスラッシュ/グルーヴメタルバンドで、これまでにもドイツ(メタル系の巨大フェスティバルWacken Open Airへの出演)やノルウェー、タイ、ドバイなどへのツアー経験がある。
2013年のWackenでのライブ映像
セパルトゥラやパンテラといった大御所バンドを思わせるサウンドで、メタルの本場のオーディエンスを盛り上げている。
新曲の"I Am Nothing"は女性への性暴力を告発した内容。
社会派バンドとしての側面もある。
ところでこのZygnemaというバンド名、重々しくていかにもメタルバンドらしい響きだけど、どんな意味だろうと思って調べてみたら、「ホシミドロ」っていう藻みたいな植物の名前だった。
藻っていうのはどうなんだろうね、メタルのバンド名として。
ムンバイのスラッシュメタルバンド、Systemhouse 33は、イスラエルのバンドOrphaned Landと西ヨーロッパ7か国20都市を4月にツアーした。
彼らもまた2003年に結成された老舗バンドで、ボーカリストのSamron Jodeは、以前このブログでも紹介したシタールをフィーチャーしたエレクトロニックメタルバンドParatraのギタリストとしても昨年秋にヨーロッパツアーをしたばかり。
Systemhouse 33はピュアなメタルバンドだが、Paratraではかなりダンスミュージック寄りの全く異なるアプローチを聴かせている。
(参考記事:「混ぜるな危険!(ヘヴィーメタルとインド古典音楽を) インドで生まれた新ジャンル、シタール・メタルとは一体何なのか」)
昨年来日した黒ターバンのベーシストGurdip Singh Narangが率いるムンバイのブルータルデスメタルバンドGutslitは、アメリカのベテランバンドDying Fetusのサポート公演を含むドイツや東欧を中心としたツアーを7月に行ったばかり。
王道のデスメタルサウンドを演奏しつつも、見た目に分かりやすいインド人の要素もある(メタルだけにターバンの色は必ず黒!)彼らは、ビジュアル戦略にも非常に長けたバンドだ。
彼らは典型的なメタルバンドの枠に収まらないかなりユニークなセンスを持っていて、例えば彼らの新しいビジュアルイメージは、ピンク色を基調にしたメルヘンチックなテイストの、ツノがチェーンソーになったかわいらしくも残酷なユニコーンのイラストだ。

デザインしたのはドラマーのAaron Pinto.
かつてこのバンドのスタイリッシュなカートゥーン調のミュージックビデオを手がけたこともある、稀有なセンスの持ち主である。
バンガロールで1998年に結成されたベテランバンドKryptosは、7月にいくつかの野外フェスティバルへの出演を含めたドイツツアーを実施。
彼らも2013年と2017年にWacken Open Airに出演したことがある。
彼らのサウンドは、1980年代を彷彿させるのオールドスクールなメタルサウンドに、デス/スラッシュメタル的なヴォーカルが乗ったもの。
こちらは今年発売のアルバム。
意図的にB級感を狙ったこのアルバムジャケットは彼らのサウンドにぴったりで、彼らもなかなかのビジュアルセンスを持っているようだ。
南インドの伝統音楽とメタルを融合したプログレッシブ・カルナーティック・フュージョンを掲げるProject Mishramは、7月にイギリス公演を行ったばかり。
彼らはツインギターにフルートとバイオリン奏者を含むバンガロール出身の7人組バンドだ。
ラップメタル的に始まる楽曲だが、古典声楽風のボーカルが入ってくると空気感が一変して、一気にインドの大地に連れて行かれてしまう。
変拍子や複雑なキメの多いインド古典音楽は、プログレッシブ・メタルとの親和性が高く、彼らの他にもParadigm Shift, Agam, Pineapple Expressらがフュージョン・メタルの世界で活躍している。
ボリウッドをもじったバンド名のBloodywoodsはWacken Open Airでの公演を含むツアーを7月〜8月にかけて実施。
ドイツ、イギリス、フランス、ロシアを巡るこのツアータイトルは、その名もRaj Against The Machine.
言うまでもなく、これは90年代から活躍するアメリカの政治的ラップメタルバンドRage Against The Machineのパロディーだ。
これはインドのフォーク(民謡)メタルを標榜する彼らが、春の訪れとともに色粉をぶっかけあうお祭り「ホーリー」をテーマにした楽曲。
当初はインドの要素を取り入れたパロディ/コミックバンド的なイメージで活動していたが、思いのほか本格的なサウンドが評価されてしまい(日本でもすでにいくつかのブログやメディアで紹介されている)、最近ではメンタルヘルスをテーマにしたシリアスな楽曲も発表している。
インド南東部アーンドラ・プラデーシュ州の港町Visakhapatnam出身の正統派パワーメタルバンドAgainst Evilは、ドイツのDoc Gator Recordsと契約し、8月にドイツ、オーストリア、ベルギー、スイスを巡るツアーを実施する。
このツアーは、おもにドイツのメタルファンによるクラウドファンディングによって実現することになったもので、国境を超えたメタルコミュニティーのサポート力を感じさせられる。
お隣テランガナ州の州都ハイデラバードのデスメタルバンドGodlessは9月にドイツのバンドDivideとともにヨーロッパ8カ国を回るツアーを実施。
彼らも昨年、Wacken Open Airへの出演を果たしている。
と、2019年はこれだけのヘヴィーメタルバンドが海外に飛躍する年になった。
記事にも書いたように、インドのメタルバンドの海外進出は急に始まったものではなく、これまでもフェスティバルへの出演などを含めたヨーロッパツアーはいくつものバンドが行なっている。
2008年にはすでにRolling Stone India紙でインドのメタルシーンの興隆についての特集記事が掲載されており、インドでのヘヴィーメタルブームは一過性のものではなく、完全に定着していると言えるだろう。
世界的には「知られざるメタル大国」だったインドのバンドの実力に、徐々に世界中が気づいて来ているのだ。
今回同誌に紹介されていた以外にも、これまでに海外ツアーを実施したバンドは複数おり、ムンバイのシンフォニック・デスメタルバンド、Demonic Resurrectionは、2014年にWacken, 2018年にイギリスのBloodstock Festivalに出演しており、今年も8月から9月にかけてイギリスツアーを行うなど積極的に海外で活動している。
世界最大級のメタル系フェスティバルであるドイツのWacken Open Airに出演したインドのバンドは多く、バンガロールのEc{c}entric Pendulumや北東部メガラヤ州のPlague Throat(ともにデスメタル)もそれぞれ2011年と2014年に同フェスへの参加を果たしている。
また、インド系アメリカ人を含むSkyharborは、昨年、Babymetalのサポートに起用され、アメリカをともにツアーした。
フェスティバルのヘッドライナーを務めるような大物バンドはまだインドから出て来ていないが、どのバンドも演奏能力が高く、各ジャンルの特徴を余すところなく表現できている。
インドのメタルバンドのポテンシャルは想像以上に高いということがお分かりいただけるだろう
以前、映画『ガリーボーイ』をきっかけに、ストリートのラッパーたちがメジャーシーンでも注目されるようになり、インドのヒップホップシーンが大いに活性化してきていることを紹介した。
これまで夢や希望が持てなかったスラムに暮らす若者たちが、ヒップホップを通して名を挙げ、スターになることすらできる時代がやってきたのだ。
前回も書いたように、ヘヴィーメタルはヒップホップに比べて、言語よりもサウンドが重視されるため、優れた楽曲と演奏能力さえあれば、インド国内のみならず海外での評価もされやすいジャンルだ。
スラム出身でも、ラッパーとして評価されればインドのスターになれるように、ヘヴィーメタルバンドとして評価されれば、国籍に関係なく世界をツアーできる時代がやってきた。
新たにバンドを結成するインドの若者たちにとっても、これは嬉しいニュースだろう。
インドのヘヴィーメタルの勢いは、まだまだ続きそうだ。
凡平自選の2018年度のおすすめ記事はこちらからどうぞ!
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7月5日付の'Rolling Stone India'電子版の記事によると、今年(2019年)はインドのメタルバンドが今までになく国際的に大活躍している年だそうで、9月までに9つのバンドの海外ツアーが行われるという。
2月のAmorphiaの日本ツアーに続いて、3〜4月には、ムンバイのメタルバンドZygnemaが東欧からフランスまでヨーロッパ9か国、16都市を巡るツアーを敢行した。
Zygnemaは2006年に結成されたスラッシュ/グルーヴメタルバンドで、これまでにもドイツ(メタル系の巨大フェスティバルWacken Open Airへの出演)やノルウェー、タイ、ドバイなどへのツアー経験がある。
2013年のWackenでのライブ映像
セパルトゥラやパンテラといった大御所バンドを思わせるサウンドで、メタルの本場のオーディエンスを盛り上げている。
新曲の"I Am Nothing"は女性への性暴力を告発した内容。
社会派バンドとしての側面もある。
ところでこのZygnemaというバンド名、重々しくていかにもメタルバンドらしい響きだけど、どんな意味だろうと思って調べてみたら、「ホシミドロ」っていう藻みたいな植物の名前だった。
藻っていうのはどうなんだろうね、メタルのバンド名として。
ムンバイのスラッシュメタルバンド、Systemhouse 33は、イスラエルのバンドOrphaned Landと西ヨーロッパ7か国20都市を4月にツアーした。
彼らもまた2003年に結成された老舗バンドで、ボーカリストのSamron Jodeは、以前このブログでも紹介したシタールをフィーチャーしたエレクトロニックメタルバンドParatraのギタリストとしても昨年秋にヨーロッパツアーをしたばかり。
Systemhouse 33はピュアなメタルバンドだが、Paratraではかなりダンスミュージック寄りの全く異なるアプローチを聴かせている。
(参考記事:「混ぜるな危険!(ヘヴィーメタルとインド古典音楽を) インドで生まれた新ジャンル、シタール・メタルとは一体何なのか」)
昨年来日した黒ターバンのベーシストGurdip Singh Narangが率いるムンバイのブルータルデスメタルバンドGutslitは、アメリカのベテランバンドDying Fetusのサポート公演を含むドイツや東欧を中心としたツアーを7月に行ったばかり。
王道のデスメタルサウンドを演奏しつつも、見た目に分かりやすいインド人の要素もある(メタルだけにターバンの色は必ず黒!)彼らは、ビジュアル戦略にも非常に長けたバンドだ。
彼らは典型的なメタルバンドの枠に収まらないかなりユニークなセンスを持っていて、例えば彼らの新しいビジュアルイメージは、ピンク色を基調にしたメルヘンチックなテイストの、ツノがチェーンソーになったかわいらしくも残酷なユニコーンのイラストだ。

デザインしたのはドラマーのAaron Pinto.
かつてこのバンドのスタイリッシュなカートゥーン調のミュージックビデオを手がけたこともある、稀有なセンスの持ち主である。
バンガロールで1998年に結成されたベテランバンドKryptosは、7月にいくつかの野外フェスティバルへの出演を含めたドイツツアーを実施。
彼らも2013年と2017年にWacken Open Airに出演したことがある。
彼らのサウンドは、1980年代を彷彿させるのオールドスクールなメタルサウンドに、デス/スラッシュメタル的なヴォーカルが乗ったもの。
こちらは今年発売のアルバム。
意図的にB級感を狙ったこのアルバムジャケットは彼らのサウンドにぴったりで、彼らもなかなかのビジュアルセンスを持っているようだ。
南インドの伝統音楽とメタルを融合したプログレッシブ・カルナーティック・フュージョンを掲げるProject Mishramは、7月にイギリス公演を行ったばかり。
彼らはツインギターにフルートとバイオリン奏者を含むバンガロール出身の7人組バンドだ。
ラップメタル的に始まる楽曲だが、古典声楽風のボーカルが入ってくると空気感が一変して、一気にインドの大地に連れて行かれてしまう。
変拍子や複雑なキメの多いインド古典音楽は、プログレッシブ・メタルとの親和性が高く、彼らの他にもParadigm Shift, Agam, Pineapple Expressらがフュージョン・メタルの世界で活躍している。
ボリウッドをもじったバンド名のBloodywoodsはWacken Open Airでの公演を含むツアーを7月〜8月にかけて実施。
ドイツ、イギリス、フランス、ロシアを巡るこのツアータイトルは、その名もRaj Against The Machine.
言うまでもなく、これは90年代から活躍するアメリカの政治的ラップメタルバンドRage Against The Machineのパロディーだ。
これはインドのフォーク(民謡)メタルを標榜する彼らが、春の訪れとともに色粉をぶっかけあうお祭り「ホーリー」をテーマにした楽曲。
当初はインドの要素を取り入れたパロディ/コミックバンド的なイメージで活動していたが、思いのほか本格的なサウンドが評価されてしまい(日本でもすでにいくつかのブログやメディアで紹介されている)、最近ではメンタルヘルスをテーマにしたシリアスな楽曲も発表している。
インド南東部アーンドラ・プラデーシュ州の港町Visakhapatnam出身の正統派パワーメタルバンドAgainst Evilは、ドイツのDoc Gator Recordsと契約し、8月にドイツ、オーストリア、ベルギー、スイスを巡るツアーを実施する。
このツアーは、おもにドイツのメタルファンによるクラウドファンディングによって実現することになったもので、国境を超えたメタルコミュニティーのサポート力を感じさせられる。
お隣テランガナ州の州都ハイデラバードのデスメタルバンドGodlessは9月にドイツのバンドDivideとともにヨーロッパ8カ国を回るツアーを実施。
彼らも昨年、Wacken Open Airへの出演を果たしている。
と、2019年はこれだけのヘヴィーメタルバンドが海外に飛躍する年になった。
記事にも書いたように、インドのメタルバンドの海外進出は急に始まったものではなく、これまでもフェスティバルへの出演などを含めたヨーロッパツアーはいくつものバンドが行なっている。
2008年にはすでにRolling Stone India紙でインドのメタルシーンの興隆についての特集記事が掲載されており、インドでのヘヴィーメタルブームは一過性のものではなく、完全に定着していると言えるだろう。
世界的には「知られざるメタル大国」だったインドのバンドの実力に、徐々に世界中が気づいて来ているのだ。
今回同誌に紹介されていた以外にも、これまでに海外ツアーを実施したバンドは複数おり、ムンバイのシンフォニック・デスメタルバンド、Demonic Resurrectionは、2014年にWacken, 2018年にイギリスのBloodstock Festivalに出演しており、今年も8月から9月にかけてイギリスツアーを行うなど積極的に海外で活動している。
世界最大級のメタル系フェスティバルであるドイツのWacken Open Airに出演したインドのバンドは多く、バンガロールのEc{c}entric Pendulumや北東部メガラヤ州のPlague Throat(ともにデスメタル)もそれぞれ2011年と2014年に同フェスへの参加を果たしている。
また、インド系アメリカ人を含むSkyharborは、昨年、Babymetalのサポートに起用され、アメリカをともにツアーした。
フェスティバルのヘッドライナーを務めるような大物バンドはまだインドから出て来ていないが、どのバンドも演奏能力が高く、各ジャンルの特徴を余すところなく表現できている。
インドのメタルバンドのポテンシャルは想像以上に高いということがお分かりいただけるだろう
以前、映画『ガリーボーイ』をきっかけに、ストリートのラッパーたちがメジャーシーンでも注目されるようになり、インドのヒップホップシーンが大いに活性化してきていることを紹介した。
これまで夢や希望が持てなかったスラムに暮らす若者たちが、ヒップホップを通して名を挙げ、スターになることすらできる時代がやってきたのだ。
前回も書いたように、ヘヴィーメタルはヒップホップに比べて、言語よりもサウンドが重視されるため、優れた楽曲と演奏能力さえあれば、インド国内のみならず海外での評価もされやすいジャンルだ。
スラム出身でも、ラッパーとして評価されればインドのスターになれるように、ヘヴィーメタルバンドとして評価されれば、国籍に関係なく世界をツアーできる時代がやってきた。
新たにバンドを結成するインドの若者たちにとっても、これは嬉しいニュースだろう。
インドのヘヴィーメタルの勢いは、まだまだ続きそうだ。
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「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」
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