ラージャスタン
2021年09月11日
あらためて、インドのヒップホップの話 (その4 コルカタ、北東部、その他北インド編)
インドのヒップホップを地域別に紹介するこの企画、今回はコルカタとインド北東部、さらにその他北インドのラッパーを特集!
今回紹介する各地域の所在地はこちらの地図でチェック!

(出典:https://en.wikipedia.org/wiki/File:India_-_administrative_map.png)
地域のくくり方が急に雑になったな… 、と思った方もいるかもしれないが、これまでちょくちょく書いてきたエリアが多いので、まとめて紹介させてもらいます。
コルカタをはじめとするベンガルのアーティストに関しては、昨年から何度も特集しているので、こちらから過去の特集記事をどうぞ。
コルカタを代表するラッパーといえばCizzy.
Cizzy "Middle Class Panchali"
お聴きの通り、非常にセンスの良い出来なのだが、インドでは他地域に話者がほとんどいないベンガル語でラップしているせいか、彼は全国的には無名な存在だ。
コルカタのヒップホップシーンは、ほとんどのラッパーがベンガル語でラップしているがゆえに、ヒンディー語でラップするムンバイやデリーのラッパーのような注目を集めることが少ないのである。
ところが、ここに来てCizzyがインド全体を意識したような英語の楽曲をリリース。
はたして、Cizzyは全国的な成功を手にすることができるのだろうか?
Cizzy "Good Morning, India"
ところで、コルカタが位置する州の名前はウエスト・ベンガル州。
じゃあ東ベンガルはどこにあるのかというと、それはバングラデシュという別の国。
19世紀末、インドを支配していたイギリスは、民族運動がさかんだったベンガル地方を効率的に統治するため、宗教間の対立感情を巧みに利用して、この地域をヒンドゥー教徒が多い西ベンガルとムスリムが多い東ベンガルに分断した。
結果として、ベンガル地方東部はヒンドゥー教がマジョリティを占める世俗国家となったインドと袂を分かち、はるか遠くインドの西に位置するパキスタンの一部として独立することを選んだ。
しかしながら、地理的にも離れているうえに、文化的にも言語的にも差異の大きい東西パキスタンはさまざまな折り合いがつかず、東パキスタンは独立運動の末、1971年にバングラデシュとして再独立を果たすことになった。
というわけで、隣国にはなるが、コルカタと同じベンガル語を話すバングラデシュのラッパーを特集した記事はこちら。
同じベンガル語圏でも、文学的かつ詩的な香りのただようコルカタとは異なり、バングラデシュのラッパーはより政治的かつ社会的な主張をリリックに盛り込んでいるという印象。
東西ベンガルのラップの傾向の違いが、それぞれの国の歴史や政治や文化の違いによるものなのか、はたまた宗教の違いによるものかは分からないが、なかなか興味深いところではある。
首都デリーとコルカタを結ぶ線上には、タージマハールがあるアーグラー、男女交歓像で知られるカジュラーホー、ガンジス河の聖地ヴァーラーナシー、ブッダが悟りを開いたブッダガヤー(ボードガヤー)といった有名な観光地が点在している。
インドのなかでももっとも貧しい州のひとつとして知られるビハール州にも、ユニークなラッパーがいる。
彼の名はShloka.
ヒンドゥー教の伝統的なモチーフを大胆に導入したそのスタイルは、まさにインドのヒップホップ!
Shlokaというラッパーネームはインドの古い詩の形式の名前から取られている。
インドでは古典音楽とラップの融合は珍しくないが、彼のようなスタイルは唯一無二だ。
そのまま東に進んでウエスト・ベンガル州を越え、さらにバングラデシュを越えると、そこはインド北東部。
「セブン・シスターズ」と呼ばれる7つの小さな州が位置する地域だ。
このエリアには、アーリア系やドラヴィダ系の典型的なインド人ではなく、東アジア、東南アジアっぽい容姿のさまざまな少数民族が暮らしている。
インドのマジョリティとは異なるルーツを持った少数民族であるがゆえに、インド国内では被差別的な立場に置かれることも多い彼らは、自らの誇りをラップを通して訴えている。
北東部は、話者数が少ない地元言語よりも、多くの人に言葉を届けられる英語でラップするアーティストが多い土地でもある。
彼らについてはこの記事で詳しく特集している。
ベンガルール編で紹介した日印ハーフのラッパーBig Dealも、北東部の人々同様に見た目で差別されてきた経験を持つからだろう、彼らに想いを寄せた曲をいくつも発表している。
さて、次回はまだ紹介しきれていない南インドを掘ってみます。
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コルカタを代表するラッパーといえばCizzy.
Cizzy "Middle Class Panchali"
お聴きの通り、非常にセンスの良い出来なのだが、インドでは他地域に話者がほとんどいないベンガル語でラップしているせいか、彼は全国的には無名な存在だ。
コルカタのヒップホップシーンは、ほとんどのラッパーがベンガル語でラップしているがゆえに、ヒンディー語でラップするムンバイやデリーのラッパーのような注目を集めることが少ないのである。
ところが、ここに来てCizzyがインド全体を意識したような英語の楽曲をリリース。
はたして、Cizzyは全国的な成功を手にすることができるのだろうか?
Cizzy "Good Morning, India"
ところで、コルカタが位置する州の名前はウエスト・ベンガル州。
じゃあ東ベンガルはどこにあるのかというと、それはバングラデシュという別の国。
19世紀末、インドを支配していたイギリスは、民族運動がさかんだったベンガル地方を効率的に統治するため、宗教間の対立感情を巧みに利用して、この地域をヒンドゥー教徒が多い西ベンガルとムスリムが多い東ベンガルに分断した。
結果として、ベンガル地方東部はヒンドゥー教がマジョリティを占める世俗国家となったインドと袂を分かち、はるか遠くインドの西に位置するパキスタンの一部として独立することを選んだ。
しかしながら、地理的にも離れているうえに、文化的にも言語的にも差異の大きい東西パキスタンはさまざまな折り合いがつかず、東パキスタンは独立運動の末、1971年にバングラデシュとして再独立を果たすことになった。
というわけで、隣国にはなるが、コルカタと同じベンガル語を話すバングラデシュのラッパーを特集した記事はこちら。
同じベンガル語圏でも、文学的かつ詩的な香りのただようコルカタとは異なり、バングラデシュのラッパーはより政治的かつ社会的な主張をリリックに盛り込んでいるという印象。
東西ベンガルのラップの傾向の違いが、それぞれの国の歴史や政治や文化の違いによるものなのか、はたまた宗教の違いによるものかは分からないが、なかなか興味深いところではある。
首都デリーとコルカタを結ぶ線上には、タージマハールがあるアーグラー、男女交歓像で知られるカジュラーホー、ガンジス河の聖地ヴァーラーナシー、ブッダが悟りを開いたブッダガヤー(ボードガヤー)といった有名な観光地が点在している。
だが、これらの地域(州でいうとウッタル・プラデーシュ、ビハール、ジャールカンドなど)は人口こそ多いものの、経済的には貧しく、端的に言って「後進的」な地域だ。
したがって、ヒップホップのような新しいカルチャー不毛の地なのだが、それでも、突然変異のようなきらめきを放つアーティストが登場することがある。
例えば、先日紹介したビートメーカーのGhzi Purがその一人だ。
地理的に大都市のシーンから隔離されているからだろうか、狂気を煮詰めたようなサウンドは、あまりにも強烈な個性を放っている。
(そういえば、メールインタビューの返事、待たされたままこないな…)
ジャールカンド州には、これまた驚くべきラッパーTre Essがいる。
以下のふたつ目のリンクの記事は彼へのインタビューだが、彼が語ったヒップホップをエクスペリメンタルなジャンルとして定義づける姿勢と、地方都市のアーティストならではの苦悩は強く印象に残っている。
したがって、ヒップホップのような新しいカルチャー不毛の地なのだが、それでも、突然変異のようなきらめきを放つアーティストが登場することがある。
例えば、先日紹介したビートメーカーのGhzi Purがその一人だ。
地理的に大都市のシーンから隔離されているからだろうか、狂気を煮詰めたようなサウンドは、あまりにも強烈な個性を放っている。
(そういえば、メールインタビューの返事、待たされたままこないな…)
ジャールカンド州には、これまた驚くべきラッパーTre Essがいる。
以下のふたつ目のリンクの記事は彼へのインタビューだが、彼が語ったヒップホップをエクスペリメンタルなジャンルとして定義づける姿勢と、地方都市のアーティストならではの苦悩は強く印象に残っている。
インドのなかでももっとも貧しい州のひとつとして知られるビハール州にも、ユニークなラッパーがいる。
彼の名はShloka.
ヒンドゥー教の伝統的なモチーフを大胆に導入したそのスタイルは、まさにインドのヒップホップ!
Shlokaというラッパーネームはインドの古い詩の形式の名前から取られている。
インドでは古典音楽とラップの融合は珍しくないが、彼のようなスタイルは唯一無二だ。
そのまま東に進んでウエスト・ベンガル州を越え、さらにバングラデシュを越えると、そこはインド北東部。
「セブン・シスターズ」と呼ばれる7つの小さな州が位置する地域だ。
このエリアには、アーリア系やドラヴィダ系の典型的なインド人ではなく、東アジア、東南アジアっぽい容姿のさまざまな少数民族が暮らしている。
インドのマジョリティとは異なるルーツを持った少数民族であるがゆえに、インド国内では被差別的な立場に置かれることも多い彼らは、自らの誇りをラップを通して訴えている。
北東部は、話者数が少ない地元言語よりも、多くの人に言葉を届けられる英語でラップするアーティストが多い土地でもある。
彼らについてはこの記事で詳しく特集している。
ベンガルール編で紹介した日印ハーフのラッパーBig Dealも、北東部の人々同様に見た目で差別されてきた経験を持つからだろう、彼らに想いを寄せた曲をいくつも発表している。
上記の記事では、USのラッパーのジョイナー・ルーカスの"I'm Not Racist"を下敷きに北東部出身者への偏見をテーマにした"Are You Indian"、を紹介したが、この曲では北東部ミゾラム州のラッパーG'nieと共演して、「チンキー」という差別語で呼ばれる現実をラップしている。
インドの東の果てまで来てしまったが、今度は西側にぐっと戻って、タール砂漠が広がるラージャスターン州に目を移そう。
褐色の大地に色鮮やかな民族衣装が映えるこの地は、インドのなかでもとくにエキゾチックな魅力にあふれ、観光地としても国内外の人気を集めている土地だが、ポップカルチャーの世界では存在感の薄い地域である。
だが、全国的な知名度こそなくても、この地域にはインドらしい個性があふれるラッパーたちがいる。
砂漠の街のギャングスタ、J19 Squadとラージャスターンのラッパーについては、ぜひこちらの記事からチェックしてみてほしい。
カリフォルニアのチカーノ・ラッパーたちが自慢のローライダーを見せびらかすように、とっておきのラクダを見せびらかすヒップホップミュージックビデオなんて、最高としか言いようがない。
最後に、インド北部、パキスタンとの国境紛争や独立運動に揺れるカシミール地方にも、ラップでメッセージを発信しているラッパーがいた。
世界中の人に言葉が届くようにと英語でラップしているMC KASHがその代表格で、彼が2010年に発表した"I Protest"は、中央政府による弾圧に抗議するこの地方の人々の合言葉となった。
この地方の概要と彼については、この記事で紹介している。
最近では、デリーのAzadi Records所属のAhmerもカシミーリーとしてのリアルをラップしている(彼の場合、言語が英語ではないのでリリックの内容はわからないが、このミュージックビデオのアニメーションからも現地の厳しい状況が想像できる)
今回は北インドのいろんな地域のヒップホップを急ぎ足で見てきたが、とにかくいろんな場所でいろんなラッパーがいろんな主張やプライドをリリックに乗せて発信しているのがたまらなく魅力的だし、ぐっとくる。
これでもまだ紹介できていない地域があるのだからインドは奥が深い。
インドの東の果てまで来てしまったが、今度は西側にぐっと戻って、タール砂漠が広がるラージャスターン州に目を移そう。
褐色の大地に色鮮やかな民族衣装が映えるこの地は、インドのなかでもとくにエキゾチックな魅力にあふれ、観光地としても国内外の人気を集めている土地だが、ポップカルチャーの世界では存在感の薄い地域である。
だが、全国的な知名度こそなくても、この地域にはインドらしい個性があふれるラッパーたちがいる。
砂漠の街のギャングスタ、J19 Squadとラージャスターンのラッパーについては、ぜひこちらの記事からチェックしてみてほしい。
カリフォルニアのチカーノ・ラッパーたちが自慢のローライダーを見せびらかすように、とっておきのラクダを見せびらかすヒップホップミュージックビデオなんて、最高としか言いようがない。
最後に、インド北部、パキスタンとの国境紛争や独立運動に揺れるカシミール地方にも、ラップでメッセージを発信しているラッパーがいた。
世界中の人に言葉が届くようにと英語でラップしているMC KASHがその代表格で、彼が2010年に発表した"I Protest"は、中央政府による弾圧に抗議するこの地方の人々の合言葉となった。
この地方の概要と彼については、この記事で紹介している。
最近では、デリーのAzadi Records所属のAhmerもカシミーリーとしてのリアルをラップしている(彼の場合、言語が英語ではないのでリリックの内容はわからないが、このミュージックビデオのアニメーションからも現地の厳しい状況が想像できる)
今回は北インドのいろんな地域のヒップホップを急ぎ足で見てきたが、とにかくいろんな場所でいろんなラッパーがいろんな主張やプライドをリリックに乗せて発信しているのがたまらなく魅力的だし、ぐっとくる。
これでもまだ紹介できていない地域があるのだからインドは奥が深い。
さて、次回はまだ紹介しきれていない南インドを掘ってみます。
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goshimasayama18 at 21:56|Permalink│Comments(0)
2018年05月26日
魅惑のラージャスターニー・ヒップホップの世界!
先日、ラージャスタン州ジョードプルのギャングスタ(?)ラッパー集団、J19 Squadへのインタビュー紹介した。
彼らは前に紹介したDIVINEやBrodha Vに比べると、もっとマイナーかつローカルな存在だが、伝統色の濃いラージャスタン文化とヒップホップとの融合はとても面白くて聴き応えも見応え(ビデオの)もたっぷり。
詳細は以前の記事を見てもらうとして、とくに、ヒップホップのワイルドさが地域独特のマッチョ的美学と融合されているところなんて最高だ。
というわけで、今回はJ19 Squad以外のラージャスターニー・ヒップホップのアーティストを紹介したい。
まずは、Raptaanさん(たぶんこれがアーティストの名前であってると思う)で"Marwadi Hip Hop".
このビデオ、自慢のラクダとキスしたり(ラクダも踊る!)、ナイフで首を掻っ切る仕草をしてみたり、バイクに腰掛けて水パイプを吸ってみたりと、これまたほとばしるローカル色が最高!
子供からじいさんまで一族郎党をバックにラップしてるとこなんて、結果的にだけどチカーノ・ラップみたいなファミリーの結束感を感じさせられる。
"Hip, Hop, Marwadi Hip Hop"というリズミカルなリリックも、不穏さとキュートさを合わせ持ったトラックも普通にかっこいいし、サウンド的にもよくできている。
ここででてくるMarwadi(Marwari=マールワーリー)という言葉は、ラージャスタン州の中でもジョードプルを中心にかつて繁栄したマールワール王国にルーツを持つカーストのこと。
インド全土のみならず、世界中に広がる商人階級のネットワークで有名で、インドの大財閥、ビルラーに代表される「マールワーリー資本」はインド経済に今も大きな影響力を持ち続けている
J19がインタビューで触れていた戦士階級であるラージプートと並んで、この地域の帰属意識の大きな支柱になっているのだろう。
ちなみに言語の面でも、ラージャスターニー語のジョードプル地方の方言は「マールワーリー語」というまた別の言語として扱われることもあるようだ。
続いての曲は、J19 Squadとも共演していたRapperiya BaalamがKunal Verma、Swaroop Khanとコラボレーションした"Mharo Rajasthan"
オープニングの字幕によるとこの曲のタイトルは"Rajasthan Anthem"という意味だそうで、これまた地元愛炸裂の一曲だ(J19はジョードプル賛歌の"Mharo Jodhpur"という曲をやっていた)。
この曲は英語とラージャスターニー語のミックスだが、聴きどころはなんといっても、カッワーリーを思わせるインド北西部独特のコブシの効いた歌とハルモニウムが入った伝統色の濃いトラック!
映像の内容も、シーク教徒のとはまた違うこの地方独特のカラフルなターバンとか、砂漠、ラクダ、城、湖とラージャスタンの魅力が満載で、ラージャスタン州のプロモーションビデオとしても秀逸な出来になっている。
というわけで、J19 Squad以外にも魅力的なアーティストを多数抱えるのラージャスターニー・ヒップホップ。
そのローカル色の強さゆえに、インド全土で大人気!というふうになるのは難しいのかもしれないけれど、今後も注目していきたいと思います。
彼らは前に紹介したDIVINEやBrodha Vに比べると、もっとマイナーかつローカルな存在だが、伝統色の濃いラージャスタン文化とヒップホップとの融合はとても面白くて聴き応えも見応え(ビデオの)もたっぷり。
詳細は以前の記事を見てもらうとして、とくに、ヒップホップのワイルドさが地域独特のマッチョ的美学と融合されているところなんて最高だ。
というわけで、今回はJ19 Squad以外のラージャスターニー・ヒップホップのアーティストを紹介したい。
まずは、Raptaanさん(たぶんこれがアーティストの名前であってると思う)で"Marwadi Hip Hop".
このビデオ、自慢のラクダとキスしたり(ラクダも踊る!)、ナイフで首を掻っ切る仕草をしてみたり、バイクに腰掛けて水パイプを吸ってみたりと、これまたほとばしるローカル色が最高!
子供からじいさんまで一族郎党をバックにラップしてるとこなんて、結果的にだけどチカーノ・ラップみたいなファミリーの結束感を感じさせられる。
"Hip, Hop, Marwadi Hip Hop"というリズミカルなリリックも、不穏さとキュートさを合わせ持ったトラックも普通にかっこいいし、サウンド的にもよくできている。
ここででてくるMarwadi(Marwari=マールワーリー)という言葉は、ラージャスタン州の中でもジョードプルを中心にかつて繁栄したマールワール王国にルーツを持つカーストのこと。
インド全土のみならず、世界中に広がる商人階級のネットワークで有名で、インドの大財閥、ビルラーに代表される「マールワーリー資本」はインド経済に今も大きな影響力を持ち続けている
J19がインタビューで触れていた戦士階級であるラージプートと並んで、この地域の帰属意識の大きな支柱になっているのだろう。
ちなみに言語の面でも、ラージャスターニー語のジョードプル地方の方言は「マールワーリー語」というまた別の言語として扱われることもあるようだ。
続いての曲は、J19 Squadとも共演していたRapperiya BaalamがKunal Verma、Swaroop Khanとコラボレーションした"Mharo Rajasthan"
オープニングの字幕によるとこの曲のタイトルは"Rajasthan Anthem"という意味だそうで、これまた地元愛炸裂の一曲だ(J19はジョードプル賛歌の"Mharo Jodhpur"という曲をやっていた)。
この曲は英語とラージャスターニー語のミックスだが、聴きどころはなんといっても、カッワーリーを思わせるインド北西部独特のコブシの効いた歌とハルモニウムが入った伝統色の濃いトラック!
映像の内容も、シーク教徒のとはまた違うこの地方独特のカラフルなターバンとか、砂漠、ラクダ、城、湖とラージャスタンの魅力が満載で、ラージャスタン州のプロモーションビデオとしても秀逸な出来になっている。
というわけで、J19 Squad以外にも魅力的なアーティストを多数抱えるのラージャスターニー・ヒップホップ。
そのローカル色の強さゆえに、インド全土で大人気!というふうになるのは難しいのかもしれないけれど、今後も注目していきたいと思います。
goshimasayama18 at 20:01|Permalink│Comments(0)
2018年05月13日
忘れた頃にJ19 Squadから返事が来た!(その1)
このブログの熱心な読者(いらっしゃるのでしょうか…。いたら手を上げてください)なら、かれこれ1ヶ月半くらい前にラージャスタン州のギャングスタ・ラッパー集団J19 Squadを取り上げたことを覚えているかもしれない。
インドの伝統文化を色濃く残す砂漠の土地ラージャスタンの香りをぷんぷんさせながら、同時に平気で銃をぶっ放すとんでもないワルでもあるJ19 Squadに興味津々となったアタクシは、さっそくインタビューを申し込み、いくつかの質問を送った。
その日のうちに彼らから「Much love, bro. すぐに答えるぜ」との返信が来たが、その後の音沙汰がないまま時は流れゆき、そろそろ1ヶ月になろうかというとある日、完全にあきらめかけた頃に彼らから返事が来た。
その回答を読んで、もう少し質問したいことが出てきたので、改めてメッセージを送る。
「Much love, bro. すぐに答える」
…が、またしても返事は来ない。
催促を送ること一度、二度。
「すぐに返事するぜ、bro.」
まだ次の返事は来ていないのだけど、せっかくいただいた1回目の内容をずっと寝かせておくのも何なので、ここでひとまずこれまでのインタビューの模様をお届けします。
その前に、彼らの音楽をおさらい!
彼らの地元「ブルーシティ」ことジョードプルへの愛に溢れた曲。
"Mharo Jodhpur"
ワルさで言えばこの曲が一番"Bandook".
2:30からの英語のセリフ「You know why we are doing this? We are doing for our streert, our people, our city man. Ain't no body gonna stop us. Hahahaha. Yeah, You know who we are, J19 Squad!」ってとこがイカしてる!
最後のSquad!でキメるとこ、好きだなあー。
笑顔で銃をぶっ放す女の子たちも、なんかよく分からないけどキュート!
ボブ・マーリィへのトリビュートと題された、"Bholenath".
やってることはシヴァ神を祀った寺院でのひたすらな大麻の吸引で、ボブはどこ?って感じがするんだけど。それにインドでも大麻は一応違法なはずだけど、こんなに堂々とビデオで吸っちゃってて大丈夫なのだろうか。
これらのビデオを見てわかる通り、彼らの魅力を一言で表すとすれば、ラージャスタン土着の男っぽさと、ヒップホップ由来のの"サグい"(Thug=ワルい)感じの共存。
果たしてそんな彼らの素顔はどんななのか?
おお!ここでもエミネムの影響。
TIはサウスのギャングスタラッパーで、トラップの創始者と言われることもあるアーティスト。
やはり二人ともワイルドなイメージがあるラッパーが好みなのか。
DIVINEがクリスチャンラッパーのLacrae、Big Dealがケンドリック・ラマーのようなコンシャスラッパーに影響を受けていることとは対照的だ(まあこの2人もエミネムからの影響は公言してるけど)。
なるほど。
ここで名前が出てきたRapperiya Baalamは朴訥としたフュージョン・スタイル(伝統音楽と現代音楽のミックス)で美しき故郷ラージャスタンについて歌うシンガー。
Rapperiyaの素朴さとJ19 Squadのワイルドさが郷土愛で結びついたこの曲"Raja"は、彼らだけがたどり着くことができたインディアン・ヒップホップのひとつの到達点!と個人的には思います。
さて、そろそろ彼らの最も気になる点について聞かねばなるまい。
彼らのビデオは非常に暴力的。
銃をバンバンぶっ放したりしているけど、これはマジなのか。
確信をついた質問をしてみた。
凡「あなたたちのミュージックビデオがとても気に入っているんだけど、”Bandook”はまさにリアルなギャングスタ・ライフって感じだよね。これはあなたたちの実際の生活がもとになっているの?それともフィクション的なものなの?」
彼らの回答に出てきたラージプートは、ラージャスタン州の誇り高き戦士(クシャトリヤ)カーストのこと。7世紀〜13世紀にかけてこの地方に王国を築き、幾度も西方からのイスラム勢力のインド亜大陸への侵入を防いだ勇猛さで知られる。
彼らのミュージックビデオを見てもわかる通り、今でもとにかく地元愛の強い土地柄なのだ。
それと、この回答を聞いて正直ちょっとほっとした。
いくらジョードプルと日本で距離が離れているとはいえ、平気で銃をぶっ放すような連中に「俺たちがフェイクだって言うのか!」とか怒られたらさすがにちょっとビビるからね。
次に、彼らについてもうひとつ気になっていたことを聴いてみた。
なるほど!
彼らは愛する地元ジョードプルに、同じく彼らが心から愛するヒップホップを根づかせるために地元の言語で歌っていたのだ。
ビデオでの暴力的な表現は、ヒップホップのギャングスタ・カルチャーを地元の勇猛なラージプート文化と融合して、ラージャスタン風に翻案したものということなのだろう。
ものすごいギャングスタのように見えて、案外周到に計算された表現様式なのかもしれない。
それからここで出てきたデシ・ヒップホップというのは海外の移民を含めたインド系アーティストのヒップホップを指す言葉。
彼らはラージャスタンにヒップホップを広めるとともに、より大きなマーケットでの成功も視野に入れているようだ。
そんな彼らのインタビューその2がお届けできる日は来るのか?
あまり期待はしないでお待ちください。
20年前からインド人にすっぽかされるのは慣れてるんだけどさ。
インドの伝統文化を色濃く残す砂漠の土地ラージャスタンの香りをぷんぷんさせながら、同時に平気で銃をぶっ放すとんでもないワルでもあるJ19 Squadに興味津々となったアタクシは、さっそくインタビューを申し込み、いくつかの質問を送った。
その日のうちに彼らから「Much love, bro. すぐに答えるぜ」との返信が来たが、その後の音沙汰がないまま時は流れゆき、そろそろ1ヶ月になろうかというとある日、完全にあきらめかけた頃に彼らから返事が来た。
その回答を読んで、もう少し質問したいことが出てきたので、改めてメッセージを送る。
「Much love, bro. すぐに答える」
…が、またしても返事は来ない。
催促を送ること一度、二度。
「すぐに返事するぜ、bro.」
まだ次の返事は来ていないのだけど、せっかくいただいた1回目の内容をずっと寝かせておくのも何なので、ここでひとまずこれまでのインタビューの模様をお届けします。
その前に、彼らの音楽をおさらい!
彼らの地元「ブルーシティ」ことジョードプルへの愛に溢れた曲。
"Mharo Jodhpur"
ワルさで言えばこの曲が一番"Bandook".
2:30からの英語のセリフ「You know why we are doing this? We are doing for our streert, our people, our city man. Ain't no body gonna stop us. Hahahaha. Yeah, You know who we are, J19 Squad!」ってとこがイカしてる!
最後のSquad!でキメるとこ、好きだなあー。
笑顔で銃をぶっ放す女の子たちも、なんかよく分からないけどキュート!
ボブ・マーリィへのトリビュートと題された、"Bholenath".
やってることはシヴァ神を祀った寺院でのひたすらな大麻の吸引で、ボブはどこ?って感じがするんだけど。それにインドでも大麻は一応違法なはずだけど、こんなに堂々とビデオで吸っちゃってて大丈夫なのだろうか。
これらのビデオを見てわかる通り、彼らの魅力を一言で表すとすれば、ラージャスタン土着の男っぽさと、ヒップホップ由来のの"サグい"(Thug=ワルい)感じの共存。
果たしてそんな彼らの素顔はどんななのか?
質問に答えてくれたのはメンバーのPK Nimbark.
インドのヒップホップシーンの中でも未知の地、ラージャスターニー・ラップの話を存分に聞かせてくれました!
凡「インタビューに協力してくれてどうもありがとう。まず最初に、”J19 Squad”ってどういう意味?
ビデオだと大勢の仲間たちが写ってるよね。
全部で19人のメンバーがいるの?JはジョードプルのJ?」
ビデオだと大勢の仲間たちが写ってるよね。
全部で19人のメンバーがいるの?JはジョードプルのJ?」
J「J19 Squadはラージャスタン州、ジョードプルのヒップホップデュオだ。インドのヒップホップシーンの中で、ラージャスタンを代表(represent)している。Young HとPK Nimbarkの2人で結成されたんだ。ビデオに写っているのは地元の俳優やモデルで、彼らはJ19 Squadに所属しているわけではない。そう、JはJodhpurのJで19は俺たちのエリアコード(郵便番号のようなものか?)だ。」
なるほど。
いかにも地元のギャングの仲間って感じだった彼らは役者さんたちで、あくまで演出だったということか。
マジで怖い人たちではないのかも。
ちょっと安心だけどまだ油断はできない。
マジで怖い人たちではないのかも。
ちょっと安心だけどまだ油断はできない。
凡「音楽的にはどんな影響を受けたの?あなた方の音楽はすごくオリジナルだと思うんだけど。もし海外やインドのアーティストの影響を受けていたら教えて」
J「そうだな。俺たちはジョードプルの別々の地域の出身なんだけど、学校に通ってた頃から音楽に夢中だった。磁石のように音楽に引きつけられているんだ。
Young HはアメリカのラッパーのTIにインスパイアされていて、俺はEminemだな」
おお!ここでもエミネムの影響。
TIはサウスのギャングスタラッパーで、トラップの創始者と言われることもあるアーティスト。
やはり二人ともワイルドなイメージがあるラッパーが好みなのか。
DIVINEがクリスチャンラッパーのLacrae、Big Dealがケンドリック・ラマーのようなコンシャスラッパーに影響を受けていることとは対照的だ(まあこの2人もエミネムからの影響は公言してるけど)。
凡「トラックを作って、リリックを書いて、ラップして、って全部自分たちだけでやってるの?」
J「そうだ。俺たちの曲は全部自分たちによるオリジナルの作品だ。Young Hが曲を作っている。彼がミキシングやマスタリングをやっているんだ。歌詞は2人で協力して書いている。”Go Down”と”Raja”は俺たちの曲じゃなくて、”Go Down”はSir Edi、”Raja”はRapperiya Balam(原文ママ)によるプロデュースだ。」
なるほど。
ここで名前が出てきたRapperiya Baalamは朴訥としたフュージョン・スタイル(伝統音楽と現代音楽のミックス)で美しき故郷ラージャスタンについて歌うシンガー。
Rapperiyaの素朴さとJ19 Squadのワイルドさが郷土愛で結びついたこの曲"Raja"は、彼らだけがたどり着くことができたインディアン・ヒップホップのひとつの到達点!と個人的には思います。
さて、そろそろ彼らの最も気になる点について聞かねばなるまい。
彼らのビデオは非常に暴力的。
銃をバンバンぶっ放したりしているけど、これはマジなのか。
確信をついた質問をしてみた。
凡「あなたたちのミュージックビデオがとても気に入っているんだけど、”Bandook”はまさにリアルなギャングスタ・ライフって感じだよね。これはあなたたちの実際の生活がもとになっているの?それともフィクション的なものなの?」
J「そうだな。Bandookはじつにクールなギャングスタ・ソングだが、それが俺たちのライフスタイルってわけじゃない。俺たちはもっとふつうに暮らしているよ。これがフィクションなのか実際に起きうることなのかっていうのは言えないな。実際のところ、このビデオはラージャスタン人のライフスタイルに基づいている。彼らはとても慎ましくて親切だけど、もし誰かが楯突こうっていうんなら、痛い目に合うことになるぜ。ラージャスタンの王族に仕えたラージプートの戦士のようにね。」
彼らの回答に出てきたラージプートは、ラージャスタン州の誇り高き戦士(クシャトリヤ)カーストのこと。7世紀〜13世紀にかけてこの地方に王国を築き、幾度も西方からのイスラム勢力のインド亜大陸への侵入を防いだ勇猛さで知られる。
彼らのミュージックビデオを見てもわかる通り、今でもとにかく地元愛の強い土地柄なのだ。
それと、この回答を聞いて正直ちょっとほっとした。
いくらジョードプルと日本で距離が離れているとはいえ、平気で銃をぶっ放すような連中に「俺たちがフェイクだって言うのか!」とか怒られたらさすがにちょっとビビるからね。
次に、彼らについてもうひとつ気になっていたことを聴いてみた。
凡「あるときはヒンディー語で、あるときはラージャスターニー語でラップしているよね。どうやってラップする言葉を決めているの?」
J「俺たちはヒンディー語でラップを始めた。でもラージャスターニー語はインドのヒップホップじゃ全然使われていなかったから、俺たちがここで本物のラップを紹介しようって決めたんだ。(地元に)ヒップホップミュージックのシーンを作るためにね。実際にいまシーンを作っているところだよ。これからもデシ・ヒップホップのシーンのためにはヒンディーで、地元のシーンのためにはラージャスターニーで、両方の言語で曲を作っていくつもりだ」
なるほど!
彼らは愛する地元ジョードプルに、同じく彼らが心から愛するヒップホップを根づかせるために地元の言語で歌っていたのだ。
ビデオでの暴力的な表現は、ヒップホップのギャングスタ・カルチャーを地元の勇猛なラージプート文化と融合して、ラージャスタン風に翻案したものということなのだろう。
ものすごいギャングスタのように見えて、案外周到に計算された表現様式なのかもしれない。
それからここで出てきたデシ・ヒップホップというのは海外の移民を含めたインド系アーティストのヒップホップを指す言葉。
彼らはラージャスタンにヒップホップを広めるとともに、より大きなマーケットでの成功も視野に入れているようだ。
そんな彼らのインタビューその2がお届けできる日は来るのか?
あまり期待はしないでお待ちください。
20年前からインド人にすっぽかされるのは慣れてるんだけどさ。
goshimasayama18 at 12:35|Permalink│Comments(0)