フェスティバル

2019年03月20日

今年のホーリー系フェスとホーリーソング他 インド春のフェス事情

今年もホーリー(Holi)の季節がやってきた。今年のホーリーは明日3月21日。

ホーリーとは、春の訪れを祝うインドの伝統行事で、ヒンドゥー教のヴィシュヌ神の伝説に基づいて紀元前から行われていたと言われている。(興味のある方は各自調べてください)
正確には今日20日の日没後から焚き火を囲んでの歌や祈りの儀式が始まるのだが、有名なのはなんといっても2日目に行われる、色のついた粉や水をぶっかけあうという風習だ。
この日だけは身分もカーストも気にせず、色粉や色水をぶっかけてよいということになっており、いつも以上に無秩序かつ無礼講な、無茶苦茶なお祭りなわけである。

とくにホーリーが賑わう街として知られているヴリンダーヴァン(Vrindavan)のホーリーの様子はたとえばこんな感じだ。
 
車の中に色水を思いっきりぶっかけたりしていたけど、大丈夫なんだろうか。
それにしてもさすが本場の無礼講、誰一人本気で怒る人などおらず(カメラに映っていないところではいるのかもしれないが)、笑顔で楽しんでいるのはさすがだ。
このホーリー、伝統行事とはいえ、旅行者にはハードすぎるのもまた事実。
あまりの混沌、アナーキーっぷりに、あらゆるガイドブックで旅行者に厳重な注意が呼びかけられているという、じつに過激なお祭りなのだ。

例えば「オマツリジャパン」というウェブサイトには、こんなふうに書かれている。
ホーリー祭は楽しいだけのお祭りではありません。それは本当に危険と隣り合わせですので、十分に注意してください。
一人で参加しない!圧倒的に事故・犯罪に巻き込まれる危険が高くなります。
女性はできるだけ参加しない!(痴漢、セクハラ、性暴力など悲しい事件が実際に起きています。インド人女性は絶対に大騒ぎの時間には参加しないので、もともと男性の祭りだと理解してください)
スリや犯罪に注意。貴重品は絶対に持ち歩かない。
泥酔者に注意。(普段お酒を飲まないヒンドゥー教徒が、年に一度お酒を飲む日です。当然、現地の男性は全員が酔っぱらっていると考えてください)。
捨ててもよい服で行く(色がついたら二度と取れません)。
サングラスやゴーグルで目を守る。
危険な時間帯、場所はホテルに避難。遅い時間はもちろん、参加者のテンションが上がった二日目の午後も危険です。
(「過激さ世界一!インド ホーリー祭に参加するには!?2019年は3月20日・21日!行き方や注意点を解説!」https://omatsurijapan.com/blog/holi-festival-india/

もはや普通に楽しめるのかどうかすらも分からないほどの厳重注意っぷり。
コレ、もはや怖いもの見たさか罰ゲームの領域なんじゃないだろうか。
私はインドには何度か行ったことがあるものの、幸いというかホーリーの経験はないので何とも言えないのだけど、ネットで検索すると参加した人のブログも結構ヒットするので、興味のある方は読んでみるといいかもしれない。

昨年も紹介したとおり、近年では大都市を中心に、音楽フェスとホーリーを融合したイベントもたくさん開催されていて、大いに盛り上がっている。
(昨年の記事「音楽フェス化するホーリー」

例えばニューデリーではHoli Moo, Unite Holi Music Festivalといったイベントがホーリーの日に合わせて開催されている。
holi moo lineup 2019

Holi Mooは4つのステージで100以上のアーティストが登場。
伝統音楽からEDM、レゲエ、ヒップホップまで、あらゆるジャンルが揃っている。

UniteHoli2019
Unite HoliにはEDM系のDJが出演。
その模様はこんな感じだ。
もはや伝統的なお祭りの面影はなく、パリピ感満載のイベントに。

インドのテクノ/EDM系オーガナイザーのSunburnが主催するムンバイのHoli Bashにはあの"Taki Taki"のDJ Snakeが登場!
HoliBashDJSnake

同じくムンバイのWeb Of Colorsではヒップホップ映画"Gully Boy"にもカメオ出演したアンダーグラウンド・ヒップホップシーンで人気のラッパーEmiway Bantaiと、世界的に活躍するEDMアーティストのZaedenが出演。
Web-Of-Colors

他にもHoli Reloadedとか、RangRaveとか、EDM系のホーリーフェスはデリーやムンバイなどの大都市でたくさん開かれている。

バンガロールのMaa Holiではインドのストリートヒップホップの英雄Divineが登場。
地元ムンバイじゃなくてバンガロールに出るのか。
maaholi

ホーリーって楽しそうだけど、フツーの道端で色粉、色水をぶっかけあうノリについていけるかなあ、という向きには、ダンスミュージックがガンガンにかかっているこういうホーリー系フェスに参加してみてはいかがでしょう?
音楽で盛り上がりながら色粉をぶっかけ合えば、あなたもきっと普段の自分から解放されて新しい自分にであえるはず。
そこまでしてホーリーを楽しまなくても別にいいやって人も多いかもしれないが(私もだ)、こんなふうに伝統行事にどんどん新しい要素を入れて楽しんでしまうのも、じつにインドらしい傾向だと言える。

ホーリーにあわせて音楽シーンこれだけ盛り上がっているということは、当然ホーリーをテーマにした曲もたくさんリリースされている。
インドのヒップホップシーン黎明期から活躍するKRSNAと、ニューデリー出身のパンジャビ系シンガーDeep Kalsiが昨年のホーリーシーズンにリリースした曲は、その名も"Hip Hop Holi"


こちらはShobi Sarwan Ft. PKという人たちによるトラップっぽいリズムのホーリーソング。


このRapper Nanyoo x Yz SDという人たちはどうやらチャッティースガル州の小さな街ライガール(Raigarh)のラッパーのようだが、強烈なバングラのリズムに乗せてラップ! 

全くもって垢抜けないが、それだけにインドの田舎町の若者の雰囲気がびんびん伝わってくる。

こちらはボリウッド映画のホーリーソング。
去年公開された"Genius"という映画の挿入歌。
たまたま目についたものをいくつか紹介したが、Youtube等ではホーリー向けのパーティーミックスなどがたくさんアップされているので、日本でホーリーをお祝いしたい人もチェックしてみてほしい。

ちなみにホーリー系フェスは(去年も書いたけど)インドのみならずイギリス、ドイツ、アメリカ、オーストラリアなど多くの国でも開催されている。
外国のこうしたフェスティバルは暦の上のホーリーとは関係なく開催されることも多く、例えば昨年ベルリンで行われたこの"Holi Festival of Colors"は8月24日に開催されたようだ。
 
ご覧のようにインド系の人々ではなく、ほぼ地元のパリピのみなさんで盛り上がっている様子。
日本だと、まあ場所貸してくれるところがなかなかないだろうなあ。

インドで春に行われる音楽フェスティヴァルはホーリー関連のものだけではない。
3月9〜10日にかけてムンバイ郊外のMaladの農場で行われたControl ALT Delete(CAD)は、商業主義を排してクラウドファンディングで集めた資金のみで開催されるフェスで、今年で8年めの開催となる。
ControlALTdelete
入場チケットの代金も、定価ではなく払いたいだけ払えば良いという非常に画期的なこのイベントは、出演者もジャンルを問わず先鋭的かつ純粋な音楽表現を追求しているアーティストが集まっている。
今年の出演者は、これまでこのブログで紹介した中では、北東部の女性R&BシンガーMeba Ofilia, シンガーソングライターのRaghav Meattle, Aditi Ramesh率いるLadies Compartment, ラップユニットのSwadesi, 来日経験もあるデスメタルバンドのGutslitら。

地元ムンバイのエレクトロニックデュオFlex Machinaのステージの様子はこんな感じだ。

こちらはホーリー系の大規模フェスと比べるとぐっと手作り感溢れる感じ。
とはいえこれだけ多くのアーティストを集めながら(テントを張ってキャンプして参加したアーティストもいるらしい)、とことんまでインディペンデントにこだわった姿勢は素晴らしい。
今年はクラウドファンディングで目標額の50万ルピーを大きく上回る65万ルピーを集めることに成功し、近所からの騒音のクレームもあったようだが、無事2日間の日程を終えたということのようだ。

というわけで、今回はコマーシャルからアーティスティックまで盛りだくさんのインド春のフェス事情を紹介しました!
それではまた!




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goshimasayama18 at 00:05|PermalinkComments(0)

2019年03月17日

コルカタに凄腕ブルースマンがいた!Arinjoy Trio インド・ブルース事情

90年代に初めてインドを訪れたとき、インド社会の格差や不平等、そして人々のバイタリティーと口の達者さに触れて、インド人がラップを始めたらすごいことになるだろうなあ、と思ったものだった。
あれから20年余り、ようやくインドにもヒップホップが根付いてきて、すごいことになりつつある、というのは今まで何度も書いた通り

あの頃のインドで、「インド人が本気でやりはじめたらすごいことになるんじゃないか」と思ったジャンルがもう一つある。
それはブルースだ。

ブルースは アメリカの黒人の労働歌にルーツを持つ音楽で、その名の通りブルー(憂鬱)な感情をプリミティブかつ強烈に表現してロックなどその後の音楽に大きな影響を与えた。
というのがブルースの一般的な解説になるのだが、 実際のブルースは憂鬱といってもじめじめした暗い音楽ではなく、救いのない日々のやるせなさも恋人と別れたさみしさも痛烈に笑い飛ばしてしまうような豪快な音楽でもある。
ブルースは「辛すぎると泣けるのを通り越して笑えてくるぜ」という悲しくも開き直った感覚と、「俺は精力絶倫だぜ」みたいな下世話さが渾然一体となった音楽なのだ。 
レコードとしてブルースが広く流通し始めた1950年代、Muddy Warters, Howlin' Wolf, Buddy Guy, B.B.King, Lightnin' Hopkins, John Lee Hookerら、幾多の伝説的ブルースマンが登場すると、彼らは人種の枠を越えてやがて白人ロックミュージシャンたちにも大きな影響を与えた。

何が言いたいかというと、インドの下町で出会った庶民たち、例えば人力車夫や道端で働く人夫たちから、そうしたいにしえのブルースマン達に通じる、力強さとあきらめが同居した、シブくて強くて明るくて、でもその根底にはやるせない憂鬱があるんだぜ、みたいな印象を受けたということなのである。 
この人たちにギターを教えてブルースをやらせたら凄いことになるだろうなあ、なんて感じたものだった。

さてその後、インドの労働者の中からとんでもないブルースミュージシャンが登場したかというと、そんなことはなかった。
そりゃそうだ。
だいたい、ブルースは1950年代くらいまでのアメリカの黒人の文化的・社会的なバックグラウンドと音楽的な流行から発生した音楽なわけで、それを全く状況が異なる現代のインドに求めてもしょうがない。
そもそもアメリカの黒人からして、今ではヒップホップに流行が移ってしまったし、遠く離れたインドで、それもアメリカの音楽なんて知るはずもない労働者階級がブルースをやるわけがないのだ。

いつもながら大変に前置きが長くて申し訳ない。
では、これだけ音楽の趣味が多様化した現代インドで、誰もブルースを聴いていないのだろうか。そして、誰もブルースを演奏していないのだろうか。

と思ったら、いた。
それもかなりの腕前のミュージシャンが。
コルカタを拠点に活動する彼の名前はArinjoy Sarkar.
まずはさっそく、彼が率いるArinjoy Trioが先ごろリリースしたセルフタイトルのデビューアルバムから"Cold, Cold, Cold"という曲を聴いてみてほしい。

言われなければとてもインドのバンドだとは思えない本格的なブルース!
タメの効いたギターのフレージングも、決して上手いわけではないがツボを押さえた歌い回しも、ブルースファンなら「分かってるなあ〜」と膝を打ちたくなるのではないだろうか。

弾き語りスタイルの"Don't You Leave Me Behind"


ブルース一辺倒というわけじゃなくて、レニー・クラヴィッツみたいなロックの曲も。
"Who You Are"

2:28あたりからの急にPink Floydみたいになる展開もカッコイイ!

Bo DiddleyのビートにJeff Beckのトーンのインスト"Beyond The Lines"

こうして聴くと、けっこう引き出しの多い器用なバンドだということが分かる。
Arinjoyが影響を受けたミュージシャンとして名前を挙げているのは、Stevie Ray Vaughan, Buddy Guy, Albert Collins, Larry Carltonとのことで、かなりいろいろなタイプのブルースを聴きこんできたようだ。

コルカタのBlooperhouse Studioでレコーディングしたこのアルバムは、Coldplayのクリス・マーティンやJohn Legendとの仕事で知られるSara Carterがマスタリングを行ってリリースされた。
フロントマンのArinjoy Sarkarは、以前はJack Rabbitという地元言語のベンガリ語で歌うバンドのギタリストだったという。


Arinjoy Trioは2018年にムンバイで行われたMahindra Blues Festivalでのバンド・コンテストで優勝したことで一気に注目を集めた。
このMahindra Blies Festival、じつはアジア最大のブルースフェスティバルとして知られており、これまBuddy Guy, John Lee Hooker, Jimmy Vaughan, Keb Mo, John Mayallといったアメリカやイギリスの大御所ブルースミュージシャンが出演してきた。
2018年のフェスの様子はこんな感じ。


Buddy Guyらが出演した2015年のフェスのトリを飾ったパフォーマンスの様子がこちら。
 
さすがにこれまで紹介してきたEDM系やロック系の大規模フェスに比べれば落ち着いたものだが、それでもこれだけのオーディエンスを集めることのできるブルース系のフェスティバルは東京でもなかなかできないだろう。
少なくともインドの大都市では、ブルースのリスナーに関してはそれなりにたくさんいるようだ。

では演奏者のほうはどうかというと、Arinjoy Trioのようなコテコテのブルースバンドは数少ないようだが、ブルースロックに関しては優れたバンドがけっこういるので紹介してみたい。

今年のMahindra Blues Festivalのバンドコンテストで優勝したのは、以前Ziro Festivalの記事2018年インド北東部ベストミュージックビデオ18選でも取り上げたメガラヤ州シロンのBlue Temptation.


同じく「インドのロックの首都」シロンから2003年結成の女性ヴォーカルのベテランバンド、Soulmate.


さらにシロンのバンドが続くが、2009年結成のBig Bang Bluesも渋い。

彼らはブルースベースのハードロックバンドSkyEyesとしても活動をしている。

ムンバイのジェフ・ベックのようなスタイルのギタープレイヤーのWarren Mendosa率いるBlackstratbluesは、インストゥルメンタルながらRolling Stone Indiaが選ぶ2017年ベストアルバムの2位に選出された実力派。


同じくムンバイから、心理学者でもあり、ガンを克服した経験も持つソウルフルな女性ヴォーカリストのKanchan Daniel率いるKanchan Daniel and the Beards.


以前も紹介したジャールカンド州ラーンチーのThe Mellow Turtleはブルースの影響を受けつつもヒップホップなどの要素も取り入れた面白い音楽性。
この曲も同郷の盟友であるラッパーのTre Essとの共演。


と、なにやらほとんどシロンとムンバイのバンドになってしまったが、ざっとインドで活躍するブルースロック系のアーティストを紹介してみた。
こうして聴いてみると、インドのブルースといっても、当初私が期待していたような、「抑圧された境遇から否応なくあふれ出る魂の発露」みたいなものではなく、世界中の他の国々同様、ブルースにあこがれて演奏する中産階級のバンドが多いようだ。
そりゃインドじゃ楽器を買おうにも本当に貧しい層にはなかなか手も届かないだろうし、当然といえば当然なのだけど。
やはりインドでも、「抑圧された人々」の表現は、これからもヒップホップでされてゆくことになるのだろう。

でもなあ。
あれだけの人口がいて、文化の多様性のあるインド。 
アメリカの黒人のブルースとは違っても、どこかにブルースみたいに俗っぽくて憂鬱で楽しい音楽があるような気がするのだけど。
これからも探してみることにします。

それでは今日はこのへんで。
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goshimasayama18 at 19:59|PermalinkComments(0)

2018年12月17日

インドの音楽シーンと企業文化! 酒とダンスとスニーカー、そしてデスメタルにG-Shock!

これまでこのブログでいくつかのインドのフェスを取り上げてきて、ひとつ気づいたことがある。
それは、様々なイベントで、お酒を扱うグローバル企業がスポンサーになっているケースがやたらと多いということ。

以前記事にした'Badardi NH7 Weekender'は、ラムで有名なバカルディが冠スポンサーについているし、先日紹介した超巨大EDMフェス'Sunburn'については、2007年の第1回はスミノフ、2008年はカールスバーグ、2009年にはインドのキングフィッシャー、2010年にはデンマークのビール会社Tuborgと、毎年酒造メーカーのスポンサーがついて実施されている。
BacardiNH7Weekender

他にも大規模フェスのVH1 Supersonicはバドワイザー、先日紹介したDJ NOBUが出演したムンバイの'Far Out Left'はスミノフとハイネケンがスポンサーについている。
BudweiserVh1supersonic
faroutleftmumbai

というわけで、今回は酒造メーカーをはじめとするいろんな企業とインドの音楽シーンとの関わりについて紹介してみたいと思います。

今日ではいろんなアルコール飲料の会社が音楽フェスをサポートするようになっているのだけれど、飲酒という行為はインド文化の中では長らく悪徳とされてきた。
長らくインドを支配していたイスラム教ではもちろんアルコールはご法度だし、人口の8割を占めるヒンドゥー教でも、飲酒は戒めるべきものという扱いだ。
今日でも、グジャラート州のような保守的な州(Dry Stateと呼ばれる)では公の場での飲酒が禁止されているし、それ以外の州でもヒンドゥー教の祝日などには酒類の提供が禁止されていたりもする(Dry Dayという)。
インドの保守的な社会では、飲酒は後ろめたいことであり、「酒好き」は不名誉な称号。
インドの酒飲みたちにとって、酒は味わうものではなく、手っ取り早く酔っ払って憂さを忘れるためのものであり、味はともかく度数の高い強い酒ほどありがたがられてきた。
そんなだからよけい酒飲みのイメージが悪くなるっていう悪循環とも言える状況がインド社会のアルコール事情だ。

ところがそんなインドでも、ここにきて少しずつアルコールのイメージが変わりつつある。
経済成長や欧米文化からの影響で、飲酒が肯定的でお洒落な文化に変わりつつあるのだ。
13億の人口(例え富裕層がそのうちの1割程度だとしても)を抱え、発展を続けるインドを世界の酒造会社が放っておくはずがない。

「酔うためのお酒」ではなく「飲むことがかっこいいお酒」へ。
新しい音楽を楽しめるセンスと経済的余裕のある若者たちが集まる音楽フェスは、お洒落で現代的な、新しいアルコールのイメージにぴったりなのだろう。
インドの音楽フェスへの酒造メーカーの手厚いサポートは、こうした背景が大きく影響している。

インド国内の酒造産業もこうした流れと無関係ではなく、日本のインド料理屋でもよく見かけるインド産ワインメーカーの'Sula'は、自分たちのワイナリーで独自のフェスティバル、その名も'Sula Fest'を開催している。

ご覧の通り、かなり本格的なフェスで、2018年はインドのエミネムことBrodha V、インディアン・ロックの大御所Indian Ocean、インド音楽とダンスミュージックの融合の第一人者Nucleyaなどの国内の人気アーティストに加え、海外のバンドも招聘して開催しており、相当な力の入れようであることが分かる。

お酒の会社以外で音楽シーンとの関わりが目立つのは、スポーツ関連の会社だ。
例えばこちらの'Suede Gully'という曲。

ムンバイのDivine、デリーのPrabh Deep、北東部メガラヤ州のKhasi Bloodz、タミルのMadurai Souljourと、まさにインドじゅうのヒップホップの実力派アーティストが集まったこの曲は、ご覧のようにPumaが全面的なバックアップをしている。
白シャツのボタンを上まで留めて、ターバン姿でアグレッシブなパフォーマンスを見せるPrabh Deepがかっこいい!
ラップ、ダンス、グラフィティとヒップホップの様々な要素が詰まったこのビデオは、Pumaのスニーカーを新しいカルチャーの象徴として印象づけるに十分なものだ。

続いて、ミュージックビデオではないがNikeのインド向けプロモーション動画。

インドのトップアスリート達が出演しているこのビデオからは、スポーツを単なる競技以上のカルチャーというかライフスタイルとして定着させようという意図が感じられる。
インドは人口のわりにオリンピックのような国際大会でめったに名前を聞かないことからも分かる通り、スポーツ文化の未成熟な国だが、ここにもまた伸びしろがあるということなのだろう。
'Da Da Ding'というこの楽曲は、インド人ではなくフランス人プロデューサーのGener8ionとアメリカ人ラッパーGizzleによるものだが、スポーツにもとづく新しいライフスタイルの一部として、音楽もまた印象的な使われ方をしているのが分かるだろう。

続いて紹介するのは、Prabh Deepと同じAzadi Recordsに所属するムンバイのラッパー、Tienasの曲、その名も'Fake Adidas'.

偽物のアディダスと安物の服しかないとラップするこの曲は、逆説的に本物のヒップホップのフィーリングを間違いなく持っている。
インドらしからぬセンスのトラックからも新しい世代のラッパーの矜持がうかがえるというものだ。
スニーカーがヒップホップの象徴的なファッションアイテムとしてインドでも浸透していることがよく分かる楽曲だ。
このRaja Kumariのビデオでも、彼女がAdidasを履きこなしているのが分かる(1:40あたりから)。
本場カリフォルニア育ちの彼女が履いているのはフェイクではなくもちろん本物。


ここまでヒップホップとスニーカーの関係を紹介してきたが、スニーカーメーカーがサポートしているのはヒップホップだけではない。
先日の記事で紹介した少年ナイフが出演したゴアのインディーロックフェスはVansが冠スポンサーとなったものだった。
VansNewWaveMusicFest 

インドで靴といえば、伝統的なもの以外は、長らくビジネススーツと合わせるドレスシューズかサンダルかという状況だった。
それが、ごらんの通り、ヒップホップなどの人気が高まってきたことに合わせて、スニーカーは単なる機能的な運動靴からお洒落アイテムとしての地位を獲得することになった。
ここでも、インドの経済成長と市場規模を見越したグローバル企業の戦略が働いていることは言うまでもないだろう。

フェスに酒造会社、ヒップホップにスニーカーの会社と、ここまではまあ想像の通りかもしれないが、個人的にすごく気に入っているのがコレ。
G-Shock
このブログでも紹介したDemonic Resurrectionや、先日来日公演を行ったGutslitも出演するエクストリームメタル系のフェス、Fireballの冠スポンサーは、なんと我らがカシオのG-Shock!

フェスに酒、ヒップホップにスニーカー、そしてデスメタルにG-Shock.
G-Shockの不必要なほどの頑丈さをファッションとして受け入れてもらうために選んだのがデスメタルというのがなかなかに味わい深い。
どんなに激しくモッシュしても壊れないってことだろうか。
このFireball、共演のZygnemaも2006年結成のムンバイのベテランバンドで、出演バンド数こそ少ないものの、北東部以外の実力派バンドが揃ったイベントだ。

そういえば、インドの航空会社のJet Airwaysが「シンガポールでのJudas Priestのライブのチケットが当たる!」という謎のキャンペーンをやっていたこともあった(ちなみのそのライブの前座はBabymetal)。
JudasPriestJetAirwaysSingapore
日本や欧米では邪悪で悪趣味なイメージのヘヴィーメタルが企業のキャンペーンに使われることはほとんどないが、インドではメタルもクールで先鋭的な音楽のひとつ、ということのようだ。

というわけで、今回はインドの音楽シーンと企業との関係についてざっと紹介してみました。
映画音楽に比べるとまだまだ非主流のロックやヒップホップとはいえ、これだけのサポートが各企業から得られているというのは、こうした音楽の愛好家がそれだけの経済力・購買力のある層と重なっているということの証左でもあるのだろう。

それでは!


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goshimasayama18 at 23:15|PermalinkComments(0)

2018年12月04日

ゴアトランス後のゴアの音楽シーン インドのEDM/レゲエ/ロック系フェスティバル!

前回前々回の記事で、1960年代から00年代中頃まで続いたゴアのサイケデリックな狂騒を、ヒッピー側とローカル側の双方の視点から取り上げた。
今回はその後のゴアのシーンの変遷と発展を書いてみたいと思います!

00年代のゴアは変化の10年だった。
ゴアのトランスパーティーが徐々に規制されるようになってきたのは、21世紀に入った頃からだったと記憶している。
この頃、インターネット上では「警察にパーティーが規制されて、今シーズンは全く開催できないみたい」とか「こないだのフルムーンは久しぶりにパーティーが開かれてた。完全にダメってわけでもないらしい」とか、刻々と変化するゴアの情報が飛び交っていた。
ゴアでも、ヨーロッパ同様に、野外でのフリーパーティー(いわゆるレイヴ)は年々規制が厳しくなり、きちんとした営業形態のクラブのような場所(トランスで言えば、Shiva ValleyやHilltopなど)や大規模な商業レイヴでなければパーティーが開けない時代がやってきたのだ。
良かれ悪しかれ、ゴアはもはや、外国人たちが無秩序な祝祭を楽しめる場所ではなくなってしまった。

ハードコアなパーティーフリークはゴアを去り、代わりに増えてきたのが、インドの富裕層の若者たちだった。
サラーム海上氏が著書で、「10年ぶりにゴアに行ったら、かかっている音楽は10年前と同じなのにセンスのいい欧米人はもういなくなって、騒いでいるのはインド人ばかり。ゴアはもう終わった。」(うろ覚え)といった趣旨のことを書いていたのも、この頃だ。
「ほっとけ。今までさんざん植民地扱いされてたところで、やっとインドの人たちが楽しめるようになったんだからいいじゃねえか」と思ったものだった。

インド人はとにかくダンスが好きだ。
急速な経済成長によって可処分所得が増え、インターネットの普及とグローバル化の影響で世界中の音楽に触れられるようになった新しい世代のインド人たちが、ボリウッド音楽では飽き足らずにより本格的なダンスミュージックに惹かれてゆくのは必然だった。
彼らにとって、ゴアは欧米文化の影響が強く、なにやら楽しそうなパーティーも行われている最先端のビーチリゾート。
関東近郊で例えるなら、ものすごくオシャレな湘南をイメージをしてもらえれば近い雰囲気かもしれない(よく分からんけど)。

そんな時代背景の中、2007年に、満を持してインド人の主催による大規模なダンスミュージックフェスティバルがゴアで開催された。
'Sunburn Festival'と名付けられたそのイベントの第一回目の様子がこちら。

このときの目玉はイギリスの大御所Carl CoxとSwedish House Mafiaの一員、Axwell.
新しい、そして最高に楽しい遊び場を見つけたインド人たちのこのうれしそうな様子!
トランスのレイヴでゾンビみたいに踊るヒッピーたちと比べると、このポジティブなエネルギーの発散は目を見張るものがある。
このフェスティバルのオーガナイザーは、起業家にしてEDM系のプロモーターであるShailendra Singhという人物。
第1回目のSunburnは、彼を中心に、MTV Indiaの元MCで、のちにインドで最初にして最大のEDMオーガナイザー'Submerge'を立ち上げるNikhil Chinapaと、バンガロールのDJであるRohit Barkerがホストを務める形で行われた。いずれも拡大する一方のインドEDMシーンの立役者だ。

初回の2007年の来場者は5,000人だったそうだが、回を追うごとに参加者は増加の一途をたどり、2010年には13万人が集結。
そして今ではSunburnは35万人以上を集めるアジア最大にして世界で3番目の規模(Tommorowland, Ultra Festivalに次ぐということ!)の超ビッグフェスとなった。


これまでに招聘した欧米のアーティストは、Carl Cox, Axwell(よほど気に入ったのか2007年以降毎年のように出演している)、Paul Van Dyke, Ferry Corsten, Afrojack, Paul Oakenfold, David Guetta, Tiesto, Swedish House Mafiaら。
テクノ、EDM系のアーティストに混じって、GMS, Infected Mushroom, Skazi, Domino, Riktam & Bansiらトランス系の面々が出演しているのはゴアトランスの名残と言えるだろうか。
また、地元インドのDJたちもPearl, Tuhin Mehta, Lost Storiesらが出演し、会場を盛り上げている。

Sunburn Festivalは2015年までゴアのビーチで開催されていたが、規模が大きくなりすぎたせいか、2016年からはマハーラーシュトラ州プネー(ムンバイから150kmほどの距離にある学園都市)に会場を移している。

その代わりにというわけではないが、2016年からゴアで開催されるようになったのが、レゲエ・ミュージックの祭典、Goa Sunsplashだ。

デリーのレゲエバンド、Reggae Rajahsによって始められたこの南アジア最大のレゲエフェスティバルは、今までにNaaman(フランス),  General Levy(UK), Brother Culture(UK)といったヨーロッパのレゲエ・アクトや、Johnny Osbourne, Mad Professor, Anthony Bといった本場ジャマイカのアーティストを招いて開催されている。
レゲエといえばトランスやジャムバンドと並んでヒッピーに人気の高かった音楽ジャンルだが、トランスに変わって現在のパーティーミュージックの主流となったEDMに比べると、インドでの人気はまだまだそこまでではない。
そのせいか、見たところ観客はインド人よりもヒッピー風の欧米人が多いようだが、出演者ではGereral ZoozやDJ MocityなどReggae Rajahsまわりの人脈や、Ska VengersDelhi Sultanate&Begum X、さらには地元ゴアのサウンドシステム10,000 Lions(サルデーニャ出身のPierre ObinoとReggae Rajahsのメンバーらで結成)など、インドのレゲエ・アーティストも多く見受けられる。
ちなみに2018年のプレパーティーには、日本人レゲエダンサーのCornbreadも参加していたようだ。
これはインドに限った傾向ではないと思うが、もはやレゲエがジャマイカンや黒人だけの音楽ではなく、普遍的なグッドタイム・ミュージックとして(あるいは闘争の音楽として)広く受け入れられているということの証左だろう。

ゴアでは他にもEDMやロック系のフェスが頻繁に行われており、2014年に開催されたNew Wave Musicfestというパンク/インディーロック系のフェスティバルには、日本の少年ナイフも出演している(彼女たちの様子は2:14頃から)。


かつてはヒッピーたちがサイケデリック・パーティーに興じたゴアは、いまではインドの若者たちが集う、インドで最もクールなフェスが数多く行われる街となった。
経済成長とそれにともなうサブカルチャーの発展によって、インドはゴアをヒッピーたちの植民地から取り戻した、と言ったら愛国的に過ぎるだろうか。

集まる人々こそ欧米のヒッピーからインドの音楽好きの若者たちに変わったが、ゴアはあいかわらず最高にゴキゲンな音楽を楽しむことができるリゾート地であり続けている。
これからこの街でどんな音楽文化が育まれてゆくのだろう。
もちろん、ゴアは排他的な街ではないのだから、我々外国人ツーリストも、その様子を一緒に楽しむことができる。
そのときは、地元への敬意も忘れずにね。


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2018年11月24日

サイケデリック・リゾート ゴアの表と裏(その1)

インドのゴアといえば、20世紀のサイケデリック文化に多大な影響を与えたインドの港町。
60年代から欧米のヒッピーたちのデスティネーションとして人気を集め、90年代にはゴア・トランスという独特のダンスミュージックを生み出した、サイケデリックムーブメントの聖地ともいえる土地だ。
Goa_in_India_(disputed_hatched)

今回は、欧米の音楽シーンと地元の人々の双方から見たゴアのサイケデリックカルチャー史を見てゆきたいと思います!

話は大航海時代にさかのぼる。
インド西部の港町ゴアは、16世紀前半にポルトガル人によって征服されると、ポルトガルのアジア貿易の拠点として発展し、17世紀には「東洋のローマ」と呼ばれるほどの栄華を誇った。
その後もインドに併合される1961年まで、ゴアはポルトガル領としての歴史を重ねてきた。
ここ日本にキリスト教を伝えたフランシスコ・ザビエルの遺体が安置されているのもこの街の教会だ。
ゴアでは今でも人口の30%ほどがクリスチャン(カトリック)で、街には植民地風の教会や、ヨーロッパ風のサービスを提供するホテルやレストランが並んでいる。
温暖で美しいビーチがあり、欧米人にも過ごしやすい環境が整ったゴアは、欧米のツーリスト達がもっとも心地よく過ごせるインドの街になった。

ここで話の舞台は1960年代のアメリカに移る。
ベトナム戦争が激化すると、欧米では若者たちによる反戦運動が巻き起こった。
おりしもビートルズを始めとするロックミュージックが人気を集め、またLSDのような幻覚作用がある新しいドラッグが台頭してきた時代。
若者たちは、戦争に反対して愛と平和と自由を訴え、その象徴的行為として幻惑的なサウンドのロックを聴きながらドラッグに耽溺するようになる。彼らはヒッピーと呼ばれた。
ヒッピームーヴメントが頂点に達したのが1969年にニューヨーク州で開催されたウッドストックフェスティバルだ。主催者側の予想を大きく上回る40万人もの若者が集まり、会場はコントロールが効かない完全な無政府状態と化したが、大きな混乱も起きず、観衆は助け合いながらロックと自由を謳歌した。
ウッドストックは反体制文化の理想郷となり、ヒッピームーブメントが頂点を迎えた瞬間だ。
ヒッピームーブメントをものすごく簡単に言うと、平和思想とロックとドラッグ文化が融合したものと言えるだろう。

この時代、ドラッグ同様に彼らの「知覚を広げ、意識を覚醒させる」手段として人気を集めたのがヨガやインド思想だ。
ビートルズがヨガ行者マハリシ・マヘシュ・ヨギに傾倒し、インド北部の街リシケシュを訪れたのもこの頃だ。

多くの若者たちが、物質文明にまみれた欧米社会からドロップアウトし、輪廻転生やヨガといった精神文化の生きる神秘の地、インドを目指した。
夏の間はリシケシュやマナリというヒマラヤのふもとの街で過ごしたヒッピーたちが、冬になると集まった街がゴアだった。
温暖な気候でヨーロッパ文化が根づいたゴアは過ごしやすく、ヒッピーの溜まり場に最適な環境だった。
薄汚れた長髪の欧米の若者達は、安宿に長逗留してはゴアのビーチでマリファナとパーティーに耽った。
日本のバックパッカーの間では、一つの街にどっぷりとはまってしまい抜け出せなくなってしまうことを「沈没」というが、ゴアのヒッピーたちこそ、近代バックパッカー史で最初の沈没者たちだったかもしれない。

その後、発祥の地アメリカでのヒッピームーヴメントは長くは続かなかった。
ジョン・レノンは早々にマハリシに幻滅し(理由は諸説ある)、彼を批判する楽曲'Sexy Sadie'を発表した。
ウッドストックの4ヶ月後にローリング・ストーンズがオルタモントで開催したフリーコンサートでは警備を担当したヘルズエンジェルズによる殺人事件が発生し、愛と平和の理想は早くも綻びを現した。
1970年に入ると、ムーヴメントの中心を担ったジミ・ヘンドリックスとジャニス・ジョプリンが相次いでドラッグで死去し、翌年にはドアーズのジム・モリソンもこの世を去った。
残されたミュージシャン達も人気ゆえに商業主義に取り込まれ、音楽は反体制の象徴ではなく、商品として消費されるようになった。
さらに1973年のオイルショックにより社会が不況に陥ると、楽天的で理想主義的なヒッピームーヴメントは、完全に終りを告げることになる。
物質的な価値観からの脱却を訴えたムーヴメントが、経済の不況で終焉するというのはなんとも皮肉な話だった。

だがしかし、欧米から遠く離れたゴアでは、ムーヴメントは簡単には終わらなかった。
欧米社会に嫌気がさし、自由と冒険を求めた若者達は、ゴアの雰囲気を愛し、その後も次々とこの街にやってきた。
ヨーロッパ文化の影響の強いゴアは、ドロップアウトした欧米人にとって過ごしやすい街であり続けたのだ。
ビーチは心地よく、食べ物も口に合い(欧米風の料理が手軽に食べられる)、ドラッグも手に入りやすかった。
彼らが愛聴していた音楽と言えば、ピンク・フロイドのようなサイケデリック・ロック、レゲエ、そして、グレイトフル・デッドに代表されるジャム・バンドたちだった。

ところが、1990年代に入り、欧米の音楽シーンでテクノやハウスが台頭してくると、ゴアのパーティー・ミュージックも一変する。
カリフォルニア出身のGoa Gilやオーストラリア出身のRaja Ramら(名前からしてインドかぶれ丸出し!)が、サイケデリックな「曲がった音」や民族音楽的な要素をテクノに導入し、ヒッピー系トラベラーたちの熱狂的な支持を受けた。
この新たな電子的サイケデリック・ミュージックは、ゴア・トランスと呼ばれた。
彼らに続くJuno Reacor, Astral Projection, Space Tribe, Hallucinogenらの活躍により、またたく間に世界中にアンダーグラウンドなシーンが形成される。

これが当時のゴアでのパーティーの様子。

ゴアにはいくつもの美しいビーチがあるが、とくにアンジュナ・ビーチにはヒッピー系のトラベラーが多く滞在し、盛んにパーティーが行われた。
ゴアトランスのムーヴメントはその後世界中に波及。
90年代末には日本にも流入し、山間部のキャンプ場などでレイヴ(野外パーティー)が開催されるようになった。

正直に書くと、私もあのころのゴアトランス/レイヴカルチャーに魅力を感じていた一人だ。
あのころの日本のレイヴシーンは本当に純粋で、面白かった。

初めて行ったのは、愛知県の山奥で行われたDJ Jorgが出演したレイヴだった。
会場についた夕暮れの時間帯には、ロングセットで知られるJorgは穏やかなアンビエントをプレイしていた。
そこから夜の闇が濃くなるのに合わせて、物語を紡ぐように盛り上げてゆき、フルオンに持ってゆく彼のDJは本当にすばらしかった。
都会を離れて自然の中で音楽に陶酔し、夜明けまで踊ったり、疲れたら森林の中で回るミラーボールを眺めてチルアウトしたりという経験は、軽く人生観を変えるくらいのインパクトがあった。
この文化が広まれば世の中は今の何倍も素晴らしくなるのにと本気で思っていたものだ。
当時こんなふうに思っていたのは私だけではなく、オーガナイザーたちも単なるパーティー以上のものを作ろうと様々に工夫をこらしていた。
本当の意味でオルタナティヴな文化を創造するため、環境への配慮にとことんこだわったり、世界の民族音楽のアーティストを出演させたり、南米のシャーマンを招聘したレイヴもあった(そのイベントには行ってないのだけど、シャーマンは一体何をやったんだろう)。
オーディエンスたちも自然やカルチャーへの敬意を持っていて、ゴミを拾ったり持ち帰ったりしていたし、会場はピースフルな雰囲気に満ちていた。

だがしかし、楽しい時代は続かない。
その後、日本ではイベントの商業化が進み、客層も楽しんで騒ぎたいだけの人たちが増えてきて、レイヴ本来の精神は忘れられていった。
愛好家が増えるにつれ、お祭り騒ぎだけを求める人たちが増えてきたのだ。
やがてレイヴカルチャーは、新しい楽しみを見つけることに関しては天才的なギャル文化に吸収されてしまい、ドラッグの問題も報道されるようになり、すっかり反社会的なイベントというイメージで捉えられるようになる。
ゴアでも、薬物の蔓延や風紀の悪化が問題視され、当局によりレイヴの開催が厳しく制限されるようになってしまい、ゴアトランスのシーンは衰退していった。

音楽的な意味での衰退の大きな原因となったのは、日々進化するダンスミュージックのなかで、極めて形式化されたスタイルを持つゴアトランスそのものが新鮮さを失い、陳腐化、形骸化していったことだ。
かつては深淵な精神性とサイケデリアを表現していたゴアトランスのサウンドは、メッキが剥がれたかのように輝きと刺激を失っていった。
民族音楽の導入やヒンドゥーの神々を用いたアートワークは、その神秘的な魔術を失い、安っぽいエキゾチシズムの盗用と感じられるようになった。
精神の高揚をもたらした「曲がった」サウンドは、手っ取り早く盛り上げるための陳腐で安易な音作りと聴こえるようになった。
要は、ゴアトランスはダサくなったのだ。

こうして、ゴアトランスの季節は終わっていった。
トランスミュージックそのものは、その後もより大衆的なエピックトランスや、ゴアトランスをよりダークでアグレッシヴにしたサイケデリック・トランスなどに分化し、EDMが台頭するまでは大規模な商業レイヴや野外パーティーなどで一定の人気を誇った。
だがムーヴメントの精神や音楽的なクリエイティヴィティーはもはや死んでしまっていたのだ。

長くなったので今回はここまで!
次回はまた別の視点、ゴアのローカルから見たムーヴメントと、その後のゴアの音楽シーンを紹介します。
(続き)


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2018年11月02日

日本人アーティストのインド公演情報(DJ Nobu)!デカン高原から宮殿までインドのフェス事情


日本のテクノDJであるDJ NOBUが11月10日にムンバイで開催されるFar Out Left Electronic Music Festivalに出演する。
faroutleftmumbai
このイベントはニューヨークのAurora Halal、DAUWDら海外のアーティストも多数出演するテクノ系のフェスティバル。
DJ Nobuはヨーロッパをはじめ海外でのプレイ経験も豊富なテクノDJで、つい先日も中国でのイベントに出演してきたばかり。
このフェスの会場はGreat Eastern Homeという英国植民地時代の雰囲気を色濃く残す高級家具ギャラリーだそうで、どんなイベントになるのかかなり興味がある。
Boiler Roomのアーカイブから、DJ Nobuの韓国ソウルでのDJセットを紹介します。


日本人アーティストのインド公演としては、今年に入ってから、8月にはWata Igarashi(五十嵐渉)が、9月にはDaisuke Tanabe(ともにダンス/エレクトロニカ系のアーティスト)がニューデリー、ムンバイ、バンガロールなどの都市を回るツアーを行ったばかり。
Daisuke Tanabeに関しては、2016年にもラージャスタン州のダンス系フェスティバルMagnetic FIeldへの出演を含むインドツアーを成功させており、さらにはインドの新興レーベルKnowmad Recordsからのリリースも行っている。

また、ロックバンドでは、2014年にはあの少年ナイフがゴアで行われたVans New Wave Music Festというパンク/インディーズ系のフェスに出演しており、デスメタルバンドではDefiledが2015年に、兀突骨(Gotsu-Totsu Kotsu)が2017年にそれぞれインドツアーを敢行していて、何度も書いていることだが、コアなジャンルの音楽のボーダレス化は、インドにも確実に及んでいることが感じられる。

インドで公演した日本人アーティストの共通点をあえて探すとしたら、もとから国内だけでなく世界を舞台に活動している(そして高い評価を得ている)アーティストであるということ。
つまり、もはやインドで演奏するということは特別なことではなく、世界的に活躍しているミュージシャンにしてみたら、欧米ツアーをするのと同じように、普通にインドでパフォーマンスを行う時代になったということだ。

それにしても、五十嵐渉、Daisuke Tanabe、DJ Nobuという人選をしたインドのオーガナイザーたちの慧眼ぶりはどういうことなんだろう。
日本からmonoが出演したZiro Festival然り、インドのフェスが招聘する海外アーティストのユニークさやセンスの良さにはいつも驚かされっぱなしだ。

例えば、10月27〜28日にバンガロール郊外でAsian Dub Foundationをヘッドライナーに行われた The Beantown Backyard Festival.
バンガロールのイベントADFから中国まで
 UKインディアンのADFはともかくとして、他の海外アーティストの無名&個性的っぷりったらない。
果たして全員知っているって人はいるだろうか?

漢字がひときわ目をひく中国・内モンゴル出身のTulegurは口琴やギターを使ってモダンなフォークミュージックを演奏するアーティスト。


[dunkelbunt]はオーストリアのバルカンビート/ジャズ/レゲエ/ダブバンド(なんだかもうわからない)。


イスラエルのMalabi Tropicalはまさかのスペイン語で歌うラテンバンド。


Ms.Mohammedはトリニダード・トバゴ出身の女性アーティストだが、以前紹介したようにトリニダードはインド系住民が多い国なので、もともとのルーツはインド系なのかもしれない。


デカン高原の自然の中で行われる会場の雰囲気も素晴らしく、ぜひ一度足を伸ばしてみたいフェスのひとつだ。

2つのステージで30を超えるアーティスト、20を超える屋台、20種類以上のビール、早朝のヨガセッションに熱気球などのアクティビティーと非常に充実した内容で、チケットは1,279ルピー(約2,000円)から8,960ルピー(約15,000円)とのこと。行きたい!

Daisuke Tanabeが出演していたMagnetic Fieldは砂漠の州ラージャスタンで行われるダンス系のアーティストを中心としたフェスティバルで、17世紀に建てられた宮殿Alsisar Mahalを会場にして行われる。
昨年は海外からBen UFOやFour Tetらのビッグネームを招聘し、インドからは痛烈な社会批判で知られるBFR Soundsystemらが出演。

ラージャスタンならではの会場の様子が素晴らしい!
こちらはテント持参で1名12,000ルピー(約19,000円)のチケットから、ツインルームの宿泊付きで2名で92,000ルピー(約14万円!)までとかなり強気の価格設定だが、それでもほとんどのプランがソールドアウトになっているようだ。
インドの新しい富裕層の最新かつ最高に贅沢な遊び場ということなのだろうね。

インドのフェスは本当に素晴らしい雰囲気のものが多く、まだまだ紹介したいのだけれども、今日のところはこのへんで!



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2018年09月06日

インドで最大のロックフェス!NH7 Weekender!

先日、あまりにも面白いネタだったので、インド辺境の超通好みなフェス、Ziro Festivalを紹介してしまったが、よく考えたらいきなりダモ鈴木が出演する山奥のフェスティバルを取り上げるより先に、これがインドの盛り上がってる大規模都市型フェスですよ、っていうのを紹介するべきだった。

というわけで、今回はインドの大都市を巡って開催される大型フェス、NH7 Weekenderを紹介します。
このNH7 Weekenderは、イベントプロモーターOnly Much Louder の代表、Vijay Nairがイギリスのグラストンベリーのような音楽イベントをインドでも開催したいと思ったことがきっかけで始まったフェスティバル。
第1回目は2010年にマハーラーシュトラ州プネーで開催され、そのときからグローバル洋酒企業のBacardiが冠スポンサーとなってサポートしている。
マハーラーシュトラ州はインド最大の都市ムンバイを擁する州で、プネーはムンバイから車や鉄道で4時間弱の距離にある学園都市。
学生や若者が多く、独自の音楽シーンもあるこの街は、インドでフェスを行うのにぴったりの場所だろう。
第1回は37組のアーティストが出演し、海外からはイギリスのポップロックバンドThe Magic NumbersとUKインディアンによるAsian Dub Fundation(フジロックでもおなじみ)が参加した。
その時の様子がこちら。

ちょっと戸惑いながらも盛り上がるオーディエンスが微笑ましい。

その後、毎年の開催ごとに規模を拡大してゆき、プネー以外にもデリー(郊外のノイダ)、バンガロール、コルカタ、シロンなどでも開催されるようになった。
インドを代表する都市に加え、ここでも何度もこのブログで紹介している独自の文化を持った「インド北東部」メガラヤ州の州都シロンが入っていることに、北東部の音楽カルチャーの強さをあらためて感じる。

これまでに参加した海外のアーティストは、主なものだけでMark Ronson、Mutemath、Flying Lotus、Mogwai、Basement Jaxx、Imogen Heap、Steve Vai、Megadethなど。
ジャンルも年代も非常に多様性に富んだ顔ぶれだ。
いわゆるワールドミュージック的なジャンルからも、Wailers、Rodrigo y Gabriela、Seun Kutiなどのツボを押さえたアーティストを招聘しており、さらにはTalvin SinghやTrilok Gurtu、Karsh Kaleといった海外のシーンでも活躍しているインド系アーティストも多数出演している。
もちろん、出演者の大半を占めるのはインドのアーティストで、このブログで今まで紹介してきた中でも、Su RealDemonic RessurectionBlackstratbluesReggae RajahsSka VengersAgamSandunesTejasRhythm ShawDivineParekh and SinghAditi Rameshら、多くの実力派アーティストたちがパフォーマンスした。
2017年にはコメディアンが出演するステージも設けられ、Kunal Raoも出演したようだ。

最近のフェスの様子はこんな感じ。

規模もぐっと大きくなって、オーディエンスの盛り上がりっぷりも板についてきた。

メガラヤ州シロンでは、同じイベントでも大きく雰囲気を変えて、自然の中でのビッグフェスとなる。

これ、インド版のフジロックだなあ!行きたい。。。

この様子を見る限り、インドの音楽シーンはいつまでたっても映画音楽の一強だとか言われているけれど、インディーズシーンも十分に盛り上がってるじゃないですか。
これはおそらく、日本で洋楽聴いている人があんまりいないとはいってもフジロックやサマソニのような洋楽系フェスには大勢人が集まる、みたいなのと似ている状況なんじゃないだろうか。

そう考えてみると、ドメスティックな商業的音楽シーンがメインストリームでありながらも、サブカル的シーンにも根強いファンがいる日本とインドの音楽シーンって、結構似ているような気もする。

インドにはまだまだ素晴らしいフェスティバルがたくさんあるので、また改めて紹介します!
それでは!

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goshimasayama18 at 00:35|PermalinkComments(0)

2018年08月20日

日本や海外のアーティストも出演!Ziro Festival!

夏といえば、日本の音楽好きにとってはなんといってもフェスティバルのシーズン。
ご存知の通り、フジロック、サマソニ、ロックインジャパン、ライジングサンなどの大きいものから、地方色の強いかなり小規模なものまで、あらゆるフェスが毎週のように行われている。
海外でも、それぞれフジロックやサマソニの原型になったとされるイギリスのグラストンベリーやレディング/リーズなどは毎年夏に開催されているし、暑い時期に(今年はちょっと暑すぎだけど)外で音楽を聴く気持ちよさは万国共通ってことなんだろう。

さて、インドに音楽フェスがあるのかと聞かれたなら、答えはYes.
インドの大都市をツアーするロックフェスNH7 Weekenderや、リゾート地ゴアで行われるEDMのSunburn Festivalなど、かなり規模の大きいものがいくつもの都市でたくさん行われている。
大都市以外でも、独特の文化を持つ北東部(7 Sisters States)はフェス文化が盛んだし、砂漠が広がるラージャスタン州でも地域色の強い音楽フェスが開催されている。
これらのフェスにはインドの音楽ソフトの売り上げの大部分を占める映画音楽のシンガーは参加しておらず、海外のアーティストやこのブログで紹介しているようなインディーミュージシャンのみが出演しているのだが(ひと昔前まで日本のフェスにアイドル系が出なかったようなものだろう)、それでも多くのイベントが万単位の観客を集めており、インドの音楽カルチャーの成長ぶりが分かろうというものだ。
また、デリーではジャズの、ムンバイではブルースのフェスなどもあり、インドのフェス文化は我々が思っている以上に成熟している。

そんな中で、今回紹介するのは、インド北東部アルナーチャル・プラデーシュ州で毎年開催されているZiro Festival of Music.
これだけ多くのフェスが開催されるインドにおいて、最高とも究極とも評価されているフェスティバルだ。
まずは、アルナーチャル・プラデーシュ州の場所をおさらいしてみましょう。
arunachalmap
西をブータン、北を中国、東をミャンマーと接するインド北東部で最も北に位置するのがこのアルナーチャル・プラデーシュ州で、今回紹介するフェスの舞台となる村、Ziro Valleyはこんな感じのところだ。

zirofeature2
出典:https://www.beyondindiatravels.com/blog/ziro-town-travel-guide/より引用)

山あいのなんとものどかな農村地帯。
緑豊かな日本を思わせる風景は、インドでは北東部独特のものと言える。

apatani
(出典:http://www.dailymail.co.uk/news/article-3164012/The-worst-place-world-catch-cold-Indian-tribe-woman-nose-plugs-fitted-mark-adults.htmlより引用)

Ziro Valleyは少数民族「アパタニ」の人々が暮らす土地としても知られている。
アパタニの女性達は、美しさゆえに他の部族にさらわれてしまうことを防ぐために、あえて醜くするために「ノーズプラグ」を嵌める習慣があった(今ではお年寄りのみしかしていないようだが)。
なんだか凄いところでしょう。

このZiro Valley、行くまでが大変で、飛行機で行けるのはお隣アッサム州の州都グワハティまで。
そこから鉄道に7時間40分揺られると、アルナーチャル・プラデーシュ州のヒマラヤのふもとの町、Naharlagunに到着する。
そこからジープで山道を3時間半かけて、ようやくフェスの会場であるZiro Valleyに到着することができる(とwikipediaには書かれているが、実際にはもっと近くの空港を利用する方法もあるようだ)。
その前に、3カ国と国境を接したアルナーチャル・プラデーシュ州に行くためにはinner line permmitという特別な許可を得ることも必要だ。

そこまでして行く価値があるのかどうか、と思う向きも多いと思うが、映像を見れば、究極の大自然型フェス、Ziro Festivalの良さが必ず分かってもらえるはずだ。

まずはZiro Festival of Music 2018のプロモーション動画


2015年のフェスをまとめた動画


こちらは2017年のフェスの様子のドキュメンタリー


ね?行きたくなったでしょう。
単なる野外コンサートではなく、大自然の中の会場の雰囲気や地元の文化を含めて、そこでの体験全てが特別なものになるようなフェスティバルだということがお分かりいただけると思う。
自然の中のピースフルな雰囲気は、日本のフェスだとちょっと朝霧jamに似ていると言えるかもしれない。

主催者によると、4日間にわたり、2つのステージに40組のアーティストが出演し、6000人の観客を集めるという。
来場者はキャンプサイトのテントに泊まりながら、24時間フェスの環境を楽しむことができ、フェスの音楽だけでなく、この地域の文化や自然が楽しめるプログラムも用意されているようだ。
この酔狂の極みとも言える究極の辺境系フェスの主催者は、地元アルナーチャルのプロモーターBobby HanoとデリーのベテランインディーロックバンドMenwhopauseのメンバー。
2012年から国内外のアーティストを招聘してこのZiro Festival of Musicを開催しており、今ではインド随一のフェスとの評価を得ることも多くなっている。

出演者のラインナップはインド各地のインディーミュージシャンが中心だが、ロック、ラップ、レゲエなどのジャンルを問わず優れたアーティストが名を連ねている。
シーンの大御所もいれば、まだ無名ながらも先鋭的な音楽をプレイしているバンド、はたまた伝統音楽や民謡の歌手やプレイヤーまで、非常に多岐にわたるのが特長だ。
海外から招聘するアーティストもセンスが良く、いままでSonic YouthのLee Ranald and Steve Shelley、元Canのダモ鈴木らが出演している。
(ダモ鈴木については、ジャーマンロックバンドCanに在籍していた奇人ヴォーカリストというくらいの知識しかなかったのだが、改めて調べてみたら今更ながらすごく面白かった。 wikipediaの記載が充実しているので興味のある方は是非ご一読を)

今年は9月27日〜30日までの4日間にわたって開催され、先ごろ出演アーティスト第一弾が発表された。
ziro2018

なんと、日本のポストロックバンドのmonoがヘッドライナーとして出演することが発表された。
monoについてよく知らない人もいるかもしれないが、日本より海外での評価の高いバンドで、その活動についてはこちらのサイトに詳しい。

いくら海外でも人気とはいっても、インドでも知られてるの?と正直私もちょっと疑問に思っていたのだが、以前このサイトでもインタビューさせてもらったアルナーチャル在住のデスメタルバンドのメンバーは「畜生!あのmonoが地元に来るのにその時ケララに行ってて見れないんだ!なんてこった!」というコメントをしていたので、インドでもコアなロック好きの間では評価が高いようだ。
他の国外アーティストは、Madou Sidiki Diabateはマリのコラ奏者、MALOXはイスラエルのエクスペリメンタルなジャズ/ファンクバンド。


極上のナチュラル・チルアウトからスリリングなジャムまで、よくもまあ世界中の面白いアーティストを探してくるものだ。

インド国内のアーティストも、Prabh Deepのような今をときめくラッパーから、まだまだ無名だが面白い音楽性のバンド、伝統音楽のミュージシャンまで、インディーズシーンを網羅したラインナップだ。

なかでも、インド北東部からは、7sisters statesのうちトリプラ州を除く6つの州から1バンドずつが出演する充実ぶり。
ウエストベンガル州カリンポン出身の伝統音楽アーティストGauley Bhaiも北東部に極めて近いエリアの出身であることを考えると、さながら伝統音楽から現代音楽まで、北東部の音楽カルチャーの見本市のようなフェスでもあるというわけだ。
彼らの中でとくに興味深いアーティストをいくつか見てみると、こんな感じ。

アッサム州グワハティ出身のONE OK ROCKならぬWINE O'CLOCKはシンセ・ファンクとでも呼べばいいのか、なんとも形容不能なバンド。


メガラヤ州のBlue Temptationは外で聴いたら絶対に気持ちよさそうなレニー・クラヴィッツみたいなアメリカン・ロック。
 

ミゾラム州のAvora Recordsはオシャレなポップロック。
北東部なので顔立ちやファッションが日本人そっくりな女の子が出てくるので、聴いているうちにどこの国の音楽か分からなくなってくる。


いずれもインドらしからぬサウンドを鳴らしているバンドだが、ここに各地の伝統音楽のミュージシャンや海外のバンドたちが彩りを加えるというわけだ。
ヒッピー系ジャムバンドやEDMのようなフェスにつきもののジャンルをあえて呼ばず、面白さや多様性を重視したラインナップに主催者の心意気を感じる。

このZiro Festival、参加者した人の声を聞いても、時代や地理的な差異を超えてユニークなアーティストを大自然の中で聴ける、天国のようなフェスであるとのこと。
いつか行ってみたいんだよなあ。
どなたか行ったことがある方がいたらぜひ話を聴かせてください。

それでは今日はこのへんで! 


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2018年07月02日

Tomorrowlandに出演するインド人EDMアーティスト! Lost StoriesとZaeden!

7月にベルギーで行われる世界最大のEDMフェスティヴァル、Tomorrowland.
今回は、世界一チケットが取りにくいとも言われるこのフェスへの出演経験のあるインド人アーティストを紹介します。

そのうちの一組はLost Stories.

2015年以来、Tommorowlandへの出演を重ねている彼らはムンバイ出身のPrayag MehtaとRishab Joshiの2人組で、2009年にキャリアを開始してすぐにオランダの超有名DJ、TiëstoのレーベルBlack Hole Recordingsからシングル"False Promises"をリリースしている。
これがその曲。

今聴くと少し古さを感じる楽曲だが(プログレッシブ・トランス?)、なによりもまずインドらしさが全くないことに驚かされる。この曲は、インド人アーティストによる初の国際的な評価を受けたダンスミュージックとしてエポックメイキングなものだったとのこと。
要所要所で聞かれるきらびやかな旋律は、むしろレーベルの故郷であるオランダ色を感じさせるものだ。

古くは60年代Ravi  Shankar、90年代以降もバングラ・ビートの一時的なブームやA.R.Rahmanなど、インドの音楽が世界的な評価を得ることはたびたびあった。
でもそのいずれもが、「インドらしさ」を特徴とした、西洋から見るとエキゾ趣味的なものであったことは否めない。
ところが彼の音楽は、音だけを聴いていたらヨーロッパのアーティストだとしか思えないサウンドだ。
インドでもついにこういう音が作られるようになったかと思うと、うれしいようなさみしいような複雑な気持ちになる(とはいえ、その後もインド国内でインド要素盛りだくさんの面白い音楽が多く作られていることはいつも紹介している通り)。

他の曲は例えばこんな感じ。
"How You Like Me Now"

この曲に関して言えば、ビデオを見続けているとだんだん何がかっこよくて何がかっこ悪いのか、よく分からなくなってくる。
たぶん80年代のB級SFがモチーフなんだと思うが、この微妙な感じを遊び心やダサかっこ良さとして前向きに捉えて良いものなんだろうか。クラブミュージックに詳しい人教えて。

最近の曲では、ブラジル的なリズム?なんかも取り入れてきて、あいかわらずのインド離れっぷり。
"Spread the Fire"

いかに無国籍なサウンドで勝負してきたとはいえ、ダンスミュージックの世界では、ときにインド出身であるということは「売り」にもなる。
イスラエル人とベルギー人によるユニット、Jetfireとの共演曲では満を持してのインド要素炸裂!
その名も"India"!

90年代にアンダーグラウンドなレイヴシーンを席巻した、インド要素をサイケ風味の一部として取り入れていたゴアトランスの現代版といったところだろうか。
まあとにかく、彼の音楽性はインドのインディーミュージックの文脈で捉えるだけでは不十分で、多国籍かつ無国籍な享楽電子音楽の中の一アーティストとして評価するべきものなんだろう。
国籍やバックグラウンドにとらわれずに、単純に心地よいダンスミュージックとして消費するのがこういう音楽の本来の聴き方なのだと思う。

Tomorrowlandへの出演経験があるもう一人のインド人アーティストはZaeden.
彼はデリー近郊の成長著しい都市、グルガオン出身のDJで、なんと1995年出身の22歳という若さ!
幼い頃からタブラとピアノを習い、14歳からDJを始めたという、まさに新しい世代のインド人ミュージシャンだ。
彼もまた本場オランダのEDM系レーベル、Spinnin' Recordsと契約を結んでおり、早くも2015年にはTommorowlandへの出演を果たしている。 

ヴォーカリストをフィーチャーした曲や、コラボレーションやリミックスでの仕事が多く、この曲はアメリカ出身の人気DJ、Borgeousとの共作。
"Yesterday"


Coldplayの"Magic"のリミックス。


Cimo Frankelなるオランダ人シンガーとの共演"City of the Lonely Hearts"
アゲすぎないディープ・ハウス的とも言える音楽性にまたインドらしからぬものを感じる。


Ankit Tiwariというインド人シンガーの曲のプロデュース、"Tere Jaane Se"

ヒンディー語のタイトルを含めて、オールインディア体制でこういう音楽を作るようになったかと思うと、90年代からインドを知っている身としてはとても感慨深い。

今後、インドらしさという武器なしで、国際的なマーケットで評価を受けるこうした新世代のアーティストは今後ますます増えてくるだろう。
 
この規模のイベントががんがんに盛り上がっているところを見ると、インドのEDMシーン、まだまだ勢いを増していきそうな予感。
彼らが今後もこのままの路線で世界的な評価を高めて行くのか、どこかでルーツに戻ってインド的な要素を取り入れて行くのか、これからも注目していきたいと思います! 

goshimasayama18 at 22:34|PermalinkComments(0)

2018年03月03日

音楽フェス化するホーリー

日本でもちょくちょく面白ニュース扱いで報道されているが、この時期、インド全土でホーリーっていう祭が行われている。
これがまたふざけた祭りで、どんなお祭りか っていうと、色のついた粉や水をひたすらぶっかけ合うっていうシロモノで、昔から観光ガイドやなんかには、この時期は外国人は出歩かないほうがいいよ(珍しがられて標的にされるから)なんてことが書かれていたもんである。

インドを旅していたのはずいぶん昔のことなので、このホーリー、なんとなく下町とか田舎のほうで盛んに行われているようなイメージでいたのだけれども、今ではすっかり様変わりし、DJやバンドが出演する、いわゆるパリピ的な人が集まる大規模なパーティーが大都市でいくつも開催されるようになった。

その模様はこんな感じ。

Holi-Festival-750x453
 
ほんとうにたくさん開催されていて、挙げていくときりがないのだが、いくつかのチラシを載せるとこんな感じで、すっかり音楽フェスといった雰囲気になっている。
 
ニューデリーのUnite Holi Music Festival.
Uniteholimusicfestivalnewdelhi

こっちはジャイプルのHoli Music Festival.
 holimusicfestivaljaipur

ムンバイのHoli Bash.
Holibashmumbai

ニューデリーのHoli Madness.
Holimadnesnewdelhi

このHoli Mooフェスティバルは、ラッパーのPrabh Deepを怒らせてキャンセルされたっていういわくつき。
holimoo
32

名前を間違えて印刷されたうえに、「2年間このフェスに出られたおかげでビッグになれたって言ってるけどタダで出てやったのに何言ってんの?失せろ、このマヌケクソ野郎。出演者のみんな、ギャラは前払いにしてもらったほうがいいぜ、まともに払ってもらえないからな」とのこと。

各フェスの模様は映像で見るとこんな感じ。




田舎っぽい伝統行事だったホーリーがこの様変わり。
調べてみたら、お前気づくの遅いよって言われそうだけど、アメリカ、イギリス、ニュージーランド、南アフリカとか世界中でホーリーにインスパイアされたこの手のイベントが行われていて、インド系のみならず相当盛り上がってるみたい。

日本でも横浜とかインド系の多い葛西ではホーリーが行われているようだが、この手の大規模なフェス的なやつもそのうち入ってくるんだろうか。
会場貸してくれるとこあんまりなさそうだけど、これくらいアホになれるお祭りがあっても良いようには思うけどね。 

goshimasayama18 at 23:56|PermalinkComments(0)