映像

2018年06月17日

心地よい憂鬱と叙情…。 Asterix Major

いつもインパクトを出すためにブログのタイトルに「!」を入れるようにしているのだけど、今回はビックリマーク無し。代わりに「…」を入れてみた。
なんたって憂鬱と叙情だからね…。

さて、このブログでは、これまでいろいろなタイプのインドの音楽を紹介してきた。
かっこいい音楽。面白い音楽。いかにもインドらしい音楽。インド社会の知られざる側面がよくわかる音楽。などなど。
今回紹介するのは、何ていったらいいんだろう。
インドとか日本とか、そういう限定的な枠を超えて、すごく、じんとくる音楽だ。 

デリーのシンガーソングライター、Asterix Majorの新曲、"Falling Up".
これまでにこのブログで紹介したことがない、ギターの弾き語り中心の穏やかな曲。
決してポップでキャッチーなわけでもない。
でも静かだが、力強く、重く、深いメッセージが伝わってくる曲だ。
ぜひ、歌詞や映像と一緒に味わってみてほしい一曲です。

モノクロ中心の 美しい映像は、インドのことを映しているはずなのに、曲調や歌詞とあいまって、遠く離れた場所に住んでいる我々の胸にも迫ってくる。

美しい映像の中に映される、信じられないほどの格差。路上で暮らす人たち。
豊かな生活と引き換えの環境汚染。農作物への大量の化学薬品の使用。
様々な形での暴力に晒される子供や女性など社会的の弱者。
我々はこうした問題がインド固有のものではなく、日本でも、世界中のあらゆるところでも起きているということを知っている。
また、途上国で起きている深刻な問題が、先進国が主導する世界的な経済システムの中で引き起こされたものだということも知っている。

物質的にも経済的にも発展してきたはずなのに、社会の歪みは大きくなるばかり。
こんなことををこの先ずっと続けていくことができるのだろうか。
でも誰もが、世の中の不安や矛盾から目を背けて、日々を生きている。
この、とてもやっかいで、でもとても大事な真実を、この曲は非常に美しい方法で表現している。

この"Falling Up"について彼は、断罪しているのではなく、ただ我々が暮らしている社会のあり方を描写しているんだと語っている。
こうした超越者的な視点のせいだろうか。
この曲には、絶望というよりも、諦観にも似たやさしさを感じる不思議な味わいがある。
個人的には、この曲が持つ「やさしい虚無感 」みたいな感覚とフォーク的な曲調に、先ごろ亡くなった森田童子を思い出したりもした。

彼の他の楽曲も、また同じように独特の情感をたたえており、美しい映像で綴られている。
エレクトロニカ系のアーティスト、NYNとのコラボレーション、"Desire"

フォーキーな"Falling Up"とはうって変わって、EDM的なトラックに乗せてラップ的な歌唱も披露している。

こちらはもう少しアンビエント寄りな、7 bucksとの曲、"Someday"

彼の音楽の叙情性がより活きた曲調だ。
クオリティーの高い映像は、デリーのShunya Picturesというところが製作しているもの。
Shunyaって日本人の名前みたいにも聴こえるけど、何なんだろう?

このAsterix Majorは、Facebookのプロフィールによると、専業ミュージシャンというわけではなく、現在デリーのマルチ・スズキ(日本のスズキがインドで立ち上げた合弁企業で、インドを含む南アジア全域で高いシェアを誇る)でインターンシップをしているそうだ。

彼の非凡な才能が今後どのような楽曲を生み出すのか、非常に楽しみなミュージシャンである。

最後に、この曲は「人生」についての曲。
多少拙い部分はあるけど、この胸を抉られるような感覚はどこから来るんだろうなあ。
 

goshimasayama18 at 17:56|PermalinkComments(0)