DishaReddy

2022年11月03日

インド製カントリーポップの世界! (インドは日本の100倍くらいアメリカだった)



前回の記事
で書いた通り、インドではラテン系ポップスがポピュラー音楽としてそれなりに受容されている。
その理由として、インド人の国民性とラテンのノリが共鳴しあっているのではないか、というこれといった根拠のない説を唱えてみたのだが、冷静に考えると、そんな理屈をこねる必要は全くなく、インドでラテン系ポップが人気なのは、単純にインドの音楽シーンが日本の100倍くらいアメリカのシーンの影響を直接的に受けているからだろう。
要は、インドのミュージシャンは、アメリカで売れている音楽ジャンルを模倣する傾向が日本よりもずっと強い、ということである。

ご存知のように、インドでは英語が「準公用語」的な位置付けをされており、いわゆる「ネイティブ」並みに英語を喋れる人が結構いる。
都市圏を中心に英語で教育を行う学校も多く、インドの人口の10%は流暢に英語が話せるそうである。
10%というと少なく感じるかもしれないが、人口を考えればインドの英語話者数は日本の総人口を上回るということになるし、また都市部ではその割合は大幅に高くなるはずだ。

インドで使われている英語は、その歴史的経緯からイギリス式のものだが、音楽シーンに関して言えば、昨今ののヒップホップ人気からもわかる通り、アメリカの影響のほうが強そうだ。

それをとくに強く感じるのが、インドには、日本にはほとんど見られない、カントリーミュージックの影響を受けたポップシンガーが結構いる、という事実である。
さまざまな社会に翻案可能なヒップホップや、人種や国籍に関係なく盛り上がることができるダンスミュージックではなくて、カントリーという非常にアメリカンな音楽をやっているミュージシャンが、文化的背景の全く異なるインドにも結構存在しているのだ。

インド人カントリーミュージシャンに関しては、以前Bobby Cashというアーティストの音楽を「ビリヤニ・ウエスタン」と名づけて紹介したことがあるが、今回は、彼のようなオールドスクール・スタイルではなく、もっとポップな、テイラー・スウィフトとかシャナイア・トゥエインみたいなタイプのシンガーたちを取り上げてみたい。
 


ちょっとハスキーなヴォーカルが心地よい。HuyanaことVarshita Rameshは、チェンナイ出身のシンガー・ソングライター。

Huyana "Nothing Wrong in Not Being Okay"


この曲はパンデミック下でも比較的自由だったゴアに滞在していたときのことを歌ったものとのこと。
彼女の他の曲はチルなエレクトロニック・ポップだったりするので、けっしてカントリーにこだわったアーティストではないようだが、こじゃれた音楽としてこのジャンルが選ばれるということに、むしろインドでのカントリーの定着を感じる。


次に紹介するベンガルール出身のシンガーDisha Reddyはなんとまだ16歳!

Disha Reddy "Rudy"


途中からリズムと共に入ってくるバンジョー(マンドリン?)が心地よい。
まだこの曲しかリリースしていない新人アーティストだが、今後もカントリー路線で行くのか、それとも全然違うスタイルに変わっててしまうのか、気になるところではある。


北インド、ラクナウ出身のVineet Singhは、ハーヴァード・ビジネススクール出身のエリートで、インドの都市部(デリー、ムンバイ、ベンガルール等)で放送されているラジオ局Radio Oneの共同設立者/元CEOでもあるという異色の富豪シンガーだ。

Vineet Singh "City Roads"


このVineet Singhにしろ、先ほどのDisha Reddyの"Rudy"にしろ、YouTubeをチェックしてみると、明確に「カントリーの新曲です」と紹介しているのが面白い。
日本のポップシンガーが、カントリーっぽいアレンジの曲をリリースしたときに「新曲はカントリーです」って言うことはまずないと思う。
日本だと、失礼ながらカントリーやブルースは、「一部の好事家のおっさんたちがやっているジャンル」というイメージがあるが、インドではそうでなく、オシャレな舶来音楽のひとつなのだろう。


デリー近郊のグルガオン出身のAashnaは、アメリカのバークリー音楽大学出身の音楽エリート。
YouTubeの紹介欄を見る限り、ポップ、ロック、R&B、フォーク、カントリー、ジャズの影響を受けているそうなので、要は、非エレクトロニック系の音楽を志しているということなのかもしれない。

Aashna "Wasted"


女性たちがどんどん殻を破っていくミュージックビデオが面白いが、海外が舞台になっているのは、インドでは女性の逸脱が受け入れられにくいからだろうか。
最初に紹介したHuyanaみたいな、「タトゥー入ってますが何か?」みたいな(インドにしては)超ラディカルな女性もまれにいるが、インドでは男子問わず大多数の人はまあそれなりに保守的に生きているわけで、インドの音楽を聴くうえで、アーティストがどの層に合わせた表現を取っているのかに注目するのもなかなか面白い。


例によってインドにおけるカントリーミュージックの受容は全国にわたっており、このAaryan Banthiaはコルカタ出身のシンガー。(ただし、現在の活動拠点はムンバイとのこと)

Aaryan Banthia "Hey Betty"


ミュージックビデオもカントリーっぽい世界観で作られていて、女優さんも少し白人っぽく見える人が選ばれているところに芸の細かさを感じる。


もうちょっと本格的なところでは、デリーのWinston Balmanが挙げられる。

Winston Balman and the Prophets of Rock "Sense of it All"


彼の英語っぽい名前が芸名なのか、クリスチャンであるためなのかは不明(インドでもキリスト教徒は英語やポルトガル語の名前を付けられることが多い)。


今回紹介したアーティストたちの動画再生回数は、数百回から数十万回。
インドの人口規模を考えれば、けっして「インドでカントリーが人気!」と言える数字ではないが、それでもポピュラーミュージックの表現方法としてカントリー的手法を選ぶアーティストがこれだけいるというのは、なかなか面白い事実だ。

ちなみにインドにはブルース系のアーティストも結構たくさんいる。




今回は、インドのインディペンデント音楽シーンというニッチなテーマのなかでも、さらにニッチなジャンルについて書いてしまったが、何が言いたいのかというと、インドの音楽シーンはそれだけ多様化して面白くなってきているということだ。
ラテンにしろカントリーにしろ、多様に分かれたインドの音楽シーンの枝葉の先端部分が、これからどんなふうに進化・発展してゆくのか、ますます楽しみである。






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goshimasayama18 at 15:34|PermalinkComments(0)