BluAttic

2022年12月27日

2022年度版 軽刈田 凡平's インドのインディー音楽top10

このブログを書き始めてあっという間に5年の月日が流れた。
始めた頃、どうせ読んでくれる人は数えるほどだろうから、せめて印象に残る名前にしよう思って「かるかった・ぼんべい」と名乗ってみたのだが、どういうわけかまあまあ上手く行ってしまい、この5年の間に雑誌に寄稿させてもらったり、ラジオで喋らせてもらったり、あろうことか本職の研究者の方々の集まりに呼んでいただいたりと、想像以上に注目してもらうことができた。
みなさん本当にありがとうございます。
こんなことになるなら、もうちょっとちゃんとした名前を付けておけばよかった。

「飽きたらやめればいいや」という始めた頃のいい加減な気持ちは今もまったく変わらないものの、幸いにもインドの音楽シーンは面白くなる一方で、まったくやめられそうにない。
これからも自分が面白いと思ったものを自分なりに書いていきますんで、よろしくお願いします。
というわけで、今年も去りゆく1年を振り返りつつ、今年のインドのインディー音楽界で印象に残った作品や出来事を、10個選ばせてもらいました。



Bloodywood (フジロック・フェスティバル出演)

日本におけるインド音楽の分野での今年最大のトピックは、フジロックフェスティバルでのBloodywoodの来日公演だろう。
朝イチという決して恵まれていない出演順だったにもかかわらず、彼らは一瞬でフジロックのオーディエンスを虜にした。
映像では彼らの熱烈なファンが大勢詰めかけているように見えるが、おそらく観客のほとんどは、それまでBloodywoodの音楽を一度も聴いたことがなかったはずだ。
現地にいた人の話によると、ステージが始まった頃にはまばらだった観客が、彼らの演奏でみるみるうちに膨らんでいったという。
これはメタル系のオーディエンスが決して多くはないフジロックでは極めて異例のことだ。
Bloodywoodは一瞬だが日本のTwitterのトレンドの1位にまでなり、おかげで私のブログで彼らを紹介した記事も、ずいぶん読んでもらえた。
(もうちょっとちゃんと書いとけばよかった)

メタル・ミーツ・バングラーという、意外だけど激しくてキャッチーでチャーミングなスタイルは、日本のリスナーに音楽版『バーフバリ』みたいなインパクトを与えたものと思う。
日本だけではない。
BloodywoodのSNSを見ると、彼らがメタル系のフェスを中心に、その後も世界各地を荒らし続けている様子が見てとれる。
一方で、いまやセンスの良いインド系アーティストがいくらでもいる中で、ステレオタイプ的な見せ方を意図的に行った彼らが最も注目を集めているという事実は、現時点での世界の音楽シーンの中での南アジアのアーティストの限界点を示しているとも言えるだろう。


Sidhu Moose Wala 死去

去年まで、この年末のランキングはその年にリリースされた作品のみを対象としてきたのだが、今年はシーンに大きなインパクトを与えた「出来事」も入れることとした。
その大きな理由となったのが、あまりにも衝撃的だった5月のSidhu Moose Wala射殺事件だ。
バングラーラップにリアルなギャングスタ的要素を導入し、絶大な人気を誇っていたSidhuは、演出ではなく実際にギャングと関わるリアルすぎるギャングスタ・ラッパーだった。
彼はインドとカナダを股にかけて暗躍するパンジャーブ系ギャングの抗争に巻き込まれ、28歳の若さでその命を落とした。
音楽的には、バングラーに本格的なヒップホップビートを導入したスタイルでパンジャービー・ラップシーンをリードした第一人者でもあった。
彼の音楽、死、そして生き様は、今後もインドの音楽シーンで永遠に語りつがれてゆくだろう。
彼が憧れて続けていた2Pacのように。





Prateek Kuhad "The Way That Lovers Do"(アルバム)

インド随一のメロディーメイカー、Prateek Kuhadがアメリカの名門レーベルElektraからリリースした全編英語のアルバム(EP?)、"The Way That Lovers Do"は、派手さこそないものの、全編叙情的なムードに満ちた素晴らしいアルバムだった。


彼が敬愛するというエリオット・スミスを彷彿させる今作は、インドのシンガーソングライターの実力を見せつけるに十分だった。
彼のメロディーセンスの良さは群を抜いており、贔屓目で見るつもりはないが、このままだと彼が作品をリリースするたびに、毎年このTop10に選ぶことになってしまうんじゃないかと思うと悩ましい。
リリース後にヨーロッパやアメリカ各地を回るツアーを行うなど、インドのアーティストにしてはグローバルな活躍をしているPrateekだが、観客はインド系の移住者が中心のようで、彼がその才能に見合った評価を受けているとはまだまだ言えない。
要は、私はそれだけ彼に期待しているのだ。

すでに何度も紹介しているが、彼のヒンディー語の楽曲も、言語の壁を超えて素晴らしいことを書き添えておく。




MC STAN "Insaan"(アルバム)他

このアルバムが出たのはもうずいぶん昔のことのように思えるが、リリースは今年の2月だった。
もともとマンブルラップ的なスタイルだったMC STΔNだが、この作品ではオートチューンをこれでもかと言うほど導入して、インドにおけるエモラップのあり方を完成させた。
マチズモ的な傾向が強いインドのヒップホップシーンでは異色の作品だ。
彼の他にも同様のスタイルを取り入れていたラッパーはいたが、彼ほどサマになっていたのは一人もいなかった。
「弱々しいほどに痩せたカッコイイ不良」という、インドでは不可能とも思われたアンチヒーロー像を確立させたというだけでも、彼の功績はシーンに名を残すにふさわしい。
最近では、リアリティーショー番組のBigg Bossに出演するなど、活躍の場をますます広げている。
今インドでもっとも勢いのあるラッパーである。



Emiway Bantai "8 Saal"(アルバム)他


インドでもっとも勢いのあるラッパーがMC STΔNだとしたら、人気と実力の面でインドNo.1ラッパーと呼べるのがEmiway Bantaiだろう。
今年も彼はアルバム"8 Saal"をはじめとする数多くの楽曲をリリースした。
アグレッシブなディス・トラック(今年もデリーのKR$NAとのビーフは継続中)、ルーツ回帰のストリート・ラップ、チャラいパーティーソング、lo-fiなど、Emiwayはヒップホップのあらゆるスタイルに取り組んでいて、それが全てサマになっている。
かと思えば、インドのヒップホップ史を振り返って、各地のラッパーたちをたたえるツイートをしてみたりもしていて、Emiwayはもはやかつての誰彼構わず噛み付くバッドボーイのイメージを完全に脱却して、大御所の風格すら漂わせている。
『ガリーボーイ』にチョイ役(若手の有望株という位置付け)でカメオ出演していたのがほんの4年前とは思えない化けっぷりだ。
もはや彼は『ガリーボーイ』のモデルとなったNaezyとDIVINEを、人気でも実力でも完全に凌駕した。




Seedhe Maut, Sez on the Beat "Nayaab"(アルバム)

昨年も選出したSeedhe Mautを今年も入れるかどうか悩んだのだが、インドNo.1ビートメーカーのSe on the Beatと組んだこのアルバムを、やはり選ばずにはいられなかった。

セルフプロデュースによる昨年の『न』(Na)が、ラッパーとしてのリズム面での卓越性を見せつけた作品だとしたら、今作は音響面を含めた叙情的なアプローチを評価すべき作品だ。
Seedhe Mautというよりも、Sezの力量をこそ評価すべき作品かもしれない。
インドのヒップホップをサウンドの面で革新し続けているのは、間違いなくSezとPrabh Deep(後述の理由により今年は選外)だろう。
インドのヒップホップは、2022年もひたすら豊作だった。


Yashraj "Takiya Kalaam"(EP)


悩みに悩んだこのTop10に、またラッパーを選んでしまった。
ここまでに選出したSidhu Moose Wala, MC STΔN、Emiway Bantai, Seedhe Maut&Sezに関しては、インドのヒップホップファンにとってもまず納得のセレクトだと思うが、この作品に関しては、インド国内でどのような評価及びセールスなのか今ひとつわからない。
YouTubeの再生回数でいうと、他のラッパーたちの楽曲が数百万から数千万回なのに比べて、この"Doob Raha"はたったの45,000回に満たない(2022年12月16日現在)。

だが、過去のUSヒップホップの遺産を存分に引用したインド的ブーンバップのひとつの到達点とも言えるこの作品を、無視するわけにはいかなかった。
自分の世代的なものもあるのかもしれないが、単純に彼のラップもサウンドも、ものすごく好きだ。
若干22歳の彼がこのサウンドを堂々と作り上げたことに、インドのヒップホップシーンの成熟を改めて実感した。


Parekh & Singh "The Night is Clear"(アルバム)


インドのインディーポップシーンでも群を抜くセンスの良さを誇るParekh & Singhのニューアルバムは、その格の違いを見せつけるに足るものだった。
イギリスの名門インディーレーベルPeacdfrogに所属し、日本では高橋幸宏からプッシュされている彼らは、もはや「インドのアーティスト」というくくりで考えるべき段階を超えているのかもしれない。
Prateek KuhadやEasy Wanderlingsら、多士済々のインディーポップ勢のなかで、国際的な評価では頭ひとつ抜けている彼らが今後どんな活躍を見せるのか、ますます目が離せなくなりそうだ。



Blu Attic


ド派手なEDMが多いインドの電子音楽シーンの中で、Blu Atticが示した硬質なテクノと古典声楽との融合は、Ritvizらによるインド的EDM(いわゆる印DM)とも違う、懐かしくて新鮮な方法論だった。
どちらかというと地味な音楽性だからか、このデリー出身の若手アーティストへの注目は、インド国内では必ずしも高くはないようだが、だからこそ当ブログではきちんと評価してゆきたい。
彼がYouTubeで公開している古いボリウッド曲のリミックスもなかなかセンスが良い。
インドのアーティストは、古典音楽と現代音楽を、躊躇なく融合してかっこいい音を作るのが得意だが、Blu Atticによってそのことをあらためて思い知らされた。




Dohnraj 


インドのインディー音楽シーンが急速に盛り上がりを見せたのは2010年台以降になってからだが、それはすなわち、あらゆる年代のポピュラー音楽を、インターネットを通して自在に聴くことができる時代になってからシーンが発展したことを意味している。
まだ若いシーンにもかかわらず、インドにはさまざまな時代の音楽スタイルで活動するアーティストが存在しているが、このDohnrajは80年代のUKロックのサウンドをほぼ忠実に再現している、驚くべきスタイルのアーティストだ。
気になる点は彼のオリジナリティだが、あらゆる音楽が先人の遺産の上に築かれていることを考えれば、インドで80年代のUKサウンドを再現するという試み自体が、むしろ非常にオリジナルな表現方法でもあるように思う。
彼の音楽遍歴(以下の記事リンク参照)を含めてグッとくるものがあった。
インドのシーンの拡大と深化をあらためて感じさせてくれる作品だった。





というわけで、今年の10作品を選出してみました。

気がつけばヒップホップが5作品(というか、5話題)。
ヒップホップを中心に選ぶつもりはなかったのだけど、インドのヒップホップは今年も名作揃いで、他にもPrabh Deepの"Bhram"(これまでの作風から大きく変わったわけではないので今年は選出しなかった)や、Karan KanchanがRed Bull 64 Barsで見せた仕事っぷりも素晴らしかった。

やはりインドのシーンのもっともクリエイティブな部分はヒップホップにこそあるような気がしてならないが、とんでもなく広く、才能にあふれたインドのシーンのこと、来年の今頃は、「やっぱりロックだ」とか「エレクトロニックだ」とか言っているかもしれない。

今年はありがたいことに、仕事のご依頼をいただくことも多く、本業(?)のブログが滞り気味なことが多かったですが、来年もこれまで同様続けて参ります。

今後ともよろしくです。




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goshimasayama18 at 00:09|PermalinkComments(0)

2022年10月08日

サイケデリックだけじゃない! ーインド古典音楽meets電子音楽ー  さらに広がる印DMの世界



最近つくづく思っていることがある。
それは、「インド音楽って、何にでも合う」ってことなんである。

「何言ってんの、あらゆる料理にマサラを入れたほうが美味しくなるって思ってるインド人じゃあるまいし」と言われそうだが、実際、合うものは合うのだからしょうがない。
話すと長くなるので、興味のある人はリンクを辿っていただきたいが、インドの古典音楽/伝統音楽は、ロックヒップホップジャズメタルと、あらゆるジャンルと融合することが可能な魔法の音楽なのである。


ロックや電子音楽の世界では、インド音楽(含むマントラ等の宗教的な詠唱)は、古くからサイケデリックやスピリチュアルを表現する記号的な役割を担ってきた。
ビートルズのジョージ・ハリスンみたいなそれなりのリスペクト込みのやつもあれば、雰囲気だけの文化の盗用みたいなやつもあったと思う。
1990年台以降になると、古典音楽/伝統音楽はTalvin SinghやKarsh Kaleといった在外インド人アーティストによってドラムンベースなどのクラブミュージックと融合し、新たな方向性を獲得した。
'Buddha Bar'をはじめとするアンビエント系のコンピレーション盤で、インドの古典楽器が入ったエスニックなサウンドがもてはやされていたのもこの頃だ。



近年では、Ritvizらによってインド的かつEDMポップ的なスタイルが定着し、新たな潮流が生まれている。
インド系アーティストによるインド的かつオリジナルな電子音楽を、私は勝手に印DMと名づけ、地道に布教活動を続けてきた。
(ラジオでも話したことがあるが、残念なことにファン層が広がっている気配は全くない…)
 


まあとにかく、「インド音楽+電子音楽」という組み合わせは、かつてはトランスやアンビエント、最近ではインド的EDMポップという方向性が定番だったのだけど、ここに来て、オーセンティックなテクノ・サウンドと古典声楽を融合している面白いアーティストを見つけてしまった。
そんで、それがまた非常にかっこよかったので、今回改めて紹介する次第なんである。

彼の名前はBlu Attic.
まずは、北インドの古典であるヒンドゥスターニー音楽の声楽とテクノを融合したこの曲を聴いてみてほしい。

Blu Attic "Jhanak Jhanak"


ぐねぐね曲がったトランスのサウンドならともかく、直線的なテクノと古典音楽は合わないんじゃないかと思っていたが、この素晴らしい融合っぷりに脱帽!
電子音楽は全く詳しくないのだが、あまり硬質な音を使わずに、柔らかめの音でまとめているところがポイントだろうか。
男声ヴォーカルを起用したこの曲も非常にかっこいい。

Blu Attic "Mil Jaa Na"


古典声楽のうねるような旋律やたたみかけるような歌い回しが、エレクトロニック・ビートと絡み合って高揚感を増幅させているのが見事!

Blu AtticことAniket Jainは、デリー出身のアーティストで、インターネット上に楽曲を発表し始めたのは2021年からとごく最近のようだ。
苗字を見る限り、彼は厳格な菜食主義で知られるジャイナ教徒の可能性がある。
派手さを抑えて、着実なビートでグルーヴで作るそのスタイルは、インドの宗教のなかでもとりわけ禁欲的な彼の信仰から来ているのだろうか(といったようなステレオタイプなイメージを結びつけて書くのは本当はあまり好きではないのだが、彼については書ける情報がほとんどないので、つい書いてしまった)。

オリジナルの楽曲もさることながら、古いボリウッドの曲のリミックスがまたびっくりするくらい素晴らしい。

Lata Mangeshkar "Aa Jane Jaa"(Blu Attic Remix)


原曲は"Aa Jane Jaan"(最後にnが入る)というタイトルで、生涯で50,000曲もの楽曲をレコーディングしたと言われる伝説的プレイバックシンガーLata Mangeshkarが1969年のヒンディー語映画"Intaqam"で歌った曲。

Asha Bhosle "Jab Andhera Hota Hai"


こちらの原曲は1973年のボリウッド映画"Raja Rani"からの楽曲で、歌っているAsha BhosleはさきほどのLata Mangeshkarの妹。

Blu AtticはまだサブスクやYouTubeでの再生回数も少ない知る人ぞ知るアーティストだが、この個性はもっと評価されてほしいところ。
それにしても、50〜60年前のヒット曲をなんのためらいもなくテクノにアレンジしてしまうという発想と、それをかっこよく仕上げるセンスには恐れ入る。

調べてみると、彼の他にもインド音楽と電子音楽の面白い融合しているアーティストはいて、
例えばこのTech Panda & Kenzaniという二人組。
彼らもニューデリー出身のアーティストで、Tech Pandaのほうは幼少期はタブラを習っていたと言うから、古典音楽/伝統音楽と電子音楽の両方が染み付いているのだろう。
このChidiyaはバーンスリー(横笛)と声楽をテクノ/EDM的なサウンドと融合させている。

Tech Panda & Kenzani "Chidiya"


バーンスリーの幻想的な音色がエレクトロニックなビートに独特の浮遊感を加えているのが素晴らしい。
アンダーグラウンドな存在ではあるが、かなりの人気があるようで、この"Khoyo"はYouTubeで100万回以上再生されている。

Tech Panda & Kenzani "Khoyo"



タール砂漠が広がるラージャスターンの映像が美しいが、ラージャスターンといえばこんなコラボレーションもある。
インドでは珍しいハウスDJのHamza Rahimtulaも伝統音楽と電子音楽の融合に取り組んでいて、このDJセットではラージャスターンの伝統楽器と共演している。

Hamza Rahimtula + Rajasthan Folkstars



ラージャスターン音楽とエレクトロニック・ビートの融合という意味では、近日中にまた面白い楽曲を紹介予定なので、ぜひ聴き比べてみてほしい。


ここまで紹介してきた音楽は、電子音楽のアーティストが古典音楽を融合した例だが、例えばこんなふうに古典声楽の歌手がドラムンベースっぽいビートを導入していたりもするので、やっぱりインドは一筋縄ではいかない。

Vagyakaar "Naadan Jiyara"




彼らが等しく追求しているのは、電気的に作られた音であろうと、人間の喉や楽器が発する音であろうと、いかに心を高揚させ、別世界に誘ってくれるかということだろう。
音楽をついジャンルに分けて考えてしまいがちな日本の我々にとっては、彼らのオープンマインドすぎる姿勢はすごく刺激になるなあ、と自戒の念を込めながら思っている。

インド系クラブミュージックはかっこいいやつがたくさんあるのでぜひまた紹介したい。


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