アニメ

2021年04月12日

インドで発見!日本語で歌うシンガーソングライター Drish T

日本人にとってうれしいことに、アニメや漫画といった日本のカルチャーは、インドのインディー音楽シーンでも一定の存在感を放っている。
Kraken, Komorebi, Riatsuなど、これまで何度も日本の影響を受けたアーティストを紹介してきたが、ここにきて、新たな次元で日本にインスパイアされたシンガーソングライターを見つけてしまった。

彼女の名前はDrish TことDrishti Tandel.
DrishT

ムンバイ育ち、若干20歳の彼女は、他のアーティストのように、曲に日本語のタイトルを付けたり、日本のアニメ風のミュージックビデオを作ったりしているだけではない。
なんと、彼女は日本語で歌っているのだ。

まずは彼女の曲"Convenience Store(コンビニ)"を聴いてもらおう。
(ちなみに、カタカナの「コンビニ」までがタイトルの一部だ)
 
大貫妙子を思わせる透明感のある声のキュートなポップス!
日本語の発音もとてもきれいだし、わざとなのかどうか分からないが、「忘れものはいないの?」という表現がユニークでかわいらしい。

彼女がすごいのは、この1曲だけ日本語で歌っているのではなく、「これまでに発表した全ての曲を日本語で歌っている」ということだ。
考えてみてほしい。
日本にも英語で歌うアーティストはいるが、全ての曲を日本語でも英語でもない、母語ではない言語で歌うアーティストがいるだろうか?

Drish Tは他のアーティストの楽曲にゲストヴォーカルとして参加することも多く、iTooKaPillと共演した"Portal"は、なんと日本語の「語り」から始まるエレクトロニック・バラードだ。
声質やトラックのせいもあると思うが、この曲はちょっと宇多田ヒカルっぽく聴こえる。

Animeshというアーティストとコラボレーションした"血の流れ(Blood Flow)"では、アンビエントっぽいトラックに乗せたメロウなヴォーカルを披露している。
インドの音楽シーンに突如現れた日本語シンガー、Drish T, 彼女はいったい何者なのか?
さっそくTwitterのダイレクトメッセージを通じてインタビューを申し込んでみたところ、「日本でインドの音楽のブログを書いている人がいるなんて思わなかった。喜んで質問に答えます!」とすぐに快諾の返事が来た。
それではさっそく、インド生まれの日本語シンガー、Drish Tインタビューの模様をお届けしよう。


ーまず最初に、あなたの経歴を教えてください。あなたはムンバイ在住の二十歳のシンガーソングライターで、カレッジで音楽を学んでいる、ってことであってますか?

「もちろん!私はムンバイで育ったけど、でも今はチェンナイにある、A.R.ラフマーンの音楽学校に通っていてディプロマ課程の2年目よ」

ーということは、現在はチェンナイに住んでいるんですか?

「そう。ここで学んで3年になる。でもロックダウンでみんな家に帰っていたから、最近になってやっと最終学年がスタートしたの」

ー学校が再開してよかったですね。いつ、どうやって作曲や歌を始めたんですか?

「最初は8年生(中学2年)のときにアコースティックギターを弾き始めた。叔父さんの古いギターを直したところだったから。でもすぐに歌うほうが好きだって気がついた。それで西洋風のヴォーカルを始めて、トリニティ(ロンドンの名門音楽カレッジ)のグレード5の試験を受けることにしたのよ。それから、KM音楽学院(KM Music Conservatory:前述のA.R.ラフマーンの音楽学校)を見つけて、芸術系の学校で12学年(日本でいう高校3年)を終えたあとに、ここに来たってわけ」

ーギターを始めた頃は、どんな音楽をプレイしていたんですか?

「そのころはポップ・パンクに夢中だったから、ポップ・パンクから始めたわ」

ー例えばGreen Dayとかですか?古くてすみません、あなたよりだいぶ年上なので(笑)。

「(笑) そう。6年生と7年生(中1)の頃、Green Dayの"Boulevard of Broken Dreams"がすごく人気だった。でもPanic! At The DiscoとかTwenty One Pilots, 5 Seconds To Marsの曲なんかも弾いてた!」

ーいいですね!私はGreen DayでいうとBasket Case世代でした。じゃあ、彼らがあなたに影響を与えたアーティストということですか?

「ええ。最初は彼らの曲をたくさん聴いていた。それからママの古いCDのコレクションで、ブライアン・メイとかマイケル・ジャクソンとかABBAとかQueenも!
それから、ちょっとずつ日本や韓国の音楽も聴くようになって、いまではそういう音楽から影響を受けているの!あとはカレッジの友達が作る音楽もね」

ーあなたが日本語でとても上手に歌っているので驚きました。日本語も勉強しているんですか?(ここまで英語でインタビューしていたのだが、この質問に彼女は日本語で答えてくれた)
スクリーンショット 2021-04-01 22.22.21

ーすごい!漢字もたくさん知ってますね。どうやって日本語で歌詞を書いているのですか?

「ありがとうございます(日本語で)!
日本語の歌をたくさん聴いているし、アニメとかインタビューとかポッドキャストとか、いろんなメディアを通して、言葉の自然な響きを学ぼうと努力してる。それで、歌詞を書こうと座ったら、考えなくても言葉が浮かんでくるようになった。今では日本語が私の内面の深い感情をもっともうまく表現できる言語よ。英語よりもね」

ーいつ、どうやって日本のカルチャーを見つけたんですか?

「9年生(中3)と10年生(高1)の頃、YouTuberをたくさん見ていたんだけど、ある時突然彼らが『デスノート』と『進撃の巨人』の話をするようになった(笑)。それですごく興味を持って、最初に見始たのが『四月は君の嘘』。音楽に関する話だったから。それからもっとたくさんアニメを見続けて、とても印象的で美しい言葉だから、日本語も勉強したいって思った。そういうわけで、Duolingoで独学を始めて、日本の文化に関する本もたくさん読んだ。
日本の文化でいちばん好きなのは、礼儀正しさと敬意ね。私はすべての人が敬意を持って扱われるべきだと信じているから、すぐに日本の文化に共感したの。
2019年には日本語能力試験(JLPT)のN4(4級)に合格したのよ!」

ーおめでとうございます!あなたの言ってること、分かる気がします。僕の場合は19歳のときにインドを旅して、それからずっとインドが好きなので。インドの好きなところは、活気があるところと文化の多様性ですね。僕の場合は、インドの言葉ができないってのが違うけど。勉強するべきだったかな…。

「それは素晴らしいわね!ヒンディー語はとても簡単だし、北インドで最も共通して話されている言語よ。私は南インドの言語を知らないから、今住んでいるチェンナイではちょっと苦労することもあるの」

お気に入りのアニメや日本のミュージシャンを教えてもらえますか?

「私のお気に入りの日本のアニメは、なんといってもジブリの映画!『ハウルの動く城』はお気に入りの一つよ。『ハイキュー!!』も大好き。登場人物たちを見てると、あたたかくてハッピーな気持ちになれるの。もちろん、『鬼滅の刃』『進撃の巨人』『僕のヒーローアカデミア』、最近では『呪術廻戦』もね。」

ージブリの作品はどれも素晴らしいですよね。もう『呪術廻戦』もご存知なんですね!日本では去年『鬼滅の刃』の映画が大ヒットして、次は『呪術廻戦』が来るんじゃないかってみんな話してますよ。

「ええ。『呪術廻戦』はインドでも私たちの世代にとても人気よ!
『NARUTO!』みたいなクラシックな作品ももちろん好き。
日本の音楽に関して言えば、大橋トリオ、久石譲、林ゆうき、Tempalay、Burnout Syndromes、Radwimps、米津玄師、神山羊、King Gnuをたくさん聴いているし、他にもお気に入りは大勢いる。挙げればきりがないわね(笑)」

ー(凄い…。知らないアーティストもいる…)韓国の音楽も聴いているって言ってましたよね。今ではK-Popは世界中で人気がありますが、日本の音楽と韓国の音楽の違いはどんなところだと思いますか?

「あ、百景を挙げるのを忘れてた!最近ではマスロックやプログレッシブロックもたくさん聴いているの。
そうね、K-Popはインドでも大人気よ。もちろん、BTSはとくにね。私も彼らの音楽は大好き。なによりいろんな意味で盛り上げてくれるから。でも、彼らみたいなグループはとても商業的だってすぐに気がついて、もっとインディー・ミュージックを聴くようになったの。そうね、日本の音楽のほうが、より誠実な感じがする。
あっ!なんてこと!toeとu-zhaanのことも言い忘れてた!」

ーK-Popは国際的なマーケットに向けたビッグビジネスって感じですよね。日本の方が人口が多いからかもしれませんが、日本のアーティストはもっと国内マーケット向けに音楽を作っていて、そのことがユニークなサウンドを生み出しているようにも思います。どっちのほうが良いということではなく、どちらも面白いですよね。
プログレッシブロックやマスロックが好きなら、デリーのバンドKrakenは知ってますか? 彼らも日本のカルチャーから影響を受けているバンドです。

「そう、日本の音楽はとてもユニークで、ほとんどの人がなかなかそのことを理解しないわね。でもインドの人たちも、少しずつ東アジアのカルチャーに対してオープンになってきている。
Krakenのことはちょっと前に知ったのだけど、彼らは本当にクールよ。私は日本とインドが私たちの文化を超えてつながるのが大好きなの!」

ーところで、iTooKaPill, Animesh, Ameen Singhなどのたくさんのミュージシャンと共演していますよね。彼らのことは知りませんでしたが、とても才能があるミュージシャンたちで驚きました。どうやって彼らと知り合って、コラボレーションすることになったんですか?

「ああ(笑)、彼らはミュージックカレッジの同級生なの。ここでたくさんの面白くて才能のある人たちと会えて、素晴らしいわ」

ー最高ですね。ところで、これまでずっと日本語で楽曲をリリースしてきましたが、インドの人々のリアクションはどうでしたか?彼らにとっては、意味がわからない言語だと思うのですが。

「そうね。実際、私の音楽をリリースすることにはためらいがあったんだけど、でもK-Popもインドで人気があるし、人々が新しい文化やカルチャーを受け入れるようになってきたって気付いたの。それで、みんなが歌詞を理解できるように、リリックビデオを作ったのよ。みんなのリアクションには、とても満足してる。日本語で歌っているから、音楽業界のインフルエンサーたちも注目してくれた。インドではとても珍しいことだから!」

ー『コンビニ』みたいな曲はどうやって書いたんですか?あの曲、すごく気に入っているのですが、日本の暮らしを想像しながら書いたんですか?

「ありがとうございます(日本語で)。私はよくパンケーキを焼くし、日本のコンビニに行くvlogをたくさん見てたから、自分でちょっとした世界を作ってみたくなったの」

ー歌詞の中で「忘れ物はいないの?」っていうところが好きです。「いない」って、人に対して使う言葉だから、なんだか詩的でかわいらしく聞こえるんです。まるで卵とかバターを友達みたいに扱っている気がして。

「歌をレコーディングした後に気が付いたんだけど、そのままにすることにしたの!それはすごくキュートな見方ね」

ー間違いだったんですか?わざとそうしているのかと思いました。

「ええ、間違いよ。でもそのままにしておいてよかった(笑)」

ー他の曲は、もっと心の状態を表したものが多そうですね。" Let's Escape (Nigeyo)"(逃げよう)も気に入っています。ギターが素晴らしくて。この曲は何から逃げることを歌っているのですか?

「そう、他の曲は心の状態について歌っているの。親友のAmeenがすごくクールなリフを弾いてくれて、共演しようって言ってくれたの。歌詞を書こうと思って座ったら、すぐに『逃げよう』って言葉が浮かんできた。歌詞全体は、宿命論的な心のあり方から逃げることについて書いているけど、いろんな解釈ができるわ。何らかの感情、場所、人からエスケープするとかね」

現時点の最新曲"Let's Escape(Nigeyo)"はAmeen Singhのマスロック的なギターをフィーチャーした楽曲で、彼女の新しい一面を見ることができる。
「本当は、2020年の夏に両親といっしょに日本を訪れて、いくつかの音楽大学をチェックする予定だったの。でもパンデミックが起こってしまって…。本当に、いつか日本で学んでみたいと思ってる」

ー日本にはまだ来たことがないんですか?

「ええ、まだないの。チケットも予約していたのに、全てキャンセルしなければならなかったのよ!」


と、最後まで日本への思いを語ってくれたDrish T.
彼女が安心して日本に来ることができる日が訪れることを、心から願っている。

彼女がコラボレーションしていたiTooKaPillやAnimeshも才能あるミュージシャンで、インドの若手アーティストの(というか、A.R.ラフマーンのKM音楽学院の)レベルの高さを思い知らされる。
というわけで、今回は「インドで日本語で歌うインド人シンガー」Drish Tを紹介しました!
次回は「インドでヒンディー語で歌う日本人シンガー」です !





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2020年12月10日

インドのアニメファンによるYouTubeチャンネル"Anime Mirchi"の強烈すぎる世界!


これまでも何度か特集しているとおり、インドにおいて日本のカルチャーは一定のファン層を獲得している。
ここでいう「カルチャー 」というのは、主にアニメのことで、インドのインディーミュージシャンの中には、日本のアニメ作品からの影響を公言しているアーティストがたくさんいるのだ。




そんなインドのアニメファンが運営している、かなり面白いYouTubeチャンネルを発見してしまった。
それが、今回紹介するこの'Anime Mirchi'である。
('Mirchi'とはインド料理にもよく使われる唐辛子のこと)


このチャンネルの素晴らしいところは、単にアニメのみを扱っているのではなく、インドのインディペンデント・ミュージックと日本のアニメ・カルチャーの融合にも積極的に取り組んでいることである。

中でも唸らされたのが、この'Indian lofi hip hop/ chill beats ft. wodds || Desi lofi girl studying'と題された動画だ。


Lo-Fiヒップホップは、創成期の代表的ビートメーカーである故Nujabesが、アニメ作品『サムライ・チャンプルー』のサウンドを手掛けたことなどから、アニメとのつながりが深いジャンルとされている。
とくに、パリ郊外に拠点を構えるYouTubeチャンネル'ChilledCow'が、"lofi hip hop radio - beats to relax/study to"に勉強中の女の子のアニメーションを使用してからは、ローファイサウンドと日本風のアニメの組み合わせがひとつの様式美として確立した。

Lo-Fi HipHopについてはこのbeipanaさんによる記事が詳しい。
 
この「勉強中の女の子」(当初はジブリの『耳をすませば』 のワンシーンが使われていたが、著作権の申し立てによってオリジナルのアニメに差し替えられた)は、国や文化によって様々なバージョンが二次創作されており、Anime Mirchiが作成したのはそのインド・バージョンというわけである。
(インド以外の各国バージョンはこの記事で紹介されている)

さらに面白いところでは、「ドラえもん」や「クレヨンしんちゃん」をヴェイパーウェイヴ、シンセウェイヴ的に再構築するという狂気としか思えないアイディアを実現したこんな音源もアップロードされている。

ヒンディー語版?のドラえもんのテーマ曲をリミックスした映像は超ドープ!


ここ数年話題となっているヴェイパーウェイヴというジャンルを簡単に説明すると、「80年代風の大量消費文化を、追憶と皮肉を込めて再編集したもの」ということになるだろう。
「シンセウェイヴ」は、同様のコンセプトでシンセサウンドとレトロフューチャー的なイメージが主体となったものだ。
これらの動画のサウンドを手掛けている'$OB!N'というアーティストは相当なアニメファンらしく、あの『こち亀』の主人公の両津勘吉をテーマにしたこんな曲を自身のSoundcloudで発表していたりもする。
$OB!N · Ryotsu
他にも、このAnime Mirchiには、アニメのなかのドラッグ的な効果を感じるシーンを集めた'Anime on Ganja'なんていう想像の斜め上すぎるシリーズの動画もアップされている。

こんなふうに書くと、サブカルチャーをこじらせたマニアックなYouTubeチャンネルのようなイメージを持つかもしれないが(まあ、それは間違いないんだけど)、このチャンネルが面白いのは、アニメだけではなく、ボリウッドやハリウッドなどの王道ポピュラーカルチャーにも目配りができていることである。
例えば、昨年日本でも公開された『ガリーボーイ』や『ロボット2.0』の予告編そっくりの動画を、アニメ映像をマッシュアップして作り上げるなんていう、これまたぶっとんだアイディアの動画もアップされているのだ。
オリジナルの予告編と合わせて紹介してみたい。

これは『DEVILMAN crybaby』の映像で作った、ボリウッドのヒップホップ映画『ガリーボーイ』予告編のパロディ。


こっちがオリジナル。


こちらは『ジョジョの奇妙な冒険』をマッシュアップして作ったスーパースター、ラジニカーント主演のタミル語映画『ロボット2.0』の予告編。


そしてこちらがオリジナル。

映像のシンクロ率は『ガリーボーイ』ほどではないが、こちらもかなりの完成度。もしかすると、『ガリーボーイ』『ロボット2.0』という映画のセレクトも、日本公開された作品を選んでくれているのかもしれない。

同様の発想で、アニメの映像を使って『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の予告編を作ったり、「もしアニメがボリウッドで制作されたら」というシリーズを作ったりと、とにかく独特すぎる動画が盛り沢山。
さらに凝ったところだと、『バーフバリ 伝説誕生』の映像を編集して、アニメ映画の予告編風の動画を作っていたりもする。
 
カタカナ入りの字幕も全てこの動画のために作成されたものだ。
『バーフバリ』はコアなアニメ作品同様、コスプレまでする熱心なファンを持つ映画だが、こうして見てみると、かなりアニメ的なシーンや演出が多いということに気づかされる。
この映像は、『バーフバリ』の日本で大ヒットし、新しいファン層を開拓したことに対するトリビュートとして制作されたものだそう。

インドのインディーミュージックの紹介を趣旨としているこのブログとしては、最近のアーティストの作品に日本のアニメの映像を組み合わせた動画に注目したい。

これはSmg, Frntflw, Atteevの共作によるEDM"One Dance"に新海誠の『言の葉の庭』の映像を合わせたもの。


デリーのラッパーデュオSeedhe MautとKaran Kanchanの"Dum Pishaach"にはHELLSINGの映像が重ねられている。

この2曲に関しては、オリジナルのミュージックビデオも(ほぼ静止画だが)アニメーションで作られており、"One Dance"はSF風、"Dum Pishaach"はアメコミと日本のアニメとインドの神様が融合したような独特の世界観を表現している。


"Dum Pishaach"のビートメイカーKaran Kanchanは大のアニメ好き、日本カルチャー好きとしても有名なアーティストだ。


著作権的なことを考えると微妙な部分もあるが(というか、はっきり言ってアウトだが)、ここまで熱心に日本のカルチャーを愛してくれて、かつ私が愛するインドのインディーミュージックにも造詣が深いこのチャンネル運営者の情熱にはただただ圧倒される。
インドにおけるジャパニーズ・カルチャーと、日本におけるインディアン・カルチャー。
いずれもコアなファンを持つ2つのジャンルをつなぐ'Anime Mirchi'に、どうかみなさんも注目してほしい。


'Anime Mirchi' YouTubeチャンネル


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2019年12月13日

またインドのアーティストが知らないうちに来日していた!女性ドリーミー・ポップデュオ Gouri and Aksha


またしても知らないうちにインドのアーティストが来日公演を行っていたことが判明!
これまた少し前の話になるが、Rolling Stone Indiaの記事によると、ムンバイのソウル/ポップデュオのGouri and Akshaが今年5月に大阪のいくつかの会場でライブを行なったとのこと。

彼女たちは、その後9月にデビューシングル"Look Inside"をリリースしたばかりの新人アーティスト。
前回紹介したEasy Wanderlingsの"My Place To You"を思い起こさせるような、美しいアニメのビデオが印象的なこの曲は、フォークを基調にしながらも、生演奏とエレクトロニックサウンドが融合した叙情的な一曲。



最小限の画面の変化ながら、浮遊感あふれるサウンドとあいまって、幻想的な視覚効果が強く印象に残る映像だ。

Rolling Stone Indiaの記事によると、Gouri and Aksha ーすなわちGouri RanjitとAksha Kiniー はミュージカル『アラジン』のムンバイ公演のリハーサルで出会い、二人で好きな曲を歌ったりハモったりするようになったという。
やがて、デリーでの1ヶ月の公演の間に、ホテルの部屋をシェアして、一緒に曲を書くようになったそうだ。
印象的なアニメーションビデオは、プネーの若手女性アニメ作家Anusha Menonによるもの。
湖畔に座る少女は、彼女たちのうちの一人をモデルにしたものだと思うが、私はそこに、彼女の衣装のせいだけでなく、極めてインドらしからぬものを感じた。

そのことを説明する前に、彼女たちがYouTubeにアップしている他の曲も聴いてみよう。
ピアノとヴォーカルのデュオスタイルで披露される楽曲たちは、ちょっとキャロル・キングを思わせるような情感がある。


ここで、ピアノを弾きながら歌っている方(GouriとAkshaのどっちだろう?)の髪型に注目してほしい。
お分かりだろうか。
彼女にはなんと、前髪がある!
90年代以降、インドの社会は急激に変化しつづけているが、今でもインドの女性の髪型はほとんどがロングのワンレングスだ。
それがもっともインド女性に似合う髪型だからということもあるのだろうが、ロックやヒップホップなどのジャンルで活躍する女性アーティストたちも変わらない。
(おそらくだが、インドの成人女性に前髪のある髪型が好まれないのは、「子どもっぽく見える」という理由からなのではないかと思う)
髪型一つからも、彼女たちが新しい感性を持った世代のアーティストだということが伝わってくるというものだ。

そんな彼女たちに、さっそくメールでインタビューを申し込んでみた。


凡平「とても独創的な音楽を演奏していますが、どんな音楽的な影響を受けているか教えてください」

G&A「たくさんの影響を受けているわ。例を挙げるとしたら、Fiona Apple, Sara Bareilles, Hiatus Kayoteとか。Moses SomneyとかMaroなんかの新しくて素晴らしい音楽からも学んでいるの。これまでにいろんな音楽から学んできたことが、無意識のうちに私たちのソングライティングに現れていると思うわ」


凡平「"Look Inside"はエレクトロニックな音と生演奏が融合したサウンドですが、YouTubeにアップされている他の曲はアコースティックですね。今後はどんなタイプの曲を作っていくつもりですか?」

G&A「曲を作っている時には、ジャンルのことはあんまり考えてないの。どんなものからもインスピレーションを得られるわ。ちょっとした出来事とか、新しく見つけたAbeltonのプラグインとか、私たちの好きなコードの響きとか。そうしたら、アイデアや気持ちを制限したり決めつけたりしないで、自由に羽ばたかせて曲を作るの。
そうは言っても、"Look Inside"は、今のところ私たちがプロデュースした唯一の曲よ。私たちは他の曲をプロデュースしているところなの。YouTubeやSoundcloudにアップしてあるアコースティックバージョンの曲をね」


凡平「Anusha Menonによる"Look Inside"のミュージックビデオが本当に素晴らしいですね。どうやって彼女とコラボレーションすることになったのでしょうか?」

G&A「彼女にコンタクトする前から、私たちは彼女をインスタグラムでフォローしてたの。正直に言うと、私たちはちょっとだけアニメの要素が入ったシングルフレームの絵が欲しかっただけだったの。でもAnushaが曲を聴いたらインスパイアされて、1曲分のきちんとした映像を作ってくれたの。
この曲はもともと内省的なものだったから、ダークで夜の要素が欲しかった。私たちはとくにAnushaの作品の『ワビ・サビ』スタイルな部分が好きだったから、そういうものをお願いしたわ。あとは全部Anushaがやってくれたのよ。私たちが飼っている2匹の猫、ObitoとPakaluを登場させるっていうアイデアもAnushaのものよ。2匹とも、私たちの内面的なパートナーでもあるから(ハートマーク)」


凡平「日本ツアーをすることになったきっかけは?」

Aksha「実は私は今、短期契約で日本で働いているのよ。
こっちに来たとき、いくつかのライブ会場にコンタクトして、私たちの音源をシェアしてみたの。そうしたら、驚くことにたくさんの場所からライブをやってほしいっていう連絡が来たわ。
だからGouriに日本に飛んで来てもらって、彼女が日本にいるうちに、できるだけ多くのギグをしたの」


凡平「ライブはどんなところで行いましたか?大阪だけ?」

G&A「ええ、Akshaの仕事があったから、遠くでライブをするってわけにはいかなかったの。だから、大阪の、全然違う雰囲気の素敵な3つの会場でライブをしたのよ。
1つめは、Art and Nepalっていうアートギャラリー兼カフェ。
2つめは、Soundgarden Bar and Cafe. ここは心斎橋のど真ん中にあって、ツインピークスみたいな不思議な魅力がある場所。
3カ所目は、El Nagueっていう白い素敵なアップライトピアノがあるイタリアンレストランよ。」


なんと、来日公演の理由が日本で働いていたからだということに驚いた。
彼女たちもまた、昨今のインドのインディー音楽シーンで目立つ多くの国際派アーティストと同様に、インドという枠組みの中だけで捉えるのではなく、グローバルなインディーミュージックシーンのなかに位置づけられるべきアーティストなのだろう。
欧米の音楽に影響を受け、当たり前のようにデビュー前に海外でライブを行う、新しいインドのアーティストたち。
彼女の前髪は、そうした新しい世代の姿勢を表す象徴でもあるのだ。(もちろん本人はそんなことは意識していないだろうが)

アコースティックなサウンドを基底に持ちつつ、現代的なアプローチも積極的に取り入れるGouri and Akshaの活動に、これからも注目していきたい。



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2019年12月07日

プネーのドリームポップバンド Easy Wanderlingsの素晴らしい新曲とミュージックビデオ


少し前の話題になるが、以前もこのブログで紹介したプネー出身のドリームポップバンド、Easy Wanderlingsが9月にリリースした"My Place To You"がたいへん素晴らしかった。

以前の紹介記事 :


この作品は、"Beneath the Fireworks"と"Madeline"の2曲によって構成されており、プレスリリースによると、2曲とも、愛する人のために、自分の生活を惜しみなく捧げている人々をテーマにしているそうだ。
それぞれが全く異なる雰囲気の楽曲ながら、2曲はシームレスにつながっているものでもあるという。

彼ららしい心地よい音色と上質なメロディーに加えて、今作ではCGアニメーションによる素晴らしいミュージックビデオも制作されている。
楽曲とマッチした幻想的かつエモーショナルな映像はとても美しく、正直に言うと、初めて見た時には感動のあまり涙が出たくらいだ。

まずは、1曲めに収録されている"Beneath the Fireworks"のミュージックビデオをご覧いただきたい。


幻想的でありながら、どこか日常の感情を想起させる世界観が素晴らしい。
登場人物の動きは最小限だが、レイヤーされたイラストをうまく使って広がりのある視覚効果を実現しており、音楽に合わせた情感豊かな映像の美しさは息を呑むばかりだ。

それにしても、この不思議な映像はいったい何を表しているのだろうか。
なぜ、男は輪郭のみで描かれているのだろうか。
通常、白いサリーは寡婦が着るものとされている。
ということは、輪郭で描かれた男はすでに死んでしまっているということなのだろうか。
歌詞もまた、さまざまな解釈ができそうな内容だ。
例えば1番の後半からサビでは、このような歌詞が歌われている。

Get a rope and tie me up
Coz if I walk out this door, I fear I might be gone. 
To this world that’s calling me, to live on the edge of the river, 
Sitting here on the fence thinking what the fireworks are for?   
ロープを取って縛り付けてくれ
ドアの向こうへ行ってしまったら 戻れなくなるのが怖いんだ
私に呼びかけるこの世界へと 川のふちでの暮らしへと
フェンスに座って考えている この花火はいったい何のためなのかと

(歌詞は、例えばこのサイトから読むことができる。https://www.metrolyrics.com/beneath-the-fireworks-lyrics-easy-wanderlings.html

この曲に続く"Madeline"もまた曲、映像ともに美しく、とてもエモーショナルだ。


幻想的な世界に遊ぶ母子が詩的に表現されている。
指先から放たれる光線は、想像力のメタファーなのだろうか。
穏やかな夜に見る夢のような美しい楽曲と映像だ。

これらの素晴らしい作品について、Easy Wanderlingsの中心人物のSanyことSanyanth Narothにメールで聞いてみた。


凡平「この美しいアニメは誰が作ったものなんでしょう。ちょっと宮崎駿を思わせるところもありますよね。このアニメ作家とコラボレーションするようになった経緯を教えてください。」

Sany「ビデオを楽しんでくれて嬉しいよ。これらの作品は、二人のインドでとてもよく知られたアニメーターのSailesh Gopalan とPreetham Gunalanが手がけたんだ。
Saileshは、"Brown Paper Bag Comics"という作品で知られていて、インスタグラムで読むことができる。たくさんのフォロワーがいる作家なんだ。彼は日本のアニメをたくさん見ていて、すごく影響を受けているんだよ。僕も日本のアニメが大好きだから、彼に頼んだってわけ。アニメで流れている音楽も大好きで、僕は久石譲の大ファンなんだ。
つまり、日本のアニメ好きっていう点で僕らは繋がることができて、彼には自由にコンセプトを考えて作品を作ってもらうことにした。とても楽しいプロセスだったし、みんなに気に入ってもらえてうれしいよ。」

Saileshの"Brown Paper Bag Comics"は、幻想的なミュージックビデオとはうってかわって、社会風刺的な四コマ漫画だ。
https://www.instagram.com/brownpaperbagcomics/
服飾産業が児童労働を黙認していることを激しく批判しながら、幼い使用人を酷使する富裕層を皮肉るなど、インド社会の矛盾を指摘した作風は、ユーモラスではあるが、はっとさせられる。
ちなみにSaileshが最も影響を受けた作品は、『ONE PEACE』とのこと。
Sanyが久石譲のファンだというのも、この2曲のイントロの美しいアレンジを聞けば納得だ。


凡平「"Beneath the Fireworks"のビデオでは、父親は透明人間として描かれていて、母親は白いサリーを着ていますよね。これは、『じつは父親は死んでしまっているけれど、彼の魂はまだ家族のために働いている』ということを意味しているのでしょうか。それとも、これは『愛する人に無償の愛を捧げる』ということのメタファーですか?」

Sany「このビデオでは、伝統的なシステムの中で結婚した女性を描いている。彼女はパートナーの要求を全て満たすために、自分のしたいことや幸せを犠牲にして、人生の全てを捧げているんだ。そして、長い間ともに暮らした夫が亡くなったとき、彼女は自分が誰なのか、何が彼女を幸せにしてくれるのか、わからなくなってしまう。
この曲では、全ての女性に、いったん立ち止まって、じぶんがしている素晴らしいことを振り返って、自分自身と自分の幸福のために時間を使ってほしいっていうことを訴えかけているっていうわけさ」


つい男性側の立場で考えてしまったが、これは女性の視点からの物語でもあったのだ。
インドでは、伝統的に夫に先立たれた女性は不吉な存在とされ、派手な色の服を着ることや、装飾品を身に付けること、さらには甘いお菓子を食べることすら禁じられた極めて低い地位に甘んじることになる。
ここでは、こうした価値観のもとで嫁ぐこと自体が、寡婦として生きるのと同じように、自分の希望を殺して生きることでもあると表現しているわけだ。


凡平「"Beneath the Fireworks"の歌詞はとても深いですよね。哲学的なようにも聞こえます。花火(Fireworks)は何かのメタファーなのでしょうか?例えば『この世界に生きる喜び』とか?」

Sany「ありがとう。この曲の歌詞は、『実存的危機』についてのものなんだ。『犠牲と責任』というもっと大きなテーマにも関わってくる。
犠牲ということに関しては、誰かが自分の夢や情熱をあきらめているおかげで、彼らが愛している人が自分の夢を追求できているっていうことなんだよ。 きっとみんな個人的なレベルで、自分との関わりを感じてもらえるテーマじゃないかな。誰かの無言の努力を受け取る側にいるとしても、誰かのために努力を捧げる側にいるとしても。
『花火』は誰もが誰かの努力や奮闘のもとで生きているという意味に捉えることができる、って僕は感じているよ」

誰かのために人生を捧げることを、自らを犠牲にして鮮やかな閃光で暗闇を照らす花火に例えるとは、とても詩的な表現だ。


凡平「"Beneath the Fireworks"の最後に、母親が指から光線を出し始めます。これは亡くなった人との精神的な繋がりのようなものですか?」

Sany「この曲の最後に出てくる光線は、"Madeline"の母子が不思議な世界を作り出す時に使っていた光線と同じものなんだ。"Beneath the Fireworks"では、"Madeline"に出てきた子どもが成長して、都市で平凡で活気のない生活をしている。彼が再び『描くこと』に対する情熱を見出すまではね。
この曲の最後で、『光線』が再び彼を見つけ出して、彼は再び子どもの頃に描いたのと同じ絵を描こうと決意したんだ」


凡平「"Madeline"のビデオはまるで夢のようにシュールですよね。ここでも最後に、息子が透明人間になってしまいます。これは何を意味しているんですか?」

Sany「小さな町や村で暮らしていた人が、故郷を出て、夢を追って新しい人生のために大都市に行くっていうのはよくあることさ。この息子は、魔法のような世界と母親のもとを離れ、大都市に移ってキャリアを追求するんだけど、その中で彼は喜びを失い、生気を感じられなくなってしまう。だから彼をチョークの輪郭で描いているのさ」


…と、私の解釈はことごとく外れていたが、これでこの曲が表現している内容がはっきりと理解できた。
曲順でいうと、"Beneath the Fireworks"が先になっているが、ストーリーとしての時系列は"Madeline"が先なのだ。
母の愛情のもとで、自由に想像の世界に遊び、絵を描いていた男の子は、やがて成長し、所謂「社会的な成功」を求めて大都市へと出てゆく。
だが、そこでの生活は毎日が同じことの繰り返し。
無味乾燥で喜びの失せたものだった。
単調な日々にうんざりしつつも、日常を捨てて夢に生きることを躊躇いながら暮らしていた。
ある日、彼は仕事帰りに子どもたちが自由に描いた絵を目にして、幼い頃の描くことの喜びを思い出す。
そして、彼は自分を育ててくれた母の半生に想いを馳せる。
読書と自然を愛していた若い頃の母は、結婚によって自分自身のための喜びを全て手放し、全ての愛情を家族に注いで生きてきた。
彼が大好きだった絵を描くための想像力も、母からもらったものだ。
(ところで、"Beneath the Fireworks"の冒頭の写真にも出てくる少女二人は、彼の妹たち、もしくは彼の恋人とその妹だろうか)
母の無償の愛、そして、自身の生活の虚しさに気づいた彼は、再び想像力を自由に羽ばたかせ、絵を描くことを決意する。

本来の意味など理解しなくても、詩的な歌詞と映像はじゅうぶんに感動的なものだが、こうしてストーリーを理解すると、まるで一本の映画を観終わったかのような充足感が感じられる。

この楽曲のような「女性の生き方」というテーマは、最近ではインドの映画でも頻繁に扱われており、都市で暮らすリベラルな中産階級にとっては、非常にアクチュアルなものなのだろう。
こうした社会的なテーマを、単に啓蒙的なメッセージとして伝えるだけではなく、詩的にもストーリー的にも情感豊かな作品に仕上げたEasy Wanderlingsと、アニメーターのSailesh Gopalan, Preetham Gunalanの力量には唸らされるばかりだ。

楽曲の素晴らしさに関しては説明の必要はないだろう。
キャッチーなメロディーと、ナチュラルで心地よいアレンジはあいかわらず冴え渡っているが、個人的にはみずみずしいエレキギターの音色の美しさに注目したい。
歌声同様、決して派手ではないかもしれないが、じつに巧みで上質なものだ。

彼らの音楽は、この2曲のアニメーションのように、どこかあたたかく、誰が聴いても懐かしさを感じさせるような不思議な魅力がある。
彼らの音楽は、ここ日本でも、世界でももっと広く受け入れられる可能性を秘めているはずだ。
彼らも、インタビューのたびに日本での成功を望んでいると語っている。
日本の音楽関係者のみなさん、Easy Wanderlingsの音楽はいかがですか?


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goshimasayama18 at 18:01|PermalinkComments(0)

2018年10月27日

特集ナガランドその3 ナガの地で花開く日本文化 ナガランドのオタク・カルチャー事情とは?

インド北東部の秘境、ナガランド州を紹介してきたこの特集。
第1回目は「首刈り」「独立闘争」「キリスト教」に象徴されるナガランドの近現代史を取り上げ、第2回目では社会問題となっている悪魔崇拝とその背景を紹介してきた。
第3回目の今回は、現代のナガの若者たちの間に流行するさらに驚愕のカルチャーを紹介する。
何を隠そう、それは日本発祥の文化。

それは何かというと、「コスプレ」だ。
アニメ、マンガに代表される日本のサブカルチャーはインドでもそれなりの人気を博してはいるが(例えば首都デリーやムンバイでもコスプレイベントが開催されている)、なぜかここナガランドには、州の規模を考えると非常に多くの熱心なオタクカルチャーファンが集中している。

百聞は一見に如かず。
さっそくその様子を見てみよう。
これは、今年7月にナガランドの州都コヒマで行われたイベント、Cosfestの様子だ。
入場料は大人100ルピー(約160円)、子供50ルピー(約80円)。
インドとはいえ、ナガの人々は日本人同様のモンゴロイド系の顔立ちなので、言われなければインドだと全く気づかないほどのコスプレっぷり!
NagaCos1

NagaCos2

NagaCos3

NagaCos4

これはコスプレでなくオブジェ
NagaCos5
(以上写真5枚はhttps://rootsandleisure.com/day-1-of-cosfest-2018-kohima/から)

NagaCos6

NagaCos7

NagaCos8
NagaCos9

(以上写真4枚はhttp://morungexpress.com/cosplay-just-costume-play/から)

紹介しておきながら元ネタが分からないものが多く、あまり語れることがなくて申し訳ない。
このイベントは、Nagaland Anime Junkies(NAJ)というグループが州都のコヒマで2013年から毎年開催しているもの。
地元メディアの記事によると、当初、こうしたコスプレイヤーが出始めた頃には、見慣れない黒ずくめの衣装や奇妙なメイクに、すわ新手のサタニストかと疑われたりもしていたようだが、今では新たな文化としてすっかり定着しているという。

第6回目となる今年は、コスプレだけでなく、バンド演奏、 DJ、アニメ映画の上映(新海誠)なども行われ、8,000人ものファンを集めた。
前回紹介した社会問題となっているコヒマのサタニストが3,000人とのことだから、悪魔主義者の倍以上のコスプレファン・アニメファンがいるということだ。
繰り返すが、コヒマの人口は27万人。
そのうち1%はサタニストで、悪魔に取り憑かれていたり、真夜中に墓地であやしげな儀式をしたりしている。
そして3%はイベントに集まるほどのコスプレファン。
ここはいったいどういう街なんだ…。

映像でみるとこんな感じで、とても、あののどかな「あまねき旋律」の舞台と同じ州だとは思えない。

先進国のコスプレと比較して完成度がどうなのか、私には分かりかねるが、着物にもセーラー服にも触れたことがないであろうナガランドで、情熱と工夫でここまでの衣装やメイクを作り上げる姿勢にはもう脱帽するしかない。

Cosfestを主催しているNagaland Anime Junkies(NAJ)は2011年に結成された。
当初はNaga Anime Junkiesを名乗っていたが、ファンが集まるにつれて「自分はナガ人ではないが仲間に入れてもらえないか」という声が多くなり、名称をNagaland Anime Junkiesに改めたという。
Nagaは民族名だが、Nagalandは単なる地名だからだ。
このCosfestは、当初は遠く離れたムンバイのコスプレイベントに参加できない地元のアニメファンのために開催したものだったのが(コヒマ-ムンバイ間の距離は3,000km以上)、あっという間に大人気となり、近隣の州からもファンが集まるようになった。
ナガランドのコスプレ愛好家たちは、材料が手に入りにくい環境で工夫に工夫を重ねて衣装を製作しているとのこと。
地元の生地屋で使えそうな生地を買ったり、現地では高価な発泡スチロールを冷蔵品を扱うお店に売ってもらったりして、手作りで衣装を作っているという。

インドでは、ドラえもん、クレヨンしんちゃん、ハットリくん、ポケモンのような子ども向けのアニメは広く知られているが、コスプレの対象になるようなサブカル的、オタク的なアニメのファンはまだまだ一般的でない。
それなのに、このナガランドでの異常なまでのアニメブームはいったいどういうことなのだろうか。

地元紙の報道によると、ナガランドでの日本ブームには3つのきっかけがあったようだ。
1つめは、2002年に日本の宗教指導者がナガランドを訪れ、第二次世界大戦中の激戦地となったことに対し、謝罪を行ったということ。(調べたところ、キリスト教のアガペという団体だったようだ)
2つめは、2009年に日本のミュージシャンがコヒマでパフォーマンスをしたこと。(調べたけど誰だか分からなかった。いったい誰?)
3つめは、2011年にナガを代表するバンドたちが、東日本大震災の被災者支援のためのイベントを開催したことだという。
このイベントには、先日紹介したAlobo NagaやDivine Connectionも出演したようだ。
日本では詳しく報じられなかったと思うが、遠く離れた、決して豊かとは言えないナガランドからも、州を代表するスターや一般市民たちが精一杯の支援してくれたと思うと、胸が熱くなる。
こうしたイベントを通して日本文化への親近感が湧いていたところに、日本の映画「クローズzero」(原作は漫画)が公開され、日本ブームに火がついたということのようだ。

また、Cosfestを扱ったドキュメンタリー映画(「Japan in Nagaland」後述)によると、ナガのアニメファンたちはアニマックスやカートゥーン・ネットワークのようなケーブルテレビでアニメにはまったという。
このドキュメンタリーでは、コスプレがここまで流行する背景として、ナガランドにはバーやクラブのような若者向けの娯楽や文化がなかったためと分析されている。

ナガランドの日本のサブカルチャーへの情熱は、コスプレという「模倣」にとどまらない。
日本風のオリジナルのマンガを描くアーティストもいる。
NagaManga1
NagaManga2
(画像2点、出展:https://scroll.in/magazine/876664/in-manga-crazy-nagaland-a-young-womans-comic-series-has-made-her-a-minor-star

彼女の名前はThej Yomhe.
ナガランドから2,500キロ離れたインド北西部ウッタラカンド州デラドゥンの大学でアニメーションとVFXの学位を取得したのち、今では地元で働きながらマンガの製作を行っているそうだ。
彼女の作品、'Carnaby Black'はここから読むことができる。
https://tapas.io/episode/39319
日本のマンガの影響だけでなく、森林や山並みなどの豊かな自然の描き方にナガのルーツを感じさせる作風だ。

ナガランドでここまで日本のサブカルチャーが愛されている理由として、ナガの人々の外見が影響しているという指摘もある。
ボリウッド映画のように典型的なインド人が活躍する作品よりも、同じモンゴロイドである日本の作品のほうが感情移入しやすいというのだ。
アニメやマンガの前には、日本と同じ東アジアの韓流ドラマが、そのさらに前には香港のカンフー映画が流行っていたという。
とはいえ、それらの実写作品と違い、日本のアニメやマンガには、キャラクターや舞台設定が無国籍なものも多い。
コスプレの対象になるような作品はなおさらだ。
それなのになぜ、ナガの若者たちはここまで夢中になるのだろうか。
もちろんストーリーやキャラクター自体が魅力的だということもあるだろうが、それだけではなぜインドのなかでここナガランドでだけ特別な盛り上がりを見せているのか、説明がつかない。

以前紹介した通り、ナガランドは伝統的な精霊信仰からキリスト教への改宗が地域を挙げて行われた土地だ。
かつては部族ごとに独自の文化や言語を持ち、他の部族に対して首刈りまで行っていたナガの人々は、20世紀中頃までに行われた改宗によって、それまでの伝統的な生活を変え、キリスト教を中心とした新しい価値観に大きく舵を切った。
これは、彼らの暮らしに根づいていた伝統的な歌声さえも、一度は捨ててしまったというほどの大きな変革だった。
改宗後、ナガの生活は著しく変わった。
部族ごとに異なる言語を話していた彼らは、宣教師が作り出した共通語「ナガミーズ」を手に入れ、今では英語も一般的に話されている。
1951年には10%だった識字率は、2011年には80%にも達した。

こうした変化にともない、ナガの若い世代が、自らの歴史的なルーツとの間に乖離を抱えているであろうことは想像に難くない。
現在の価値観の中心であるキリスト教も、若い世代にとっては「古い伝統に変わる開明的な信仰」という実感を抱けるほどに新しいものではないだろう。
勇敢な首刈りの戦士たちも、インターネット世代の若者たちには遠い過去の話だ。
そんな中で、ナガの若者たちが、自分たちの熱中できる対象として日本のアニメを見出したというのはとても興味深い。

日本も、敗戦によって明治以来の価値観を大きく転換した歴史を持つ。
その後の経済成長によって伝統的な暮らしを失ってゆく過程の中で、欧米文化の影響を受けながらも、新しく自由な発想で作られてきたのがアニメやマンガに代表される日本のサブカルチャーだ。
他の文化圏では子ども向けの娯楽に過ぎなかったアニメやマンガは、ここ日本では新しい文学となり、神話となった。

ナガと日本は、理由はどうあれ、いずれもが、第二次世界大戦後に自分たちのルーツを一度は否定してきた歴史を持つ。
自身のアイデンティティーを考えた時に、歴史や伝統というルーツを喪失したナガランドの若者たちが日本のサブカルチャーを熱狂的に受け入れているということは、ある種の必然とも言えるのかもしれない。

このナガランドのアニメブームは、インド国営放送Doordarshanも注目しており、2014年の第2回Cosfestを取材した40分ほどのドキュメンタリー映画'Japan in Nagaland'が製作されている。

NAJのメンバーたちや地元のコスプレイヤーたちの情熱には驚かされるばかり。
(Carnaby Blackの作者、Thej Yomheも登場する)
38分18秒あたりから、彼らが日本に対する憧れを語るシーンがある。
彼らの憧れの地でわりと憂鬱に日常を暮らしている私としては、インタビューを聞いてこそばゆいというか、申し訳ないような気持になる。
彼らにとって日本は、外見こそそっくりでも、あまりにも遠い場所であるようだ。

日本に数多ある日本好きの外国人を扱うテレビ番組のスタッフは、まだ彼らに気づいていないんだろうか。
意外性のある、とても面白い番組が作れるように思うのだけど。

ナガランドのオタクのみなさん、こんなにも日本の文化を愛してくれてありがとう。
震災の時の支援にも、遅くなりましたが勝手に日本を代表してお礼を申し上げます。
日本の人たち、とくに、彼らと同じようにアニメやコスプレを愛する人たちに、遠いナガランドにいる彼らのことを少しでも知ってもらえたらと思ってこの記事を書きました。

いつか会えたらいいね!

参考記事:
https://www.thehindu.com/society/history-and-culture/nagalands-japanese-subculture/article24481651.ece
https://www.telegraphindia.com/7-days/bye-bye-hallyu-hello-haiku/cid/1670283
https://rootsandleisure.com/day-1-of-cosfest-2018-kohima/
https://homegrown.co.in/article/800138/documentary-filmmaker-hemant-gaba-explores-cosplay-culture-in-nagaland

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goshimasayama18 at 21:39|PermalinkComments(0)

2018年09月02日

日本文化に影響を受けたインド人アーティスト、エレクトロニカ編! Komorebi, Hybrid Protokol


成長著しいインドのインディーミュージックシーン(ニアリーイコール、非映画音楽シーン)で現在活躍しているアーティストたちは、いずれもがそのジャンルのパイオニア。
インドではインディーミュージックの歴史が浅く、国内にお手本となるアーティストがほぼいない状況なので、インドのミュージシャンは、必然的に海外の、とくにアメリカやイギリスのアーティストの影響を大きく受けているということになる。
このブログで取り上げているアーティストたちも、影響を受けたアーティストの話になると、欧米のミュージシャンの名前を挙げることが常で、例外的にインド人でよく名前が挙がるのはA.R.Rahmanくらい。
英語が達者なインド人たちにしてみれば、言語的にも理解しやすく、また世界の主流でもあるアメリカ、イギリスの音楽の影響を受けるのは当然のことなのだ。

アメリカ、イギリス以外の国の音楽では、K-Popも一定の人気があるようで、 Rolling Stone Indiaのような媒体にもBTSをはじめとするK-Popの情報がよく掲載されている。
そんなインドのなかで、日本のサブカルチャーもそれなりの存在感を示していて、アニメをはじめとする日本文化の影響を受けたアーティストというのも存在する。

その代表格が、その名もKomorebiというエレクトロニカ・アーティストだ。
KomorebiはTarana Marwahというカナダ出身、デリー在住の女性アーティストのソロプロジェクトで、宮崎駿をはじめとする日本のアニメやゲームなどの影響を公言している。
ビジュアルイメージに関しても、日本のいわゆる「カワイイ」カルチャーを意識しているようだ。 
Komorebi_-_Photo_credit_-_Rafique_Sayed

ジブリ的な世界観のミュージックビデオの"Time"

Midival PunditzのGrainと共作した曲"Dream"のビデオでは、インド系ドイツ人アーティストArchan Nairのイラストをフィーチャーしている。

彼女が昨年リリースした曲、"Candyland"
音楽的には、Bjork、Imogen Heap、Radiohead、ステージパフォーマンスに関してはGrimes、Lady Gaga、Madonnaにインスパイアされているそうで、日本的なポップなビジュアルイメージと叙情的なエレクトロニカ・サウンドを融合させることにより、無国籍でドリーミィな世界観を構築することに成功している。
彼女のSoundcloudでは、"Kyoto Breeze"、"Miyazaki's Dream"といった、より日本的なタイトルの曲や、このサイトでも紹介したMohini Deiや、ムンバイのブルースロックバンドBlackstratbluesのギタリストWarren Mendosaをフィーチャーした曲も聴ける。

彼女のほかにも日本に影響を受けたタイトルの曲を発表しているアーティストがいる。
コルカタを拠点に活動しているAneesh BasuとSoumajit Ghoshによるテクノ・ユニット、Hybrid Protokolが今年リリースしたこの曲のタイトルは"Tetsuo".
 
彼らに、「曲のタイトルは AKIRAの登場人物から取ったの?」と聞いたところ、そうではなく塚本晋也監督による"日本最初のサイバーパンク映画"、「鉄男」(Tetsuo the Iron Man)から取ったとのこと。
そっちのほうがよっぽどマニアックだよ! 
Chemical BrothersやUnderworld、Shpongleなどに影響を受けたという彼らのサウンドは、90年代テクノっぽいテクスチャーがあり、ダンスミュージックだけでなくリスニング・ミュージックとしても質の高いもの。

大自然の中でオーディエンス無しで40分のライブパフォーマンスを行うなんてこともしていて、まるで無人レイヴといった趣だが、自然と音楽のみというミニマルな環境がアーティストとリスナーのイマジネーションを刺激するという非常に面白い試みだ。

古い例で恐縮だが、ちょっとPink FloydのLive at Pompeiiを思い出した。
収録地はウエストベンガル州北部のシッキム州にほど近いカリンポンという町。
そう、インドのロックにはまるきっかけを作った男の一人、パサンサンが住んでいる(と思われる)町だ。

日本文化の影響を受けているアーティストはエレクトロニカのジャンルだけではなく、ロックバンドなんかもいるのだけど、長くなったのでそれはまた改めて紹介します。
エレクトロニカに関しても質の高いアーティストがゴマンといるインド。
そんな彼らを我々日本の文化が多少なりともインスパイアできていると思うととてもうれしく感じるね。

それでは、また! 

goshimasayama18 at 22:30|PermalinkComments(0)