AndreaTariang
2022年09月09日
いまひとつインド国内で人気のない今風かつ欧米風のポップス・アーティストたち
そんなに意識しているわけではないのだけど、考えてみるとこのブログで取り上げる音楽にはだいたい3パターンくらいあって、
- インドのインディペンデント・シーンで人気があるアーティスト
- いかにもインドらしいサウンドや社会的背景のあるアーティスト
- インドらしからぬ欧米的なサウンドや感性を持ったアーティスト
取り上げる対象がこの分類のどれかひとつにしか当てはまらないケースは少なくて、ほとんどの場合、この3つがユニークな形で組み合わさっている。
とくに記事にしやすいのが1と2の混合タイプで、人気があるアーティストであれば、媒体で取り上げられる回数も多いのでネタを集めやすいし、そこにインドならではの要素が入っていればさらに紹介する価値がある、というわけだ。
ヒップホップにしろロックにしろ電子音楽にしろ、欧米で生まれたカルチャーがインドでどう需要・解釈され、実践されているかというテーマは、インドのアーティストが奏でているサウンドと同じくらい刺激的で面白い。
で、問題は3だ。
最近のインドでは、洗練された欧米風ポップスを奏でるインディーズ・アーティストは本当に多い。
ブログを始めた2017年頃はいちいち「インドにもこんなアーティストがいた!」と記事にしていたものだが、今ではそのあまりの多さに、感動のハードルが大幅に上がってしまっている。
その結果、ブログのネタ帳には、ひたすら3のタイプのアーティストが溜まっていってしまうのである。
インドのリスナーはいまだに映画音楽をはじめとするドメスティックなサウンドを好む傾向が強い。
こうしたアーティストのほとんどが、ごく一部の音楽ファンに評価されるのみで、成功とは程遠い状況にいる。
つまり、彼らは音楽的にはなかなか質が高いのだけど、音以外、記事にするようなネタがほとんどないのだ。
今回は、そんな不憫な、しかしサウンド面ではけっこういい線行ってるアーティストたちをまとめて紹介したい。
まずは、EDMアーティストのShivam Bhatia.
Shivam Bhatia "God In Our Eyes"
今となっては古典的にすら感じられるポップ系EDMサウンドに乗せて、ものすごく直接的にドラッグのことを歌った曲。
歌っているのはSarah Solsticeなる白人女性シンガーで、おそらくはインターネットを介したコラボレーションと思われるが、インド国内のソングライターと欧米のシンガーの共演は、最近ちょくちょく見かける組み合わせだ。
この曲はYouTubeで12万回近く再生されている。
Shivam Bhatiaについて調べてみると、他にSpotifyで90万回以上再生されている曲もあるので、彼のことを無名アーティスト扱いするのはちょっと失礼かもしれないが、このサウンドの無個性さが一層の泡沫感(≒バブルガム・ポップ感)を掻き立てる。
印DM(勝手に命名したインド風EDM)っぽい路線に転向したりすると面白いと思うが、さて、今後どうなるだろう。
Chrmng, x milo, "DOSHTI"
続いての人たちも詳細不明。
Chrming,(カンマまでがアーティスト名)という人とmilo.という人(こちらもたぶんピリオドまでがアーティスト名)のコラボレーションで、全く情報がないのだけど、見た目的におそらくインド北東部の人だろうか。
Chrming,のインスタのアカウント名にバングラデシュの国旗があったので、バングラデシュのアーティストかもしれない。
インドのウェブメディアで国内アーティストと並んで紹介されていたので、おそらくはインドか、少なくとも南アジアとは関連がある人のはずだが、映像監督は韓国の人のようで、よく分からない。
8月27日に公開されたこのミュージックビデオの再生回数はまだ1,000回未満。
YouTubeのクレジットを見ると、撮影監督はエド・シーランで、主演女優はエマ・ワトソンとのこと。
ふざけてんのか。
サウンド的にはアコースティックギターを取り入れたメロウなポップスで、これまたどこかで聴いたことがありそうなスタイルだ。
ここまで無個性な音楽をやってるのだから、せめて誰がやってるのかくらいはっきりさせようぜ、と思わなくもないが、ヴェイパーウェイヴみたいな匿名的なコンセプチュアル・アートなのか。
謎が多い。
次のアーティストは正体がはっきりしている。
ハイデラバードの女性シンガー、PeekayことPranati Khannaが、ムンバイを拠点に活動しているAndrea Tariangと共演したこの"Sunshine On The Street"は、ソウルフルなヴォーカルが印象的なポップソング。
Peekay & Andrea Tariang "Sunshine On The Street"
昼下がりのカフェやFMラジオに映えそうなさわやかな音楽。
今年2月に発表されたこの曲の再生回数は7万回くらいとそれなりだが、インドの人口の多さを考えると、ヒット曲と呼ぶにはちょっと無理がある。
ちなみにAndrea Tariangは、メガラヤ州出身のベテラン・ブルースロック・バンドSoulmateのギタリストの娘だそう。
Unluv "Tera Jadoo"
メロウかつダンサブルな音楽を奏でるUnluvは、やはり情報が少ないアーティストで、インドを拠点に活動しているが、もしかしたらネパール系?のようでもある。
(彼の場合もインスタグラムにネパール国旗と「今はインドを拠点に活動」の記述があった)
この洋楽っぽい音楽性でヒンディー語詞というのは珍しい(部分的に英語)。
公開5ヶ月でYouTubeの再生回数は19,000回ほど。
インドでは英語詞の曲に比べてヒンディーなど現地語の曲のほうが人気が高い傾向があるが、それを考えるともっと評価されても良い曲なのだが。
最後に紹介するのはロック。
ムンバイ在住、弱冠20歳のDev Makes Musicが演奏するのは、ひねくれてないティーン向けっぽい、極めてポップなロックだ。
Dev Makes Music "Concert Tickets"
ところで、冒頭のシーンで左腕の内側に見えるのは、リストカットの跡?タトゥー?
曲を聞く限りは爽快でポップなロックで、ダークな要素はどこにも見当たらないのだけど。
ふと思い出したのが、以前同様の趣旨で書いた記事で取り上げたAnimeshのことで、彼の"Pressure on It"のジャケット(というか今ではサムネイルというべきか)にもリストカットをした腕が描かれていた。
一時停止して見ると、Devの場合はタトゥーでもリストカットでもなさそうで、なんだかよく分からない。
というわけで、やっぱり全体的によく分からない記事になってしまった。
今回書いた彼らの場合、そもそも人気アーティストではないので、インド国内で紹介されている記事なども見当たらず、SNSでの発信がインスタの画像ばっかりだったりすると、ほとんど書ける内容がないのだ。
率直に言って、今回紹介したアーティストたちの音楽は、ポップミュージックとしてのクオリティこそそれなりに高いものの、オリジナリティには欠けているとしか言いようがない。
知名度もそんなになさそうだし、セールスの面で楽観できるアーティストは一人もいないだろう。
だが、それでも、というか、だからこそ、欧米ポップス的目線で見るとバブルガムでコマーシャルな音楽を、彼らは本気で愛して演奏しているに違いない。
今回は全体的にちょっとナメた感じで書いてしまったが、彼らがもうちょっとたくさんの人に聴かれて「けっこういいじゃん」くらいの評価を得てもいいように思う。
実際、けっこういいと思うし。
また折を見てこのタイプのミュージシャンについても書いてみたい。
なにしろたくさんいるから。
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goshimasayama18 at 18:10|Permalink│Comments(0)