ボンベイ

2018年01月12日

Yeh mera Bombay, not Mumbai!

さて、今日は、前回ムンバイのラッパー、Divineの曲「Yeh mera Bombay」(This is my Bombay)を紹介したときに考えたことを少し書きたいと思います。

なぜYeh mera MumbaiではなくYeh mera Bombayなのか?って考えたときに、ひょっとしたら音の響き以上の理由があるかもしれない、と思ったのがことの発端。

もっかい聞いてみましょう。



曲の最後(2:15あたりから)に、ムンバイでなくボンベイと呼ぶことを説明するかのように、英語で「I love my city. You could change the name. But you know what it is. Same old Bombay」という語りが入ることに注目。


前回書いたように、ボンベイは1995年にムンバイに改称された。

この頃から、ムンバイでは、通りの名前から駅の名前にいたるまで、イギリス植民地時代の名称がインド固有の名称にどんどん改称されていて、植民地時代の名称を一掃する運動が進められている。

そんなわけで、久しぶりにムンバイに行く人のために、新旧の通りの名前一覧のサイトもあったりする。



海辺の大通り「マリン・ドライブ」みたいな、かなり有名な通りの名前でも、構うこたねえって感じでインド由来の名前にがんがん変えられていて、ムンバイの玄関口の駅の名前も、1996年には「ヴィクトリア・ターミナス」から、かつてこの地方を支配していたマラータ王国の創始者の名を冠した「チャトラパティ・シヴァージー・ターミナス」に改称され、さらに2107年にはチャトラパティ・シヴァージー・マハーラージ・ターミナス駅に改められている。

「マハーラージ」は「偉大な王」を意味する尊称なのだけど、いくらなんでもここまでしなくてもいいんじゃないか、という意見が地元でも囁かれていたりもする。


これが世界遺産にも登録されているその駅舎(wikipediaから)。
CHATRAPATI_SHIVAJI_MAHARAJ_TERMINUS



植民地時代の呼称から地元の言語への変更はインド中で行われていて、カルカッタはコルカタに、マドラスはチェンナイに、ITで有名なバンガロールはベンガルールに改名された。

この動きは一見良いことのように思えるけれども、ムンバイの場合、この地名改名運動を主導しているのがナショナリズム政党であるシヴ・セーナーだというのがややこしいところ。

インドのナショナリズムは、一般的にはヒンドゥー・ナショナリズムと呼ばれるもので、いわゆる「ヒンドゥー至上主義」。

簡単に説明すると、母なる大地インドはヒンドゥー教徒のものだという考えで、イスラム教を敵視し、キリスト教は堕落した西洋の文明をインドにもたらす害悪、と考える排外主義的な側面が強い。

(以前紹介したSu Realの記事でも少し触れた通り)

ところが、このシヴ・セーナーのややこしいところは、ヒンドゥー至上主義だけではなくてマラータ至上主義という側面が非常に強いこと。

これは、ムンバイを含むマハーラーシュートラ州、その中でもマラーティー語を話す人たちのナショナリズムで、攻撃の矛先は他州から移住してくる人たちにも向けられる。

ムンバイでは、このシヴ・セーナーと対抗すべく、中央で政権を握るBJP(インド人民党。これもヒンドゥー・ナショナリズム色が非常に強い政党とされている)も州のマジョリティーであるマラータ人の歓心を買うために、植民地時代の地名を改名しているというから、きりがない。

しかも、改名するにしても、その地域になんの関係もない女神の名前とかに慣れ親しんだ地名が変えられることもしばしば。

当然、こういう動きに批判的な意見もあって、「こんなバカバカしいことやめようぜ」という記事もあったりする。

現代インド文学の大作家、ロヒントン・ミストリーの小説「かくも長き旅」でも、パールシー(ゾロアスター教徒)である主人公とクリスチャンの友人が、シヴ・セーナーによってムンバイの地名がどんどん変えられてしまうことに対して、「故郷が無くなってしまうようだ」と嘆く場面が出てくるのだが、ナショナリズムの埒外にいる人間にとっては、かなり居心地の悪い状況なのだろう。

前回書いたように、DIVINEもクリスチャンで、マラーティーではなくヒンディー語が第一言語のようだ。

彼がムンバイではなくてボンベイをその曲名に選んだことには、スラムの生活改善よりも人気取りの地名変更ばかり行っている政府へのプロテストの気持ちが込められているのかもしれないと思った次第。



ふと思い出したけど、2010年から活動しているムンバイのヒップホップ/レゲエユニットのBombay Bassmentもムンバイではなくてボンベイをその名に選んでいる。



彼らはケニア出身のBobを中心メンバーとした面白いユニットで、いずれ紹介したいと思います。

インドの地名(駅名)改名についてはこの記事も詳しい。

BJPの主な支持基盤が、ビジネスマン、マールワーリー(ラージャスタン、グジャラートあたりをルーツに持つ商人カーストで経済的な力が強い)、ジャイナ教徒だなんて知らなかった。

それでは今日はこのへんで!

goshimasayama18 at 22:17|PermalinkComments(0)