インドのR&B

2022年09月09日

いまひとつインド国内で人気のない今風かつ欧米風のポップス・アーティストたち



そんなに意識しているわけではないのだけど、考えてみるとこのブログで取り上げる音楽にはだいたい3パターンくらいあって、
  1. インドのインディペンデント・シーンで人気があるアーティスト
  2. いかにもインドらしいサウンドや社会的背景のあるアーティスト
  3. インドらしからぬ欧米的なサウンドや感性を持ったアーティスト
という分類ができそうだ。
取り上げる対象がこの分類のどれかひとつにしか当てはまらないケースは少なくて、ほとんどの場合、この3つがユニークな形で組み合わさっている。
とくに記事にしやすいのが1と2の混合タイプで、人気があるアーティストであれば、媒体で取り上げられる回数も多いのでネタを集めやすいし、そこにインドならではの要素が入っていればさらに紹介する価値がある、というわけだ。
ヒップホップにしろロックにしろ電子音楽にしろ、欧米で生まれたカルチャーがインドでどう需要・解釈され、実践されているかというテーマは、インドのアーティストが奏でているサウンドと同じくらい刺激的で面白い。

で、問題は3だ。
最近のインドでは、洗練された欧米風ポップスを奏でるインディーズ・アーティストは本当に多い。
ブログを始めた2017年頃はいちいち「インドにもこんなアーティストがいた!」と記事にしていたものだが、今ではそのあまりの多さに、感動のハードルが大幅に上がってしまっている。
その結果、ブログのネタ帳には、ひたすら3のタイプのアーティストが溜まっていってしまうのである。

インドのリスナーはいまだに映画音楽をはじめとするドメスティックなサウンドを好む傾向が強い。
こうしたアーティストのほとんどが、ごく一部の音楽ファンに評価されるのみで、成功とは程遠い状況にいる。
つまり、彼らは音楽的にはなかなか質が高いのだけど、音以外、記事にするようなネタがほとんどないのだ。
今回は、そんな不憫な、しかしサウンド面ではけっこういい線行ってるアーティストたちをまとめて紹介したい。
まずは、EDMアーティストのShivam Bhatia.


Shivam Bhatia "God In Our Eyes"


今となっては古典的にすら感じられるポップ系EDMサウンドに乗せて、ものすごく直接的にドラッグのことを歌った曲。
歌っているのはSarah Solsticeなる白人女性シンガーで、おそらくはインターネットを介したコラボレーションと思われるが、インド国内のソングライターと欧米のシンガーの共演は、最近ちょくちょく見かける組み合わせだ。
この曲はYouTubeで12万回近く再生されている。
Shivam Bhatiaについて調べてみると、他にSpotifyで90万回以上再生されている曲もあるので、彼のことを無名アーティスト扱いするのはちょっと失礼かもしれないが、このサウンドの無個性さが一層の泡沫感(≒バブルガム・ポップ感)を掻き立てる。
印DM(勝手に命名したインド風EDM)っぽい路線に転向したりすると面白いと思うが、さて、今後どうなるだろう。


Chrmng, x milo, "DOSHTI"


続いての人たちも詳細不明。
Chrming,(カンマまでがアーティスト名)という人とmilo.という人(こちらもたぶんピリオドまでがアーティスト名)のコラボレーションで、全く情報がないのだけど、見た目的におそらくインド北東部の人だろうか。
Chrming,のインスタのアカウント名にバングラデシュの国旗があったので、バングラデシュのアーティストかもしれない。

インドのウェブメディアで国内アーティストと並んで紹介されていたので、おそらくはインドか、少なくとも南アジアとは関連がある人のはずだが、映像監督は韓国の人のようで、よく分からない。
8月27日に公開されたこのミュージックビデオの再生回数はまだ1,000回未満。
YouTubeのクレジットを見ると、撮影監督はエド・シーランで、主演女優はエマ・ワトソンとのこと。
ふざけてんのか。
サウンド的にはアコースティックギターを取り入れたメロウなポップスで、これまたどこかで聴いたことがありそうなスタイルだ。
ここまで無個性な音楽をやってるのだから、せめて誰がやってるのかくらいはっきりさせようぜ、と思わなくもないが、ヴェイパーウェイヴみたいな匿名的なコンセプチュアル・アートなのか。
謎が多い。


次のアーティストは正体がはっきりしている。
ハイデラバードの女性シンガー、PeekayことPranati Khannaが、ムンバイを拠点に活動しているAndrea Tariangと共演したこの"Sunshine On The Street"は、ソウルフルなヴォーカルが印象的なポップソング。

Peekay & Andrea Tariang "Sunshine On The Street"


昼下がりのカフェやFMラジオに映えそうなさわやかな音楽。
今年2月に発表されたこの曲の再生回数は7万回くらいとそれなりだが、インドの人口の多さを考えると、ヒット曲と呼ぶにはちょっと無理がある。
ちなみにAndrea Tariangは、メガラヤ州出身のベテラン・ブルースロック・バンドSoulmateのギタリストの娘だそう。



Unluv "Tera Jadoo"


メロウかつダンサブルな音楽を奏でるUnluvは、やはり情報が少ないアーティストで、インドを拠点に活動しているが、もしかしたらネパール系?のようでもある。
(彼の場合もインスタグラムにネパール国旗と「今はインドを拠点に活動」の記述があった)
この洋楽っぽい音楽性でヒンディー語詞というのは珍しい(部分的に英語)。
公開5ヶ月でYouTubeの再生回数は19,000回ほど。
インドでは英語詞の曲に比べてヒンディーなど現地語の曲のほうが人気が高い傾向があるが、それを考えるともっと評価されても良い曲なのだが。


最後に紹介するのはロック。
ムンバイ在住、弱冠20歳のDev Makes Musicが演奏するのは、ひねくれてないティーン向けっぽい、極めてポップなロックだ。

Dev Makes Music "Concert Tickets"


ところで、冒頭のシーンで左腕の内側に見えるのは、リストカットの跡?タトゥー?
曲を聞く限りは爽快でポップなロックで、ダークな要素はどこにも見当たらないのだけど。
ふと思い出したのが、以前同様の趣旨で書いた記事で取り上げたAnimeshのことで、彼の"Pressure on It"のジャケット(というか今ではサムネイルというべきか)にもリストカットをした腕が描かれていた。
一時停止して見ると、Devの場合はタトゥーでもリストカットでもなさそうで、なんだかよく分からない。



というわけで、やっぱり全体的によく分からない記事になってしまった。
今回書いた彼らの場合、そもそも人気アーティストではないので、インド国内で紹介されている記事なども見当たらず、SNSでの発信がインスタの画像ばっかりだったりすると、ほとんど書ける内容がないのだ。


率直に言って、今回紹介したアーティストたちの音楽は、ポップミュージックとしてのクオリティこそそれなりに高いものの、オリジナリティには欠けているとしか言いようがない。
知名度もそんなになさそうだし、セールスの面で楽観できるアーティストは一人もいないだろう。
だが、それでも、というか、だからこそ、欧米ポップス的目線で見るとバブルガムでコマーシャルな音楽を、彼らは本気で愛して演奏しているに違いない。

今回は全体的にちょっとナメた感じで書いてしまったが、彼らがもうちょっとたくさんの人に聴かれて「けっこういいじゃん」くらいの評価を得てもいいように思う。
実際、けっこういいと思うし。
また折を見てこのタイプのミュージシャンについても書いてみたい。
なにしろたくさんいるから。





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2022年01月20日

Rolling Stone Indiaが選んだ2021年ベストミュージックビデオ10選!

毎年恒例のRolling Stone Indiaが選んだ年間ベスト10シリーズ。
ベストシングル、ベストアルバムに続いて、今回は、ベストミュージックビデオを紹介します!



シングル部門では小洒落たサウンドを追求し、アルバム部門ではトレンドに関係なく優れたサウンド(70's風ギターインストからデスメタルまで)を評価していたこのランキング、ミュージックビデオ部門となるとまた別の傾向が見えてくるから面白い。
ますます隆盛するインドのインディペンデント音楽シーンの勢いが感じられる映像作品が揃っている。
それではさっそく!



1. Aditi Ramesh "Shakti"


1位に選ばれたのは、ムンバイのR&Bシンガー、Aditi Rameshが年の瀬12月にリリースした"Shakti"(「力」という意味).
彼女はインドの女性が社会で直面する困難をテーマとした曲をこれまでも数多くリリースしていて、この"Shakti"でもそうした姿勢は一貫している。
歌詞の中には「3月8日(国際女性デー)にだけ女性に注目する企業にはウンザリ」とか「自分らしく生きたいだけなのに、何をしても細かく詮索される」なんてフレーズもあり、インドのみならず共感できる女性も多いんじゃないだろうか。
Aditiはミュージックビデオの中で、女子高生からサリー姿、OL風、カジュアルまであらゆる女性を演じながら、女性が思うままに好きなように生きることを歌う。
こうした内容は、以前紹介した" Marriageable Age"とも共通したものだが、サウンド的にはインド的な要素がさらに取り入れられ、よりオリジナルなものになっている。


古典音楽を思わせるメロディーラインに対して歌詞が英語なのは、子供時代にニューヨークで南インド古典音楽のカルナーティックを学んでいたというAditiならではのセンスだろう。
映像を手掛けたのは、俳優や映画音楽なども手がけるRonit Sarkar.
映画的な感覚を活かした作風に、映画界とインディペンデント音楽シーンのさらなる接近を感じる。



2. JBabe "Punch Me in the Third Eye"


JBabeはチェンナイのスタイリッシュなロックバンドF16sのギターヴォーカルJosh Fernandezによるソロプロジェクト。
F16sと比べてかなり激しいパンクロック的なスタイルのサウンドだ。
このミュージックビデオは、両親に堅苦しいお見合いを設定された若い男女の、親に隠している本当の姿がテーマとなっている。
親子や世代による価値観の相違はインドの映画や小説でも頻繁に扱われている題材で、ロックやR&Bを好む若者たちにとっても切実な問題なのだろう。
監督は、最近ブッとんだミュージックビデオを相次いで手掛けているLendrick Kumar.
この記事(↓)で紹介しているF16sのミュージックビデオも必見だ。
 





3. Takar Nabam "Good Night (In Memory of Laika)"


3位にランクインしたのは、インド北東部の最果て、アルナーチャル・プラデーシュ州出身のシンガーソングライターTakar Nabam.
この楽曲とミュージックビデオは、1957年にソビエトで有人宇宙飛行に向けた実験のためにロケットに乗せられた、歴史上初めて宇宙に達した生き物である「宇宙犬ライカ」に捧げられたものだ。
そのロケットは地球に帰るための設計はされておらず、ライカは宇宙空間に達した数時間後に船内の温度上昇により死亡したと言われている。
ライカについては、吉田真百合さんという漫画家の『ライカの星』という作品を読んでものすごく感動したところだったので、このミュージックビデオにも大いに心揺さぶられた。
最後に出てくる'Please forgive us'というメッセージに、動物を大事にする文化の強いインドらしさを強く感じさせられる。

インドのインディペンデント音楽シーンでは、以前からアニメーションによるミュージックビデオがけっこう作られていたが、コロナウイルスによるロックダウン以降、密になる撮影が難しくなったことから、さらにアニメ作品が目立つようになった。
アニメ大国日本の感覚で見ると、まだまだチープさもあるかもしれないが、それでもセンスの良い作品もかなり多くなってきている。



4. Kamakshi Khanna ft. OAFF "Duur"


Kamakshi Khannaはデリー出身のシンガーソングライター。
この曲はムンバイの電子音楽アーティストOAFFとのコラボレーションとなっている。
これまで面白いミュージックビデオを数多く発表しているOAFFにしては少し地味に感じられる作品だが、インドのインディペンデント音楽シーンでは、このクールさこそが評価されるのだろう。
(OAFFの面白い映像作品は"Perpetuate", "Grip"など)
チル系の「印DM」(インドの電子音楽)というか、歌モノのトリップホップ的なサウンドも今のインドっぽい。



5. Jayesh Malan "Full / Circle"


12分もあるこの作品は、ミュージックビデオというよりも、環境音楽/環境映像のショートフィルムと呼ぶ方がふさわしいかもしれない。
Jayesh Malaniはマディヤ・プラデーシュ州ボーパール生まれのマルチインストゥルメンタルプレイヤーにして映像作家。
ビートのないギターと自然の音を含んだサウンド、そして美しい映像は、1日の終わりにアロマでも焚きながら見たら疲れが取れそう。
それにしても、YouTubeでたった1100再生ほどでしかない作品をきちんと探してきてランキングに入れるRolling Stone Indiaの慧眼はなかなかのものだ。



6. Dhruv Vishvanath "Fly"


Dhruv Visvanathはデリー出身のギタリスト。
ふだんはアコースティックギターをフィンガースタイルで弾くことが多いが、この曲では超ファジーなエレクトリックギターを披露している。
「キッチンでたった一人で反乱を起こすタマゴ」のコマ撮りアニメがかわいらしい。
ちなみにサムネイル画像の右下に見える日の丸のようなマークは、インドで食品につけることが義務付けられている「ノンベジタリアン製品」を意味するもので、ベジタリアン製品の場合は緑色になる。
なかなか芸が細かい。
インドではコマ撮りアニメのミュージックビデオにも凝った作品が多くて、例えば人気ロックバンドThe Local Trainの"Gustaakh"なんかはなかなかのものだ。



7. Komorebi "Chanda"


宮崎駿などの日本文化からの影響を公言しているデリーの電子音楽アーティスト、その名もKomorebiの"Chanda"もアニメーションのミュージックビデオ。
「月」を意味する'Chanda'というタイトルは、KomorebiことTarana Marwahの亡き祖父Karamchandから取られているとのこと。
すでにこの世にはいない人を思うエッチングのようなタッチの映像が幻想的だ。
曲もため息が出るほど美しい。



8. Sanjeeta Bhattacharya, Aman Sagar  "Khoya Sa"


アメリカの名門音楽大学バークリーを卒業したSanjeeta Bhattacharyaは、R&Bの影響を感じさせる洗練された音楽でこのランキングの常連となっているアーティスト。
一昨年もマダガスカルの女性ラッパーNiu Razaと共演した"Red"が、Rolling Stone India選出のベストミュージックビデオ第1位に選ばれている。
彼女は楽曲ごとに、オーガニックソウル、ラテン音楽、ラップとスタイルを変えてきたが、この"Khoya Sa"は、新機軸のヒンディー語のR&B。
ミュージックビデオのではなんと同性愛者を自ら演じている。
インドでも映画や音楽で性的マイノリティが扱われることが増えてきているとはいえ、まだまだ保守的な要素が強いインドでは、かなり挑発的な作品と考えて良いだろう。
インドのインディペンデントシーンでは、一般的なインド社会と比べてかなり「攻めた」作品も散見されるが、こうした点もまた魅力のひとつである。





9. Kayan "Be Alright"


KayanはロックバンドKimochi Youkaiやエレクトロニック・デュオNothing Anonymousでも活躍する(どちらもかなりセンスいい!)ムンバイの女性シンガーAmbika Nayakのソロ名義。
このミュージックビデオは、インドでも最近目立つようになった80年代〜90年代風の映像が特徴的だが、アナログなノイズやレトロフューチャーっぽい分かりやすいクリシェをあえて使わずに、画面の色味や歌詞のフォントやファッションで往時を現したところにセンスを感じる。



10. Ankur Sabharwar "Better Man"


Ankur Sabharwarはデリーのロックアーティスト。
こちらは50年代〜60年代の洋画の怪奇映画を思わせるモノクロの映像で、サウンドも洋楽ポップス風。
サビで転調するところがいい。
楽曲も映像も、インド人のレトロ欧米趣味の好例といえそうな作品だ。



というわけで、Rolling Stone Indiaが選んだミュージックビデオ10作品を紹介してみました。
ご存知の通り、インドには映画のシーンをそのまま使った映画音楽のミュージックビデオもたくさんあるし、映画音楽ではなくてもより商業的な音楽の豪華絢爛なミュージックビデオだって結構作られている(例えばメインストリーム・ラッパーのYo Yo Honey Singhなど)。
そうした映像作品と比べると、かなり低予算な感じも否めないけれど、それでもインディペンデントなアーティストたちがこうした面白い音楽や映像を作っているということはきちんと押さえておきたい。

今年の傾向としては、1位のAditi Rameshや2位のJBabeのように、インドの現代社会で若者が感じている問題を映像化した作品や、アニメ作品(コマ撮り含む)が多かったのが特徴と言えるだろう。
モノクローム映像を使った映像や、レトロな風合いを感じさせる映像も目立っている。

とはいえ、やはりRolling Stone Indiaらしく、「欧米的洗練」が重視されたセレクトとなっていて、それが悪いわけではないのだが、いつかまた違う視点で選んだ軽刈田によるお気に入りミュージックビデオ特集の記事も書いてみたいと思った。


過去にRolling Stone Indiaが選んだ各年のミュージックビデオも面白いので、よかったらこちらからどうぞ。

2020年はShashwat BulusuとDIVINEとRaghav Meattleが良かった。


2019年は正直あんまり記憶にないが、しいて言えば寿司が出てくるF16sのミュージックビデオが印象に残っている。


2018年の白眉はRitviz.
思えばこの年あたりから、レトロ的表現が目につくようになった。





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2021年06月01日

K-pop meets 'I-Pop'! インドと韓国のコラボレーションは新しい扉を開くのか?


5月21日にリリースされたArmaan Malik, Eric Nam, KSHMRのコラボレーションによる新曲"Echo"の評判が良い。

6月1日の時点でYouTubeの再生回数は1,000万回以上。
ヒット映画の音楽ともなれば億を超えることも珍しくないインドでは決してずば抜けた数字ではないが、映画と関係のない音楽としては大健闘していると言っていいだろう。 


この楽曲に関わった人物を整理してみよう。
Armaan Malikはムンバイ出身のシンガー。
代々インド映画の音楽を作ってきた一家に生まれたArmaanは、幼い頃から古典音楽を学び、アメリカの名門バークリー音楽大学で学んだのち、EDM, R&B, そしてもちろん映画音楽などの分野で活躍している。
インド映画のプレイバック・シンガーにはよくある話だが、彼もまた多くの言語で歌っており、ヒンディー、英語、ベンガル語、テルグー語、マラーティー語、タミル語、グジャラーティー語、パンジャービー語、ウルドゥー語、マラヤーラム語、カンナダ語の楽曲をレコーディングしたことがあるという。


この"Chale Aana"は2019年のボリウッド映画"De De Pyaar De"の挿入歌で、作曲はArmaanの兄であるAmaal Mallik. (兄のAmaalは、弟と違って姓のアルファベット表記の'L'が2つある)

この曲の再生回数は1.6億回とケタ違いだ。
彼が歌う他の映画音楽では、5億再生を超えているものもある。

映画音楽以外の活動も見逃せない。
2020年のMTV Europe Music Awardsで、近年勢いづくヒップホップ勢を抑えてBest India Actを受賞した"Control"は、"Echo"同様にインドらしさをまったく感じさせない「洋楽的」なポップソングだ。

Armaanは、映画音楽という大衆音楽と、洋楽的なポピュラー・ミュージックという、対照的なふたつのジャンルの第一線で活躍しているシンガーなのだ。


Eric Namはアトランタ出身の韓国系アメリカ人シンガー。
011年に名門ボストン・カレッジを卒業し、ニューヨークのデロイト・コンサルティングで勤務するというエリート中のエリートだった彼は、YouTubeへのカバー曲動画の投稿や韓国でのオーディション番組への参加を経て、ミュージシャンとしてのキャリアをスタートさせた。

シンガーとしては、韓国語と英語の両方で楽曲をリリースしており、海外ツアーを行うなど、すでに国際的な活躍をしている。

この"Honestly"を聴けば分かる通り、そのサウンドはK-popのイメージを裏切らないきらびやかなダンスポップ。
声の質もArmaanに近く、ヴォーカリストとしての相性がぴったりなのがこの曲からも分かるだろう。


"Echo"のプロデュースを務めたKSHMRことNiles Hollwell-Dharはカリフォルニア出身のインド系アメリカ人のEDMアーティストだ。
名前の通り、カシミール地方出身のヒンドゥー教徒の父を持つ(母親はインド系ではないようだ)。
2003年に高校の友人と結成したヒップホップユニットThe Cataracsで活動したのち、2014年にKSHMRの名義でEDMに転向。
UltrasやTommorowlandなどの大規模フェスでもプレイし、2016年、2017年、2020年にはDJ Magの世界トップDJの12位に輝いているEDMシーンのトップスターの一人だ。

活動の場が違うので簡単には比較できないが、ジャンル内の評価で言えば、このKSHMRが3人の中でもっとも大きな成功を収めていると言えるかもしれない。
(再生回数で言えば圧倒的にArmaan Malikだが)

この曲はインドで行われたアジア最大のEDMフェス'Sunburn'のテーマ曲として作られたもの。

インド国内のマーケットを意識した作品では、このようにビジュアルにもサウンドにもインドらしい要素を取り入れており、最近ではインド国内のアーティストとのコラボレーションも多い。


…長くなったが、要は、この曲でコラボレーションした3人には、非常に多様性に富んだ背景があるということである。
国籍としては、インド、韓国、アメリカ。
音楽ジャンルとしては、フィルミ(インド映画音楽)、インド古典音楽、R&B、K-pop、EDM...
こうした多様性のある3人のコラボレーションなのだから、ものすごい化学反応が起きて、斬新なフュージョン音楽が生まれるのではないかと期待していたのだが、誤解を恐れずに言えば、出来上がった作品は、ポップミュージックとしての質は高いものの、音楽的な冒険はせずに、手堅くまとめたという印象だ。
"Echo"には、Armaanの古典音楽的な歌い回しも出てこなければ、KSHMRの得意なフュージョンの要素もない。
ミュージックビデオの映像も、K-Pop的な派手さや伝統的なインドのイメージとは無縁な、率直に言うとかなり地味なものである。

Eric Namは、Rolling Stone Indiaにこう語っている。
「"Echo"は3人のアジア人がグローバルな舞台で団結した重要な例なんだ。僕らの仲間がもっと増えたらいいのにって思ってる。僕たち(引用者注:アジア人)全体を代表してやってのけることができる人たちの、もっと大きなネットワークが欲しいんだ。僕らは、自分たちみたいなカルチャーに関わる人たちを、もっと大きなスクリーンで見たいと思って成長してきた。でも、伝統的に、そういう場所は僕らにオープンじゃなかったんだ。ようやく、少しずつオープンになってきてはいるけどね。それから今、人種間や社会的な緊張がこれまでになく高まってきている。だから、僕らにとって、今こそこういうことをやるのに最高の時なんだよ」

この言葉の中の、「アジア人にもショービジネスが少しずつオープンになってきている」というのはK-popの成功を、「人種間や社会的な緊張が高まっている」というのはコロナ以降のアジア人差別を指しているのだろう。
"Echo"をこのタイミングでリリースしたのは、5月がアメリカ合衆国における「アジア系アメリカ人および太平洋諸島出身者月間」(Asian American and Pacific Islander Heritage Month)であることも意識していたという。

だからこそ、彼らは偏見にもつながるステレオタイプと裏表な典型的なアジアの要素を前面に出すのではなく、あえて無国籍なポップミュージックを作り、音楽の質そのもので勝負しようとしたのだろう。
しかし、無国籍なポップミュージックとは、結局のところ、欧米の白人が作ったジャンルを意味している。
今のところ、インド国内と韓国の一部のファンには高い評価を得ているようだが、この方法論が世界でどこまで通用するのか、応援しつつ見守ってゆきたい。

ところで、記事のタイトルに'K-pop meets "I-pop"'と書いたが、'I-pop'とはこの曲を紹介するにあたり、インドの媒体が多用している言葉。
インドは英語が話せる人材も多いし、最近ではArmaanのようにバークリーなどの欧米の一流の音楽大学に進学する若者も増えている。
I-PopがK-Popのように、世界で評価される日が来るのだろうか。
その時に、"Echo"はエポック・メイキングな楽曲として思い出されるものになるはずだ。


関連記事:






参考サイト:
https://rollingstoneindia.com/exclusive-armaan-malik-eric-nam-and-kshmr-collaborate-on-new-single-echo/

https://www.bollywoodbubble.com/bollywood-news/exclusive-armaan-malik-on-echo-taking-i-pop-global-dabbling-with-wanting-to-breakout-and-fear-of-rejection/




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2021年05月10日

次世代の主流になりうるか? インドの「アンダーグラウンド・メインストリーム・ポップ」!


ご存知の通り、インドのポピュラーミュージックの主流は映画音楽である。

ところが、21世期に入った頃から、少しずつ状況が変わり始めた。
インドの経済成長による衛星放送の普及、そしてインターネットの発展にともなって、人々が様々な音楽を聴く機会が増えてきたのだ。
2010年代になると、そうした音楽を好む若者たちのなかから、多くのラッパーやロックバンドや電子音楽アーティストが登場した…というのは、いつもこのブログで紹介している通りである。

とはいえ、インド全体の音楽シーンのなかでインディペンデント・ミュージックが占める割合はまだまだ少ない。
都市部の若者を中心にファンやリスナーを獲得しているものの、圧倒的な規模や予算で市場を席巻する映画音楽には遠く及ばない。
やはり、いまでもインドの音楽シーンは、映画音楽を中心に回っているのだ。

それでも、桁違いの人口規模を誇るインドのインディーミュージックシーンはびっくりするほど多様だ。
なかには、インドらしさをまったく感じさせない、アメリカやイギリスのチャートの上位を賑わせそうなポップサウンドを作っているアーティストたちもいる。
いわば彼らは「世界のメインストリームの音楽を作っているインドのアンダーグラウンド・アーティスト」というわけだ。

今のところ、彼らの音楽はまだポピュラリティを獲得しているとは言い難いが、質の高い音楽を作っているアーティストも多い。
といわうけで、今回はそんなアーティストたちを紹介したいと思います。


手始めに、先日紹介した「日本語で歌うインド在住のインド人シンガー」Drish Tとも共演していたAnimeshの"Pressure on It"を聴いてみて欲しい。
ファンキーなリズムに乗ったキャッチーなメロディーは、ちょっとBruno Marsのアップテンポな曲を思わせるところもある。
ヴォーカルのFranz Dowlingはオーストラリアのブリスベン在住のシンガーだそうで、国籍を超えたコラボレーションであるという点もとても今っぽい。
AnimeshはDrish Tと同じチェンナイのKM Music Conservatory(A.R.ラフマーンが作った音楽学校)に通う学生とのことで、彼女と同年代なら、まだ20歳くらいということになる。
これから洗練されてゆけば、かなり面白い存在になりそうだ。


続いて紹介するのは、同じくチェンナイのポップアーティストKevin Fernandoが、プロデューサーのAshwin Vinayagamoorthyと女性シンガーのNivedita Lakraと共演した"Foxy".
Kevin Fernandoという欧米風の名前は、おそらく彼がクリスチャンの家庭に生まれたことによるものだろう。
プロデューサーのAshwin Vinayagamoorthyは、ふだんはタミル語映画の音楽を手掛けている人物のようだ。
ラフマーンも然り、いつもは地元のマーケットを意識した音楽を作っていても、こういう欧米ポップス的な引き出しも当然のように持っているというのが現代インドの商業音楽家の強みだろう。


3月にデビュー曲の"Summer Nights"をリリースしたばかりのAneeshは、ムンバイのエレクトロニック・ミュージックのプロデューサー。
ちょっとラテンっぽいリズムを取り入れた楽曲は今の気分にぴったり。
AneeshはAviciiやJonas Blue, KSHMRなどのEDMアーティストの影響を受けているという。
この曲のヴォーカルは、テキサス在住のシンガーソングライターBrandon Chaseで、ここでも国境を超えたコラボレーションが行われている。
インドのインディペンデントシーンには、欧米での生活や留学を経験したアーティストも多く、英語圏のシーンとの心理的・言語的な距離は我々が想像するよりもずっと近い。
他のアジア圏のアーティストと比較して、彼らのこうした点もグローバルな成功へのアドバンテージとなるはずだ。


Chirag Todiはインド西部グジャラート州アーメダーバードのプログレッシブロックバンドHeat Sinkのギタリスト。
ソロ作品の"Desire"ではファンキーな心地よいグルーヴを聴かせてくれている。
男性ヴォーカルはムンバイのバンドSecond SightのPushkar Srivatsar, 女性ヴォーカルはデリーのTania Nambier.
この曲はRolling Stone Indiaが選ぶ2020年のベストシングルにも選ばれていて、こうしたファンキーかつクールなグルーヴはインドの音楽好きに好まれているようだ。


もっとローカルなところだと、例えばこのAdhiraj Mathur.
まだ無名なミュージシャンで、情報はほとんど無いのだが、この曲は「シャワーを浴びているときに思いついて、ベッドルームでミキシングとマスタリングして、iPhoneでミュージックビデオを撮影した作品とのこと。
アナログビデオ風の映像の加工も最近インドのミュージックビデオでよく見られる傾向。
こうした映像が撮れるビデオカメラの時代には生まれていなかった若い世代が、アナログ的な要素を積極的に取り入れているのが興味深い(そもそも、もし生まれていたとしても、当時のインドにはこうした家庭用の映像機材はほとんど出回っていなかったはずだ)。
渋谷系の日本のミュージシャンが60年代や70年代の洋楽の影響を強く受けていたように、自分たちが持ち得なかった過去へのあこがれがひとつの原動力になっているのだろうか。


ムンバイのエレクトロニック系プロデューサーChaitxnyaの"You Broke Me First Flip"は女性ヴォーカルもの。
アーティスト名は'Chaitanya'と読むのだと思うが、おそらくは同名異人との混同を避けるために、名前を独特の綴りにするというのは、インドの有名人によく見られる手法だ。


ここまで紹介したアーティストたちは、インドのなかでもまだまだ無名で、YouTubeの再生回数も数百回から数千回、もっとも多いChirag Todiでもせいぜい15,000回程度の、ごくマイナーな存在に過ぎない。
オリジナリティーあふれるサウンドで、インドのインディペンデントシーンでより高い評価を確立しているアーティストたちも、コアなジャンルではなく、現代メインストリーム的な楽曲を手掛けている例が散見される。

例えば、日本にも存在しない和風のトラップ・ミュージックである'J-Trap'というジャンルを開拓し、最近ではヒップホップのビートメーカーとしても大活躍しているKaran Kanchan.
DIVINEのようなビッグネームとのコラボレーションでは、YouTubeで1,000万回を超える再生回数を叩き出している彼は、R&BシンガーRamya Pothuriとコラボレーションして、こんなキャッチーな曲をリリースしている。
ぶっといビートのイメージが強かったKanchanが、ここまでスムースかつポップな曲を手がけるのは非常に新鮮!
彼のビートメーカーとしての引き出しは非常に多く、最近ではDIVINEがコロナ禍で奮闘する人々に捧げた"Salaam"でのメロウなサウンドや、Shah RuleがMass Appeal Indiaからリリースした"Clap Clap"でのピアノを導入したビートが印象に残っている。


インディペンデント・シーンでの評価の高いムンバイのシンガーソングライターTejasは、この"Down and Out"でAviciiの"Wake Me Up"を思わせるカントリーっぽいメロディーと四つ打ちのビートの融合を試みている。
このブログでもこれまでにPrateek KuhadRaghav Meattleといった才能あふれるアーティストを紹介してきたが、彼の楽曲からもインドのシンガーソングライターのレベルの高さを改めて感じさせられる。


今回紹介したような「アンダーグラウンド・メインストリーム・ポップ」はまだ小さな潮流だが、彼らのポップセンスと、英詞での表現が得意という特性がうまく化ければ、インド国内のみならず、グローバルな市場で幅広いリスナーを獲得することも夢ではないように思う。
インドのインディー音楽に注目する立場としては、インドならではのユニークなサウンドを作っているアーティストも大好きが、こうした世界に通用するサウンドを作ろうとしているアーティストたちも応援したい。

彼らの今後の活躍に期待!




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2020年10月29日

秋深し。女性シンガー特集!

日が落ちるのがすっかり早まり、木々の葉っぱも色づき始めてきた今日この頃、いかがお過ごしでしょうか?
今回は、こんな季節に聴くのにぴったりな、しっとりした女性シンガーの特集をお届けします!

このブログでは、これまで何度か男性シンガーソングライターを紹介してきたけど、インドには素晴らしい女性シンガーソングライターももちろんたくさんいるのです。


最初に紹介するのは、さわやかな秋晴れの日に公園を散歩しながら聴きたい曲。
プネーのシンガーソングライター、Nidaの"Butterflies"をどうぞ。

彼女は昨年"And I'll Love"でデビューしたばかりの期待の若手シンガー。
このブログでも激推ししている同郷のドリームポップバンドEasy Wanderlingsや、ムンバイのシンガーソングライターTejasなどの影響を受けて、ミュージシャンとしてのキャリアを本格的に追求するようになったとのこと。

デビュー曲はウクレレの響きもかろやかなポップチューンで、こちらもとても心地よい仕上がりになっている。


続いてお届けするのは、ムンバイを拠点に活動しているシンガーソングライターMali.
ハーモニカ奏者であるお祖父さんと共演した2018年のナンバー、"Play"をお聴きください。

歌声同様に涼やかな目もとが美しいMaliは、マラヤーリー(ケーララ系)のシンガー。
このミュージックビデオは、故郷ケーララに暮らす祖父のもとを尋ねるのんびりとしたロードムービー仕立てになっている。
全編にわたって心地よい秋の風が吹いているような1曲だ。
彼女は映画のプレイバックシンガーやジャズポップバンドBass In Bridgeを経て、現在はソロアーティストとして活動しており、最新曲"Absolute"でも、ヴォーカリスト、そしてソングライターとしての高い実力を遺憾なく発揮している。

記憶に新しいところでは、新型コロナウイルスによるロックダウンの真っ只中にTejasが発表した、前代未聞の「オンライン会議ミュージカル」"Conference Call: The Musical"にも主人公(Tejas)のガールフレンド役として出演していた。(登場は5:30あたりから)
字幕をOnにするとストーリーも追えるので、ぜひじっくりと観賞してみてほしい。



続いて、より都会的なサウンドの秋らしい1曲を紹介したい。
デリーを拠点に活躍しているTanya Nambiarによる"Big City"は1960年代にMarvin Jenkinsがリリースしたジャズの名曲のカヴァーだ。

彼女はクラブミュージックからロックまで、幅広い音楽性の曲を歌っているが、このカヴァーは都会の秋の夜にぴったり。
彼女はシンガー・ソングライターとして活動するかたわら、Su Realらクラブ系のアーティストのゲストヴォーカルとしても歌声を披露している。(この記事の"Soldiers"の女声ヴォーカルが彼女だ)



見た目もサウンドも、どこか懐かしい60年代のフォークソングを思わせるAnoushka Maskeyは北東部シッキム州出身のシンガーソングライター。

右利き用のギターをそのまま反対に持って(つまり、太い低音弦が下になる松崎しげるスタイル!)歌うのが彼女の特徴。

どことなく切なさを感じさせる歌声とメロディーは秋の夕暮れにばっちりはまる。
8月にリリースされた彼女のアルバム"Things I Saw in Dream"、そして最新EPの"C.E.A.S.e"はこの季節に聴くのにふさわしいサウンド。



最後に、これまで何度も紹介しているけど、秋のノスタルジックな気分にぴったりな曲といえばやっぱりこの曲。
Sanjeeta Bhattacharyaの"Natsukashii"を紹介して終わりにしましょう。

じめじめと昔を振り返るのではなく、カラッとさわやかに晴れた秋の空のようなSanjeetaの"Natsukashii".
すっかり肌寒くなってきたけれども、こんな音楽を聴きながら過ごすのもまた一興ではないかと思います。

…と、今回はセンチメンタルな気持ちを誘う女性シンガーの作品を特集してみました。
もちろんインドの男性シンガーソングライターたちも、負けず劣らずこの時期にふさわしい深みと切なさのあるサウンドを作っています。
興味のある方はこちらのリンクからどうぞ。





 


(10月31日追記)
この記事をTwitterで告知したら、Yosh(U.Owl / Vogmir)さんからゴアのシンガーソングライター、Dittyをお勧めいただいた。


改めて聴いてみたら凄くイイ!
とくにこの曲が白眉。

タイトルからもしやと思っていたけど、やっぱりアメリカのロックバンドDeath Cab for Cutieのことを歌った曲。
「思い出しちゃうからDeath Cab for Cutieはかけないで」っていうの、いい歌詞だな〜。
秋のセットリストにぴったりの切ない曲です。

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goshimasayama18 at 21:25|PermalinkComments(0)

2019年11月21日

Faridkotのファンキーでオシャレな「ターバン・ポップ」!


前回まで、「謎のインド人占い師ヨギ・シン」の話題ばかり書いていたので、私自身もすっかり忘れていたのだが、このブログはインドの最近の音楽(ロックとかヒップホップとか)を紹介するブログなんだった。
というわけで、今日からひとまず平常運転に戻ります。
とはいえ今回は前回からの流れでシク教にまつわる話。

シク教徒の男性ってオシャレだなあ、と思う。
体格がいい人が多いせいもあるが、スーツを着ても民族衣装を着ても、だいたいバッチリ決まって見えるし、何よりもターバンの着こなし(かぶりこなし)がとても粋なのだ。

「ターバン」というと伝統的なものという印象が強く、あまりファッショナブルなイメージはないかもしれないが、シク教徒の男性たちは、じつはターバンを含めたコーディネートにとても気を遣っているオシャレさんたちなのだ。
その日のファッションやTPOに合わせて、白や薄い水色みたいなシンプルなものから赤や黄色などのド派手なものまで、いろんな種類のターバンを使い分けているのも素敵だし、額の部分にちらっと見えるターバンの下にかぶるやつ(名前知らない)を差し色にしたりするのなんて、本当に粋だなあと思う。


なぜ急にこんな話をしたかというと、Faridkotというバンドが今年4月にリリースした"Subah"という曲のビデオで見たとてもクールなターバンを、とにかく紹介したかったからなのである。 

私はモノトーンの太いストライプのターバンというものを初めて見た。
このすごく個性的なターバンを、レトロな丸いサングラスと合わせるなんて最高ではないか。
音楽的にも、どこか80年代っぽいエレクトロニックなビートに、ファンキーなギターのカッティングがとても心地良い。
ちょっと"Random Access Memories"の頃のDaft Punkを思わせる雰囲気もある。
そこだけ古典音楽の影響を感じさせる女性ヴォーカルがまたいいスパイスになっている。 
この曲では、衣装も音楽性も、インド人が得意な、伝統的なものを現代的にアレンジするセンスが、素晴らしくクールかつポップな形で結晶しているのだ。
これはまさに、アーバン・ポップ(Urban Pop)ならぬターバン・ポップ!(Turban Pop)

FaridkotはヴォーカルのIP SinghとギターのRajarshi Sanyalのデュオ。
現在は二人組だが、もともとは2008年に5人編成のバンドとしてデリーで結成された彼らは、自身の音楽を、親しみやすいメロディーとブルージーなギターが融合した'Confused Pop'と定義している。
Faridkotというのはパンジャーブ州にある街の名前のようで、アメリカのバンドでいうとBostonとかChicagoみたいなバンド名ということなのだろう。

面白いのは、いくつかの記事で、彼らの音楽を表すときに「スーフィー(Sufi)音楽」という言葉が使われているということだ(彼らは自分たちでもスーフィー音楽の影響を公言している)。
スーフィー/スーフィズムは、「イスラーム神秘主義」と訳され、修行によって神との究極的な合一を目指す思想とされる。
音楽ではヌスラト・ファテー・アリー・ハーンらに代表される「カウワーリー」が有名だ。
 以前からパキスタンなどには、スーフィー音楽とロックを融合した「スーフィー・ロック」というジャンルがあったが、当然ながらそれはムスリムによって演奏される音楽ジャンルだった。
ところが、Faridkotのメンバーは、IP Singhはどう見てもシク教徒だし、Rajarshi Sanyalは名前からするとヒンドゥーのようである。
私は「スーフィー」というのは、音楽のスタイルである前に、ムスリムであることを前提とするものだと思っていた。
だがどうやらそうではなく、たとえ異なる信仰を持っていても、その力強く恍惚的な音楽性から影響を受けたなら、自由に自分の音楽に取り入れて、それを公言しても良いものらしい。
なんともおおらかな、いい話ではないか。

彼らは2011年にリリースしたファーストアルバム"Ek"がラジオで高く評価され、2014年にはユニバーサルに移籍してセカンドアルバム"Phir Se"を発表した。
変わったところでは、スタローンやシュワルツェネッガーが出演した『エクスペンダブルズ3』のヒンディー語版テーマ曲も担当したようだ。
彼らの楽曲のミュージックビデオは、ショートフィルム風で見応えがあるものも多い。
 
少年の淡い恋と友情を描いた"Mahi Ve" 

インドの子どもたちってどうしてこんなにかわいいんだろう。
シク教徒の男の子のおだんごターバンもとってもキュートだ。

貧しい青年の一途な片思いを描いた"Laila"のミュージックビデオは、インド映画でもよくあるちょっとストーカーっぽい純愛もの。

これはちょっとどういう感情になったらいいのか分からない。

というわけで、今回はI.P. Singhのツートンカラーのターバンが印象的なFaridkotを紹介してみました。
シクのミュージシャンのターバン事情については、まだまだ興味深い例が多いので、次回はさらに掘り下げて書いてみたいと思います!

ちなみに、ターバンは教義として着用することになっているシク教徒以外でも、ラージャスターン州などでは伝統的に広く用いられており(デザインや巻き方が異なる)、また王侯や戦士の正装としても使われてきた。
シク教徒でも、最近は若い人たちを中心にターバンを巻かない人が増えてきており、また宗派によっては着用の義務がないこともあるようだ。
…という通りいっぺんのターバンの説明を念のためここにも書いておきます。



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2019年04月14日

日本と関わりのあるインドのアーティストの新曲情報と、インディーミュージシャンの懐事情

前々回に続いて、日本と関わりのあるアーティストの話題をもう少し。
宮崎駿などの日本のアニメに影響を受けている女性エレクトロニカ・アーティストのKomorebiことTarana Marwahは、2017年のアルバム"Soliloquy"から"Little Ones"のビデオを発表した。
 
コマ撮りが印象的なこのビデオは、インドのアーティスト向けクラウドファンディングプラットフォーム'Wishberry'を活用して製作されている。
彼女によるとこの曲は自身の弟に捧げられたパーソナルな内容のものとのこと。
叙情的な映像は、Parekh and Singhのミュージックビデオでウェス・アンダーソンへのオマージュ的な画を撮っていたことも記憶に新しいMisha Ghoseによるもの。
今作でもTaranahのノスタルジーと心象風景を美しく映像化することに成功している。
印象的なギターはムンバイのブルースバンドBlackstratbluesで活躍するWarren Mendosaで、ジャンルを超えた心地よい音の共演が実現した。


続いて紹介するのは、日本語の歌詞を持つ"Natsukashii"をリリースしたシンガー・ソングライターのSanjeeta Bhattachrya.
「バークリー出身の才媛が日本語で歌うオーガニックソウル! Sanjeeta Bhattacharya」
彼女もまたWishberryを通じたクラウドファンディングで製作した"You Shine"を発表した。
 
今までのオーガニックソウルやカルナーティック的なルーツを感じさせる楽曲ではなく、ジャジーでメランコリックなこの曲は、2017年に命を絶ったLinkin ParkのChester Benningtonと、やはり同じ年にムンバイで死去したバンガロール出身の若手キーボードプレイヤー、Karan Josephに捧げられたもの。
ミュージックビデオは華やかなショウビズの世界とその裏側の孤独、そこから立ち直るための親しい人々との絆がテーマになっている。

Karan Josephについては日本ではほとんど知られていないと思うが、Sanjeetaと同じくボストンのバークリー音楽院で学んだ若手有望キーボーディストだった。
この動画を見れば彼がいかに才能豊かなミュージシャンであったかが少しでも伝わると思う。

彼の死は自殺とされているが、その背景にはムンバイの有力プロモーターとの確執があるとされ、スキャンダル的な話題にもなったようだ。
いずれにしても、成長著しいインドのミュージックシーンで今後ますます活躍したであろう若い才能の死はあまりにも惜しい。

インドのインディーミュージックは、多くのアーティストの熱意と表現衝動に支えられて急成長をしている最中だが、SanjeetaやKaran Josephのように海外で一流の音楽を学んだミュージシャンがきちんと評価され、活躍できる環境が整備されているとはまだまだ言い難い。
SanjeetaがWishberryのサイトでクラウドファンディングを募るために語っていた内容が興味深いので、ここで少し紹介したい。

「私はインディーミュージックの世界ではやっと1歳になったばかり。毎日素晴らしいミュージシャンや人々に会っているわ。彼らはみんな音楽にハートとソウル、時間やお金やたくさんの努力をつぎ込んでいるの。インディーミュージックシーンは急成長しているけど、もっと大勢の人に注目される必要があるし、もっと多くのスポンサー、後援、リスナーやサポートも必要だわ。あまりにも長い間、インディーミュージックは隅に追いやられていて、ミュージシャンたちは(自分の表現したいものではなくて)大衆が喜ぶような、ラジオでかかるようなコマーシャルな音楽を演奏しなければならなかった。もし誰かアーティストの心の声を聴いてくれる感受性と勇気のある人がいたら、その声をみんなに広めて欲しいの。

私の音楽と同じくらい素晴らしいミュージックビデオを作るためには友達や家族やリスナーのみなさんの協力が必要で、だからクラウドファンディングを募ることを選んだの。今までにやったことはないけど、何だって初めてってことはあるし、これが将来より多くの人たちに音楽を聴いてもらう助けになることを願っているわ。私はインディーミュージシャンだからいつも資金不足に悩んでいるし、これがミュージックビデオを完成させるためにできる最良の方法だと思うの。」


映画音楽や古典音楽以外の音楽マーケットが十分に成長する前にインターネットの時代を迎えたインドでは、インディー・ミュージックを支える構造(レコード会社、プロモーター、演奏の場など)が十分に整備される前に、誰もが動画サイトや音楽ストリーミングサイトを通して自分の演奏したい音楽を発表できる環境が整ってしまった。
優れた楽曲を制作しても、それを収入に結びつけるシステムが圧倒的に不足しているのだ。
そのため、本来はカウンターカルチャーであるはずのロックやクラブミュージックのアーティストも、裕福な若者たちばかりという状況になってしまっている(これは富の不均衡の問題でもあるが)。
このブログで紹介しているように素晴らしいアーティストもたくさんいるのだが、彼らとていつまでも情熱だけで音楽を続けてゆけるわけではない。

作り手の才能をファンの良心が支えるクラウドファンディングは、こうしたインドのインディーミュージックシーンの現状が生み出した新しいサポートの方法だと言える。
(そういえば、昨年来日公演を含むアジアツアーを行ったムンバイのデスメタルバンドGutslitも、ツアーの資金集めにクラウドファンディングを活用していた)
音楽ストリーミングや動画サイトの普及によって、誰もが音楽を自由に発表できるかわりに、音楽はほぼ無料で楽しめるという傾向は、世界中でますます加速してゆくだろう。
インドのインディーミュージックシーンを取り巻く状況は、一週遅れのようでいて、実は世界でもっとも新しいものなのかもしれない。

最後に、Sanjeeta Bhattacharyaの"Natsukashii"をもう一度。
この日本語を大々的にフィーチャーしたポップチューンはもっと日本で聴かれるべきだと思う。

国境を超えてお気に入りのインディーアーティストをサポートしあう世界が、もうすぐそこまで来ている。


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goshimasayama18 at 17:48|PermalinkComments(0)

2019年01月20日

バークリー出身の才媛が日本語で歌うオーガニックソウル! Sanjeeta Bhattacharya

その言語でないと表現することが難しい言葉というものがある。
例えば、インドの言葉で代表的なのはサンスクリット語の「シャンティ(Shanti)」。
これは平和・静寂・至福などを表す言葉で、ヨガの世界などで使われる。
ピースフルな状態を表すこの言葉は、あのマドンナも曲名にしたことがある。
日本語で代表的なのは、ノーベル平和賞を受賞したケニアのワンガリ・マータイが提唱したことでも有名な「Mottainai=もったいない」だろう。

今回紹介する曲のタイトルも、日本語でないと表現が難しい感覚と言っていいのだろうか。
インドの若手女性シンガー、Sanjeeta Bhattacharyaが先ごろ発表した曲のタイトルは、なんと"Natsukashii(懐かしい)"
 
ホーリーの粉、サイクルリクシャー、ブランコにシャボン玉。
タイトルの通り懐かしい雰囲気の映像に乗せて、過ぎ去った恋の思い出の甘さと苦さがポップに歌われる。
決して後悔しているわけでもあの頃に帰りたいわけでもないが、束の間、過去を思い返して思い出に浸る。
確かに「懐かしい」はノスタルジックとも違う日本語独特の表現なのかもしれない。

これまで、日本の文化に影響を受けたアーティスト(ロック編エレクトロニカ編)とか、日本語の名前を持つアーティストというのは紹介してきたけど、冒頭だけとはいえインドではほとんどの人が知らない日本語で歌うアーティストというのは珍しい。
しかも、サウンドは心地よいオーガニックソウルで、曲名以外これといって日本的なわけでもないし。
いったい彼女はどこで「懐かしい」という日本語を見つけたのだろうか。

Sanjeeta Bhattacharyaを語る上で、もうひとつ注目すべき点は、彼女がアメリカの名門音楽学校、バークリー音楽院の出身だということだ。
このブログでなんども書いてきたように、インドのインディーミュージックシーンは2000年代から急速な発展を遂げた。
映画音楽一辺倒だったインドにロックやダンスミュージックなどの新しい音楽を紹介したのは、欧米に暮らす在外インド人や、海外で青春時代を過ごした「帰国子女」たちだった。
今ではそこからさらに発展して、海外の名門音楽学校に留学したアーティストが帰国して活躍する時代を迎えたというわけだ。


インドのウェブサイトIndianwomenblog.orgに掲載されたインタビューによると、Sanjeethaはインドの多くのシンガー同様、幼少期からインドの古典音楽(ヒンドゥスターニー、カタック)を学んでいたそうだ。
バークリーでは世界中の音楽を学んだが、それでも彼女の音楽のルーツはインド古典だと語っている。
最近のオーガニックソウル調の曲からはあまり古典の要素は伺えないが、ヒンディーで歌った曲からは、そんな彼女のルーツが十分に感じられる。

古典音楽風の繊細な節回しとジャズ/ソウル的な抑揚が魅力的なこの曲は、トルコ系イギリス人の女性作家、Elif Shafaqの本'40 Rules of Love'にインスパイアされたもの。
曲のタイトル'Shams'はこの本に出てくるスーフィー(イスラーム神秘主義の行者)の名前で、歌の内容は「私に必要なのは師匠でも弟子でもなく、友であり仲間だ。ともに座ってみれば、私たちの内面には見た目以上に多くの調和があるはずだ」という、現代社会で深い意味を持つメッセージ。

バークリーでは、ジャズだけでなくバルカン音楽やフラメンコ、ラテン音楽など世界中の音楽を学んだという彼女がスペイン語で歌うこの曲は'Menos es mas'

インド人である彼女がスペイン語の歌い回しを見事にものにしているのを聴いて、フラメンコの担い手であるロマ(ジプシー)のルーツはインドのラージャスタン州のあたりに遡るということを、ふと思い出したりもした。

彼女が尊敬するミュージシャンとして挙げるのはエリス・レジーナとビリー・ホリデイ。
ブラジル音楽とジャズの、伝説的なシンガーだ。
ジャズとインド古典音楽は即興において似た部分があると話す彼女は、今までに触れたあらゆる文化や音楽の影響を、自分なりに咀嚼して表現している。
そのアンテナに、きっと日本語の「懐かしい」もひっかかったのだろう。
おそらくは、世界中からミュージシャンの卵が集まるバークリーで、日本人から耳にした言葉だったのではないだろうか。

ちなみにバークリーで学ぶインド人アーティストは多く、女性シンガーではパティ・スミスを連想させるグランジ系フォークロックのAlisha Batthや、日本で活動しているジャズ/ソウルシンガーのTea (Trupti)などが活躍している。
彼女たちもそれぞれ独特の世界観をもっている興味深いミュージシャンなので、いずれ紹介したいと思います。

それでは!



(追記)
彼女が2020年10月にリリースした"Red"では、なんとラップを披露!
ミュージックビデオもこれまでのナチュラルなイメージからぐっと変わって、妖艶な雰囲気を感じさせるものになっている。
しかもマダガスカルのシンガーNiu Razaとの共演という話題もあり、この曲はRolling Stone Indiaが選ぶ2020年のベストミュージックビデオの1位に輝いた。



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2018年12月26日

新世代R&Bクイーン、Anushqa!

このブログを始めてちょうど1年が経ったのだけれども、少し困っていることがある。
紹介するアーティストに、インド古典音楽の要素と欧米のロックの要素が入り混じったバンドが増えてきたので、先日記事のカテゴリーに新しく「フュージョン・ロック」というのを増やしたのだけど、ここに来て、今度はR&Bの分野でも、インド古典の要素を取り入れたアーティストが結構いることに気がついてしまったのだ。

ここはひとつ、新たに「フュージョンR&B」というカテゴリーを作るべきだろうか。
でもそれをやり始めると、「フュージョン・ エレクトロニカ」も「フュージョン・レゲエ」も作らなきゃいけなくなって、きりが無くなってしまうんだよなあ。
どうしたものか。

今回紹介するAnushqaは、まさにフュージョンR&Bと言えるサウンドを作り上げているアーティストだ。
まずは彼女のデビューシングル"Ecstacy"を聴いてみてください。

彼女の場合、インド的な要素は主にトラックのみで、歌唱についてはほぼインドの要素ナシというタイプだけど、ラップの部分のフロウには若干のインドらしさが感じられる(ような気がする)。

このAnushqaは、2015年にヴォーカリスト発掘をテーマにしたテレビ番組'The Stage'のシーズン1のファイナリストに残ったことをきっかけに音楽の世界に入ったという経歴の持ち主。
本名のAnushka Shahaneyとしてボリウッド映画のプレイバックシンガー(つまり女優が口パクで演じるミュージカルシーン専用の歌手)としても活躍していて、インドのベストセラー小説家チェタン・バガット(Chetan Bhagat)原作の映画、'Half Girlfriend'の挿入歌でその名を上げた。
映画を離れてソロのシンガーソングライターとして活動するときには、名前のkをqに変えて、Anushqaという名義を使っているようだ。
このユニークな綴りは、インドではよくあるアヌーシュカという名前をより識別されやすくするためだろう(ネット検索のときも便利!)。

こうした経歴からもわかるとおり、彼女はこのブログでいつも紹介しているインディーズ系のミュージシャンとは一線を画す、インドのショービジネスのかなりメインストリームに近いところで活動をしているアーティストということになる。

彼女のデビューのきっかけとなったようなオーディション番組は、インドでもかなりの人気を集めているようで、Slumdog Millionaireの原作者でもあるヴィカス・スワループの小説'Accidental Apprentice'でも、主人公の美人の妹がテレビのオーディションに出演するエピソードが出てくる。
オーディション番組でスター歌手になるというサクセスストーリーは、ちょうど70年代日本の「スター誕生!」みたいに、インドの新しい世代の憧れとして認識されているのだろう。
先天的な美貌がないと務まらない役者の世界と違って、「歌さえ上手ければ…」という夢を見させてくれるところも人気の秘密なのではないかと思う。
(その小説では、オーディション番組の裏側はセクハラやパワハラが横行するずいぶんとダーティーな世界として描かれていたけれど、実際のところはどうなんだろう。秋元康プロデュースのムンバイのMUM48も、プロジェクトが発表されたのち全く音沙汰がないが、インド芸能界のこうした闇の部分によって頓挫してしまっているのだろうか)

話をAnushqaに戻そう。
彼女は幼少期からムンバイで(西洋の)クラシック音楽を学んで育った。
インドの先進的ミュージシャンの常で、彼女もまた海外への留学を経験している。
カナダの大学で心理学を学んでいたそうだが、音楽のキャリアを追求したいという気持ちが強くなり、'The Stage'へのエントリーへとつながったようだ。

彼女のインターナショナル・デビューとなったのはこの曲、'Something in Common'.

おそらくは海外のマーケットを意識してエキゾチックな雰囲気のビデオにしたのだろうが、ここで見られるエキゾチックさはインド独自のものではなく、イメージ優先のなんちゃってエキゾチック(だと思う。ちょっとどこかの部族の民族衣装っぽくも見えるけど、監督はイギリス人のようなのでそこまで意識していなさそう)。
結果的にMajor Lazer & DJ Snake feat. MØの'Lean On'にそっくりになっているんじゃないかっていう指摘もされているようだが、インドらしさでいえばむしろ'Lean On'のほうが上だ('Lean On'のほうはロケ地もインドのどっかのお城だし)。

とはいえエキゾチックなのはビデオだけで、彼女の歌唱については、今回もインドらしさよりも直球のR&Bテイストで勝負している。
このあたり、カルナーティック音楽をルーツにもつRaja KumariAditi Rameshとの明確な違いと言ってよいだろう。

映画'Half Girlfriend'の挿入歌'Stay A Little Longer'.
 
この曲は作詞は彼女が手がけているけど作曲は別の人。
バラード調の曲調に、サーランギーっぽい擦弦楽器の音が絶妙なインド風味を醸し出している。
お聴きの通りインドの映画挿入歌、すなわちメインストリームポップスもここ数年で大きく変わってきていて、一昔前のYo Yo Honey SinghやBadshahみたいなクサイ(もっとストレートに言うとちょっとださい)曲調からだいぶ垢抜けてきた。

このAnushqa、これからもシンガーソングライターとプレイバックシンガーの二足のわらじを続けるのかどうかは不明だが、いずれにしても新しい時代のインドの歌姫として活躍していくことと思う。
日本での公開が増えてきているインド映画でもその歌声を聴く機会があるかもしれないので、要注目です。

今回はここまで。
それでは!


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2018年11月06日

MTV EMA2018最優秀インド人アーティスト発表!Big-Ri & Meba Ofilia

MTV EMA (Europe Music Awards)2018がスペインのビルバオで開催され、各部門の受賞アーティストが発表された。
ヨーロッパといいながら、なぜかたくさんの国のベストミュージシャンが選ばれるこのイベント。
今年のBest India Music Actに選ばれたのは、R&B/ヒップホップアーティストのBig-Ri & Meba Ofiliaによる楽曲'Done Talking'だった。

Big-Riは2009年に結成されたメガラヤ州のヒップホップグループKhasi Bloodzのメンバーの一人。
メガラヤ州はこのブログでも何度も紹介してきた、独特の文化と高い音楽性を誇るインド北東部8州(セブン・シスターズ+シッキム)の1つだ。
Khasiとはメガラヤ州に住む先住民族の名称で、彼らもまた自分たちのルーツに誇りを持ったアーティストであることが分かる。
Khasi Bloodzはインドらしからぬこなれた英語のラップを聴かせる実力派ラッパー集団で、ここでもBig-Riは安定したラップを披露しているが、何しろ圧巻なのは同じくメガラヤ州出身の女性シンガー/ラッパーのMeba Ofiliaだ。
情感のこもった歌唱から小気味いいラップまで、独特のハスキーヴォイスで素晴らしい歌声を聴かせてくれている。
Mebaはまだメガラヤの州都Shillongで法律を学んでいる大学生。
オリジナル曲もほとんどなく、1年前にKhasi Bloodzと共演した楽曲ではまだまだ実力を発揮できていなかったが、この'Done Talking'で急速に成長した姿を見せつけることになった。
こう言っては大変失礼だが、インドの山奥から出てきたとはとても思えない堂々たるパフォーマンスで、この曲の素晴らしさの8割方が彼女によるものと言っても過言ではないと思う。
大都市や国際都市があるわけでもなく、人口も少ない北東部だが、ここの人々のロックやヒップホップ偏差値の高さにはいつもながら本当に驚かされる。

ちなみにこの賞を受賞した北東部のアーティストとしては、他には先日のナガランド特集で紹介したAlobo Nagaがいる。
北東部のミュージシャンはその音楽的才能の高さに比べて、民族的にマイノリティーであることもあって、なかなかインドの音楽シーンの主流には食い込めていないような印象を持っているのだけど、こうした海外の賞ではきちんと評価されているんだなあ、と思うと感慨深い。

今年ノミネートされていた他のアーティストはこちらのみなさんです。
Raja Kumari ft. Divine 'Roots'.
 
このブログでも取り上げたカリフォルニア出身の米国籍のテルグ系ラッパーRaja Kumariと、ムンバイのヒンディー語ラッパーDivineによる2度目のコラボレーション。
トラックもかっこいいし、ラップもさすがのテンションだけど、この二人はいつもこんな感じなので、ここに来てまたインド人としてのルーツを誇るみたいなテーマはちょっと新鮮味が無いような気もする。
ちなみに彼女は昨年に続いて2度目のノミネートだった。

Monica Dogra &Curtain Blue 'Spell'

Monica Dograはボルティモア出身のインド系(北西部ジャンムー系)シンガー兼女優で、MTV EMAでは2015年、2016年に続いて3度目のノミネート。
この曲ではデリーのバンドThe CircusのヴォーカリストAbhishek BhatiaのソロプロジェクトであるCurtain Blueとのコラボレーションとなっている。

Skyharbor 'Dim'

Skyharborはインド系のメンバーによるオルタナティブ/プログレッシブ・メタルバンドで、デリー、ムンバイ、アメリカのクリーブランドなど、さまざまな土地の出身者で構成されている。
2010年結成。
日本の音楽シーンとも縁があり、BabymetalのUSツアーのオープニングアクトを務めたり、マーティ・フリードマンのJ-Popカバーアルバムに参加したりもしている。


Nikhil 'Silver and Gold'
 
Nikhil D'souzaはムンバイ出身のシンガー・ソングライター。
'Silver and Gold'はジェフ・バックリィやスティングらの影響を受けて曲を作り始めた彼のソロデビュー曲。
アコースティックに始まって徐々に盛り上がるアレンジもよく出来ているし、力強くも繊細なヴォーカルも素晴らしい。
やけに貫禄がある歌いっぷりだと思ったら、どうやら彼は長らくボリウッド映画のプレイバック・シンガーとして活躍していたようで、いまでは拠点をイギリスに移して活動している様子。
古城で撮られたビデオも美しい。


どれも完成度の高い楽曲ではあるけれども、いったいどうやってこの5曲が選ばれたのか、謎だなあ。
そもそもRaja KumariやMonica Dograはアメリカ国籍だし、Nikhilは今ではイギリスを拠点に活動しているみたいだし。
共通項はメジャーレーベルからリリースされている作家性の強い英語の楽曲ということくらいか。
欧米の音楽シーンとの親和性も求められているセレクションのような気もする。
この賞は、2013年、2014年はYo Yo Honey Singh、2015年は女優でもあるPriyanka Chopraと、よりポップな(まあ、なんつうか下世話な)曲が選ばれたこともあり、インディー色の強いRolling Stone Indiaのベストアルバムなんかと比べるとこれはこれで個性があって面白い。

そのうちそれぞれのアーティストについても、深く紹介してみたいと思います!
ところで、インドにも増してさらに謎なのは、Best Japan Act.
今年のノミネートはLittle Glee Monster、Daoko、Glim Spanky、水曜日のカンパネラ(英語名称はWednesday Campanella)、Yahyelで、受賞はLittle Glee Monsterだって。
別に異存はないけど、インド系移民はヨーロッパにも多いのでBest India Actはまあ分かるとしても、Best Japan Actはいったいどういう基準で選んでいるんだろう。
Chaiとかは入らないのか。
うーん、謎。

まあいいや、それでは今回はここまで!



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「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」

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goshimasayama18 at 23:28|PermalinkComments(0)