ナガランド

2021年12月15日

2021年度版 インドのクリスマスソング特集!

もう12月も半ば。
この時期、2018年にはインド北東部ナガランド州のクリスマスソングを、昨年は同じく北東部メガラヤ州のクワイアが歌うクリスマスソングを紹介したので、今年は他の地域の曲を紹介したい。




…と思って調べてみたのだけど、正直に言うと、今のところ、そこまで素敵なクリスマスソングをインドで見つけることはできなかった。
これはどうしてかっていうと、キリスト教徒が多いインド北東部と比べて、メインランド(北東部の人たちは、アーリア系やドラヴィダ系の人々がマジョリティを占め、ヒンドゥー教やイスラーム教やシク教などが信仰されているインドの大部分をこう呼ぶ)にはそこまでクリスマスを祝う習慣が根付いていないからだろう。

なんて言うと、インドに詳しい人から「メインランドにもゴアやケーララ州にはクリスチャンがたくさんいるじゃないか」と言われてしまいそうだが、今回調べた限りでは、いわゆる西洋スタイルのポップミュージックとして聴けるいい感じのクリスマスソングは、ゴアやケーララでも見つけることができなかった。
(代わりに、宗教的なものや、インドの歌謡曲っぽいクリスマスソングはたくさん見つかったが…)
20世期に大々的にキリスト教への改宗が進められた北東部に対して、ゴアにキリスト教が伝えられたのは大航海時代だし、ケーララにいたっては1世紀に聖トマスがキリスト教を伝道したとも言われている。
つまり、ゴアやケーララのキリスト教(主にカトリック)は、長い歴史を持つがゆえに、欧米とは異なるインド独自の伝統を持っていて、それがウエスタン(西洋)・ポップス的なクリスマスソングを生まれにくくしているんじゃないだろうか。

インド北東部でクリスチャンが多いのは、もともとヒンドゥー教やイスラーム教よりもアニミズム(精霊信仰)が盛んだった地域だ。
こうした場所では、19世期から欧米の宣教師たちが入って改宗が進められ、ナガランド州やミゾラム州では、今では9割を超える人々がキリスト教を信仰するようになった。
ナガランド特集の記事でも紹介した、チャケサン・ナガ族の民謡と欧米的ポップスを融合した音楽性で知られるTetseo Sistersは、昨年のクリスマスに"Joy to the World"をリリースした。



顔立ちや伝統的なアクセサリーを見ないで音だけ聴けば、インドのシンガーだと思う人はほとんどいないだろう。

こちらはチャケサン・ナガの伝統的歌唱スタイルのクリスマスソング。


いつの間にかメンバーが一人脱退しているっぽいのが気になるが、ドキュメンタリー映画『あまねき旋律』でも紹介された伝統唱歌'Li'を思わせる素朴な歌声が心地良い。


北東部以外に、欧米ポップス的なクリスマスソングが皆無なわけではない。
ムンバイ出身のGwen Fernandesは、昨年クリスマスアルバム"The Best Christmas Ever"をリリースした。


名前を見る限り、彼女もクリスチャンのようだが、大都市ムンバイのクリスチャン・コミュニティで育った彼女にとって、こうした欧米のスタンダードなクリスマスソングは、慣れ親しんだものなのだろう。

こちらもクリスチャンっぽい名前のデリーのシンガー、Kimberley Rodriguesがリリースしたオリジナル曲。



インドでは、クリスチャン・コミュニティ以外にも、非宗教的なオシャレイベントとしての(いわば、日本的な)クリスマスが都市部を中心に広まりつつあるようで、例えば昨年も紹介したこの曲は、元EDMアーティストで、近年はアコースティックシンガーとしての活躍が目立つZaedenによるもの。



デリーからは、ラッパーのHommie Dilliwalaがインドの売れ線系ラッパーの筆頭格Yo Yo Honey Singhをフィーチャーした"Jingle Bell"という曲を発見。


おそらく宗教的な意味でのクリスマスとは全く関係のない内容だが、都会のパーティーカルチャーの雰囲気がよく伝わってくる。

インドでは、ディワーリーやホーリーといったヒンドゥー教の伝統的なお祭りに合わせてリリースされるポピュラーソングも多く、またなぜか毎年独立記念日に合わせてリリースされる楽曲もある。
そう考えると、インドでは、そこまで季節の風物詩としてのクリスマス・ソングが必要とされていないのかもしれない。
いつかインドからワム!や山下達郎みたいな感じの、ポップなクリスマスソングの名曲が出てくることがあるのだろうか。




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goshimasayama18 at 18:57|PermalinkComments(0)

2020年09月25日

インドの秘境ナガランドの音楽やコスプレのオンライン・イベントのご案内!

「Do you know Cosplay? 知人がコスプレや音楽のオンラインイベントを行うんだ。ぜひ日本からも参加してほしい」
インド北東部で音楽ライターをしている友人から、いきなりこんな連絡があった。

彼の知人だという女性から詳細を教えてもらったところ、その企画は、'Magnum Opus'という名称で、ナガランドの'Act of Kindness'という団体が企画しているものだそうだ。
ナガランドといえば、かつては首狩りの風習があったことでも知られているミャンマーと国境を接するインド北東部の土地。
第二次世界大戦での日本軍の無謀なインパール作戦の激戦地にもなった土地としても知られている。

昨年公開された、田園地帯で歌われる美しい労働歌を描いたドキュメンタリー映画『あまねき旋律』でご存知の方も多いだろう。

もともとは異なる文化や言語を持つ16もの部族が暮らすナガランドは、住民のほとんどがキリスト教に改宗し、激しい独立運動を経て、そしてなぜか今では日本のアニメのコスプレが大流行しているという非常にユニークな土地だ。
 
どれほどコスプレが人気かというと、Nagaland Anime Junkiesというアニメ同好会が毎年開催しているコスプレの祭典Cosfestには、近隣の州からも含めて、毎年1万人近いファンが集まるほどだという。

ご覧の通り、ナガランドに住んでいるのは、典型的なインド人のイメージとは異なるモンゴロイド系の民族。
民族衣装を着ていなければ(とくにコスプレをしていると)日本人と間違えてしまいそうである。

今回案内のあったMagnum Opusは、10月25日の「世界芸術の日(International Artist Day)」に合わせて開催されているアートと音楽の祭典で、今年で6回目を数える。
絵画、写真、オリジナル楽曲、短編ストーリーなどと並んで、「コスプレ部門」があるというのがいかにもナガランドらしい
というか、日本の芸術祭のようなイベントで、コスプレ部門が行われているというのは聞いたことがない。
ナガランドはオタクカルチャーの市民権という点で言えば、もはやとっくに日本を超えているのかもしれない。
すごいぞ、ナガランド。 

このイベントは、例年ナガランド州の中心都市ディマプルで開催されていたが、今年はコロナウイルス禍によりオンライン開催となったことで、ぜひコスプレの本場である日本からも参加してほしい、ということで私にコンタクトしてくれたようだ。

こちらは2年前に行われたイベントの様子。
コスプレ部門の様子は1:30頃から出てくる。

インドの山奥の地方都市とは思えないコスプレっぷりに驚かされるだろう。

ナガランドの人々のジャパニーズ・カルチャーへの情熱には驚かされるばかり。
この動画は、先述の'Cosfest'を取り上げたドキュメンタリー映画だ。
38:20頃から、ナガの人々が日本への思いを告白する部分がある。

なんだか日本人として、こそばゆいような気持ちになるが、ここまで日本のカルチャーに情熱を傾けてくれている人々に、日本のコスプレイヤーの皆さんには是非とも応えてほしい。

エントリー費用はたったの150ルピー(215円程度)。
賞金もベスト・コスチューム賞が10,000ルピー(14,000円程度)、ベスト・パフォーマンスなどの各賞が5,000ルピー(7,000円程度)とごく少額だが、オンラインとはいえ、旅行でもなかなか行けない地域のイベントに参加することは、プライスレスな経験になること間違いなし。

 コスプレ部門の審査員はNaga Anime Junkiesの優勝者らが務めるそうだ。

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審査は、未編集の1分間未満の動画と、未加工の画像3枚(正面・横・後ろから撮影したもの。アクセサリー等にフォーカスした画像1枚を追加可能)で行われる。
評価の対象は、コスチュームのディテールやパフォーマンス、オリジナリティーとのこと。
(詳細はこちら)
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このRegistrationを10月15日までに以下のメールアドレス宛に送り、参加費をGoogle Payで振り込んだうえで、動画や画像を10月20日までに送ればエントリー完了。
(送付先のメールアドレスは、actofkindness.dimapur@gmail.com) 
 
 
もちろん、それ以外の部門も参加大歓迎。
オリジナルソング部門は、英語の曲が望ましいが日本語でも構わないとのこと。
これらの部門の詳細や審査方法については、上記のメールアドレス宛に気軽に問い合わせてほしい。
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それぞれ、ナガランドで活躍しているアーティストが審査を行うようだ。
コスプレイヤーをはじめ、アーティストのみなさんはコロナ禍でなかなかリアルでのイベントに参加できない日々が続いていると思うが、こんな時だからこそ、普段はなかなか接する機会がない地域の人々とも繋がってもらえたらと思う。

日本からの入賞者の知らせを聞くことを、心待ちにしています。


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goshimasayama18 at 23:04|PermalinkComments(0)

2019年03月11日

3.11 あれから8年、忘れたくない遠い国からの支援

今日で2011.3.11東日本大震災からちょうど8年。
亡くなった方への追悼、次の災害への備え、原子力政策の今後など、思うべきことはたくさんある。

もう一つ忘れたくないのは、8年前に多くの国が日本のためにたくさんの有形・無形の支援をしてくれたということ。
多くの国の方が、支援物資や祈りを届けてくれたことを忘れないでいたい。
そして、同じような優しさを、自分もまた遠い国の人や、すぐ近くの人にも届けられるような人間でありたい。
そう思う人は多いのではないでしょうか。

このブログで扱っているインドや南アジアの国々も、あのときたくさんの支援をしてくれた。
https://ja.wikipedia.org/wiki/東日本大震災に対するアジア諸国の対応#南アジア

また日本に住むパキスタンなど南アジアの国々のムスリムが、震災の直後からカレーの炊き出しという形で被災地を元気づけてくれたことを覚えている人も多いだろう。

今回は、日本であまり知られていないナガランドの国々からの支援を紹介したい。
このブログでも紹介した、ナガランドでの日本文化(アニメやコスプレ)ブーム。
「特集ナガランドその3 ナガの地で花開く日本文化 ナガランドのオタク・カルチャー事情とは?」
ナガランドで日本文化がポピュラーになったきっかけの一つが、東日本大震災のときに、日本の支援のためにナガランドのミュージシャンたちがチャリティーコンサートを開いたことだという。

当時の現地の報道によると、以下のようにたくさんのミュージシャンが無償で追悼・支援のためのパフォーマンスをしてくれたとある。

Methaneilie, OFF, Divine Connection, XTC, Dementia, De band, Ebenezer Band, Chakhesang Church Choir, NBCC male Choir, children from Ao Baptist Church, Rengma male voices, Menei Chale, NSACS brand Ambassador 2010, Toshinaro, Naga Idol 2008, Topeni Naga Idol 2009, Menguse-u, Shursoseilie, Alobo, Dr Nicky Kire 他多数。

このブログでも紹介したナガを代表するアーティストAlobo Naga(当時はまだメジャーじゃなかったのか、ずいぶん最後のほうに書かれている)や、映画『あまねき旋律』の舞台となったペク地方に暮らすチャケサン族の聖歌隊の名前もある。

せっかくだから参加してくれたバンドたちをいくつか紹介します。

エイリアンが歌い踊るビデオも謎だが、もっと驚いたのが「Head Hunter Entertainment」(首刈り族エンターテインメント!)というプロダクションの名前!がいかにもナガランドらしい。

クリスチャン・ロックバンドのDivine Connection.



そしてナガの大スター、Alobo Naga.



ANTB(Alobo Naga and The Band)名義のCome Back Homeでは豪邸のいたるところに飾られた鹿の頭に注目。
ナガではかつて首刈り族だった名残からか、動物の頭部を飾る風習は今でも盛んらしい。

今回はたまたまこのブログで取り上げたことのあるナガランドの当時の支援について紹介したが、あの時、きっと同じように世界中の様々な地域の人々が優しさを寄せてくれたはず。
感謝の思いもまた新たに今日の日を過ごしましょう。
いつかその優しさを返せるように。

それではまた!


参考サイト:
https://www.thehindu.com/society/history-and-culture/nagalands-japanese-subculture/article24481651.ece
http://kanglaonline.com/2011/03/kohima-concert-for-japan-earthquake-tsunami-victims/
 
 

goshimasayama18 at 22:37|PermalinkComments(0)

2019年01月28日

『あまねき旋律』トークショーをやってきました!

かねてからお伝えしていた通り、昨日ユジク阿佐ケ谷さんにて映画『あまねき旋律』の上映後にトークショーを行ってきました!

ユジクさんについて最初に驚いたのが、今回の「旅するインド映画特集」に合わせて、ロビーにこんな素敵な黒板アートが描かれてていたこと。
ユジク
今回の映画にちなんだ地域の説明がびっしり!
相当勉強になります。
ユジク2
これは写真だとわかりづらいけどものすごく巨大なイラスト!
描くの大変だっただろうなあ。
でもおかげで上映前から雰囲気が高まります。
地元にこんな映画館がある阿佐ケ谷の人がうらやましくなりました。

肝心のトークショーですが、うれしいことに映画を見たお客さんがほぼみなさん残ってくださり、しかもわざわざ事前にユジクさんでこの回の予約をしてくださった方も10名ほどいたとのこと。
たまたまこの回に『あまねき旋律』が見たかっただけかもしれませんが、重ねて御礼申し上げます!

それでは、この映画を配給しているノンデライコの大澤さんとの対談形式で紹介した音楽を改めてご案内します。

まず最初にかけたのはやっぱりこの曲。

ナガランドの"We are the World"こと、Voice of Nagalandの"As One".
ナガの16の部族が交代でヴォーカルを取り、メインランドから移住してきたアーリア系やドラヴィダ系の人々も歌うこの曲。
それぞれの衣装や歌い回しに民族の特性が現れているのが見どころです。
Youtubeで見ると「誇りに思う」といったコメントが多いけど、この歌の理想が美しい背景には、理想とは反対の厳しい現実があるわけです。
かつてはナガの部族間での首狩り合戦もあったし、独立運動では派閥間抗争もあった。
それにメインランドの人々は映画でも描かれていたように自分たちを抑圧する存在でもある(中央に座っている政治家は地元出身ではなく、中央政府から派遣された人)。
だからこそこの曲のような調和を希求しているという背景があります。
あと、いろんな民族の人が出てくる中で、イスラム教徒だけ地域とか関係なくひとくくりに「ムスリム」っていうのはどうなのか、なんていう話をしました。

続いて紹介したのはTetseo Sisters.
『あまねき旋律』の舞台となったペク(Phek)出身の4姉妹です。

美しい4姉妹が歌う民族音楽は、ナガの人々が自らの伝統を振り返るきっかけのひとつにもなったようで、大澤さんが言っていた「ネーネーズのような存在」という例えが言い得て妙。
余計なお世話ではあるんですが、前々から思ってたけど、ちょっと彼女たち、メイクが濃すぎるんじゃないか。
ナチュラルメイクのほうがナガランドの自然な風景に合うのでは、なんていうのは極東の島国からのたわごとなわけですが、こんなところからも日本とナガとの感覚の違いが分かります。

次に話したのは、自然の中で敬虔なクリスチャンが暮らしているような印象のナガランドで、実は若者の間での悪魔崇拝が社会問題になっているんですよ、という話題。(くわしくはこちらの記事をどうぞ

ナガランドのデスメタルバンド、Aguares。
デスメタルをかけたら、帰っちゃった人がいたのが印象的でした。
ゴメンナサイ。

そしてナガランドの若者の間で流行っているもうひとつの文化、日本のアニメとコスプレ。
詳しくはこちら

『あまねき旋律』と同じナガランドの人とは思えないこのコスプレっぷり。
都会の若者になってくると、顔立ちや表情もぐっと日本人に近くなります。
映画の中にも出てきた通り、ペクの村で歌われている伝統音楽も、一度はキリスト教への改宗によって途絶えたもの。
ペクの人々は、改宗や独立運動への弾圧によって途絶えてしまった伝統的な歌唱を復活させ、昔ながらの暮らしを続ける道を選んだ。
それとは対照的に、失われたアイデンティティーに代わるものとして日本のアニメに拠り所を見出す人もいるし、悪魔崇拝に走る若者もいるのかも、なんて話をしました。

最後に紹介したのはナガランドのクリスマスソング。

自分たちの文化ではサンタクロースもクリスマスケーキもプレゼント交換もなじみがないけど、故郷で過ごすクリスマスがやっぱりいちばんさ、と静かに歌うこの賛美歌(?)に、本来のクリスマスのあり方を改めて教えられるような気がします、というお話をしたところでちょうど時間となりました。

トークショーの25分はあっという間で、まだまだお話したいことあったのですが、話したかったことはだいたいこれまでのブログに書いてあるので、改めてリンクを貼りつけておきます。

特集ナガランドその1 辺境の山岳地帯に響く歌声 映画「あまねき旋律」

特集ナガランドその2 神の国となりし首刈りの地に悪魔の叫びが木霊する!悪魔崇拝とブラックメタル

特集ナガランドその3 ナガの地で花開く日本文化 ナガランドのオタク・カルチャー事情とは?

インド北東部ナガランドのクリスマスソング!


以前ブログに書いた以外で最近注目しているのは、ナガのミュージックビデオなんかに出てくる「ナガランドのちょっといい家」に、必ず鹿の頭が飾ってある、ということ。

このAlobo Nagaのミュージックビデオの豪邸なんて、3箇所も鹿の頭が飾られてる!(0:30と0:50と1:50ごろに注目)
日本で鹿の頭が3つも飾られている家なんて、マタギでも住んでないと思う…。

トークショーでも少し紹介しましたが、伝統文化が色濃く残る農村とか悪魔崇拝とかコスプレみたいな極端な話じゃなくて、自然なナガの人々の暮らしぶりが知りたかったら、ナガのボーイフレンドとインドで暮らしている「ナガ族との暮らし」さんのブログとTwitterが超面白くてオススメです。

「ナガ族との暮らし」ブログ
「ナガ族との暮らし」Twitter

日本のアニメが大人気のナガの人々に「この番組はご覧のスポンサーの提供でお送りします」と日本語で言うとウケるとか、有益な情報がいっぱい!
俺もナガの人に言ってみたい!
個人的に大好きなのはナガの昔話で、どんな話か知りたい方はぜひ上記のブログを読んでみてください。

今回のトークイベントにお越しいただいた方、ノンデライコの大澤さん、そしてこのブログを読んでいただいているみなさんにあらためて感謝します!
インド系ポピュラー音楽の研究家の方にもお会いでき、私にとっても非常に楽しく有意義な機会でした。
来られなかった方、会場でお話できなかった方も、下のコメント欄や左側のメッセージ欄に気軽に書いてくださったらうれしいです。

それでは今後ともヨロシク! 


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2019年01月10日

1月27日(日)ユジク阿佐ヶ谷にて「あまねき旋律」上映後トークショーを行います!

このブログでもたびたび紹介しているインド北東部ナガランドを舞台にしたドキュメンタリー映画「あまねき旋律」の東京での再上映に合わせて、なんと不肖私こと、軽刈田 凡平がユジク阿佐ヶ谷での上映後にナガランドの音楽シーンについてお話しさせていただくことになりました。
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こんなふざけた名前の人間に声をかけていただいた関係者各位に感謝です!

この上映は「旅するインド映画特集」という企画の一環で、近年話題の「きっとうまく行く」「PK」や「マダム・イン・ニューヨーク」そして「バーフバリ」といった映画と合わせて上映されるもの。
ボリウッド(よく誤解されるけどインド映画全般ではなくヒンディー語映画を指す言葉です)やテルグ語などの劇映画作品の中で、この「あまねき旋律」は超異色の北東部を舞台にしたドキュメンタリーだ!
これは燃える!
インド北東部を勝手に代表して(同じモンゴロイドとして)がんばります!

会場のユジク阿佐ヶ谷さんのホームページにもご覧の通り。
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カルカッタ ボンベイさんによる「舞台挨拶」!

まったく映画の製作に携わっておらず、登場もしていないのに舞台挨拶とは!
まさか自分の人生で「舞台挨拶」なるものを経験する日が来るとは思わなかった…。
さらにクリックしてみたら…

スクリーンショット 2019-01-10 1.45.40
今度はトークショーと来た!
わしゃただのブログ書きなのに、ありがたいやら恐れ多いやら。

この「あまねき旋律(しらべ)」は、山形ドキュメンタリー映画祭で日本映画監督協会賞と奨励賞をダブル受賞したのち、昨年10月6日にポレポレ東中野で上映されて以来、全国に上映の輪が広がり、このたび東京での凱旋再上映となった非常に評価の高い作品。

この映画の主役は、棚田が広がるナガランド州南部のペク地方でチャケサン・ナガ族に歌い継がれている伝統的な歌唱だ。
労働歌でもあるこの歌は、近年キリスト教への改宗によって途絶えたかと思われたものの、今日までその素朴な暮らしの中で農作業とともにコミュニケーションの手段として歌い継がれている。
農村の労働歌と侮るなかれ、複雑なハーモニーと即興で哲学的な歌詞を乗せたその歌には、単純に形容できない深さと味わいがある。



生活とは?労働とは?
仲間とは?喜びとは?
娯楽とは?生きる意味とは?

決して声高に何かを主張する作品ではないが、この映画はひとびとの根源に関わる問いを静かに、しかしまっすぐに投げかけてくる。

そして、インドでは周縁的な存在であることを余儀なくされているナガの歴史とは?

今回のトークイベントでは、映画で語られている以外の驚くべきナガの側面を紹介するつもり。
実際にナガランドの最近の音楽を聴いてもらいながらお話しします。

改めてご案内すると、軽刈田 凡平トークは1月27日(日)ユジク阿佐ヶ谷にて。
16:40開始の会の上映後にトークを行い、18:30頃に終了の見込みです。

詳細はユジク阿佐ヶ谷さんのホームページからご確認を。
みなさん是非お越しください。

この「あまねき旋律」、インド映画やインド音楽に興味があるとかないとかに関係なく、もちろん私のトークも置いておいて、どんな方にでもおすすめしたい映画です。
ユジク阿佐ヶ谷での上映後もまだまだ都内や全国での上映が続くようなので、この機会に見られない方もぜひ見てみてください!
上映館情報はこちらから!
http://amaneki-shirabe.com/theater.html

若干トークのネタバレになるかもしれないけど、これまでに書いたナガランド関連の記事を貼り付けておきます。 

特集ナガランドその1 辺境の山岳地帯に響く歌声 映画「あまねき旋律」

特集ナガランドその2 神の国となりし首刈りの地に悪魔の叫びが木霊する!悪魔崇拝とブラックメタル

特集ナガランドその3 ナガの地で花開く日本文化 ナガランドのオタク・カルチャー事情とは?

インド北東部ナガランドのクリスマスソング!


それでは1月27日(日)、ユジク阿佐ヶ谷でお待ちしてます!


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2019年01月09日

Meraki Studiosが選ぶ2018年インド北東部のベストミュージックビデオ18選!

改めまして、軽刈田 凡平です。
Meraki Studiosが選出した2018年のインド北東部のインディーアーティストによるベストミュージックビデオが発表されたので、今回はそのなかでいくつか印象的だったものを紹介します。
このMeraki Studios、正直に言うと私もどんなところかよく知らないのだけど、彼らのウェブサイトによると、どうやらマニプル州インパールを拠点に広告、デザイン、録音、撮影、アーティストのブッキングとマネジメント、服飾販売などを手がけているところらしい。

詳細はリンクを参照してもらうこととして、選ばれた楽曲は以下の18本。
アーティスト名、曲名、ジャンル、出身地(活動拠点?)の順に紹介します。


・Pelenuo Yhome  'Build A Story'   フォーク / ナガランド州コヒマ
・Fame The Band  'Autumn'   ロック / メガラヤ州(現在はムンバイを拠点に活動)
・Lik Lik Lei  'Eshei'   ポップ / マニプル州インパール
・The Twin Effect  'Chasing Shadows'   ポップ / ナガランド州ディマプル
・Avora Records  'Sunday'  ロック / ミゾラム州アイゾウル
・Fireflood  'Rain'  ロック / ナガランド州ディマプル
・Tali Angh  'City Of Lights'  ポップ / ナガランド州コヒマ
・Lucid Recess  'Blindmen'  オルタナティブ / アッサム州グワハティ
・Featherheadds  'Haokui'  フュージョン・ロック / マニプル州ウクルル 
・Big-Ri And Meba Ofilia  'Done Talking'  R&B / メガラヤ州シロン
・Avora Records  '23:00'  ロック / ミゾラム州アイゾウル
・Lo! Peninsula  'Another Divine Joke'  ポストロック / マニプル州インパール
・Lateral  'Hepaah'  ポップ / アッサム州グワハティ
・Sacred Secrecy  'Shitanagar'  デスメタル / アルナーチャル・プラデーシュ州イタナガル
・Blue Temptation  'Blessing'  ロック / メガラヤ州シロン
・Lily  'Unchained'  EDM  / メガラヤ州シロン
・Matilda & The Quest  'Thinlung Hliam'  ポップ / ミゾラム州アイゾウル
・Joshua Shohe & Zonimong Imchen  'Never Let You Down'   ポップ / ナガランド州


まず目につくのはロック系の多さ!
ジャンル分けは独断かつ適当だが、それを差し引いても、ヒップホップ系やエレクトロニカ系はほとんどいなくて、ロック系が大半を占めている。
北東部はもともとロックが盛んな土地で、メガラヤ州シロンは「インドのロックの首都」とも言われている街だ(今回もシロンから3バンドが選出されている)。
ロック系の中でもFirefloodみたいなハードロック系からAvora Recordsみたいなギターポップ系、Blue Temptationみたいなブルースロック系、さらにはポストロックやデスメタルまで多様なタイプのバンドが揃っている。

そしてもうひとつ気になったのはナガランドのバンドの多さ!
州別に言うと、ナガランドが5バンド、メガラヤが4バンド、マニプルが3バンド、ミゾラムとアッサムが2バンドずつ、アルナーチャル・プラデーシュ州が1バンド。
これまでもナガランドについてはいろいろと書いてきたけど(全3回のナガランド特集はこちらから)、改めてナガの地の音楽カルチャーの強さを感じさせられた。

それでは、この18曲を聴いてとくに印象に残ったビデオをいくつか紹介します。

Lik Lik Leiは、日本軍の悪名高いインパール作戦で有名なマニプル州インパールのバンド。
このデビュー曲の'Eshei'はマニプルの映画、その名も'Iriguchi(入り口)'のサウンドトラックからの1曲。

ミュージックビデオを見て分かる通り、日本軍の兵士が残した秘密の箱を見つけた現代のマニプリの若者が主人公の映画のようだ。
映画の背景にある重い歴史(大戦後、マニプル州はナガランドと同様に過酷な独立闘争を経験している)と、ビデオに出てくる現代的な若者、そしてウクレレを使った軽やかな音楽の対比が面白い。

アッサムのLucid Recessは2004年結成のベテラン・オルタナティブメタルバンド。

この曲ではサウンドガーデンやニルヴァーナを思わせるグランジ的なサウンドを聴かせている。

Featherheadsはマニプル州の小さな街、ウクルルのバンド。
ウクルルも日本軍の悲劇的な激戦地となった場所だ。

個人的には、今回のリストの中でいちばん強烈に印象に残ったビデオだ。
音楽的にはおそらく地元部族の伝統音楽とロックとのフュージョンということになるのだろう。
注目すべきは彼らの衣装で、なんと地元の民族衣装にインディアンの民族衣装を大胆に合わせている。
ここで言うインディアンはインド人ではなくアメリカ先住民のいわゆるネイティブアメリカンのこと。
インド人(インディアン)のなかでは周縁的な存在であることを余儀なくされている北東部マニプル州の彼らが、同じ「インディアン」と呼ばれながらも、やはり国家の中で周縁的な立場に置かれているアメリカ先住民の格好をしているというわけだ。
そしてマニプリとアメリカ先住民は「追いやられた先住民族」という点で共通している。
なにやら非常にややこしいが、おそらく彼らはそこに共感と皮肉を見出してこの格好をしているのではないか。
って、単にファッションとして取り入れているだけかもしれないけど、いずれにしても興味深い一致ではある。

同じくマニプル州のLo! Peninsulaはシューゲイザー、ドリームポップ、サイケロックを標榜するバンドで、曲によってはポストロック的な響きを持つ演奏をすることもある(このへんはジャンルのボーダーが曖昧な部分ではあるけれども)。

さっきのFeatherheadsとはうってかわって、とてもインドの山奥から出てきたとは思えない(失礼!)サウンド!
彼らはシアトルのカレッジラジオ局KEXPで紹介されたこともあるようだ。
ポストロックというジャンル字体はもはや世界中のどこでも珍しいものではなくなっているけれども、それでも今回紹介する北東部のバンドの中で彼らの存在感は群を抜いている。
他にも尖っているバンドはあるが、彼らだけは世界中の別の時空と共鳴しているかのような印象を受けた。

ナガランドのJosua Shohe & Zonimong Imochenの'Never Let You Down'はZonimongのヒューマンビートボックスが全編にフィーチャーされた曲。

歌もちょっと弱いし、とりあえず地元で撮ったみたいなビデオも適当な印象だけど、意欲的な試みではある。


すでに紹介してきたバンドたちもおさらい。
日本のMonoがトリを務めたZiro Festivalにも出演したAvora Recordsは2曲でノミネート。
'Sunday'はどことなく1990年代の日本のバンドを思わせるミュージックビデオだ。


同じくZiro Festivalにも出演していたBlue Temptationはレニー・クラヴィッツみたいなシブいブルースロック!


MTV EMA2018のベストインド人アーティストに選ばれたBig-Ri& Meba Ofiliaも当然ランクイン。


このブログ最初のインタビューにも協力してくれたTana Doni率いるSacred Secrecyが地元イタナガルを強烈にディスっているブルータル・デスメタル'Shitanagar'でノミネート!


少々の荒削りさとびっくりするようなセンスが共存している北東部のシーン、今後も注目していきたいと思います!

そして今年は北東部が先になってしまったけど、メインランドの2018年を代表する曲やアルバムもまた紹介します!
それでは!



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凡平自選の2018年度のおすすめ記事はこちらからどうぞ! 


goshimasayama18 at 22:29|PermalinkComments(0)

2018年12月21日

インド北東部ナガランドのクリスマスソング!

街中はクリスマス一色といった今日この頃。
いかがお過ごしでしょうか。

インドでもこの頃は、都市部の富裕層を中心に、クリスチャンでなくてもクリスマスをお祝いする習慣が広がってきているのだけれど、ヒンドゥー/イスラーム文化圏のインドでは、日本みたいに毎年のようにクリスマスをテーマにしたポップソングがリリースされるような風潮はない。
そんなインドで、例外的にたくさんのクリスマス・ソングを見つけることができるの場所、クリスチャンがマジョリティーを占めるインド北東部だ。
というわけで、今回はドキュメンタリー映画「あまねき旋律」の舞台にもなった、独特の民族音楽を持つナガランド州のクリスマスソングを紹介します。

このブログでも何度も書いてきているように、インドの北東部にある7つの州(アルナーチャル・プラデーシュ、アッサム、マニプル、メガラヤ、ミゾラム、ナガランド、トリプラ。Seven Sisters Statesと呼ばれる)には多くのキリスト教徒が暮らしている。
インド北東部
インドのことを多少知っている人であれば、南部のゴアやケーララ州にはキリスト教が普及しているという話を聞いたことがあるだろう。
ゴアやケーララには、大航海時代や、そのはるか以前の1世紀に聖トマスが伝えたとされるキリスト教を信仰する人が多く暮らしており、キリスト教文化が伝統として根付いているが、それでもクリスチャンの割合は人口の3割ほどであり、彼らの多くはカトリックの信者だ。
それに対して、インド北東部の場合、クリスチャンのほとんどはプロテスタントを信仰している。
とくに、ナガランド州やミゾラム州は、なんと人口の8割〜9割がクリスチャンであり、インドでも最もキリスト教徒の比率が高い州となっている。
(ナガランドについては、その反動か悪魔崇拝が社会問題になっているというのは以前書いた通り。同じプロテスタントでも、ナガランドはバプテスト派、ミゾラムでは長老派が主流だ。また、北東部でもトリプラ州のようにヒンドゥー教徒が多い州もある)

インドの北東部は、北インドのアーリア系ヒンドゥー文化やイスラーム王朝文化とは全く異なる文化を持つモンゴロイド系の人々が暮らしている土地だ。
彼らはもともとアニミズム(精霊崇拝)を信仰していたが、19世紀末から20世紀にかけてこの地を訪れた欧米の宣教師によってキリスト教が伝えられ、 ナガやミゾの地では、その新しい信仰が主流になるまでに至った。
インドの中では比較的キリスト教の歴史が浅いこの地域ではあるが、だからこそというか、ポップなクリスマス・ソングも多くリリースされている。
(対照的に、ゴアやケララでは、キリスト教の歴史が長いせいか、クリスマス・ソングといっても聖歌のような曲調のものが多い)

まず紹介するのは、以前も取り上げた、当地の民族音楽とポップミュージックを融合したTetseo Sistersが歌う、クリスマスのスタンダード'Winter Wonderland'.

部屋の飾り付けやクリスマスツリーは日本や欧米と全く変わらないし、彼女たちの顔立ちとナガランド風の帽子を除けば、まったくアジアらしさを感じさせないミュージックビデオだ。
彼女たちも、いつものナガ風の歌唱ではなく、美しい英語のハーモニーを聴かせてくれている。
ナガランドは同じ州内でも民族ごとの言語が異なるという土地柄から、英語の普及率がインドの中でとくに高い地域でもあるのだ。

続いては、Tetseo Sistersと、同じくナガランドの大スター、Alobo Nagaが歌う、みなさんご存知の'Jingle Bells'.

イントロでTetseo Sistersが聴かせるこの地方独特のハーモニーがじつに心地いい。
'Winter Wonderland'とはうってかわって、伝統的なナガランドの囲炉裏を囲んでのビデオも素敵だ。
彼女たちは英語のカバー曲のセンスもいつもとても良い。

より宗教的な雰囲気を感じさせる歌としては、Virie, Zaza & Shalo Kent Feat. Akokというナガの複数のアーティストたちが歌う'Angels in Bethlehem'.

イエス生誕の地ベツレヘムを遠く離れたナガの地でクリスマスを祝福するこの曲を聴くと、現代風に見えるナガの若者たちもまた敬虔なクリスチャンなんだなあ、と改めて感じる。

最後に紹介するのは、Nagagenousという、ナガランドの文化や伝統をテーマにしたグループ(たぶん)が歌う、Khrismas Ye Niphulo pavi (Christmas is best in my village)という曲。
この曲はポピュラーミュージックではなく、ナガランドの教会音楽のような曲と思われるが、英語の字幕もついているので、ぜひじっくり聴いてみてほしい。
 
素朴で美しい伝統的なナガの暮らしの中でクリスマスを祝福する歌詞が心に響く。

私たちの村に雪は降らないし
サンタクロースのこともよく知らない
クリスマスケーキなんて無いけれども
やっぱり自分の村のクリスマスが最高さ

私たちの森にはトナカイなんて走っていないし
プレゼントを交換する習慣もない
ベツレヘムがどんなところかも知らないけど
やっぱり自分の村のクリスマスが最高さ



クリスチャンではない私たちにも馴染み深いサンタクロースやクリスマスケーキ、プレゼント交換のような習慣はなくても、自分たちの村で、自分たちのやり方で救い主の誕生を祝うことが最高に幸せなんだと彼らは歌う。
さらにこの曲の歌詞は驚くべき展開を見せる。


神々しい納豆の香りに
美味しいお餅
香ばしく焼けるキビとハトムギ
どんなに私の村のクリスマスを待ちわびたことか


納豆と訳したのは、Axoneという日本の納豆によく似た豆を発酵させたナガランドの伝統食品。
ナガの納豆については高野秀行氏の著作に詳しいが、納豆にdivine(=神々しい)っていうイメージがあるのが凄い。
餅と訳した部分はDelicious sticky rice breadという字幕だが、いったいどういったものなのだろう。
キビやハトムギというのも、いわゆる典型的なインド料理ではあまり見ないものだ。
ナガの食文化がインドのメインランドよりも、日本と同じいわゆる照葉樹林文化に近いものだということがよく分かる。
いずれにしても、キリスト教のルーツからは遠く離れたナガランドで、心からクリスマスをお祝いするナガの人々を思うと、信仰というものの純粋さをあらためて感じさせられる。

今日はここまで!
どんな宗教の人も、どんな民族の人も、どんな国籍の人も、素敵なホリデイ・シーズンが過ごせますように!


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goshimasayama18 at 23:55|PermalinkComments(0)

2018年10月27日

特集ナガランドその3 ナガの地で花開く日本文化 ナガランドのオタク・カルチャー事情とは?

インド北東部の秘境、ナガランド州を紹介してきたこの特集。
第1回目は「首刈り」「独立闘争」「キリスト教」に象徴されるナガランドの近現代史を取り上げ、第2回目では社会問題となっている悪魔崇拝とその背景を紹介してきた。
第3回目の今回は、現代のナガの若者たちの間に流行するさらに驚愕のカルチャーを紹介する。
何を隠そう、それは日本発祥の文化。

それは何かというと、「コスプレ」だ。
アニメ、マンガに代表される日本のサブカルチャーはインドでもそれなりの人気を博してはいるが(例えば首都デリーやムンバイでもコスプレイベントが開催されている)、なぜかここナガランドには、州の規模を考えると非常に多くの熱心なオタクカルチャーファンが集中している。

百聞は一見に如かず。
さっそくその様子を見てみよう。
これは、今年7月にナガランドの州都コヒマで行われたイベント、Cosfestの様子だ。
入場料は大人100ルピー(約160円)、子供50ルピー(約80円)。
インドとはいえ、ナガの人々は日本人同様のモンゴロイド系の顔立ちなので、言われなければインドだと全く気づかないほどのコスプレっぷり!
NagaCos1

NagaCos2

NagaCos3

NagaCos4

これはコスプレでなくオブジェ
NagaCos5
(以上写真5枚はhttps://rootsandleisure.com/day-1-of-cosfest-2018-kohima/から)

NagaCos6

NagaCos7

NagaCos8
NagaCos9

(以上写真4枚はhttp://morungexpress.com/cosplay-just-costume-play/から)

紹介しておきながら元ネタが分からないものが多く、あまり語れることがなくて申し訳ない。
このイベントは、Nagaland Anime Junkies(NAJ)というグループが州都のコヒマで2013年から毎年開催しているもの。
地元メディアの記事によると、当初、こうしたコスプレイヤーが出始めた頃には、見慣れない黒ずくめの衣装や奇妙なメイクに、すわ新手のサタニストかと疑われたりもしていたようだが、今では新たな文化としてすっかり定着しているという。

第6回目となる今年は、コスプレだけでなく、バンド演奏、 DJ、アニメ映画の上映(新海誠)なども行われ、8,000人ものファンを集めた。
前回紹介した社会問題となっているコヒマのサタニストが3,000人とのことだから、悪魔主義者の倍以上のコスプレファン・アニメファンがいるということだ。
繰り返すが、コヒマの人口は27万人。
そのうち1%はサタニストで、悪魔に取り憑かれていたり、真夜中に墓地であやしげな儀式をしたりしている。
そして3%はイベントに集まるほどのコスプレファン。
ここはいったいどういう街なんだ…。

映像でみるとこんな感じで、とても、あののどかな「あまねき旋律」の舞台と同じ州だとは思えない。

先進国のコスプレと比較して完成度がどうなのか、私には分かりかねるが、着物にもセーラー服にも触れたことがないであろうナガランドで、情熱と工夫でここまでの衣装やメイクを作り上げる姿勢にはもう脱帽するしかない。

Cosfestを主催しているNagaland Anime Junkies(NAJ)は2011年に結成された。
当初はNaga Anime Junkiesを名乗っていたが、ファンが集まるにつれて「自分はナガ人ではないが仲間に入れてもらえないか」という声が多くなり、名称をNagaland Anime Junkiesに改めたという。
Nagaは民族名だが、Nagalandは単なる地名だからだ。
このCosfestは、当初は遠く離れたムンバイのコスプレイベントに参加できない地元のアニメファンのために開催したものだったのが(コヒマ-ムンバイ間の距離は3,000km以上)、あっという間に大人気となり、近隣の州からもファンが集まるようになった。
ナガランドのコスプレ愛好家たちは、材料が手に入りにくい環境で工夫に工夫を重ねて衣装を製作しているとのこと。
地元の生地屋で使えそうな生地を買ったり、現地では高価な発泡スチロールを冷蔵品を扱うお店に売ってもらったりして、手作りで衣装を作っているという。

インドでは、ドラえもん、クレヨンしんちゃん、ハットリくん、ポケモンのような子ども向けのアニメは広く知られているが、コスプレの対象になるようなサブカル的、オタク的なアニメのファンはまだまだ一般的でない。
それなのに、このナガランドでの異常なまでのアニメブームはいったいどういうことなのだろうか。

地元紙の報道によると、ナガランドでの日本ブームには3つのきっかけがあったようだ。
1つめは、2002年に日本の宗教指導者がナガランドを訪れ、第二次世界大戦中の激戦地となったことに対し、謝罪を行ったということ。(調べたところ、キリスト教のアガペという団体だったようだ)
2つめは、2009年に日本のミュージシャンがコヒマでパフォーマンスをしたこと。(調べたけど誰だか分からなかった。いったい誰?)
3つめは、2011年にナガを代表するバンドたちが、東日本大震災の被災者支援のためのイベントを開催したことだという。
このイベントには、先日紹介したAlobo NagaやDivine Connectionも出演したようだ。
日本では詳しく報じられなかったと思うが、遠く離れた、決して豊かとは言えないナガランドからも、州を代表するスターや一般市民たちが精一杯の支援してくれたと思うと、胸が熱くなる。
こうしたイベントを通して日本文化への親近感が湧いていたところに、日本の映画「クローズzero」(原作は漫画)が公開され、日本ブームに火がついたということのようだ。

また、Cosfestを扱ったドキュメンタリー映画(「Japan in Nagaland」後述)によると、ナガのアニメファンたちはアニマックスやカートゥーン・ネットワークのようなケーブルテレビでアニメにはまったという。
このドキュメンタリーでは、コスプレがここまで流行する背景として、ナガランドにはバーやクラブのような若者向けの娯楽や文化がなかったためと分析されている。

ナガランドの日本のサブカルチャーへの情熱は、コスプレという「模倣」にとどまらない。
日本風のオリジナルのマンガを描くアーティストもいる。
NagaManga1
NagaManga2
(画像2点、出展:https://scroll.in/magazine/876664/in-manga-crazy-nagaland-a-young-womans-comic-series-has-made-her-a-minor-star

彼女の名前はThej Yomhe.
ナガランドから2,500キロ離れたインド北西部ウッタラカンド州デラドゥンの大学でアニメーションとVFXの学位を取得したのち、今では地元で働きながらマンガの製作を行っているそうだ。
彼女の作品、'Carnaby Black'はここから読むことができる。
https://tapas.io/episode/39319
日本のマンガの影響だけでなく、森林や山並みなどの豊かな自然の描き方にナガのルーツを感じさせる作風だ。

ナガランドでここまで日本のサブカルチャーが愛されている理由として、ナガの人々の外見が影響しているという指摘もある。
ボリウッド映画のように典型的なインド人が活躍する作品よりも、同じモンゴロイドである日本の作品のほうが感情移入しやすいというのだ。
アニメやマンガの前には、日本と同じ東アジアの韓流ドラマが、そのさらに前には香港のカンフー映画が流行っていたという。
とはいえ、それらの実写作品と違い、日本のアニメやマンガには、キャラクターや舞台設定が無国籍なものも多い。
コスプレの対象になるような作品はなおさらだ。
それなのになぜ、ナガの若者たちはここまで夢中になるのだろうか。
もちろんストーリーやキャラクター自体が魅力的だということもあるだろうが、それだけではなぜインドのなかでここナガランドでだけ特別な盛り上がりを見せているのか、説明がつかない。

以前紹介した通り、ナガランドは伝統的な精霊信仰からキリスト教への改宗が地域を挙げて行われた土地だ。
かつては部族ごとに独自の文化や言語を持ち、他の部族に対して首刈りまで行っていたナガの人々は、20世紀中頃までに行われた改宗によって、それまでの伝統的な生活を変え、キリスト教を中心とした新しい価値観に大きく舵を切った。
これは、彼らの暮らしに根づいていた伝統的な歌声さえも、一度は捨ててしまったというほどの大きな変革だった。
改宗後、ナガの生活は著しく変わった。
部族ごとに異なる言語を話していた彼らは、宣教師が作り出した共通語「ナガミーズ」を手に入れ、今では英語も一般的に話されている。
1951年には10%だった識字率は、2011年には80%にも達した。

こうした変化にともない、ナガの若い世代が、自らの歴史的なルーツとの間に乖離を抱えているであろうことは想像に難くない。
現在の価値観の中心であるキリスト教も、若い世代にとっては「古い伝統に変わる開明的な信仰」という実感を抱けるほどに新しいものではないだろう。
勇敢な首刈りの戦士たちも、インターネット世代の若者たちには遠い過去の話だ。
そんな中で、ナガの若者たちが、自分たちの熱中できる対象として日本のアニメを見出したというのはとても興味深い。

日本も、敗戦によって明治以来の価値観を大きく転換した歴史を持つ。
その後の経済成長によって伝統的な暮らしを失ってゆく過程の中で、欧米文化の影響を受けながらも、新しく自由な発想で作られてきたのがアニメやマンガに代表される日本のサブカルチャーだ。
他の文化圏では子ども向けの娯楽に過ぎなかったアニメやマンガは、ここ日本では新しい文学となり、神話となった。

ナガと日本は、理由はどうあれ、いずれもが、第二次世界大戦後に自分たちのルーツを一度は否定してきた歴史を持つ。
自身のアイデンティティーを考えた時に、歴史や伝統というルーツを喪失したナガランドの若者たちが日本のサブカルチャーを熱狂的に受け入れているということは、ある種の必然とも言えるのかもしれない。

このナガランドのアニメブームは、インド国営放送Doordarshanも注目しており、2014年の第2回Cosfestを取材した40分ほどのドキュメンタリー映画'Japan in Nagaland'が製作されている。

NAJのメンバーたちや地元のコスプレイヤーたちの情熱には驚かされるばかり。
(Carnaby Blackの作者、Thej Yomheも登場する)
38分18秒あたりから、彼らが日本に対する憧れを語るシーンがある。
彼らの憧れの地でわりと憂鬱に日常を暮らしている私としては、インタビューを聞いてこそばゆいというか、申し訳ないような気持になる。
彼らにとって日本は、外見こそそっくりでも、あまりにも遠い場所であるようだ。

日本に数多ある日本好きの外国人を扱うテレビ番組のスタッフは、まだ彼らに気づいていないんだろうか。
意外性のある、とても面白い番組が作れるように思うのだけど。

ナガランドのオタクのみなさん、こんなにも日本の文化を愛してくれてありがとう。
震災の時の支援にも、遅くなりましたが勝手に日本を代表してお礼を申し上げます。
日本の人たち、とくに、彼らと同じようにアニメやコスプレを愛する人たちに、遠いナガランドにいる彼らのことを少しでも知ってもらえたらと思ってこの記事を書きました。

いつか会えたらいいね!

参考記事:
https://www.thehindu.com/society/history-and-culture/nagalands-japanese-subculture/article24481651.ece
https://www.telegraphindia.com/7-days/bye-bye-hallyu-hello-haiku/cid/1670283
https://rootsandleisure.com/day-1-of-cosfest-2018-kohima/
https://homegrown.co.in/article/800138/documentary-filmmaker-hemant-gaba-explores-cosplay-culture-in-nagaland

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goshimasayama18 at 21:39|PermalinkComments(0)

2018年10月21日

特集ナガランドその2 神の国となりし首刈りの地に悪魔の叫びが木霊する!悪魔崇拝とブラックメタル


前回
紹介したように、ナガランドの近現代史を象徴する3つの要素といえば、「首刈り」「キリスト教」「独立闘争」ということになる。
 ナガの人々は、キリスト教への改宗によって首刈りを野蛮な風習として取りやめ、今では人口の9割がクリスチャンとして暮らしている(プロテスタントのバプテスト派が多い)。
激しい独立闘争もひとまず影をひそめ、信仰のもとに平和な生活が戻ったかに思われたナガランド。
しかし、近年この地に新たな社会問題が発生している。

それは、「悪魔崇拝」(サタニズム)だ。 
キリスト教が圧倒的なマジョリティーを占めるナガランドで、反キリストの悪魔崇拝が若者の間で流行し、深刻な問題になっているというのだ。
現地のニュースサイトによると、州都コヒマだけで、10代や20代を中心に、3,000人以上のサタンの崇拝者がいるとのこと。

コヒマは、ナガの16部族のうち、アンガミ族が多く暮らす人口27万人ほどの街だ。
この街で3,000人以上というのことは、人口比にして1%以上。
東京で言えば10万人以上のサタニストがいるというのと同じことで、確かにこれは無視できない問題に違いない。
コヒマは前回紹介した映画「あまねき旋律」の舞台となったPhekからも30キロ程度の場所にある。
おどろおどろしい悪魔崇拝が、あののどかな農村のすぐそばまで迫っているのだ。

サタニスト達は何をしているのかというと、地元紙の記事によると「血をすするような儀式、自傷行為、墓地での真夜中の礼拝」などを行い、「聖書を燃やしたり、生の肉を食べたり」して、さらには「空中浮遊のような超常現象」をも起こしていると言われているらしい。
ほんとかよ…。
(参考サイト:http://morungexpress.com/naga-society-faced-teenagers-satanism/
       http://morungexpress.com/satanism-in-nagaland-putting-it-into-perspective/

心配した両親たちは、子どもたちを取り戻すための「十字軍」を結成し、祈りの戦士(prayer warrior)やスピリチュアル・カウンセラーの力によって、彼らをもとの信仰へと連れ戻そうとしているという。
そりゃ、子どもたちがそんな不気味な儀式を始めたら親じゃなくても心配するよな。
それに生肉を食べるってのは何だろう。
お腹こわしたりしないんだろうか。

「十字軍」のカウンセラーたちは、サタニストの少年が「ルシファーこそ我が王なり」と叫んで床をかきむしりながら神を罵倒しているところに神の愛を説きながら改心を呼びかけるという、映画「エクソシスト」さながらの悪魔払いを行っているという。

我々取材班は、とあるルートからナガランドで実際に行われている悪魔祓いの儀式を撮影した映像を入手した。
(まあ、ふつうにYoutubeにあったんだけど。単にこれが言ってみたかった)


かなりショッキングな映像だが、これは実際にナガランドで行われていることである。
上記の記事によると、サタニストたちの自傷行為が避けられない場合には、手錠と足枷で拘束することもあるという。

ここで見られる「サタニズム」は、欧米社会でのそれのように、社会やキリスト教的倫理への反発、あるいはオカルト趣味に基づくものではなく、かつての日本の「狐憑き」のような、今日では精神疾患の概念で説明すべきもののようにも思える。
(欧米のサタニズム、例えば、アントン・ラヴェイの「悪魔教会」は、オカルティックなものではなく、それなりに洗練された独自の宗教倫理を標榜している)

この映像を見て、私は上田紀行氏の名著「スリランカの悪魔祓い」を思い出した。
この本は、スリランカの農村部を舞台に、鬱や自閉のような状態に陥った「患者」に対して「悪魔祓い」を行い、悪魔を説得して帰らせる儀式を村全体で行うことでその「症状」を治療する、癒しのプロセスを取り上げたノンフィクションだ。
スリランカでは悪魔は孤独な人に憑くと言われており、ナガでは悪魔崇拝に走る若者たちは家庭に問題を抱えている者が多いとも報じられている。
先進国であれば鬱などの精神疾患の原因となりうる環境が、ナガランドやスリランカでは「悪魔憑き」を引き起こすというわけだ。
仏教社会であるスリランカと、キリスト教社会であるナガランドでの「悪魔憑き」「悪魔祓い」の共通点や相違点は、比較社会学的、比較宗教学的にも面白いテーマになりそうだ。

「十字軍」の必死の努力もむなしく、ナガランドのサタニストは若者たちの間で増加傾向にある。
彼らはどのようにその数を増やしているのかというと、その手段はなんとFacebookのようなSNSとロック・ミュージックだという。
ナガランドでは、ロックミュージシャンの言動に影響を受ける若者が多く、悪魔主義的な音楽やミュージシャンの影響でサタニストになる例が多いそうだ。
そしてサタニストたちはSNSで連絡を取り合い、墓地で不気味な儀式を行ったりしているというわけだ。

悪魔主義的なロックといえば、それはブラックメタル。
ヘヴィーメタルにおける猟奇趣味的演出だった悪魔崇拝を「本気」(マジ)で取り入れた彼らは、キリスト教的価値観を規範とする欧米社会で暮らす鬱屈とした若者たちに大きな影響を与えた。
本気のアンチクライストを掲げたブラックメタラーたちは、北欧で教会への放火や殺人といったシャレにならない事件を引き起こし、大きな社会問題となった。

その後、欧米ではブラックメタルはさらに多様なジャンルに進化、発展して現在に至っている。
例えば、ヨーロッパにおけるキリスト教伝来以前の伝統復古を歌うペイガン・メタルや、ナチズムを賛美する国家社会主義ブラックメタル(National Socialist Black Metal=NSBM)、鬱的な精神状態を表現する鬱自殺系ブラックメタル(Depressive Suicidal Black Metal=DSBM)などだ。
彼らは、結局はキリスト教の中の概念に過ぎない「悪魔崇拝」に早々に見切りをつけ、それに代わる新しい価値観として、古代の伝統やファシズムや虚無主義を見出したというわけだ。

何が言いたいかというと、そうした今日的な、反キリスト以外の価値観を標榜するバンドと比べて、ナガのブラックメタルバンドの直接的な悪魔崇拝は、非常に古典的なものだということだ。

実際にナガランドのブラックメタルバンドを聴いてみよう。
例えばこのAguares.
曲名はその名も'Storm of Satanic Cult'

歌詞は例によって何を言っているのかさっぱり分からないがとにかく邪悪で暴力的な雰囲気は十分に伝わって来る。
タイトルからして、直接的に悪魔崇拝を賛美しているのだろう。

ブラックメタルではないが、コヒマのデスメタルバンド、Syphilectomyもナガランドのエクストリーム・メタルを代表するバンドのひとつだ。

安っぽい甲高いスネアの音がB級っぽさを醸し出しているが、演奏技術は非常に高いものを持っているようだ。
反道徳的な曲のテーマも宗教的規範への反発と捉えてよいだろう。

こうした音楽に代表される欧米風のサタニズムは、先ほど紹介した「民俗学的悪魔憑き」とはだいぶ趣きを異にするように思えるが、ナガランドには「精神疾患系」と「反社会系」の2つのタイプの悪魔崇拝が共存しているようだ。

そもそも、ナガランドでサタニズムを標榜するというのはどういうことを意味しているのだろうか。
ナガランドでは、キリスト教への信仰心は政治的アイデンティティーとも深く結びついていて、革命を目指し独立闘争を戦う組織までもが「キリスト教による統治」を掲げている。
つまり、この地で反キリスト教を主張するということは、インド中央政府の支配に対するナガのアイデンティティーをも否定した、二重の反抗を表明するということになる。
これは、むしろニヒリズムに近い思想だと言えるだろう。
サタニストたちが悪魔崇拝の儀式を行っているのは、インパール作戦の激戦地だったコヒマの戦没者墓地だという。
そこは、日本兵やインド兵だけでなく、ナガランドの独立を信じて戦った地元の兵士たちもが眠っている場所だ。
サタニストたちは現在のナガ社会の信仰だけでなく、独立闘争にも、歴史にも、何もかもに対してNoを突きつけているというわけだ。

また、ナガランドは「黒魔術」が盛んな土地でもある。
この「黒魔術(black magic)」は反キリスト教的なサタニズムとは直接関係のないものなのだが、キリスト教伝来以前の精霊信仰、呪術信仰にもとづく超自然的な占いやまじないが今日ではそう呼ばれていて、今でも復讐や恋愛相手の気をひくために利用されているという。
(といっても、このご時世、「黒魔術」は地下でひそやかに行われているのではなく、例えばGoogleで「Nagaland black magic」で検索すると、すぐに黒魔術師の連絡先を探すことができる)

こうした様々な状況を考えると、ナガランドの若者たちがサタニズムに傾倒するのも無理のないことのように思える。

キリスト教的な倫理観が支配的な社会への反抗。
誰もがインドからの独立を望みながらも、どうにも叶えられそうにない閉塞した状況。(それどころか、中央政府が派遣した軍隊による令状なしの暴力行為すら許されている)
キリスト教社会であるがゆえのロックやメタルといった欧米文化への親和性の高さ。
キリスト教伝来以前の呪術信仰という素地。

こうした社会的、文化的背景があるナガランドでは、希望が持てない若者の選択肢としてサタニズムが存在感を持つのは必然なのだろう。
今後、ますます増え続けるサタニストたちはより深刻な社会問題となってゆくのか。
それとも「十字軍」による「再教化」が成功を収め、もとのキリスト教的社社会を取り戻すことができるのか。

そのなかで「音楽」は、どのような役割を果たしてゆくのか。
ナガランドには、前回紹介したように、クリスチャンロックバンドもいる土地柄だ。
例えば、欧米にはブラックメタル同様のブルータルなサウンドに乗せてキリスト教的な主張を歌う「Holy/Unblack Metal」という訳がわからないジャンルの音楽があるが、今のナガランドの状況を見ていると、そのような突拍子もないバンドが出てきたりすることも十分にあり得るように思える。

シャレにならない要素を孕んでいると分かりつつも、今後のナガランド社会と音楽に、さらなる興味を隠せないのであります。

今回は北斗の拳か横溝正史のようなタイトルをつけてしまってちょっと反省。
次回は、サタニズムとはまた別の、驚愕のナガランドの流行を紹介します!

特集ナガランドその1 辺境の山岳地帯に響く歌声 映画「あまねき旋律」

特集ナガランドその3 ナガの地で花開く日本文化 ナガランドのオタク・カルチャー事情とは?


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goshimasayama18 at 02:07|PermalinkComments(0)

2018年10月18日

特集ナガランドその1 辺境の山岳地帯に響く歌声 映画「あまねき旋律」


現在ポレポレ東中野で公開中のドキュメンタリー映画「あまねき旋律」(原題:'Kho Ki Pa Lu' 英語タイトル:'Up Down And Sideways')を見てきた。
この映画は、インド北東部ナガランド州の棚田が広がる農村、Phekで暮らすチャケサン・ナガ族の人々に焦点を当てたドキュメンタリーだ。
田園での暮らしの中で歌われる伝統的な歌唱を中心に据えつつ、インドの中ではマイノリティーである彼らの日常を美しく綴った作品だった。
 
この予告編でも聴かれるとおり、彼らが農作業や力仕事の労働歌として歌う美しいポリフォニー(多声合唱)こそがこの映画の主人公だ。
人々へのインタビューも収録されているが、彼らの歌そのものにこそ、彼らの人生や世界観の本質が最もよく現れている。

彼らの歌は、田畑での労働と一体化した歌という意味では黒人のブルースの原型のようでもあるし、音楽的にはアフリカ音楽やブルガリアン・ヴォイスにも似た印象を受ける。
生活と芸術、労働とコミュニケーション(あるいは娯楽)が不可分に結びついた彼らの暮らしぶりを見て、人間本来の根源的な生き方を見たような気持ちになった。
もちろん、彼らを過剰に美化するつもりはないし、ナガの人々も物質的にもっと豊かになることや、肉体労働から解放されることを望んでいるに違いない。
それでも、世界中のあらゆる国の人々が、かつてはこんなふうに暮らしていたのだろうというナガの人々の姿を見て、胸にこみ上げてくるものがあった。
私たちは、より豊かに、より便利にという望みを叶え続けた結果、もといた場所からずいぶん遠くまで来てしまったんだなあ。

というのはあくまで個人的な感想。
こんな感傷を問題にしないくらい、彼らの歌は素朴ながらも圧倒的に美しく、生きることへの深い洞察に基づいた豊かな詩情にあふれている。

ナガランドといえば、かつて首刈りの風習があったというあまりにも強烈な歴史で有名な土地だ。
この地では、かつて男子が大人として認められるための通過儀礼として、異なる部族の人間を殺し首を刈ってくるという習慣があった。
かつてと言っても大昔ではなく、ほんの50年くらい前までの話だ。

「異なる部族」と書いたとおり、「ナガ」は単一の民族の名称ではなく、異なる文化や言語を持つ16もの民族の総称だ。
ナガランドでは、州の共通語として「ナガミーズ」という言語が話されているが、これはもともとあった言語ではなく、近隣のアッサム州の言語アッサミーズ(アッサム語)の語彙やベンガル語の文法をもとに欧米の宣教師たちが作った比較的新しい言語だそうだ。
(と、高野秀行氏の「西南シルクロードは密林に消える」という本に書いてあった)

首刈りの習慣がなくなった大きな理由のひとつが、宣教師たちが持ち込んだキリスト教だ。
20世紀に入ってイギリスやアメリカの宣教師によって伝えられたキリスト教は、それまでナガの人々が信仰していた精霊信仰にとって変わり、いまではナガランドの人口の90%がキリスト教徒(プロテスタントのバプテスト派が主流)となった。
(ちなみに近隣のミゾラム州やメガラヤ州もクリスチャンが8〜9割を占める)
キリスト教を信仰するようになった彼らは、「首刈り」というかつての残忍な風習をやめ、あの伝統的な歌も一時期歌うのをやめてしまったという。
自らの伝統を野蛮で後進的なものとして捉えるようになったのだろう。
だがしかし、キリスト教の普及により歌われなくなった伝統歌を復活させたのもまた、キリスト教指導者たち(ただし、欧米人ではなく地元出身の)だった。
キリスト教によって、彼らは共通の言語を手に入れ、首刈りの風習を止め、自分たちの歌い方を止めて、そしてまた始めた。
彼らの暮らしのなかで、信仰が、そして歌がいかに大きな存在であるかが分かる。
この映画でも、田畑では伝統的な歌を、教会では聖歌を歌うナガの人々の姿が映し出されている。

部族ごとに異なる言語や文化を持ち、異なる部族であれば首刈りも辞さないほどの抗争を繰り広げていたナガの人々が、今日、部族を超えた団結がまあそれなりにできている理由を3つ挙げるとしたら、キリスト教、共通語としてのナガミーズ、そして中央政府やインド中心地域への反発心、ということになるだろう。

中央政府やインド中心地域への反発心。
そう。
ナガランドといえば、もうひとつ有名なのが独立運動だ。
(ナガランドの独立運動については、このサイトに詳しい。『アジアで最も長く独立運動が続く「ナガランド」を知っていますか?』
ナガの住民たちは、イギリス統治時代に単独での独立を約束されながらも、インドの独立によってその支配下に甘んじることを余儀なくされ、今日まで続く長い独立運動を続けてきた。
ナガランドの州都コヒマは、第二次世界大戦中の日本軍の悪名高いインパール作戦の激戦地となった土地だが、当時のナガ人の中には「日本軍が勝てばナガランドの独立が約束される」と信じて日本側について戦った人々も多かった。
そして、日本軍とともにインド(当時はイギリス支配下)と戦った経験こそが、その後の独立運動の発火点にもなった。(そのあたりの経緯に触れたこの記事は全日本人必読の内容。『「日本軍が去った後、村は火の海と化した」目撃者が語るインパール作戦の真実|「終戦記念日」特別寄稿』

その後のナガの独立闘争は苛烈を極めた。
いくら辺境の地とはいえ、あまりにも多様な民族や文化を抱えるインド中央政府にとって、ナガランドの独立を認めてしまうことは、インド各地に波及して国家全体の統一を揺るがす大問題に発展しかねない。
独立を求めるナガの人々は、山林の中でのゲリラ戦を展開したが、力の差は歴然としていた。
そして、インド軍は容赦がなかった。
1955年から57年の間に、ナガランドでは645の村、約80,000の家、そして大量の稲と米ががインド軍により焼き払われたという。

先述の高野秀行氏の「西南シルクロードは密林に消える」には、2002年頃のナガランドの独立運動の様子が生々しく描かれている。
ナガの人々の権利を勝ち取るために結成されたナガ民族評議会(NNC)は、大国インドからの独立というあまりにも大きな目標に向かう過程の中で、派閥に分裂していがみ合う泥沼状態に陥っていた。
部族と派閥をタテ糸とヨコ糸とした複雑な関係の中で、親族同士でも心を開けない生活がこの時代にはまだ送られていた(ひょっとしたら、今もまだそうなのかもしれないが)。
また、ナガの人々は国境をまたいでミャンマーにも暮らしており、ミャンマー側に暮らす彼らもまた、同じひとつのナガランドとして独立することを望んでいるのだった。

映画の中で独立運動に触れられている場面は少ないが、ナガランドがこうした背景を持つということ、そしてインド北東部7州(セブン・シスターズ)の多くで似たような背景の独立運動が行われているということは非常に重要だ。
北東部7州は、今でも悪名高い軍事特別法(AFSPA=Armed Force Special Power Act)の対象地域とされ、中央政府から派遣された軍隊が令状なしで逮捕したり、殺害したり、場合によっては財産を破壊したりすることが認められている。
この法律のもとで地元の人々に対する多くの人権侵害が行われ、国際的にも強く批判されているが、今なおAFSPAは廃止に至っておらず、北東部の人々を苦しめ続けている。
「あまねき旋律」の中で、インド軍の兵士を映したシーンのみ重苦しい無音となっていた理由には、こうした背景があるのだ。

部族間での首刈り、イギリス側と日本側双方に分かれて戦った第二次世界大戦、そして、独立闘争。
ナガの人々の歴史は闘争の歴史だ。
以前、ナガランドに暮らす多様な人々の統合を歌った曲、'As One'を紹介したが、こうした背景を踏まえて聴くと、この曲の持つ意味合いがより深く、重く感じられるはずだ。
「あまねき旋律」の被写体となっているチャケサン族は、ナガランドの中でもとくに歌が得意な部族として有名らしく、この歌の中でもいちばん最初のパートを歌っている。
 
この曲ではナガの部族だけではなく、彼らにとっては独立闘争の相手ともなりうるインドの「メインランド」の人々であるパンジャーブ、ビハール、ラージャスタン、テルグ系の人々もともに歌っているというところにまた大きな意味がある。
この歌に関しては、政治家が絡んでいるようでもあるし、ひょっとしたら現実離れした「きれいごと」の世界なのかもしれないが、それでもナガランドの理想のひとつがここに歌われていることに間違いないだろう。

最後に、現在活躍しているナガランドのアーティストを何組か紹介したい。

まず紹介するのは、Tetseo Sisters.
「あまねき旋律」でフィーチャーされていたナガの民謡を、かなりオリジナルに近い形で歌っている。

というか、「あまねき旋律」自体が、Tetseo Sistersのメンバーの結婚式の参加者に故郷のPhek村を紹介してもらったことがきっかけで撮影された映画だそうだ。
この曲はポレポレ東中野でも映画の上映前に流されていた。 

続いて紹介するのは、彼らの伝統音楽をジャズやファンクと融合した音楽性のPurple Fusion.
'Tring Tring'というこの曲はナガの戦士や首刈りをテーマにした曲のようだ。
かつての「首刈り」の習慣は偏見のもとにもなっているようだが、彼らにとって勇壮な戦士の伝統は誇りでもあるのだろう。
このミュージックビデオのドラマ部分はちょっと牧歌的にすぎるように思うけど。

伝統音楽を離れて、ナガランドで最も成功しているミュージシャンといえばAlobo Nagaだろう。
洗練された音楽性で2012年にMTV EuropeのBest Indian Actに選ばれた彼は、昨年ムンバイで開催されたArtist Aloud Awardでもベストソング賞、ベスト英語楽曲賞、 ベスト北東部アーティスト賞を受賞した。

ANTB(Alobo Naga And The Band)名義で5月にリリースされた新曲'Come Back Home'
この曲ではアメリカ人ギタリストのNeil Zazaがフィーチャーされている。
Neil Zazaといっても知らない人が多いだろうが、マイナーながら20年以上前には日本盤もリリースされていたロックギタリストで、私はこの人のCDを高校時代に買ったことがある。
まさかこんなところで会うことになるとはねえ。

現地の言葉で歌われたAchipiu Mlahnni.
この曲は、ナガの人々に対して、誠実であれ、善良であれ、子供達に質の高い教育を与えよう、より良い未来のために尽くそう、クリーンな選挙で信頼できるリーダーを選ぼう、と訴えかける内容だ。
Alobo Nagaはネット環境が不安定なナガの人々のために、USBメモリ形式で音源を発売したりもしているとのこと。

その名の通りクリスチャン・バンドであるDivine Connectionはふた昔前のシンガポールあたりのバンドのような佇まい。

佇まい同様、サウンドも時代を感じさせない聴き心地の良いAORサウンドだ。

爽やか系ハードロックのIncipit.


今年デビューしたばかりのTrance Effectは女性ボーカルのギターロックバンド。


と、多様な音楽性を誇るナガのバンドたちだが、あえて共通点を上げるとしたら、美しい自然の中で撮影されたビデオが多いのが特徴だろうか。
自然豊かな故郷は彼らにとっても誇りなのだろう。
今回も長くなりました。

とにかく映画は素晴らしかった。
ナガの丘では今日もカメラの回っていないところで、誰に記録されるでもなく、生活や労働の中で美しいもの(歌と詩)が吐き出されては消えてゆくのかと思うと、翻って自分の暮らしにそういう要素はあるだろうかと考えてしまう。

次回は、この自然豊かな地に忍び寄る新たな暗部にフォーカスを当ててみたいと思います。
それでは!

特集ナガランドその2 神の国となりし首刈りの地に悪魔の叫びが木霊する!悪魔崇拝とブラックメタル

特集ナガランドその3 ナガの地で花開く日本文化 ナガランドのオタク・カルチャー事情とは?

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goshimasayama18 at 00:01|PermalinkComments(0)