バンガロール

2021年09月05日

あらためて、インドのヒップホップの話(その3 ベンガルール編 洗練された英語ラップとカンナダ・マシンガンラップ)


BangaloreRappers


インドのヒップホップを都市別に紹介するこのシリーズの3回目は、インド南部カルナータカ州の州都ベンガルール。
(日本では 「バンガロール」という旧称のほうがまだなじみがあるが、2014年に州の公用語カンナダ語の呼称である「ベンガルール」に正式に改称された)

デカン高原に位置する都市ベンガルールは、インドでは珍しく年間を通じて安定したおだやかな気候であり、イギリス統治時代には支配階級の英国人たちの保養地として愛された。
かつては「インドの庭園都市」という別名にふさわしい落ち着いた街だったようだが、20世紀末から始まったIT産業の急速な発展は、この街の様子を一変させてしまった。
1990年に400万人ほどだった人口は、今では1,300万人に迫るほどに急増。
世界的なソフトウェア企業のビルが立ち並ぶベンガルールは、ムンバイとデリーに次ぐインド第3の巨大都市となった。 


国際的な大都市にふさわしく、この街のヒップホップシーンには、英語ラップを得意とするラッパーが数多く存在している。

例えば、Eminemによく似たフロウでヒンドゥー教のラーマ神への信仰をラップするBrodha V.
コーラスのメロディーはラーマを称える宗教歌で、アメリカにクリスチャン・ラップがあるように、インドならではのヒンドゥー・ラップになっている。

Brodha V "Aatma Raama"

彼はこのブログでいちばん最初に紹介したラッパーでもある。


Siriは前回紹介したデリーのAzadi Records所属。
ムンバイのDee MCや北東部のMeba Ofiliaと並んで、インドを代表するフィメール・ラッパーだ。

Siri "Live It"



かつてはBodha Vと同じM.W.Aというユニットに所属していたSmokey the Ghostは、わりと売れ線の曲も手がけるBrodha Vとは対照的に、アンダーグラウンド・ラッパーとしての姿勢を堅持している。
彼はかつてマンブル・ラッパーたちを激しくディスったこともあり、90年代スタイルのラップにこだわりを持っているようだ。

Smokey the Ghost & Akrti "YeYeYe"

この"Hip Hop is Indian"は、インド全土のラッパーの名前やヒップホップ・クラシックのタイトルを、北から南まで、コマーシャルからアンダーグラウンドまでリリックに織り込んだ、インドのシーン全体を讃える楽曲だ。

Smokey the Ghost "Hip Hop is Indian"

ちなみに彼が所属していたM.W.Aは、言うまでもなくカリフォルニアの伝説的ラップグループN.W.A(Niggaz with Attitude)から取られたユニット名で、'Machas with Attitude'の略だという。
'Macha'はベンガルールのスラングで、「南部の野郎ども」といった意味だそうだ。



ベンガルールの英語ラッパーには、他の地域にルーツを持つラッパーも多い。
インド東部のオディシャ州出身の日印ハーフのラッパーBig Dealもその一人だ。
この"One Kid"では、彼が生まれ故郷のプリーではその見た目ゆえに差別され、ダージリンの寄宿学校にもなじめず、ベンガルールでラッパーとなってようやく自分の生きる道を見出した半生をそれぞれの街を舞台にラップしている。

Big Deal "One Kid"



インド南西部のケーララ州出身、テキサス育ちのHanumankindもベンガルールを拠点として活動する英語ラッパーだ。

Hanumankind "DAMNSON"


彼はジャパニーズ・カルチャー好きという一面もあり、この曲ではスーパーマリオブラザーズのあの曲に乗せて、Super Saiyan(スーパーサイヤ人)とか「昇竜拳」といった単語が散りばめられたラップを披露している。

Hanumankind "Super Mario"



ベンガルールで英語ラップが盛んな理由を挙げるとすれば、
  1. 世界中から人々が集まり、英語が日常的に話されている国際都市であるということ
  2. ベンガルールが位置するカルナータカ州の言語であるカンナダ語は、インドの中では比較的話者数の少ない言語であるということ(カンナダ語の話者数は4,000万人を超えるが、それでもインドの人口の3.6%に過ぎず、最大言語ヒンディー語の5億人を超える話者数と比べると、かなりローカルな言語である)
  3. 他地域から移り住んできたラッパーも多く、彼らは自身の母語でラップしてもベンガルールで支持を受けることは難しく、またローカル言語のカンナダ語もラップできるほどのスキルも持ち合わせていないと思われること
という3点が考えられる。

もちろん、ここに紹介したラッパーの全員が常に英語ラップをしているわけではなく、Siriは"My Jam"のコーラスでカンナダ語を披露しているし(全曲カンナダ語の曲もリリースしている)、Brodha Vもカンナダ語やヒンディー語でラップすることがある。
またBig Dealはオディシャ出身者としての誇りから母語のオディア語を選んでラップすることもあり、史上初のオディア語ラッパーでもある。



さて、ここまで見てきたような英語ラップのシーンは、じつはベンガルールのヒップホップのごく一面でしかない。
話者数の比較的少ないローカル言語とはいえ、もちろんベンガルールにはカンナダ語のラッパーも存在している。
そして、どういうわけかその多くが、リリックをひたすらたたみかけるマシンガンラップを得意としているのだ。
例えばこんな感じ。


MC BIJJU "GUESS WHO'S BACK"


RAHUL DIT-O, S.I.D, MC BIJJU  "LIT"

カンナダ・マシンガンラップの代表格MC BIJJU、そして、この曲で共演しているRAHUL DIT-O、S.I.Dもこれでもかという勢いのマシンガン・ラップ。
冒頭の寸劇で、コマーシャルな曲をやれば金になるが、コンシャス・ラップをしてもほとんど稼ぎにならない現状が皮肉たっぷりに描かれているのも面白い。


ぐっとポップな雰囲気のこの曲でも、フロウは少し落ち着いているものの、どこかしら言葉を詰め込んだようなラップが目立つ。

EmmJee and Gubbi "Hongirana"

ラッパーはGubbi.
南インドの言語(カンナダ語、タミル語、テルグー語、マラヤーラム語)はアルファベット表記したときにひとつの単語がやたらと長くなる印象があるが、おそらくそうした言語の特質上、カンナダ語のラップはマシンガンラップ的なフロウになってしまうのだろう。


変わり種としては、ちょっとレゲエっぽいフロウと、絶妙に垢抜けないミュージックビデオが印象的なこんな曲もある。

Viraj Kannadiga ft.Ba55ck "Juice Kudithiya"

この曲はカンナダ語のレゲトンとして作られたようで、リリックの内容は「これは酒じゃなくてジュースだ」という意味らしい。
カンナダ語ラップといっても、ハードコアな印象のものから、ポップなもの、コミカルなものと多様なスタイルが存在している。


いわゆるストリート発信のヒップホップとは異なるが、北インドにおけるバングラー・ポップ的な、カンナダ語のエンターテインメント的ダンスミュージックというのも人気があるようだ。

Chandan Shetty "Party Freak"

この曲の再生回数が4,000万回だというから、やはりRAHUL DIT-O, S.I.D, MC BIJJUの"LIT"のミュージックビデオのように、インドじゅう(というか世界中)どこに行ってもコンシャスな内容のものよりコマーシャルなものが人気なのは変わらない。

今回紹介した英語ラップのシーンとカンナダ語ラップのシーンは、別に対立しているわけではなく、それぞれのラッパーが共演することもあるし、またラッパーが曲によって言語を使い分けることもある。
IT産業で急速に発展した国際都市という顔と、カルナータカ州の地方都市という2つの顔を持つベンガルールは、これからも面白いラッパーが登場しそうな要注目エリアである。





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goshimasayama18 at 20:14|PermalinkComments(0)

2021年03月15日

ヒップホップで食べ歩くインドの旅

インドのヒップホップを聴いていて、気がついたことがある。
それは、「インドのラッパーは、やたらと地元の食べ物のことを扱う」ということだ。

ヒップホップにはレペゼンというカルチャーがあり、生まれ育った街やストリート、そして仲間たちを誇り、自慢するのが流儀とされているが、普通、食べ物はあんまり出てこない。
日本のヒップホップで例えるなら、愛知県出身のAK-69が味噌煮込みうどんやきしめんのことをラップしたり、横浜出身のMACCHO(OZROSAURUS)が崎陽軒のシウマイや家系ラーメンについてラップしたりするなんてことはまずないだろう。
本場アメリカでも、ニューヨークのJay-ZやNASとシカゴのカニエ・ウエストやコモンが「俺の街のピザのほうがうまい」とビーフを繰り広げるなんてことはありえないわけだが(当たり前だ)、インドのラッパーたちは、やたらと地元の食べ物のことをラップし、ミュージックビデオに登場させるのである。



まずは、私がこれまで見てきたなかでの「ベスト食べ歩きビデオ」に認定できる作品、ベンガルールのラッパーNEXの"Kumbhakarna"のミュージックビデオを見てほしい。
ソフトウェア企業のビルが立ち並ぶ国際都市としてのベンガルールではなく、庶民が集う飲食街を活写した映像は、インドの下町の食レポとしても十分に楽しめる。

ケバブ系の焼き物や、よくわからない炒め物、揚げ物などの屋台から始まり、味のあるカフェでタバコを燻らせながらチャイを飲む。
撮影場所はストリートフードの店が軒を連ねるShivaj Nagarという場所。
Twitterでこの曲を紹介したところ、なんと近所に住んでいるという方からリアクションがあった。


「ゴキブリと猫とネズミだらけだけど旨い」
…なかなかに気合の入ったエリアだ。

牛肉料理をふんだんに提供しているということ、イスラームの装束に身を包んだ人の姿が多く見られることから、この地域自体もムスリムが多く暮らす場所のようである。
食べ物屋以外にも、雑貨屋や生地屋など、下町のリアルな空気感がびんびん伝わってくる。

このNEX、よほどストリートフードが好きなようで、この'Eid Ka Chaand'では、牛の足を調理しているシーンから始まる。


Shivaj Nagar情報を教えてくれたBari Bari Bari Kosambariさんに伺ったところ、牛の足の煮込み「ビーフ・パヤ」の仕込みではないかとのこと。
ビーフ・パヤは「まだ日の出ぬ内から仕込んで市場の人が朝に食べる定番というイメージ」だそうで、こちらもリアルな地元感がたまらない。
3:20頃からは、今度は鶏肉を調理している様子が映される。

2本とも南アジアのイスラーム庶民の肉食文化の豊かさが感じられ、つい食べ物にばかり目が行ってしまうが、どちらもビートもラップもかなりかっこいい。
NEX, 今後もミュージックビデオともども注目のラッパーだ。


次の食べ歩きの舞台はハイデラーバード。
映画『バーフバリ』で有名になったテルグー語圏の中心都市で、インド料理好きにはビリヤニ(ビリヤーニー)の街として知られている。
この街のラッパーのミュージックビデオに登場するのももちろんビリヤニだ。

まず紹介するのは、Nawab Gangという地元のクルーから、AsurA, Lil Gunda, P$Ychloneの3人による"Flirt With Hyd". 

いかにもハイデラーバードらしいイスラーム建築が目立つ街並みを練り歩き、リクシャーにハコ乗りしながらラップするビデオは地元感覚満載!
撮影場所にヒップホップっぽいアメリカ的な「ストリート」ではなく、本当の意味で地元をレペゼンする場所を選ぶインドのラッパーたちのセンスにはいつもながら敬服する。
2:00過ぎからはピザ・ドーサ、2:30過ぎからはニハーリー(肉の煮込み)といったストリートフードの屋台が映され、3:10には満を持してビリヤニが登場!
一瞬だが、リリックでも確かに「チキン・ビリヤーニー、マトン・ナハーリー(ニハーリー)」と言っている。
彼らのユニット名の'Nawab'はかつて南アジアを支配していたイスラーム王朝の「太守」を意味する言葉だ。
ムガール帝国、ニザーム王国といったイスラーム王朝の都市だったこの街にふさわしい名前で、ロゴマークはムンバイのDIVINEのGully Gangを意識しているようでもある。


ハイデラーバードからビリヤニ・ラップをもう1曲。
Ruhaan Arshadというラッパーの"Miya Bhai Hyderabad".

チャイから始まり、ニハーリー(0:45頃)、そしてビリヤニは1:58頃に登場。(そのすぐ後にはケバブも出てくる)
これまでのミュージックビデオとはうってかわって、陽気な地元の兄ちゃんたちが盛り上がってるって感じの垢抜けない映像がほほえましい。
タイトルの'miya bhai'は'my brother'という意味の仲間に呼びかけるスラングらしい。(ウルドゥー語。ここまで紹介したラッパーが使用している言語は、よく分からんけどおそらくデカン高原一帯のムスリムに話されているデカン・ウルドゥーと思われる)
「みーや、みーや、みーやばーい」というサビが印象に残るこの曲は、2018年にリリースされて以来、なんと4億4000回以上も再生されている。
ハイデラーバードの人口が700万人弱であることを考えると、異常なまでの愛されっぷりだ。
たしかに耳の残る曲ではあるが、インド人の心を掴む特別な何かが込められているのだろうか…。


続いては、インド東岸、オディシャ州の海辺の町プリー。
これまでもたびたび紹介している日印ハーフのラッパーBig Dealによる世界初のオディア語(オディシャ州の言語)ラップ"Mu Heli Odia".



内陸部のベンガルールやハイデラーバードとはぐっと異なる、ひなびた海辺の街ならではの風景が楽しめる。
また、近くにジャガンナート寺院という大きなヒンドゥー寺院があるからか、サドゥー(ヒンドゥーの世捨て人的な行者)の姿が目立つのも印象的だ。
注目してほしいのは、2:20過ぎからの'Let 'em know that Rosogolla is from Odisha'(Rosogollaはオディシャで生まれたものだとやつらに分らせてやれ)という英語字幕で表されているリリック。
ここでRosogolla(おそらくオディア語の表記)と呼ばれているのは、ヒンディー語ではラスグッラー(Rasgulla)として知られている牛乳と小麦粉と砂糖で作られた甘いお菓子のこと。
初めてこのミュージックビデオを見た時から「地元の菓子をラップで自慢するなんて、いかにもインドらしいなあ」と思っていたのだが、小林真樹さんの『食べ歩くインド 北・東編』を読んで、ここには単なる郷土自慢以上の意味が込められていることに気づいた。

このラスグッラーの発祥をめぐって、オディシャ州とウエストベンガル州との間で裁判になるほどの論争があったというのだ。
ラスグッラーは一般的にはウエストベンガル州コルカタのKC Dasという菓子店によって有名になったとされているが、オディシャ州側は、もともとはプリーのジャガンナート寺院の供物として作られていたものだと主張(古くは15世紀の文献にRasagolaという菓子の記述があるという)。
ウエストベンガル側も、今日のラスグッラーは19世紀にDasが改良して普及したものだと主張し、一歩も譲らなかった。
結果、2017年にラスグッラーはウエストベンガル州に帰属する(ただし、オディシャ州でも製造方法や独自の特徴を明記すればラスグッラーの名称を使用可能とする)という判決が下されたという。
この曲がリリースされたのはその判決が出る直前で、つまりBig Dealはこのリリックを通じてラスグッラーの正統なルーツを主張していたのだ。

これに対してコルカタのラッパーが「ラスグッラーは俺たちのものだ」とアンサーしたりするとなお面白かったのだが、今のところそうした動きはない模様。
コルカタ愛の強いCizzyあたりに、ぜひ仕掛けてもらいたいものである。



続いては、インド西部に足を延ばし、タール砂漠が広がるラージャスターン州を食べ歩こう。
こちらも以前紹介したことがある曲だが、青く塗られた石造りの家が立ち並ぶ「ブルーシティ」ことジョードプルのラップユニットJ19 Squadによる"Mharo Jodhpur".


1:00頃に出てくる料理に注目。
真ん中に置かれたボール状の食べ物が置かれたターリーは、ダール・バーティーと呼ばれるもので、チャパティと同じ生地を団子状にして加熱したバーティーと豆カレーのダールを合わせたもの(リリックでも確かに「ダール・バーティー」とラップしている)。
この地方を代表する料理で、「食べ歩くインド 北・東編」によると、大量の乾燥牛糞を燃やした中にバーティーの生地を投入してローストし、灰や土で蓋をして焼き上げ、最後にギー(精製した発酵バター)をくぐらせて作るこの地方独特の食べ物だという。
その後に出てくるのはミルチ・バダと呼ばれるジョードプル名物のストリートフードで、青唐辛子とジャガイモやカリフラワーをスパイスやバターを合わせた生地でくるんで揚げたものだ。
J19 Squadは他のミュージックビデオでは銃をぶっぱなしたりしているかなりコワモテな連中だが、やはり地元の食べ物には人一倍の誇りを持っているのだろう。

探せばまだまだありそうだが、今回の食べ歩きの旅はここまで。
地域や食文化はさまざまだが、いずれの楽曲からも、「これが俺たちの血や肉を作っているんだ」という誇りと自負が感じられるのがお分かりいただけただろう。

他にも、ヒップホップではないが、ケーララ州には地元の名物料理の名前を冠したAvialというバンドもいるし、とにかくインドのミュージシャンの地元料理愛には驚かされるばかり。
コロナ禍でなかなか旅に出られない状況が続くけれど、また面白い食べ歩きミュージックビデオがあったら紹介してみたい。


ところで、今回の記事を書くにあたって、どんなにタイトルを考えても、小林真樹さんの名著「食べ歩くインド」(旅行人)に似てしまって仕方なかったので、この際リスペクトを込めて、思いっきりパクらせていただきました。
南アジアの食文化を、ここまで広く、深く、そして面白く紹介した本は世界中を探しても他にないはず。
ジャンルは違えどインドのカルチャーを掘る者としても、大いに刺激をいただいた一冊です。
未読の方は、ぜひ。



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goshimasayama18 at 20:41|PermalinkComments(0)

2021年02月21日

インドのスケートボードカルチャーを追う!

インドのスケートボードカルチャーに興味を持ったのは、この曲がきっかけだった。
この曲は、インドの最西端にあるグジャラート州のシンガーソングライターShashwat Bulusuによるものだが、ビデオの撮影場所は彼のホームタウンとは遠く離れたインドの東のはずれ、バングラデシュとミャンマーに挟まれた場所にあるトリプラ州だ。
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ミュージックビデオに出てくる若者の名前はKunal Chhetri.
人気の少ない街中や、トリプラの自然の中で、大して面白くもなさそうにスケートボードを走らせる彼の姿に、不思議と惹きつけられてしまった。
彼の退屈そうな表情やたたずまいに、強烈なリアルさを感じたのだ
例えば大都市の公園で得意げに次々にトリックを披露するような映像だったら、こんなに心に引っかかることはなかっただろう。
若者のカルチャーを成熟させてきたのは、いつだって退屈だったのではないだろうか。

このミュージックビデオを制作したのはBoyer Debbarma.
自身もスケーターであり、なんとインド北東部でスケートボードを専門に撮影するHuckoというメディアを運営しているという。
BoyerがShashwatの音楽に興味を持ってコンタクトしたところ、ShashwatもBoyerの映像をチェックしており、今回のコラボレーションにつながったそうだ。

BoyerのHuckoによる映像の一例を挙げると、こんな感じである。
異国情緒から始まる映像は、スケートボードを楽しむ若者たちが登場した途端に、見慣れた退屈と刺激が交錯する世界へと変質する。
もはやストリートカルチャーには、国籍もバックグラウンドも全く関係ないことを改めて実感させられる映像だ。
それにしても、ヒンドゥーの修行者で世捨て人であるサドゥーとスケーターの若者がチラム(あの大麻吸引具)を回し喫みするインドって、ものすごくクールじゃないか。

考えてみれば、ヒップホップがかなり定着しているインドなら、同じくストリートカルチャーの代表的存在であるスケートボードがすでに根付いていても不思議ではない。
というわけで、今回はインドのスケートボードカルチャーについて調べてみた。


インドのスケートボードカルチャーの歴史はまだ浅く、2000年代以降に欧米のスケーターたちがバックパッカーとしてインドを訪れたことによって、その種が撒かれたようだ。
そのなかでも特に重要な役割を果たしたのが、イギリス人スケーターのNick Smithだ。
インドのカルチャー系ニュースサイトHomegrownのインタビューに対して、Nickはこう語っている。
「俺が10歳の頃、イギリスにはボードなんてなかったから、スーパーマーケットの裏から盗んだ台車で坂道を走っていた。その頃からスケートボードに夢中なんだ。インドでのスケートボード普及に力を注いできたのは、あの夢中だった頃を思い出すからだよ」

インドで最初のスケートパークは、NickがVansのサポートを受けて2003年にゴアに作った'Sk8 Goa'だった。
温暖な海辺のゴアに、欧米の寒い冬を避けて多くのスケーターが訪れるようになった。
ロックやクラブミュージックと同様に、スケートボードでもゴアが欧米の若者文化とインドとの接点となったのだ。

Nick Smithのインドでの活動は、欧米人スケーターのためのものだけではなかった。
この新しいスポーツ/ストリートカルチャーに夢中になった若者たちのために、彼は2010年にベンガルールでインドで最初のスケートボードチーム'Holy Stoked'を結成する。
彼はベンガルールにもPlay Arena(2011年)、Holy Stoked Epic Build(2013年)という二つのスケートパークを設立した。

その後、Nickは活動方針の相違などからHoly Stokedを離れ、新たにAdvaita Collectiveというクルーを結成したそうで、彼のスケートボード初期衝動を追求するインドの旅は、まだまだ終わらないようだ。

Nickがすでに離れた後だと思うが、'Holy Stoked'が2017年に公開した動画がこちら。
BGMはSuicidal Tendenciesとかのスケーターパンク。
分かってるなあ!

ヒップホップ同様、スケートボードに関しても2010年以降にインド各地で同時多発的にシーンが形成されたようだ。
現在ではあらゆる街にスケーターたちがいるようで、この動画は'Hindustan Times'が2015年にデリーのシーンを特集したもの。

ムンバイのヒップホップクルー、Munbai's Finestが2016年にリリースした"Beast Mode"にもスケートボードやランプが登場する。

インドのスケートボードカルチャーは既に一部で注目されているようで、日本語で検索してもいくつかの記事がヒットする。
とくに、ドイツ人女性がインド中部マディヤ・プラデーシュ州の小さな街ジャンワルに設立した無料のスケートパークJanwaar Castleの取り組みは複数のメディアで取り上げられている。

このJanwaar Castleは単なる遊び場ではなく、子どもたちの教育の普及にも役立てられており、利用の条件は「学校にきちんと行くこと」。
ヨガのレッスンも行われていて、また「女性を大事にすること」も教えられているという。

以前、ムンバイ最大のスラム地区ダラヴィで、ヒップホップダンスを通じて子どもたちに誇りを教えようとする取り組みを紹介したが、ストリートカルチャーがインドでは社会を良くするための運動に組み込まれているというのはとても意義深いことだと感じる。


Amazon Indiaで調べたところ、インドでは(クオリティーは別にして)スケートボードは1,000ルピー(1,500円程度)以下のものもあるようで、若者でも気軽に始められる趣味なのだろう。

文中で紹介したSk8 GoaやHoly Stoked Epic Buildは残念ながらクローズしてしまったようだが、インド各地に大小さまざまなスケートパークが存在しているようだ。

もしあなたがスケートボードを趣味にしているなら、コロナが落ち着いたらバックパックに愛用のスケートを括り付けて、これらの街を旅してみるなんていうのも素敵なんじゃないだろうか。
言葉のいらない趣味で異国の仲間たちと通じ合えるなんて最高だ。

これ以外に、変わったところではジャールカンド州のラーンチーにもスケートパーク(少なくともスケーターのグループ)があるようだ。
本当にインドのあらゆる地域の都市にラッパーとスケーターがいる時代になったのだなあ、としみじみと思う。


最後に、最初に紹介したShashwat Bulusuの曲をもう少し紹介したい。
彼はスケーターのために特化した音楽を演奏しているわけではないが、退屈さと情熱が心地よく融合した彼の歌声は、やはり都市の空気感を感じさせるものだ。

以前紹介したPrateek KuhadRaghav Meattleのように、インドではここ数年、非常に実力のあるシンガーソングライターも育ってきている。
Shashwatもまた注目すべき才能の一人だと言えるだろう。
インドの都市文化は、我々が知らないところで大きく変わりつつあるようだ。
(もちろん、良くも悪くも変わらない部分がどっしりとしているのもまたインドなのだけど)



参考サイト:

https://homegrown.co.in/article/804618/the-sunset-by-vembanad-juxtaposes-north-east-s-beauty-skateboarding-with-folk-pop

https://homegrown.co.in/article/800597/highlight-reel-the-evolution-of-skate-culture-in-india

https://homegrown.co.in/article/51995/meet-an-organisation-that-has-brought-skateboarding-to-rural-india-2

https://homegrown.co.in/article/44424/indias-skate-map-a-look-at-all-17-skateparks-across-the-country

https://homegrown.co.in/article/800809/we-profiled-5-of-india-s-most-interesting-sneakerheads

https://www.redbull.com/in-en/five-surprising-facts-about-indian-skateboarding

https://homegrown.co.in/article/10944/evolving-indias-skateboarding-culture-an-interview-with-nick-smith

http://www.caughtinthecrossfire.com/skate/features/death-in-goa/

https://neutmagazine.com/Ulrike-Reinhard-India





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2020年02月11日

Daisuke Tanabe氏にインドのクラブシーンについて聞く!

おそらくは、日本のコンテンポラリー・ミュージックの世界で、最も多くインドでの活動を経験しているミュージシャンだろう。

Daisuke Tanabe — 世界的に活躍する電子音楽アーティストである彼は、2016年を皮切りに、これまでに3度のインドツアーを行っている。
のみならず、2018年にはムンバイのエレクトロニカ系レーベルKnowmad RecordsからEP "Cat Steps"をリリースするなど、彼とインドのシーンとのつながりは、非常に深いようである。
つい先月もインド4都市でのライブを行ったばかりのTanabe氏に、メールでインドのクラブミュージックシーンについて聞いてみた。

DaisukeTanabe

Tanabe氏とインドの音楽シーンとの最初の接点は、2016年にムンバイのエレクトロニカ・アーティストKumailのリミックスを手掛けたことだったという。
Kumailと「いつかインドでライブができたらいいね」と話していたところ、さっそくその年に最初のインドツアーが決定した。
Daisuke Tanabe、初のインドツアーは、'Magnetic Fields Festival'への出演と、ムンバイ、ベンガルール、プネーの3都市を回るものだった。
実際に訪れてみると、インドにはすでに彼の音楽を長く聞いているリスナーが大勢おり、大歓迎を受けたという。
これまで何度もこのブログで書いてきた通り、コアなファンを持つジャンルや、「音の響き」そのものが重視される音楽では、国籍や国境はあまり意味を持たない。

Tanabe氏自身も意外だったという大歓迎は、彼の音楽のスタイルと、そして質の高さが、国や文化の壁を軽々と超えるものだということの証明と言えるだろう。
ちなみに彼以外にインドでのライブを経験している日本人アーティストには、フィールドレコーディングによる音源を再構築してユニークなサウンドを作るYosi Horikawa、ポストロックのMono、デスメタルの兀突骨などがいる。
いずれも唯一無二の「音の個性」を持ったアーティストばかりである。

Knowmad RecordsからリリースされたEP"Cat Steps".

繊細かつ自由。
リズム、ハーモニー、ノイズが気まぐれに、しかし美しく展開する作風はまさにCat Stepsのタイトルにふさわしい。

Kumailの"Bottom Feeder"のDaisuke Tanabe Remixは、叙情と混沌と美の2分半だ。

Daisuke Tanabeのインドでの最初のライブは、ラージャスターン州の砂漠の中の宮殿で行われる電子音楽系のフェス、Magnetic Fields Festivalだった。
インドらしい異国情緒と国内外の先端的な音楽が融合した、かなりユニークなフェスティバルだ。
Sunburn, VH1 Supersonic, NH7 Weekenderなど、近年大規模な音楽フェスが増えているインドだが、ローカルの伝統文化と新しい音楽を融合するという発想のフェスは珍しい。
彼が出演した2016年のアフタームービーからも、その独特な雰囲気が感じられる。


このMagnetic Fields Festivalは、チケットがかなり高額なフェスであるため、Tanabe氏曰く、客層は裕福そうな人が多く、オーディエンスのマナーもとても良かったとのこと。
日本では音楽ファンにもインド好きにもまだほとんど知られていないイベントだが、伝統的なインドと最先端の音楽シーンをかなり面白い形で体験できる、素晴らしいフェスティバルのようだ。
(かつての記事でも少し紹介しているので、興味のある方はこちらもどうぞ)


2018年の9月には、リリースしたばかりの"Cat Steps"を引っさげて、ニューデリー、ムンバイ、バンガロール、プネーを回る2度目のインドツアーを挙行。
今年1月のツアーでは、ムンバイ、バンガロール、ニューデリーに加えて、ゴアでのライブも行った。

Tanabe2018tour
和の要素を感じさせるフライヤーがクールだ。
Tanabe2020Tour

ヨーロッパ各国や中国など、さまざまな国でのライブ経験のあるTanabe氏に、インドのオーディエンスの印象について聞いてみたところ、「最初から最後までとにかくよく踊る」とのこと。
国によってはアーティストの動きにかぶりつくところもあれば、じっと音楽に耳を澄ますオーディエンスが多いところもあるそうだが、「インドはとにかく反応が良い」そうだ。
インド映画を見れば分かる通り、インド人は筋金入りのダンス好きだ。
インドに行ったことがある人なら、子どもたちがラジカセから流れる映画音楽に合わせて、キレキレのダンスを踊っているのを見かけたことがある人も多いだろう。
インドでは、大衆映画のファンから、クラブに来るような新しい音楽のファンまで、とにかく踊りまくる。
すばらしい国ではないか。

インドの都市ごとのシーンの印象について聞いてみたところ、あくまでも彼がライブを行った場所の印象だとことわったうえで、こう語ってくれた。

「ムンバイはインドの中でも特にパーティ好きと言うか、眠らない街という印象」、「デリーも大都市の雰囲気があるが、シーンに関してはムンバイよりある意味で大人な雰囲気」、そして「バンガロールはインドのローカルアーティストに聞くと、こぞって実験的な音楽に対しても耳を開いているという返事が返ってくる」そうで、今回初めて訪れたパーティーシーズンのゴアは、「オーディエンスの外国人率が他の都市と比べてダントツに高く、緩い雰囲気ではあるものの、やはり真剣に聴いてくれる印象」とのことだった。

このコメントは非常に面白い。
というのも、Tanabe氏が語るそれぞれの都市の印象が、各都市の歴史的・文化的な特徴とも重なっているように思えるからだ。
ムンバイはインド最大の都市であり、娯楽の中心地。ボリウッドのようなメインストリームの音楽からアンダーグラウンドなヒップホップ、エレクトロニック系、ハードコアまで様々なサウンドが生まれる土地である。
首都デリーは、古くから様々な王朝が栄えた文化的都市。インドで最初の国産電子音楽ユニットであるMIDIval Punditzやインド発のレゲエユニットReggae Rajahsなど、洗練されたセンスを感じさせるアーティストを多く輩出している。
バンガロールは20世紀末からIT産業によって急速に発展した国際都市で、音楽的にはポストロックなど、実験的なバンドが多い印象である。
そして、ゴアは古くから欧米人ヒッピーたちに愛されたリゾート地で、言わずと知れたゴア・トランスの発祥の地だ。

「ゴアは未だにトランスのパーティーも盛んなようで、興味深かったのは土地柄的にインドの人が最初に耳にする電子音楽はトランスが多い」というコメントも面白い。
ゴアはかつて西洋人のヒッピー/レイヴァーたちのトランスパーティーの世界的な中心地だったが(今でもHilltopやShiva Valleyというトランスで有名なヴェニューがある)、2000年頃からレイヴへの規制が強化され、外国人中心のパーティーと入れ替わるように、インドの若者たちが自分たちの音楽文化を作りあげてきたという歴史を持っている。

(ゴアの音楽シーンの歴史については、この3つの記事にまとめている) 



Tanabe氏は「実は以前はトランスも聴いていたので、インドでの人気の理由にはそこら辺の根っこの部分で近いものを感じ取っているのかもしれない」と述べている。
彼の有機的かつ刺激的なサウンドのルーツに実はトランスがあって、それがインドのオーディエンスにも無意識的に伝わっているとしたら、偶然なのか必然なのかは分からないが、音の持つ不思議な「縁」を感じさせられる話ではある。

また、Tanabe氏から聞いた各都市の「風営法」についての情報も興味深かった。
ムンバイでは、クラブイベントは深夜2時ごろまでに終了することが多いようだが、近々条例が改正され、さらに長時間の営業が可能になる見込みだという。
一方、バンガロールでは、つい最近まで音楽イベントに対する規制がかなり強かったようで、現在では緩和されているものの、そうした事情を知らない人も多く、イベントを行うこと自体が難しい状況もあるという。
バンガロールでは、昨年、地元言語であるカンナダ語以外の言葉でラップしていたミュージシャンが、観客からのクレームで強制的にステージを中止させられるという事件も起きている。
ITバブル以降急速に発展したバンガロールでは、実験的な音楽が好まれるシーンがある一方で、まだまだ保守的な一面もあるということがうかがえる。

インドの音楽シーンを俯瞰すると、中産階級以上の新しいもの好きな若者たちが新しい音楽を積極的に支持している反面、宗教的に保守的な層(ヒンドゥーにしろ、イスラームにしろ)は、享楽的な欧米文化の流入に強い危機感と反発を抱く傾向がある。
実際、EDM系の大規模フェスであるSunburn Festivalはヒンドゥー原理主義者からの脅迫を受けているし、人気ラッパーのNaezyは父親から「ラップはイスラーム的に許されないもの」と言われていたようだ。(Naezyの場合、結局、ラップはイスラームの伝統的な詩の文化に通じるもの、ということで、お父さんには理解してもらえたという)
こうした文化的な緊張感が、様々な形でインドの音楽シーンに影響を与えているようだ。


Daisuke TanabeがムンバイのKnowmad Recordsから"Cat Steps"をリリースした経緯については、こちらのblock.fmの記事に詳しい。

「リリースして誰かに聴いてもらうということには変わりないし、今はもうどこの国からリリースしたっていうのはほとんど関係ない時代」という言葉が深い。
インターネットで世界中がつながった今、優れた音楽であれば、あらゆる場所にファンがいるし、またコアな愛好家がいるジャンルであれば、あらゆる場所にアーティストがいる。
Tanabe氏はこれまで、日本のCirculationsやイギリスのBrownswood、ドイツのProject: Mooncircleといったレーベルから作品をリリースしてきたが、今回のKnowmadからのリリースによって、インドのファンベースをより強固なものにすることができたようである。
勢いのある途上国のレーベルからリリースすることは、メリットにも成りうるのだ。

Tanabe氏は、特段インドにこだわって活動しているというわけではなく、ファンやプロモーターからのニーズがあるところ、面白いシーンがあるところであれば、国や地域の先入観にとらわれず(つまり、欧米や先進国でなくても)、どこにでも出向いてゆくというスタンスなのだろう。
そんな活動のフィールドのなかに、当たり前のようにインドという国が入ってくる時代が、もう到来しているのだ。

Tanabe氏とのやりとりで印象に残った言葉に、「インドのアーティストやプロモーター、オーディエンスと会話すると、海外からのステレオタイプなインド像を覆してやるという気概みたいなものもよく見受けられる」というものがあった。

インドの音楽と聞いてイメージするものといえば、映画音楽か伝統音楽という人がほとんどで、電子音楽やポストロック、メタルなどを思い浮かべる人はとても少ない。
今では、インドにもこうしたジャンルの面白いアーティストがいるし、熱心なファンもいる。
彼らには新しいインドの音楽シーンを作っていこうという熱意と気概があり、すでにMagnetic FieldsやSunburnのような大きなイベントも行われている。

何が言いたいのかというと、日本の音楽ファンやアーティストも、インドをはじめとする途上国のシーンにもっと着目したほうが面白いのではないか、ということだ。
まだ形成途中の、熱くて形が定まっていないシーンに触れられることなんて、日本や欧米の音楽だけを聴いていたら、なかなか味わえないことだ。
まして、インドは「とにかく踊る国」である。
こんな面白い国の音楽シーンを、放っておく手はない。



…と、ここで記事を終わりにしても良いのだけど、とは言っても、いざ現地の音楽シーンを体験しに行こうにも、どこに行ったらよいのか分からないという人も多いだろう。
インドには、ヒップホップやテクノがかかるクラブもあれば、ボリウッド映画のダンスチューンがかかりまくるディスコみたいな店(これはこれで面白そうだが)もある。

というわけで、最後に、Tanabe氏に聞いたインド各地のクラブ情報をお届けしたいと思います。


まずは、ムンバイから。
「どの都市にもライブ会場があり、僕が初めて訪れた時(25年ほど前とのこと)には想像もできなかった都市にもクラブがあったりします。お隣の国のネパールでもフェスティバルがあったりと、まだまだ行ってみたい会場や国はたくさんですが、知っている都市の中ではムンバイが特にクラブに対して非常に精力的な印象でした。
僕が今回プレイしたAnti Socialという会場は他の都市にも支店ができて居るようで、情報も得やすいかもしれません。

他にもBonoboもよく名前を聞く会場の一つです。」



「デリーではSummer House cafeという会場でライブしましたが、こちらも音も良く、また料理も美味しいものが食べられます。」

(註:このSummer House Cafeはデリーの若者たちが集う、音楽や新しいカルチャーの中心地Hauz Khasに位置している)
 

「バンガロールでは前回、今回ともにFoxtrotという会場でライブしましたが、こちらも他の会場と同じく非常に良い雰囲気の中で、料理や飲み物が楽しめます。」



「ゴアは街を歩けばイベントのポスターが至る所に貼ってあるので、イベントを探すのは最も簡単だと思われます。ただイベントが多いのでお気に入りの場所を探すのには多少時間を要するかもしれません。

どの街も全く違った顔を持って居るのでどれか一つは選べないので、とりあえず今回訪れた会場を挙げてみました。」


とのこと!
インドでは、日本のような音楽がメインのクラブやライブハウスというものはあまり無いようで、どこもレストランバーやカフェバー的な、食事と飲み物も楽しめるようなお店になっている。
今回紹介したようなお店は、現地ではオシャレスポットなので、いかにもバックパッカーのようなヨレヨレの格好で行くのは控えたほうが良いかもしれない。
 
お店にもよるが、イベントによっては、ロックやヒップホップ、はたまたスタンダップコメディの日なんかもあるみたいなので、訪れる前にホームページをチェックして、好みのジャンルのイベントを狙って行くことをオススメする。
ムンバイに関しては、現地在住のHirokoさん、ラッパーのIbex、ビートメーカーのKushmirに聞いた情報も参考になるはず。(この記事で紹介されています)


次にインドを訪れるなら、ぜひ現地の音楽シーンの熱さも味わってみては!



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goshimasayama18 at 22:55|PermalinkComments(0)

2019年09月18日

バンガロールのエコ・フレンドリーなフェス Echoes of Earth

インドでは、経済成長と音楽の趣味の多様化にともない、ここ10年ほどで急速に音楽フェス文化が発展している。
ゴアで始まったSunburnのようにとにかく大規模で派手なもの、ラージャスターンのMagnetic Fieldsのように異国情緒を全面に押し出したセレブ路線のもの(この2つはEDM/エレクトロニック系のフェスティバル)から、ムンバイのControl ALT DeleteやアルナーチャルのZiro Festival(この2つはどちらかというとロック中心)のようにインディーであることにこだわったマニアックなものまで、インドでは様々なタイプの音楽フェスが楽しめる。

今回紹介するのは、バンガロール郊外で12月に行われる'Echoes of Earth'.
音楽だけでなく、環境問題にも焦点を当てた、非常にユニークなフェスティバルだ。

Echoes of EarthのFacebookページによると、このフェスは「音楽と大地の祭典」であり、「持続的な生活が必要であるということへの気づきを促すためのフェスティバル」で、「インドで最も環境に優しいフェスであり続けている」という。
国内外40以上のアーティストが出演するこのフェスでは、運営側はリユース、リデュース、リサイクルを心がけ、痕跡を残さないことをポリシーにしているそうだ。
このフェスティバルは、Swordfish Events & Entertainmentという地元のプロモーターと、Watson'sというパブが共同で運営しており、2016年以降、毎年11月または12月の2日間にわたって開催されている。 


ご覧いただいて分かるとおり、アメリカの「バーニング・マン」のような、ヒッピームーブメントの流れをくむアート系のフェスティバルの雰囲気を持っている。
ステージや会場じゅうの巨大なモニュメントがとても印象的だが、これらのうち80%がリサイクル品や不要品によって作られているという。
また、会場全体でプラスチックの使用を禁止しており、ステージの電力もソーラーでまかなっているというから本格的だ。

出演アーティストはロック、ジャズ、エレクトロニック、ポップ、フュージョン、テクノ、伝統音楽と幅広く、音楽だけではなく、アートやローカル文化のショーケースや様々なワークショップなどが行われる、複合的なフェスのようだ。

2018年はフランスのマルチ・インストゥルメンタリストFKJを筆頭に、カナダのTennyson、イギリスのIglooghost、 LAのDJのAwesome Tapes of Africaといった海外勢に加えて、When Chai Met Toast、Ape Echoes、Aditi Ramesh、Duelist Inquiry、Malfnktionらの上質で先鋭的な国内アーティストも出演しており、毎年非常にセンスが良いラインナップを揃えている。
EchoOfEarth2018

2000年頃の、会場が苗場に移ったころのフジロック(もしくは朝霧JAM)のような、自然の中でピースフルな雰囲気が楽しめるフェスのようで、その点は以前紹介した北東部アルナーチャル・プラデーシュ州のZiro Festivalにも似ているかもしれない。

2018年のEcho of Earthから、インドのエレクトロニック・バンド、Duelist Inquiryのライブの様子。


2018年のアフタームービー。


どう見たって、これ、最高じゃないか。 
  
インドのフェス文化は、中産階級が趣味にお金を使えるようになったことで発展した典型的な消費文化という側面が強いが、それだけではなく、こうした社会への問題意識やメッセージ性を持ったイベントもあるというのは素晴らしい。

インドの場合、社会意識の高いインディーアーティストも多く、60年代の欧米のように、音楽がカウンターカルチャーとしての使命感をいまだに持っているようだ(世界中の他の地域と同様に、商業主義の音楽は思いっきり商業主義だが)。


また、これまでにも紹介してきたように、例えば、ヒップホップヘヴィメタルのように、ひとつのジャンルのもとに、さまざまな宗教やコミュニティの人々が、垣根を超えてシーンを形作っているというのもインドのシーンの美しいところだ。
資本主義の歯止めが効かなくなり、分断が進む今日のインド(というか、世界)の中で、音楽を通してひとつの理想的なコミュニティーが形成されていると言ったら、ロマンチストすぎるだろうか。
いずれにしても、フェスは、そうした新しい価値観を持つ人々の祝祭の場でもあるのだろう。

またひとつ、行きたいインドのフェスが増えた。
1年くらい休みを取って、インドじゅうのフェスを回ったりできたら最高なんだけどなあ。


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goshimasayama18 at 20:23|PermalinkComments(0)

2019年09月14日

インドの新世代英語ラッパーが傑作アルバムを発表(その1)!Smokey The Ghost


これまで何度もこのブログで紹介してきたインドのヒップホップ。
大都市を中心としたインド各地でシーンが発展し、ヒップホップは短期間でストリートの若者たちのリアルな声を発信する音楽ジャンルに成長した。
埋めようのない格差や差別に対する反骨精神、そして伝統的なリズムとの融合など、興味深い点にはこと欠かないインドのヒップホップだが、本場米国のヒップホップを中心に聴いてきたリスナーにとっては、インドの地元言語のラップは少々とっつきにくく感じられるかもしれない。

これから紹介するラッパーは、そんなヒップホップファンにも自信を持って勧められるアーティストだ。
12億の人口と州ごとに異なる言語を擁し、英語も公用語のひとつであるインドには、英語でラップするラッパーたちも大勢いる。
そんなインドの英語ラッパーのうち、この夏に相次いで傑作アルバムを発表したアーティストたちを、これから2回にわたって紹介します。

まず紹介するのは、バンガロールを拠点としているSmokey The Ghost.
不思議な名前を持つ彼は、ローファイ/チルホップ的なトラックに英語でラップを乗せている、インドでは珍しいスタイルのラッパーだ。

まずは、今や飛ぶ鳥を落とす勢いのデリーのPrabh Deepと2017年に共演した"Only My Name"を聴いてみよう。
前半の英語のラップがSmokey、後半のパンジャービー語がPrabh Deepだ。
プロデュースはAzadi Recordsなどで活躍する新世代トラックメーカーのSez on the Beat.
とにかくアゲまくるボリウッド・ラップや、パーカッシブなトラックが特徴的なガリーラップと比べると、このSmokeyのメロウなヒップホップは、インドではかなり個性的なスタイルだ。

その彼が、つい先ごろ発表したニューアルバム"The Human Form"が素晴らしかった。
この楽曲はオープニングトラックの"The Return"

今回のアルバムのプロデュースは、バンガロールを拠点に活躍する二人組のAerate Soundが手掛けている。
彼らはヒップホップのトラックメーカーとしてだけではなく、エレクトロニック・ミュージックのアーティストとしても活躍しており、このアルバムでも、バラエティ豊かで面白いビートを提供している。


Smokey The GhostことSumukh Mysoreは、インド南部デカン高原の大都市バンガロールで生まれた。
ラッパーとしてのキャリアは長く、10代前半から詩作とヒップホップにのめり込んだ彼は、2008年にBrodha V、Bigg NikkとM.W.A(Machas With Attitude)というラップトリオを結成して活動を開始した。
このユニット名は、言うまでもなくDr.DreやIce Cubeらが在籍したカリフォルニアの伝説的ヒップホップグループN.W.A.(Niggaz With Attitude)のパロディである。
Machaという言葉はもともとはタミル語で特定の親族を指す言葉だったものが、カンナダ語(バンガロールのあるカルナータカ州の公用語)圏で「ブラザー」みたいな意味で使われるようになったものらしい。
メンバーのBrodha Vは、このブログのごく初期に紹介した、ヒンドゥーの信仰をテーマにした楽曲を発表しているラッパーだ。
「インドのエミネム? Brodha V」

Smokeyは、当初はアメリカっぽいアクセントの英語でラップしていたが、今では、アメリカ各地のラッパーがそれぞれ地元の訛りでラップしているように、南インド訛りのアクセントでラップすることにアイデンティティーを見出しているという。
2013年にはシャー・ルク・カーン主演の『チェンナイ・エクスプレス』の楽曲にも参加している。

このド派手ないかにもボリウッド風の楽曲には、SmokeyとBrodha V、そしてムンバイのアンダーグラウンドラッパーEnkoreも参加している。
この頃はまだ、ラッパーたちが音楽で稼ごうとしたら、こういうメインストリームの商業的な音楽に協力するしかなかったのだろう。
その後たった6年でのインドのシーンの発展には驚くばかりだが、6年前にまだまだアンダーグラウンドな存在だった彼らを起用したボリウッドのセンスも相当凄い。
エンタメ・ラップが中心だったインドのヒップホップシーンを大きく打開したのも、結局はボリウッド映画の『ガリーボーイ』がきっかけだったわけで、商業主義的であると批判されがちなインドの映画産業であるが、彼らの新しいサウンドへの目配りには、やはり一目置かざるを得ないだろう。

話をSmokeyことSumukhに戻す。
インドでは高学歴の兼業ミュージシャンが多いが、なんとSumukhは、以前は生物学者として国立生物科学センター(National Centre of Biological Science)で働いていたという超エリート。
今では医療機器会社の共同経営に携わっているという。

Sumukhは映画『ガリーボーイ』で注目を集めているようなスラムのラッパーたちとは対象的に、ブラーミン(バラモン)の裕福な家庭に生まれた。
古代の祭祀階級にルーツを持つと言われるブラーミンはカーストの最上位に位置する存在であり、保守的な人々には「インドでヒップホップなんてやる価値がない」と言われてきたそうだ。
「俺はブラーミンにも、ヒンドゥーにも、ムスリムにも、無神論者にも属していない。俺は“ヒューマン・コミュニティー”に属しているのさ」と語るSumukhは、ブラーミンの家に産まれながらも「反ブラーミン主義」を自認している。
この主義のために、おそらく保守的なカースト内の人々との軋轢もあったことだろう。
スラム出身ではない彼にも、ラッパーであり続けるための、インドならではの苦労や苦悩を経験しているはずだ。

この"When You Move"は、彼のアンチ・ブラーマニズムの思想を表明したもの。

サウンド的にもかなり面白い構造の楽曲だ。
今では家族の理解も得られ、母親も彼のことをSmokeyと呼んでいるという。

「自分はエンターテイナーではなくアーティストなんだ」と語る彼は、ソニーと契約したBrodha Vと袂を分かち、自分自身の表現を追求する道を選ぶ。

Rolling Stone IndiaがSmokeyに行ったインタビューによると、このアルバムは、作品全体が「抗議」であるという。
Smokeyいわく、アメリカのトランプ政権やインドのモディ政権、戦争や宗教といった政治的・社会的なテーマや、アルコール業界に牛耳られたインドの音楽シーン、宗教や恐怖心を利用してプロパガンダを行う政治家への怒りが表現されているそうだ

字幕をONにするとリリックを読むことができるので、ぜひ彼のメッセージにも注目してほしい。





アルバムに先駆けて発表されたこの"Human Error"もグローバル社会におけるさまざまな問題を扱った楽曲だ。


映画音楽や娯楽としてのダンスミュージックから始まったインドのヒップホップは、いまやローカル都市の路地裏から、グローバルな社会問題まで、あらゆるトピックを扱うジャンルに急成長した。

サウンド的にも面白く、楽曲のテーマにも普遍性があり、グローバル言語である英語でラップする彼の音楽が、もっと広く評価される日もそう遠くないかもしれない。

Smokey THe Ghostのニューアルバム"The Human Form"はこちらのSoundcloudからも全曲聴くことができる。

(Youtubeにも全曲アップされており、字幕機能をOnにするとリリックも読めるので、リリックを味わいたい方はYoutubeがおすすめ)


参考サイト
Rolling Stone India "Smokey the Ghost: ‘This Whole Album is A Protest’"
Homegrown "The Bangalore Rapper Who’s Also A Scientist – Meet Smokey The Ghost"

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2019年08月06日

インドのインディーズシーンの歴史その14 バンガロール出身の洋楽的ロックバンドThermal And A Quarter

VH1INDIAによるインドのインディー100曲
今回は、ここのところすっかりご無沙汰していた、インドのインディーミュージックの歴史を辿るこの企画の第14回目をお届けする。
今回紹介するのは1996年結成のロックバンド、Thermal And A Quarterだ。
現在のメンバーはBruce Lee Mani(ギター/ヴォーカル)、Rajeev Rajagopal(ドラム)、Leslie Charles(ベース)の3人。(ベーシストは何度か交代している)
これまで、この企画ではムンバイやデリー、あるいは海外在住のミュージシャンを紹介することが多かったが、前回紹介したMotherjaneは南部ケーララ出身、そして今回のThermal And A Quarterも南部、インドのシリコンバレーとして有名なカンナダ州バンガロール出身のバンドだ。
1990年代、インドのインディーミュージックシーンはまだまだ小さかったが、特定の都市だけではなく、インドじゅうの大都市で同時多発的に発展してきた。

彼らは96年に結成されたのち、カレッジ・フェスティバルなどで経験を積み、2000年にファーストアルバム"Thermalandaquarter.com"をリリース(IT都市として世界中で知られるようになってきていた当時のバンガロールらしいタイトル!)。
今回紹介されている'One Small Love'は彼らが2009年にリリースした楽曲だ。

5拍子の変則的なリズムの楽曲だが、インド音楽の要素は全くなく、英語ヴォーカルのメランコリックなロックソング。

彼らはインドのなかでも非常に洋楽的なサウンドを聴かせるバンドと言えるだろう。
彼らの音楽にはロック、ファンク、ジャズ、ブルース、プログレなど、さまざまな音楽の要素がミックスされており、曲ごと、アルバムごとに多様なルーツをハイブリッドした楽曲を聴かせてくれている。
2001年にはDeep Purpleの、2012年にはGuns'n'Rosesのバンガロール公演のオープニングアクトも経験するなど、その評価はキャリアを通じてかなり高いようだ。

ホーンセクションを導入したファンキーな楽曲、"MEDs"


こちらもホーンセクションを導入した、シカゴのようなブラスロックを思わせるポップナンバー"I Am Endorsed, And you?". この2曲はいずれも2015年のリリース。


同じ年の作品から、SNSに没頭する生活を皮肉っぽく歌った"Like Me".


現時点での最新曲はレイドバックしたグルーヴが心地よいLeaders of Men.
 
彼らは自分たちの音楽性を「バンガロール・ロック」と名付けており、今世紀に入って「世界のバックオフィス」となったバンガロールの不安をテーマにしたコンセプトアルバムなども発表しているようだ。

インドのバンドであることを全く感じさせない英語ヴォーカルの洗練されたロックは、国際都市バンガロールならではのサウンドだ。
同時代ではなく過去の音楽(70年代あたり)を参照する感覚は、日本の渋谷系にも通じるものがある。
ルーツとなる音楽への深い理解と、それを再現する高い演奏能力には驚かされるばかりだ。

インドの音楽シーンの懐の深さを毎回感じさせられるこの企画、次回は'00年代に国内盤も発売されていたデリーのエレクトロニカ・デュオMIDIval Punditzを紹介!
乞うご期待!

参考サイト:https://www.livemint.com/Leisure/34ncrjzZbr52LR75w1ivwM/QA-Thermal-and-a-Quarter.html

 

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2018年09月06日

インドで最大のロックフェス!NH7 Weekender!

先日、あまりにも面白いネタだったので、インド辺境の超通好みなフェス、Ziro Festivalを紹介してしまったが、よく考えたらいきなりダモ鈴木が出演する山奥のフェスティバルを取り上げるより先に、これがインドの盛り上がってる大規模都市型フェスですよ、っていうのを紹介するべきだった。

というわけで、今回はインドの大都市を巡って開催される大型フェス、NH7 Weekenderを紹介します。
このNH7 Weekenderは、イベントプロモーターOnly Much Louder の代表、Vijay Nairがイギリスのグラストンベリーのような音楽イベントをインドでも開催したいと思ったことがきっかけで始まったフェスティバル。
第1回目は2010年にマハーラーシュトラ州プネーで開催され、そのときからグローバル洋酒企業のBacardiが冠スポンサーとなってサポートしている。
マハーラーシュトラ州はインド最大の都市ムンバイを擁する州で、プネーはムンバイから車や鉄道で4時間弱の距離にある学園都市。
学生や若者が多く、独自の音楽シーンもあるこの街は、インドでフェスを行うのにぴったりの場所だろう。
第1回は37組のアーティストが出演し、海外からはイギリスのポップロックバンドThe Magic NumbersとUKインディアンによるAsian Dub Fundation(フジロックでもおなじみ)が参加した。
その時の様子がこちら。

ちょっと戸惑いながらも盛り上がるオーディエンスが微笑ましい。

その後、毎年の開催ごとに規模を拡大してゆき、プネー以外にもデリー(郊外のノイダ)、バンガロール、コルカタ、シロンなどでも開催されるようになった。
インドを代表する都市に加え、ここでも何度もこのブログで紹介している独自の文化を持った「インド北東部」メガラヤ州の州都シロンが入っていることに、北東部の音楽カルチャーの強さをあらためて感じる。

これまでに参加した海外のアーティストは、主なものだけでMark Ronson、Mutemath、Flying Lotus、Mogwai、Basement Jaxx、Imogen Heap、Steve Vai、Megadethなど。
ジャンルも年代も非常に多様性に富んだ顔ぶれだ。
いわゆるワールドミュージック的なジャンルからも、Wailers、Rodrigo y Gabriela、Seun Kutiなどのツボを押さえたアーティストを招聘しており、さらにはTalvin SinghやTrilok Gurtu、Karsh Kaleといった海外のシーンでも活躍しているインド系アーティストも多数出演している。
もちろん、出演者の大半を占めるのはインドのアーティストで、このブログで今まで紹介してきた中でも、Su RealDemonic RessurectionBlackstratbluesReggae RajahsSka VengersAgamSandunesTejasRhythm ShawDivineParekh and SinghAditi Rameshら、多くの実力派アーティストたちがパフォーマンスした。
2017年にはコメディアンが出演するステージも設けられ、Kunal Raoも出演したようだ。

最近のフェスの様子はこんな感じ。

規模もぐっと大きくなって、オーディエンスの盛り上がりっぷりも板についてきた。

メガラヤ州シロンでは、同じイベントでも大きく雰囲気を変えて、自然の中でのビッグフェスとなる。

これ、インド版のフジロックだなあ!行きたい。。。

この様子を見る限り、インドの音楽シーンはいつまでたっても映画音楽の一強だとか言われているけれど、インディーズシーンも十分に盛り上がってるじゃないですか。
これはおそらく、日本で洋楽聴いている人があんまりいないとはいってもフジロックやサマソニのような洋楽系フェスには大勢人が集まる、みたいなのと似ている状況なんじゃないだろうか。

そう考えてみると、ドメスティックな商業的音楽シーンがメインストリームでありながらも、サブカル的シーンにも根強いファンがいる日本とインドの音楽シーンって、結構似ているような気もする。

インドにはまだまだ素晴らしいフェスティバルがたくさんあるので、また改めて紹介します!
それでは!

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2018年08月25日

著作権は問題ないのか? バンガロールのバンドPerfect Strangersの凄いアイデアのMV!

バンガロールで活動している女性ヴォーカルの6人組ロックバンド、Perfect Strangers(2013年結成)が、新曲"Breaking Away"のミュージックビデオを公開した。
これが凄いアイデアで、思わず大丈夫なの?と心配になってしまうような映像作品!
公開できなくなる日が来るかもしれないので、大急ぎで紹介します。

それがこちら!

 見れば一目瞭然、お分りいただけたと思うが、古今東西のあらゆるミュージックビデオ、映画、ミュージカル映像、マラドーナ等の映像をつなぎ合わせて、さもスター達がPerfect Strangerの曲をパフォーマンスしているように見せるという驚愕のアイデア!
取り上げられている映像は、あまりにも多すぎていちいち名前を挙げていられないほどだけど、大物ミュージシャンとか名作のシーンばかりで、著作権関係がすっごく大変そうだけど、大丈夫なのかなあ。

よくYoutubeで名曲をカバーしたり、「踊ってみた」というのをアップしている人がいるが、彼らの場合、超有名人たちに「歌わせてみた」「踊らせてみた」という逆転の発想。
著作権とかの問題ないかどうかは別として、膨大な映像から曲に合う映像を探してきて編集した時間と労力を思うと頭が下がる。
っていうかむしろビデオが気になりすぎて楽曲が印象に残らないくらいだもの。
このビデオ、これだけの力作にも関わらず、まだ1,000viewちょっとだけど、もっとみんなに見てほしい!って気持ちと、みんなに見られたら削除されちゃうかも!っていうアンビバレントな感情になる。

彼らはロック、ジャズ、ポップ、ファンクを融合したジャンルを演奏するバンドで、他にはこんな曲をやっている。
"Selfie"

現代社会に生きる人々のSNS依存を皮肉った作品で、こちらもかなり見応えのあるビデオだ。 
プラハとバンガロールで撮影したそうだけど、こちらもまだ3,500viewほど。
制作資金はどこから出ているんだろう。
本業が別にあって儲かっているのか、実家がお金持ちなのか。
余計なお世話だけど少々気にならないでもない。

ところでみなさんは、このビデオにでてきているアーティストや作品、どれだけ判別できたでしょうか。
我が家で分かったのは32組でした!
順不同で、シャールク?、ジョー・サトリアーニ、ジューダス・プリーストの"Breaking the Law"のビデオ?、マイケル・ボルトン、ブライアン・アダムス、エアロスミス、ディオ、フレディ・マーキュリー、メタリカ、ジャック・ブラック、マイケル・ジャクソン、ロッド・スチュワート、マラドーナ、AC/DC、ブライアン・メイ、スティーヴ・ヴァイ、シド・ヴィシャス?、メイシー・グレイ、ブレンダ・ラッセル、デヴィッド・ボウイ、U2、ジャスティン・ビーバー、テイラー、スウィフト、アン・ヴォーグ、グウェン・ステファニ、ブルーノ・マーズ、マドンナ、アンドレ3000、アニー・レノックス、リック・アストリー、アヴリル・ラヴィーン、映画ハリー・ポッター。
ほかにも、「あー!これ知ってる!見たことある!誰だっけ!」というの多数。
ちょっとしたポップカルチャー検定試験みたいなビデオだよな…。

このPerfect Strangers、サウンドはちょっと頭でっかちなところがあるような気がするけど、演奏は上手そうだし、資金的なバックもありそうだし、これからの活躍(楽曲もだけど、主にビデオ)が楽しみなバンドではあります。

それではこのへんで!



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2018年08月12日

プログレッシブ・古典ミクスチャー・メタル? Pineapple Express!

どうもこんにちは。
軽刈田 凡平です。
さて、今回紹介しますのは、バンガロールのとにかく面白いバンド、Pineapple Express.
彼らは今年4月にデビューEPを発売したばかりの新人バンドなんですが、このブログの読者の方から、ぜひ彼らのことをレビューをしてほしい!とのリクエストをいただきました。
どなたかは知らぬが、おぬし、やるな。

Pineapple ExpressはDream TheaterやPeripheryのようなヘヴィー寄りのプログレッシブ・ロックやマスロックを基本としつつ、エレクトロニカからインド南部の古典音楽カルナーティック、ジャズまでを融合した、一言では形容不能な音楽性のバンド。
百聞は一見に如かず(聴くだけだけど)、まず聴いてみてください。彼らの4曲入りデビューEP、"Uplift".

01 - Cloud 8.9 0:00
02 - As I Dissolve 2:58
03 - The Mad Song 7:50
04 - Uplift 14:00

どうでしょう。
プログレッシブ・メタル的な複雑な変拍子を取り入れながらも、メタル特有のヘヴィーさやダークさだけではなく、EDMや民族音楽的なグルーヴ感や祝祭感をともなったごった煮サウンドは、形容不能かつ唯一無二。
結果的にちょっとSystem of a Downみたいに聴こえるところもあるし、トランスコアみたいに聴こえるところもある。
Pineapple Expressは中心メンバーでキーボード奏者のYogeendra Hariprasadを中心に結成された、なんと8人組。
バンド名の由来は、おそらくは2008年にアメリカ映画のタイトルにもなった極上のマリファナのことと思われる。

メンバーは、「ブレイン、キーボード、プロダクション」とクレジットされているYogeendraに加えて、
Arjun MPN(フルート)、
Bhagav Sarma(ギター)、
Gopi Shravan(ドラムス)、
Jimmy Francis John(ヴォーカル。Shubhamというバンドでも歌っている)、
Karthik Chennoji Rao(ヴォーカル。元MotherjaneのギタリストBhaiju Dharmajanのバンドメンバーでもある)、
Ritwik Bhattacharya(ギター)、
Shravan Sridhar(バイオリン。Anand Bhaskar Collectiveも兼任ということらしいが、あれ?以前ABCのことを記事に書いたときから違う人になってる)の8人。

8人もいるのにベースがいなかったり、ボーカルが2人もいたりするのが気になるが、2013年に結成された当初はトリオ編成だったところに、 Yogheendraの追求する音楽を実現するためのメンバー交代を繰り返した結果、この8人組になったということらしい。

1曲めの"Cloud 8.9"はプログレ的な変拍子、カルナーティック的なヴォーカリゼーション、ダンスミュージック的な祝祭感に、軽やかに彩りを添えるバイオリンやフルートと、彼らの全てが詰め込まれた挨拶代わりにぴったりの曲。
2曲めの"As I Dissolve"はぐっと変わって明快なアメリカンヘヴィロック的な曲調となる。
この曲では古典風のヴォーカルは影を潜めているが、彼ら(どっち?)が普通に歌わせてもかなり上手いヴォーカリストことが分かる。アウトロでEDMからカルナーティックへとさりげなくも目まぐるしく変わる展開もニクい。
3曲めはその名も"The Mad Song". 分厚いコーラス、ラップ的なブリッジ、さらにはジャズっぽいソロまでを詰め込んだ凄まじい曲で、このアルバムのハイライトだ。
途中で彼らの地元州の言語、カンナダ語のパートも出てくる。
こうして聴くとプログレ的な変拍子とカルナーティック的なリズムのキメがじつはかなり親和性の高いものだということに改めて気づかされる。
考えてみればインド人はジャズやプログレが生まれるずっと前からこうやってリズムで遊んでいたわけで、そりゃプログレとかマスロックとかポストロックみたいな複雑な音楽性のバンドがインドに多いのも頷けるってわけだ。
4曲めのタイトルトラック"Uplift"はフォーキーなメロディーが徐々に激しさと狂気を増してゆくような展開。

たった4曲ながらも、彼らの才能の豊かさと表現の多彩さ、演奏能力の確かさを証明するのに十分以上な出来のデビュー作と言える。

デビューEP発売前に出演していたケララ州のミュージックチャンネルでのライブがこちら。

よりEDM/ファンク的な"Money"という曲。
メンバー全員のギークっぽいいでたちが原石感丸出しだが、奏でる音楽はすでに素晴らしく完成されている。

日本でも公開されたボリウッド映画(武井壮も出てる)「ミルカ」ののテーマ曲のカバー、"Zinda"はライブでも大盛り上がり。



Yogheendraはこのバンド以外にも少なくとも2つのプロジェクトをやっていて、そのひとつがこのThe Yummy Lab.
インド音楽とキーボードオリエンテッドなプログレ的ロックサウンドの融合を目指す方向性のようだ。

演奏しているのは"Minnale"という映画の曲で、古典楽器ヴィーナの音色がどことなくジェフ・ベックのギターの音色のようにも聴こえる。

もうひとつのプロジェクトが"Space Is All We Have"というバンド。

このバンドはメンバー全員で曲を共作しているようで、Pineapple Expressとは違いインド音楽の要素のないヘヴィーロックを演奏している。


Pineapple Expressのヴォーカリスト、Jimmy Francis Johnと二人で演奏しているこの曲では、変拍子やテクニックを封印して、叙情的で美しいピアノを披露している。

どうだろう、とにかく溢れ出る才能と音楽を持て余しているかのようじゃないですか。
Yogeendra曰く、インドの古典音楽とプログレッシブ・ロックを融合させることは、意識しているというよりごく自然に出来てしまうことだそうで、また一人、インドのミュージックシーンにアンファン・テリーブル(恐るべき子供)が現れた、と言うことができそうだ。

今後の予定としては、スラッシュメタルバンドのChaosやロックンロールバンドのRocazaurus等、ケララシーンのバンドと同州コチのイベントで共演することが決定している模様。
kochirocks

Pineapple Expressが、少なくともインド国内での成功を収めるのは時間の問題だろう。
彼らのユニークな音楽性からして、インド以外の地域でももっと注目されても良いように思うが、プログレッシブ・メタル、インド伝統音楽、エレクトロニカというあまりにも対極な音楽性を融合したバンドを、果たして世界の音楽シーンは適切に受け止めることができるだろうか。
この点に関しては、試されているのは彼らではなくて、むしろ我々リスナーであるように感じる。
海外のフェスに出たりなんかすれば、一気に盛り上がって知名度も上がるんじゃないかと思うんだけど、どうでしょう。

Pineapple ExpressとYogheendraがこれからどんな作品を作り出すのか、インドや世界はそれにどんなリアクションを示すのか。
それに何より、この極めてユニークな音楽性のルーツをぜひ直接聞いてみたい。
これからもPinepple Express、注目してゆきたいと思います!
それでは! 

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「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」

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goshimasayama18 at 23:38|PermalinkComments(2)