クリスマス

2021年12月15日

2021年度版 インドのクリスマスソング特集!

もう12月も半ば。
この時期、2018年にはインド北東部ナガランド州のクリスマスソングを、昨年は同じく北東部メガラヤ州のクワイアが歌うクリスマスソングを紹介したので、今年は他の地域の曲を紹介したい。




…と思って調べてみたのだけど、正直に言うと、今のところ、そこまで素敵なクリスマスソングをインドで見つけることはできなかった。
これはどうしてかっていうと、キリスト教徒が多いインド北東部と比べて、メインランド(北東部の人たちは、アーリア系やドラヴィダ系の人々がマジョリティを占め、ヒンドゥー教やイスラーム教やシク教などが信仰されているインドの大部分をこう呼ぶ)にはそこまでクリスマスを祝う習慣が根付いていないからだろう。

なんて言うと、インドに詳しい人から「メインランドにもゴアやケーララ州にはクリスチャンがたくさんいるじゃないか」と言われてしまいそうだが、今回調べた限りでは、いわゆる西洋スタイルのポップミュージックとして聴けるいい感じのクリスマスソングは、ゴアやケーララでも見つけることができなかった。
(代わりに、宗教的なものや、インドの歌謡曲っぽいクリスマスソングはたくさん見つかったが…)
20世期に大々的にキリスト教への改宗が進められた北東部に対して、ゴアにキリスト教が伝えられたのは大航海時代だし、ケーララにいたっては1世紀に聖トマスがキリスト教を伝道したとも言われている。
つまり、ゴアやケーララのキリスト教(主にカトリック)は、長い歴史を持つがゆえに、欧米とは異なるインド独自の伝統を持っていて、それがウエスタン(西洋)・ポップス的なクリスマスソングを生まれにくくしているんじゃないだろうか。

インド北東部でクリスチャンが多いのは、もともとヒンドゥー教やイスラーム教よりもアニミズム(精霊信仰)が盛んだった地域だ。
こうした場所では、19世期から欧米の宣教師たちが入って改宗が進められ、ナガランド州やミゾラム州では、今では9割を超える人々がキリスト教を信仰するようになった。
ナガランド特集の記事でも紹介した、チャケサン・ナガ族の民謡と欧米的ポップスを融合した音楽性で知られるTetseo Sistersは、昨年のクリスマスに"Joy to the World"をリリースした。



顔立ちや伝統的なアクセサリーを見ないで音だけ聴けば、インドのシンガーだと思う人はほとんどいないだろう。

こちらはチャケサン・ナガの伝統的歌唱スタイルのクリスマスソング。


いつの間にかメンバーが一人脱退しているっぽいのが気になるが、ドキュメンタリー映画『あまねき旋律』でも紹介された伝統唱歌'Li'を思わせる素朴な歌声が心地良い。


北東部以外に、欧米ポップス的なクリスマスソングが皆無なわけではない。
ムンバイ出身のGwen Fernandesは、昨年クリスマスアルバム"The Best Christmas Ever"をリリースした。


名前を見る限り、彼女もクリスチャンのようだが、大都市ムンバイのクリスチャン・コミュニティで育った彼女にとって、こうした欧米のスタンダードなクリスマスソングは、慣れ親しんだものなのだろう。

こちらもクリスチャンっぽい名前のデリーのシンガー、Kimberley Rodriguesがリリースしたオリジナル曲。



インドでは、クリスチャン・コミュニティ以外にも、非宗教的なオシャレイベントとしての(いわば、日本的な)クリスマスが都市部を中心に広まりつつあるようで、例えば昨年も紹介したこの曲は、元EDMアーティストで、近年はアコースティックシンガーとしての活躍が目立つZaedenによるもの。



デリーからは、ラッパーのHommie Dilliwalaがインドの売れ線系ラッパーの筆頭格Yo Yo Honey Singhをフィーチャーした"Jingle Bell"という曲を発見。


おそらく宗教的な意味でのクリスマスとは全く関係のない内容だが、都会のパーティーカルチャーの雰囲気がよく伝わってくる。

インドでは、ディワーリーやホーリーといったヒンドゥー教の伝統的なお祭りに合わせてリリースされるポピュラーソングも多く、またなぜか毎年独立記念日に合わせてリリースされる楽曲もある。
そう考えると、インドでは、そこまで季節の風物詩としてのクリスマス・ソングが必要とされていないのかもしれない。
いつかインドからワム!や山下達郎みたいな感じの、ポップなクリスマスソングの名曲が出てくることがあるのだろうか。




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goshimasayama18 at 18:57|PermalinkComments(0)

2020年12月23日

2020年度版 インドのクリスマスソング特集! 古代アラム語で歌われるクリスマスキャロルからバングラーまで



2年前に、インド北東部ナガランド州のクリスマスソングに関する記事を書いた。
典型的な「インド人」とは異なる、モンゴロイド系の民族が多く暮らすインド北東部は、他の南アジアとは異なりヒンドゥー/イスラーム文化の影響が少なく、19世紀以降の宣教によって、今では多くの住民がキリスト教を信仰している。
ナガランドは人口の9割がクリスチャンであり、地元の伝統と西洋のポップミュージックやキリスト教信仰を融合したユニークなクリスマスソングが存在しているのだ。
 
(詳細はこちらの記事で↑)
今回は、ナガランド以外に視野を広げて、あらためてインドのクリスマスソングを調べたので、紹介してみます。
今年リリースされた曲でとくに印象に残ったのはこの2曲。

まず紹介するのは、インドを代表するEDM系プロデューサーからアコースティックなシンガーソングライターへの転身を遂げたZaedenが、女性シンガーNatania Lalwaniをフィーチャーしてリリースした"For Christmas".

シャッフル気味のアコースティックギターに、ファルセットボイスで歌われるポップなメロディー。
インディー音楽とはいえ、とうとう典型的なクリスマスのポップチューンがインドでも作られるようになったと思うと感慨深い。
途中からレゲエっぽいリズムが入ってくる展開も洒落ている。

インドでは、近年の経済成長や海外文化の流入に伴い、都市部を中心に「欧米的なオシャレなイベント」としてのクリスマスが根付きつつある。(一方で、既存の宗教の原理主義的な信奉者や偏狭なナショナリズムの支持者からは反発もあるわけだが)
イエス・キリストの誕生日やサンタクロースがやってくる日としてのクリスマスではなく、愛する人と過ごす日としてのクリスマスが描かれたこの曲は、都市部の現代的な若者たちのクリスマスのイメージを踏襲したものと見てよいだろう。


続いて紹介するのは、人口の75%がキリスト教を信仰するインド北東部メガラヤ州の州都シロンからの1曲。
Shillong Chamber Choirが今年リリースしたクリスマスアルバム"Come Home Christmas"に収録された"Go Tell It On The Mountain"だ。

Shillong Chamber Choirは、2001年に結成された室内合唱団で、人気テレビ番組'India's Got Talent'での優勝(2001年)を含め、国内外で多くの賞に輝いている。
地元の民謡っぽい旋律に続いて、ファンキーにアレンジされた賛美歌/ゴスペルの"Go Tell It On The Mountain"が英語で歌われるが、途中で歌が耳慣れない言語に変わることに気がつくはずだ。
これはなんとイエス・キリストが話していたと言われる「古代アラム語」だそうで、「マルチリンガルなクリスマス・アルバム」として制作された今作に合わせて、今ではほとんど話者のいないこの言語を「救い主が生まれたことを世界に告げよ」と歌うこの曲に採用したとのこと。
多言語社会のインドでは、複数の言語で歌われる曲も珍しくはないが、賛美歌に古代アラム語を持ってくるというのは、クリスチャンの多い北東部ならではの発想だろう。

この"We The Kings"では、ウルドゥー語とペルシア語が採用されている。

非常に美しいミュージックビデオは、イスラエルのサンドアーティストIlana Yahavによるもの。
正直に言うと、私は普段合唱団が歌うような音楽は全く聴かないのだが、このアルバム"Come Home Christmas"に関しては、ファンキーにアレンジされたゴスペルから荘厳な賛美歌まで、さまざまな言語の美しい響きとともに、なんの違和感もなくポップミュージックとして楽しむことができた。
非常にユニークな、長く聴くことのできるクリスマス・アルバムだ。


今年のリリースではないものの、インドならではの面白いクリスマスソングを他にも見つけることができたので、合わせて紹介します。

ムンバイのポップバンドSanamは、いくつかのクリスマスソングをカバーして発表している。
彼らは古いボリウッド映画の曲を現代的にカバーし、YouTubeから人気が出たバンド。
彼らは映画音楽のみならず、100年前のベンガルの詩人タゴールの作った歌などもカバーしており、近代化著しいインドで、歌を通して古き良きものと現代を繋ぐ役割を担っているのだろう。
そんな彼らがカバーしたクリスマスソングは、ポップスではなく、伝統的な聖歌/賛美歌だ。

おそらく彼らはクリスチャンではないと思われるが、彼らのクリスマスソングを聞くと、流行の消費主義的なイベントとしてのクリスマスではなく、信仰こそ違えど、我々よりも大きな存在に帰依する人々への共感とリスペクトが込められているように感じられる。
物質主義的な部分が強くなって来たとはいえ、インドは信仰の国だ。
サンタクロースやクリスマスケーキになじみのない人々も、偉大なGuru、イエス・キリストの生誕を祝う気持ちは十分に理解できるのだろう。

続いて、北インドのポピュラー音楽シーンのメインストリームであるバングラー(Bhangra)のクリスマスソングを探してみたところ、意外にも多くの動画がアップされているのを見つけてしまった。
バングラー・ユニットのGeeta Brothersは、その名も"Punjabi Christmas Album"というアルバムをリリースしている。

陽気な男たちが打ち鳴らすドール(Dhol. 両面太鼓)、コブシの聞いた歌い回し。
彼らはバングラーの故郷パンジャーブ州に住んでいるわけではなく、イギリスに暮らす移民たちらしい。
パンジャービー系の人々は、移民が多く、コミュニティーが世界中に広がっているからこそ、世界中の文化と伝統音楽の融合が行われているのだろう。

こちらはマレーシア、クアラルンプールのパンジャービー・コミュニティー。


クリスマスソングに合わせてバングラー・ダンスを踊りまくっている動画とか、クリスマスソングのバングラー・リミックスもかなりたくさんヒットする。





彼らがクリスチャンなのか、はたまたヒンドゥーやシクなのかは知る由もないが(ターバンを巻いている人たちはシク教徒のはず…)、なんとも陽気で楽しくて素晴らしいではないか。
「お祝いだ!太鼓叩いて踊ろうぜ」って感じのノリが最高だ。

クリスマスを信仰に基づいてお祝いする人も、パーティーとして楽しむだけの人も、今年は例年になく困難な状況を迎えているが、何はともあれ感謝の心を忘れずに、遠く離れた人々との繋がりも感じながら過ごすことができたら素晴らしいことだ。
みなさん、メリー・クリスマス。
素敵なクリスマスをお過ごしください。




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goshimasayama18 at 19:13|PermalinkComments(0)

2018年12月21日

インド北東部ナガランドのクリスマスソング!

街中はクリスマス一色といった今日この頃。
いかがお過ごしでしょうか。

インドでもこの頃は、都市部の富裕層を中心に、クリスチャンでなくてもクリスマスをお祝いする習慣が広がってきているのだけれど、ヒンドゥー/イスラーム文化圏のインドでは、日本みたいに毎年のようにクリスマスをテーマにしたポップソングがリリースされるような風潮はない。
そんなインドで、例外的にたくさんのクリスマス・ソングを見つけることができるの場所、クリスチャンがマジョリティーを占めるインド北東部だ。
というわけで、今回はドキュメンタリー映画「あまねき旋律」の舞台にもなった、独特の民族音楽を持つナガランド州のクリスマスソングを紹介します。

このブログでも何度も書いてきているように、インドの北東部にある7つの州(アルナーチャル・プラデーシュ、アッサム、マニプル、メガラヤ、ミゾラム、ナガランド、トリプラ。Seven Sisters Statesと呼ばれる)には多くのキリスト教徒が暮らしている。
インド北東部
インドのことを多少知っている人であれば、南部のゴアやケーララ州にはキリスト教が普及しているという話を聞いたことがあるだろう。
ゴアやケーララには、大航海時代や、そのはるか以前の1世紀に聖トマスが伝えたとされるキリスト教を信仰する人が多く暮らしており、キリスト教文化が伝統として根付いているが、それでもクリスチャンの割合は人口の3割ほどであり、彼らの多くはカトリックの信者だ。
それに対して、インド北東部の場合、クリスチャンのほとんどはプロテスタントを信仰している。
とくに、ナガランド州やミゾラム州は、なんと人口の8割〜9割がクリスチャンであり、インドでも最もキリスト教徒の比率が高い州となっている。
(ナガランドについては、その反動か悪魔崇拝が社会問題になっているというのは以前書いた通り。同じプロテスタントでも、ナガランドはバプテスト派、ミゾラムでは長老派が主流だ。また、北東部でもトリプラ州のようにヒンドゥー教徒が多い州もある)

インドの北東部は、北インドのアーリア系ヒンドゥー文化やイスラーム王朝文化とは全く異なる文化を持つモンゴロイド系の人々が暮らしている土地だ。
彼らはもともとアニミズム(精霊崇拝)を信仰していたが、19世紀末から20世紀にかけてこの地を訪れた欧米の宣教師によってキリスト教が伝えられ、 ナガやミゾの地では、その新しい信仰が主流になるまでに至った。
インドの中では比較的キリスト教の歴史が浅いこの地域ではあるが、だからこそというか、ポップなクリスマス・ソングも多くリリースされている。
(対照的に、ゴアやケララでは、キリスト教の歴史が長いせいか、クリスマス・ソングといっても聖歌のような曲調のものが多い)

まず紹介するのは、以前も取り上げた、当地の民族音楽とポップミュージックを融合したTetseo Sistersが歌う、クリスマスのスタンダード'Winter Wonderland'.

部屋の飾り付けやクリスマスツリーは日本や欧米と全く変わらないし、彼女たちの顔立ちとナガランド風の帽子を除けば、まったくアジアらしさを感じさせないミュージックビデオだ。
彼女たちも、いつものナガ風の歌唱ではなく、美しい英語のハーモニーを聴かせてくれている。
ナガランドは同じ州内でも民族ごとの言語が異なるという土地柄から、英語の普及率がインドの中でとくに高い地域でもあるのだ。

続いては、Tetseo Sistersと、同じくナガランドの大スター、Alobo Nagaが歌う、みなさんご存知の'Jingle Bells'.

イントロでTetseo Sistersが聴かせるこの地方独特のハーモニーがじつに心地いい。
'Winter Wonderland'とはうってかわって、伝統的なナガランドの囲炉裏を囲んでのビデオも素敵だ。
彼女たちは英語のカバー曲のセンスもいつもとても良い。

より宗教的な雰囲気を感じさせる歌としては、Virie, Zaza & Shalo Kent Feat. Akokというナガの複数のアーティストたちが歌う'Angels in Bethlehem'.

イエス生誕の地ベツレヘムを遠く離れたナガの地でクリスマスを祝福するこの曲を聴くと、現代風に見えるナガの若者たちもまた敬虔なクリスチャンなんだなあ、と改めて感じる。

最後に紹介するのは、Nagagenousという、ナガランドの文化や伝統をテーマにしたグループ(たぶん)が歌う、Khrismas Ye Niphulo pavi (Christmas is best in my village)という曲。
この曲はポピュラーミュージックではなく、ナガランドの教会音楽のような曲と思われるが、英語の字幕もついているので、ぜひじっくり聴いてみてほしい。
 
素朴で美しい伝統的なナガの暮らしの中でクリスマスを祝福する歌詞が心に響く。

私たちの村に雪は降らないし
サンタクロースのこともよく知らない
クリスマスケーキなんて無いけれども
やっぱり自分の村のクリスマスが最高さ

私たちの森にはトナカイなんて走っていないし
プレゼントを交換する習慣もない
ベツレヘムがどんなところかも知らないけど
やっぱり自分の村のクリスマスが最高さ



クリスチャンではない私たちにも馴染み深いサンタクロースやクリスマスケーキ、プレゼント交換のような習慣はなくても、自分たちの村で、自分たちのやり方で救い主の誕生を祝うことが最高に幸せなんだと彼らは歌う。
さらにこの曲の歌詞は驚くべき展開を見せる。


神々しい納豆の香りに
美味しいお餅
香ばしく焼けるキビとハトムギ
どんなに私の村のクリスマスを待ちわびたことか


納豆と訳したのは、Axoneという日本の納豆によく似た豆を発酵させたナガランドの伝統食品。
ナガの納豆については高野秀行氏の著作に詳しいが、納豆にdivine(=神々しい)っていうイメージがあるのが凄い。
餅と訳した部分はDelicious sticky rice breadという字幕だが、いったいどういったものなのだろう。
キビやハトムギというのも、いわゆる典型的なインド料理ではあまり見ないものだ。
ナガの食文化がインドのメインランドよりも、日本と同じいわゆる照葉樹林文化に近いものだということがよく分かる。
いずれにしても、キリスト教のルーツからは遠く離れたナガランドで、心からクリスマスをお祝いするナガの人々を思うと、信仰というものの純粋さをあらためて感じさせられる。

今日はここまで!
どんな宗教の人も、どんな民族の人も、どんな国籍の人も、素敵なホリデイ・シーズンが過ごせますように!


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goshimasayama18 at 23:55|PermalinkComments(0)