ヘヴィーメタル

2019年01月05日

インドのインディーズシーンの歴史その10 インダストリアル・メタルバンド Pentagram

インドの音楽専門チャンネル、'VH1 Sound Nation'が選んだ、インドのインディーミュージックシーンの歴史に残る73曲を紹介するこの企画。
久しぶりの今回は記念すべき10回目!
VH1INDIAによるインドのインディー100曲

今回紹介するのは、1994年にムンバイで結成されたバンド、Pentagram.
このリストに入っているのは1996年に発表したデビューアルバム'We Are Not Listening'からの楽曲'Ignorant One'だけど、あいにくスタジオ音源が見つからず、楽曲的にもなんかイマイチだったので、ここは独断で同じアルバムから'The Price Of Bullets'をお送りさせていただきます!


Pentagramはヘヴィロックにエレクトロ/インダストリアル的なアプローチも取り入れたバンドで、Wikipediaによると初期にはSeal、Depeche Mode、Prodigyなどのカバーをしたこともあったという。
この曲では、大胆にラップが導入されており、中間部の古典音楽風のパートもなかなかうまく組み込まれている。
90年代のインドのロック事情を考えると、1996年にこの音楽性は「かなり早い」と言える。
当時からちゃんとファンがいたのか心配になるくらいだ。

より大々的にエレクトロ・ロックを取り入れたのは2002年に発表した2枚目のアルバム'Up'からで、2005年にはイギリスのグラストンベリー・ミュージック・フェスティバルにインドのバンドとしては初の出演を果たすなど、2000年代に入ってからはさらに活躍の幅を広げた。

2006年のアルバム'It's Ok, It's All Good'から、かなりエレクトロ色が強い、'Electric'

同じアルバムから、さらにポップなメロディーの'Voice'
  

2011年のアルバム'Bloodywood'から、ムンバイの有名なお祭り、Ganesh Visarjanで撮影された'Tomorrow's Decided'.
 
世界的な視点で見たら、とくに新しいことをやっているわけではないかもしれないが、彼らもまたインドのインディー音楽史のなかではインダストリアル・メタルのパイオニアということになる。

それにしても、ここまでインド側(在外インド系アーティストではなく)の紹介してきたミュージシャンはほぼ例外なくヘヴィーロック系。
音楽途上国にさまざまな音楽文化が流入するとき、まずいちばん始めにメタルが入ってくるという話があるが、インドのインディーシーンもそんなふうに発展していったのだと思うとなかなかに感慨深いものがある。

次回の「インドのインディーズシーンの歴史」はまた在外インド系アーティストを紹介します!
それでは、また!


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凡平自選の2018年度のおすすめ記事はこちらからどうぞ! 

goshimasayama18 at 14:31|PermalinkComments(0)

2018年08月12日

プログレッシブ・古典ミクスチャー・メタル? Pineapple Express!

どうもこんにちは。
軽刈田 凡平です。
さて、今回紹介しますのは、バンガロールのとにかく面白いバンド、Pineapple Express.
彼らは今年4月にデビューEPを発売したばかりの新人バンドなんですが、このブログの読者の方から、ぜひ彼らのことをレビューをしてほしい!とのリクエストをいただきました。
どなたかは知らぬが、おぬし、やるな。

Pineapple ExpressはDream TheaterやPeripheryのようなヘヴィー寄りのプログレッシブ・ロックやマスロックを基本としつつ、エレクトロニカからインド南部の古典音楽カルナーティック、ジャズまでを融合した、一言では形容不能な音楽性のバンド。
百聞は一見に如かず(聴くだけだけど)、まず聴いてみてください。彼らの4曲入りデビューEP、"Uplift".

01 - Cloud 8.9 0:00
02 - As I Dissolve 2:58
03 - The Mad Song 7:50
04 - Uplift 14:00

どうでしょう。
プログレッシブ・メタル的な複雑な変拍子を取り入れながらも、メタル特有のヘヴィーさやダークさだけではなく、EDMや民族音楽的なグルーヴ感や祝祭感をともなったごった煮サウンドは、形容不能かつ唯一無二。
結果的にちょっとSystem of a Downみたいに聴こえるところもあるし、トランスコアみたいに聴こえるところもある。
Pineapple Expressは中心メンバーでキーボード奏者のYogeendra Hariprasadを中心に結成された、なんと8人組。
バンド名の由来は、おそらくは2008年にアメリカ映画のタイトルにもなった極上のマリファナのことと思われる。

メンバーは、「ブレイン、キーボード、プロダクション」とクレジットされているYogeendraに加えて、
Arjun MPN(フルート)、
Bhagav Sarma(ギター)、
Gopi Shravan(ドラムス)、
Jimmy Francis John(ヴォーカル。Shubhamというバンドでも歌っている)、
Karthik Chennoji Rao(ヴォーカル。元MotherjaneのギタリストBhaiju Dharmajanのバンドメンバーでもある)、
Ritwik Bhattacharya(ギター)、
Shravan Sridhar(バイオリン。Anand Bhaskar Collectiveも兼任ということらしいが、あれ?以前ABCのことを記事に書いたときから違う人になってる)の8人。

8人もいるのにベースがいなかったり、ボーカルが2人もいたりするのが気になるが、2013年に結成された当初はトリオ編成だったところに、 Yogheendraの追求する音楽を実現するためのメンバー交代を繰り返した結果、この8人組になったということらしい。

1曲めの"Cloud 8.9"はプログレ的な変拍子、カルナーティック的なヴォーカリゼーション、ダンスミュージック的な祝祭感に、軽やかに彩りを添えるバイオリンやフルートと、彼らの全てが詰め込まれた挨拶代わりにぴったりの曲。
2曲めの"As I Dissolve"はぐっと変わって明快なアメリカンヘヴィロック的な曲調となる。
この曲では古典風のヴォーカルは影を潜めているが、彼ら(どっち?)が普通に歌わせてもかなり上手いヴォーカリストことが分かる。アウトロでEDMからカルナーティックへとさりげなくも目まぐるしく変わる展開もニクい。
3曲めはその名も"The Mad Song". 分厚いコーラス、ラップ的なブリッジ、さらにはジャズっぽいソロまでを詰め込んだ凄まじい曲で、このアルバムのハイライトだ。
途中で彼らの地元州の言語、カンナダ語のパートも出てくる。
こうして聴くとプログレ的な変拍子とカルナーティック的なリズムのキメがじつはかなり親和性の高いものだということに改めて気づかされる。
考えてみればインド人はジャズやプログレが生まれるずっと前からこうやってリズムで遊んでいたわけで、そりゃプログレとかマスロックとかポストロックみたいな複雑な音楽性のバンドがインドに多いのも頷けるってわけだ。
4曲めのタイトルトラック"Uplift"はフォーキーなメロディーが徐々に激しさと狂気を増してゆくような展開。

たった4曲ながらも、彼らの才能の豊かさと表現の多彩さ、演奏能力の確かさを証明するのに十分以上な出来のデビュー作と言える。

デビューEP発売前に出演していたケララ州のミュージックチャンネルでのライブがこちら。

よりEDM/ファンク的な"Money"という曲。
メンバー全員のギークっぽいいでたちが原石感丸出しだが、奏でる音楽はすでに素晴らしく完成されている。

日本でも公開されたボリウッド映画(武井壮も出てる)「ミルカ」ののテーマ曲のカバー、"Zinda"はライブでも大盛り上がり。



Yogheendraはこのバンド以外にも少なくとも2つのプロジェクトをやっていて、そのひとつがこのThe Yummy Lab.
インド音楽とキーボードオリエンテッドなプログレ的ロックサウンドの融合を目指す方向性のようだ。

演奏しているのは"Minnale"という映画の曲で、古典楽器ヴィーナの音色がどことなくジェフ・ベックのギターの音色のようにも聴こえる。

もうひとつのプロジェクトが"Space Is All We Have"というバンド。

このバンドはメンバー全員で曲を共作しているようで、Pineapple Expressとは違いインド音楽の要素のないヘヴィーロックを演奏している。


Pineapple Expressのヴォーカリスト、Jimmy Francis Johnと二人で演奏しているこの曲では、変拍子やテクニックを封印して、叙情的で美しいピアノを披露している。

どうだろう、とにかく溢れ出る才能と音楽を持て余しているかのようじゃないですか。
Yogeendra曰く、インドの古典音楽とプログレッシブ・ロックを融合させることは、意識しているというよりごく自然に出来てしまうことだそうで、また一人、インドのミュージックシーンにアンファン・テリーブル(恐るべき子供)が現れた、と言うことができそうだ。

今後の予定としては、スラッシュメタルバンドのChaosやロックンロールバンドのRocazaurus等、ケララシーンのバンドと同州コチのイベントで共演することが決定している模様。
kochirocks

Pineapple Expressが、少なくともインド国内での成功を収めるのは時間の問題だろう。
彼らのユニークな音楽性からして、インド以外の地域でももっと注目されても良いように思うが、プログレッシブ・メタル、インド伝統音楽、エレクトロニカというあまりにも対極な音楽性を融合したバンドを、果たして世界の音楽シーンは適切に受け止めることができるだろうか。
この点に関しては、試されているのは彼らではなくて、むしろ我々リスナーであるように感じる。
海外のフェスに出たりなんかすれば、一気に盛り上がって知名度も上がるんじゃないかと思うんだけど、どうでしょう。

Pineapple ExpressとYogheendraがこれからどんな作品を作り出すのか、インドや世界はそれにどんなリアクションを示すのか。
それに何より、この極めてユニークな音楽性のルーツをぜひ直接聞いてみたい。
これからもPinepple Express、注目してゆきたいと思います!
それでは! 

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「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」

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goshimasayama18 at 23:38|PermalinkComments(2)

2018年07月15日

Demonic Resurrectionの欧州ツアー日記と驚愕のコンセプトアルバム!

先日紹介した、驚愕のヘヴィーメタル料理番組(しかも炭水化物を控えた「ケトン食」)の進行役、Sahil.


その記事
でも書いた通り、彼のもう一つの顔は、ムンバイのシンフォニックデスメタルバンド、Demonic Resurrectionのヴォーカリストだ(ステージネームはDemonstealer!)。

demonicresurrection



先日の記事を書いた後、いつもしている通り、Twitterでブログ更新を呟いたら、 なんとSahil本人がそれを見つけてくれてリツイートしてくれた。
そこで、どうしても気になっていた点を本人に直接聞いてみた。
いったいどうしてあなたは料理番組をやっているのか?栄養士か何かなのか?と。
Sahilによると、
「俺は単に料理が好きだからこの番組を始めたんだ。それが、時間が経つにつれてだんだん変わってきて、ケトン食(keto)のビデオを作ったらすごく人気が出てきたんだよ。だからプロってわけでも栄養士でもないよ」
とのこと。

Demonic Resurrectionは2014年にドイツの有名なメタル系フェス、「ヴァッケン・オープンエア(Wacken Open Air)」への出演を果たしており、昨年もイギリスツアーを行うなど、インドのメタルシーンでは数少ない、国外でも高い評価を得ているバンドだ。
今回はSahilことDemonstealerが語ってくれたヴァッケン・オープンエア、そしてイギリスツアーの思い出を紹介します!

まずは2014年のヴァッケンから!
彼らにとって、ドイツの超大型メタルフェス出演はどんな経験だったのだろうか。

「ヴァッケン・オープンエアは信じられない体験だったよ。俺たちはただ演奏しただけじゃなくて、3日間に渡ってフェスティバルに参加したんだ。インドから来た俺たちは、あんなでかいフェスは経験したことがなかったし、超ビッグなバンドを生で見られるってことも、全体の雰囲気も、すべてが信じられなかったよ」

ヴァッケンは大ベテランから新鋭、ポップなハードロックからエクストリーム系まで、150以上(!)ものメタルバンドが参加する世界最大級のメタル系フェスティバルだ。
彼らが出演した2014年の様子はこんな感じ。
(これはノルウェーの大御所ブラックメタルバンド、Emperorのライブ。この手の音楽でヴォーカルがメガネをかけているというのが斬新だ)


朝から晩まで、ひたすらあらゆる種類のヘヴィーメタルを聴くことができるという、メタル好きには天国のような(そしてそれ以外の人にはたぶん地獄のような)フェスティバルだ。
インドでも欧米の大御所バンドのライブには数千人単位の集客があるようだが、さすがにこの規模のフェスっていうのは、本場ヨーロッパ以外ではあり得ないように思う。
そんなフェスのステージで演奏した感想は?

「ステージでのパフォーマンスは最高に楽しかったよ。お客さんは少なかったけど熱狂的だった。俺たちが演奏したのは最終日の明け方で、Sodom(ドイツの伝説的スラッシュメタルバンド)とArch Enemy(スウェーデンのベテランメロディック・デスメタルバンド)のちょうど間だった。彼らとライブの時間が少し重なってしまっていたんだ(だからお客が少なかったということだろう)。でも、それを考えてもかなり良かったよ」

ヴァッケンでも、他のフェス同様にいくつものステージが同時進行する。
人気のある大御所バンドと時間帯が重なってしまったのはアンラッキーだった。
確かに彼らのライブ映像を見ると、そこまでオーディエンスは多くないようだけど、そういう事情があったのか。


続いて、今年行われたUKツアーについても聞いてみた。

「今年のUKツアーもすごく楽しかったよ。どのライブもイギリスでやった中では今までで最高だった。いくつかの新しい場所にも行けたし、新しいファンも獲得できた。ツアーのハイライトはIncineration Festivalだな。満員の観客にガツンと喰らわせて、でかいモッシュピットができたんだ。グッズもたくさん売れたよ。Wretched Soul(イギリスのスラッシュ/デスメタルバンド)とツアーできたのも楽しかったし、すべての経験がすばらしかったよ」

これがそのジョイントツアーのフライヤー。
どうやらDemonic Resurrectionがヘッドライナーで、Wretched Soulは前座という扱いのようだ。
ヘッドライナーでイギリスツアーなんてすごいじゃん。
ちょっと見づらいが、3公演目のロンドンがそのIncineration Festivalだったようだ。
Incinerationという単語は初めて見たので辞書を引いてみたら、「火葬」だって。
なんつうフェスのタイトルだ。

bHNrZa

そのフェスティヴァルでのライブの模様がこちら。

当然ながらヴァッケンと比べるとずいぶん小さな規模で、他の出ているバンドも聴いたことがないバンドばかりのようだが、それだけにコアなオーディエンスが集まったイベントだったのだろう。

それにしても、なぜ彼らはこんなふうにヨーロッパでのツアーができたのか、仕切ってるのはインドのエージェントなのかと聞いてみた。
「俺たちにはイギリスのエージェントがいるんだ。2017年の12月にイギリスツアーを計画したんだけど、2018年の5月のIncineration Festivalに出演できるチャンスが巡ってきたから、ほかのライブはその前後に入れることにしたんだ。そのほうが意味があるからね」

上のフライヤーにある、UKツアーのタイトルにもなっているDashavatarというのは彼らが昨年リリースしたアルバムの名前なんだが、改めてそのアルバムをチェックしてみて、このアルバムが、あるとんでもない秘密があることに気がついた。
これぞまさに、ヴェーディック・メタルの最高峰と呼ぶべきコンセプト・アルバムだったのだ。
Youtubeで個別に曲を聴いていた時はまったく気がつかなかった。

アルバムには、前回紹介した以外にも、たとえばこんな曲が入っている。
"Kurma"


"Vamana"


"Rama"


いずれも、インド古典音楽の要素が入っていたり、クリーンヴォイスのパートが入っていたりと凝った展開と大仰なアレンジが特徴的だ。
これらの曲を聴いただけで(あるいはタイトルだけで)このアルバムの「秘密」に気がついた人は、なかなかのインド好きかインド神話通!
その詳細は次回!

goshimasayama18 at 00:01|PermalinkComments(0)

2018年06月09日

アルナーチャルのメタル・ブラザー、Tana Doniの新曲!

まだこのブログが海のものとも山のものともつかなかった頃(今でもそうですが)、いちばん初めにインタビューに答えてくれたインド北東部の最果て、アルナーチャル・プラデーシュ州イタナガルのギタリスト、Tana Doniが在籍するデスメタルバンド、Sacred Secrecyが新曲2曲を発表した。

SacredSacrecy

当時はAlien Godsというバンドのギタリストとしてインタビューに答えてくれたが、現在は自らがギターとヴォーカルを務めるこのSacred Secrecyというバンドでライブを重ねており、Sacred Secrecyのスタジオレコーディング音源としてはどうやらこれが最初のリリースとなる模様。

今回リリースした曲は、"Leech" (見慣れない単語なので調べてみたら、意味は"蛭")と"Shitanagar".
どちらもブルータルでグルーヴィーなデスメタル!
速さやテクニカルに走るバンドが多い中で、このスタイルは逆に新鮮に響くのではないだろうか。

"Shitanagar"


曲はこちらのサイトReverbNationから視聴&無料ダウンロード可能なので、メタルヘッズのみなさんはぜひ聴いてみてください。

"Shitanagar"は、彼のホームタウンのイタナガル(Itanagar)にクソのShitを合わせたタイトルで、無理やり訳せば「クソナガル」か。
辺境の田舎町で暮らさざるを得ない彼の気持ちが歌われており(というか咆哮されており)、以前聞いたところによると、

俺たちはクソの川から水を飲む…
気づかないままクソまみれの穴の中で暮らす…
クソの上で転がっているのに幸せだと思っている連中…
ブタのほうがまだ清潔なくらいだ…
クソナガル…


といった歌詞。

ワタクシからはさすがに行ったこともない街をここまでディスるのは憚られるが、閉鎖的な田舎の小さな街でデスメタルみたいなコアな音楽を演奏する彼の焦燥感やある種の絶望感は想像に難くなく、むしろパンク的なアティテュードの曲だと言える。
厭世的な歌詞を極端に激しいサウンドに乗せることで憂鬱をぶっとばす、というのはパンクロック以降に発明された退屈への特効薬だ。
こういうタイプの(まあ表現はずいぶん過激だが)屈折した故郷への感情は、かえって国や地域を問わない普遍的なものなんじゃないだろうか。

ところで手前味噌でなんだけど、Tanaへのインタビューに至る、インド北東部のメタル事情を巡る一連の記事は結構面白いと思うので、改めてリンクを貼っておきます。

まずはイントロダクション。インド固有?の神話メタル、ヴェーディック・メタルについてはこちらから
インド北東部はもしやメタルが盛んなのでは?という疑惑と推論の記事はこちらから
記念すべき当ブログインタビュー第一弾、Tanaへのインタビューはこちらから
やはりインドの北東部はメタルが盛んみたいだ、という統計と分析はこちらから
忘れた頃に返事が来た、ミゾラム州のメタルブラザーVedantのバンド、Third Sovereignについてはこちらから
Third SovereignのVedantへのインタビューはこちらから 
デスメタルばっかりじゃないぜ。シッキム州のハードロックバンド、Girish and the Chroniclesの紹介はこちらから
そのGirishへのインタビューはこちらから

うわ、こんなに書いてたのか。
たぶん、インド北東部のメタル事情に関しては、俺が日本でいちばん詳しいんじゃないかと思うよ。
これからも、こんなもの好きなこのブログをヨロシクお願いします。 

goshimasayama18 at 00:24|PermalinkComments(0)

2018年04月14日

ついに発見!ロックンロールバンド!Girish and the Chronicles! Rocazaurus

何度も書いてきた通り、インドでロックバンドができる層は人口全体から見るとまだまだごく一部。
エレキギター、ベース、アンプ、ドラムセットと買い集めて、インドに練習用のスタジオがあるのか自宅のガレージでやるのかしらないけど、バンドでリハーサルするだけで結構な出費になることだろう。
そんなことができる彼らは必然的にいわゆる富と教養がある層ということになるので、インドではロックバンドといえばメタルやプログレハードのようなジャンルで技巧を競ったり、ポストロックでセンスと音響を磨いたりというのが主流になっている。
逆に、メタル/ハードロック系で言えばAC/DCやガンズアンドローゼス、パンクで言えばラモーンズのような、愚直こそが美学というような、直球のロックンロール系のバンドというのは極めて少ない。
パンク系のバンドでも、社会風刺的なやつだったりするしね(それはそれで良いのだけど)。

ところで、小生は愚直なロックが大好きだ。
そりゃあ、難しいことも深遠なことも表現できるのがロックの素晴らしさではあるけれども、本質的なことを言えばスリーコード、エイトビート、それさえあれば十分じゃねえか。
インド人はなぜそれが分からないのか!と歯がゆく思っていたところ、ついに見つけました。ロックンロール系のバンドを。

どちらかというとメタル寄りのバンドではあるけれども、こまっしゃくれた変拍子とか早弾きや早叩き(って言わないけど)なんてしない。彼らの目指すところは間違いなくロックンロール。
インド北東部シッキム州のバンド、Girish and the Chronicles、略称GATC!
まずは1曲聴いてください。じゃなくて聴きやがれ!その名も"Born with a Big Attitude"


GATCは2009年にヴォーカリスト兼ギタリストでソングライターのGirish Pradhanを中心にインド北東部のシッキム州結成された(シッキムは以前紹介したラッパーのUNBの故郷です)。
シッキム州で最初にして唯一の全インドツアーと海外でのライブ(調べた限り、香港や韓国、ヨーロッパのモンテネグロのイベントに参加したようだ)を成功させたバンドだという。
バンド名の頭にGirishの名前が入っていることからも分かる通り、とにかく強烈なのはそのヴォーカル!
この曲ではかなりガンズのアクセルっぽく聴こえるが、他の曲も聴いてみてもらおう。
80年代のアメリカのバンドを思わせるスケールの大きい””The Endless Road"


トラックの荷台で演奏するメンバー、バイクで旅する長髪の若者、壮大なコーラス。
インドらしからぬ非常にアメリカンな世界観。
砂漠から手を振るとそこにはオート三輪のトラックに乗ったインドの人々が!アメリカンロックとインドの遭遇といった感じのこのビデオ、好きだなあ。
こういうビデオが撮れる場所があるっていうのも、インドの広さを改めて感じる。

続いてアップテンポなナンバーはどうだ!その名も"Ride to Hell".
前奏が長いぞ。歌は2分あたりからだ!

この曲はヴォーカルも含めてMr.Bigみたいな雰囲気!

元ネタになってるバンドが分かってしまうところがちょっと微笑ましくて、次はツェッペリン風の"Revolving Barrel"


こういうバンドに欠かせないバラードもちゃんとある。"Yesteryears"


なんだろう、このまるでインドを感じさせない、中高生のころに聴いてたバンドみたいな感覚は。
彼らはカヴァー曲のセンスも最高で、AC/DC、エアロスミス、ガンズなんかを完コピしている。

全部貼ってるときりがないので、ここはアタクシが敬愛してやまないAC/DCのマルコム・ヤングに捧げるメドレーを。


ヴォーカルを含めて完コピ!
リズムでちょっとオリジナルとの違和感を感じるところもあって、それはそれで本家の偉大さを感じる。
インタビュー記事によると、影響を受けたバンドとしてLed Zappelin, Deep Purple, Black Sabbath, Iron Maiden, Judas Priest, Aerosmith, Guns and Roses, AC/DCといった70年代〜80年代のハードロックやメタル系のバンドの名前を挙げていた。(ちなみにインド国内のバンドではParikrama、Soulmateとのこと)

インド北東部の最果ての地、シッキムにこんなロックンロールバンドがいるなんてなあ、と感激していたら、おや、Youtubeの右側んとこにまた別のロックンロールっぽいインドのバンドが出てきているではないか。

彼らの名前はRocazaurus.
さっそく聴いてみようじゃないか。"The Punk". 曲はメタルだけど。


おお!これはまたゴキゲンな。
さっそく調べてみたら、彼らのFacebook のページにはこんなことが書かれていたよ。

Rocazaurus is a unique rock band. Just like dinosaurs, the genre pure rock is also getting extinct. We are not going to stand aside watch it turn into fossil. So Rocazaurus is the few among the last to keep up the spirit of rock. Musically upfront with hard rock and general metal. The band is enjoying the good times of music wonders and rediscovering process of rocking out. 
Rocazaurusはユニークなロックバンドだ。恐竜のように、ピュアなロックもまた絶滅しかけている。俺たちはロックが化石になってゆくのをただ黙って見ているつもりはない。そう、Rocazaurusはロックの魂を伝えるために選ばれし者たちなのだ。音楽的にいうと、俺たちはストレートなハードロックや王道のメタルだ。俺たちは音楽に奇跡があった良き時代とロックンロールの素晴らしさを再発見して楽しんでいるぜ。

いいなあ!なんて暑苦しい所信表明なんだ!
次は、すばらしすぎるタイトルの曲"All I Want Is Rock And Roll".


Rocazaurusはインド南部のケララ州出身のバンド。
メンバーの名前(Vocals/Lead guitar - Fredy JohnBass/Vocals - Lesley Rodriguez, Drums - Alfred Noel)を見ると全員クリスチャンのようでもある。
そうした彼らの出自がこのアメリカンなサウンドと何か関係があるのだろうか。

余談だが、ケララは大航海時代から栄えた港町のコチン(コチ)を擁する州ではあるが、この土地のキリスト教の歴史はザビエルら大航海時代の伝道師の来訪よりもはるかに古く、なんと12使徒の1人、聖トマスが西暦52年ごろにキリスト教を伝えたと言われている。
india_map州都入り
それ故に、ケララのキリスト教はもはやインド文化の一つといった様相を体していて、北東部のように特段西洋文化の受け入れに積極的といったイメージも無い土地なんだけど。
ただ、古くから教育に力を入れていた州であり、これといった産業が無いにもかかわらず安定した成長を続けた州の体制は「ケララ・モデル」として知られており、ある種の文化的近代化が(とくに人口は多いが保守的な北部の州に比べて)なされていると言えるのかもしれない。

それにしても、遠く離れたインドの北の果て(ネパールの西側)のシッキムと南の果て(最南部の西側)のケララで、インドでは珍しいロックンロール系のバンドが見つかるっていうのが面白い。
北東部の音楽的な先進性はメタルやヒップホップを通して見てきたけれども、南部ではケララにもこの手のインドらしからぬバンドがいるというのは注目に値する。
ケララは先日紹介したスラッシュメタルバンドのChaosとか、他にも気になるバンドが満載の地で、ちょっと深掘りしてみたいところだ。 

それはまたいずれ書きたいと思います。
では! 

goshimasayama18 at 21:39|PermalinkComments(0)

2018年01月21日

神話炸裂!インドのペイガン・メタル!

こんにちは、伊藤政則です(ウソ)。

前回、映画「バーフバリ」についての記事で、神話的なものがインド人の感性に深く根ざしているのではないか、ってな話を書いたのだけど、今回はそれに関連して一席。

インドの若者って実は結構メタル好き率が高いのではないかと思っていて、以前紹介したRolling Stone India誌が選ぶ2017ベストアルバム10とか、ベストミュージックビデオ10の中にも、今どきしれっとゴリゴリのデスメタルやスラッシュが選ばれるくらい。

というわけで、今回紹介するのはインドのペイガン・メタル!

とは言ってみたものの、みなさん、ペイガン・メタルって言葉はご存知ですか?

知らねえよなあ。

知らなくて普通です。

 

ヘヴィ・メタルという音楽は、その創生期から反キリスト教的、悪魔主義的なイメージを打ち出していたのは周知の通り。Black Sabbathとかね。

でもそれって、おそらく当初は反社会的、アンチモラルな感じで、かつ不気味でやばい感じのイメージ作りだったと思うんですよ(単なる悪趣味という気もしないでもない)。

ところがだんだん、本気で悪魔崇拝をし始めて、ビバ悪魔!地獄最高!ってな音楽を作る奴らが出てきた。

いわゆるブラック・メタルというやつですな。

屍体を模した白塗りのメイクをして(コープス・ペイントという)、トゲトゲのいっぱいついた黒い服を着て「地獄からやってきた悪魔だぜ!ギャー!」ってなお歌を歌う。

ひどい連中になると、悪魔主義の思想を行動に移して教会に放火したり、殺人を犯したりする奴も出てくる。何て奴らだ。

 ブラックメタル
 典型的なブラックメタルバンドはこんな佇まい

ところが、そのうち彼らは気づいたんでしょうな。

「あれ?悪魔って、キリスト教の中の概念じゃん。アンチ=キリストって言ってるのに、キリスト教が考え出した概念を歌ってるのっておかしくね?」と。

 

そこで彼ら(註:ブラック・メタルの本場、北欧のバンド達のことです)は考えた。

「キリスト教の考えた概念である悪魔について歌うんじゃなくて、キリスト教伝来以前の俺たちの独自の文化や信仰をメタルにしよう!これこそが真の反権威、反宗教だ!」と。

こういう思想の音楽をペイガン・メタルという。

同じような発想でできたジャンルにヴァイキング・メタルというのもあって、もちろん食べ放題のことを歌詞にしているのではなく、俺たちの古代の英雄たる海の覇者をメタルにしようって寸法だ。

 

で、インド。

北欧で「独自の文化」をブラック・メタル、デス・メタル的サウンドに乗せた連中がいたのと同じように、インドでも独自の文化、具体的には神話的ヒンドゥー世界をメタルにしたバンドっていうのがいる。

彼らはVedic Metalというジャンルで呼ばれていて、VedicというのはVedaの形容詞。世界史で習ったリグ・ヴェーダとかのヴェーダだ。

Vedic Metalというのはインドの古典である神話、伝承、哲学なんかをテーマにしたバンドということ。

 

前置きが長くなりました。まずはこちらをお聴きください、Rudra” Hymns from the Blazing Chariot”


 「オーム!」のマントラとタブラのイントロから、怒涛のメタル・サウンドに!

どうやらインドの超大作古典文学「マハー・バーラタ」をテーマにした曲の模様。

このビデオ、バーフバリみたいなドラマ部分もイカす。

考えてみれば、神々の戦いを描いたヒロイックな神話はヘヴィーメタルの題材にぴったりだよなあ。

ちなみにRudraというのはインド神話に出てくる暴風神とのこと。

Wikipediaによると、なになに、「『リグ・ヴェーダ』の中では彼はアスラとも呼ばれ、アスラ神族が悪魔とされる時代以前の名残りをとどめている。」

おおっ!インドのペイガン・メタルにぴったりのバンド名じゃないか!

 

続いての曲。The Down Troddence で、その名も”Shiva”


彼らは”Folk Metal”として紹介されることも多いようで、フォークっていっても南こうせつとかさだまさしじゃなくて、民間伝承メタルという意味だろう。

 

続いてDevoid”Brahma Weapon”

「神の武器」とでも訳したら良いのかな。

 

 

だんだんおなかいっぱいになってきたので、次で最後!

Bhairav ”Kaal ratri”

 

いつ歌が始まるのかと思っていたらなんとインストだった。230秒くらいからの展開が結構すごい。


さて、欧米のペイガン・メタルバンドが宗教的権威たるキリスト教への反発から悪魔主義、ペイガニズムに傾いていったのは最初の方に書いた通り。
それじゃあインドのVedic Metalはどういうところから出てきたのか。 

インドの最近の小説なんかだと、欧米文化に憧れつつも、物質主義的、功利主義的な考え方に反発する若者の気持ちというのが描かれていて、欧米で生まれたエクストリームミュージックにヒンドゥーの神話という組み合わせは、そういう西洋へのアンビバレンツな感情というところから出てきたものなんじゃないだろうか。
西洋から生まれた音楽のある種の究極と言えるデスメタル的なサウンドに乗せて、自分たちの文化的・宗教的なルーツを誇らしげ歌うというのは、矛盾と言えば矛盾だけどなんだかとっても面白い。

単に手近にあるものでこういうサウンドにふさわしいモチーフがヒンドゥー神話だったってだけかもしれないけれど。

 

本日の各バンド、改めて紹介します。

Rudraはインドではなくシンガポールのインド系のバンドで1992年結成。

あ!いきなりインド本国のバンドじゃなかった!インド系ではあるけど…。それにかなりの歴史があるバンドでした。
 rudra

かなり早い段階からこの音楽性を導入していたようで、幾度かのメンバーチェンジの末、現在はKathir – Vocals&BassShiva – DrumsSimon – GuitarsVinod – Guitarsのメンバーで活動している。

メタルとインド舞踊の融合といったかなーり斬新な試みもしているようだ。




The Down Troddence
2009年結成のケララ州のバンド。

the down troddence
このバンドには名前を見るとムスリムのメンバーも在籍しているみたいだ。

ヒンドゥー的なテーマを扱っていても反イスラム的な思想というのはないみたいで、そう考えるとインドの音楽シーンというのは本当に健全。

この”Shiva”のビデオはIndiGo South Asian Music Awardsのベストミュージックビデオ賞を受賞したとのこと。

 

Devoidはムンバイのバンドで、2005年に結成。
 devoid

反体制、宗教、戦争をテーマにしたデス/スラッシュ・メタルバンドらしいが詳しくは不明でした。

 

Bhairav2009年にデリーで結成されたバンドで、シヴァ神への絶対的な帰依を拠り所にしているという。
bhairav
音楽的には80年代のスラッシュメタルに影響を受けているようだ。

 

日本に縄文メタルとか無いし、アメリカにもインディアンメタル(あれ?インドのメタルになっちゃったけど)というのは無い(知る限りでは)。

「メタル」というすでにそれ自体が強烈な個性を放つジャンルすらも自らの伝統的世界観に取り込んでしまうインド。さすが、懐が深いなあ。

 

と思ったら、モンゴルのメタルバンドというのも凄かった!

https://gakkimania.jp/freak/1174

 

いやはや世界は広いっすな。

 

 

追記:Vedic Metalのジャンルに括られるバンドとして、チェコのCult of Fire、ウクライナのAryadevaといった東欧のバンドもいる。

面白いところでは、ロシアのバンドでKartikeya というのがいて、彼らはインドの古典声楽(マントラみたいなもの?)と共演した楽曲なんかも発表している。"Kannada - Munjaaneddu Kumbaaranna"という曲。
 

なんかもう独特の世界だ(このバンド、普段は普通のデス声で歌っている)。間奏のギターソロは筋肉少女帯の橘高みたいだし。

なぜ非インド人である彼らがVedic Metalを標榜しているのかは不明だが、おそらくはインド-ヨーロッパをつなぐアーリア人主義的なものがあるのではないかと思われる。この考えを突き詰めるとナチズムに行き着くわけで(実際にブラック・メタルバンドには親ナチを表明しているバンドもいる)、Vedic Metalにはこういった危険な側面もあることも頭に入れておきたい。

入れておいてどうする、とも思うけど。



goshimasayama18 at 03:37|PermalinkComments(2)