コヒマ

2018年10月27日

特集ナガランドその3 ナガの地で花開く日本文化 ナガランドのオタク・カルチャー事情とは?



インド北東部の秘境、ナガランド州を紹介してきたこの特集。
第1回目は「首刈り」「独立闘争」「キリスト教」に象徴されるナガランドの近現代史を取り上げ、第2回目では社会問題となっている悪魔崇拝とその背景を紹介してきた。
第3回目の今回は、現代のナガの若者たちの間に流行するさらに驚愕のカルチャーを紹介する。
何を隠そう、それは日本発祥の文化。

それは何かというと、「コスプレ」だ。
アニメ、マンガに代表される日本のサブカルチャーはインドでもそれなりの人気を博してはいるが(例えば首都デリーやムンバイでもコスプレイベントが開催されている)、なぜかここナガランドには、州の規模を考えると非常に多くの熱心なオタクカルチャーファンが集中している。

百聞は一見に如かず。
さっそくその様子を見てみよう。
これは、今年7月にナガランドの州都コヒマで行われたイベント、Cosfestの様子だ。
入場料は大人100ルピー(約160円)、子供50ルピー(約80円)。
インドとはいえ、ナガの人々は日本人同様のモンゴロイド系の顔立ちなので、言われなければインドだと全く気づかないほどのコスプレっぷり!
NagaCos1

NagaCos2

NagaCos3

NagaCos4

これはコスプレでなくオブジェ
NagaCos5
(以上写真5枚はhttps://rootsandleisure.com/day-1-of-cosfest-2018-kohima/から)

NagaCos6

NagaCos7

NagaCos8
NagaCos9

(以上写真4枚はhttp://morungexpress.com/cosplay-just-costume-play/から)

紹介しておきながら元ネタが分からないものが多く、あまり語れることがなくて申し訳ない。
このイベントは、Nagaland Anime Junkies(NAJ)というグループが州都のコヒマで2013年から毎年開催しているもの。
地元メディアの記事によると、当初、こうしたコスプレイヤーが出始めた頃には、見慣れない黒ずくめの衣装や奇妙なメイクに、すわ新手のサタニストかと疑われたりもしていたようだが、今では新たな文化としてすっかり定着しているという。

第6回目となる今年は、コスプレだけでなく、バンド演奏、 DJ、アニメ映画の上映(新海誠)なども行われ、8,000人ものファンを集めた。
前回紹介した社会問題となっているコヒマのサタニストが3,000人とのことだから、悪魔主義者の倍以上のコスプレファン・アニメファンがいるということだ。
繰り返すが、コヒマの人口は27万人。
そのうち1%はサタニストで、悪魔に取り憑かれていたり、真夜中に墓地であやしげな儀式をしたりしている。
そして3%はイベントに集まるほどのコスプレファン。
ここはいったいどういう街なんだ…。

映像でみるとこんな感じで、とても、あののどかな「あまねき旋律」の舞台と同じ州だとは思えない。

先進国のコスプレと比較して完成度がどうなのか、私には分かりかねるが、着物にもセーラー服にも触れたことがないであろうナガランドで、情熱と工夫でここまでの衣装やメイクを作り上げる姿勢にはもう脱帽するしかない。

Cosfestを主催しているNagaland Anime Junkies(NAJ)は2011年に結成された。
当初はNaga Anime Junkiesを名乗っていたが、ファンが集まるにつれて「自分はナガ人ではないが仲間に入れてもらえないか」という声が多くなり、名称をNagaland Anime Junkiesに改めたという。
Nagaは民族名だが、Nagalandは単なる地名だからだ。
このCosfestは、当初は遠く離れたムンバイのコスプレイベントに参加できない地元のアニメファンのために開催したものだったのが(コヒマ-ムンバイ間の距離は3,000km以上)、あっという間に大人気となり、近隣の州からもファンが集まるようになった。
ナガランドのコスプレ愛好家たちは、材料が手に入りにくい環境で工夫に工夫を重ねて衣装を製作しているとのこと。
地元の生地屋で使えそうな生地を買ったり、現地では高価な発泡スチロールを冷蔵品を扱うお店に売ってもらったりして、手作りで衣装を作っているという。

インドでは、ドラえもん、クレヨンしんちゃん、ハットリくん、ポケモンのような子ども向けのアニメは広く知られているが、コスプレの対象になるようなサブカル的、オタク的なアニメのファンはまだまだ一般的でない。
それなのに、このナガランドでの異常なまでのアニメブームはいったいどういうことなのだろうか。

地元紙の報道によると、ナガランドでの日本ブームには3つのきっかけがあったようだ。
1つめは、2002年に日本の宗教指導者がナガランドを訪れ、第二次世界大戦中の激戦地となったことに対し、謝罪を行ったということ。(調べたところ、キリスト教のアガペという団体だったようだ)
2つめは、2009年に日本のミュージシャンがコヒマでパフォーマンスをしたこと。(調べたけど誰だか分からなかった。いったい誰?)
3つめは、2011年にナガを代表するバンドたちが、東日本大震災の被災者支援のためのイベントを開催したことだという。
このイベントには、先日紹介したAlobo NagaやDivine Connectionも出演したようだ。
日本では詳しく報じられなかったと思うが、遠く離れた、決して豊かとは言えないナガランドからも、州を代表するスターや一般市民たちが精一杯の支援してくれたと思うと、胸が熱くなる。
こうしたイベントを通して日本文化への親近感が湧いていたところに、日本の映画「クローズzero」(原作は漫画)が公開され、日本ブームに火がついたということのようだ。

また、Cosfestを扱ったドキュメンタリー映画(「Japan in Nagaland」後述)によると、ナガのアニメファンたちはアニマックスやカートゥーン・ネットワークのようなケーブルテレビでアニメにはまったという。
このドキュメンタリーでは、コスプレがここまで流行する背景として、ナガランドにはバーやクラブのような若者向けの娯楽や文化がなかったためと分析されている。

ナガランドの日本のサブカルチャーへの情熱は、コスプレという「模倣」にとどまらない。
日本風のオリジナルのマンガを描くアーティストもいる。
NagaManga1
NagaManga2
(画像2点、出展:https://scroll.in/magazine/876664/in-manga-crazy-nagaland-a-young-womans-comic-series-has-made-her-a-minor-star

彼女の名前はThej Yomhe.
ナガランドから2,500キロ離れたインド北西部ウッタラカンド州デラドゥンの大学でアニメーションとVFXの学位を取得したのち、今では地元で働きながらマンガの製作を行っているそうだ。
彼女の作品、'Carnaby Black'はここから読むことができる。
https://tapas.io/episode/39319
日本のマンガの影響だけでなく、森林や山並みなどの豊かな自然の描き方にナガのルーツを感じさせる作風だ。

ナガランドでここまで日本のサブカルチャーが愛されている理由として、ナガの人々の外見が影響しているという指摘もある。
ボリウッド映画のように典型的なインド人が活躍する作品よりも、同じモンゴロイドである日本の作品のほうが感情移入しやすいというのだ。
アニメやマンガの前には、日本と同じ東アジアの韓流ドラマが、そのさらに前には香港のカンフー映画が流行っていたという。
とはいえ、それらの実写作品と違い、日本のアニメやマンガには、キャラクターや舞台設定が無国籍なものも多い。
コスプレの対象になるような作品はなおさらだ。
それなのになぜ、ナガの若者たちはここまで夢中になるのだろうか。
もちろんストーリーやキャラクター自体が魅力的だということもあるだろうが、それだけではなぜインドのなかでここナガランドでだけ特別な盛り上がりを見せているのか、説明がつかない。

以前紹介した通り、ナガランドは伝統的な精霊信仰からキリスト教への改宗が地域を挙げて行われた土地だ。
かつては部族ごとに独自の文化や言語を持ち、他の部族に対して首刈りまで行っていたナガの人々は、20世紀中頃までに行われた改宗によって、それまでの伝統的な生活を変え、キリスト教を中心とした新しい価値観に大きく舵を切った。
これは、彼らの暮らしに根づいていた伝統的な歌声さえも、一度は捨ててしまったというほどの大きな変革だった。
改宗後、ナガの生活は著しく変わった。
部族ごとに異なる言語を話していた彼らは、宣教師が作り出した共通語「ナガミーズ」を手に入れ、今では英語も一般的に話されている。
1951年には10%だった識字率は、2011年には80%にも達した。

こうした変化にともない、ナガの若い世代が、自らの歴史的なルーツとの間に乖離を抱えているであろうことは想像に難くない。
現在の価値観の中心であるキリスト教も、若い世代にとっては「古い伝統に変わる開明的な信仰」という実感を抱けるほどに新しいものではないだろう。
勇敢な首刈りの戦士たちも、インターネット世代の若者たちには遠い過去の話だ。
そんな中で、ナガの若者たちが、自分たちの熱中できる対象として日本のアニメを見出したというのはとても興味深い。

日本も、敗戦によって明治以来の価値観を大きく転換した歴史を持つ。
その後の経済成長によって伝統的な暮らしを失ってゆく過程の中で、欧米文化の影響を受けながらも、新しく自由な発想で作られてきたのがアニメやマンガに代表される日本のサブカルチャーだ。
他の文化圏では子ども向けの娯楽に過ぎなかったアニメやマンガは、ここ日本では新しい文学となり、神話となった。

ナガと日本は、理由はどうあれ、いずれもが、第二次世界大戦後に自分たちのルーツを一度は否定してきた歴史を持つ。
自身のアイデンティティーを考えた時に、歴史や伝統というルーツを喪失したナガランドの若者たちが日本のサブカルチャーを熱狂的に受け入れているということは、ある種の必然とも言えるのかもしれない。

このナガランドのアニメブームは、インド国営放送Doordarshanも注目しており、2014年の第2回Cosfestを取材した40分ほどのドキュメンタリー映画'Japan in Nagaland'が製作されている。

NAJのメンバーたちや地元のコスプレイヤーたちの情熱には驚かされるばかり。
(Carnaby Blackの作者、Thej Yomheも登場する)
38分18秒あたりから、彼らが日本に対する憧れを語るシーンがある。
彼らの憧れの地でわりと憂鬱に日常を暮らしている私としては、インタビューを聞いてこそばゆいというか、申し訳ないような気持になる。
彼らにとって日本は、外見こそそっくりでも、あまりにも遠い場所であるようだ。

日本に数多ある日本好きの外国人を扱うテレビ番組のスタッフは、まだ彼らに気づいていないんだろうか。
意外性のある、とても面白い番組が作れるように思うのだけど。

ナガランドのオタクのみなさん、こんなにも日本の文化を愛してくれてありがとう。
震災の時の支援にも、遅くなりましたが勝手に日本を代表してお礼を申し上げます。
日本の人たち、とくに、彼らと同じようにアニメやコスプレを愛する人たちに、遠いナガランドにいる彼らのことを少しでも知ってもらえたらと思ってこの記事を書きました。

いつか会えたらいいね!

参考記事:
https://www.thehindu.com/society/history-and-culture/nagalands-japanese-subculture/article24481651.ece
https://www.telegraphindia.com/7-days/bye-bye-hallyu-hello-haiku/cid/1670283
https://rootsandleisure.com/day-1-of-cosfest-2018-kohima/
https://homegrown.co.in/article/800138/documentary-filmmaker-hemant-gaba-explores-cosplay-culture-in-nagaland

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2018年10月21日

特集ナガランドその2 神の国となりし首刈りの地に悪魔の叫びが木霊する!悪魔崇拝とブラックメタル


前回
紹介したように、ナガランドの近現代史を象徴する3つの要素といえば、「首刈り」「キリスト教」「独立闘争」ということになる。
 ナガの人々は、キリスト教への改宗によって首刈りを野蛮な風習として取りやめ、今では人口の9割がクリスチャンとして暮らしている(プロテスタントのバプテスト派が多い)。
激しい独立闘争もひとまず影をひそめ、信仰のもとに平和な生活が戻ったかに思われたナガランド。
しかし、近年この地に新たな社会問題が発生している。

それは、「悪魔崇拝」(サタニズム)だ。 
キリスト教が圧倒的なマジョリティーを占めるナガランドで、反キリストの悪魔崇拝が若者の間で流行し、深刻な問題になっているというのだ。
現地のニュースサイトによると、州都コヒマだけで、10代や20代を中心に、3,000人以上のサタンの崇拝者がいるとのこと。

コヒマは、ナガの16部族のうち、アンガミ族が多く暮らす人口27万人ほどの街だ。
この街で3,000人以上というのことは、人口比にして1%以上。
東京で言えば10万人以上のサタニストがいるというのと同じことで、確かにこれは無視できない問題に違いない。
コヒマは前回紹介した映画「あまねき旋律」の舞台となったPhekからも30キロ程度の場所にある。
おどろおどろしい悪魔崇拝が、あののどかな農村のすぐそばまで迫っているのだ。

サタニスト達は何をしているのかというと、地元紙の記事によると「血をすするような儀式、自傷行為、墓地での真夜中の礼拝」などを行い、「聖書を燃やしたり、生の肉を食べたり」して、さらには「空中浮遊のような超常現象」をも起こしていると言われているらしい。
ほんとかよ…。
(参考サイト:http://morungexpress.com/naga-society-faced-teenagers-satanism/
       http://morungexpress.com/satanism-in-nagaland-putting-it-into-perspective/

心配した両親たちは、子どもたちを取り戻すための「十字軍」を結成し、祈りの戦士(prayer warrior)やスピリチュアル・カウンセラーの力によって、彼らをもとの信仰へと連れ戻そうとしているという。
そりゃ、子どもたちがそんな不気味な儀式を始めたら親じゃなくても心配するよな。
それに生肉を食べるってのは何だろう。
お腹こわしたりしないんだろうか。

「十字軍」のカウンセラーたちは、サタニストの少年が「ルシファーこそ我が王なり」と叫んで床をかきむしりながら神を罵倒しているところに神の愛を説きながら改心を呼びかけるという、映画「エクソシスト」さながらの悪魔払いを行っているという。

我々取材班は、とあるルートからナガランドで実際に行われている悪魔祓いの儀式を撮影した映像を入手した。
(まあ、ふつうにYoutubeにあったんだけど。単にこれが言ってみたかった)


かなりショッキングな映像だが、これは実際にナガランドで行われていることである。
上記の記事によると、サタニストたちの自傷行為が避けられない場合には、手錠と足枷で拘束することもあるという。

ここで見られる「サタニズム」は、欧米社会でのそれのように、社会やキリスト教的倫理への反発、あるいはオカルト趣味に基づくものではなく、かつての日本の「狐憑き」のような、今日では精神疾患の概念で説明すべきもののようにも思える。
(欧米のサタニズム、例えば、アントン・ラヴェイの「悪魔教会」は、オカルティックなものではなく、それなりに洗練された独自の宗教倫理を標榜している)

この映像を見て、私は上田紀行氏の名著「スリランカの悪魔祓い」を思い出した。
この本は、スリランカの農村部を舞台に、鬱や自閉のような状態に陥った「患者」に対して「悪魔祓い」を行い、悪魔を説得して帰らせる儀式を村全体で行うことでその「症状」を治療する、癒しのプロセスを取り上げたノンフィクションだ。
スリランカでは悪魔は孤独な人に憑くと言われており、ナガでは悪魔崇拝に走る若者たちは家庭に問題を抱えている者が多いとも報じられている。
先進国であれば鬱などの精神疾患の原因となりうる環境が、ナガランドやスリランカでは「悪魔憑き」を引き起こすというわけだ。
仏教社会であるスリランカと、キリスト教社会であるナガランドでの「悪魔憑き」「悪魔祓い」の共通点や相違点は、比較社会学的、比較宗教学的にも面白いテーマになりそうだ。

「十字軍」の必死の努力もむなしく、ナガランドのサタニストは若者たちの間で増加傾向にある。
彼らはどのようにその数を増やしているのかというと、その手段はなんとFacebookのようなSNSとロック・ミュージックだという。
ナガランドでは、ロックミュージシャンの言動に影響を受ける若者が多く、悪魔主義的な音楽やミュージシャンの影響でサタニストになる例が多いそうだ。
そしてサタニストたちはSNSで連絡を取り合い、墓地で不気味な儀式を行ったりしているというわけだ。

悪魔主義的なロックといえば、それはブラックメタル。
ヘヴィーメタルにおける猟奇趣味的演出だった悪魔崇拝を「本気」(マジ)で取り入れた彼らは、キリスト教的価値観を規範とする欧米社会で暮らす鬱屈とした若者たちに大きな影響を与えた。
本気のアンチクライストを掲げたブラックメタラーたちは、北欧で教会への放火や殺人といったシャレにならない事件を引き起こし、大きな社会問題となった。

その後、欧米ではブラックメタルはさらに多様なジャンルに進化、発展して現在に至っている。
例えば、ヨーロッパにおけるキリスト教伝来以前の伝統復古を歌うペイガン・メタルや、ナチズムを賛美する国家社会主義ブラックメタル(National Socialist Black Metal=NSBM)、鬱的な精神状態を表現する鬱自殺系ブラックメタル(Depressive Suicidal Black Metal=DSBM)などだ。
彼らは、結局はキリスト教の中の概念に過ぎない「悪魔崇拝」に早々に見切りをつけ、それに代わる新しい価値観として、古代の伝統やファシズムや虚無主義を見出したというわけだ。

何が言いたいかというと、そうした今日的な、反キリスト以外の価値観を標榜するバンドと比べて、ナガのブラックメタルバンドの直接的な悪魔崇拝は、非常に古典的なものだということだ。

実際にナガランドのブラックメタルバンドを聴いてみよう。
例えばこのAguares.
曲名はその名も'Storm of Satanic Cult'

歌詞は例によって何を言っているのかさっぱり分からないがとにかく邪悪で暴力的な雰囲気は十分に伝わって来る。
タイトルからして、直接的に悪魔崇拝を賛美しているのだろう。

ブラックメタルではないが、コヒマのデスメタルバンド、Syphilectomyもナガランドのエクストリーム・メタルを代表するバンドのひとつだ。

安っぽい甲高いスネアの音がB級っぽさを醸し出しているが、演奏技術は非常に高いものを持っているようだ。
反道徳的な曲のテーマも宗教的規範への反発と捉えてよいだろう。

こうした音楽に代表される欧米風のサタニズムは、先ほど紹介した「民俗学的悪魔憑き」とはだいぶ趣きを異にするように思えるが、ナガランドには「精神疾患系」と「反社会系」の2つのタイプの悪魔崇拝が共存しているようだ。

そもそも、ナガランドでサタニズムを標榜するというのはどういうことを意味しているのだろうか。
ナガランドでは、キリスト教への信仰心は政治的アイデンティティーとも深く結びついていて、革命を目指し独立闘争を戦う組織までもが「キリスト教による統治」を掲げている。
つまり、この地で反キリスト教を主張するということは、インド中央政府の支配に対するナガのアイデンティティーをも否定した、二重の反抗を表明するということになる。
これは、むしろニヒリズムに近い思想だと言えるだろう。
サタニストたちが悪魔崇拝の儀式を行っているのは、インパール作戦の激戦地だったコヒマの戦没者墓地だという。
そこは、日本兵やインド兵だけでなく、ナガランドの独立を信じて戦った地元の兵士たちもが眠っている場所だ。
サタニストたちは現在のナガ社会の信仰だけでなく、独立闘争にも、歴史にも、何もかもに対してNoを突きつけているというわけだ。

また、ナガランドは「黒魔術」が盛んな土地でもある。
この「黒魔術(black magic)」は反キリスト教的なサタニズムとは直接関係のないものなのだが、キリスト教伝来以前の精霊信仰、呪術信仰にもとづく超自然的な占いやまじないが今日ではそう呼ばれていて、今でも復讐や恋愛相手の気をひくために利用されているという。
(といっても、このご時世、「黒魔術」は地下でひそやかに行われているのではなく、例えばGoogleで「Nagaland black magic」で検索すると、すぐに黒魔術師の連絡先を探すことができる)

こうした様々な状況を考えると、ナガランドの若者たちがサタニズムに傾倒するのも無理のないことのように思える。

キリスト教的な倫理観が支配的な社会への反抗。
誰もがインドからの独立を望みながらも、どうにも叶えられそうにない閉塞した状況。(それどころか、中央政府が派遣した軍隊による令状なしの暴力行為すら許されている)
キリスト教社会であるがゆえのロックやメタルといった欧米文化への親和性の高さ。
キリスト教伝来以前の呪術信仰という素地。

こうした社会的、文化的背景があるナガランドでは、希望が持てない若者の選択肢としてサタニズムが存在感を持つのは必然なのだろう。
今後、ますます増え続けるサタニストたちはより深刻な社会問題となってゆくのか。
それとも「十字軍」による「再教化」が成功を収め、もとのキリスト教的社社会を取り戻すことができるのか。

そのなかで「音楽」は、どのような役割を果たしてゆくのか。
ナガランドには、前回紹介したように、クリスチャンロックバンドもいる土地柄だ。
例えば、欧米にはブラックメタル同様のブルータルなサウンドに乗せてキリスト教的な主張を歌う「Holy/Unblack Metal」という訳がわからないジャンルの音楽があるが、今のナガランドの状況を見ていると、そのような突拍子もないバンドが出てきたりすることも十分にあり得るように思える。

シャレにならない要素を孕んでいると分かりつつも、今後のナガランド社会と音楽に、さらなる興味を隠せないのであります。

今回は北斗の拳か横溝正史のようなタイトルをつけてしまってちょっと反省。
次回は、サタニズムとはまた別の、驚愕のナガランドの流行を紹介します!

特集ナガランドその1 辺境の山岳地帯に響く歌声 映画「あまねき旋律」

特集ナガランドその3 ナガの地で花開く日本文化 ナガランドのオタク・カルチャー事情とは?


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