FottySeven

2024年02月11日

やっぱりバングラーラップ! Diljit Dosanjh, Karan Aujla他人気アーティスト特集



Sidhu Moose Walaの死からもうすぐ2年が経つ。
すでに何度も書いているのでここでは繰り返さないが、Sidhuはバングラーラップにリアルなギャングスタのアティテュードと本格的なヒップホップのビートを持ち込み、そして最期は対立するギャングの凶弾に倒れるという、まるで2Pacを地で行く生き様(そして死に様)を残した。




念のためあらためて触れておくと、バングラーはインド北西部の穀倉地帯パンジャーブ地方の音楽であり、コブシの効いた独特の歌い回しを特徴とする音楽だ。
パンジャーブは海外への移住者が多い地域であるという歴史的経緯もあり、バングラーは早くからラップと融合し、海外のディアスポラを含めた北インド系ポピュラー音楽シーンで高い人気を誇ってきた。
シーンに革命をもたらしたSidhuの死後も、バングラーラップシーンはさまざまな才能あふれるアーティストによって発展が続いている。
ここ日本では全く注目されることのないバングラーラップだが、パンジャーブ系移民の多いイギリスやカナダやオーストラリアではかなり高い人気を持っている。

例えば現在のシーンの第一人者Diljit Dosanjhは海外でアリーナクラスの会場をソールドアウトにして、コーチェラ・フェスティバルにも呼ばれるほどの集客と知名度を誇る。
まあ観客のほとんどは南アジア系だろうが、それにしてもこれだけ人気のあるジャンルが日本で全く知られていないのはもったいない。

Diljitが昨年リリースしたアルバム"Ghost"は現代バングラーの魅力がたっぷりつまっている。
同郷パンジャーブ出身のラッパー(バングタースタイルでない)Sultaanを起用した"Lalkaara"は、ビートのセンスやバングラー部分のコード/ベースの解釈など、随所に新世代のセンスを感じることができる。

Diljit Dosanjh "Lalkaara"



"Chandelier"や"Alive"などのヒット曲で知られるオーストラリアのシンガーSiaを起用した"Hass Hass"はぐっとポップな曲調。単調になりがちなバングラーだが、このスタイルの多様性こそが彼の魅力のひとつだ。

Diljit Dosanjh "Hass Hass" (Diljit X Sia)



かなりトラディショナルなビートを使っている曲もある。
ドール(両面太鼓)とトゥンビ(シンプルな高音フレーズを奏でる弦楽器)による典型的なバングラーのリズムだが、ヘヴィーなベースの入れ方に今っぽさを感じる"Case".

Diljith Dosanjh "Case"


パンジャービー・シクの美学が炸裂したミュージックビデオも最高。


近年バングラーラップに見られる特徴のひとつが、バングラー部分のフロウというかリズムの取り方に、かなりヒップホップ的なタメが効いたものになってきたということ。
以前紹介したShubh同様にヒップホップ的なフロウを聴かせてくれるのが、Karan Aujlaのこの曲。


Karan Aujla "Softly"


スーパーカーを前に踊る美女たちが、露出の多い格好でなくパンジャービー・ドレス姿なのが逆に小粋だ。
もちろんパンジャーブ生まれ(1997年生)のKaran Aujlaは、カナダに移住したのち、ソングライターとしてキャリアをスタートさせ、2018年の"Don't Worry"で注目を集めた。
数多くのシングルをリリースしたのち、2021年にリリースしたアルバム"Bacthafucup"はカナダやニュージーランドでもチャートに入っている。
彼は生前のSidhu Moose Walaとはビーフ関係にあって、お互いに曲を通じて攻撃し合っていたが(Sidhuの死には無関係)、Sidhuの死後に追悼曲"Maa"をリリースし、リスペクトの気持ちを表明した。
面白いのは、彼自身ソングライターでありながらも、ソロ作品には他のソングライターを起用していることで、この"Softly"はIkkyというアーティストの作品。
オランダの超有名DJ、Tiëstoによるリミックスも人気を集めている。

IkkyプロデュースによるKaran Aujlaの曲をもう少し紹介してみよう。

Karan Aujla "Try Me"


「車好き」はパンジャービー音楽のミュージックビデオの大きな特徴の一つで、ヒップホップとの親和性を感じさせる部分だが、街中で高級車を乗り回すのではなくサーキットが舞台というのは珍しい。
ていうかアルファロメオのF1チームが協力してるのってすごくない?

Karan Aujka "52 Bars"


Karan Aujlaのうしろでピアノを弾いているのがIkky.
こういうヒップホップっぽいビートのバングラーのフロウは、ダンスホールレゲエのフロウみたいに味わうと楽しめる。
もっと普通にいろんな音楽にフィーチャーされてもいいのになあと思うのだが、ネックになるのはやはり言語がパンジャービー語だということ(英語じゃない)だろうか。


カナダ出身のIkkyはパンジャービー音楽を刷新し続けている才能の一人で、SidhuやDiljit Dosanjh, Shubhなど、パンジャービーの大物の楽曲はプロデュース軒並みプロデュースした経験を持つ。 
作風はルーツの要素を取り入れながらもヒップホップからポップまで幅広く、例えばエレクトロなビートにタブラのサウンドを導入したこの曲なんて相当かっこいいと思うのだけど。

Ikky "Ishk Hua(Love happened)"



前述のShubhはあいかわらずビートもミュージックビデオもタイトルも見事にヒップホップマナー。
逆にここまでヒップホップに寄せても歌い方とターバンはかたくなにパンジャービー・シクというところにルーツへの誇りを感じさせられる。

Shubh "Hood Anthem"


気になるのは、彼の現在の活動拠点はカナダのはずだが、フッド(地元)アンセムと言っているのにロケ地がカリフォルニア(LA?)っぽいこと。
彼のヒップホップ部分のスタイルがウェストコーストに影響を受けているからだろうか。

バングラー的ヒップホップという観点からはDef Jam IndiaからリリースされたラッパーFotty Sevenの曲も要注目だ。
この曲はビートがバングラー風でラップがヒップホップ風という、Shubhとは逆の方法論が面白い。

Fotty Seven "OK Report"



デリー郊外の新興都市グルガオン出身の彼は、KR$NAやBadshahらデリーのラッパーとの共演も多く、なぜか「荒城の月」をサンプリングしたこの曲も印象に残っている。

Fotty Seven Feat. Badshah "Boht Tej"



こちらの曲は、デリーのパンジャービーラップらしいエンタメ路線の演出も面白い。

Fotty Seven "Banjo"



ところで、インドでは大正琴がバンジョーとかブルブル・タラング(Bulbul Tarang)という名前で古典音楽にも使われているが、この曲のタイトルの"Banjo"も大正琴のことっぽい。
途中Fotty Sevenの後ろに大正琴を持った2人の男が出てくるが、おそらく海外のラップのミュージックビデオに大正琴が取り入れられた最初の例だろう。
曲のテーマは「人生で実質的な成果を何も達成していないにもかかわらず、自分が誰よりも優れていると考える高飛車な男」とのこと。
そういえば、さっきの曲でサンプリングされていた「荒城の月」も大正琴だったのかもしれない。


冒頭で触れたSidhu Moose Walaは、今でも未発表の音源がリリースされ続けている。

Sidhu Moose Wala, Mxrci, AR Paisley "Drippy"


あらためて聴くと、彼の天まで突き抜けてゆくようなヴォーカルはやはりバングラーシンガー/ラッパーの中でも唯一無二だったなあと感じさせられる。
最後に銃声の演出が入っているが、死すらもエンタメにするギャングスタラップ的な感覚はこの手のバングラーラップならではだ。

ちょっと驚いたのは、Sidhuの曲は、以前は英語のコメント(もしくは、ヒンディー語でもアルファベット表記)が多かったのが、久しぶりに見たらデーヴァナーガリー文字のヒンディー語やグルムキー文字のパンジャービー語ばかりになっていたということ。
さすがに死後2年近く経っても聴いているのはガチなローカル勢ばかりになってきたのだろうか。

トップコメントのヒンディー語をグーグル翻訳で英訳してみたところ、
Brother, after you left we forgot to be happy, but whenever your song comes, it becomes a festival for us. May God continue your progress.
「ブラザー、あなたがいなくなってから幸せになることを忘れてたけど、いつでもあなたの曲がリリースされると俺たちはフェスティバルみたいに感じるんだ。神があなたの進歩を続けてくれますように」
とのこと。
ファンの愛の深さにちょっと感動してしまった。

バングラーラップがヒップホップやエレクトロニックと融合してからずいぶん経つが、それでもこのジャンルはいまだに進化し続けている。
今後、どんな刺激的なサウンドが生まれてくるのか非常に楽しみだ。
日本でももうちょっと聴かれるようになるといいんだけどなあ。





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goshimasayama18 at 13:07|PermalinkComments(0)