インド音楽
2018年08月12日
プログレッシブ・古典ミクスチャー・メタル? Pineapple Express!
軽刈田 凡平です。
さて、今回紹介しますのは、バンガロールのとにかく面白いバンド、Pineapple Express.
彼らは今年4月にデビューEPを発売したばかりの新人バンドなんですが、このブログの読者の方から、ぜひ彼らのことをレビューをしてほしい!とのリクエストをいただきました。
どなたかは知らぬが、おぬし、やるな。
Pineapple ExpressはDream TheaterやPeripheryのようなヘヴィー寄りのプログレッシブ・ロックやマスロックを基本としつつ、エレクトロニカからインド南部の古典音楽カルナーティック、ジャズまでを融合した、一言では形容不能な音楽性のバンド。
百聞は一見に如かず(聴くだけだけど)、まず聴いてみてください。彼らの4曲入りデビューEP、"Uplift".
どうでしょう。
プログレッシブ・メタル的な複雑な変拍子を取り入れながらも、メタル特有のヘヴィーさやダークさだけではなく、EDMや民族音楽的なグルーヴ感や祝祭感をともなったごった煮サウンドは、形容不能かつ唯一無二。
結果的にちょっとSystem of a Downみたいに聴こえるところもあるし、トランスコアみたいに聴こえるところもある。
Pineapple Expressは中心メンバーでキーボード奏者のYogeendra Hariprasadを中心に結成された、なんと8人組。
バンド名の由来は、おそらくは2008年にアメリカ映画のタイトルにもなった極上のマリファナのことと思われる。
メンバーは、「ブレイン、キーボード、プロダクション」とクレジットされているYogeendraに加えて、
Arjun MPN(フルート)、
Bhagav Sarma(ギター)、
Gopi Shravan(ドラムス)、
Jimmy Francis John(ヴォーカル。Shubhamというバンドでも歌っている)、
Karthik Chennoji Rao(ヴォーカル。元MotherjaneのギタリストBhaiju Dharmajanのバンドメンバーでもある)、
Ritwik Bhattacharya(ギター)、
Shravan Sridhar(バイオリン。Anand Bhaskar Collectiveも兼任ということらしいが、あれ?以前ABCのことを記事に書いたときから違う人になってる)の8人。
8人もいるのにベースがいなかったり、ボーカルが2人もいたりするのが気になるが、2013年に結成された当初はトリオ編成だったところに、 Yogheendraの追求する音楽を実現するためのメンバー交代を繰り返した結果、この8人組になったということらしい。
1曲めの"Cloud 8.9"はプログレ的な変拍子、カルナーティック的なヴォーカリゼーション、ダンスミュージック的な祝祭感に、軽やかに彩りを添えるバイオリンやフルートと、彼らの全てが詰め込まれた挨拶代わりにぴったりの曲。
2曲めの"As I Dissolve"はぐっと変わって明快なアメリカンヘヴィロック的な曲調となる。
この曲では古典風のヴォーカルは影を潜めているが、彼ら(どっち?)が普通に歌わせてもかなり上手いヴォーカリストことが分かる。アウトロでEDMからカルナーティックへとさりげなくも目まぐるしく変わる展開もニクい。
3曲めはその名も"The Mad Song". 分厚いコーラス、ラップ的なブリッジ、さらにはジャズっぽいソロまでを詰め込んだ凄まじい曲で、このアルバムのハイライトだ。
途中で彼らの地元州の言語、カンナダ語のパートも出てくる。
こうして聴くとプログレ的な変拍子とカルナーティック的なリズムのキメがじつはかなり親和性の高いものだということに改めて気づかされる。
考えてみればインド人はジャズやプログレが生まれるずっと前からこうやってリズムで遊んでいたわけで、そりゃプログレとかマスロックとかポストロックみたいな複雑な音楽性のバンドがインドに多いのも頷けるってわけだ。
4曲めのタイトルトラック"Uplift"はフォーキーなメロディーが徐々に激しさと狂気を増してゆくような展開。
たった4曲ながらも、彼らの才能の豊かさと表現の多彩さ、演奏能力の確かさを証明するのに十分以上な出来のデビュー作と言える。
デビューEP発売前に出演していたケララ州のミュージックチャンネルでのライブがこちら。
よりEDM/ファンク的な"Money"という曲。
メンバー全員のギークっぽいいでたちが原石感丸出しだが、奏でる音楽はすでに素晴らしく完成されている。
日本でも公開されたボリウッド映画(武井壮も出てる)「ミルカ」ののテーマ曲のカバー、"Zinda"はライブでも大盛り上がり。
Yogheendraはこのバンド以外にも少なくとも2つのプロジェクトをやっていて、そのひとつがこのThe Yummy Lab.
インド音楽とキーボードオリエンテッドなプログレ的ロックサウンドの融合を目指す方向性のようだ。
演奏しているのは"Minnale"という映画の曲で、古典楽器ヴィーナの音色がどことなくジェフ・ベックのギターの音色のようにも聴こえる。
もうひとつのプロジェクトが"Space Is All We Have"というバンド。
このバンドはメンバー全員で曲を共作しているようで、Pineapple Expressとは違いインド音楽の要素のないヘヴィーロックを演奏している。
Pineapple Expressのヴォーカリスト、Jimmy Francis Johnと二人で演奏しているこの曲では、変拍子やテクニックを封印して、叙情的で美しいピアノを披露している。
どうだろう、とにかく溢れ出る才能と音楽を持て余しているかのようじゃないですか。
Yogeendra曰く、インドの古典音楽とプログレッシブ・ロックを融合させることは、意識しているというよりごく自然に出来てしまうことだそうで、また一人、インドのミュージックシーンにアンファン・テリーブル(恐るべき子供)が現れた、と言うことができそうだ。
今後の予定としては、スラッシュメタルバンドのChaosやロックンロールバンドのRocazaurus等、ケララシーンのバンドと同州コチのイベントで共演することが決定している模様。

Pineapple Expressが、少なくともインド国内での成功を収めるのは時間の問題だろう。
彼らのユニークな音楽性からして、インド以外の地域でももっと注目されても良いように思うが、プログレッシブ・メタル、インド伝統音楽、エレクトロニカというあまりにも対極な音楽性を融合したバンドを、果たして世界の音楽シーンは適切に受け止めることができるだろうか。
この点に関しては、試されているのは彼らではなくて、むしろ我々リスナーであるように感じる。
海外のフェスに出たりなんかすれば、一気に盛り上がって知名度も上がるんじゃないかと思うんだけど、どうでしょう。
Pineapple ExpressとYogheendraがこれからどんな作品を作り出すのか、インドや世界はそれにどんなリアクションを示すのか。
それに何より、この極めてユニークな音楽性のルーツをぜひ直接聞いてみたい。
これからもPinepple Express、注目してゆきたいと思います!
それでは!
2018年07月26日
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ちなみにどちらもプロフィール写真は21年前にインドで遭遇した裸形のサードゥー(行者)で私ではありません。
それでは、これからもいい感じの記事を書いてゆきたいと思います。
2018年06月23日
The Mellow Turtleインタビュー!驚異の音楽性の秘密とは?
先日紹介した、ジャールカンド州ラーンチー出身の驚くべき音楽性を誇るギタリスト/シンガー・ソングライターのThe Mellow Turtle.
インドの中でも後進的な地域の出身ながら、時代もジャンルも超越した先進的なハイブリッドサウンドを奏でる彼の音楽遍歴やバックグラウンドはいかなるものなのか?
想像を超える実態が明らかになった驚愕のメールインタビューの模様をお届けします!
その前に、The Mellow Turtleの紹介記事はこちら!
—あなたのFacebookページを読むと、ずいぶんいろんなタイプの音楽を聴いてきたみたいだね(註:彼はおすすめとして、Tom Misch, FKJ, Bonobo, B.B.King, Muddy Waters, Alt J, Ratatat, Ska Vengers, The F16sなど、海外、国内を問わず非常に多様なアーティストを挙げている)。 それにブルースロックだったり、ヒップホップだったり、エクスペリメンタルなものだったり、すごくいろいろなスタイルの曲を書いているけど、いったいどんな音楽的影響を受けてきたのか、教えてもらえる?
MT「最近聞いているのはアフリカのマリのブルースだよ。Ali Farka Toure, Songhoy Blues, Vieux Farka Toureとかだな。 大きな影響を受けたアーティストといえば、The Black Keys, Ratatat, Gorillaz, Chet Faker, Glass Animals, Morcheeba, Thievery Corporation, Muddy Waters, Howlin Wolfあたりってことになる。 最近じゃヒンドゥスターニー(北インド)の古典音楽も聴き始めたよ。」
マリのブルース!そっちから球が飛んでくるとは思わなかった!
他にも、インディーロック、新世代シンガー・ソングライター、ローファイ、伝説的ブルースマンと、古典から現代まで、センス良すぎるラインナップだ。
さらに地元インドの古典音楽まで聴き始めたとは!
ギタリストにもかかわらず、いわゆるギターヒーロー的なテクニカルなプレイヤーを挙げずに、いろいろなジャンルのグッドミュージックを挙げているのも印象的。
本当に音楽そのものが大好きなのだろう。
—マリのブルースって、いったいどこで知ったの?
MT「Youtubeで見つけて、そこからインターネットで調べ始めたんだ。Ali Farka ToureとRy Cooderのアルバム「Talking Timbuktu」はチェックすべきだよ。すごく美しい音楽だ」
Ali Farka Toureのソロアルバムはこちら!
Ali Farka Toure、不勉強にして初耳だったのだけど、聴いてみてびっくりした。
なぜって、もはやすっかり伝統芸能として形骸化し、息絶えたと思っていたブルースの「精神」が、彼の音楽に生々しく息づいていたから。
アフリカ系アメリカ人によって生まれ、そのままアメリカで死んだと思われていたブルースは、その精神的故郷アフリカで今も生き残っていた。
そしてインドの後進地域のミュージシャンに影響を与え、さらに新しい音楽の母胎となっている。
なんて素晴らしい話なんだろう!
—いつ、どんなふうにギターの演奏を始めたの?
MT「13、4歳のころにギターを弾き始めた。理由はギターのサウンドにどっぷりはまっちゃってたから。それでギターのレッスンを始めたんだけど、少しの間だけレッスンを受けて、あとはウェブ上のタブ譜を見ながら練習したよ」
—お気に入りのソングライターやパフォーマー、ギタリストは誰?
MT「それは難しい質問だな。ソングライターとしては、Ben Howardが大好きだ。ベスト・パフォーマーを挙げるなら、Anderson Paakってことになるね。お気に入りのギタリストってことなら、B.B.Kingがいちばんだよ」
Ben Howardは先日紹介したAsterix Majorを思わせる叙情的なフォーク系シンガー・ソングライターだ。
The Mellow Turtle、守備範囲広すぎだろう。
Anderson Paakはカリフォルニアのゲットー出身のアーティスト。アメリカの黒人音楽の誕生から現在までを全て詰め込んだようなラッパー/シンガー/ドラマー。
ケンドリック・ラマーらと並んで、現在のヒップホップシーンで高い評価を得ている。
B.B.Kingは言うまでもないブルースの大御所だ。これは彼が映画ブルースブラザーズ2000でも披露していた代表曲の1つ。
こうして彼のお気に入りの音楽を並べてみると、音楽性は様々だが、サウンドやスタイルのかっこよさを追求するだけでなく、魂を込めて真摯に表現しているタイプのアーティストが多いことに気がつく。
とくに彼の黒人音楽の好みに関しては、耐え難きを耐え、忍び難きを忍ばざるを得ないジャールカンドの暮らしの中で育まれた感覚が共鳴するアーティストを挙げているようにも感じる。考えすぎだろうか?
—あなたがTre Essと競演している曲がすごく好きなんだけど、彼もラーンチー出身だよね。いつ、どんなふうに出会って、共作を始めるようになったか教えてもらえる?
MT「ありがとう!友達のJayantとElephant RideのEPを作っていたときに、Sumit(Tre Essの本名)もJayantのスタジオでソロアルバムをレコーディングしてたんだ。ある日スタジオに顔を出したらJayantが、僕らの曲に合わせてラップをした奴がいるって言うんだ。それをチェックしてみたらすごく良かったから、そのTangerineって曲のラップをそのまま残しておくことにしたんだよ。その後、僕らはスタジオで顔を合わせて、いっしょにレコーディングするようになった。それで今じゃすっかり大親友になったってわけさ。」
それがこの曲、Tangerine. Tre Essのラップは2:10頃から。
ラップが入ることで、ブルースロック調の曲がより現代的、立体的になっているのがわかる。
—ラーンチーやジャールカンド州のミュージックシーンについて教えてくれる?ジャールカンドじゃどんなところでライブをしているの?ライブハウスみたいなところとか、フェスとかあるの?
MT「ラーンチーのシーンは本当に退屈だよ。生演奏が聴ける場所なんてないね。へヴィーメタルとカバーバンドのリスナーがいるだけさ。ラーンチーでライブを企画しようとしたことがあったんだ。でも観客は古いヒンディー語とか英語の曲のカバーばっかりリクエストしてきた。ここで新しいタイプの音楽を聴く人を見つけるのは本当に大変だよ」
音楽好きがほとんどいない街で、偶然出会った全く違うジャンルの才能あふれるミュージシャン2人。
ムンバイやデリーのような音楽シーンが成熟した大都市だったら、出会わずにすれ違うだけだったかもしれない。
音楽の神様はたまにこうして才能のあるもの同士を引き合わせる。
そして、そんな音楽好きがほとんどいない街で、純粋に自分たちの音楽を追求しつづけるThe Mellow TurtleとTre Essには、心からのリスペクトを感じる。
でも、本当に今のままでいいの?
—インドの場合、多くの才能あるミュージシャンがデリーやムンバイやバンガロールみたいな大都市に活動拠点を移しているよね。あなたも活動拠点を大都市に移したいと思う?それともラーンチーにとどまり続けるつもり?
MT「正直言って、まだなんとも言えないよ。理想を言えば、ラーンチーとムンバイと両方で過ごすことができればいいけど。都会の生活はとても厳しいよね。生活にお金もかかるし、交通状況も最悪で(駐:ラッシュアワーや交通渋滞のことか)移動のためにずいぶん時間を無駄にしなきゃならない。でもボンベイみたいな街に住めば、もっとライブの機会は増えるし、音楽業界の先頭に立っている人たちにも会える。僕の音楽を聴いてくれるファンを増やすこともできると思うし。」
日本でも、いや世界中でも、同じように感じている地方在住のミュージシャンは多いことと思う。上京して一人暮らしするのだってバカにならないお金がかかる。
都会出身のミュージシャンとは、そもそも前提条件から違うってわけだ。
でも、だからこそ、彼のように地方から大都市のシーンとは関係なく面白い音楽が出てきたりもするのだけど。
—あなたのアルバムのタイトル『Dzong』(ゾン)とか、曲名の『Dzongka』(ゾンカ)っていうのは、ブータンの言語の『ゾンカ語』のことだよね?もしそうなら、どうしてこのタイトルをつけたのか、意味を教えてもらえる?
MT「ブータンの言葉だと、『Dzong』っていうのは宗教や行政や社会福祉を全て執り行う城のことなんだ。このアルバムを通して、僕は精神的なことや政治的なこと、社会的なことを表現したかった。それから僕は建物としての『Dzong』にすっかり魅了されてるんだ。すごくきれいなんだよ。そういうわけでアルバムに『Dzong』ってタイトルをつけたんだ。
これが「Dzong」(ゾン)
『Dzongka』っていうのはブータンの言葉を意味している。この曲では、自分たちの独自のサウンドを追求してみたんだ。ブータンが独自の言語や文化を持っているようにね。『Dzong』をレコーディングしているとき、僕とSumit(Tre Ess)でブータンに行く機会があったんだ。二人ともブータンの文化や雰囲気がすっかり気に入ったんだよ。僕が今までに見た中で一番美しい国だった。」
今度はブータンと来たか!
アメリカや世界中のグッドセンスな音楽のスタイルに乗せて、地元の街のブルース(憂鬱)を歌う。それだけでも十分なのに、隣国の文化からもインスパイアを受けたという彼らの感受性には恐れ入る。時代も地理的な条件もいっさい関係ないみたいだ。
-あなたのFacebookのページによると、ソーシャルワーカーや起業家としても活躍しているみたいだね。音楽以外ではどんなことをしているの?
MT「父の不動産会社で働いていて、プロジェクトの責任者をしているよ。ソーシャルワーカーとしては、今はSt.Michales盲学校のとても才能あるミュージシャンたちのメンターとレコーディングをしているよ。学校で週に2回、ギターも教えているんだ。学校でセッションのための部屋も作ろうとしているんだ」
不動産会社はともかく、盲学校でのプロジェクトはとても面白そうだ。
初期のブルースマンからレイ・チャールズ、スティーヴィー・ワンダーを経てラウル・ミドンまで、盲目の素晴らしいミュージシャンは数多くいる。
彼の音楽的センスと、インドの土壌から、どんなミュージシャンが出てくるのだろうか。
インタビューを通して感じたのは、彼の音楽全般に対する情熱だ。
地域も時代も超え、あらゆる音楽に興味を持ち、良いものを聴き分ける音楽ファンとしての情熱。
そしてそこから受けた影響を、音楽シーンのない街で世界中のどこにもない自分の音楽として作り、表現する情熱。
また、音楽の普遍性と地域性ということについても考えさせられた。
彼の音楽は、先に述べたような世界中のさまざまな音楽からの影響で成り立っている。
だが、彼の作るサウンドの、ビートの隙間からは、紛れもないインドの地方都市の空気が漂ってくるのもまた事実だ(これは、Tre Essの音楽からも感じることだ)。
ニューヨークの音楽にはニューヨークの、西海岸の音楽には西海岸の空気があるように、彼の作る音楽からは、ジャールカンドの空気感が伝わって来る。
昼の暑さを忘れさせるくらい涼しくなった夜の、排気ガスやどこからともなく漂う煮炊きの匂い、オートリクシャーのエンジンとクラクションの音、暗い街角で行くあてもなく佇む人々の眼差しや息遣いが感じられるような音像だと、私は感じている。
The Mellow Turtle. ジャールカンド州ラーンチーが生んだ稀有な才能。
今後彼がどんな音楽を作り出すのか。
またみなさんに紹介できることを楽しみにしています。
2018年06月17日
心地よい憂鬱と叙情…。 Asterix Major
なんたって憂鬱と叙情だからね…。
さて、このブログでは、これまでいろいろなタイプのインドの音楽を紹介してきた。
かっこいい音楽。面白い音楽。いかにもインドらしい音楽。インド社会の知られざる側面がよくわかる音楽。などなど。
今回紹介するのは、何ていったらいいんだろう。
インドとか日本とか、そういう限定的な枠を超えて、すごく、じんとくる音楽だ。
デリーのシンガーソングライター、Asterix Majorの新曲、"Falling Up".
これまでにこのブログで紹介したことがない、ギターの弾き語り中心の穏やかな曲。
決してポップでキャッチーなわけでもない。
でも静かだが、力強く、重く、深いメッセージが伝わってくる曲だ。
ぜひ、歌詞や映像と一緒に味わってみてほしい一曲です。
モノクロ中心の 美しい映像は、インドのことを映しているはずなのに、曲調や歌詞とあいまって、遠く離れた場所に住んでいる我々の胸にも迫ってくる。
美しい映像の中に映される、信じられないほどの格差。路上で暮らす人たち。
豊かな生活と引き換えの環境汚染。農作物への大量の化学薬品の使用。
様々な形での暴力に晒される子供や女性など社会的の弱者。
我々はこうした問題がインド固有のものではなく、日本でも、世界中のあらゆるところでも起きているということを知っている。
また、途上国で起きている深刻な問題が、先進国が主導する世界的な経済システムの中で引き起こされたものだということも知っている。
物質的にも経済的にも発展してきたはずなのに、社会の歪みは大きくなるばかり。
こんなことををこの先ずっと続けていくことができるのだろうか。
でも誰もが、世の中の不安や矛盾から目を背けて、日々を生きている。
この、とてもやっかいで、でもとても大事な真実を、この曲は非常に美しい方法で表現している。
この"Falling Up"について彼は、断罪しているのではなく、ただ我々が暮らしている社会のあり方を描写しているんだと語っている。
こうした超越者的な視点のせいだろうか。
この曲には、絶望というよりも、諦観にも似たやさしさを感じる不思議な味わいがある。
個人的には、この曲が持つ「やさしい虚無感 」みたいな感覚とフォーク的な曲調に、先ごろ亡くなった森田童子を思い出したりもした。
彼の他の楽曲も、また同じように独特の情感をたたえており、美しい映像で綴られている。
エレクトロニカ系のアーティスト、NYNとのコラボレーション、"Desire"
フォーキーな"Falling Up"とはうって変わって、EDM的なトラックに乗せてラップ的な歌唱も披露している。
こちらはもう少しアンビエント寄りな、7 bucksとの曲、"Someday"
彼の音楽の叙情性がより活きた曲調だ。
クオリティーの高い映像は、デリーのShunya Picturesというところが製作しているもの。
Shunyaって日本人の名前みたいにも聴こえるけど、何なんだろう?
このAsterix Majorは、Facebookのプロフィールによると、専業ミュージシャンというわけではなく、現在デリーのマルチ・スズキ(日本のスズキがインドで立ち上げた合弁企業で、インドを含む南アジア全域で高いシェアを誇る)でインターンシップをしているそうだ。
彼の非凡な才能が今後どのような楽曲を生み出すのか、非常に楽しみなミュージシャンである。
最後に、この曲は「人生」についての曲。
多少拙い部分はあるけど、この胸を抉られるような感覚はどこから来るんだろうなあ。
2018年06月05日
上智大学で講演会を開催!
軽刈田凡平です。
「かるかった ぼんべい」と読みます。
こないだ、本名でなく凡平名義で会ったひとに「軽刈田ポンペイさん」と言われてしまいました。
それは大昔に火山の噴火で滅亡したイタリアの街で、私はインドのボンベイのほうですのでお間違えのなきよう。
ちょっと前の話になりますが、上智大学で行われていた、学生団体主催の「インド・フィリピンウィーク」というイベントで「インドのロック、ヒップホップ、EDMが面白いんど!」と題した講演会をやらせてもらいました。
こんなふざけた名前の人間に、ふざけた名前の講演会をやらせてくれた関係者各位に感謝。

チラシにはRaja KumariとGutslitとReggae Rajahs
講演会というと堅っ苦しいけど、やったのは「おしながき」と称して「黒ターバンのデスメタル」とか「砂漠のギャングスタラップ」とか書いた中からリクエストをもらって、いろんな曲のビデオをかけて背景を説明するっていうもの。
お昼時だったので入れ替わりもあったけど、40人くらいは聴いてくれたんじゃないかと思います。
EDM系のリクエストが多かったのに時代を感じました。
学生たちの反応も上々で、普段自分が紹介している音楽の反応を直接聞ける機会っていうのもとても貴重で、なかなか面白い経験でした。
またどこかでやれたらうれしいな、と思った次第でございます。
2018年05月30日
ただのお洒落野郎にあらず!Ska Vengers!
同じくデリーを拠点に活躍するSka Vengersを紹介したい。
彼らのことはいつか紹介しないと、とずっと思っていた。
まずは彼らがどんな人たちなのか、見てもらいたい。

ご覧の通り、今まで紹介してきたミュージシャンの中でも、抜群にオシャレで洗練された佇まいだ。
そしてSka Vengersというバンド名にもアタクシは少し衝撃を受けた。
もちろんこれは、音楽ジャンルのSkaとScavengerという単語を掛け合わせたものだけど、スカベンジャーと言えばごみをあさって生活している人たちのことを指す。
インドは富や教養や階級を、服装や態度や生活やあらゆる面でわかりやすく示す国。
そんなインドで、見るからに上流階級育ちっぽい彼らが、そんな下賤な名前を名乗るっていうのはかつてのインドでは考えられないこと。
あえて自分を低く見せるというロックな逆説的価値観がようやくインドにも根付いてきたのか、と思いつつも、裕福な連中がアウトロー気取りで何も考えずにスカベンジャーとか言ってるんじゃないの?とうがった見方をしていた。
正直、ナメててスマンカッタ。という話を2回くらいに分けて書かせてもらいます。
サウンドは例えばこんな感じに小粋で洗練されたスカ・サウンド。
あれ?古典じゃん、と思うかもしれないけど43秒あたりから曲が始まります。
これもまた前置きが長いビデオだが、1:40あたりから曲が始まる。
中心メンバーは男性ヴォーカルのDelhi SultanateことTaru Dalmiaと、女性ヴォーカルのBegum X。
イギリス人のキーボーディストを含む6人組で、かつてはReggae RajahsのDiggy Dangや、Yohei Sato、Rie Onaという日本人メンバー(!)も在籍していたようだ。
この世界水準なサウンドを武器にヨーロッパツアーなども行っており、あのイギリスのグラストンベリー・フェスティバルにも出演するなど、国際的な評価を得ている。
Ska Vengersはかつてドイツに住んでいたDelhi Sultanateが、現地で出会ったスカやレゲエといった音楽をインドでも演奏するために2009年に結成された。
ちょっと変わったところでは、昔のボリウッドの曲をジャイプルの伝統的なブラスバンドのKawa Brass Bandと一緒にやっていたりもする。
ここまで見ると、単なる外国帰りの金持ち連中がインドらしからぬオシャレサウンドを演奏しているだけなんじゃないの?とつい勘ぐりなってしまうところだけれども、さにあらず。
彼らは自分たちの演奏するジャマイカン・ミュージックの本質を、単なるゴキゲンなダンスミュージックとしてではなく、抑圧や植民地主義、不正義と戦う術として位置づけて取り組んでいる。
そうした彼らの本質がもっとも強くストレートに出ているのがこの曲だ。
"Modi, A Message to You"
この曲は70年代に活躍したイギリスのスカ・バンド、Specialsの"Message to You Rudy"という曲のカバーというか替え歌で、インドの現首相ナレンドラ・モディへの痛烈な批判になっている。
モディが所属する「インド人民党」(BJP)は、ヒンドゥー・ナショナリズムを掲げる組織、「民族奉仕団」(RSS)が母体となって結成された政党だ。
RSSはインドの国父ガンディーの暗殺に関わり、一時期活動が禁止されていた歴史を持つヒンドゥー至上主義団体だ。
モディがインド首相に就任以来、その経済政策などで一定の支持を集めている反面、所属政党であるBJPは地方議会でヒンドゥー教で神聖視される牛の屠殺を禁止する法案を可決させたり、同党支持者の反イスラム的な姿勢を黙認したりしていることを批判されてもいる。
インドは人口の8割がヒンドゥー教徒だが、独立以来、政教分離(セキュラリズム)国家としての原則を守ってきた。
だがBJPは「母なるインドはヒンドゥーの土地」というヒンドゥー・ナショナリズム的な傾向を政治に持ち込み、小政党が分立するなかでマジョリティーであるヒンドゥー教徒を中心に支持を拡大し、ついに中央政権を奪取するに至った。
こうした政党を批判することは、インドではとても勇気がいることで、実際バンドはこの曲を発表したことで、殺害予告を受けたという。
このビデオの中で、モディは現代的な女性に伝統的な格好をさせて牢屋に入れ、ムスリムと握手すると見せかけて無視し、炎に包まれる街を見捨てる悪者として描かれる。
さらには小さい家を潰して工場を建て、人々にテント暮らしを余儀なくさせ、故郷グジャラートの経済だけを発展させるが(日本では美談となっているインドへの新幹線の輸出は、じつは首都デリーとモディの地元グジャラート州アーメダバードを結ぶ路線だ)、真実を追求するジャーナリストから逃げ回り、最後には両目をハーケンクロイツにされるという散々な扱いを受けている。
Delhi Sultanateは語る。
「グジャラート州で2002年(モディが州首相を務めていた時代)に恐ろしい暴動が起きた。この暴動で2,000人を超えるムスリムが虐殺されたと主張する人たちもいる。多くの人がこの暴動でモディが中心的な役割を果たしたと確信しているんだ」と。
この曲の背景を少し詳しく見てみよう。
2002年2月27日、アヨーディヤーからグジャラート州のゴードラー駅に到着した列車に何者かが火を放ち、ヒンドゥー教の巡礼者58名が死亡する事件が起きた。
アヨーディヤーはヒンドゥー教の伝承ではラーマ・ヤーナの主人公ラーマ神の生誕地とされている土地だ。
BJPは、このアヨーディヤーの地をムスリムから取り戻すことを掲げて選挙を戦い、多数派であるヒンドゥー教徒の支持を広げてきた。
そしてついに1992年、この歴史あるバブリー・マスジッドを狂信的なヒンドゥー教徒たちが破壊するという事件が起きてしまう(ちなみにバブリー・マスジッド以前にヒンドゥーの寺院があったという主張に歴史的な根拠はない)。
この破壊事件を主導したのは、RSSやVHP(世界ヒンドゥー協会)のメンバーをを中心とするサング・パリワールというヒンドゥー至上主義組織で、この事件をきっかけに起きた宗教対立でインド全土で1,200人もの死者が出ることとなった。
これが現代インドの宗教間対立の大きな火種となった「アヨーディヤー事件」である。
一部のヒンドゥー教徒たちは、2002年のゴードラー駅での列車放火事件をイスラム教徒によるアヨーディヤー事件への報復であると判断して暴動を起こし、1,000名を超える死者が出る大惨事となった。
この暴動の背後で、BJPの州政府関係者が、列車放火事件がイスラム教徒によるものだと断定した発言をしたり、イスラム教徒の住居や商店の場所を暴徒側に教えたりしていたという指摘がある。
彼らはその黒幕としてモディを批判しているというわけなのだ。
Ska VengersはBJPやモディのナショナリズム的傾向や、新自由主義的な政策に明確に反対を唱えている。
彼らにとって、スカやレゲエは単なる音楽では無い。植民地主義や新自由主義、あらゆる抑圧や専制から本当の自由を勝ち取るための闘争の手段なのだ。
バンドのもう一人のフロントマン、女性ヴォーカリストのBegum Xはこう語る。
「ジャマイカとインドは共通した歴史を持っているわ。どちらもいまだに植民地時代の影響に直面しているの」
TaruのステージネームであるDelhi Sultanateというのは13世紀から16世紀にかけてデリー地方を支配したイスラム教の「デリー諸王朝」のことだ。
彼はヒンドゥーとイスラムの習俗や伝統が融合し多様な文化が栄えたこの王朝を、多様性、寛容性の象徴として自らのステージネームにしている。
彼らの闘争は、バンドでの形態にとどまらない。
次回このDelhi SultanateことTaruのさらなる驚愕の活動を紹介する。
それJAHまた!
2018年05月21日
説明不要!新世代の天才!Rhythm Shaw他若き才能たち!
ひとつ目は「さすがインド!こんなふうにインドの要素を入れてきたか!」っていうタイプのもの。
今まで紹介してきた中だと、Brodha VとかAnand Bhaskar Collectiveなんかがこれにあたる。
二つ目は「国籍とか関係なく、単純にスゲエ!」というタイプのもの。
インドのデスメタルやポストロックのレベルの高さは今まで紹介してきた通りだ。
今回紹介するのは典型的な後者!
インドの若手凄腕ミュージシャンを紹介します。
最初に紹介するのはウエストベンガル州コルカタ出身、若干 22歳のギタリスト、その名もRhythm Shaw.
まずはそのプレイを聴いてみてください。
この若さにしてアコギもエレキも信じられない上手さ!
しかも凄いのはこれだけではない。
ギタリストと紹介したけど彼は実はマルチプレイヤーで、一人で全パートをプレイしているセッションなんかも凄い(ドラムだけはサンプリングパッドを叩いているが)。
彼のプロフィールを見てみると、影響を受けたミュージシャンとしてスティーヴ・ヴァイらと並んでNepal Shawという名前が出てくるが、調べてみたところこれは彼のお父さんらしく、幼少期からタブラをはじめとする各種楽器の英才教育を受けてきたようだ。
わずか11歳のときのタブラの演奏の様子がこれ。
地元のテレビ番組に出た時の映像で、演奏は25秒くらいから。スゲー!
こっちはお父さんとの共演!
最初は古典的なスタイルで叩いているが、後半でお父さんのギターがスタイルを変えると、それに合わせていろんな叩き方を披露する器用さもすでに身につけている!
ギターとベースとキーボードだけでも十分びっくりなのに、そこに古典のセンスや技量が入ってくるともう誰も太刀打ちできない領域だ。
あとどうでもいいけど、小さい頃からRhythmと名乗っているところを見ると、どうやらリズムって本名(!)みたい。お父さんのネパールっていう国名が名前なのもびっくりしたけど(インドだと自然な名前なんだろうか)、珍名親子か。
他にもインドの若手天才プレイヤーは数多く、例えば若干21歳のベーシストMohini Dey.
スティーヴ・ヴァイとの共演も(演奏は1:00あたりから)!
こちらは24歳のフィンガースタイル・ギター(とこういうのを言うらしい)の気鋭Manan Gupta.
ニューアルバムでは歌も披露。インドのラウル・ミドンか。
彼らはいずれもプレイヤーとしては超一級品だが、その高すぎる技量ゆえに、テクニックばかりに耳を奪われてしまって、表現者・アーティストとしての評価には少し時間がかかるかもしれない。
ただいずれにせよ、彼らが若くしてその類い稀な才能を開花させていることに疑いの余地はない。
ふと思ったけど、タブラの超大御所ザキール・フセインのお父さんもまたタブラ・プレイヤーだし、シタールのシャンカール一家も然りだし、インドって子どもの頃からの音楽英才教育の伝統があるのかもしれないね。
それが古典音楽のみならず、現代音楽の世界にも広がってきているとも考えられる。
そのうちIT産業がそうなったみたいに、世界の音楽シーンのバックミュージシャンがほとんどインド人なんてことになるのかも。
それでは今日はこのへんで!
2018年05月17日
紹介したアーティストの近況!海外公演など
ムンバイのラッパー、DIVINEはカナダのトロントで行われるDesi Festへの出演が決まった模様。

ヒンディー語のラッパーが海外公演というのは興味深いが、これはどうやら現地在住のインド人やインド系移民を主なターゲットとしたイベントのようだ。
過去の映像を見るとインド系でないお客さんもそれなりにいるようなので、日本でいうと代々木公園で行われている「ナマステ・インディア」とか「タイフェスティバル」みたいな要素もあるのかもしれない。
デシ・ヒップホップすなわちインド系ヒップホップは、もともと海外在住の南アジア系アーティスト(例えばパキスタン系アメリカ人のBohimia)によって勃興したムーブメント。
このイベントでも、他の出演者はカナダやアメリカ在住の南アジア系であるThe PropheC(バングラ)、Roach Killa(ヒップホップ)、Parichay(ボリウッド)、Amar Sandhu(ヒップホップ)、Haji Springer(ヒップホップ)らが中心。
ここ数年で急速に発展したインド国内のヒップホップを代表するアーティストであるDIVINEは、カナダではまだまだ「未知のアーティスト」だと思うが、その彼にオーディエンスがどんな反応を示すのか、ちょっと気になるところではある。
グジャラート州アーメダーバード出身のポストロックバンド、aswekeepsearchingは現在ヨーロッパツアー中。

こちらはドイツや東欧中心で、これはおそらくはインド系移民向けというよりも現地のポストロックファン向けのものなのではないかと思う。
ヒンディー語で歌っているバンドでも、こういう音響至上主義的なバンドの場合、海外のファンもツアーができる程にいるということなのだろう。
(実際、aswekeepsearchingはロシアのレーベルと契約している)
先日お伝えしたムンバイのデスメタルバンド、Gutslitのアジア弾丸ツアーに向けたクラウドファウンディングは遅々として進まず、$5,000に対して5月16日現在でまだ$710。
先日Facebookで「ドバイまでのチケットを買ったぜ」という報告があったが、ドバイは最初の公演地。
果たしてツアーの最後から2番目の日本へは無事たどり着けるのか。
また続報をお届けします。
日本公演に向けてぜひサポートがしたい!という方はこちらからどうぞ。

ところで彼らのツアータイトルの下にある"Bobs and Vegene Edition"という謎の言葉。
これは調べてみたら、ネット上のネタにされている"Boobs and V◯◯◯◯◯"(つまり「オッパイと◯◯◯◯」)のミススペリング。
マヌケなインド人の男性たちが、SNSやネット上のニュースで女性に対して卑猥なことを言おうとして、思いっきり間違って書いてしまったものがネタにされているということらしい。
デス/グラインド系のバンドらしく悪趣味で下品なツアー名をつけたかったのだろうけど、あんまり性差別的な言葉はこのご時世マズいし、そこでちょっとアホを揶揄したようなツアータイトルにした、ってところだろうか。
予算もないのに17日間で16公演の弾丸ツアーを企画するバンドにしてはよく考えられているなあ、という気もする。
というわけで、本日はインドのミュージシャンの海外での展開の例をいくつか紹介してみました。
考えてみれば、日本のミュージシャンでも、海外在住の日本人・日系人向けに海外公演を行う演歌歌手なんかもいれば、コーネリアスとかギターウルフみたいにコアな音楽性で海外でも音楽ファンに受け入れられているアーティストもいる。
インドのアーティストも同じようなもので、一部のアーティストは人種や国境を越えて評価されるだけのクオリティーがあるということなのだろう。
最近ではBabymetalみたいに日本のガラパゴス的な音楽がそのまま海外でも人気を博す例もあるわけで、インドのミュージシャンもこれからますますグローバルな評価を受けてゆくことと思う。(というか、そうあって欲しい)
そのときに、「ああ、あのアーティストなら昔から知ってたよ」みたいな謎の優越感に、インド人たちといっしょに浸りたいものである。
三者三様、今日紹介したそれぞれのアーティストの代表曲はこちらから。
それではまた!
2018年04月08日
本格的レゲエバンド!その名もReggae Rajahs!
ではインドにレゲエミュージシャンがいないのかというとそんなことはなくて、シーンは小さいながらも素晴らしいバンドがちゃんといます。
今回紹介するReggae Rajahsはまさにそうしたバンドの一つ。
Rajaはインドの諸言語で「王様」を意味する言葉。
そこにジャマイカンが信奉するラスタファリアニズムのJah(神・救世主)をミックスしたインドのレゲエバンドにぴったりの名前だ。
ラスタファリアニズムは、主にジャマイカの黒人たちに信奉されている思想で、ものすごくおおざっぱに言うと、堕落した物質主義社会から脱し、心の豊かさを求めてアフリカに回帰することを求める運動ということになる。
今回紹介するReggae Rajahsは、歌詞を見るとそうしたラスタファリアニズムに強く傾倒しているというわけでもなさそうだが、サウンドの面では非常に本格的なレゲエサウンドを聴かせてくれている。
さっそく1曲聴いてみてください。
"Dancing Mood"
どうです。音楽にもビデオにもインド要素ゼロのゴキゲンなロックステディサウンドでしょう。
あとこのバンドはメロディーセンスが良い!
レゲエ好きじゃなくても、普遍的に良いと思えるキャッチーさじゃないでしょうか。
Reggae RajahsのメンバーはヴォーカルとMCのGeneral Zooz(a.k.a. Mr. Herbalist)とDiggy Dang、DJのMoCityの3人に、2013年に加わったDJと映像を担当するZiggy The Blunt、いろいろ調べたけど今ひとつ役割が分からない(ごめんよ)BeLightsの5人組。
オフィシャルサイトでは、インドで最初のレゲエサウンドシステムを自称している。
ここでもう1曲ゴキゲンなやつを。First Time.
あいかわらず気持ちのいいレゲエサウンドに、坂本九の「明日があるさ」のような一目惚れの恋をテーマにした青春ナンバーだ。
「どうか俺のFacebookリクエストを受け入れてくれ」みたいな現代風ながらも初々しい歌詞が甘酸っぱくて良い。インドの小説や映画やなんかを見ると、垢抜けている今風の若者でも恋愛には結構奥手だったりして、そういうところがインド人のまあかわいいところだ。
Reggae Rajahsは2009年にデリーで結成された。
それぞれイギリス、アメリカ帰りのGeneral ZoozとDiggy Dang、イラク生まれでデリー育ちのDJ MoCityが、デリーで行われたボブ・マーリィのバースデー記念イベントで出会ったことがきっかけになったようだ。
インドではまだまだ数少ないレゲエファンが「え?君もこういうの好きなの?」って感じで出会ったのだろう。
インドではまだマイナーなジャンルに海外で触れた在外インド人が、帰国とともにそのジャンルのインドでのパイオニアになるというのは他のジャンルでもよく見られるパターンで、21世紀に入ってもまだまだ黎明期だったインドのミュージックシーンを象徴するエピソードだと言える。
General Zoozの名前は、このブログで以前紹介したSu Realの"Soldiers"という曲のレゲエパートで本格的なラガヴォイスを披露していたことで覚えている人もいるかもしれない(いないか。面白い曲なのでぜひリンクを辿ってみて)。
DJ MoCityの本名はモハメド・アブーディ・ウライビ。
名前とイラク出身ということからも分かるようにムスリムなのだろうが、他のメンバーの本名を見るとヒンドゥー系の名前で、彼らは多国籍、多宗教のメンバーがレゲエという音楽への愛情で結ばれたバンドと言えるだろう。
彼らは自分たちのバンドでの活動のみならず、Goa Sunsplashというイベントを主催したり、MoCityがboxout fmというネットラジオ曲を運営したりするなど、インド全体のレゲエを中心とした音楽カルチャーの振興にも力を入れているようだ。
いったいどこにそんな資金が?と思わなくもないが、彼らの経歴から想像するに「家がお金持ち」ってことなのかもしれない。
彼らの曲の中でも、個人的にとても気に入っている曲。So Nice.
ちょっとメロウで最高にピースフルなヴァイブの曲で、海沿いの道をドライブしながら聴いたら気持ち良いだろうなあ。
中間部の「Irie!」っていうコール&レスポンスのところ、ぜひライブで一緒にやってみたい。
彼らはニューデリーでのSnoop Dogのオープニングアクトを務めたり、Dub Inc(フランス)、Million Stylez(スウェーデン)、Ziggi Recado(オランダ)、Appache Indian(インド系イギリス人)、Dreadsquad(ポーランド)といった世界中のレゲエアクトと共演したり、ポーランド、ブラジル、フィリピンをツアーする等、国境を越えた活動をしている。
彼らのバイオグラフィーを見てみると、初期にはゴアやマナリといった西洋人ヒッピーが多い都市での活動が多かったようで、インドのアーティストにしては珍しく、コアなジャンルとはいえ非常にインターナショナルな受け入れられ方をしていると言える。
続いては大麻礼賛の曲"Pass the Lighter".
合法化せよ!(legalize!)というピーター・トッシュのようなアジテーションが印象的な1曲。
インド文化(一部のヒンドゥー文化)とレゲエカルチャーの共通点をあえて探すとすれば、大麻がポジティブなものとして捉えられていることと、菜食主義が尊いものとされていることが挙げられるだろうか。
実際、彼らもインタビューでインドのレゲエシーンにおけるラスタファリアニズムの重要性について聞かれたときに「ラスタ文化はインド文化にとても影響を受けているよ。インドの文化にはサードゥー(ヒンドゥーの行者)がいて、髪をドレッドにして大麻を吸ったり森の中で瞑想したりしているし」という、分かったようなよく分からないような回答をしている。
彼らはルーツスタイルのレゲエに最も愛着があるようだが、他にもダンスホールやダブを取り入れることもあって、こんなソカテイストのある曲もやっている。
今回紹介した曲はみんな「Beach Party EP」というアルバム(もはやダウンロードなのでアルバムと呼んでよいのかも分からないのだけど)に入っている曲で、個人的にも昨年から随分と聴いているよ。
はい。てなわけで、今回はもろインド!って感じじゃなくて、より無国籍な魅力のあるインドのレゲエアーティスト、Reggae Rajahsの紹介でした!
確かに、いろんなリズムやトラックと融合できるヒップホップ(というかラップ)に比べると、レゲエって地域性が出にくい(そしてローカライズがあまり求められていない)ジャンルなのかもしれないね。
あ、そうだ。レゲエの世界だと、ヒップホップで言うところのラッパーをdeejay、DJをSelectaと呼ぶ習わしがあるようなのだけど、門外漢なので今回は一般的なほうの表記で書かせてもらいました。
てなわけで、それJAHまた!
2018年03月17日
Brodha Vから映画偏重の音楽シーンへのプロテスト

「インドの音楽TVチャンネルは最悪だ! 彼らは曲の名前と映画のタイトル、レコードレーベルの名前を挙げても、絶対に作曲者や歌手の名前を挙げるなんてしやしねえ!
ついでに言うと、この国の役者連中は映画の中で踊ったり歌ったりしてえんだったら、歌も踊りもちゃんと稽古しろってんだ!おめぇら、口パクしたり、ズブの素人みたいにセットのあっちからこっちまで歩いたりしてるんじゃねえよ!このギョーカイの奴らと来たら、歌い手や作曲家や音楽ってもんへのリスペクトってもんに欠けてるんだよ!連中は映画を売ることにしか興味がねえんだ!
こんな音楽シーンのメインストリームとは別々にやらせてもらいたいもんだね!歌手も作曲家もシャー・ルク・カーンだのサルマン・カーンだのっていう映画スターほどビッグじゃないのってインドくらいなもんだぜ! ほんのちょっとの敬意とファンを得るために、ろくに歌えない役者連中じゃなくて誰が本当に歌ってるのかってのを調べなきゃいけないっていうのもインドだけ!」
最近寄席通いが続いてるもんで、つい落語っぽい口調になってしまったが、Brodha Vの旦那はまあこういうことを言っているわけだ。
良し悪しは別にして、インドのエンターテインメント産業が映画を中心に発展してきて、音楽はその添え物(挿入歌)としてずっと扱われてきたというのは事実。
いくら素晴らしい作品を作っても、音楽単体として作られたものは紹介される機会が少なく、映画のために作られた楽曲ばかりが注目される現状は確かに音楽にとっては不健全な状況だ。
エンターテインメントのフォーマットそのものが「映画とその音楽」という構造で出来上がっていることに対して、新興ミュージシャンから不満が出るのは当然と言えるだろう。
インターネットの発達で、主流メディアに乗らなくても作品をアーティストが発表できるようになり、またリスナーも映画音楽以外の音楽に触れる機会ができ、趣味が多様化したことで、インドのインディーズミュージックシーンは爆発的に発展してきている。
しかしながら、まだまだ映画中心のメインストリームはインディーズミュージシャンから見て戦い甲斐のある仮想敵なのだろう。
なんとなく、80年代あたりの日本のロックミュージシャンの「俺たちはテレビになんか出ねえよ」みたいな、いわゆる芸能界とは一線を引いたスタンスに近いものを感じないでもない。
5年、10年経った時にこのBrodha Vの発言を見返してみて「あの頃からあんまり変わってないね」と思うのか、「そんな時代もあったんだねえ」 と思うのか。
後者になる可能性が高いように思うが、さて、どうなるでしょう。