インドのヘヴィーメタル

2018年06月27日

メタルdeクッキング!メキシコ料理編(しかも健康に良い) Demonic Resurrection!

ここのところちょっと重めの(内容の濃い)記事が続いたので、今回は軽めの内容で行きたいと思います。
軽めといっても音楽的には重め!
今回は北東部ミゾラム州のデスメタルバンド、我らが Third Sovereignが出演している謎の音楽番組を紹介します!

Third Sovereignに関しては、こちらの彼らへのインタビュー記事をどうぞ。
デスメタルというコアな音楽性ながら、このブログ史上最多の「いいね!」を獲得した人気記事となっております。
インドの音楽シーンを見ていくうえで非常に大事なことを語っているので、メタルなんか聴かないよという人も是非ご一読を!

さて、本日紹介する番組は、その名も「Headbanger's Kitchen」
内容はというと、「ヘビーメタル・クッキングショー」という、かなりシュールというか意味不明なもので、メタラーっぽい料理人が大真面目に料理の作り方を披露するという訳のわからなさ。
毎回インド国内や海外のいろんなミュージシャンを招いて料理とメタルを紹介するという、おそらく世界でも唯一無二の番組だ。
インドでも、メタルという過激で暴力的な音楽を、料理という日常的で家庭的なものと対比させて面白がる、っていうメタ的な楽しみ方が成立するほどに、音楽の聴き方が成熟しているってわけだ。

Third Sovereignがゲストとして出演しているこの回で紹介される料理は「Necro Chili Con Carne」(暗黒チリ・コン・カルネ)とのこと。
なんじゃいそりゃ、と思うけど、その模様はこちらからどうぞ。


見てもらうと分かるが、このネクロ・チリ・コン・カルネ、別にThird Sovereignにちなんだ料理というわけでもなく、バンドのメンバーがいっしょに料理をするというわけでもなく、もっぱら司会の男性が一人で進行。
意外にも料理のコーナーはこれといったおふざけもなく、肝心のメタルの要素もないまま極めてまっとうに進んでゆく。

で、料理のコーナーが終わると今度はいよいよ司会の男性によるThird Sovereignへのインタビューが始まる(11:05頃から)のだが、このインタビューも、作った料理を食べながらするわけでもなく、好きな食べ物の話題が出るでもなく、今度は料理のことなんか忘れてしまったかのように普通のインタビューが始まり、ますますわけのわからなさが募る展開となっている。
インタビューでいちばん右に座っているインド訛りの少ない流暢な英語を話している男性が、このサイトでインタビューさせてもらったVedant.
この映像を見て、アタクシのインタビューのときは分かりやすいようにずいぶんゆっくり話をしてくれていたんだなあ、と再認識した。
彼はそういう気配りがさりげなくできる男です。

気になって調べてみたところ、この司会の男性はなんとムンバイのシンフォニック・デスメタルバンド、Demonic Resurrectionのヴォーカリストを務めるSahilという人物だということが判明!
Demonic Resurrectionはなかなか個性的なバンドで「いつか紹介したいアーティスト」のリストに入れていたのだけど、こんなところでこんな形で会ってしまうとは…。
でもせっかくなので紹介すると、彼らはドイツの有名なメタル系フェス、ヴァッケン・オープンエアにも出たことがあり、この5月にも英国ツアーを成功させた国際的にも高く評価されているバンドだ。
ヴァッケン出演時の模様がこちら。



この番組紹介の映像で、「キート、キート(Keto)」と連呼しているので何かと思って調べてみたら、どうやらこれは日本では「ケトン食」と呼ばれている健康食のことらしい。
「ケトン食」とは、もともと小児難治性てんかんの治療のために開発された食事法で、糖や炭水化物の摂取を大きく制限してエネルギーの多くを脂肪やたんぱく質から取るというもの。
日本でも流行った「低炭水化物ダイエット」「ロカボ」にも似たもののようだが、検索すると、日本でも「ケトン食ががんを消す」とか、「奇跡の食事療法」といった本も出版されており、世界中に熱心なファンがいる健康法のようだ。
で、その熱心なファンのインド代表がこのDemonic ResurrectionのヴォーカリストのSahilということのようで、この番組は単なるメタルと料理のミスマッチを狙ったバラエティー番組ではなく、このケトン料理のレシピを視聴者の健康のために紹介するという、非常に真面目な使命を持ったもの(にメタルアーティストのインタビューも入っている)なのだ。
インド料理はチャパティーや米、ジャガイモなどで炭水化物過多になりやすいと言われているのだが、まさかデスメタルバンドのヴォーカリストが食事療法を通してインドの健康状況改善に取り組んでいるとは思わなかった。
インドのデスメタルシーン、奥が深すぎる…。

さらに謎なのは、Sahilが紹介しているレシピがチリ・コン・カルネだということ。
チリ・コン・カルネは米南部テキサス州からメキシコあたりで食べられている、いわゆる「テックスメックス」料理で、英語風にチリ・コン・カンと呼ばれることもある。
そのメキシコ料理(と番組では紹介されている)のチリ・コン・カルネを、サヒールさん、インドでは手に入りづらいと言いながらアボカドを使ったワカモレを作ったり、かなり本格的な作り方でクッキングしているではないか。
食に関しては一様に保守的と言われているインドで、何故に遠く離れたメキシコの料理なのか。

謎を解くカギは、「新版 インドを知る辞典」(山下博司・岡光信子著)という本の中に見つかった。
この本の中の最近のインドの夕食事情についての記述で、こんなことが書かれていた。
「都会の裕福な家庭では、インド料理だけでなく、時には中華料理、メキシコ料理、タイ料理、西洋料理なども並べられる」
なんと、家庭でよく食べられる外国料理の2番目にメキシコ料理が来ているではないか!
1番目が地理的にも近く、世界的にも美食とされている中華料理なのは分かるとして、その次に遠く離れたメキシコ料理。
これは日本でいうとイタリア料理あたりのポジションということだろうか。
でもよく考えてみたらインド料理で欠かせない唐辛子も、サモサ等でよく使われるジャガイモも、もともとは中南米原産。
香辛料をたくさん使うという共通点もあるし、メキシコ料理はじつはインド人にとってかなり馴染みやすいものなんじゃないだろうか。
と思ってデリーやムンバイのメキシカンレストランをググってみたら、あるわあるわ。
しかも、メキシコ料理専門店だけじゃなくて、「インド料理とメキシコ料理」とか、「イタリアンとメキシコ料理」みたいなお店がたくさんヒットする。
ムンバイに暮らすインド人の友人に聞いてみたところ、「ナチョスやケサディーヤ、タコスやブリトーは一般的だよ。インド風に料理されたものだけどね。裕福な人は専門店で本物のメキシコ料理を食べてるんじゃないかなあ」とのこと。
おお!インド風にアレンジまでされているなんて、まさに日本でいうところのイタリアン、たらこスパゲッティーやナポリタンを彷彿とさせるじゃないか!

ちなみに大航海時代に中南米原産の唐辛子(チリ)がインドに渡ってきて料理が発展していった様子は「インドカレー伝」(リジー・コリンガム著、東郷えりか訳)という本に詳しい。
食に関しては戒律や浄・不浄の概念のせいで保守的と言われるインド人だが、じつはとっくの昔に食のグローバリゼーションを成し遂げていた、とも言えるわけだ。

さらに余談だが、メキシコで伝統的なコーヒーの飲み方の「カフェ・デ・オジャ」といえば、コーヒーにシナモンを入れたもののことを指す。
シナモンは南アジア原産の香辛料。
中南米原産の唐辛子がインドの料理で、南アジア原産のシナモンがメキシコの飲み物でそれぞれ欠かせないものになっている、っていうものなかなかに面白い話なのではないかと思う。

話を番組に戻すと、もうひとつ驚いたのは、このレシピに牛肉が使われていること。
ご存知のとおり、インドでは人口の8割がヒンドゥー教を信仰している。
ヒンドゥー教において牛は「聖なる動物」とされており、殺したり食べたりすることに対する忌避意識は相当に強いものがある。
とくに、ヒンドゥーナショナリズム的な傾向が高まっている昨今では、牛の屠殺を禁じる法律が州議会で可決されたり、牛肉を所持していたイスラム教徒が集団リンチにあったりするという事件も起きている。
田舎だけではなく、Demonic Resurrectionの本拠地、大都会のムンバイでも起きていることだ。
その中で、あえて(それもさも普通のことのようにしれっと)牛肉を使った料理を紹介するっていうのは、じつはすごく勇気がいることなんじゃないだろうか。

この「チリ・コン・カルネ(chili con carne)」はもともとはスペイン語で、conは英語のwith、carneはmeatを意味している。
このカルネは本場メキシコやテキサスでも必ずしも牛肉である必要はなく、鶏肉でも良いとされている。
何故そこを、あえてそこを牛肉で行くのか?

もちろん、牛肉のほうが美味しい(少なくとも、Sahilにとっては)ということなのだろうが、本当にそれだけだろうか。
これは完全に想像だが、Third SovereignのVedant がインタビューで言っていたように、彼らメタルミュージシャンにとってはヘヴィーメタルこそが宗教というか信念の拠り所であって、既存の宗教による規範になんてとらわれねえぞ!という意識が働いているの可能性はないだろうか。

Sahilが所属するDemonic Resurrectionの曲の中には、こんなふうに冒頭で神の実在や慈悲を否定しているものもある。

(男塾の民明書房風に書くと、この曲はマツヤというタイトルだが、牛丼をテーマにした歌ではなく、だから番組でも牛肉を食べているのでないことは言うまでもない)

冒頭の語りに続いて始まるシタールとメタルサウンドの融合がシビれる!
しかもそれが単なる意外性だけで終わらずに、ドラマチックな曲調の中で非常にうまく使われているのが印象的だ。
冒頭で神の権威を否定している一方で、歌詞にはヒンドゥー教的な単語もずいぶん出てくる。
が、大事なのはダルマ(Dharma=法、理ことわり)であって、様々な神々はその多様な側面を表したものに過ぎない、というのもまたインドの哲学の一部。
これはこれで非常にインド的なメタルと言えるのではないだろうか。


また別の曲では、ヒンドゥーの神々がばんばん出てきて、もう完全にヴェーディックメタル
(ヴェーディックメタルについてはこちらをどうぞ)
デス声以外の部分も多く、ドラマティックにインド神話の世界創造を歌った壮大すぎるテーマのメタル組曲だ。
思うに、彼らは曲を書くにあたって、ヘヴィーメタルにふさわしい題材として、インドの伝統であるヒンドゥーの神話世界を扱ってはいるものの、ヒンドゥー教という宗教を生活の規範にしようというつもりはさらさらない、というスタンスで活動しているのではないだろうか。

それから、つい歌詞や背景の分析が長くなってしまったけど、ブルータルだったりテクニカルだったりするデスメタルバンドが多いインドのメタルバンドの中で、Demonic Resurrectionのドラマチックかつシンフォニックなサウンドは非常に個性的で面白い。
楽曲もよくできていて、演奏レベルも非常に高く、欧米でツアーができるほどに人気があるのもうなづける。
日本でももっと人気が出てよいタイプのサウンドじゃないだろか。


それにしても、この動画のトップ画像を見ていたら、最近ちょっと太り気味のアタクシもケトン食やってみようかな…という気持ちになってきてしまった(内容は、体重の数字だけじゃなくて、トータルの健康に気を配れ、っていうみんなが言うやつなんだけど)。
糖質や炭水化物の摂取をやめると初めのうちはイライラすると聞くが、そんなときに彼らのデスメタルを聴けば気分もすっきりするかもしれない。
余計怒りが込み上げてきて何かを破壊したくなるかもしれないが。 

ああ、今回も軽い話題のつもりがずいぶん長くなってしまった。
楽しんで読んでもらえたら良いのだけど。
それでは今日はこのへんで! 

goshimasayama18 at 23:11|PermalinkComments(0)

2018年06月09日

アルナーチャルのメタル・ブラザー、Tana Doniの新曲!

まだこのブログが海のものとも山のものともつかなかった頃(今でもそうですが)、いちばん初めにインタビューに答えてくれたインド北東部の最果て、アルナーチャル・プラデーシュ州イタナガルのギタリスト、Tana Doniが在籍するデスメタルバンド、Sacred Secrecyが新曲2曲を発表した。

SacredSacrecy

当時はAlien Godsというバンドのギタリストとしてインタビューに答えてくれたが、現在は自らがギターとヴォーカルを務めるこのSacred Secrecyというバンドでライブを重ねており、Sacred Secrecyのスタジオレコーディング音源としてはどうやらこれが最初のリリースとなる模様。

今回リリースした曲は、"Leech" (見慣れない単語なので調べてみたら、意味は"蛭")と"Shitanagar".
どちらもブルータルでグルーヴィーなデスメタル!
速さやテクニカルに走るバンドが多い中で、このスタイルは逆に新鮮に響くのではないだろうか。

"Shitanagar"


曲はこちらのサイトReverbNationから視聴&無料ダウンロード可能なので、メタルヘッズのみなさんはぜひ聴いてみてください。

"Shitanagar"は、彼のホームタウンのイタナガル(Itanagar)にクソのShitを合わせたタイトルで、無理やり訳せば「クソナガル」か。
辺境の田舎町で暮らさざるを得ない彼の気持ちが歌われており(というか咆哮されており)、以前聞いたところによると、

俺たちはクソの川から水を飲む…
気づかないままクソまみれの穴の中で暮らす…
クソの上で転がっているのに幸せだと思っている連中…
ブタのほうがまだ清潔なくらいだ…
クソナガル…


といった歌詞。

ワタクシからはさすがに行ったこともない街をここまでディスるのは憚られるが、閉鎖的な田舎の小さな街でデスメタルみたいなコアな音楽を演奏する彼の焦燥感やある種の絶望感は想像に難くなく、むしろパンク的なアティテュードの曲だと言える。
厭世的な歌詞を極端に激しいサウンドに乗せることで憂鬱をぶっとばす、というのはパンクロック以降に発明された退屈への特効薬だ。
こういうタイプの(まあ表現はずいぶん過激だが)屈折した故郷への感情は、かえって国や地域を問わない普遍的なものなんじゃないだろうか。

ところで手前味噌でなんだけど、Tanaへのインタビューに至る、インド北東部のメタル事情を巡る一連の記事は結構面白いと思うので、改めてリンクを貼っておきます。

まずはイントロダクション。インド固有?の神話メタル、ヴェーディック・メタルについてはこちらから
インド北東部はもしやメタルが盛んなのでは?という疑惑と推論の記事はこちらから
記念すべき当ブログインタビュー第一弾、Tanaへのインタビューはこちらから
やはりインドの北東部はメタルが盛んみたいだ、という統計と分析はこちらから
忘れた頃に返事が来た、ミゾラム州のメタルブラザーVedantのバンド、Third Sovereignについてはこちらから
Third SovereignのVedantへのインタビューはこちらから 
デスメタルばっかりじゃないぜ。シッキム州のハードロックバンド、Girish and the Chroniclesの紹介はこちらから
そのGirishへのインタビューはこちらから

うわ、こんなに書いてたのか。
たぶん、インド北東部のメタル事情に関しては、俺が日本でいちばん詳しいんじゃないかと思うよ。
これからも、こんなもの好きなこのブログをヨロシクお願いします。 

goshimasayama18 at 00:24|PermalinkComments(0)

2018年05月03日

Girish and the Chronicles インドのロックシーンを大いに語る!

以前予告していたように、インド北東部シッキム州出身のハードロックンロールバンドGirish and the Chronicles(以下「GATC」)にインタビューを申し込んだところ、ありがたいことに二つ返事で引き受けてくれた。
今回はその様子をお届けします。 

ちょうど彼らがドバイへのツアー中だったので、メールインタビューという形になったのだが、音楽への愛、インドやシッキムのロックシーンについて、存分に語ってくれた。(そして例によってそれがまたいろいろと考えさせられる内容だった)

 

インタビューに移る前に、
Girish and the Chronicleの音楽を紹介したページはこちら
インド北東部のヘヴィーメタルシーンについてはこちら
(今回のGATCの故郷シッキムは、ここで紹介している「北東部7姉妹州」には含まれていないが、地域的にも非常に近く、非アーリア系の東アジア系の人種が多いこと、いわゆるインド文化の影響が比較的薄いことなど、7姉妹州とよく似た状況にある。デスメタルバンドAlien Nation, Sacred SecrecyのTanaや、Third SovereignのVedantへのインタビュー記事も良かったらどうぞ)

インド北東部地図NEとシッキム インド北東部地図拡大
シッキム州と7姉妹州との位置関係はご覧の通り。南北に長いウエスト・ベンガル州に隔てられているが、一般的には7姉妹州同様に「インド北東部」(地図上の赤く塗られた部分)として扱われる。ちなみにシッキムと7姉妹州の間の空白には、ブータンがある。

前置きが長くなった。
インタビューに答えてくれたのは、バンドの創設者にしてフロントマン(ギター/ヴォーカル)のGirish.
質問に答える前に、こんなありがたいメッセージを寄せてくれた。

「まず最初に、コンタクトしてくれてありがとう。
何よりも、日本は僕にとってもバンドのメンバーにとっても、ずっと夢の場所だったってことを言わないといけないね。僕らはブリーチやNARUTO、ドラゴンボールZみたいなアニメの大ファンなんだ。
このインタビューのおかげで君の美しい国と僕らが近づける気がしてうれしいよ。」

とのこと。

ありがとう!
それではさっそくインタビューの様子をお届けします!


凡「今プレイしているような音楽には、いつ、どんなふうに出会ったの?Facebookでは、レッド・ツェッペリン、AC/DC、ディープ・パープル、ガンズ・アンド・ローゼス、エアロスミス、ブラックサバス、ジューダス・プリースト、アイアン・メイデンをお気に入りとして挙げているよね。最初に聞いたバンドはどれだった?

G「最初に音楽に真剣に向き合おうって気持ちにさせてくれたバンドはイーグルスだな。とくに彼らの曲”Hotel California”だよ。そのあと、もっといろんな音楽とかもっとヘヴィーな音楽を聴くようになった。Bon Jovi、Aerosmith、Iron Maiden、Judas Priestとか、もっと他にもたくさんあるけど、彼らには歌うことに関しても影響を受けたよ。そのあとでもっとブルース色のある音楽を聴くようになった。たとえばツェッペリンとか」

イーグルスから80年代のメタル、ハードロックに進んだあと、さらに現代的な方向には進まずに、また70年代のツェッペリンに戻ったってのが面白い。
また、Girishの好みが一貫してメロディーを大事にするバンドにあるということも印象的だ。GATCの音楽性からも分かることだが、「スラッシュメタル以降」のヘヴィーミュージックは好みでは無いようだ。

次に、以前から気になっていた、シッキムはロックが盛んなのか?という質問をしてみた。

 

凡「地元シッキムのロックシーンについて教えて。じつは20年前にシッキム州のガントクやルムテクに行ったことがあるんだ。その頃、インドの中心地域(メインランド)ではロックファンなんて一人も会わなかったけど、シッキムにはロック好きが何人かいたのを覚えてる。シッキムではメインランドよりもロックが盛んなの?」

G「そうだな。20年前はその傾向がより顕著だったと言えるかもしれない。子どもの頃、素晴らしいロックのカセットを何本か持ってたってこととか、Steven Namchyo Lepcha率いるお気に入りのバンドCRABHのライブを見たのを覚えてるよ。
僕が思うに、シッキムだけってよりも、シッキムを含む北東部全体について考える必要があるんじゃないかな。シッキムよりも、メガラヤ州とか、ナガランド州にはこういう音楽の有名なプロモーターがいて、すごくいいフェスティバルを開催していたりするよ。
でも最近はエレクトロニック・ミュージックやボリウッドに国じゅうが侵略されてしまっていて、悲しいことにこういうタイプの音楽はずいぶん減ってしまったよ。僕の周りで今でもこういう音楽に携わっている場所はほんの一握りになってしまって、シッキムでさえも、崖っぷちだよ。いくつかの熱心なアーティストやバンドがシーンを生き長らえさせているって感じさ。僕らもそのうちのひとつだけど、実をいうと僕ら最近はバンドとしては拠点をバンガロールに移しているんだ。裕福な街だし、優れたロックミュージシャンや大勢のオーディエンスもいるからね」

これは皮肉な話だ。

インターネットの発達で音楽を取り巻く状況は大きく変わり、どこにいてもいろんな場所の音楽に触れられるようになった。

だからこそ、日本にいながらこうしてインドのロックを聴くことができて、「インド北東部は昔も今もロックが盛んだなあ!」なんてことを見つけることができるのだけど、当のインド北東部では、いろいろな音楽を聴けるようになったことで、かえってインド中心部の音楽文化の影響が強くなり、地元のシーンは風前の灯火になってしまった。そして彼らは北東部を離れ、南部の大都市に拠点を移した。
グローバリゼーションによる文化の均質化の光と闇といったら大げさだろうか。 

次に、インドではとても珍しいと感じていた、彼らのようなハードロックのシーンについて尋ねてみた。

 

凡「最近インドのメタルバンドをいろいろ聴いているんだけど、デスメタルタイプのバンドが多いよね。GATCみたいなハードロックンロールタイプのバンドは他にもいる?ケララのRocazaurusは知ってるんだけど」

G「僕が知ってるのは、Still Waters(シッキム州ガントク)、Gingerfeet(ウェストベンガル州コルカタ)、Thermal and a Quarter(カルナータカ州バンガロール)、Skrat(タミルナードゥ州チェンナイ)、Soulmate(メガラヤ州シロン)、Mad Orange Fireworks(バンガロール)、 Perfect Strangers(バンガロール)、Junkyard Groove(チェンナイ)。もっと古いバンドだと、Parikrama(デリー、91年結成)、Motherjane(ケララ州コチ、96年結成)、Baiju Dharmajan(コチ出身のギタリストで元Motherjaneのメンバー)Syndicate(ゴア?)、Pentagram(マハーラーシュトラ州ムンバイ、1994年結成)、Indus Creed(ムンバイ、1984年結成!)がいる。最近じゃもっといろんなバンドがいるよ。

と、たくさんのバンドを挙げてくれた。

チェックしてみたところ、これらのすべてがGATCのようなハードロックというわけではなく、レッチリやデイヴ・マシューズ・バンドに影響を受けたバンドもいれば、ファンク系、ブルースロック系のバンドもいる。
共通しているのはいずれも「90年代以前の洋楽」的なサウンドを志向しているバンドだということだ。Baiju Dharamjanだけはもっとインド古典色の強いプレイスタイルだが、GirishとはSweet Indian Child of Mineというガンズのインド風カバーで共演している。



凡「楽曲を書くとき、特定の昔のバンドをイメージしてたりする?たとえばGATCの曲のなかで”Revolving Barrel”はツェッペリンっぽいし、”Born with a Big Attitude”はガンズみたいに聴こえるよね。パクリだって言いたいわけじゃなくて、影響を受けたバンドへのオマージュってことなの?」

G「うん、まさにそうだよ!アルバム全体が(註:2014年にリリースしたアルバム”Back on Earth”のこと)小さい頃に聴いてきたバンドへのトリビュートなんだ。実際、アルバムカバーのイメージはアイアン・メイデンへのオマージュで、タイトルそのものはオジー・オズボーンの曲から取ったんだ。
最近のキッズはこういったバンドを全然しらないからびっくりしていたんだ。だから僕らがこういう音楽に夢中になったように、彼らにも素晴らしい気分を味わってもらうっていうのはいいアイデアだと思った」

GATC_BackOnEarth 

なるほど。確かにアイアン・メイデンのマスコット的キャラクター、エディーを思わせるジャケットだ。
オジーの曲で“Back on Earth”というのは聞いたことないぞと思って調べてみたら、1997年リリースのベスト盤”Ozzman Cometh”収録の未発表曲だった。マニアックなところから持ってくるなあー。

引き続き、彼らが影響を受けたバンドについて聞いてみよう。

凡「オリジナル曲も素晴らしいけど、GATCのカバー曲もとても良いよね。とくに、AC/DCのマルコム・ヤングのトリビュート・メドレーは最高!今じゃマルコムは亡くなってしまって、ブライアン(ヴォーカリスト)はツアーから引退してしまったけど、AC/DCの思い出があったら聞かせてくれる?

G「AC/DCから逃れる方法はひとつも無いみたいだな。ハハハ。最近のバカテクなギタリストやバンドは、彼らのヴォーカルやギターのスタイルがすごく難しいことを理解しようとしないで、彼らがやっていることを単純だと思って無視してるみたいだけどね。僕が言いたいのは、僕らの世代にとって初めて聴くハードロック・アンセムは、いつだって「Highway to Hellだってことさ。
実際、2009年から僕らはAC/DCをシンプルでタイトなリフのお手本にし始めた。昼も夜もホテルの部屋でずっとAC/DCの曲をジャムセッションしていたものさ!」


まわりの部屋の人たちはさぞうるさくて迷惑だったはずだ。
ちなみに「バカテクなギタリスト」と訳した部分、実際はGuiter Shredderという言葉を使っていた。
”Highway to Hell”は1979年にリリースされたAC/DCのアルバムのタイトル曲だから、世代的には彼らのリアルタイムであろうはずがないが、それだけ長く聞かれ続けてきた曲ということなのだろう。
インドのメインランドが自国の映画音楽ばっかり聴いている一方で、北東部では70年代の名曲をアンセムとするロックシーンが存在していたのだ。

 

凡「インドやいろんな国をツアーしてるよね。オーディエンスやリアクションに違いはある?」

G「うん。簡単に言うと、本当のロックファンはステージに立てばすぐに分かる。ロックを全く知らない人もいるけど、彼らもすぐにフルタイムのロックリスナーに変わるね」


凡「これは聴くべき、っていうインドのバンドやミュージシャンを教えてくれる?どんなジャンルでも構わないよ」

G「さっき挙げたようなバンドだな。他には、Kryptos(バンガロール)、Avial(コチ)もいる。ヴォーカリストとしては、僕のお気に入りのロックシンガーをチェックすることをお勧めするよ。Abhishek Lemo Gurung(Gingerfeet/Still Waters)、Siddhant Sharma(コルカタ)、SoulmateのTipriti、Alobo Naga(ナガランド)だね。あんまり他のアーティストを知らないんだけど。ハハハ。”Bajai De”ていうのも聴いてみるといいよ。これはインドじゅうのいろんな地域のギタリストのコラボレーション動画なんだ」

Kryptosは、Girishが挙げたバンドの中で唯一スラッシュ/デスメタル的なスタイルの(つまり、ヴォーカルが歌い上げるのではなく、がなるようなスタイルの)バンドだが、リフやサウンドそのものは「スラッシュメタル以前」の非常にクラシックなスタイルのユニークなバンドだ。ドイツのヴァッケン・オープンエアー・フェスティバルでの演奏経験もある実力派でもある。
AvialはMotherjaneを脱退したギタリストが作ったバンド。

“Bajai De”、これはギターをやっている人には面白いかもしれない。


凡「インドのライブハウスとかお店とかで、ロックファンは絶対行かなきゃ、って場所を教えてくれる?バンガロールでもガントク(シッキム州の州都)でも他の街でもいいんだけど」

G「知ってるのはライブハウスくらいだけど、お気に入りを挙げるなら、こんな感じかな。
バンガロール: B flat、Take 5、 Hard Rock Café、The Humming Tree
ガントク: Gangtok groove、 cafe live and loud
コルカタ: Some Place Else
シリグリー: Hi spirits
プネー: Hi spirits、 Hard Rock Cafe
インドで見るべき素晴らしいフェスティバルとしては、どこの街でもいいけどNH7 Weekender(註:このフェスはいろんな街で行われている)、Bangalore Open Air、ナガランドのHornbill Festivalかな」

インドを訪れる機会があればぜひ立ち寄ってみてほしい。
NH7 WeekenderはOnly Much Louderというプロモーターがインドじゅうのいろいろな街で行っているフェスで、洋楽ハードロック/ヘヴィーメタルではスティーヴ・ヴァイ、メガデス、フィア・ファクトリー等が出演してきた。他のジャンルでも、モグワイ、マーク・ロンソン、ベースメント・ジャックス、ウェイラーズ等、多様なジャンルのトップアーティストを招聘している。Hornbill Festivalは、伝統行事やスポーツやファッションやミスコンなどを含めた、毎年12月に10日間にわたって開催されるお祭りで、その一環としてHornbill International Rock Festivalが行なわれている。80年代〜90年代に活躍した欧米のバンドも多く参加しており、非常に面白そうなので、このブログでも改めて取り上げる機会を持ちたい。

 

凡「今のインドのロックシーンについて教えてくれる? 僕が思うに、多くのバンドが自分たちで音楽をリリースしているよね。インディーズレーベルと契約するようなこともしないみたいだけど、実際どう?」

G「そうだね。とくに英語でパフォームするバンドについてはそうだと言える。もしレーベルとの契約にサインしたとしても、なにかメリットがあるとは思えないしね。実際、熱心なバンドにとっては支障になるだけだよ。うん、誰もレーベルと契約することなんて気にしちゃいないね。
僕らはしたいことをするだけだし、それでどうなるかも分かってる。英語じゃなくて、地元の言語とかヒンディー語で歌ってるバンドについてはもちろん別の話だと思うけど」

 

なるほど。レーベルというのは形のあるCDやカセットテープを流通させるためのもの。
より地域に根ざした地域言語で歌うアーティストならともかく、インド全土や世界中をマーケットとすることができる(=英語で表現する)アーティストにとっては、自分たちでインターネットを通じて楽曲をリリースするほうが効率的かつ効果的なのだろう。
物流が未成熟であるというインドの弱点が、インディーズレーベルさえも不要という超近代的な音楽流通形態を生み出しているのかもしれない。
実際、GATCのような70〜80年代的なハードロックというのは、現代のシーンの主流ではないし、また今後ふたたび主流になることも難しいジャンルだとは思うが、インドじゅう、世界中を見渡せばそれなりに愛好者はいるジャンルだ。
レーベルを介することで物流に制限が生じたり、自分たちの利益が減ってしまうより、自分たちで音楽を配信するほうがメリットが大きいというのはうなずける。

 

最後にGirishはこんなことを言ってくれた。

G「アリガトウゴザイマス!夢は叶うっていうけど、僕らの夢は日本でライブをすることなんだ。それから次のアルバムはヒマラヤのエスニックな要素とロックが合わさったものになるってことも伝えたいよ」

どこまでもロックを愛する好青年なGirishなのだった。
ところで、Girishが教えてくれたバンドを1つ1つチェックしてみて、感じたことがある。

それは、インターネットの発展とロックの普及がほぼ同時に起こったインドでは、「ロックは時代とともに変化してゆくジャンルでは無い」ということ。

どういうことかというと、プレスリーやビートルズから樹形図のように表される発展を経て「今のロック」があるのではなく、インドのシーンではこれまでの時代に生まれて(そして消えて)きた様々なジャンルが並列に、平等に並べられているということだ。

インドではロックの歴史は流れずに積み重なっている(ちょうど「百年泥」のように!)。
70年代のロックも、90年代のロックも、2000年以降にインターネットといっしょに同時にやってきたからだ。
その積み重なったロックを横から眺めて、めいめいのバンドやミュージシャンが、自分の気に入った音楽を選び取って演奏している。

そのことは、例えばRolling Stone Indiaのような尖った雑誌が選んだ2017年のベストアルバムのうち、1位がヒップホップアーティスト、2位がジェフ・ベック風ギターインスト、6位がデスメタルというラインナップであることからも伺える。
「その時代のサウンド」であるかどうかよりも、「良いものは良い」として評価されているのだ。

もちろん、過去のロックに非常に忠実なサウンドを演奏するバンドは他の国にもいるが、欧米や日本では、彼らはよりマニアックなシーンに属している。
でも、インドの場合、シーンがまだ小さいが故に、ひとつの大きな枠組みの中であらゆるバンドを見ることができる。
欧米の音楽シーンとは地理的にも文化的にも距離があるということも、こうしたシーンの特殊性の理由のひとつだろう。

そして、インドの地理的な広大さ、文化的な多様さが、80年代の享楽的なロックに共感する人も、90年代の退廃的なロックに共感する人も、2000年代以降のよりモダンな音楽に惹かれる人も共存しうる稀有なシーンを作り出している。

外から眺めると、それはむしろ健全なことのようにも思えるのだけど、その中で演奏するアーティストにとっては、依然としてメインストリームである映画音楽などの存在が大きく、厳しい状況であるようだ。

 

GATCもまた、自分たちが大好きな音楽をただひたすらに演奏するミュージシャン。
バンドメンバー、とくにヴォーカルのGirishの力量は非常に高いものを感じる。
彼らが演奏しているようなジャンルがインドでも世界中でも主流ではないとしても、愛好家はあらゆる国にいるだろう。
ドバイ等のツアーも成功させている彼らではあるが(ドバイはインド系の移民労働者も多く、ドバイでのオーディエンスが地元の人中心だったのか、インド系移民中心だったのかは気になるところだ)、より多くの国や地域の人々に受け入れられることを願わずにはいられない。

 

それでは今日はこのへんで!



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2018年04月30日

なんと!インドのデスメタルバンドが来日!

このブログでも度々取り上げてきたインドのデスメタルだが、Rolling Stone Indiaによると、ムンバイのブルータルデスメタルバンドのGutslitが、同誌の2017年ベストアルバム第6位に輝いたアルバム"Amputheatre"(全ジャンルの年間ベストアルバム6位にデスメタルが入るってすごくない?あとどうでもいいけどシアターの綴りに旧英領を感じる)を引っさげて9月からアジアツアーを行うとのこと。
そのツアーには、なんとここ日本も含まれている!
インドのメタルバンドとしては、いや、ひょっとしたらロックバンドとしても初の来日公演ではないだろうか?

"Amputheatre"収録の彼らの曲を改めて紹介します。"Scaphism"

わりと古典的なデスメタルのスタイルだけど、演奏もタイトでめちゃくちゃレベル高い!
あとベーシストがシク教徒なのだろうが、しっかりとターバンをかぶっているのだけど、音楽性に合わせて色は黒!というところもかっこいい。

今回の来日はドイツのデスメタルバンドStillbirthとのスプリットツアーとなるようで、その名も"Gutted at Birth"ツアー!(Cannibal Corpseの名盤"Butchered at Birth"のパロディか?いずれにしてもジャンルに違わない悪趣味さ!)
ツアー先は、ドバイ、母国インド、ネパール、タイ、ベトナム、マレーシア、シンガポール、インドネシア、フィリピン、そして日本と韓国での公演が予定されている!
GutslitTour

彼らのFacebookページによると、日程は以下のとおり。

21st September Friday - DUBAI 

22nd September Saturday - TBA

23rd September Sunday - MUMBAI, INDIA

24th September Monday - DELHI, INDIA

25th September Tuesday - NEPAL

27th September Thursday - CAMBODIA

28th September Friday - Ho Chi Minh, VIETNAM

29th September Saturday - TBA 

30th September Sunday - TBA 

1st October Monday - TBA 

2nd October Tuesday - Manila, THE PHILIPPINES

3rd October Wednesday - Cebu, THE PHILIPPINES

4th October Thursday - TAIWAN

5th October Friday - Tokyo, JAPAN

6th October Saturday - SOUTH KOREA 

7th October Sunday - Bangkok, THAILAND

日本公演は10月5日、東京のみ。
それはそれとして、おいおい、いくらなんでも日程、タイト過ぎないか?
現時点で未定のところを含めて、17日間で16公演!
これ、演奏無しで移動だけでも結構きついスケジュールだと思うが、さらに各地で激しいライヴを繰り広げるって、なんだかほとんど自殺行為って気が…。

彼ら自身もそれは分かっているようで、バンド創設メンバーのベーシスト、Gurdip Singh Narang(黒ターバンでキメていた彼だ!)はRolling Stone Indiaのインタビューに、
「こんなにタイトな日程でスケジュールを組むなんて、俺たちはキンタマがすわってるだろ。ちゃんと全ての国に機材と一緒に降り立ってプレイできるように、いろんな国の航空会社を信頼するってことさ」
と語っている。
どうやらヨーロッパツアーを終えて自信をつけたようで、Gurdip曰く、
「なぜって、俺はプロモーターを信用してるし、俺は100%有言実行だ。いつもと同じように、考えに考えて計画した通りにやるだけさ」とのこと。
自信満々、頼もしい。かっこいい。

と思ったら、このツアーはクラウドファンディングで成り立っていて、見てみたらまだ予定の金額の10%くらいしか集まっていないみたい…。

大丈夫か?とちょっと心配になるところだが、正直に言うと、超過密なツアースケジュールといい、資金面での見切り発車といい、こういう行き当たりばったりな感じ、理屈抜きでもう最高!って思ったよ。
海外にツアーするようなバンドになると、万が一の間違いもないように綿密に計画されたスケジュールで動きそうなものだけど、本来、ロックンロールバンド(彼らはデスメタルだけど、あえてこう言わせてもらう)のツアーなんてこういうものでもいいんじゃないだろうか。
自分の大好きな音楽をいろんな場所で演奏するために、楽器をバンに詰めてひたすらドサ回り。
海外ツアーだからって姿勢は変わらない、そのバンが飛行機になっただけ。
やるほうは大変だろうけど、なんていうか、こう、夢があるよな。
ボロボロになるかもしれないけど、これがやりたいんだ!っていう熱さがびんびん伝わってくる。

もちろん「そんなのはきれいごと。各地で待つファンをがっかりさせないよう、最高のパフォーマンスをするためには無理は禁物!」っていう意見もあるだろう。
でもさあ、これだけいろんなことがきっちりしちゃってる世の中で、こういう行き当たりばったり&気合で乗り切る!みたいなツアーをするバンドがいるって、ものすごく素晴らしいことなんじゃないだろうか。

いつもインドのロックバンドのことを「インドじゃ楽器買えるのは富裕層だけ」みたいに書いているけど、生半可な根性じゃこんなツアーできないよね。
確かに彼らは裕福な家庭に生まれたのかもしれないけど、その環境に甘えて音楽をやっているような連中じゃない(演奏レベルを見てもそれは一目瞭然)。
彼らの音楽へのハンパない情熱に最大限の敬意を表したいよ。

彼らのことを意気に感じて、ぜひ応援したい!という方はこちらから! 

Gutslitのみなさんにコンタクトしてみたところ、あとちょっとでライブ会場やなんかがはっきりするので、インタビューにも応じてくれるとのこと。
乞うご期待!
(このブログ、インタビューの告知ばっかでなかなか掲載されないけど、どうなってんの?とお思いの方もいるかもしれないけど、気長に待って頂きたく。そんなもんよ。インドも人生も…) 

インドの今までにインタビューしてきたインドのメタルアーティストのThird SovereignのVedantも、Alien Nation(Sacred Secrecy)のTanaも、日本でのライブが夢だと語ってくれていた。
何度も書いているように、こういったコアな音楽ほど国境は無い。
今回のGutslitの来日でインドのメタルバンドのレベルの高さが知れ渡り、彼らにも道が開けたら良いなと思います。 

goshimasayama18 at 21:55|PermalinkComments(0)

2018年04月14日

ついに発見!ロックンロールバンド!Girish and the Chronicles! Rocazaurus

何度も書いてきた通り、インドでロックバンドができる層は人口全体から見るとまだまだごく一部。
エレキギター、ベース、アンプ、ドラムセットと買い集めて、インドに練習用のスタジオがあるのか自宅のガレージでやるのかしらないけど、バンドでリハーサルするだけで結構な出費になることだろう。
そんなことができる彼らは必然的にいわゆる富と教養がある層ということになるので、インドではロックバンドといえばメタルやプログレハードのようなジャンルで技巧を競ったり、ポストロックでセンスと音響を磨いたりというのが主流になっている。
逆に、メタル/ハードロック系で言えばAC/DCやガンズアンドローゼス、パンクで言えばラモーンズのような、愚直こそが美学というような、直球のロックンロール系のバンドというのは極めて少ない。
パンク系のバンドでも、社会風刺的なやつだったりするしね(それはそれで良いのだけど)。

ところで、小生は愚直なロックが大好きだ。
そりゃあ、難しいことも深遠なことも表現できるのがロックの素晴らしさではあるけれども、本質的なことを言えばスリーコード、エイトビート、それさえあれば十分じゃねえか。
インド人はなぜそれが分からないのか!と歯がゆく思っていたところ、ついに見つけました。ロックンロール系のバンドを。

どちらかというとメタル寄りのバンドではあるけれども、こまっしゃくれた変拍子とか早弾きや早叩き(って言わないけど)なんてしない。彼らの目指すところは間違いなくロックンロール。
インド北東部シッキム州のバンド、Girish and the Chronicles、略称GATC!
まずは1曲聴いてください。じゃなくて聴きやがれ!その名も"Born with a Big Attitude"


GATCは2009年にヴォーカリスト兼ギタリストでソングライターのGirish Pradhanを中心にインド北東部のシッキム州結成された(シッキムは以前紹介したラッパーのUNBの故郷です)。
シッキム州で最初にして唯一の全インドツアーと海外でのライブ(調べた限り、香港や韓国、ヨーロッパのモンテネグロのイベントに参加したようだ)を成功させたバンドだという。
バンド名の頭にGirishの名前が入っていることからも分かる通り、とにかく強烈なのはそのヴォーカル!
この曲ではかなりガンズのアクセルっぽく聴こえるが、他の曲も聴いてみてもらおう。
80年代のアメリカのバンドを思わせるスケールの大きい””The Endless Road"


トラックの荷台で演奏するメンバー、バイクで旅する長髪の若者、壮大なコーラス。
インドらしからぬ非常にアメリカンな世界観。
砂漠から手を振るとそこにはオート三輪のトラックに乗ったインドの人々が!アメリカンロックとインドの遭遇といった感じのこのビデオ、好きだなあ。
こういうビデオが撮れる場所があるっていうのも、インドの広さを改めて感じる。

続いてアップテンポなナンバーはどうだ!その名も"Ride to Hell".
前奏が長いぞ。歌は2分あたりからだ!

この曲はヴォーカルも含めてMr.Bigみたいな雰囲気!

元ネタになってるバンドが分かってしまうところがちょっと微笑ましくて、次はツェッペリン風の"Revolving Barrel"


こういうバンドに欠かせないバラードもちゃんとある。"Yesteryears"


なんだろう、このまるでインドを感じさせない、中高生のころに聴いてたバンドみたいな感覚は。
彼らはカヴァー曲のセンスも最高で、AC/DC、エアロスミス、ガンズなんかを完コピしている。

全部貼ってるときりがないので、ここはアタクシが敬愛してやまないAC/DCのマルコム・ヤングに捧げるメドレーを。


ヴォーカルを含めて完コピ!
リズムでちょっとオリジナルとの違和感を感じるところもあって、それはそれで本家の偉大さを感じる。
インタビュー記事によると、影響を受けたバンドとしてLed Zappelin, Deep Purple, Black Sabbath, Iron Maiden, Judas Priest, Aerosmith, Guns and Roses, AC/DCといった70年代〜80年代のハードロックやメタル系のバンドの名前を挙げていた。(ちなみにインド国内のバンドではParikrama、Soulmateとのこと)

インド北東部の最果ての地、シッキムにこんなロックンロールバンドがいるなんてなあ、と感激していたら、おや、Youtubeの右側んとこにまた別のロックンロールっぽいインドのバンドが出てきているではないか。

彼らの名前はRocazaurus.
さっそく聴いてみようじゃないか。"The Punk". 曲はメタルだけど。


おお!これはまたゴキゲンな。
さっそく調べてみたら、彼らのFacebook のページにはこんなことが書かれていたよ。

Rocazaurus is a unique rock band. Just like dinosaurs, the genre pure rock is also getting extinct. We are not going to stand aside watch it turn into fossil. So Rocazaurus is the few among the last to keep up the spirit of rock. Musically upfront with hard rock and general metal. The band is enjoying the good times of music wonders and rediscovering process of rocking out. 
Rocazaurusはユニークなロックバンドだ。恐竜のように、ピュアなロックもまた絶滅しかけている。俺たちはロックが化石になってゆくのをただ黙って見ているつもりはない。そう、Rocazaurusはロックの魂を伝えるために選ばれし者たちなのだ。音楽的にいうと、俺たちはストレートなハードロックや王道のメタルだ。俺たちは音楽に奇跡があった良き時代とロックンロールの素晴らしさを再発見して楽しんでいるぜ。

いいなあ!なんて暑苦しい所信表明なんだ!
次は、すばらしすぎるタイトルの曲"All I Want Is Rock And Roll".


Rocazaurusはインド南部のケララ州出身のバンド。
メンバーの名前(Vocals/Lead guitar - Fredy JohnBass/Vocals - Lesley Rodriguez, Drums - Alfred Noel)を見ると全員クリスチャンのようでもある。
そうした彼らの出自がこのアメリカンなサウンドと何か関係があるのだろうか。

余談だが、ケララは大航海時代から栄えた港町のコチン(コチ)を擁する州ではあるが、この土地のキリスト教の歴史はザビエルら大航海時代の伝道師の来訪よりもはるかに古く、なんと12使徒の1人、聖トマスが西暦52年ごろにキリスト教を伝えたと言われている。
india_map州都入り
それ故に、ケララのキリスト教はもはやインド文化の一つといった様相を体していて、北東部のように特段西洋文化の受け入れに積極的といったイメージも無い土地なんだけど。
ただ、古くから教育に力を入れていた州であり、これといった産業が無いにもかかわらず安定した成長を続けた州の体制は「ケララ・モデル」として知られており、ある種の文化的近代化が(とくに人口は多いが保守的な北部の州に比べて)なされていると言えるのかもしれない。

それにしても、遠く離れたインドの北の果て(ネパールの西側)のシッキムと南の果て(最南部の西側)のケララで、インドでは珍しいロックンロール系のバンドが見つかるっていうのが面白い。
北東部の音楽的な先進性はメタルやヒップホップを通して見てきたけれども、南部ではケララにもこの手のインドらしからぬバンドがいるというのは注目に値する。
ケララは先日紹介したスラッシュメタルバンドのChaosとか、他にも気になるバンドが満載の地で、ちょっと深掘りしてみたいところだ。 

それはまたいずれ書きたいと思います。
では! 

goshimasayama18 at 21:39|PermalinkComments(0)

2018年04月05日

ケララのスラッシュメタルバンドChaosが映画音楽に進出!

前回書いたジョードプルのギャングスタラップ集団、J19 Squadにインタビューを申し込んだ件、コンタクトはできて返事は来たのだけど、具体的なアポイントには至らなくて、ひとまず「ミュージックビデオにあるようなギャングスタライフはリアルなのか、フィクションなのか」といったような質問事項を送って返事を待っているところです。
果たして進展はあるのでしょうか。
ということで今回はまた別の話題。

「哲学は神学の婢(はしため)」と言えば中世ヨーロッパの学問の序列を表した言葉だが、同じようにインドのエンターテインメントの世界を表現するとしたら、「音楽は映画の婢」ということになるだろうか。

Brodha VがFacebook上で、音楽よりも映画ばかりが注目される状況を痛烈に批判していた通り、インドの音楽シーンは、「映画音楽=メジャー」「非映画音楽=インディー」と言ってほぼさしつかえない構図になっている。
この状況下では、映画とは無関係に、ほんとうに自分の表現したいものを追求している作家性の強いミュージシャンは、いくら質が高い作品を作ってもなかなか注目されないわけで、アーティストたちが怒るのも無理のないことだろう。

ただ、だからこそというか、そうしたアーティストたちは、SoundcloudやBandcampといったサイトを通じて積極的に音楽を発信しており、またライブの場も大都市では増えてきているようで、急速に面白いシーンが形成されているのは今まで見てきた通り。

一方で、映画の側から、活気づいている音楽シーンにアプローチする例も見られ、いまやムンバイの大スターと言えるDIVINEの半生をもとにした映画が作られたり、Brodha Vにも映画の曲が発注されたりしている。

こうした傾向は、とくに人気が著しいヒップホップだけかと思っていたらそうでもないようで、映画音楽からは最も遠そうなヘヴィーメタルシーンにも映画業界が触手を伸ばしているようだ。

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つい先日、インド最南端のケララ州のスラッシュメタルバンドChaosが、Facebookでマラヤラム語(彼らの地元ケララ州の公用語)映画のための音楽を作ったぜ!と言っていたのでさっそくその曲とビデオを見てみた。
Chaos "Vinodha Jeevitham" .

いつもは英語で歌っている(っていうかがなっているっていうか)バンドだが、今回は映画に合わせてマラヤラム語の歌詞で、作詞も外部の人が手がけたようだ。
映画の曲ということで、メタルに合わせて大勢でダンスしたりしていたらどうしようと思っていたが、幸か不幸かそういうことにはなっておらず、ちょっと安心したというか残念というか、なんとも複雑な気持ちにちょっとだけなった。
この映画は犯罪映画かホラー映画のようで、不穏な感じの映像には確かに彼らの音楽が合っているように感じる。
調べてみるとS DurgaというのはSexy Durgaという意味のようだが(ドゥルガーはヒンドゥー教の戦いの女神で、この映画のヒロインの名前でもある)、Sexyという単語を使わないのは保守的な市民感情に配慮してのことだろうか。
インドでもメタルやヒップホップの歌詞では、かなり過激な表現もされているが、あくまで大衆向けのエンターテインメントである映画では、このレベルの配慮が必要ということなのかもしれない。

この映画からもう1曲。Olicholaakasham.
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Chaosは「Rolling Stone Indiaが選ぶ2017年度ベストビデオ」の10位に選ばれた "All Against All"という曲が印象に残っているバンドで、泥の中で荒くれた男たちが取っ組み合う映像に「いかにもなメタルだなあ」という感想を持ったものだけれども、歌詞やなんかを調べてみると、社会の分断や抗争といった真面目なテーマを扱っているバンドだということが分かった。

これがいつもの英語で社会を歌う(っていうかガナる)Chaos. 

生まれた場所や肌の色を理由として、国の中に差別や断絶が生まれ、全てが対立する。
というのがこの曲の歌詞の趣旨。
こうした硬派で激しい表現をするバンドに映画業界が着目したというのはなかなか面白いように思う。

余談だけど、インド映画を紹介する際によく使われる「ボリウッド」という言葉は、ハリウッドのHの代わりに映画製作の中心地ムンバイの旧名ボンベイのBを頭文字につけたことから来ていて、一般的にはヒンディー語の映画を指している。
首都デリーを含む地域で話され、インドで最も話者が多いヒンディー語映画は製作本数も多いためにボリウッドという言葉が有名になっているけれども、南インドのタミル語映画は「コリウッド」、東インドのベンガル語映画は「トリウッド」、マラヤラム語映画は「モリウッド」と、それぞれの州の都市名をもじって呼ばれることもあるようだ。あんまり聞いたことないけどね。

インドの映画と音楽をめぐる関係はまだまだ面白くなりそうなので、また気になるトピックがあったら紹介します!

goshimasayama18 at 00:21|PermalinkComments(0)

2018年02月25日

インドNo.1デスメタルバンド Third Sovereignへのインタビュー

ども、軽刈田凡平です。
さて、前回お届けした通り、今回はインド北東部ミゾラム州のデスメタルバンド、Third Sovereignへのインタビューの模様をお届けします。
thirdsovereign
今回インタビューに答えてくれたのはヴォーカリストのVedant.
彼もまたすっごくいい奴で、同い年ということも分かり、お互いが聴いてきた音楽の話からインドのメタルシーンまで、いろんな話題が出たインタビューになりました!

インタビューはWhatsappっていうアプリの通話機能で行ったんだけど、彼のアイコンは奥さん(美人!)と一緒に写ってるやつで、デス声で死や厭世的な内容を歌っている人とはとても思えなかったよ。

凡「はじめまして。今日は時間を取ってくれてありがとう」
V「こちらこそ。聞きたいことはなんでも聞いてくれ」
凡「まずはインド北東部、とくにミゾラム州のメタルシーンについて教えて」
V「 ここ3〜5年くらい、メタルバンドはすっごく増えてきてるよ。Third Sovereignは2003年にBassのJonahとReubenが始めたバンドなんだ。もともと二人はCarpathiaっていうバンドをやっていて、ジャムセッションしながら曲を作っていったんだ」
凡「そのころのメタルシーンはどうだったの?」
V「その前はComoraとか、いくつかのバンドしかいなかった。彼らは2000年ごろから活動しているミゾのカルチャーをテーマにしたバンドだよ」
Comoraは以前、インド北東部のメタルについて書いたときにも触れたバンドだ。そんなに長くやってるバンドだったとは。

V「インド全体でも、そのころはデスメタルバンドはそんなにいなかった。当時からやっているバンドで今も現役のバンドは他にいないかな。
2003年の結成当時はMalaっていうヴォーカリストとJasonっていうギタリストがいたんだけど、何度かメンバーチェンジがあって、2005年にはAnshumanっていうギタリストが加入した。俺が加入したのは2006年だ。ベースのJonahが学校の後輩で、誘われたんだ。俺も2010年に一旦バンドをやめたときがあって、そのときはDevRajというヴォーカリストが代わりに入ったんだ。設立メンバーのJonahも仕事の都合で一回バンドを離れたことがある」
凡「仕事って?」
V「彼のお父さんが小学校を経営してるんだ」

なんと、デスメタルバンドのメンバーがお父さんが経営している小学校で働くとは。これまたデスメタルのイメージと違う。

V「一回バンドはデリーに出たんだけど、デリーのスタジオが火事にあって、いろんなマテリアルが焼失しちゃったんで、またミゾラムに戻ってきた。今のメンバーはベースのJonah、ドラムのReuben、ギターのBenjaminにヴォーカルの俺」
凡「 メンバーはみんなミゾ人なの?」
V「もともとはミゾで結成されたバンドだった。でも俺はアッサム人だし、元メンバーのDevRajはシッキム人、Anshumanやヴィッキーはデリー出身のメンバーだった」
凡「なるほど。インターナショナルっていうかインターステイトバンドなんだね。メンバーのコミュニケーションは英語で?」
V「俺はミゾ語が少し分かるんだ。あとは英語だよ」

凡「ミゾのバンドとしてのアイデンティティーが曲にも生かされている?例えばブラジルのセパルトゥラは伝統的なリズムを取り入れたり、北欧のメタルバンドも伝統的なメロディーを取り入れたりしているよね」
V「 俺たちも"Sakei Ai Hla / Grave of Humanity"という曲でミゾのフォークロアを使っている。山猫を殺した男の物語だ。他にもミゾの暮らしで感じたことや考えたことが曲に生かされているよ」

確かに、言葉は分からないなりにも「土着の不気味さ」みたいなものがうまく取り入れられた曲だ。

凡「ところで、初めてメタルを聞いたのはいつだったの?」
V「90年代から00年代くらいかな。初めはグランジを聴いていた。Sound Garden, Nirvana, Alice in Chainsとかかな。あとはもっとクラシックなタイプのメタル。Skid Rowとか」
凡「ちょっと待って、歳、同じくらいじゃない?」

ここで同い年であることが判明。

凡「90年代後半にインドを旅行したんだけど、デリーとかアーグラーとかじゃロックなんて誰も聴いてなかったよ。いったいどこで聴いてたの?」
V「そうだよね、分かるよ。その頃プネーにいたんだ。だからいろんな音楽が聴けた。IITグワハティ校でも聴いてたよ」

なんと、彼はMITを超えるとも称されるインド工科大学、IIT出身のエリートだった!
グワハティは北東部のアッサム州の州都で、このあたりは以前から書いている通り、インドの中心部よりも欧米文化の影響が強いエリアだ。
ここでなら、欧米のエクストリームミュージックに触れる機会があったとしても全く不思議ではない。
また、ムンバイと同じマハーラーシュトラ州にあるプネーも多くの大学が集まる学園都市で、ここも以前から若者文化が非常に盛んな街だ。他の大都市と比べても、ロックやメタルに触れる機会は多かったのだろう。


V「その後、2000年代に入ってから友達に借りてメタルを聴き始めた。最初はIron Maidenの"X factor"、次にMegadethの"Youthanasia"、そこからPanteraの"Cowboys from Hell"、"Vulgar Display of Power"...Iron Maidenは新しいアルバムのBook of Soulsも良かったよ」

アラフォーの元メタルヘッズには懐かしいアルバムが並んでるんじゃないだろうか。

凡「そこからだんだんヘヴィーな音楽を聴くようになっていったわけ?」
V「そういうわけでもなくて、アコースティックなものとか、NirvanaやAlice in Chainsは今でも好きだし、リラックスしたいときはブルースも聴くよ」
凡「影響を受けたバンドは?」
V「もう長くやっているし、直接的に影響を受けるってことはあんまり無いんだけど、デスメタルで好きなバンドを挙げるとしたら、Cannibal Corpse、Morbid Angel、Suffocation、Deathとかフロリダのデスメタルバンドかな」

凡「ツアーについて教えて。アルバムのPerversion Swallowing SanityのあとのBlood and Rootsツアーではインドの9都市を回ったんだって?」
V「その予定だったんだけど、実は北東部の数都市しか回れなかった。主に経済的な問題と、チェンナイで大洪水が起きて、交通上の問題もあった。インドでは都市間の距離が離れているから、ツアーするのはとても難しいんだ。日本はどう?」
凡「日本だったら東京〜大阪間は新幹線で3時間くらいだから、かなりツアーはしやすい環境と言えるね」

インドに行ったことがある人なら分かると思うが、インドでは都市間の移動は近距離でも夜行列車で1泊くらいするのはざらで、こういったコアな音楽のファンが多いであろう大都市のデリー、ムンバイ、バンガロール、チェンナイ、コルカタ間を移動するなら、鉄道で2、3泊しながら移動することになる。
バンドにとって、楽器や機材を運びながらの移動は非常に困難なものになるのは想像に難くない。

V「それにメタルバンドをサポートしてくれるスポンサーや会場を探すのも難しいんだ。メタルファンはライブ会場にとっても、たくさんドリンクを注文してくれるいいお客さんってわけじゃないからね。グワハティのDavid KochやバンガロールのSalman U. Syedといった数少ないオーガナイザーがサポートしてくれている。」
凡「名前からするとDavidはクリスチャンでSalmanはムスリムなの?いろんなバックグラウンドの人が関わってるんだね」
V「Davidはヒンドゥーで、本名はDwep Jyotiっていうんだ。」

なぜさっきからバンドメンバーの出身地やプロモーターの宗教を気にしているかというと、インドのインディーズミュージックシーンに興味を持ってから、ひとつ確信を持ったことがあるからだ。
その答えは、やがてVedantによって明らかになる。

V「かつてはデリーにAmit Saigalっていう素晴らしいプロモーターがいて、彼はG.I.R.(Great Indian Rock) Festivalというイベントを主催していたんだ。Third Sovereignも出演したことがあって、ヘッドライナーはノルウェーのブラックメタルバンドのEnslavedだった」

なんと。Enslavedはアタクシも名前くらい聞いたことがあるビッグネームだ。

凡「Enslavedがインドでライブをやったの?信じられないよ」
V「ああ。2007年のことだ。Amitは素晴らしいプロモーターだった。メタルだけじゃなくて、オルタナティブとか、あらゆるスタイルのロックをサポートしていた。でも残念ながら彼は2012年に海で溺れて亡くなったんだ。彼がいた頃はロックの黄金時代だった。」

まだまだメタルやロックのマーケットが小さいインドでは、サポートしてくれる人材も不足している状況にあるようだ。

凡「メガラヤ州のPlague Throatはドイツのヴァッケン・オープンエア・フェスティヴァル(大規模なメタル系フェス)でも演奏したみたいだけど、Third Sovereignも海外でライブをやってもいいくらいの素晴らしいバンドだよね」
V「ありがとう。日本でもプレイしてみたいし、メタルの盛んなチェコでもライブがしたい。そのために、アーティストのサポートをしてくれる政府機関のICCR(Indian Council for Cultural Relations)と接触しつづけているんだ」
凡「え?政府の機関がデスメタルバンドのサポートをしてくれるの?」
V「ハハハ、普通はそんなことないんだけど、中にはメタルに理解のあるスタッフもいてね」

凡「Third Sovereignのライブにはいつも何人くらい集まるの?」
V「300〜400くらいかな。会場にもよるけど」

この音楽性でこれだけの集客、アンダーグラウンドとはいえ、かなりの人気バンドじゃないか

V「そういえば、日本のデスメタルバンドのDefiledや兀突骨(Gotsu-Totsu-Kotsu)もインドをツアーしていたよ。DefiledはコルカタのDeath Festというイベントに出演したし、兀突骨はシッキム州のガントクとか、バンガロールでもライブをしたはずだ」

またしてもびっくり!まさか日本のデスメタルバンドもインドに進出していたとは!
このジャンルの国際化は思ったより進んでいるみたいだ。
ライブはいったいどんな様子だったんだろう。機会があったらぜひ話を聞いてみたいものだ。

凡「へえ!彼らはインドで人気があるの?」
V「オーディエンスにすごくいい印象を与えたと思うよ」

凡「インドでのメタルのライブはどう?ヘッドバンギングとか、モッシュ(観客同士が激しく体をぶつけあう)とかするの?」
V「ああ、そうだよ。たまにはボディービルやってるような連中がモッシュからケンカを始めたりね。日本はどう?」
凡「デスメタルはあんまり分からないけど、ハードコアとかだとみんなモッシュしてるよ。もう少しクラシックなタイプのメタルだとみんなヘッドバンギングしてる」
V「日本でメタルといえば、俺はX Japanの大ファンなんだ。あと俺は黒澤明の映画も大ファンで、羅生門や七人の侍は何度も見てるよ」

ミゾラム州でもX JAPANは有名だった。
日本では、存在が大きくなりすぎてヘヴィーメタルという枠組みで語られることは少ないが、やはり日本で最も有名なメタルバンドといえばX以外には考えられないのだろう。
そしてここでクロサワの名前が出てくるとは。
正直、アタクシはあんまり彼の映画を見たことがないので、あまり反応できずになんか申し訳ない気分になる。

凡「ところで、VedantはThird Sovereignの音楽をどんなふうにカテゴライズする?デスメタル?ブラックメタル?」(※ブラックメタルはより反宗教的、悪魔主義的な傾向が強いサブジャンル)
V「デスメタルでも、ブラックメタルでも、好きなように呼んでくれて構わないよ」

ここで、確信をついた質問をしてみた。

凡「なんで聞いたかっていうと、インド北東部はクリスチャンの割合が非常に高いよね。ブラックメタルはもともと反キリスト教的な傾向のある音楽だから、そういった社会の状況と関係があるのかどうか知りたかったんだ。ヨーロッパのブラックメタルバンドの中には、教会に放火したりとか、非常にアンチ・キリスト教色の強いバンドもいたよね。北東部のブラックメタルもそういう過激なアティテュードを持っているの?それとも、いわゆるフィクション的なものとして演奏してるの?」

V「そうだな。知ってのとおり、インドの社会にはいろいろな問題がある。宗教と宗教が対立したりとか、地域やコミュニティーの対立とか。そういう社会問題が曲のテーマになることもある。俺たちは、反宗教というより、宗教同士、コミュニティー同士の対立にうんざりしているんだ。ブラックメタルやヘヴィーメタルはそれ自身がひとつの宗教みたいな感じだ。そういった様々な違いや対立にこだわるんじゃなくて、音楽は個人のバックグラウンドに関係なく夢中になることができる。アーティストはそういう表現のひとつとしてブラックメタルを演奏しているんだ」

そう。大国であるがゆえに宗教、言語、民族、貧富、カースト、地域と様々な多様性を抱えたインドは、対立する要素にも事欠かない。実際に、ヒンドゥーナショナリズムの台頭やイスラム過激派によるテロ、新しい州を求める独立運動や権利拡大運動など、様々な紛争が発生している。
紛争とまで行かなくても、基本的に所属しているコミュニティーが違えば、伝統的な社会の中ではお互いにあまり干渉しあわないのが常とされてきた。
でも、例えばヒップホップシーンでは、クリスチャンのDIVINEも、ムスリムのNaezyも、シク教徒のPrabh Deepも、北東部のBKも、共演したりもするし、その背景に関係なくリスナーの支持を受けている。
音楽の力による対立の超克。いや、そんな難しい事ではなく、誰がやっていようが素晴らしいものは素晴らしい。
こういう部分こそ、インドの音楽シーンの最も愛すべきところだと思う。
もちろん音楽そのものの素晴らしさもあるが、音楽という新しい価値観によって、伝統的な相違がいとも簡単に乗り越えられてくということ
それこそが、アタクシがインドの音楽シーンに非常に魅力を感じる最大の理由のひとつだ。

インドでは、エンターテインメントの本流であるボリウッド映画の世界でも、20年以上トップスターの座を維持しているシャー・ルク、アミール、サルマンのいわゆる「三大カーン」はインドでは少数派のムスリムだが、宗教感情に関係なく国民的な人気を得ているし。
そんな内容をVedantに伝えると、

V「ああ。宗教や文化や、あらゆる違いを乗り越えられるのが音楽の素晴らしいところだ。俺は今こうして遠く離れた東京にいる君と話をしている。そんなことができるのも、俺が音楽を演奏してきたからだ。自分がメタルをやってきたことで、いろんな文化のいろんな人たちとコミュニケートできる。こんなに素晴らしいことはないよ」

ありがとう。
その言葉をミュージシャン本人から聞けただけでも、インドの音楽についてのブログをやってて良かったと思えるよ。
宗教、文化、思想、地域。あらゆるものを乗り越える音楽の力を改めて感じさせられたインタビューになった。

彼らの音楽はデスメタル。
歌詞を調べてみると、死、絶望、憎悪、そんなのばっかりだ。
曲のタイトルも"Living This Hate"とかね(とてもかっこいい曲だけどね)。
でも、こういう極端な音楽のファンがインド中、世界中にいて、あらゆる差異を超えて繋がれるというのは本当に素晴らしいことだと思う。
世の中に絶望を感じて、こういう詞世界に魅力を感じている若者にとってみたら、こういった音楽をプレイするバンドがアメリカやヨーロッパだけじゃなくて、インドのすみっこの北東部にもいるってことが、とてもうれしいと感じるはずだもの。

Vedantは、「北欧のバンドの中には過激な行動をした奴らもいたけど、彼らも音楽自体は非常に素晴らしいと思うよ。大事なのはどんな人が演奏しているかじゃなくて、音楽それ自体なんだ」とも語っていた。
非常に成熟した芸術への接し方であるように思う。
ここ日本では、昨今、アーティストのちょっとした不祥事にも非常に過敏になる風潮があるが、こうした姿勢はアタクシ達日本人も大いに見習うべきところがあるだろう。

最後に、彼らが契約しているレーベルについて。
彼らの現時点での最新アルバム「Pervertion Swallowing Sanity」は、ムンバイの「Transcending Obscurity」というレーベルから発売されている。
このレーベルはKunal Choksiという人物によって運営されていて、このダウンロードや定額聴き放題全盛の時代に、世界中のアンダーグラウンドなエクストリームメタル音楽の膨大タイトルのCDをプレスしまくっているという、非常に酔狂かつ情熱的なレーベルだ。
いつかこのレーベルについても取り上げてみたいと思っている。

このレーベルからリリースされたThird SovereignのCDは、日本でもdiskunion で入手できるようなので、興味のある人は是非チェックを!

初めは興味本位で調べ始めたインドのデスメタル。
知れば知るほど深くてグッとくるなあー。
それではまた! 

goshimasayama18 at 02:45|PermalinkComments(0)

2018年02月23日

インドNo.1デスメタルバンド 北東部ミゾラム州のThird Sovereign

以前、インドのデスメタルバンドTop10のうち半数がインド北東部の「セブン・シスターズ」出身だという記事を書いた。
根拠となったYouTubeはこちら。



突然ではありますが、この度、このランキングで見事1位に輝いたデスメタルバンド、やはり北東部のミゾラム州出身のThird Sovereignにインタビューをすることになったので、直前特集をお届けします。
インド北東部
ミゾラム州の場所はこちら。
以前インタビューしたTanaのいるAlien Godsのアルナーチャル・プラデーシュ州は北東部の最北部、ブータンや中国に接する地域だが、ミゾラム州は北東部の最南端、東をミャンマー、西をバングラデシュに接する山間の森林地帯だ。
「ミゾ」はこの地域に暮らす先住民「ラム」は土地を表し、つまり「ミゾ人の土地」という意味の州ってわけだ。

で、なんでそのインドいちのデスメタルバンドにインタビューすることになったかっていうと、ちょうど1ヶ月ほど前、アタクシは、この記事でも書いた通り、なぜインドの中でも辺境とされる北東部にこんなにたくさんのデスメタルバンドがいるのか、知りたくて知りたくてたまらなかったんである。
そこで、 いくつかの北東部出身のバンドにSNSを通じてメッセージを送った。
なぜ複数のバンドにメッセージを送ったか。
それは、以前とあるミュージシャン(まだこのブログには取り上げていない)に取材依頼をしたところ、まったく音沙汰がなく記事にできなかったことがあり、今回はそんなことがないようにと4つのバンドにメッセージを送ったんである。

そしたら、先日記事にした通り、Alien Gods(Sacred Secrecy)のTanaがさっそく返事をしてくれて、いやな顔ひとつせずに(顔は合わせてないからわからないけど)インタビューに答えてくれた。
 本当にいいやつだ。
こういうコアな音楽に国境は無いんだということもあらためて感じた。良かった。
ああ、よかった。
これでインド北東部のメタルミュージシャンの記事が書ける。
やっぱり何人か連絡すれば一人くらいリアクションくれるものなんだな。
という微妙なタイミングの時に、Third Sovereignのメンバーから連絡が来た。
「やあ。インタビューに協力できたらうれしいよ」

お、おう。
ちょっと遅かったけど、せっかくだからいろんなバンドに話を聞かせてもらいたい。
さっそくインタビューの日時を設定。
指定の時間にメッセージを送ってみたけど、あれ?返事がない…。
どうしたんだろう…と思っていたら、その日の夜になって「ゴメン!出かけてた。今からやろう」との連絡が。
北東部とはいえさすがインド人、そういうこともあるよな…。
ずいぶん遅い時間だったので、「俺もう寝るからまたにしよう」って伝えて、すっかりそのままになっていたのだが、先日久しぶりに連絡があった。
「こないだはゴメン、で、インタビューだけどいつにする?」って。
というわけで、今週末、あらためてインタビューの機会を設けることになりました。

さて、前置きが長くなったけど、Third Sovereignの音楽、聴いてみてください。"Sarcofaga"
なんかどういうことになっているんだか分からないけど、ジャケがすごいな…。

おお!
Alien Godsのミドルテンポ主体のグルーヴィーなスタイルもかっこいいが、速くて激しくてタイト!さすがインドNo.1デスメタルバンド!
そして演奏が滅茶苦茶上手い!

この曲では、イントロにミゾラム州の昔話の語りが入ってる!
 
他の媒体のインタビューによると、音楽性にミゾ人としてのルーツも関わっているみたいで、これはなにやら面白そう!
トレモロリフが入るところがブラックメタル風でもあるし、ドラムの固く締まったサウンドはパンテラのヴィニー・ポールみたいな音像で、いろんなヘヴィーミュージックの要素が詰まっている。

というわけで、最近は久しぶりにこういう音楽にどっぷり浸かっているのです。
インタビューの模様は次回でお届けします。
お楽しみに! 

goshimasayama18 at 00:04|PermalinkComments(0)

2018年02月06日

インドの州別ヘヴィーメタル事情

20年くらい前にインドに行った時のこと。
当時、ロック好きの若者だった私は、インドにはどんなロックバンドがいるのか、少しだけ楽しみにしていた。
ひょっとしたらクーラシェイカーなんかよりかっこいい、まだ見ぬインド風のロックバンドがいるかもしれない。

ところが、当時のインドには全然ロックなんてなかった。
街で流れているのはボリウッドの映画音楽かヒンドゥーの讃歌のみ。
デリーのカセットテープ屋(当時、インドで最も流通していた音楽記録媒体はカセットだった。CDではなくて)で「インドのロックをくれ」と言って買ったテープは、日本に帰って聴いてみるとジュリアナ東京とボリウッド音楽が混ざったようなやつだった。

先日からヴェーディック・メタルとか、インド北東部のデスメタルとか、やたらとインドのヘヴィーメタル事情について書いているが、なんでそんなにこだわっているかというと、そんなインドに、ロックのなかでも非常にエクストリームな音楽である、ヘヴィーメタルのバンドがたくさんいるっていうのが気になってしょうがないからなんである。
なにしろ、当時は首都のカセット屋(日本で言えば東京のCD屋)からしてロックがなんだか分かっていなかったのだ。
「ロック」が若者っぽい激しめの音楽っていうことまではかろうじて理解しているようではあったけど、バングラ的ダンスビートみたいな、まったくもって非ロック的なものまで、ロックの範疇にいれてしまうくらいだ。
もし「ヘヴィーメタルのカセットをくれ」なんて言った日には、「なんだそれは?聞いたこともないぞ」と返されたに違いない。
ジャンル自体が全く知られていないという意味では、「演歌のカセットをくれ」というのと同じようなものだったろう。

大幅に話がそれちゃった。
ここから本題に入ります。
こないだ、インドのメタルバンドをいろいろ調べていた時に、Enciclopedia Metallumというサイトを見つけた。 
その中で、各国のメタルバンド一覧が見られるページがあって、インドのページを見ると、2018年1月現在で196ものバンドが登録されていた。
まずびっくりしたのは、そのうちのほとんどがデスメタルかブラックメタルだったっていうこと。
メタルはメタルでも、古典的なJudas PriestとかIron MaidenとかMetallicaみたいなバンドっていうのはほとんどいなくて、とことんヘヴィーなサウンドで死とか反宗教といった不吉なテーマを絶叫しているバンドばかりっていうのに驚いた。
こういう音楽に、インドの一部の若者達を引きつけるものが 何かあるんだろうか。

このEnciclopedia Metallum、ありがたいことに、それぞれの バンドがどこの州のどこの街の出身なのかが全部書いてくれている。
Alien Godsのタナは「北東部のメタルシーンはまだまだアンダーグラウンドだよ」と言っていた。
これまで見てきた印象では、インド北東部はかなりメタルが盛んなようだが、実際のところはどうなのか。

気になってしょうがなかったので、州ごとにどれくらいメタルのバンドがいるのかをエクセルでまとめてみた。
若干、俺、いったい何やってるんだろう、って思わないでもなかったけど。
次に、当然州によって人口が多かったり少なかったりするので、州の人口も付け加えてみた。
さらに、人々が裕福かどうかによっても、楽器買ってバンドできるかどうかってのが変わってくるわけだから、各州の一人当たり GDPなんてのも調べてみた。
インターネットって便利だなあ。
最後に、各州で、1,000万人あたり、いくつのメタルバンドがあるのか、というのを割り出してみた。 
なんでキリの悪い1,000万人あたりなのかっていうと、インドには独特の数の数え方があって、10万をlakh(ラック)、1,000万をcrore(クロール)っていうんだけど、よくインドの役所の統計なんかにも使われているのでそれをマネしてみたって次第。

その表がコチラ。
「人口当たりのメタルバンド数」が多い順に並べてある。
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インドの地図も載っけときます。
インド地図

   


表の中で色のついた州が、インド北東部のいわゆる「セブン・シスターズ」といわれる諸州だ。
これを見れば一目瞭然、なーんだ、やっぱりインド北東部、インドの中ではメタルが盛んじゃん!
ミゾラム、メガラヤ、ナガランド、アルナーチャル・プラデーシュ、アッサム、マニプルといった北東部諸州が、見事にトップ10圏内にランクインしている。

トップ10の他の州では、やはりというか、大都市を擁する州が食い込んできている。
カルナータカ州はバンガロール、マハーラーシュトラ州はムンバイとプネー(大学が多い若者の街)、ウエストベンガル州はコルカタといった都市があり、欧米的なカルチャーが育まれているのだろう。
北東部諸州がすごいのは、アルナーチャル以外、一人当たりGDPは決して高くない(むしろ低い)のに、それでもみんなメタルバンドをやってるっていうこと。
何度も言ってきたように、それだけ西洋の文化への親和性が高い地域なのだろう。

いっぽうで、首都デリーを別として、北インドの文化の中心である、いわゆるヒンディー・ベルトと呼ばれる地域(ウッタル・プラデーシュとかビハールとか、ラージャスタンとか)には、人口が多い割に全然メタルバンドがいないっていうことも分かった。
保守的というか、あまりにもインド的な文化が強すぎるのだろう。
GDPを見れば分かる通り、ウッタル・プラデーシュやビハールなんかだと貧困という面も無視できない。

この地域には、タージマハールのあるアグラ、ガンジス河のヴァラナシ、カジュラホにブッダガヤといった街があり、多くの日本人旅行者が訪れる地域と重なる。
何を隠そう、私が最初のインド旅で訪れたルートもほぼ同じである。
今でもこんななんだから、当時インドのこの地域でロックを感じられなかったとしても当然だったというわけだ。
また、大都市チェンナイを擁するとはいえ、文化的には保守的とされるタミル・ナードゥ州のランクが相対的に低いのも、なるほどいった感じがする。

ちなみに同様に日本について調べてみると、人口1,000万人あたりのメタルバンド数は146バンド!
北東部がインドの中じゃメタル銀座だっていっても、やはりシーンがアングラだというのはその通りなのだろう。

同じような統計でラッパーがどの州に何人くらいいるか、とか調べられるとまた面白いかもしれない。
それでは、今回はこのへんで! 

goshimasayama18 at 20:23|PermalinkComments(0)

2018年01月28日

デスメタルバンドから返事が来た!Alien Godsのギタリストが語るインド北東部の音楽シーン

こんばんは、軽刈田凡平です。


こないだのブログで、インド北東部7州「セブン・シスターズ」にどうやら多くのデスメタルバンドがいるらしい、ということを取り上げた。

インドの中でも辺境とされ、自然豊かなこの地域で、どうしてそんなに激しい音楽が流行っているのか。

探ってみるためにいくつかのバンドにメッセージを送ってみたところ、Top 10 Indian Death Metal Band9位の、アルナーチャル・プラデーシュ州イーターナガル出身のAlien Godsからさっそく返事が来た!


メッセージをくれたのはギタリストのTana Doni.

「俺たちに興味を持ってくれてありがとう。どんな方法でも喜んで協力するよ」

と、なんかいい奴っぽい。

ではさっそく、インタビューの様子をお届けします。

 

凡「まず最初に、Youtubeやなんかを見ていて、インド北東部にたくさんのメタルバンドがいることに驚いたんだけど」

Tana「アルナーチャルには他にもいいバンドがたくさんいるよ。よかったら紹介するよ」

と教えてくれたバンドは、

プログレッシブ・ブラックメタルとのふれこみのLunatic Fringe


マスロックバンドのSky Level. 
 

現代的なヘヴィーロックで、なかなか面白いギターを弾いている。


ロック系ギターインストのAttam. 彼は近々アルバムを出すという。

 

凡「イーターナガルとかアルナーチャル・プラデーシュ州のメタルシーンについて教えてくれる?」

Tana「正直言って、シーンはアンダーグラウンドなものだよ。北東部にはいろんなジャンルが好きな人がいるから。でもマニプル州は他の北東部の州よりシーンが発展しているかな」

凡「どんなところで演奏してるの?」

TanaGovermental hall(公民館のようなところか)とか、Community Ground(屋外の公共の場所か)とか」

なんと。田舎ながらもシーンがあって、愛好家が集うライブハウスみたいなものがあるのかと思ったら、本当に好きな人たちがなんとか場所を借りて続けている状況のようだ。

 

凡「Alien Godsはブルータルなサウンドが印象的だけど、どんなバンドに影響を受けたの?」

Tana「実は俺は3枚目のアルバムができてから加入したから、よく分からないんだよね。今のメンバーでオリジナルメンバーはボーカルだけなんだ」

またしてもびっくり。でもそれって代わりになるレベルのプレイヤーが身近にいるってことだよね。アングラとはいえそれなりにプレイヤー人口はいる様子。

凡「じゃあ、あなた自身はどう?いつ、どんなふうにこういう音楽と出会ったの?」

Tana「最初はパンクロッカーだった。2007年、高校生の頃のことさ。Blink182Sum41が好きだった。それからハードコア・パンクに興味を持つようになったんだ」

凡「へえー!でもインドってあんまりパンクが盛んじゃないように思うけど」

Tana「インドにもいい感じのアンダーグラウンドのパンクシーンがある。”The Lightyears Explode”はチェックすべきだよ。彼らとは地元のフェスで共演したんだ」

 

The Lightyears Explodeはこんなバンド。
 

ポップなサウンドに内向的な歌詞。なかなかいいじゃないですか。

インドだと、メタルバンドはだいたいがとことんヘヴィーなデスメタル系なのに、パンクになるとポップになる傾向があるのかな。

 

凡「じゃあ、ポップ・パンクからハードコア・パンク、そこからデスメタルって感じなんだね」

Tana「デスメタルの前はブラックメタルだったよ。これが俺の最初のバンドなんだ」


ギターがメロディアスで、日本のメタル好きにも人気が出そうなサウンドだ。

Tana「それからAlien Godsに加入して、今ではSacred Sacrecyっていうバンドもやっている」


Sacred Secrecyはよりブルータルかつテクニカルな感じのバンドのようだ。
 

凡「好きなバンドとか、好きなギタリストは?」

Tana「いくつか挙げるなら、Cradle of Filth, Dimmu Borgir, Cannibal Corpse, Cryptopsy, Cattle Description, Strapping Young Ladかな」

凡「どれもデスメタルとかブラックメタルの大御所だね。実は僕、Strapping Young Ladのデヴィン(ヴォーカル/ギター。Steve VaiSex & Religionというアルバムでヴォーカリストを務めた)はヴァイと一緒のツアーで見たことがあるよ」

Tana「へえ!それはすごくラッキーだね!俺、Strapping Young Ladのコンサートを見るためだったら何でもするよ。彼はまさにレジェンドだね。ところで、マキシマム・ザ・ホルモンってバンドは知ってる?」

凡「もちろん、日本のバンドだよね。日本じゃヘヴィーな音楽はアンダーグラウンドだけど、彼らはすごく人気があるよ」

Tana「だろうね。だからこそ俺が住む北東インドまで彼らの音楽が届いてるんだと思う。彼らのスタイルは好きなんだ。すごく興味をそそるよ。いくつか日本のバンドでお勧めを教えてくれたらうれしいんだけど」

さて、困った。最近のこの手のジャンルは全然知らない。

凡「日本じゃメタルだともっとメロディアスなやつが人気なんだよ。X Japanとか、知ってる?」

Tana「うん。ってか知らない奴いる?」

あ、そうなの。日本の皆さん、インド北東部でもXは有名です。

彼にいくつか日本のバンドを教えてあげる。タナはかなりコアなメタルファンのようで、たとえば日本の老舗ブラックメタルバンドのSighも聴いたことがあると言っていた。

凡「それじゃあ、最後の質問。ミュージシャンとしての夢を教えてくれる?」

Tana「ワールドツアーだよ。俺はステージプレイヤーなんだ。スタジオに座ってるより、ツアーをしていたい」

凡「ありがとう。いつか日本でライブが見られたらうれしいな。またニュースがあったらぜひ教えて」

 

と、かいつまんで書くとこんな感じのインタビューだった。

インタビューを終えて、いくつかのことについて分かったし、いくつかのことについて反省もした。

まず分かったのは、セブン・シスターズ諸州では、けっしてデスメタルが盛んなわけではなく、世界中の他のあらゆる地域と同じように、メタルはアングラな音楽で、でも根強いファンがいるということ。

それから、ポップなパンクからハードコア・パンクに進み、そこからだんだんよりヘヴィーでテクニカルな音楽が好きになっていったという彼の音楽キャリアは、日本でも欧米でも、世界中のどこにでもあり得るようなものだということ。 

反省したというのは、自分の中のどこかに、こんなに辺鄙なところで(失礼)デスメタルをやってるなんて、なにかすごく面白い秘密があるんじゃないだろうか、と無意識に思ってたということだ。

そもそもデスメタルのミュージシャンにインタビューすること自体初めてだったけど、彼とやり取りをしていて、アルナーチャル・プラデーシュという、自分が全く行ったことがない場所の人と話しているという気が全然しなかった。

っていうか、まるでこの手の音楽が好きな日本の後輩と話しているような気さえした。

インターネットで世界中が繋がったこのご時世、ネットがつながる環境さえあれば、世界中のどこにでも、同じようなものに惹かれる人たちがいる。

流行っているポップミュージックは国によって違っても、コアな音楽には国境はない。彼と話をしていて、改めてそう認識した。

また、以前書いたように、インド北東部の人々は、インドのマジョリティーと文化的なバックグラウンドを共有しないがゆえに、よりダイレクトに欧米のカルチャーの影響を受けるのだろう。おそらくはそれがこの地域でデスメタルが盛んなように見える理由だ。

それから、「Strapping Young Ladのライブを見るためだったら何でもするよ」という彼の言葉と、ライブハウスが無いから公民館みたいな施設を借りてライブをやっているということにも、なんというかこう、ぐっと来た。

セブン・シスターズ出身の別のデスメタルバンドが、デリーでライブをやったときのインタビューでこんなふうに答えていた。

(地元でのライブとデリーでのライブの違いはどう?という質問に対して)「地元じゃ誰もヘッドバンギングなんかしないで、みんな座ってじっと見ているんだ。こっちだと音楽に合わせて体を動かしてくれて、デリーのほうがずっといいよ」

おそらく彼らは本当にこういう音楽が好きで、観客が盛り上がってくれなくても、演奏をすること自体の喜びを糧にして演奏を続けているのだろう。

もちろん自分だって、こういうブログをやるくらいだから、音楽は好きなつもりだ。でも「彼らのライブを見るためだったら何でもする」とまで言えるほど好きなミュージシャンがいるだろうか。

ミュージシャン目線で見ても、日本にはいくらでも演奏する場所がある。もし無かったら、自分たちでどこか場所を借りてまで演奏したい、自分たちでシーンを作りたい、自分たちのやっている音楽が理解されなくても、ずっと演奏を続けていたい、そこまで思っているバンドマンが日本にどれくらいいるだろう。

 

「ぼくが今生きてるのが世界の片隅なのか どこを探したってそんなところはない」と歌ったのはブルーハーツだったが、まさしくその通り。

音楽の世界に中心も片隅もなく、あるのは演奏する人、聴く人の心だけだ。セブン・シスターズのメタルバンドたちは、間違いなくヘヴィーミュージックのど真ん中で演奏を続けている。

Alien GodsのフロントマンSaidはこう語る。

「俺たちはただ音楽が好きなだけなんだ。俺たちは名誉や金のために音楽をやっているわけじゃない。すぐれた音楽を演奏する喜びを感じたくてやっているんだ…」

彼らの音楽が好みじゃないって人たちも、この言葉には感じるところがあるんじゃないかな。



goshimasayama18 at 22:47|PermalinkComments(0)